ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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ある二人の神の思惑を中心に書いています


第31話 神意

『みんなー!!今日ハ私達のライブに集まってクレテありがとー!!!』

 

「「「「「「うぉおおおおお!!レ~~イッちゃ~~~ん!!!!」」」」」」

 

『それじゃあ皆の為に歌っちゃうヨ!!!第一曲目!!!』

 

歓声は歓楽街中に響き渡った。ステージの中心に立った歌人鳥(セイレーン)の周りで、軽快に楽器を演奏するのは竜女(ヴィーヴル) 蜘蛛女(アラクネ)等の美しい顔立ちの女性(モンスター)達だ。

 

最初は彼女達も人気の少ない路地の広場でひっそりと活動していた。しかし、並外れた努力とプロデューサーKUROGANEのお陰で、歓楽街の一等地でライブ出来るまでになったのだ。

 

『大丈夫!さぁ前に進もう!!太陽を何時も胸に!!!』

 

彼女達は音楽を奏でる。プロデューサーKUROGANEのSUMAHOから盗み取った音と歌詞を、そのまま全力で奏で続ける。

 

KUROGANEは言った

 

大丈夫、版権なら問題ないさ!異世界だもの!!

 

『それじゃあ二曲目!!share the world!!』

 

「「「「「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」」」」

 

その言葉の意味を理解していない。しかし、熱い想いは受け取った。

 

彼女達の熱いライブは歓楽街を越え、人類とモンスターの垣根を越え、オラリオ全域、いや全世界に響き渡る程に勢いを増した。

 

数日後、海に出るファミリアが続出したとかしないとか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)

 

美の女神によって贅の数々が用いられ建てられた【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)は、【フレイヤ・ファミリア】やベル達に半壊させられた時と比べて、更に豪勢に建て直されていた

 

有名な名匠が彫った獅子が刻まれた金の柱や、金剛石(ダイヤモンド)が散りばめられた魔石灯(シャンデリア)、まるで王宮のようにそびえ立つ建物の中には、足が抜けるのでは無いかと思わせる程に柔らかい赤絨毯(レッドカーペット)が敷き詰められている。

 

その上を我が物顔で歩く一羽の鴉

 

黒い羽帽子に黒い髪、黒い制服に黒い靴。全身真っ黒に包まれた少年、黒鐘 色はこの王宮の主が居る扉の前で立ち止まった

 

「ちょっと待ちなッ」

 

声を掛けられたので扉の取っ手から手を放し振り向くと、漆黒の長髪を臀部まで伸ばし扇情的な格好をした褐色の女性。流麗なアマゾネスが一人で此方に小走りで向かって来る

 

「こんにちはアイシャさん、何時もうちの団長がお世話になっております」

 

「え?いやこっちこそ、あのポンコツ狐を助けてくれたことに感謝してるよ……ってそうじゃないッ!黒鐘、あんた今勝手にイシュタル様の部屋に入ろうとしたね?」

 

腕を掴み、行かせんとするアイシャに色は困惑の視線を送った

 

「でも本人から何時でも入ってきていいよ、て言われてますよ?」

 

「たとえそう言われても、女の部屋にノックも無しに入るんじゃないよ!!このスットコドッコイ!!」

 

「すっとこ!?………ま、まぁそうですよね。俺が悪かったです、すいませんでした」

 

テレビで聴いたことしか無いようなアイシャの罵声に困惑しながらも、色は確かにデリカシーが無かったと、自分の非を認め謝った。

 

「フンッ、解ればいいんだよ解れば…………たく、何で私がこんな事を」

 

「何か言いました?」

 

「何でもないッ!!いいかい、私が許可するまで勝手に入るんじゃないよ!!!」

 

「は、はい」

 

その勢いのまま、扉の中に入っていくアイシャ。外に音が漏れない部屋なのか、やけに静かな廊下に一人で待っている事数秒。若干息を切らしたアイシャが、半眼で「入っていいよ」と色を室内に招き入れた。

 

「お邪魔しまーす」

 

軽い挨拶をしながら中に入った色の目の前には一人の女性

 

紫水晶(アメジスト)の瞳に、それと似た色合いを魅せる編み込まれた黒髪。空色に染められたチェックのワンピースに全身を包まれて、出来るだけ装飾が外された姿は何処にでも居る町娘を連想させる。しかし、豊満な胸や、しなやかな肢体は爽やかな色香を放ち、その女性が美を司る女神だという事を否が応にも主張していた。

 

「いらっしゃい。よく来たね、色」

 

わりと殺風景な部屋の椅子に、ちょこんと腰掛けていた女神イシュタルは、まるで少女の様に黒鐘 色に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、作戦β(ベータ)は上手く行ったようだな」

 

「はい。イシュタルさんのお陰で大成功です」

 

テーブルの向こう側に腰かける女神、イシュタルさんに作戦の結果を報告し終わった俺は。用意されていた紅茶のカップを手に取り、唇を湿らせる。

 

「なに、礼を言われるような事はしていない。【イケロス・ファミリア】を潰したのだって殆んど【ヘスティア・ファミリア】の功績だろ?オラリオに異端児(ゼノス)達を認識させる作戦βだってあの子(ゼノス)達が頑張っているからこそ、賛成派閥が出来る程になったんだ」

 

「それでも人造迷宮(クノッソス)の地図を提供してくれたり、【ロキ・ファミリア】を足止めしてくれたりしたじゃないですか。本当に感謝してるんですから」

 

「ふふっ、そう言ってくれるのなら此方も有り難い。地図なんかよりも鍵の方を渡せたら良かったのだが、【ヘスティア・ファミリア】の傘下になった私達が闇派閥(インヴェルズ)に加担していると思われる訳にも行かなかったからな。まぁ、返した品がこんなに早く手元に戻って来たのは驚いたが―――流石はオラリオの危険領域(ブラックホール)って所か」

 

「あ、あはは~」

 

危険領域(ブラックホール)

 

怪物進撃(デス・パレード)から昇華(ランクアップ)した【ヘスティア・ファミリア】の新しい通り名に苦笑いする。

 

原因はミィシャさんが、ラキアから金を巻き上げた件をオラリオ中に拡散させたからだ。確かに、賄賂を勝手に渡したのは悪かったと思うけどさ、そこまですること無くね?お陰でオラリオ中の中堅派閥以下のファミリアが近寄って来ないし、入団希望者が絶望的なんだけど………そんなんだから情報の魔女(ピンクレディ)とか言われんだよ

 

食蜂操祈(メンタルアウト)】も常に何かしらの対策をしてる見たいで効かねぇし、本当に何なのあの人。凄く頼りになるけど、オラリオで一番怖い人物は?って聞かれたら間違いなくあのピンクの悪魔(ミィシャさん)を押すね。

 

「色、話を聞いているのか?」

 

「あ、はい聞いてますよ。イシュタルさんは何時も綺麗ですね」

 

「はひゃ!?な、なんだいきなり、驚かすな」

 

俺が褒めた瞬間、身体を跳ねさせて顔を真っ赤にするイシュタルさん。可愛い

 

「いやいや本当に綺麗だなって思ったんですよ。何処から見ても完璧な女性です」

 

「ひゅい!?」

 

「服装も可愛らしいですし、凄く似合ってますよ」

 

「にゃ!?」

 

「同じ美の女神でもフレイヤとは大違いですよね。あの品の無い糞女神とイシュタルさんじゃあ、正しく月とすっぽんです。どっからどう見てもイシュタルさんの方が美しいじゃないですか」

 

「!?!?!?!?」

 

「爪の垢でも煎じて飲ませてやったら」

 

「ま、まて黒鐘!イシュタル様をからかうのもいい加減にしろ!!ほら、イシュタル様もしっかりしておくれ!?」

 

「プシュ~」

 

俺達のやり取りをずっと立ちながら見ていたアイシャさんが、顔を真っ赤にして頭から煙を出しているイシュタルさんを急いで介抱する。

 

ヤベェ調子に乗ってやり過ぎた、イシュタルさんって普段は頼りになる姉御肌のお姉さんなのに、褒められたら本当に美の女神なのかよって思うぐらい恥ずかしがるよな。

 

まぁそのギャップが可愛いから、ついついからかってしまうのだが……

 

今回の件も頼んだら快く了承してくれたし、何でこんないい()闇派閥(インヴェルズ)と関わっていたんだろうか?脅されていたとかかな………フレイヤとかに

 

そんな事を思いながら、イシュタルさんが正気に戻るのを紅茶を飲みつつゆったりと待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、やべぇぞ!【凶狼(ヴァナルガンド)】だ!!」

 

「ライブハ中止ダ!!速ク逃ゲルゾ!!」

 

「えー、アンコールやりたい!!」

 

「我ガ儘を言うんじゃアリません!?」

 

「どうするんだい!?匂いで追跡されちまうよ!! 」

 

「クソッ!最近降ってなかった雨がようやく降りそうだってのに……どうする?」

 

「落ち着けお前ら!俺達には対ベート・ローガ用決戦兵器があるだろうが!!」

 

周りの異端児(ゼノス)や冒険者が、前に押し出された一人のアマゾネスに視線を集中させる

 

「と、言うわけで頼むぜレナちゃん。君の愛がベート君を落とせる事を俺達は信じてる!!」

 

「まっかせてよ!!必ずベート・ローガと子作りしてくるんだからぁああああああ!!」

 

「よしっ!!今の内に異端児(ゼノス)を安全な所に避難させろ!!俺たちも撤収だ!!!」

 

「「「「「「「酷い!?」」」」」」」

 

ピッ

 

暫くイシュタルと歓談していた色は、窓の外から届いた大声を聞いて、苦笑いをしながら立ち上がった

 

「もう行くのか?」

 

「はい、ベート君が来たらしいので――――流石のレナちゃんでも五分持たせられるのが限界かな?」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ、なにも。それじゃまた今度、紅茶美味しかったです」

 

「あぁ何時でも来てくれ。次は甘いお茶菓子でも付けよう」

 

「お、マジっすか?俺、甘いもん結構好きなんで楽しみにしときますね」

 

そう言った色は、まるで風のように素早く部屋から出て行く。後に残されたのはイシュタルとアイシャの二人だけだ。

 

「まったく、あの祭り(ライブ)全てを囮に使うか。大した男だな、あの子は」

 

「………」

 

「しかし、それほどの危険を侵してまでロキの子供の注意を引き付けて、何をする気なんだろうな?」

 

「………」

 

「アイシャ、お前はどう思う」

 

「………あのさ、イシュタル様」

 

「なんだ?」

 

今まで一言も喋らず黙っていたアイシャが口を開く

 

「いい加減、黒鐘に慣れたらどうだい?」

 

「……………………むり」

 

その少女の様な可愛らしい声に、少女の様な恥じらう表情に、少女の様な熱っぽい瞳に、アイシャ・ベルカの中の何かが爆発した

 

「アンタは男を知らない乙女かぁああああああああああああああ!!!!」

 

「おいバカ!?大声で叫ぶな!!!万が一、色に聞かれたらどうする!?」

 

「別に聞かれたって構やしないよッ!!!事実アンタは今まで何人もの男と寝て」

 

「わあああああああああ!!!まてまてまて私が悪かったからその事は言うな!!!」

 

かぁぁ、と真っ赤にした顔を隠そうともせずイシュタルはアイシャに掴み掛かった。しかし神が『神の恩恵(ファルナ)』を刻んだ冒険者に勝てるわけもなく、簡単に組倒されてしまう

 

「どうしたんだいイシュタル様!!ほら、魅了を使ってみなよ!ほらほらほらほらぁ!!!」

 

「ば、バカ顔が近い!?それに服もだ!もう少し露出を控えめに」

 

「アンタがそれを言うかぁあああああああああああああああ!?」

 

そのまま二人の取っ組み合いは続けられた。まぁアイシャがイシュタルを一方的に蹂躙していただけだが……

 

「しくしくしくしく、汚された、自分の子供に汚された……」

 

「何が汚されただッ!!…………はぁ、本当どうしてこうなっちまったのかねぇ」

 

泣きグズるイシュタルを見たアイシャは天を仰いだ。切っ掛けは恐らくフレイヤに破れたあの時だ。そう、あの時から唐突にイシュタルは『(魅了)』を使えなくなっていた。

 

原因は不明、ディアンケヒトにも見せたが解ったのは心の病らしいという事だけだった。最初は団員全員が魅了が無くなった事により、フレイヤへの嫉妬が凄まじい事になるのでは無いかと戦々恐々としていたのだが、それはいい意味でも悪い意味でも裏切られることになる。

 

イシュタルに恥じらいが生まれた。

 

恐らく生まれて初めての感覚に混乱した彼女だが、幸い魅了が使えなくなっただけで『神の力(アルカナム)』が失われた訳ではなく、元々頭が切れる彼女はこの事をアイシャを含めた信用を置ける数人の眷族にしか話していない。そして力を失った事をバレないように隠れ蓑として、【ヘスティア・ファミリア】に表面上は下ることにしたのだ。

 

「時間を掛けて力を蓄えた後、内部から【ヘスティア・ファミリア】を支配して【フレイヤ・ファミリア】に復讐する手筈なんじゃ無かったのかい?」

 

「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたな」

 

「そんな事って………」

 

イシュタルは変わった。衣服を纏い、露出を控えるようになり、男を遠ざけ、なによりも無欲になったと言うべきか。恥じらいを理解した彼女は数日後、元のギラギラした性格が鳴りを潜め、破壊された町の復興や団員の治療の為に、集めた財を売り払い、なによりあれだけ意味嫌っていた宿敵(フレイヤ)に、大して興味を示さなくなったのだ。

 

その事には【イシュタル・ファミリア】全員が困惑、なかには嵐の前の静けさだと恐怖する者も少なからず居る。

 

「私は別に無欲になった訳じゃ無い。ただ、欲しいものが無くなっただけだ」

 

「それが無欲になったって事だろう?」

 

アイシャは思った、うちの女神は馬鹿なんじゃないかと。最近ますますポンコツ具合が激しくなって来た主神に頭押さえようとして……

 

嘲笑に止められる

 

「クククッ、違うぞアイシャ。欲しい物が無くなったという事はな、欲しい物を全て手に入れたという事だ」

 

「それは………どういう事だい?」

 

久しぶりに魅せる残酷なほど美しい笑みを見せたイシュタルに、アイシャは緊張した。

 

「黒鐘 色。あの子はね、世界の『メ』そのものなんだよ。あの子さえ手中に納めておけば全てが手に入る。富も名声も全てだ」

 

「な、なんだいその『メ』って言うのは?」

 

まるで今まで泣いていたのが演技であったかのように口許を喜悦に歪めた女神は、聞き返すアイシャに饒舌に説明を始める

 

「『メ』と言うのは『真理』であり『法』であり『恐怖』であり『勝利』であり………言うなれば様々な『権力』の事だ。疑問に思わないか?売り払った財宝がカジノの一件で倍になって帰って来たり、人造迷宮(クノッソス)の鍵が直ぐに戻って来たり、なによりあの子が味方した異端児(モンスター)達が人間と良好な関係を結ぶなんて、普通では考えられない事が起こっているだろう?――――それを起こす事象こそがあの子の(権力)、『メ』だ」

 

「はぁ!?そんなの―――」

 

反則だ

 

もしそれが本当だったのなら、女神フレイヤに嫉妬しなくなったのも頷ける。何故なら黒鐘 色が側にいるだけで例え都市最強ファミリアであろうと勝利が確定しているのだから。そんな男と接点を作るためだったら自分でも春姫を喜んで差し出すかもしれない。

 

そして、異端児(ゼノス)達が人間と一緒に居る光景に今まで何の疑問を覚えなかった自分に少しだけ身を震わした

 

「そんなに凄い力なら、無理矢理奪わないのかい?言っちゃ何だが、ヘスティア様程能天気な神じゃ奪い方なんて幾らでもあるんじゃ」

 

「お前はバカか」

 

「ッ!?」

 

鋭い眼光を飛ばされたアイシャの体が硬直する。イシュタルはアイシャに言い聞かせるように重みのある声を発した

 

「力の無い神ほどあの子が怪物のように映っている筈だ、何せ敵意を持たれただけで運命が滅びに向かうのだから。力のある神ほどあの子に興味が湧く筈だ、何せ手に入れれば極上の娯楽が得られるのだから。しかしアイシャ、この言葉を覚えておきなさい『過ぎたる力は身を滅ぼす』、例え()であっても、あんな物を手に入れてたら最後、待っているのは等しく破滅」

 

「そ、それじゃあ【ヘスティア・ファミリア】は?」

 

不穏な言葉にアイシャの瞳の奥で妹分の狐人(ルナール)の影がチラついた

 

「だからこそ、全くと言っていいほど『(権力)』に興味がない、あのロリ巨乳の女神が適任なのだろう。ヘスティアの所にいる限りは安心の筈だ」

 

「ほ、本当かい?」

 

「本当だ、嘘じゃない――――ふぅ、少し喋りすぎたな。すまないが冷たい飲み物をくれないか?」

 

そこでイシュタルは言葉を区切った。女神のお墨付きを貰いホッとしたアイシャは、冷たい液体がなみなみ注がれたコップを素早く用意する

 

「コクコク………」

 

「あ、そう言えばイシュタル様」

 

「コクコク?」

 

飲み物を飲みながら視線を寄越してくる美の女神

 

「押し入れに突っ込んだ黒鐘のグッズはどうするんだい?」

 

「ブッフォ!?」

 

鼻と口から液体を噴出する美の女神

 

「ちょっと、汚いじゃないか」

 

「ゴホッ!ゲホッ!い、今いい感じに締め括ろうと………」

 

「あぁそれと、黒鐘の好みに合わせて服装を変えるのは何も言わないけどさ。いくらアイツのファンクラブから買い取ったからって、流石に他人の物で自」

 

「わああああああああああ!!!だまれだまれだまれそれ以上喋るなあああああああああ!!!!!」

 

顔を真っ赤にして再度掴み掛かった美の女神の絶叫は、声が外に漏れない使用の部屋の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が深くなり、月が雲に覆われた闇の中、俺は一人で街道を走り抜ける

 

「そろそろヘスティア達が到着いた頃かな、俺もスピードアップ!!」

 

深夜だからか、やけにテンションが上がった俺は、レーダーで回りに誰もいないこと確認しながら叫んだ。そのまま迷宮街を最速で駆け抜け、人造迷宮(クノッソス)の扉を鍵で開き、中に入った。

 

「おぅ?何だこれ?」

 

瞬間、体に違和感を覚えた俺は背中を擦る

 

背中の熱が消えた?

 

それは唐突な変化。再度『神の恩恵(ファルナ)』を刻まれた時からずっと感じていた熱がスッと冷めたのだ。今まで感じてきた熱より物凄く熱かったから風邪でも引いたのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。一体どういう条件で熱が出るのだろうか?その事に疑問を抱いていると目の前に見知った人影が現れた。

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

通路の壁に体を預け、待っていたのは水色の髪と眼鏡を掛けた冒険者、アスフィさんだ。俺に気づいた彼女は真剣な眼差しを向けてきた

 

「色さん、作戦の方はどうなりました?」

 

「作戦ですか?異端児(ゼノス)達も上手い事動いてくれた見たいで、今の所滞りなく進んでますよ。」

 

「そう………ですか」

 

俺の言葉を聞いた彼女は少しだけ顔を俯かせた。何かあったのだろうか?

 

「あらかじめ決めておいた道筋(ルート)が【ロキ・ファミリア】に封鎖されました」

 

「はぁ!?」

 

いや、それ不味いじゃん!!かなり不味いじゃん!?

 

「ミィシャさんが考えた道筋(ルート)がバレたのか!?」

 

「いえ、【ロキ・ファミリア】の団員の独断行動らしいです。それより別の道を進みましょう。ここからだと二十番街に抜ける道が最適です」

 

そのまま彼女は走り出した、どうやら先導してくれるらしい。レーダーで他の生物が居ないことを確認しながら後ろに続く

 

「あの、独断行動ってどういう事なんですかね?」

 

「詳しくは知りませんが、ファミリアの幹部が一人陣取っているようです」

 

走りながらされた説明に頭を捻った。幹部つったらLv.6以上は確定か、ベート君は無いだろうし、ティオナさん達かな?うーん【ロキ・ファミリア】で独断行動する人間って………

 

そこで俺の思考は止められる、何故なら

 

先行していたアスフィさんの姿が消えたからだ

 

「へ?あれ?アスフィさん!!」

 

場所は迷宮に点々と存在する長方形の大部屋、縦にも広がっている三階程ある部屋の中でレーダーにすら感知出来なくなった彼女を視線を回して探すが、暗がりのせいか一向に見当たらない

 

「やぁ、会いたかったよ黒鐘君」

 

聞こえた声の方向、上階を見ると帽子を被った見知らぬ男性が、此方に笑みを浮かべていた

 

「オレの名はヘルメス、あって早々なんだけど」

 

変わらぬ笑みを纏いながら男は俺を上から見下す

 

「死んでくれ、怪物達の英雄よ」

 

この男の第一印象は悪意に満ちた存在、という率直なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に現れて物騒な事を言い出した男に、色は生唾を飲み込んだ

 

「何なんだアンタ、てかヘルメスってアスフィさんのファミリアの名前じゃ?」

 

「あぁそうさ、アスフィには感謝している。なにせ君をここまで誘い込んだんだからね」

 

「なぁ!?」

 

キョロキョロと回りを見渡す色だが、そこにアスフィの姿は見かけられない。当たり前だろう、ヘルメスはこの時のために様々な対策を練っているのだから

 

「悪いが君のレーダーじゃ彼女は捉えられないよ。厄介な呪詛(カース)も自分より高いLv.相手じゃ意味がないんだろう?」

 

帽子を目深に被った超越存在(デウスデア)は、陰る燈黄色の視線で動揺する色を見つめた

 

「君を救うために、とある少年が窮地に立とうとしている」

 

黒い怪物を見つめる神の相貌が細まる

 

「そして全てが丸く収まったとしても、その栄華を手に入れるのは君だ。オレはそれがどうしても我慢ならない」

 

「なに……いってんだ」

 

「君は彼に散々迷惑を掛けている自覚がないのかい?この一件、どう見たって君が厄介事(ウィーネ)を招き入れなかったら起こらなかった筈だぜ?今ごろ何事も無いように迷宮探索をしている筈なのに、今やオラリオ中―――いや全世界全ての人類を敵に回そうとして君の家族(ファミリア)を不幸に陥れている。ははは、正しく不幸を呼ぶ鴉だ」

 

「………」

 

嘲笑、嘲笑う、そんな表現が正しく反映された表情で笑うヘルメスを色は無言で見つめた

 

「世界は『英雄』を欲している。そしてオレは、あの白い輝きに全てを賭けたんだ。そして君は存在しているだけで、あの白い輝きを黒に染め上げるのだろう。そんなことは…………そう、あってはならない」

 

まるで舞台の役者のように両手を開いたヘルメスは語った。色もまた、同じように帽子を目深に被り視線を隠す

 

「…………なるほど、俺がベル達に迷惑を掛けているから死んでくれ、そう言うことだな?」

 

「理解が速くて助かるよ。なに、別に本当に命を絶てなんて言わないさ、ベル君達とは関わらず、オラリオを出てひっそりと暮らしてくれればいい。外までの道程ならオレの【ファミリア】が手厚く送ろう」

 

神意を聞かされた色は―――

 

「屁だな」

 

「………は?」

 

超越存在(ヘルメス)に向かって三日月の笑みを浮かべた。

 

「お前は聖人君子の正論を並べているつもりかもしんねぇが、実際に汚ねぇ口からプープー漏れてんのは屁だ」

 

「なん………だと」

 

怪物から発せられた罵声にヘルメスの目付きが変わった。下界に降りてから初めてかもしれないぐらい沸騰しそうな頭を、何時もの笑顔の仮面を被ることで治める

 

「はは、言ってくれるね、黒鐘 色。それじゃあ君はこれからもベル君に迷惑を掛け続けるのかい?」

 

「黙れニヤケ野郎。俺がベルに迷惑を掛けた?俺がアイツを黒く染める?ハッ、全てを賭けた何て言ってる割りには、うちの団長をえらく過小評価してくれるじゃねぇか」

 

それは絶対の自信、そして信頼

 

「ベル・クラネルは俺が側にいるからどうのこうのなるようなちっちぇ男じゃねぇんだよ。てめぇの方こそベルに泥塗ってんじゃねぇぞコラッ!!!」

 

「……………交渉決裂だな」

 

怒気を発する色に、笑顔を引っ込め能面のような顔になったヘルメス。ハデスヘッドを被り、《魔法》と《呪詛(カース)》対策の魔防のローブを着て控えているアスフィに男神は冷酷に命令する

 

()れ、アスフィ」

 

「し、しかしヘルメス様!?」

 

「元々そう言う予定だっただろう?それにこれは主神命令だぜ?」

 

「ッ!?………殺しはしません、気絶させるだけですよ!!」

 

そう言って上階から掛け降りたアスフィは短剣を片手に持ち、籠手に包まれた両手を構える色に肉薄する

 

「あぁ、君は本当に優しい子だねアスフィ」

 

アスフィ・アンドロメダはLv.4だ。しかしそれでは嘗て格上(レフィーヤ)に打ち勝った反射を突破する事は出来ないかもしれない。故にヘルメスとその子供は彼を倒すために、反則をすることを予め決めていた

 

「さて、暫く動かないで貰おうか」

 

神の力(アルカナム)』の使用

 

超越存在(デウスデア)の神意が、黒鐘 色ただ一人に降り注いだ。それは圧倒的な力で黒い怪物を縛り上げ身動きを取れなくする。抵抗は無意味、《スキル》の発動など論外。自信が消えるかもしれない危険を侵してまで放たれた力は、文字通り色の体をピクリとも動けなくした

 

「ハァッ!!」

 

そして無防備な胸にアスフィの短剣が突き刺さり

 

パシッ

 

「!?………ッァ」

 

突き刺さる前に腕を捕まれた彼女は、生体電流を操られ大きく痙攣した後、抵抗する間もなく気絶した

 

「アスフィさんも可哀想に。こんな奴に従わなければこんな目に会うこともなかったのにな」

 

「な、なにをした!?」

 

目を見開き激昂したヘルメスに色は冷やかな視線を送る

 

「どうでもいいけど、これ以上やるつもり?アンタら」

 

「ッ!?」

 

バレてる

 

息を呑んだのはヘルメスではない、その後ろに控えている【ヘルメス・ファミリア】の団員達だ。団長(アスフィ)を鎧袖一触してのけた漆黒の瞳に見据えられた彼ら彼女らは、アスフィと同じ魔防の装備をしているのにも関わらず存在がバレたことで、言い様のない恐怖に支配された。

 

「ヘルメス……様。手を引きましょう、敵いっこない」

 

「おい、なにを」

 

「そうだ、もう逃げましょう」

 

「こ、殺される」

 

「ヒエッ」

 

恐怖は伝染する。今にも逃げ出しそうな団員達にヘルメスは歯をキツく縛り、それでもなお安心させるために笑顔を作った

 

「なぁに大丈夫さ。確かにアスフィはやられたが、こっちにはまだまだ秘策が」

 

「わああああああ駄目だ!!!殺される!?」

 

「なッ!?」

 

ヘルメスの声を聞く前に逃走する団員。それを切っ掛けに他の団員も我先にと逃げ出した、ヘルメス自身もいつの間にか犬人(シアンスロープ)の少女に抱えられており、アスフィも回収されている。

 

「お、おいおい逃げるな!!これは主神命令だ」

 

「聞けません!!」

 

脱兎の如く逃げる団員達はヘルメスの言葉を無視して足を動かす。自分の声では止まりそうにない眷族達に男神はとうとう諦め、少女に抱えられながら項垂れた

 

「結局、今回も駄目だったか………」

 

そう、ヘルメスが黒鐘 色を消そうとしたのは今回だけではない。

 

最初はイシュタルとフレイヤの衝突だった。色が【イシュタル・ファミリア】の団長(フリュネ)を師と仰いでいる情報を得たヘルメスは、春姫を救いたいベル達に殺生石の件を話し、【イシュタル・ファミリア】から春姫を救うように誘導した後、アスフィに色を足止めする事を命じた。

 

後は簡単だ。ベルを懇意にしているフレイヤに、救済に向かった彼が【イシュタル・ファミリア】に捕らえられるかもしれないと告げ、頃合いを見て色を解放するだけ。

 

目論みは驚くほど上手く成功した。何も知らず【イシュタル・ファミリア】の味方をしている黒鐘 色は、ベル・クラネルを助ける為に【イシュタル・ファミリア】に攻めいった【フレイヤ・ファミリア】の幹部達と当たり前のように衝突する。

 

しかし彼は生き残った

 

理由は、アスフィに渡させた『クキュロプスの羽帽子』を彼が脱いでいたからだ。

 

全くもって予想外、万が一フレイヤに興味を持たされないように、『ハデスヘッド』の劣化品を渡して顔を認識させないように謀った筈が、直前になって脱がれるとは。

 

あの気紛れな美の女神は予想通りに色の事を生かし、ヘルメスは次の作戦を考える事になる。

 

そうして、ラキアによるヘスティア拉致事件は起こった。

 

「もしオラリオを落としたいのならヘスティアの所の黒鐘を奪えばいい」

 

何て適当な甘言で動いてくれた軍神アレスに感謝しつつ、運が良いことに外に出たがっているヘスティアを荷台の積み荷に紛れて出してやる、と騙し上手いことオラリオの外に待機していたアレスに引き渡した。

 

後はヘスティアを天界に送還させてから、ベルを【フレイヤ・ファミリア】にでも入れるように誘導し、力を失った色を消せばいい

 

筈だった

 

誤算だったのはラキアが逃げきる前に、情報の魔女(ピンク・レディ)がヘスティアを誘拐された情報を掴み、フェルズを通じて色に伝わった事だ。

 

しかし収穫はあった、羽帽子に取り付けられている発信器を辿ったアスフィが色から有力な情報を持ち帰ったのだ。

 

探知能力(レーダー)

 

確かにコレさえあれば彼に奇襲は効かない。しかし、逆に考えればそれさえ封じられたのなら、奇襲には滅法弱くなるのではないのか?

 

そうして思い付いたのが今回の作戦だ。アスフィに『ハデスヘッド』と『魔防のローブ』を装備させ、『神の力(アルカナム)』で厄介な《スキル》を発動される前に仕留める。

 

まぁ、この作戦も物の見事に失敗に終わったのだが

 

「これからどうするべきかなぁ。どう思うルルネ?―――ルルネ?」

 

自分を小脇に抱えて走っていた犬人(シアンスロープ)の少女、ルルネが急に立ち止った。一体どうしたのだろうか?

 

「あの、ヘルメス様」

 

「なんだいルルネ、落とし物でもしたのかい?」

 

「い、いや。そうじゃなくて………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――私は今まで何をしていたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルメスの表情が凍りついた

 

「あ、あれ?」

 

「ここはいったい?」

 

「ヘルメス様、私達はどうしてこんな所にいるのですか?」

 

なんだこれは

 

なぜ自分の眷族(ファミリア)は全員が困惑した様な表情を浮かべているのか。なぜ自分の眷族(ファミリア)は初めてここ(人造迷宮)に入ったような素振りを見せるのか。なぜ自分の眷族(ファミリア)オレ(ヘルメス)に何が起こったのかと質問してくるのか

 

「………操れる人数は一人じゃ無い?」

 

ヘルメスはようやく理解した。自分がどれ程の化け物と戦っていたのかを

 

「すべて、全てがお前の掌の上だった訳か!黒鐘 色ィ!!!!」

 

自身の団員が見たことの無いような憤怒の表情を浮かべながら、ヘルメスは迷宮に声を響き渡らせた。偽の情報を掴まされたのだ、自分の『呪詛(カース)』は単体を完全に支配するものだと、団員の反応を見るに本来は複数の存在に有効な効果なのだろう。

 

つまり、アスフィにその事を伝えた時点で黒鐘 色は彼女が裏切ることを把握していた

 

把握して泳がしていた。何故か?そんなのは決まっている、親玉(ヘルメス)を引きずり出すためだ

 

「アスフィが簡単にやられる筈だ!!用意させた『魔防のローブ』が偽物だったのなら、レーダー対策なんて欠片も機能していない!!!」

 

ヘルメスは頭を押さえた、全くもって道化。それ以外の言葉が見つからない。一体何時から自分が命を狙っていると知っていたのか、それすらも理解できないのだから。もし、もし羽帽子を渡した時点で気づいていたのなら、イシュタルの件もラキアの件も知っていて放置していたのなら――――

 

「あぁ、成る程。確かに君は化け物だよ。黒鐘 色」

 

しかし

 

「何時だって化け物を倒すのは英雄だ。どうしてこんな中途半端な所で君は『呪詛(カース)』を解いたんだい?」

 

憤怒を撒き散らす神に怯える団員達を視界に入れず、ヘルメスは口元を壮絶に歪めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、『呪詛(カース)』発動させながら走るのしんどいんじゃ~」

 

俺は予定通り、二十番街に抜ける道を走っていた。しかし、嵌めようとしていることがバレてることをアスフィさんに気付かれないように、自分に【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使ったり。あの神様を騙すために現在進行形で【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使ったりしているので、雀の涙程になった体力がギリギリと削られていく

 

「いや~、でもフェルズが気づいてくれて良かったぜ」

 

体力が限界を迎えようとしたので、二属性回復薬(デュアル・ポーション)を煽りながら今回の功労者を頭の中で思い浮かべた。

 

フェルズが『クキュロプスの羽帽子』に取り付けられている発信器を発見したのはかなり早い段階だった。流石は賢者とも言うべきか、所見で見破った彼は俺に言った「これは悪意をもって渡された物だ。何故ならこれを作った者は更に良質な物を作れるにも関わらず、あえて劣化品を君に渡している」、まぁそれを聞いた時点の俺はお世話になった人(アスフィさん)から渡された物だから、と発信器を敢えてそのままにしながら活動することにした

 

そしてアスフィ・アンドロメダが俺に接触してくる

 

幸い、異端児(ゼノス)やヘスティアにはこの事を話してないので何も言われなかったが、この事を知っていたフェルズともう一人、ミィシャさんの二人はそれはもうこっちが引くぐらい警戒していた。

 

だからつい言ってしまったのだ

 

「そこまで警戒するなら【ヘルメス・ファミリア】を調べたらいいじゃないですか。どうせなら俺も協力しますよ?」

 

そしてミィシャさんの情報網と、【食蜂操祈(メンタルアウト)】で調べた結果―――真っ黒でした。

 

もうね、あそこまで俺を殺そうとするなんて変な笑いが込み上げてきたね。これは一発ガツンとやっちゃわないと行けないと思い、一芝居打ったわけですよ。あそこまで団員を怖がらしといたら、流石にもうちょっかい掛けてこないでしょ

 

「と、もう到着か」

 

巨大な最硬金属(オリハルコン)製の扉を確認した俺は、慣れた手付きで人造迷宮(クノッソス)の鍵を掲げ、扉を開けた

 

夜の冷たい風邪が体を包み込み、反射を展開しているにも関わらず肌寒く感じられる

 

「さ、後は一直線に進むだけ」

 

そう、一直線に進むだけ。

 

の筈だった

 

両端を壁に囲まれた扉の前には、まるで俺が来るのを解っていたように、堂々と一人の人物が待ち受けていた

 

蒼色の軽装に包まれた細身の体。

 

鎧から伸びる肢体は憎らしいほど叩きのめされた物で。

 

苛立ちを増幅させる体のパーツの中で、腰まで真っ直ぐ伸びる金髪は悪逆非道の代名詞を称えていて。

 

女性から見ても華奢な体の上に、罵声しか聞いた事が無いふてぶてしい顔がちょこんと乗っかっている。

 

黒雲で月が見えない夜空の中。

 

場違いな程、黄金色に輝きながら俺を睨み付けて来るのは。

 

蒼い装備に包んだ金眼金髪の怨敵。

 

「なんでてめぇがここに居るんだ、金髪ゥ」

 

「やっぱり生きてたんだ、ゴミ虫」

 

あぁそうか、アスフィさんの言っていた【ロキ・ファミリア】の幹部の一人が陣取っているって言うのは本当だった訳だ。

 

ギリィ、と奥歯を噛み締める

 

思えばコイツのせいで要らないもの(狂った帽子屋)を用意する嵌めになったんだ、コイツが俺が向かう先々で何故か待ち構えているから

 

だからこそ今回の作戦はコイツがいままで足を運んだことの無い、ここ(二十番街)道筋(ルート)に選んだ、その筈だったのに。

 

「なんなんですかお前わぁ、ひょっとして俺のストーカー?」

 

「羽虫だったんだ、ブンブンうるさいね」

 

あぁ、もうどうでもいいか

 

元々会話なんて無駄なのだから。コイツと話すことなんて………そう、一言しかないのだろう

 

気づけば俺は走っていた。雷を纏い、ベクトルを操作し、呪詛(カース)を解除する。驚くほど頭はクリアで、体力も魔力も先ほど飲んだ二属性回復薬(デュアル・ポーション)により全快していて、【ステイタス】も更新したばかりで握りしめた拳から力が溢れてくるようだ。

 

前を見ると憎らしい金髪が同じように此方に走って来ていた

 

そしてお互いが交差する瞬間、一言だけ発した声が重なる

 

「「死ね」」

 

黒鐘 色(くろがね しき)とアイズ・ヴァレンシュタイン

 

黒籠手(デスガメ)》と《デスペレート》

 

真っ黒な空から大粒の涙が落ちる瞬間

 

黒と金の冒険者が持つ二つの不壊武器(デュランダル)が、誰の眼にも止まらない場所で、大きな火花を散らそうとしていた

 

 

 




オラトリア8巻読みました。ベート君かっけぇ!!

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