テキはトモダチ   作:おかぴ1129

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19. テキは友達 〜電〜

「……イナズマか?」

 

 十数人の子鬼さんに囲まれ、抹茶色のジャージを着た集積地さんは資材の山の中に座っていた。

 

「集積地さん……」

 

 冷たく固い戦場の空気の中で、私は会いたかった人と再会できた。再会出来たけど……

 

「集積地さん」

「……フッ」

 

 集積地さんは私と見つめ合った後、一度だけ見た覚えのある何もかもを諦めたかのような、今にも泣き出しそうな笑みを浮かべていた。『しゅうせきち』と書かれた名札をギュッと掴み、うつむいて肩を小刻みに震わせていた。

 

「イナズマ……」

「集積地さん……集積地さん!!」

 

 たまらず集積地さんの名を叫び、彼女の元に向かった。主機をフル回転させ、ロドニーさんと戦艦棲姫さんの砲弾がとび交う海域を抜けようと前進したときだった。

 

「来るなッ!!!」

 

 名札を握りしめてうつむいたまま、集積地さんが今まで聞いたこともないほどの激しい怒声を上げた。思わず立ち止まった私は集積地さんを見た。彼女は名札を力いっぱいギュッと握りしめ、肩で大きく息をしていた。

 

「集積地さん……電なのです……」

「ハァ……ハァッ……」

「会いたかったのです……会いたかったのです集積地さん!!」

「……殺すためか……殺すためにか?」

「違うのです!! 集積地さん違うのです!!!」

「何が違うんだイナズマ!!!」

 

 戦艦棲姫さんの砲撃が止まった。『イナズマだとッ!?』と戸惑い、私の姿を確認しているのが見えた。

 

「このロドニーとの戦いの最中によそ見をするなッ!!!」

 

 ロドニーさんのランスが吠え、徹甲弾が発射された。徹甲弾は正確に戦艦棲姫さんの元まで飛んでいき、彼女の肩にいる化物を一体、砕いていた。

 

「ぐうッ!?」

 

 同時にロドニーさんの鎧の半分も砕け散った。戦艦棲姫さんは自身に徹甲弾が着弾する寸前、同じくロドニーさんに砲撃を行っていたらしい。その砲弾をロドニーさんはまともに食らったようだ。

 

「フッ……クフフフフ……」

「なぜだイナズマ……お前たちは……」

「面白い……面白いぞ戦艦棲姫……それでこそ深海棲艦だ……私は今充実している……」

「お前と集積地は友達ではなかったのか!? 友を殺しに来たというのかッ!?」

「良き敵だなぁ……貴公、良き敵だなぁあ!!!」

 

 ロドニーさんも戦艦棲姫さんも、片膝をついてお互いが素直に心情を吐いていた。友達です……友達なのです……私と集積地さんは……。

 

 戦艦棲姫さんの背後から、たくさんの戦闘機が飛び立ち始めた。背後にいるヲ級さんたちが発艦した艦載機のようだ。

 

「赤城!」

「はい!」

 

 赤城さんと鳳翔さんの戦闘機たちが編隊を組んで応戦しはじめた。私達の上空で激しい制空権争いを繰り広げるお互いの戦闘機。赤城さんと鳳翔さんは新しい戦闘機を発艦させていた。

 

「……ッ!!」

「制空争いに気を取られていては勝機を逃すぞ戦艦棲姫!!!」

 

 ロドニーさんの砲が火を拭いた。射出された徹甲弾が向かう先は、戦艦棲姫さんではなく、その背後にいるヲ級さんたちだ。

 

「……! 逃げろ!」

 

 集積地さんが叫ぶのと、ヲ級さんの一体がダメージを受けたのはほぼ同時だった。血まみれで炎上し崩れていくヲ級さんの姿を、集積地さんは歯を食いしばって見つめていた。

 

 制空争いは拮抗して終わったようだ。続いて戦艦棲姫さんたちの砲撃がはじまる。数えきれないほどの砲弾の雨あられが私たちに降り注いできた。

 

「クマッ!」

 

 反応が遅れた私の盾になって、球磨さんが私の前に立ちふさがった。途端に球磨さんの艤装が火を吹き、単装砲が使い物にならなくなったようだった。

 

「球磨さんッ!」

「旗艦を守るのが随伴艦の役目だクマッ!!」

「ッざけんなテメーら!!! やめろぉオオ!!!」

 

 砲弾の雨をかいくぐり、天龍さんが戦艦棲姫さんたちに向かって砲撃していた。ロドニーさんほどの威力はないが、それでも駆逐艦の人たちにダメージを与え、次々と駆逐艦の人たちが炎上していった。

 

「……ッ!!」

 

 その様子を、集積地さんは歯を食いしばって泣きながら見ていた。炎上する仲間たちに向かって必死に手を伸ばし、なんとか助けようとしているように見えた。

 

 やがて伸ばした手を力なくだらんと下げた集積地さんは、名札を握りしめるのを止め、うつむいて肩を動かしていた。

 

「フフっ……イナズマぁ……私が愚かだったよ……」

「集積地さん……違うのです……これは……」

「やはり敵は敵か……友達になれたというのは、私の夢だったのか……」

「違うのです! 集積地さんは電の友達なのです!!」

「ならばこれはなんだ!!」

 

 集積地さんが顔を上げ、私を見た。私が大好きなブルーの瞳からは涙がボロボロと溢れ、私を睨みつけていた。私への憎しみや怒り……集積地さんに黒い感情をダイレクトにぶつけられ、私は言葉を発することが出来なくなった。

 

「……」

「私は言ったはずだ! こいつらは大切な仲間だと!! お前と同じぐらい大切な仲間だと!! 言ったはずだ!!!」

「……ッ」

 

 集積地さんの周囲の子鬼さんが臨戦態勢を整えだした。メキメキという音とともに口から一度魚雷を生やし、再度口の中に引っ込め……一人、また一人と海上に足を踏み入れた。

 

「ならば私が取る道はひとつだ……」

「「ギギギギ……」」

 

 子鬼さんたちの口から、キリキリという魚雷の発射準備が整う音が鳴り響く……違うのです集積地さん。電は集積地さんの友達なのです。

 

「PT子鬼!!! やつらを沈めろ……ここまで来たことを後悔させてやれ……ッ!!!」

「集積地さん!! やめてほしいのです!!!」

「行け!!!」

 

 海面に立った子鬼さんたちが、猛スピードで私たちに向かって突進してきた。赤城さんの戦闘機に匹敵するスピードであっという間に私たちに肉薄した子鬼さんたちは……

 

「キヤァァアアアアア!!!」

「グッ!?」

「クマッ!?」

 

 私とロドニーさん、そして天龍さんに向かって雷撃を敢行してきた。私は球磨さんがかばってくれ、ロドニーさんは咄嗟にランスでガードしたのかランスが破損していた。

 

「ちっくしょッ! やめろ!! ざけんなクソッタレぇえええ!!!」

 

 魚雷が命中せず無傷だった天龍さんは機銃を撃って必死に子鬼さんたちに攻撃をしていたが、すばしっこく動きまわる子鬼さんたちに機銃は中々当たらない。

 

「オラァア!!!」

 

 作戦を変更したのか、天龍さんはすぐそばを通り過ぎる子鬼さんを一人捕まえた。そして捕まえた子鬼さんを左手で海面上に押さえつけ、右手で殴るべく、右拳を振り下ろしたが……

 

「喰らえクソヤロぉぉおおお!!!」

 

 その拳が当たる寸前、天龍さんは拳を止めた。

 

「……」

「……ふざけんな」

「……イガ」

「ふざけんなちくしょぉおおおおお!!!」

 

 そしてそのまま天龍さんは、悔しそうに涙目で子鬼さんを投げ捨てていた。

 

「テンリュウ!! なぜ撃たん!?」

「うるせーロドニー!!! 黙れコンチクショー!!!」

「撃てテンリュウ! 子鬼は厄介だ!! 一体一体確実に……」

「撃てるわけねーだろ!! 殺せるわけねーだろうが!!!」

 

 涙をボロボロと流し、痛々しい叫びにも似た声を張り上げている天龍さんのその視線の先には、さっき天龍さんが投げ捨てた子鬼さん……天龍さんから眼帯とスゴミを受け継ぎ、天龍二世となった子鬼さんの姿があった。

 

「ゴワイガ……」

「だから!! 泣きながら言っても怖くねーって言ったろうが!!!」

 

 天龍さんに雷撃が命中しなかった理由が分かった。天龍さんに魚雷を向けていたのは、天龍二世さんだったんだ……。

 

「赤城!」

「はい……!」

 

 鳳翔さんと赤城さんが矢を構えた。でも赤城さんも……

 

「……ッ」

「赤城!」

「鳳翔さん……捉えられません……放てません……ッ」

「……赤城」

「同じ一航戦ですよ……私たちと同じ世界を見た、一航戦なんですよ……」

「……」

「撃てるわけないじゃないですか……相棒たちを撃てるわけがないじゃないですか……!!!」

 

 と言いながら、弓を下げていた。

 

「ならば私が……ッ!!」

 

 その分を補うように、鳳翔さんが艦攻隊と艦爆隊を発艦させていたが、鳳翔さんの航空隊は動きに鋭さがなく、いまいち動きに精細を欠いていた。

 

「……やはり無理ですか」

「鳳翔さん……」

「あなたが撃てない分は私が撃たねばと思ったのですが……やはり、仲間は撃てませんか……」

 

 本当に子鬼さんたちを撃沈しようとしているのかさっぱり分からない攻撃を繰り返しては子鬼さんたちに避けられ、鳳翔さんの航空隊はただ上空をくるくると飛び交う飛行機と成り果てた。

 

 球磨さんは、私を守るために子鬼さんたちの魚雷と戦艦棲姫さんたちの方向からの砲撃を一身に受けていた。単装砲も主機ももうボロボロだ。アホ毛もすっかり腰が無くなってしなびている。身体だって傷だらけだが、それでも私の盾をやめない。

 

「球磨さん! もういいのです!」

「なにがだ……クマッ! 球磨はまだ……平気だクマッ……!!」

「平気には見えないのです!!」

「大丈夫だクマっ。なんせ子鬼たちはいい子たちクマっ。ほら、お行儀のいい子たちクマねー……」

 

 不意に球磨さんの額に戦艦ル級の徹甲弾が命中した。さっきロドニーさんの兜に砲撃が直撃した時の音とは違う。『ガゴン』という痛々しい音を上げた球磨さんは、その勢いで体制を崩し、フラフラと崩れ落ちそうになった。

 

「球磨さん!!」

「こんなん……賑やかな妹たちの相手と同じだ……クマッ」

 

 寸前のところで体制を立て直した球磨さんはそう言って私に振り返り、ニッと笑ってくれたけど……アホ毛も元気がないし、頭からは血が垂れていた。

 

「バカな……卑怯なッ! これが狙いか集積地棲姫!!」

「違う! そうさせたのはお前たちだ!! お前たちもこれが狙いだったのだろう!」

「クソッ……私だけでも……お前を沈める!!!」

 

 ただ一人、戦艦棲姫さんに向かって砲撃し続けていたロドニーさんは、三式弾を装填しなおして標的を集積地さんへと変更し、炎の雨を集積地さんに降らせていた。

 

「ぐッ……くおおお……!?」

「早く殺らなければ……早く奴らを止めねば、皆が……ッ!」

 

 子鬼さんと深海棲艦さんたちからの攻撃を早く止めたいのだろう。ロドニーさんは必死に集積地さんを砲撃し、その度に集積地さんは綺麗な髪やジャージが焼かれ、辛そうに悲鳴をあげていた。

 

「ァアアアアアアアッ!?」

 

 突然の轟音と共に、私の胸を縦に引き裂く悲鳴が聞こえた。ロドニーさんの三式弾の炎が、集積地さんの周囲にある資材の燃料に引火したらしい。油が燃える嫌な匂いと燃え盛る炎の中、集積地さんは全身を炎に焼かれて前のめりに倒れ伏した。

 

「集積地さん!!!」

「ぐっ……ぐぅぅぅぅ……」

 

 集積地さんがうつ伏せのまま、もぞもぞと動いていた。動きが妙だ。何かを守っているように、身体を縮こませて丸くなっている……

 

「行くクマッ!」

「!?」

「集積地のところに行くクマッ! 行ってみんなの分までごめんなさいしてくるクマ!!」

 

 フラフラでもはや立っているのがやっとのはずの球磨さんが、そういって私の手を取り、強引に集積地さんの方向へと私を引っ張ってほおり出してくれた。

 

「球磨さん!」

「行くクマァアアアア!!」

 

 勢いで姿勢を崩したが私は強引に主機を回して前進し、集積地さんの元に急いだ。

 

「……ぐああぁぁァァ……ッ」

「集積地さん!!!」

 

 集積地さんの身体についた火は次第に小さくなっていった。資材の油もなくなってきたのか火の勢いが落ちている。今なら行ける。今なら近づける。集積地さん、今行くのです。今助けに行くのです。

 

「終わりだ集積地棲姫ィイイイ!!!」

 

 ロドニーさんが咆哮を上げた。ランスが集積地さんの方を向いた。ガコンという三式弾を装填した音が聞こえ、その次の瞬間ロドニーさんが引き金に指を添えたのが見えた。間に合って……集積地さんの前まで行かせて!! 間に合って!!!

 

「させないのです!!!」

「!? イナズマ!?」

「……ッ」

 

 三式弾の炎が届くよりも早く、私は集積地さんの前に盾として立ちはだかった。直後、ロドニーさんの三式弾の雨が私を襲い、私の髪の毛と服を焼いた。衝撃が私の身体を駆け抜け、お腹に重いものがぶつかった時のような痛みと衝撃が全身を駆け巡った。

 

「ぐうッ……!?」

「!? バカなイナズマッ!!」

「これ以上は……させないのです……ッ!」

「なぜ敵をかばう!? 集積地棲姫は敵なのだぞ!? 我々の敵なのだぞ!!!」

「集積地さんは友達なのです!! 電の友達なのです!!!」

「イナ……ズマぁ……」

「だからもうやめるのです! 友達と戦うのはやめて、もう帰るのです!!!」

 

 苦しそうな集積地さんの声が聞こえた。振り向きたい。振り向いて集積地さんの手を取って抱きしめたい。でも今は出来ない。振り返ってロドニーさんに背中を見せたら、きっとロドニーさんはまた集積地さんに砲撃をする。もう友達を傷つけられて黙っているわけには行かない。集積地さんは私が守る。私は友達を守る。

 

「退けイナズマ!! あと少しで集積地棲姫を仕留められるんだ! そうすれば作戦は完了する! 貴公たちの嫌疑も晴れる……助かるんだぞ貴公たちは!!」

「嫌なのです! 集積地さんと子鬼さんたちは電の友達なのです! みんなの友達なのです!!!」

「イナズマ……やめろ……今更そんな茶番は……いらん……ッ!!」

 

 ロドニーさんは業を煮やしたのか……兜を脱ぎ去ってその鋭い眼差しを私に刺し、そしてランスの砲塔を私に向けた。この角度は集積地さんではない……正確に私を狙っている。ロドニーさんの目は本気で照準を私に合わせていることを私に訴えている。

 

「邪魔をするというなら撃つぞイナズマ」

「やめろ……イナズマ……どけッ……!!」

 

 イヤだ。絶対に動かない。怖くて怖くて身体が震えるけれど……私は友達を守る。

 

「イヤなのです! 集積地さんを守るのです!!」

「次の砲撃を喰らえば死ぬのはお前だぞイナズマ!!!」

「集積地さんは友達なのです! 何がなんでも絶対に守るのです!!」

「貴公に言ったはずだ!! 集積地棲姫は敵だと言ったはずだ!!」

「電も何回も言ったのです! 集積地さんは敵じゃないのです!!」

 

 ロドニーさんが三式弾を装填するガコンという音が聞こえた。だけど私も絶対に退かない。私はロドニーさんの前に立ちはだかり、身体を大の字に広げて集積地さんを守った。

 

「最後の警告だぞイナズマ……どけ!!!」

「どかないのです!!」

「私に貴公を撃たせるな!! 仲間殺しをさせるなッ!!!」

「集積地さんも仲間なのです! 絶対にどかないのです!!」

 

 ロドニーさんが構えるランスの角度が、私から見て左にほんの少しだけズレだ。私の無意識が警告を発する。この射線の狙いは私じゃない。集積地さんだ。

 

「ダメなのです!!!」

 

 考えるよりも先に、気持ちが私の体を突き動かした。私はロドニーさんのランスから集積地さんへと伸びる射線を遮るように身体を跳ね飛ばし、そしてその直後、私の身体の中を強大な衝撃が再び駆け巡った。

 

「ぐふっ……!?」

「イナズマ……!!」

 

 衝撃と共に、私の服と身体を三式弾の炎が再び焼いた。身体の内側と外側……二重のダメージが私を襲い、私の身体が宙に舞って、そして地面に落下した。背中から落下したおかげで三度私の身体に重い衝撃が走り、私は無理やりに声を絞り出された。

 

「かはッ……」

「イナズマッ……!!」

「バカなッ!? 何を考えているッ!!?」

 

 おまけに私の身体に着火された炎は、消えずに私の肌を焼き続けた。熱い……本当に熱くて痛い……でも、この痛みと辛さに集積地さんはさっきまで耐え続けていたんだ……

 

「イナズマ……イナズマ……!!」

「集積地さん……!」

 

 息も絶え絶えの集積地さんが、傷だらけの身体を引きずって私の元に這ってきた。私は動けない。動いたらそれだけで体中が痛いのです……ものすごく痛いのです……集積地さんは私の体中を力なく、だけど懸命にはたき、私の身体の炎を消してくれた。

 

「イナズマ……なんて無茶なことを……」

「し、集積地さんを……助けたかった……の、です……」

 

 集積地さんが私の手を取り、強く握ってくれた。傷だらけだけど……火傷のせいで熱いけど……でも握ってくれただけで、胸がとても温かくなる。やっと手をつなぐことが出来た。大好きな人の、大好きな手を握ることが出来た。

 

 フと、集積地さんの胸元が目に入った。ジャージはいたるところが焼け焦げていたけど、『しゅうせきち』と書かれた私作の名札だけは無傷のままだった。そっか……さっきまでの集積地さんは、この名札を必死に守ってくれていたのか……だからさっきは、あんなに懸命にくぐもっていたのか……。

 

 傷の痛みと胸の心地よさで、少し気が遠くなってきた気がする。集積地さんの声が、なんだか遠くから聞こえてきているような……少し聞こえ辛いような……

 

「集積地さん……」

「なんだ……イナズマ?」

「ごめんなさいなのです……許してほしいのです……」

 

 今のうちに言っておかないと……なんだか後回しにすると言う機会がなくなってしまいそうな……それで後悔しそうな気がする。急いで集積地さんに謝った。

 

「何をだ……?」

「友達なのに……集積地さんと電は友達なのに……ごめんなさいなのです……」

 

 自然と涙が出てきた。傷が痛いからじゃない。友達の集積地さんをこんな目に遭わせてしまった後悔と、信じていた友達にこんな目に遭わされた集積地さんの苦しみや悲しみを考えると悲しくて辛くて、自然と涙が出てきた。自分の涙が自分の傷に染みた痛みが、また痛くて……

 

「……なぁ、イナズマ?」

「はい……なのです……」

「私はまだイナズマのことを友達だと思っていて……いいのか?」

「はいなのです……ずっと、電の友達なのです」

「また……ぐすっ……また、マミヤで一緒にクリームあんみつ食べてもいいのか?」

「はいなのです」

「一緒にゲームをしてくれるか?」

「しゅうせきち会長に……キングボンビー……なすりつけるのです……」

「一緒に、ホウショウの味噌汁を飲んでもいいか?」

「はいなの……です」

 

 ダメだ。そばで聞く集積地さんの声がとても心地よくて、瞼がとっても重くなってきた……なんだかすごく眠い。胸が温かくて心地いい。集積地さんの声が、子守唄のように耳にとても心地いい……

 

「また……こうやって……グスッ……手を繋いで、デートしてくれるか?」

「はい……なの……です」

 

 集積地さんが、焼け焦げた私の髪を優しくなでてくれた。司令官さんのゴツゴツした手とは違って、集積地さんのすべすべな手はとても心地よくて、私の眠気をさらに加速させた。

 

「ありがとう……ありがとうイナズマ」

「ごめんなさいなので……す……ごめんな……さい……」

「!? 目を閉じるなイナズマ! 私を見ろ!! イナズマ!!!」

 

 瞼がとても重い……そしてそれにつれて口も回らなくなってきた……でも謝らないと……瞼を開けてられない……集積地さんの声が遠い……。

 

「イナズ…!! イ……マ……!」

 

 どうやら集積地さんは大声で私の名前を叫んでいるようだろうけど、すごく遠いところで叫んでいるように、とても耳に心地いい声にしか聞こえなかった。瞼が閉じた。音も聞こえない。それでも私は意識が続く間、たどたどしくなってしまった口で集積地さんに必死にごめんなさいと言い続けた。

 

 

 


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