ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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第41話 色のファミリア

黒鐘 色

 

汝、血を分け与えた第二の眷属。

 

ヒューマン、特異の子。

 

揺らがぬ魂を内包する身にして未来を見据える瞳を持つ。

 

数に恵まれし繁栄の種族。

 

神すら想像出来ぬ異界の旅人。

 

自由に歩み進む、優しき光明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の【ステイタス】の封印は解除しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――言われた言葉の意味を理解するのにたっぷり五秒

 

「なんだよ、冗談キツいぞヘスティア。いいから速く【ステイタス】の封印を―――」

 

「冗談?バカを言うなよ、ボクは真剣に君の【ステイタス】を解かないって言ってるんだ」

 

―――――何かが込み上げて来るまで三秒

 

「いい加減にしろよ、ヘスティア?」

 

「何度でも言おうか?ボクは君の【ステイタス】を解く気はない」

 

―――――感情が吹き出すまで一秒

 

「ふざけんじゃねぇぞッッ!!!!!!」

 

「ふざけてるのは君だろうッッ!!!!」

 

立ち上がって睨み付ける俺をロリ巨乳が下から睨み返しており、額に皺を寄せた憤怒の表情が漆黒と蒼穹の瞳に反射される。

 

「あぁ!?俺の何処がふざけてる!!【ステイタス】の封印を解除しないお前の方がよっぽどふざけてんだろぉが!!!!」

 

「よくもそんな事が言えたね!!!だったら帰って来てからベル君達が居ない事に何にも言わないのは、どういうことなんだい!!」

 

「それは【ステイタス】が解かれたら聞こうと思っていたんだよ!!!」

 

「そうかいそうかい!!君はベル君達より自分の【ステイタス】の方が大事なんだね!!!」

 

「ッ!?…………このぉ」

 

頭の中を埋め尽くしていく感情を制御出来ないのが手に取るように解った。しかし、俺にはそれどうこうする術を持ち合わせていない。ただ、目の前の存在に叩きつけるだけだ

 

「いいからお前は黙って俺の【ステイタス】の封印を解いたらいいんだよッッ!!!!それで全て丸く収まるんだから大人しく従え!!!!!」

 

気付けば少女の胸ぐらを掴み、足を空に浮かせていた。頭の中の何かが警鐘を鳴らすが、真っ赤に染まった思考がそれを掻き消す

 

「ぐッ…うぅ…………何が……丸く収まる………だ」

 

「あぁ?」

 

「何が丸く収まるだッ!!!」

 

「ぶッ!?」

 

叫びと共に、浮いた足が鳩尾を貫く。形容できない痛みと肺の空気を全て吐き出した衝撃で涙目になっている俺に、解放されたロリ巨乳は言葉を続ける。俺が一番言われたくない言葉を―――続ける

 

「ボクは言ったはずだぜ?”こんな事をするのは最後にしろ”って!!!!」

 

―――――やめろ

 

「君はよくやったよ!!!異端児(ゼノス)達は君のお陰で《呪詛(カース)》が無くても人々に受け入れられている!!!」

 

―――――黙れ

 

「だからもう、自分の感情を誤魔化すのはやめるんだ!!!!」

 

―――――喋るな

 

「【食蜂操祈(メンタルアウト)】で自分の心を操るのは止めるんだッ!!!!!」

 

「うるせぇぇええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」

 

ドンッ!!

 

回復した俺はヘスティアの小さな肩を両手で掴みを壁に無理矢理押し当てる。

 

「感情を誤魔化すなだと!?ふざけんな!!!」

 

限界はとうに越えていた

 

「人の気も知らねえで!!お前に俺の何がわかるってんだ!!!」

 

切っ掛けはウィーネを妹と呼び始めた時だったのだろう。町の住人の精神を操る際、無意識の内に自信に心理定規(メジャーハート)の様な暗示を掛けて、ウィーネとの心の距離を兄妹と同等に置いていたのだ

 

「たった一人で意味の分かんねぇ所に置いてかれて!!たった一人で!!!家族にも会えねぇんだぞ!!!!」

 

それを漸く認識出来たのは、一度死んで【ステイタス】が剥がれ落ちた時。【食蜂操祈(メンタルアウト)】から解放された色は、いつの間にか異端児(ゼノス)達を家族と同じ心の距離感に置いている事に愕然とする。

 

「もういっぱいいっぱいなんだよッ寂しいんだよッ!!【ステイタス】の封印を解かないならはやく俺をッ!!!」」

 

しかし、その頃にはあまりにも手遅れだった。周りには冒険者にボロボロにされた異端児(ゼノス)達が存在しており、それを見捨てる事など黒鐘色に出来る筈がない。

 

ヘスティアに【ステイタス】を刻み直して貰った色は今度は自らの意思で異端児(ゼノス)達との心の距離を自分の家族と同じ位置にもっていく事になる

 

「元の世界にッ!!帰えしてくれよッッ!!」

 

ゆっくりと侵食されていく感覚を黒鐘色は受け入れ、ついでとばかりに都市全体の人類を異端児(ゼノス)達と知り合いまでの距離に設定する。

 

それだけだ、それだけでいとも簡単に慈善活動をする異端児(ゼノス)達を都市の住人は受け入れた。一度受け入れられれば例え【食蜂操祈(メンタルアウト)】の効力が切れても簡単に感情が変わることは無い、

 

しかし、【食蜂操祈(メンタルアウト)】で自分の心を操っているのを理解していた色は別だ。自分が偽の感情を抱いているのを知っていた色だけは別だった。

 

【ステイタス】が封印された黒鐘色の心は孤独の痛みに苛まれる

 

この世界に置いて、黒鐘色は何処までも孤独(ひとり)なのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音と共に色の頬が張り飛ばされた。

 

「寂しい?帰りたい?なめるなよ――――"私"は神だぞ?」

 

ドンッ!!!

 

ヘスティアは自身の内で荒れる狂う『神の力(アルカナム)』を押さえ付ける。そうしないと本能(神意)のままに、目の前の子供の心情を力ずくで吐露させかねないからだ。

 

「嘘を付くんじゃない。君が言いたいのはそんな事じゃないだろう?」

 

色に超越者(ゼウスディア)の言葉が突き刺さる。心の奥底を見透かされる様な初めての感覚に、頬の痛みも忘れ唖然とした。

 

「―――逃げるな」

 

「………………」

 

その言葉に対する反応はあまりにも鈍く

 

「自分の家族を口実に本心から逃げるなッ!!黒鐘色ッ!!」

 

「ッ!?」

 

続けて耳に入った鋭い声に、叱られた子供の様に肩がビクッと跳ねた。

 

「俺………は」

 

あえて言おう、例え異端児(ゼノス)達との心の距離を家族と同じ位置に設定していなくても、彼らは黒鐘 色によって救済されてただろう。

 

「俺は………」

 

何故なら、人を助けるのは黒鐘色の心の在り方だからだ。

 

困っている人間に手を差し伸べるのは黒鐘色の当たり前だからだ。

 

それは例え化物でも変わらない。手を差し伸られたら掴み、自分の出来る範囲内で助けられるなら全力を尽くす。

 

「おれ…………」

 

確かに、家族にずっと会えず、その寂しさでホームシックに掛かかったのは事実だ。

 

しかし、"その程度"でどうこうなるほど黒鐘色は弱くない。

 

それは目の前の小さな神様がこの世界の誰よりも理解していた

 

「色君、ボクは君の主神だ」

 

言葉が出て来ない眷族(子供)に語り掛ける

 

「己と向き合い、懺悔する事をボクは許そう」

 

それはヘスティアだけに許された言葉

 

「君の心の内を吐き出す事をボクは許そう」

 

冒険者でもなく、救世主でもなく、怪物でもなく

 

「君の罪を、君の全てをボクは許そう」

 

ただ一人の主神として、神は迷える眷族(ファミリア)に言葉を紡ぐ

 

「大丈夫だよ色君。ボクもベル君も眷属(ファミリア)の子供達も異端児(ゼノス)君達だって君の事をが大好きなんだ。だから―――」

 

その一言は閉ざされた口を少しだけ開け

 

「なわけねぇだろ」

 

「……………」

 

「だい……じょうぶなわけ、ねぇだろ」

 

「……………」

 

「大丈夫なわけッ………ねぇだろッ………俺はアイツらを――――――裏切ったんだぞ…………」

 

―――黒鐘色は力が抜けたように俯き、己の罪を吐き出していく

 

「本当になにしてんだろうなぁ俺は。アイツ等のこと家族家族って言っておきながら何で【食蜂操祈(メンタルアウト)】使ってんだよ、馬鹿かよ、意味わかんねぇよ。ちょっと寂しくなったからって《呪詛(カース)》使いやがって、ふざけんなよ、ふざけんじゃねぇよ」

 

心の奥底を蝕んでいたのは寂しさではなく、ベル達を家族と言っておきながら異端児を家族と同じ距離にして、寂しさから逃げた罪悪感

 

「しかも、あれだけ強くなったアイツらをわざと負けさせて、異端児(ゼノス)達も騙して、何が家族だ………」

 

街の人々に偽りの感情を植え付けた事を隠し、異端児(ゼノス)達に自らの手で信頼を勝ち取ったと誤認させた罪悪感

 

「死ねよ、死んでくれ。アイツらに会わせる顔なんかねぇよ。こんな糞野郎は死んだら良かったんだ。あの時アイツに殺されとけば良かった」

 

それは仕方が無いことだ、黒鐘色は最善を選んだ、選ぶしかなかったのだから。

 

しかし、黒鐘色は許せない

 

家族を裏切った自分自身が許せない

 

家族を裏切った自分の心が許せない

 

黒鐘色は黒鐘色を許せなかった

 

片手で顔を覆い膝を着いた色に、ヘスティアは同じ様に膝を着いた。

 

「大丈夫、誰にも理解されない罪であってもボクが君の罪を許から。だから今は、納得がいくまで懺悔するといい」

 

「……う……ううっ………っく……」

 

そして少年の顔を隠すように、そっとその頭を自分の胸元に引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛ましい程の少年の慟哭が、鐘楼の館前に集まった者達の耳を打つ

 

「色サン………」

 

「キュウ」

 

「クゥン」

 

そこに集まっていたのは、色が【ヘスティア・ファミリア】に帰って来たお祝いをする為、駆けつけた異端児(ゼノス)達だ。しかし、自らの救世主の声にアルミラージ(一角兎)ヘルハウンド(黒犬)異端児(ゼノス)達全員が不安の表情を浮かべている

 

「…………聞いたか、皆」

 

その中でただ一人、毅然とした声でリドは声を掛けた

 

「彼は俺っち達を人間と生活させるために、この街の殆どの人間を操っていたらしい」

 

聴力が優れている異端児(ゼノス)達には全て聞こえていた

 

色が街の住人を呪詛(カース)で操っていた事も

 

その力を異端児(ゼノス)に隠し、自らの力で信頼を掴み取ったと思わせていた事も

 

「あの人は救世主なんかじゃない」

 

自分で自分を操り、異端児(ゼノス)達を家族だと誤認させていた事すら聞こえていた

 

そんな彼らは、黒鐘色を

 

「あの人は――――――俺達の神様だ」

 

神と崇めた

 

「アァ、ソノ通リダ。天カラ降リテ来タ神々ガ人間ノ神ナラバ。地上カラ降リテ来タアノ方コソ我々ノ神二違イナイ」

 

「例え偽りの感情でも彼が私達を救い、世界を敵に回してまで家族だと叫んでくれた事は事実です。ならば私は例えこの先裏切られようとも、彼を自分の家族として信じましょう。皆さんはどうですか?」

 

「ふん、知れたことを。色に助けられた者達全員が、あの方を主神だと認めているに決まっている」

 

「フフフ、まるで人間と神の眷属(ファミリア)のようデスね」

 

「まぁ、迷惑になるから公言は出来ねぇけどな。でも、これだけは誓おうぜ。これから先、俺っち達はあの方を信じ、敬愛し、敬う、どうだ?」

 

晴天の下、リドの言葉に全員が小指を突き出した

 

それは、何時か教えて貰った約束のおまじない

 

中にいる彼に聞こえない程の小さな声で、それぞれがおまじないの言葉を言い終わり。異端児(ゼノス)達は今日の所は帰る事にしたのであった。

 

数年後、異端児(ゼノス)達が自らの超越存在(ゼウスデア)の名前に因んで黒い鐘の刺青を体の何処かに彫り出すのだが、それはまた別の話である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そう言えばベル達はどうしたんだ?」

 

久しぶりに人前で泣いた気恥ずかしさを隠すため、優しい瞳で見てくるヘスティアに目元を擦りながら話題を振った。

 

「えっと、その」

 

てっきり顔が赤くなっている俺を茶化して来ると思ったんだが妙に歯切れが悪いな。どうした?

 

「ひょっとして俺の快気祝いの買い物とかか?」

 

「そ、その、ベル君達は………だね……」

 

適当な当りをつけてみたが、ヘスティアの表情を見る限りどうやら違うらしい

 

まぁ何にせよ、アイツの強さにビビって作戦を引き分けから負けの方向に変更した事に関しては、しっかりケジメつけなきゃいけねぇな。土下座で許してくれるかどうか…………

 

「し、色君。落ち着いて聞いて欲しいんだ」

 

「お、おう」

 

てか、こいつは一体どうしたんだ?さっきまでとは別()の様に動揺してるんだけど

 

「いいかい?ベル君達は………」

 

「…………」

 

「べ、ベル君達は…………」

 

「…………」

 

ヘスティアの真剣な表情にゴクッと喉が鳴り、遂に衝撃的な一言が俺を襲った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家出しちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁあああああああああああああああ!?!?!?」

 

その言葉はあまりにも、今まで色々考えてたのがぶっ飛ぶぐらい衝撃的過ぎた

 

「なんで!?どうして!?」

 

「わわわわかった!?説明!!説明するから揺らさないでくれれれれれ!?」

 

肩を掴んで揺する俺の腕をヘスティアは掴み取り、必死に制止させる。

 

「はぁ……はぁ……せ、説明するとだね」

 

「せ、説明すると?」

 

「今回の作戦の全容を話したら………み、皆、無言になって………そのまま…出て行ったん……だ」

 

ダラダラと冷や汗をかき、後半の声色も低くなりながらヘスティアは言った。

 

て、おい

 

「もしかして、俺が話す前にバラしたの?」

 

「…………うん」

 

「まじかぁ」

 

「ご、ごめんね色君。ベル君達には言わないって事だったんだけど。やっぱり眷族(ファミリア)に隠し事は良くないって思って、それにベル君達なら分かってくれると思ったんだよ。それが、まさか出て行っちゃうなんて……」

 

しだいに涙目になっていくヘスティアの頭にポンッと手を置いた。

 

「しき………くん?」

 

「骨は拾ってくれよ」

 

「色君!?」

 

いや、だって。黙って出て行ったって、それぶちギレてるじゃん。やッべェよ、出会った瞬間殺されちゃうかもしれん

 

「い、いやいやいや流石にそんな事にはならないと思うよ!!考えすぎじゃないかい!?」

 

「わかってねぇなヘスティア。人間ってのは怒りに捕らわれたら何をするか―――」

 

ドンッ!

 

「「うおっ!?」」

 

下から聞こえた扉を叩く音に、二人揃って飛び上がった。

 

「え、なに帰ってきたの!?ちょっとタイミング良すぎない!?」

 

「ももももしかしたら異端児(ゼノス)君達かもしれないよッ!?」

 

「と、とりあえず下に降りるか」

 

「そ、そうだね」

 

ドンッ!

 

「「うひゃあ!?」」

 

続けて鳴らされたノックの音にビクつきながらも、二人揃って階段を降りていく。

 

そのまま玄関先までたどり着いた俺はゆっくりと扉に近づいて行く。ヘスティアは出て行った時のベル達が余程怖かったのか、玄関近くの部屋に隠れたらしい

 

そ、そうそう。危ないから扉を開ける前に、一応覗き窓から確認を―――バンッ!!!

 

「うぉ!?」

 

こちらが開ける前に勢いよく蹴り開けられた扉の向こうには、見知った【ヘスティア・ファミリア】の眷族達が勢揃いしていた。

 

その先頭に居るのは、俺にとって仲間であり、団長であり、弟の様な存在で…………

 

「ちょっと待って!?俺まだ【ステイタス】更新してないから!?死ぬって!!!」

 

前髪で目元が隠れたベルが俺に掴みかかる。転ける身体は制御出来ねぇし、他の眷族(ファミリア)もなだれ込んできた!?ヤベェ!!

 

「おおおお前ら、落ち着け!!落ち着いて俺の話……を………」

 

押し倒された俺は何とか話を聞いて貰おうと大声を出し、やめる。

 

何故なら、ベル達の姿を間近で見たからだ。

 

ボロボロだった

 

全員当然の様に衣服が裂け、血が滲み出ている。リリの掌は赤く爛れていて、ウィーネの身体は所々鱗が剥がれ、命ちゃんなんて腕が折れているのではないのだろうか。

 

ヴェルフも頭から血を流してるし、春ちゃんは毎日手入れされて何時も綺麗な尻尾や耳の毛並みが、血と泥が固まって見るも無残な有り様になっており、ベルだって全ての指がおかしな方向に折れ曲がっている

 

絶句する俺に、唯一気を失っていない少年の、ギラギラと輝く深紅(ルベライト)の瞳が向けられた

 

「僕達………負けないから」

 

静かに、しかしよく聞こえる声で

 

「次は絶対勝つから………だから」

 

一言一言ハッキリと

 

「だから、一人で何でも抱え込むなよ」

 

ベルは俺に語り掛ける

 

「僕達、家族じゃないか」

 

それだけ言い残して気絶したベルの背中に携えているある物を見て、俺は自分の家族(ファミリア)が何をやって来たのか直ぐに理解できた。

 

それは37階層に潜む『迷宮の孤王(モンスターレックス)』を倒した証

 

――――――黒大剣

 

「………ふっ………ははっ、ははは………はははっ、あははははははは!!!!!」

 

何故だろうか?直ぐこの馬鹿達を青の薬舗連れて行かなくてはならないのに笑いが止まらない、止められない。

 

そのまま俺は、ヘスティアが声を掛けて来るまでずっと嗤い続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウラノス。これ以上、黒鐘色を擁護するなら【ヘルメス・ファミリア】は協力出来ない」

 

四炬の松明が照らす祭壇で、そう言ったヘルメスは、木塊をナイフで削り完成させた醜悪な翼が生えた怪物の駒を、兎の駒が立つチェス盤の上に置いた

 

「そうか――――残念だ」

 

心底悲しそうにウラノスは言い、それに対して橙黄色の瞳を向けたヘルメスは小憎らしそうな笑みを浮かべる

 

「やけにあっさりだな。俺を止めるなら今の内だぜ?」

 

「その目を見せられて止められるとは思えん」

 

それに、とウラノスは続けた

 

「お前に彼は殺させんよ」

 

「ふぅ、やれやれ。ウラノス、まさか君まで」

 

―――あの怪物に魅了されるなんてね

 

ウラノスの目が鋭く細まり、ヘルメスは帽子の鍔で目元を隠した。その場に子供(人間)が立ち会っていたなら、二柱の間の空気の重みで卒倒していただろう

 

「ウラノス、貴方は本気で黒鐘色の味方で居続ける気か?あんなものがオラリオに住み続けたら、いずれこの街は、いや、この世界はあの怪物に飲み込まれるぜ?」

 

まるで確定事項だと言わんばかりの物言いに、ウラノスは特に否定の言葉を並べず、憤然と言い放った。

 

「―――私は彼を信じると決めた。それが異端児(ゼノス)達を救ってくれた彼に対するせめてもの償いだ」

 

「それが、オラリオの安寧を守り続けて来た神の言葉か」

 

「それが、私の神威だ」

 

松明の火が風に吹かれ、二人の影が大きく揺らいだ。それはまるで二()の内心を表しているかのようで、揺らぎが収まった時、ヘルメス何時もの調子で喋り出す

 

「じゃあお暇させて貰うよ。もう此処に来ることは無いだろうけど、せいぜい達者で居てくれ、ウラノス」

 

巨神の返事を待たずに男神は『祈祷の間』から出て行った

 

その背中に計り知れない何かを背負いながら

 

しばらくすると、階段とは別の『秘密の通路』の隠し扉が音を立てて開いた。影を払って現れるのはフェルズである。

 

「帰ったよ、ウラノス。……誰かいたのかい?」

 

「ヘルメスだ」

 

男神の名前を聞いた黒衣の魔術師は暫し黙り込み、やがて大きな溜息を吐いた

 

「まぁいいか、色君ならあの男神程度、どうとでもなる」

 

「フェルズ」

 

「分かってるよ、もしもの時は私も全力を尽くす。どんな手を使っても、異端児(ゼノス)達の存在意義を証明し、人類との共存の道を開いてくれた彼の助力になろう」

 

力強く言い切ったフェルズに、ウラノスは安心したかのようにうっすらと笑った。そんな普段見せないような表情を見せた老神に魔術師は少し驚いた風に黒衣を揺らす

 

「それで、彼の様子はどうだった?」

 

「どうもこうも、鐘楼の館に着いたらもぬけの殻、掃除をしていたヘスティア様に聞いたら、力試しするために皆でダンジョンに向かったぜ、と言われたよ。【ロキ・ファミリア】に居た時は【剣姫】がずっと傍に居て寿命がいくらか縮まったと思ったんだが、まさかファミリアに帰って数日も経たない内にダンジョンに向かうとは……やれやれ、せっかく復帰祝いを持って行ったのにとんだ無駄足だったよ」

 

疲れてそうな、嬉しそうな、楽しそうな、退屈そうな、響く声色に様々な感情が去来する。

 

何時もより遥かに饒舌に、異端児(ゼノス)達の救世主に対する愚痴を、フェルズは報告としてウラノスに延々と語るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円形の階層全体が城塞の如く五層もの大円壁で構成されており、上層とは比べ物にならない程の巨大な通路や広間が白濁色の壁面で形作られた広大な迷宮

 

通称『白宮殿(ホワイトパレス)

 

迷い込んだら二度と出て来られないと言われている37階層に、とあるファミリアは果敢に挑んでいた

 

『『『『『『『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』』』』』』』』』

 

「【フツノミタマ】!!!」

 

「【フレイム・ブラスト】!!!」

 

超電磁砲(レールガン)!!!」

 

「【ファイアボルト】!!!」

 

『『『『『『『『『『『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』』』』』』』』』

 

―――訂正

 

虐殺の限りを尽くしていた

 

「【ココノエ】!!皆様、制限時間は九分間です!!」

 

狐人(ルナール)の使った妖術により、輝きだしたファミリアが力強く駆けだす。そのスピードは本来の彼等よりも遥かに速く、その中でも特に速い兎が、真っ先に夥しい『オブシディアン・ソルジャー』の群れに突っ込んでいく

 

「ぜぁぁああああああああああああああああああああ!!!!」

 

『『『『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』』』』』』』

 

人の体を持った中級型以上のモンスターは、兎の影すら踏めずに殺戮されていった。赤い短刀と漆黒のナイフで秒刻みで消されていく同族に、他の『オブシディアン・ソルジャー』は恐怖し、一目散に撤退を始める。

 

そこを

 

「せぇッのぉッ!!!!!」

 

『『『『『『『グギッ!?』』』』』』』

 

物凄い勢いで回転しながら向かって来た、雷を帯びた巨槌(ハンマー)に一網打尽にされる。

 

大量の灰を生み出した巨槌(ハンマー)はクルクルと勢いを落さずに、持ち主の小人族(パルゥム)の手元に戻っていき、鈍い音と共に鉄籠手越しの掌に掴み取られた

 

「ベル様、少しばかり先行し過ぎですよ!!!リリのモンスターも残して置いて下さい!!!」

 

「ごめんねリリ、でも速く階位昇華(レベル・ブースト)の体に馴れておきたいんだ」

 

そんな会話を、苦笑いしながら聞いていた武人を思わせる少女は、何かを察知したらしく、表情を変えて両隣で戦っている黒髪の少年と赤髪の鍛冶師に声を掛ける

 

「お二人とも、どうやら階層主が現れたようです。手筈通り動かれてよろしいかと」

 

「だよねぇ、イレギュラー起こるよねぇ」

 

「倒してから数日しか経ってないのに復活したウダイオスなんて、今更イレギュラーの内に入らないんじゃないのか?」

 

「前だったら何も思わなかったんだけど、【ロキ・ファミリア】で色々常識を教わってな」

 

そう言った黒髪の少年は、盛大にため息を吐いた。そんな見慣れない様子に鍛冶師は不思議そうな顔をする

 

「――――まぁいいか、行くぞ!!」

 

「応よ!!」

 

威勢のいい声で答えた鍛冶師は握っていた幅の広い大剣を放り投げた。

 

その剣は地面すれすれの所で重力に逆らい、浮いた剣の腹に足を置いた鍛冶師は―――――飛んだ

 

グングンと上昇していく赤髪を面白そうに見ていた黒髪の少年は、風を纏い追随する様に飛ぼうとし―――銀の盾と槍を装備した竜女(ヴィーヴル)に声を掛ける

 

「それじゃあウィーネ、兄ちゃん行ってくるから頑張れよ!!」

 

「うん!!行ってらっしゃい!!お兄ちゃん!!!」

 

そう言いながらブンブンと槍を振るう竜女(ヴィーヴル)を一瞥した少年は、今までに出した事の無いスピードで、剣を使って飛んでいる鍛冶師の背中を追う

 

そして、相まみえるは37階層最強の階層主(モンスター)黒き骸王(ウダイオス)

 

『ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「色、任せたよ!!!」

 

下から追いついた白い少年の声が聞こえ、漆黒の骸骨の上を取った黒の少年は固く拳を握りしめた。

 

「任された!!」

 

何時ものやり取りを終えた少年に迷いの二文字は存在しない

 

例え相手が、自身の何倍もの大剣を振り上げてこようと、己は拳を振り下ろすのみ!!

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「くらえええええええええええええええええ!!!!!」

 

そう、これは

 

「スーパーミラクルベクトルすごーいッッ!!!!ぱーんちッ!!!!!」

 

いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 




この41話を一言で言うなら、難しかった、ですね。

次回からは、今までより更にバージョンアップを果たしたヘスティアファミリアが暴れますので、よろしくお願いします

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