ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか 作:しろちゃん
ピタリと閉じられた瞳を少しずつ開けていく。中層から帰って来てから毎朝ある感触を背中に感じ、少し溜息を付きながらベクトル操作で後ろを向かずに背中に引っ付いて来るヘスティアを引きはがした。
「むー・・・ふにぁ、スヤァー」
気持ちよさそうに寝ているヘスティアは俺から離れると今度は、反対側に寝ているベルに抱き着き、もう一度気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
「まったく、毎朝毎朝俺とベルの間に入って来やがって」
そう、このロリ巨乳は俺とベルの間に毎朝入ってくるのだ、これは俺が異世界に来た時からずっと続いてる事だが、最近になってベルだけに抱き着いていたのが、俺にも抱き着いてくるのはどうにかできないのだろうか?
「てか起きてるだろ?ヘスティア」
「・・・・・バレてたか」
そうやってベルに引っ付きながら、ヘスティアは俺の方を微笑みながら見て来た。当たり前だが確信犯である、俺とベルが何度も入ってくるな、と言っているのに全く悪びれもせずにこれだ、ベルが「僕は床に寝ます」と最初に言ってた理由が分かった気がする。
「早いね色君、もう出掛けるのかい?」
朝の挨拶をして、寝巻きからボロボロになった制服の代わりにタケミカヅチ・ファミリアの人に貰った黒色の着物に着替えていく。まるでBLEACHの死神みたいだ、今度ベルに滅却師のコスプレをさしたら面白いかもしれない
「買い物の許可は貰ったからな、ちょっとこれ直してくる」
と言いながら、制服の入った紙袋をヘスティアに掲げた。
「本当に大丈夫かい?こっちの文字を一通り覚えたと言ってもボクはまだ心配だよ」
「大丈夫だって、言葉は通じるわけだしな、勉強もあれだけしたんだ、心配せずに
そう、この世界に来てから俺はダンジョン以外はずっと文字の勉強をしていたのだ、文字が解らず、買い物にも行けない俺に代わって、ベルやヘスティアが一人で出掛けていた事がどれだけ歯痒かったか、しかし昨日ヘスティアからお墨付きを貰い、こうして一人で出掛けようとしている訳である。
「本当の本当に大丈夫かい?夜も中層で知り合った人達と飲みに行くとかで、ベル君たちの祝賀会に行かないらしいじゃないか、その子達は信用できるのかい?ステイタスを更新していくかい?ボクは色君が騙されていないか心配だよ!」
「お前は俺の母さんか!それにステイタスも更新しなくていいから!?俺の背中に抱き着いて来るな!」
そうやって背中に抱き着いて来るヘスティアを引っぺがし、俺の前に立たせた
「大体俺はゴライアスに魔法をぶっ放した後に
あの黒いゴライアスを倒した時、俺は
「むむむ、確かにそうだけどさ・・・そうだ、それじゃあこれを持って行っておくれ」
「これは?」
俺に無理矢理持たせる様にヘスティアは一枚の小さな紙を突き出して来た。
「
「それはどうも」
成程、クーポン券みたいな物か
「こんな物しか渡せなくてごめんね」
「何言ってんだ、家に住まわしてもらったり、勉強を見てもらっただけで十分感謝してるって、まぁでもこのクーポン券はありがたく使わしてもらおう、それじゃ行ってきます」
ヘスティアに手を振りながら、地下室の扉に手を掛け出ていく。目指すは
「行ってらっしゃい・・・全く本当にベル君も色君もいい子だよ。よし!今日の
「んん、どうしたんでか?神様」
自身の声で起こしてしまった白髪の少年に謝りつつ、ロリ巨乳の神様は今日行われる緊急の
「さぁて、今日緊急に集まってくれたのは、他でもない、ドチビの子供のことや」
そう言ってくるロキに対して、ドチビと言われたヘスティアは冷や汗をダラダラ流しながら明後日の方向を向いている。物凄い迫力で睨んでくる赤髪の女神に、今朝込めた気合は一瞬で何処かに吹っ飛んでしまったらしい。
「おどれ解っとんのやろぉな?地上で『
「ななな何を言っているのか分からないね。ボクはあるかなむなんて使ってないよ?」
「ほぅ、言うたな?それじゃあこれ見て見ぃ」
そう言って渡された黒鐘色の資料をチラッと見みて、ヘスティアは直ぐに顔を反らした
「何もおかしな所は「おかしい所だらけやろぉが!ボケがぁ」ひぃッ!」
赤い女神のあまりの形相に思わずロリ巨乳は悲鳴をあげる
「まずレベルアップまでの期間がお前ん所の白髪と同じってのも怪しい!しかもなんやこれ!?モンスター討伐数12810でゴライアスを単身撃破ぁ!?ふざけんのも大概にせぇよクソチビィ!!」
耳を押さえながら何も聴こえなかった振りをするヘスティアに、ロキが追撃をかけようとするが、それにまったをかける人物がいた
「何や淫乱女神、お前またドチビの子供庇うんかい?」
「そう言う事じゃ無いのだけれど、貴方が疑うならヘスティアに聞いてみたら?その黒鐘君って子がどんな力を使って、レベルを上げたのか」
その一言でヘスティアはまたもや大量の冷や汗を流れるのが解った。
「そうだぞヘスティア、隠し事は良くないぞ!」
「そうだそうだ!」
囃し立ててくる緊急の
「ま、待ってくれ!流石に色君の【ステイタス】の内容を見せるわけにはいかないぞ!?そんな事は絶対に出来ない!」
叫ぶヘスティアに美の女神、フレイヤは一つの水晶玉を取り出しながら、見た男全てが惚れるような妖艶な表情を浮かべた
「別に【ステイタス】を全部見せろって言っているわけじゃないわ、これの説明をするだけでいいのよ」
そう言って見せられた水晶の中を覗いて、ヘスティアと他の神々は驚愕の表情を浮かべ、硬直する
「フレイヤ、何やこれ?」
「私もよく解らないわ、これは上から命令された事だから」
ロキとフレイヤの会話を聞いてヘスティアは自身の頭が真っ白になっていくのが解る、だけど目の前の水晶がそれを許してくれなかった、正確には水晶に映っている、黒鐘色が中層に行った時の映像が・・・
一通りの映像が終わってヘスティアは放心状態に陥っていた、ほとんど全て映っていたのだ、中層に初めて行った時から黒いゴライアスを倒した瞬間の時まで
「・・・なんやこれ」
呟いたロキの言葉は誰に向けた物なのか解らない
「それじゃあ説明して貰えるかしら?ヘスティア」
「・・・・グスッ」
ヘスティアは泣いた・・・
「だがらぁ、ジギぐんわぁ、グスッ、ベルぐんをがばってぇ、グスッ」
色の映像の説明のため、泣きながら
「あぁもう、
「だっでジキぐんわぁグスッ、何もわるぐないんだよぉ、ヒック」
ロキは子供の様に泣いているヘスティアを見ながら頭を抱える、対象の
「・・・不問にしたるわ」
「へっ?」
「不問にしたる言うとんねん、この色っていう子は《スキル》を使ってたからゴライアスも倒せたし、モンスターも阿保みたいに倒せた、そういう事でええんやろ?」
「ほ、本当にいいのかい?」
「本当も何も証拠見せられたらしゃあないやろぉが!お前らもそれでええな?」
そう言って凄みを利かしてくるロキに、ほかの神々は頷くことしか出来なかった、ただ一人を除いて
「これで今日の
「ロキ、ちょっと待って欲しいわ」
「何やフレイヤ?」
「ロキも皆も大切なことを忘れているわ」
そういう美の女神にロキを含めすべての神々が怪訝な表情を浮かべる、ヘスティアに至ってはまだ何かあるのかと顔を少しだけ青くしていた
「大切な事ってなんや?フレイヤ」
「ふふふ、それはね・・・この子の二つ名よ」
この時の美の女神は喜色満面の愉悦顔だったという
「ふんふんふーん」
場所は
「道具屋、防具屋、武器屋、読める、読めるぞ、はっはっは」
ミィシャさんと来た時は中々回れなかったからな、今日は夜まで
「な~頼むわぁ、少しだけ、少しだけでええからまけてくれへん?」
「だからこれ以上は無理ですって!」
そちらの方向を見ると赤い髪の糸目の女性が関西弁を話しながら、店員に詰め寄っていた。関西弁か、日本にいた頃もあまり聞いた事無かったけど、この世界でも方便みたいなのがあんのか?
「うちどーしても今これ飲みたいねん。前はもっと安かったやん?だから少しだけ、ちょっとだけ、な?」
「な?じゃないですよ!?最近はソーマ様が酒を造れなくなって物価が高くなってるんです!文句があるならギルドに行ってください!」
そう言って涙目になっている可哀そうな店員に懲りずに詰め寄る女性の肩を俺は溜息を付きながら叩いた。
「何や兄ちゃん、ておまっ!?」
「店員さん、これで安くして貰えませんかね?」
今朝ヘスティアに渡されたクーポンをまさかこんな事で使うとは、赤髪の人が持っているソーマ酒と書かれたお酒を指さしながら、心の中でロリ巨乳の主神様に謝った。
「兄ちゃんおおきに、助かったわ」
「いえいえ、気が向いたからした事ですので」
何とか無事?にまけて貰えたお酒を大事そうに抱えながら、赤髪の女性は俺に笑顔を向けて来た。最初俺の顔を見た時に凄く驚いてたように見えたのだが、知り合いに似ていたのだろうか?
「そうや、お詫びに飯奢ったるわ」
「いや、金が無いから値切ってたんじゃないんすか?」
「安心せい、これからうちの子供らの所に行くから金はある、好きなだけ食べてええで」
なはははは、と笑っている赤髪の女性にジト目を向ける、それは子供に奢らすのではないのか?てかこの人神だったのか、いまだに神様と人の区別がよく分からん
「いいですよ、そんな気を使ってもらわなくても、一応お金はそれなりにあるので」
「まぁそう言うなや、うちが奢るなんてあんまり無いことやからな、黙ってついてき」
俺の手を引っ張りながら、ずんずん前に進んでいく赤髪の神様は反論する事を許してくれないらしい。仕方なくついて行きながら、ふと、この人の名前を聞いていないことに気付いた。
「すいません、俺、黒鐘色っていいます、よかったらお名前聞かせて貰えませんか?」
「ん?そう言えば自己紹介がまだやったな、うちの名前は・・・」
その名前を聞き、驚愕に表情を染める、そして言葉を返そうとした俺は、その体を宙に躍らせた。俺を吹き飛ばし、拳を振り上げている金髪の女と、赤髪の女神、ロキさんを見ながら・・・
「どういうことか説明せェ、ベート!」
「俺にも何が何だか分かんねぇよ!」
俺は現在とあるカフェの一角で例の金髪、ヴァレン何某と向かい合っていた、いや、にらみ合っていた。あの後追撃とばかりに俺に向かって来たヴァレン某をロキさんが何とか止めて、お詫びをしたいと言い出し、仕方なくこのカフェに座っている。
「それでェ?謝罪はァ?いきなり殴って来て悪いとは思わないのかなァ?金髪ゥ」
「私は自分の主神を守っただけ、むしろ悪いのは貴方、謝罪すべき」
「んだとこらぁ!」
「また吹き飛ばされる?」
「まてまて、落ち着けって!」
「そやで、ほらアイズたんもご飯来たから大人しく食べよ?」
そう言いながらヴァレン某を止めているロキさんと獣耳の男性、ベートさんは、俺にこれ以上刺激をしないで欲しいと、目配せしてきた、必死である
「何でうちがこんな事を、ベートやったら吊るし上げて終わりやのに」
「おい、お前なんて言った?」
「そんな事より、ベート、ほんまに何も知らんねんな?アイズたんがここまで敵意むき出しになるっておかしいやろ!?」
「だから知らねぇって!?いきなり飛び出したかと思ったら、コイツを殴り飛ばしたんだよ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
黙々と食べ続ける俺とヴァレン某に、痺れを切らしたロキさんが金髪に質問してくる。
「なぁアイズたん、本当に何もないんやな?この子になんかされたーとか」
「・・・ない」
「はぁ、ほんなら何でいきなり殴りかかったんや?」
「それは、ロキを守ろうと「アイズ」・・・」
俺に言った事と同じ事をロキさんに言おうとし、止められる、ロキさんはその細い瞳を少しだけ開け、嘘は許さないという風にヴァレン某を見つめた。
「何でいきなり殴りかかったんや?」
少しだけ俯きながら、アイズ・ヴァレンシュタインは、俺に顔を向けて行いく
「貴方は・・・」
「なんだよ?」
顔を上げたアイズの瞳を見てベートは困惑した、それは怒りだ、今まで見た事の無いようなアイズの純粋な怒りの感情が、瞳から見て取れた
「貴方は、ダンジョンに入ってから今もずっと、何も努力をしていない」
「おい、そりゃどういう意味だ?ゴライアスを一人で倒した俺が努力してないってか?」
俺は反論の声を上げた。当たり前だ、あの戦いが何も努力せずに終わるはずがないのだ、ふざけんな!と続けようとしたが、それそり早く出てきた金髪の言葉に止められる
「それじゃあ、貴方はゴライアスを倒すまでに何かした?ベルから聞いたんだけど、貴方は無傷で『嘆きの大壁』まで来てたんだよね、そんな事は普通あり得ない、だって貴方は戦い方なんて知らないんだから」
そんな事は無い、と言うべきだろう。俺だってミノタウロスやアルミラージ等のモンスターと戦ってきたのだ、だが、俺の口からは反論の言葉が出る前に金髪は言葉を続ける
「ソロでの戦い方ってわかる?技の駆け引きとかした事がある?重心の取り方は?回避の仕方は?貴方は何もかもが足りていない、それなのに無傷で『嘆きの大壁』まで一人で行って、本当に努力してゴライアスを倒したと言えるの?」
出かかっていた反論を詰まらせる。確かに、技の駆け引きなんてしなくても石を投げるだけでモンスターを倒せてたし、回避なんてしなくても反射があるので棒立ちしてるだけでも傷一つ付かない、だが、ミノタウロスは接近戦に持ち込み倒してたし、あの巨人は死線を潜り抜けて倒したのだ、馬鹿にされるいわれはねぇ。
しかし、立ち上がり睨み着けてくるアイズ・ヴァレンシュタインに何故か言葉が出なかった。
「貴方の目には何も映ってない、モンスターもダンジョンも、ベルの事も」
反論の言葉を探すが何故か見つからない、お前にベルの何が解るとは言えなかった。確かにベルは見違えるほど強くなっていたからだ、スキルに頼っているだけの俺とは違い、自力で技を磨き、ボロボロになりながらもヴェルフ達を18階層まで送り届けた。もし俺に
「貴方は存在自体が冒険者を侮辱している、他の冒険者になにもかも追いついてないのにLv.2になったなんて、私は認めない」
「・・・クソッ!」
「ちょい待ち色君!?」
「ばーか!ブース!覚えてやがれぇ!!」
「私は・・・馬鹿じゃない!」
ロキさんとベートさんに止められているヴァレン某から逃げるように俺はその場から走り出した。
「という事があったんですよ、アスフィさん」
「は、はぁ、それは大変でしたね」
場所は豊穣の女主人、以前から食事に誘っていたアスフィさんと覆面の人、リオンさんに俺はヴァレン某との一件を愚痴っていた
「俺だって頑張ってんですよ、それを認めないだの、努力してないだの偉そうに!」
「そうですよ!色さんは凄いんです!私をゴライアスの一撃から守ってくれたんですよ!」
俺とリオンさんはそう言ってドンッ!とジョッキをテーブルに叩きつけた、一人で買い物が出来る事にテンションが上がってたのに、あの金髪のせいで今はテンションダダ下がりだ
「えっと、酔ってます?」
「やだなぁ、俺は未成年ですよ?酒なんて飲むわけないじゃないですか」
「ないじゃないですかー!」
ジョッキをリオンさんとぶつけ合い、中身の泡の出るオレンジジュースをグビグビと煽った。因みにリオンさんは何故か最初から凄いペースで飲んでいたため、覆面の外から解るぐらい酔っぱらっている。
「リューの奴今日はどうしたのにゃ」
「何か緊張をほぐす為には飲むのが一番だって昔誰かに言われたらしいですよ?」
「それ言った人完全に失敗してるにゃ」
店員さんも少し引いていた。
「そ、そうですか、ってリオンまだ飲むの!?あんた最初から結構飲んでるんだから、もうそれぐらいにしときなさい!」
「なぁに言ってんですかアンちゃんわぁ、私はこれでもLv.4ですよぉ!これぐらいじゃ酔いましぇん」
「いや酔ってるから!?完全に酔っ払ってるから!?色さんも止めてください!」
「アンドロメダでアンちゃんか、可愛いニックネームですね!!あっ飲みます?」
「あんたも酔ってんだろ!?さっきから飲んでるのオレンジジュースじゃなくてビールだから!何で私はいつもこういうポジションなのよー!?」
何故か叫ぶアスフィさんに先ほど注文したオレンジジュースを渡そうとすると突然後ろから声を掛けられた
「みみみ見つけましたよ!この変態!」
声を掛けてきたのは山吹色の髪を後ろで纏めている少女だった、耳が尖っているということはエルフだろうか?
「いきなり誰ですかぁ?」
「酔っ払いは黙ってなさい、誰ですか?貴方は」
声を掛けて来たエルフにアスフィさんは少しだけ鋭い目を向ける、リオンさんの目はきっと座っているだろう
「わ、私はレフィーヤ・ウィリディスと言います、そこの男、黒鐘色に裸を見られた責任を取らすために来ました!」
「・・・へ?」
さっき少女に向けられた視線が俺に向いたのは言うまでもないだろう。
水晶には色がモンスターと戦った映像しか映ってませんのでアイズとのいざこざはロキは知りませんでしたとさ。