IS~鉄の華~   作:レスト00

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日常編と、ある意味現状の説明会に近いものになってしまいました。
今回はプロローグの政治の話と同じで穴だらけかもしれませんが、これが今作者の考えられる精一杯です。ツッコミがあれば修正するかもしれません。


六話

 

 

 整備室というのは換気機能が優れていないと、長時間の作業は不可能だと雪之丞は考えている。

 それは外気温が高かろうが低かろうが、密閉空間の中で人が忙しなく動いていれば自然と熱気が篭っていくからだ。そういった点でIS学園の整備室兼格納庫は優秀と言える。換気だけでなく空調機能で常に室内はすごしやすい温度に保たれているのだから。

 これまでの職場と比べ、居心地の良すぎる部屋には今二人の男と三人の少女が集まっていた。

 

「お兄ちゃん、これ私が作ったスープだよ。おばちゃんが、教えてくれたコンソメスープって言うの」

 

「こっちはおむすびって言うんだって。オコメっていうのを具の周りに包むの」

 

「ありがとう、二人共。よく頑張ったね」

 

「はい、雪之丞さんも」

 

「すまねぇな」

 

 不格好なおむすびとお椀に入ったスープを兄であるビスケットにつき出すクッキーとクラッカ。それを受け取ったビスケットは、褒めて褒めてとせがむ子犬のように頭を突き出してくる二人に苦笑しながらも、その小さな頭に乗せるように手を置いた。

 その隣ではどこか微笑ましくその姿を見ている雪之丞に、ビスケットに渡したものと同じおむすびとスープを渡すアトラの姿があった。

 この日、午前の授業に三日月が合流するという珍事は起こったが、それ以降は恙無く授業は終了し、自分たちと同じ食事をするビスケットと雪之丞のいる格納庫にアトラたちは訪れていた。

 ちなみに三日月だけ学食に行ったのは、いま彼らが食べているまかない食が五人分しかなく、三日月はあくまで学生であるため学食の使用をしたほうが、風聞が良いという理由もあった。

 

「ここに来て一週間ってところか。大分落ち着いてきたな」

 

 食事を一段落させ、この学園に来てから用務員をしている老人から勧められた緑茶を口にしながら、雪之丞はそう言葉を零した。

 そう言いながら、彼の視線はその格納庫の一角を占領するバルバトスに向けられていた。

 

「最初は自分たちが学校なんてって、僕も思っていましたよ」

 

 レジャーシートを敷いた上に座っているビスケットの膝を枕替わりに昼寝をする二人の妹の髪を梳きながら、ビスケットもそうこぼす。

 ビスケットからすれば、今この状況はいい意味で望外のものである。

 彼の夢は妹たちを立派な学校に通わせてやりたいというものであった。それが劣悪な環境の中で育った彼なりの望みであり、原動力だ。それをどんな形であれ叶えることができたのは、彼にとっては喜び以外の何ものでもない。

 

「卑屈になるなよ。これからいくらでも変えていけるんだからな」

 

 年相応にしゃがれた声に勇気づけられながら、ビスケットは部屋に備え付けのテレビのスイッチを点けた。

 お昼ということで日本特有のワイドショーや昼ドラ等をしていたが、芸能関係にかけらも興味がわかない為、即座にチャンネルを変えニュース番組を映し出す。

 そこにはある速報が流れていた。

 

「……これからだね、オルガ」

 

 そこから流れるニュースの内容は、『世界各国の国家代表のIS操縦者が難民である子供たちを保護。女性権利団体も積極的に支援』である。

 そのニュースが日本だけでなく、世界各地で流されている現在、一部の人間は呆然とし、また一部の人間は困惑し、そして一部の人間が激怒している中、その状況を作り出す手伝いをしたタービンズのトップとその相方は、自分たちのプライベートルームでどこか疲れた顔をしていた。

 

「……本当にアイツは無茶なことを通しやがったよ」

 

「後ろ盾がないなら作ればいいなんて、簡単に言ってくれるよ、まったく」

 

 事の起こりはオルガの提案であった。

 自分たちのこれからを考える上で、殆ど外側の情勢の詳しい所までを知らなかったオルガは、数日をかけて現状の世界情勢を調べ上げた。

 そして、かつてブリュンヒルデと対等という存在でありながら、現役を引退しそして世間から隠れるようにしてここタービンズで働いているアミダにオルガは訪ねたのだ。

 

「姐さんの知り合いに現国家代表っていますか?」

 

 ISというまだまだ若く、狭い業界において、世界大会などに出場した選手たちはある程度の範囲ではあるがプライベートな繋がりを持っていた。

 その質問に肯定の言葉を返すと、オルガの中である程度の計画が固まる。

 それが自分たちの後ろ盾と居場所を同時に作らせると言う、中々にブッ飛んだ計画だったのだ。

 手順としては、まずアミダに信用できる現国家代表の幾人かにプライベートな連絡をとってもらい、その彼女たちに阿頼耶識システムの概要とその被験者であった自分たちの説明をする。

 そして、これから彼らが独り立ちするまでの後ろ盾になれないかを持ちかける。

 ここまでが第一段階であり、その次からがオルガの博打に近い案であった。

 了承をした女性たちには、女性権利団体にある話を持ちかけるように言ったのだ。その内容というのが、『阿頼耶識システムの解析が進めば、男性でもISに乗ることができるシステムが生まれる可能性がある。そして、その被験者である子供たちを狙っている人間がいるため、こちらで保護するべきだ』というものであった。

 細かい部分を大幅に削って、要点だけをまとめた言葉であったが、それに食いついたのは女性権利団体の中でも良識派と言われる人間たちだ。

 

「……昔はあの団体も、今ほど強気じゃなく、謙虚な部分が多かったが、それをアイツはしっかりと理解し、考え、自分なりの確信を持って行動した」

 

 女性権利団体と言うのは、ISが台頭してく以前から存在していた組織だ。

 元々、日本に限らず世界中で、働く女性などの社会的な立場を確かなものにしようとしている人々は多くいた。日本で有名な人物で言えば、平塚雷鳥のように。

 そして、彼女たちはあくまで男性と対等な立場を獲得しようとした人物たちであり、決して『男性よりも上の立場』を欲していたわけではなかった。

 それがISの武力的な存在により今の歪んだ女尊男卑の風潮を産み出し、それを維持していく団体にいつの間にかすり替わっていたのだ。

 しかし、そんな組織の中にも初志を忘れず、あくまで対等の立場を維持しようとしている人々がいた。それが良識派だ。

 

「大したもんだよ、あの坊や。自分たちの存在を世界中の人間に認知させて、一般大衆と女性権利団体っていう、今の社会では大きな力を持った存在を味方にしたんだからさ」

 

 今回の騒動で女性権利団体の良識派が得られるメリットというのは幾つかある。

 一つは、これまで男性に理解を全く得られなかった良識派の意見というものを、しっかりと発言できる機会を得られるというもの。これは保護した子供たちの大半が男である為、そのことについての意見表明というものをする義務があるからであり、その意見というものは多くの人間の耳に入るものであるからだ。

 他には、良識派の弱体化した組織力を立て直す切っ掛け作りだ。

 今回の報道で、民衆は一定の理解を女性権利団体に示す。そして、イコールとは言い難いが、女性権利団体の中での良識派の意見の重みが増すことになるのだ。

 これまで多くを望まなかった良識派の人間は活動の成果というものを残すことができず、良識派は組織内でも軽視されがちであった。逆に強硬派と言われる、所謂今の風潮を維持、または強めようとしている人間たちは、どんな形であれ『女性の権利を強める』という結果を残してきた。その為、強硬派と言われる人間たちと比べ、良識派の立場は弱くなり、これまでは大きく動くことさえできないでいた。

 だが、それを今回の騒動で社会から男女問わず理解を得る事ができれば、それは組織的にも社会的にも大きな力となる。

 

「今の世の中はできて高々、約十年。女尊男卑をおかしく感じる大人の世代は世界でも過半数を軽く超えている」

 

「この風潮を手放したくない連中は、ハリボテの権力と実際に影響力を持った人間の影に隠れる小物がせいぜい。実際に大物も何人かいるのだろうけど、そう言う奴らは決まってISとは無関係な立場にいたりするのだから笑える話だ」

 

「知ってるか、アミダ?この十年で災害が理由のスクランブルで派遣されたISは一機もないんだぜ?」

 

「それ、旧友から酒を片手に愚痴られたよ。『ISが人命よりも貴重なのか!』ってさ」

 

 オルガたちはその状況を提供する代わりに、自分たちで動ける組織の編成を手伝うことを条件とした。

 今回の騒動で、オルガたちが手に入れたものは大きく分ければ三つ。

 一つ目は、自分たちの身の安全の保証。そして、二つ目は自分たちの組織という居場所を形成すること。そして三つ目は国家代表をはじめとする大衆からの理解だ。

 現代社会に置いて、国や組織からの認識のされ方というものは重要な要素の一つとなっている。

 これまで、資源や実験材料としてしか見られなかったオルガたちは、今回の騒動で一人ひとりが人間として扱われることを多少強引にではあるが世間に認めさせたのだ。

 

「それでもキチンと組織を編成するまでは、ウチで全員を面倒は見れないから幾人かは国家代表のところに預けるんだったか?」

 

「そうだよ。アメリカのナタルやイーリは喜んでたよ。弟分ができるって」

 

 呆れ、疲れた様子を見せる二人であったが、その表情はどこか晴れやかであった。

 下積み時代から飲みなれた安い瓶の酒を小さなグラスに氷と一緒に注ぐ。

 それを二人は、これからの時代を生きる若者を祝福するようにグラスを打ち合い、その琥珀色の酒を喉に流し込んだ。

 

 

 

 





次回は皆さんお待ちかねのセシリア戦……にしたいなぁ(遠い目)

一応、この小説は一話を三千から四千字程度に抑えているのですが、もっと増やしてもいいのでしょうか?その辺りのさじ加減が作者にはよくわかっていません。

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