ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか 作:しろちゃん
感想返しは、まとめてやろうと思います。
少女の
狭い空間で外にも出れず、中に産み出されるモンスターを暇潰しに屠っていく。
暫くそうしている内に、モンスター以外の者が現れる
その者は痛みを感じた事の無い自分に痛みを与えた
だから必死に戦った、そして殺されないために殺した
そうしている内に大きな事を学んだ、殺されない技術だ
そして技術を磨く事も覚えた、モンスターを殺し、アイツらを殺す度に技術が上がっていく事に嬉しさを感じた
それから暫くすると誰も現れなくなった
闇が広がっていき、自分の声が虚しく響く
誰も訪れない、誰も話し掛けてくれない、誰も気に掛けてくれない
永遠に続くと思われた闇の中、ポツリと黒が現れる
黒は強かった、ずっとずっと殺しているモンスターなんかより、一撃で簡単に死んでいくアイツらなんかより強かった。
何より自分を見てくれた、声を掛けてくれたのが心の底から嬉しかった
だけど最後は呆気なく、自分の伸ばした腕が黒に届く前に、言葉を交わす前に
だから少女は手を伸ばす。
自分を救ってくれた彼に手を伸ばし、今度こそ自分の言葉を伝えるために
・・・暑い
真っ先に感じた感覚がそれだった。まるで真夏のような蒸し暑さを背中に感じ、真っ黒な視界から、ゆっくりと瞼を開けていく。
飛び込んできた光景は大きな怪物の顔、どアップだ。
「うおっ!?」
「オオッ!?」
驚き仰け反ったら向こうも驚き仰け反る。て言うか落ち着いて見たらこの
「なんだよグロス、ビックリさせんな・・・ってこれどういう状況?」
起きた俺の周りにはグロスの他にも『
「か、体は大丈夫か?どこか痛いところは?」
「お、おい、暑いから離せラーニェ!!大丈夫だから抱き付くな!?」
「暑いのか!?オード!!直ぐに水を持って来い!冷えた水だぞ!!」
「――――!」
俺の背中に抱き付いているラーニェに言われて、勢い良く頷いた『
「サンキュ、オード。でも今度入れる時は八分目ぐらいにしような。ほら、俺の服がビショビショだ」
「―――!?」
おぅ、謝ってくれるのはいいんだが、別に土下座するほどでもねぇよ。後、周りの
「で、どういう状況か教えてくれない?」
「自分が」
「アステリオスか。頼むわ、ディックスに
漆黒の体毛に紅の角を持つ
「そして、貴殿は深い眠りに付いていたと言う訳だ。体の傷は
「いや、体は大丈夫だけど。ちょっと待って、情報を整理させて。
「すまない」
「いや、謝んなくても良いけどさ」
うん、なんかこの子だけ次元が違うんだよね。前に模擬戦やってみたらボコボコにされるし、ディックスの
数ヵ月で
「そうだ、ウィーネはどうした?リドやフィア達も居ねぇみたいだけど、食料調達にでも行ってるのか?」
うーん、でもそれだと何かおかしい気がする。だってウィーネ俺にべったりだし。もし俺が気絶したら、あの子は絶対に俺から離れないね。確信だから、自惚れじゃないから、てかお前らは何時まで俯いてんの?
「・・・・・ウィーネは」
ポツリと聴こえた声の方向に振り向くと、喋り出したのはアーニェだった。綺麗な顔を歪めて蜘蛛の体に一滴の雫を落とした彼女は、まるで懺悔するかの様に喋り出す。
「ウィーネは、ディックスに・・・・連れ去られた」
「・・・はあ!?」
「本当にすまない!貴方が片腕を切り飛ばしてくれたおかげで私達は正気に戻れたのにッ!!あの男を捕らえきれなかった!!ウィーネを片腕で抱いたあの男を私達は全員で捕り逃したんだ!!!貴方は私達の為にボロボロになって戦ってくれたのに、魔剣も罠に嵌める知恵も授けてくれたのに!!!私達は恩に報いる事も出来ず、みすみす貴方の
「えっと」
そこでアーニェの限界が来たのだろう。両手で顔を覆い、溢れる涙で裾を濡らす彼女は、まるで子供のように何度も、ごめんなさい、と繰り返し始めた。周りの
はぁ、何かコイツら見てると逆に冷静になってきたわ
「取り敢えず泣き止めよアーニェ。綺麗な顔が台無しだぜ?」
そう言って彼女を抱き締めながら背中を擦り、頭を撫でてやる。泣いた子供の対処法は大体これで何とかなるのだ。まぁ俺の経験則であって世間一般じゃ、どうなのか知らないが
「うわぁぁあ"あ"あ"あ"!!!じぎぃ!!ごめんなざぁい!!!」
「よしよし。アーニェは頑張った、アーニェはよく頑張ったよ。お前らも泣くことねぇって、暴走した俺を抑える為にアステリオスが捕獲に加われなかったんだろ?だったら俺にだって責任はある。だからもう泣き止め、な?」
『『『『『『うわぁああああああ!!』』』』』』
「ち、ちょっとお前ら落ち着け!!ぎゃー!?」
感極まったのか全員に抱きつかれた。いや、本当に落ち着け、潰れるから!反射がある俺はともかく、近くにいるアーニェが潰れるから!?お前ら少しはアステリオスを見習え!!あんなに堂々と・・・・・・おい、冗談はよせアステリオス、お前の力じゃ反射が効かないから抱き付くな!!やめっ・・・ヤメロォー!!!!!
あれから暫くして、ようやく落ち着いたのか、赤い目を擦りながら少し名残惜しそうにアーニェは離れていった。何とかアーニェを守りきった俺を誰か褒めて。
「それで、リド達が見当たらないのはウィーネを捜索しているからって事でいいんだな?」
「ズズ・・・あぁ、そういう事だ。18階層に逃げ込んだ所までは確認したんだがな。そこから奴の消息が掴めなくなった」
いまだに鼻をスンスン鳴らしているアーニェが鼻声で説明してくれる。なるほど、『
「とりあえずウィーネ奪還作戦を考えるとするか。今いる場所は20階層の俺たちが宴会した所で合ってるんだよな?」
「合ッテイル。本当ナラバ19階層二留マル予定ダッタノダガ、周リノモンスターガ異様二ザワツキ始メタノデ仕方ナク、一番近ク二アル
グロスの言葉通り、薄暗い洞窟の中には食料や
が数多く置かれていた。そっかー、モンスターがざわつき始めちゃったかー、ならしょうがねぇな。うん、しょうがない
「色君!!無事か!?」
「お~フェルズか、この通り五体満足だぜ」
声の主は黄水晶から。これは通信端末のような物らしく、これのお陰で【イケロス・ファミリア】を完璧に罠に嵌められたのだ。それを譲り渡してくれた張本人は、酷くホッとしたように体を揺らした後、真剣な声色で話しかけてくる。
「色君、君がどこまで把握しているのか聞かせてもらっていいかな?」
「ウィーネが拐われて、ディックスが18階層に逃げ込んだ。それをリド達が捜索してるっつう所までは聞いてるぜ」
「そうか、それにしては冷静で助かるよ。君の背後にいる
「ば!?余計な事は言うな!!フェルズ!!!」
顔を真っ赤に染めて声を上げたアーニェに、フェルズは本当の事を言ってすまないね、と更に皮肉を重ねた。なんかわからんがフェルズも苦労してんだな
「リド達が冒険者に見つかった」
「!?」
和やかな空気を一変させる一言が、俺達を驚愕させる。その場にいる誰もが言葉を発せられない中、フェルズの報告は止まらない。
「リド達になるべく目立たないように言い聞かせたのだが、運悪く冒険者と交戦してしまったらしい。その戦闘が思いの外大規模だったらしくてね、現在地上は大混乱だ。そして今、ギルドは一応の応急措置としてダンジョンの侵入を禁止。これから
そこでフェルズは言葉を区切った、多分俺の考えを聞こうとしているのだろう。【イケロス・ファミリア】を一網打尽にしたことが、思いの外、好評化だったのかもしれない
「今、リヴィラの街に人は居ねぇんだよな?」
「あぁ、恐らく皆逃げている筈だ」
「オーケー、理解した。フェルズ、あと半日ダンジョン封鎖の時間を稼いでくれ。お前ら荷物纏めろ、移動すんぞって速ぇな!?」
俺の言葉を受けた
「お、おい色君?何をするつもりだ」
「ちょっと早いけど、この
その言葉を最後にフェルズの水晶も仕舞われた。すまんフェルズ、今は時間が足りんのだ
「さぁて、
まぁでも」
もうすでに、うちの
赤い液体が音を立てて垂れていく
「・・・・・・」
激痛が走る体に鞭を打ち、声を殺して
「・・・・・・っ」
しかしディッスは止まれない。両肩から夥しいほどの血液が流れていようと、『ダイダロスの瞳』で
「・・・・・ちくしょう」
足音が迫ってくる、化物の足音が。背後の視線に貫かれながらディックスは思う、何が間違っていたのか、どこがいけなかったのか。
化物が加速する
「ちくしょう!!」
薄暗い迷宮にディックスの声が反響する。それに対して化物の足音はほぼ無音に近く、それなのに嫌と言うほど自らの死が迫っているのを実感させられた。
「ふざけるなっ!!」
最初は良かった。怪物達から
「どうなってやがんだッ!?」
中はもぬけの殻、今まで必死になって集めた金も化物も迷宮を建築するための資材さえも、綺麗さっぱり無くなっていた。そして、それを数日で終わらせた張本人達は
「聞いてねぇぞ、こんなのっ!!」
ウィーネを抱え、武器も持たないディックスは
「この、化物がァアアああああああああ!!!!!」
暴走した化物と、奇襲を行った人間との戦いが始まった。持ったのは5分か10分か、敵わないと判断したディックスは時間稼ぎの為に
一瞬だけ飛ばした意識を執念で取り戻し、今度はLv.5の身体能力で蹂躙しようと両足に力を込めた。例え両腕を失おうと、そのLv.の差は絶対だ、出血で死ぬことなぞ最早頭にはなく、分泌されるアドレナリンが痛みを無くし、刺し違えてでも殺そうと飛び出したディックスは、その顔面を化物に蹴り飛ばされる。
その化物はあまりにも速すぎたのだ
「ッ!?」
ディックスは、団員の忠告を無視したことを今更になって後悔する
「キャハッ♪」
リヴェラの街
『
「ヒャッハー、汚物は消毒だぁ!!!奪えるものは全部奪えよテメェら!!!!」
「いやクロっち!流石にそこまで出来ねぇよ!?」
「落ち着いてください、色さん!!キャラ変わってますから!?」
「ミスター色、乱心しすぎでは!?」
訂正、一匹の化物から知性者達が街を守っていた
「なぁに言ってんだお前ら!!いいか、この街の物は俺達が有効活用するんだよ。食料だって腐っちまうし装備だって他のモンスターに壊される前に救済するんだ。救済だ!!だから俺達はなにも間違っちゃいない、だよなぁお前ら!!」
「「「「「「そうだそうだ!!!」」」」」」
「アーニェやグロス達に一体何が合ったんデスカ?」
ウィーネを捜索していたレイ達は、別人のように色のイエスマンになっている
「ー!」
「速かったなクリフ!!そうかそうか見つけたか!!良くやった!よーしよしよし」
「ー♪」
計算より速く帰ってきた
「それじゃあ今から作戦を説明します。時間が押してるので走りながら行くぞ」
そう言うと俺の前に颯爽と現れた
「クロっち、作戦ってなんなんだ?また人間を罠に嵌めるのか?」
全力で走る
「ちょっと違ぇかな。俺達が向かっている先は、ディックスの
「!?」
口を開けたまま固まってしまったリドに、話を続ける
「あぁ、安心して貰っていいぜ、中は俺の
そう、全ては作戦の内だった。俺達、
「よし、到着。それじゃ中に入るぞ」
『待ってくれ、私も着いていく』
声のした方向には誰もいない。しかし聞いたことのある声とレーダーの反応を見るからに恐らくフェルズだろう。
「なにそれ透明マント?フェルズって実はドラちゃんだったりする?」
「どら?はよく分からないが、これは被れば透明になれる
「お、おぅ、何かごめん」
根に持つフェルズの皮肉が俺に突き刺さった。
「それで、これからどうするんだい。作戦βとは何なのか、よければ教えて貰えないかな?私はあの人に【イケロス・ファミリア】を全滅させる所までしか聞かされてないんだ」
「え、そうなの?うーん情報の漏洩を防ぐ為に敢えて教えなかったのかもな。まぁ詳しいことは入ってから説明するぜ」
まるで歓迎するかのように開いていた岩壁、に見せ掛けた
ダンジョンとは違う人工的に作られた内壁、魔石灯の光に照らされた通路。広大な
「で、ベルに何があったんだ!?リリ!!」
「
「はぁ!?ふざけんなよ!!お前らが手負いのディックス一人に遅れを取るわけねぇだろうが!!馬鹿みたいに全員で掛かって行ったんじゃねぇだろうな!!!」
「そんな訳無いでしょ!馬鹿にしないでください!!むしろ暴走したベル様を色さんの所まで誘導したことを褒めて欲しいぐらいです!!!」
「色っち!!リリっち!!来るぞ!!」
「「イッ!?」」
リドの必死な声が響き、レーダーで捉えたベルが色達に跳躍してくる。速すぎる攻撃に対応が遅れた色は吹き飛ばされ、人工の壁に叩き付けられた
「キヒヒヒヒ!!ヒャハハハハハハハハハ!!!!」
白い頭髪は所々赤墨にまみれ、全身を包む
暴走した白い少年は完全に正気を失い、容赦なく吹き飛ばした黒い少年に片手で持った剣を向ける。
「ふっざけんなよクソがッ!!!!」
今までの理不尽な攻撃に怒りを覚え色は、眼前に迫っている剣に対して、
兎の剣と怪物の拳が激しい火花を撒き散らし、力負けした暴走兎が後方に飛ばされた。
「ヒャハァ~♪アハハハハハハハハ!!!」
空中で回転し体制を立て直したベルは、何が面白いのか色を指差し笑いだす。攻撃が中断された色はこれ幸いとリリに状況報告の続きをさせる
「それで、ヴェルフ達は暴走したウィーネを止めるために別ルートに向かったわけか。人数が多いから二手に別れて正解だったな、そっちのルートにはアステリオスとフェルズが行ったし、なんとかなんだろ」
「いえ、恐らく簡単には行かないと思いますよ?何のために、これほど恐ろしいベル様の相手をリリ一人に任されたんだと思ってるんですか」
「はぁ?それってどういうことだよ?」
「ですから」
「キシッ♪」
「!?」
色の体が驚愕で一瞬だけ硬直する
何故なら、さっきから攻撃を行わず、ただ笑ってばかりだったベルが視界から消えたからだ。色が油断していた訳ではない、レーダーで常に捕捉していたし、なにをされても対応出来るように距離も空けていた。
ただ、暴走兎が色の
「色さん!?」
リリの声は色に届かない、ベルは音を遥かに越えるスピードを出しているのだから。そして硬直した事により動きが止まった色は、あまりにも致命的過ぎた
線が走り、噴水のように血液が舞い上がる
「ヒャハ!ヒャハ!ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
色の首を撥ね飛ばした怪物兎は、降り掛かる血に歓声を上げ、次の獲物を求めて駆け出した
「ギャン!?」
ベルの後頭部を殴って気絶させた俺は、ホッと一息付く。最後のは焦った。レーダーより速く動くとか頭おかしいだろコイツ、訓練の時でもそこまで速く動いてなかったじゃん
「ようやく止まりましたか、一応聞きますけど直接気絶させることは出来なかったのですか?」
「むりむり、試したけど効果なかった。ディックスとのLv.差が開きすぎてるからだと思うが、
【
その場で座り込んだ俺にリリが
「それにしてもなんでコイツだけ
「リリに聞かれても分かりませんよ、そういう体質だったんじゃ無いですか?それより流石に今回はリリも怖かったです、全くベル様は、ベル様はッ」
口ではそう言いつつも
「大変です!!色さん!!!」
全力で翼を動かし俺の方向へ飛んできたのは
「ウィーネが外に!!は、早くしないと」
その言葉を聞き終える前に、後ろで声を上げるリリを無視して俺の足は駆け出していた
走れ走れ走れッ走れ!!!
フィアやリド達を遥か後方に残し、俺の体は烈風のように突き進んでいく。しかし、それでも足りない!!!
「すまんッ!!ここに置いとくから勝手に使えよお前ら!!!!」
前方に現れたのは倒れ伏した【ヘスティア・ファミリア】の団員だ、【
持っている全ての薬品を置いてきたけど、倒れてる家族を放って置くとか、罪悪感がヤベぇ
しかし足を止めることは出来ない
「クソッ最悪だ!!よりにもよって、あっちの方向に行ったのか!!!」
「風を止めてくれぇ!!」
風を背後から噴出して限界以上に加速をしている俺の後ろから、誰かが声を掛けてきた。振り向くと
流石は
「やっと追い付いた!!色っち、リリっちからこれを預かってる!!受けとれ!!!」
鱗で覆われていない掌には紅い宝石が一つ。一目でわかった、ウィーネの額にある宝石だ。
「ベルっちのポケットから見つけたらしい!!それをウィーネの額に戻せば暴走が止まる!!ディックスの
「・・・はは」
「色っち?」
そういうことか
そうだ、そういうことだ。呪いのせいで強くなっていたんじゃない、暴走したから限界を越えていた訳でもない、ポケットにしまってある
流石ベルだぜ、お前は正気を失っててもずっとウィーネの事を守ってたんだな
「応、任された」
そして俺は、
「行くぜリドォ!!着いて来いやぁ!!!!」
「ちょっ!?オレっちこれ以上のスピードは出せねぇよ!?」
加速加速加速加速!!!!正しく俺の体は
光が見える、見知った色が確認出来る。
追い付いた、でも足りない。
速さが足りない、【
ならどうする?決まってる。力を重ねればいい
想いは受け取った!!ならばあの一撃を蹴散らす力をウィーネを、守る力を
「ウォオオオオオオ!!
「【エアリアル】」
風と雷が爆発する。
風を纏った金色の少女が放つ神速の剣は、雷を纏った黒色の少年が放つ迅速な拳により弾かれた。
目を見開く少女を後方に吹き飛ばし、アステリオスの横に降り立った少年は、眉間に皺を寄せながら周にいる人間を睨み付ける。
そして
目を見開く
周りの冒険者達もざわつき始めるが、少年は気にせず息を吸う
空中で器用に制御し、建物の上に降り立った金髪の少女が睨み付けてくるが、構わず少年は息を吸う
息を吸い切った少年は、この場にいる全員に叩き付けるような大声を響かせた
「俺の家族に手ぇ出してんじゃねぇぞゴラぁあああああああああああああああ!!!!!!|」
この日、黒の少年は全人類に喧嘩を売ったのだ。
「今、アイツ何て言った?」
「確か、家族がどうのこうの」
「家族ってあの
「まさか、な」
「糞鴉が、なに言ってやがる」
肺の中を出し切った俺は突き刺さるような無数の眼差しを無視して、いまだに唖然としている
「お前ら、ウィーネは何処だ!!場所はわかってるんだろうな!!」
「ウ、ウィーネなら、あっちだ!」
「あっちだな、サンキューアーニェ。お前ら!殿はアステリオスに任せて撤退だ!!全員で生きて帰るぞ!!!」
『『『『『『『『オオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』』』』』』』』
俺の声に合わせて全
背後から高周波や爆発音が聴こえる、上手いこと引き付けてくれてるみたいだな。
『アアアアアア!!!!』
「ッ!?ウィーネぇええええええええ!!」
その疑問は彼女の声を聴いたことにより吹き飛んだ。なにより大切なのは今現在苦しんでいる
地面を砕き、家を何件か突抜け、ショートカットをし、ベクトルを操りカーブを曲がる。
近付いて行くたびに上がる悲鳴が、鬱陶しいぐらい俺の鼓膜を震わせ、焦りを増幅させる。
「いたぞ、ここだ!!」
「
とうとう現れた冒険者に、迷わず
「うわあああ!!」
「嘘だろおおお!!」
「いやぁあああ!!」
「やべ」
不意に出た言葉に俺は唇を噛み締める。ウィーネが見つかった、いや見つかっただけなら
ずっと続けていたレーダーに
意識が霞む中、それでも声を便りに
【
しかし、そこには見知った
「ゴライアス、だと」
竜の鱗を纏った女形の巨人が、多数の魔導師が完成させた『魔法』の一斉砲火を打ち砕くべく、その脚を振り抜ていた
「うそ、だろ」
「掻き消しやがった」
「ありねぇ」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』
「ひっ!?」
「笑って・・・やがる」
魔法が打ち砕かれて呆然とする冒険者達に女形の巨人は、まるで力に酔しれてるみたいに壮絶な笑みを浮かべ
更なる力を試そうと拳を引き絞った
「お前ら、逃げろぉおおおおおおおおお!!!!!」
黒鐘 色は叫んだ、あそこで冒険者を殺されたら全てが終わると感じたからだ。同時に頭の中で痛いぐらいに警鐘が鳴り響く
あの構えは、酷く色の頭の中にこびり付いている記憶の一つだ
何でだよッ!!ウィーネ!!!
それは嘗て戦った最初の障害が最後に放った技
何でお前が!!!
正拳付き、ウィーネの構えは正しくあの時のゴライアスと酷似していた
どうしてッ!!!!
そして、その指先にはヴォルフから渡されたと嬉しそうに語っていた、
「止まれぇえええええええ!!!!ウィーネェエエエエエエエエエ!!!」
その貫手は巨体に似合わない速さで冒険者に迫った。
故に、色が割っては入れたのは奇跡に近い。
貫手を放つ時に出した足の力が、大地を震わせ地面を崩壊させる
故に、色が紅石を額に嵌めれたのは奇跡に近い。
そして、夥しい程の血液が
故に・・・体の中心に大穴が空いている色が生きているのは奇跡に、近い
「しき?」
「・・・ぅ」
喋れない、それは当たり前の事だ。胸に大穴を空けられ、生きている人間なんていないのだから
「しき、なんで?」
ウィーネは理解が出来なかった。だって彼女は自分を傷付けようとするものを殺そうとしていただけなのだ
「ねぇなんで?しき、なんで!!??」
理解出来ない。どうして彼はアイツらを庇ったのか、どうして自分の前に出てきたのか
「しきッ!しきッ!!!」
どうして自分を救ってくれた人を、自分が殺しているのか
「やだ、やだやだやだやだやだ!!!しき、だめ!!!死なないで!!!!」
ウィーネは必死に色の体から流れる液体を元に戻そうとしていた、赤い液体を掬っては戻し、掬っては戻し。しかし、体からはそれ以上の液体が流れ出る
「冷たくなっちゃやだ!!!!だって色になにもしていない!!わたし、色になにも、なにも!!!」
大粒の涙が溢れ落ちて色の頬を濡らす。流れ落ちる滴は頬を伝い、鮮血で染め上げられている口元の血液と虚しく混ざりあった
「ありがとうって!!ウィーネね?ずっと色にありがとうって言いたかったんだよ?だから、だからお願い!!!目を開けて!?抱き締めて!!一人にしないで!!!」
地下通路の薄闇が彼女の潜在的な恐怖を助長させる。産まれたときから頼りにしていた少年は既に、事切れていた
「やだ!!やだよぉ!しきぃ、おねがいぃ!!おねがいしますぅ!!目を・・・めをあけてぇ・・・」
冷たく、固くなった少年を抱いた少女の嗚咽が響いた。
死んだ、自分を救ってくれた英雄が、自分の手で、自分の目の前で、命を散らしたのだ。
止めどない涙と後悔、痛みが彼女の全身を支配していく
「・・・・・ッ」
「しき?・・・色!!」
故に、それは最後の奇跡だったのだろう。死の淵から少年は引き返し、力の出ない腕を無理矢理《スキル》で動かし、ウィーネを抱き締めた
「しき!!しきしきしきしきしきぃ!!!」
抱き締められた少女は歓喜の涙を流し、抱き締め返す。
戻って来てくれたと、これで「ありがとう」を伝えられると
「ベル・・・を、たよれ」
「え?」
そんな事は有り得ないのに
「しき!しき!!!しきぃいいい!!!!いや、いやぁあああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
叫ぶ少女の腕の中、世界を敵に回した少年は、世界と戦う前に、呆気なく終わりを向かえた。
故に
「退きなさいウィーネ、こんな所で我々の英雄を死なす訳には行かない!!」
ここで
ギルド本部は騒然としていた、数々の怒号や罵声が飛び散り、耳が痛くなるほどの音声が常に流れている
彼女もまた、その中の一人だ
「だから色君を捜索してくれって言ってるだろ!!!金ならいくらでも出すんだ!!!!」
「ですから、今はそれ処じゃないんです」
「それ処だと!?君は色君の事をそれ処と言ったのか!?ふざけるな!!ボクの子供はなぁ!?」
「ちょっ、ちょっと落ち着いてください!?」
ロリ巨乳の女神は怒りの形相でギルド員に掴み掛かった。周りの人間が一瞬だけ彼女を気に掛けるが、すぐに元の喧騒に戻ってしまう
「あの、どうされましたか?神ヘスティア」
「き、君は!?」
背後から掛けられた声に振り向くと、見知ったハーフエルフのギルド員、エイナ・チュールが困惑しながら立っていた
「色君を!!色君を探して欲しいんだ!!君ならわかってくれるだろう!?」
必死になって語りかけてくるヘスティアに、エイナは痛々しい者を見るような目を向けた
「ヘスティア様、"昨日も言いましたが"黒鐘君の炎は消えたんですよね?」
エイナは言った、真実を。
「残念ですが、諦めた方がよろしいかと」
そしてもう既にその日から7日が経っている
「ふぐっ、きみ・・まで。もういい!!こんなところに頼るもんか!!!自分の足で探して来るよ!!!色君は生きてる!!ボクはあの子を信じるって決めたんだ!!」
「あ、ヘスティア様!?」
怒り脚で出ていくロリ巨乳の女神を追い掛けようとしたところで、後ろから他のギルド員に肩を捕まれた
「放っておけ、どうせまた明日も来るんだろう。全く、神の癖に乱心とかどうかしてるぜ!」
それは先程ヘスティアに絡まれていたギルド員だ、ストレスを隠す様子も無い彼は、一枚の紙をエイナに投げ渡す
「お前もそれ所じゃないぞ!!!またアイツが現れた、糞がッ!!」
「そう、ですか」
渡した紙と同じ物を持っていた彼は、その紙を地面に叩き付けてから踏みつけ、僅かに見える紙面を見たエイナは少しだけ目を伏せるのだった。
『
文字数が想像より多くてビックリした
次回からやっと、書きたかった話に近づいていく。