ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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八巻終わるまでに六話掛かるとは思わなかったぜ。


第25話 とあるファミリアの優雅なる1日

事の始まりは一人の男神がラキアを来訪した事だった。

 

「もしオラリオを落としたいのならヘスティアの所の黒鐘を奪えばいい」

 

拝謁の間で、その男神はラキア王国の軍神アレスにそう進言した。突拍子もない話に怪訝な顔をするアレス、しかしその男神は更に言葉を重ねる

 

「黒鐘を奪うというのなら協力するが?」

 

「ほぅ、お前はオラリオを落としたいのか?」

 

肩を竦める男神。冒険者たった一人を引き込むだけでオラリオを落とせるなど、本来なら馬鹿馬鹿しいと切り捨てる所だが、幾度もの戦争で敗北の苦渋を味わい、何よりあの戦い(ウォーゲーム)を見たアレスは一考する。

 

「・・・具体的な案を聞かせろ」

 

その男神は冷笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらっ、アレス!?どういうことだ、早く下ろせ!!こんなことをして、ボクの家族(ファミリア)が黙っていないぞ!!」

 

「黙っていろ能無しのチビ神め!貴様はクロッゾの倅と黒鐘 色とを交換するための神質(ひとじち)だ、利用してやるから光栄に思え!」

 

「本当にどうなっても知らないからなぁあああああああッ!!!」

 

アレスの背中、鎧の上に綱で強引に結ばれているヘスティアが細い手足を振り回す。きつく縛られている綱を必死に解こうと暴れるが非力な彼女では緩めることすら叶わず「大人しくしてろ!」とアレスの膝鉄を脇腹に頂戴し「ぬぶぅ!!」と苦悶の声を上げた後、打ち所が悪かったのか気絶してしまう。

 

それが始まりの合図だった。

 

もし、ここでアレスがヘスティアに手を上げていなければ、追い付いた色達が上空からその場面を見ていなければ、【ヘスティア・ファミリア】全員が日々甲斐甲斐しく身の回りの事をやってくれているヘスティアに多大な恩を感じていなければ、結果は多少変わっていたかもしれない。

 

しかし、もう遅すぎた。

 

ラキア兵の中心に爆音が鳴り響き、それに全員の意識が向けられた瞬間、外側から同時に炎雷と豪雷が十字を切る様に軍隊を駆け巡る。

 

四分割された軍の後方、二分の一は重力の結界に潰されて、進む道は赤い閃光により消滅。

 

ようやく襲撃されたと理解した頃にはヘスティアは帽子を被った冒険者に奪われ、最初に爆音を鳴り響かせた小人族(パルゥム)の少女が目の前で大槌を寸止めしていたのだ。

 

ここまで約30秒、訳がわからない。

 

完璧な統率、完璧な協力戦闘(コンビネーション)。常に命の危険に晒されるほどの、馬鹿みたいな数のモンスター達と戦ってきた怪物進撃(彼ら)にとって、こんなこと(軍隊との戦闘)は当たり前に出来る事。いや、出来なければならない事だったのだ。

 

故に集団戦闘こそが、彼らの力量を存分に発揮できる場と言えよう。

 

その事を理解していなかったアレスは残り30秒。つまり目の前の小人族(パルゥム)に身代金を要求された時間で、残りのラキア兵を鎮圧され、漸く理解する。

 

【ヘスティア・ファミリア】に手を出すべきじゃなかった事を

 

「ま、まて!話を・・・ムグ!?」

 

声を発したアレスの顔に大槌(ビックハンマー)が押し付けられ発言を潰される。

 

「貴方が口にしていいのはイエスかノーのどちらかだけです。オーケー?」

 

底冷えする声と少しずつ押し潰される体に恐怖が走った。

 

「ねぇリリ、何してるの?早く元凶を消しさらないと」

 

「なンなら俺が殺してやろォか?」

 

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください。ここで潰すのは簡単ですが、それでは勿体無いですよ。それで、どうしますか?」

 

幸運を運ぶ兎が牙を剥き、不幸を呼ぶ鴉が爪を立てる。黒と白の冒険者の威圧感に晒され、他の団員からも恐ろしい程の殺気を当てられたアレスに頷く以外の選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らないから天井だ・・・」

 

「朝っぱらから何ふざけてるのさ?」

 

ベットから起きてテンプレを言うと、その声に起こされたのか隣で寝ていたベルが呆れた視線を送ってくる。結構俺の世界に染まってきたベルだけど、このノリにはついて行けねぇか

 

「よく寝れましたか?皆さん」

 

扉を静かに開けて現れたのは、今お世話になっているこの村の村長、カームさんだ。

 

流石にアレスを脅して二億ヴァリスを受け取る場所がオラリオでは不味いので、ラキアが金を持ってくるまでの隠れ蓑として何処か適切な場所を探して、見つけたのがこの『エダスの村』だ。

 

周りは絶壁で囲まれて、ちょっとやそっとでは見付けられなさそうな隠れ里っぽくなっている村になっており。ちょうどいいと降り立った俺達は取り敢えず村長のカームさんに事情を説明し、何泊か泊めてくれないかを交渉。

 

もしダメでも【食蜂操祈(メンタルアウト)】を使えばいいか、と思っていた俺だったが、以外な事にカームさんだけではなく、聞き耳を立てていた、その娘さんも二つ返事で迎え入れてくれた。

 

交渉材料として提案した万能薬(エリクサー)が余程嬉しかったのか、夕食までご馳走してもらった、しかもこの村の規模ではかなり豪華な食事。

 

緊急時用に万能薬(エリクサー)を最低一本持つことをファミリア全員に義務付けといて正解だったな。

 

と、言うわけで。只今我らが【ヘスティア・ファミリア】は使われていない小屋を一つ借りて、雑魚寝していたのである。最初は村長さんが家を貸すと言ってきたのだが怪我人がいるわけでも無いのに、俺達(冒険者)にそんな物はいらないと断った。

 

普通の女の子の力しかないヘスティアだけは特別に簡易ベットを作ってそこに寝かしたけどな。祭壇みたいだと皆で茶化したのはいい思い出になる事だろう。

 

さて、グースカ寝ている団員を起こしますかね

 

「お前ら起きろ!!朝だぞ!!!」

 

「「「「zzzzzzzz」」」」

 

・・・・・・【食蜂操祈(メンタルアウト)】入りまーす!!

 

 

 

 

 

 

 

 

カームさんの娘さんが用意してくれた朝食を頂いた俺達は、毎朝の日課、早朝訓練に取りかかることにした。最初は酷くゴネていた春ちゃんも、今では気合い十分に鉢巻までしている。やる気があるのはいいことだ

 

朗々と命ちゃんの詠唱が流れ始め、ファミリア全員が緊張感に包まれる。それにしても命ちゃんの詠唱が凄く早い、早朝訓練とダンジョンで何回も詠唱してたから自然と早くなっていたと前に言っていたが、最早某歌姫の消失レベルの早口ではなかろうか?あれで、しっかり魔法が発動出来ているのだから不思議なもんだ

 

「【フツノミタマ 】!!」

 

「「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

ファミリア全員を押し潰さんとする程の重力が襲いかかる。即座に自信に掛かる負荷以外の向き(ベクトル)を掌握、脚力と腕力のベクトルを操作して腕立てやスクワットに最適な動きを最速で行っていく。

 

そんな俺に追随する白い影

 

「おおおおおおおお!!!!」

 

「ああああああああ!!!!」

 

ベル速ぇ!!何時も思うんだけと俺に追い付いてくるっておかしくね!?こちとら結構ヤバいチート(アクセラレータ)使ってんだぞ!!!

 

そんなベルだが、勿論何もせずに身体能力だけで追い付いている訳では無い。確かにあの【ステイタス】なら追い付けそうだが、直接的な力が試される訓練ならば【一方通行(アクセラレータ)】の方がまだ分があるのだ。

 

その穴を埋める為に彼が行っているのは二つ。

 

まず一つ目は【英雄願望(アルゴノゥト)】の断続的な使用。腕立て伏せ、上体起こし、屈伸運動、一動作全てに細かく《スキル》を発動し、全体的な身体能力の底上げを行っているのだ。その為、ベルの体は訓練中、常に光輝き、鐘の音(チャイム)が鳴り響いていたりする。

 

二つ目は50(メドル)走における【ファイヤボルト】の使用。この説明は簡単だ、つまりは走る時に後ろに【ファイヤボルト】を打ち続ける。これによりジェット機並みの推進力で大きく色に追い付いていく。

 

まぁつまりは

 

ベル・クラネルは己の全てを使って黒鐘 色に並んでいるのだ。

 

「ウァアアアアあああああああ!!!」

 

「ウゥオオオオおおおおおおお!!!」

 

『エダスの村』付近にある『黒龍』の鱗に囲まれた大きな広場に二人の絶叫が鳴り響いた。いくら二人がチート能力を持っていても命の【フノミタマ】の重力結界では負荷が強すぎるのだ。その中で常に全力で動いている二人に激痛が走るが、無理やり足を動かすのを止める訳には行かない。

 

負けたくないから、絶対に勝ちたいから、意地と意地のぶつかり合い。激しい音を上げて爆走するベルに、色も負けじとベクトルを操り疾走する。

 

「がぁあああああああ!!!」

 

「るぅあああああああ!!!」

 

そして、【ヘスティア・ファミリア】団長と副団長(ツートップ)の決着がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ一着はリリなんですけどね」

 

「「ちくしょぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また・・・リリに負けた・・・・・」

 

「その《スキル》やっぱりバグじゃね!?」

 

「ふふん、色さんからその言葉を貰うとは。少し気持ちいいですね」

 

打ちひしがれる俺とベルをリリは得意気な顔で見下ろした。【怪力乱神(スパイラル・パワー)】が強すぎる件について・・・

 

うん何かね、あの《スキル》は本当に重ければ重い程(パワー)が倍加するらしい。つまり元々の力値が600だとすると二倍にしただけで1200、しかも力値の潜在値(ちょきん)が999あるわけで・・・前に『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を装備したリリとベルで腕相撲をしたらベルの腕が大変な事になったとだけ言っておこう。

 

それでも敏捷(スピード)では勝っているのだから負けないとは思っていたんだが、そこは命ちゃんの【フツノミタマ】が大分強くなっていたのが敗因です。

 

重い、真剣に重い。最初の頃とは比べ物にならないぐらい強くなった【フツノミタマ】は俺とベルのスピードを確実に削っていき、逆に『右近婆娑羅(ウコンバサラ)』を装備しながら訓練をしているリリにとってはそんなもの(重力結界)は焼け石に水らしく、スイスイ前に行かれるのだ。

 

相性の問題とは言え、端から見れば重い装備のまま訓練をしている小さな少女に負ける男二人・・・情けないね

 

若干落ち込みながら火照った体をベクトル操作で冷やしていると、訓練を終えた人影が俺に近づいてきた。

 

「はぁはぁはぁ、し、色様。回復薬(ポーション)を・・・」

 

「はい、お疲れ春ちゃん。歩いて往復出来るようになったし、回復薬(ポーション)飲む回数も減ってきたし、調子いいんじゃねぇの?」

 

「コクコク・・・ふぅ~、やっぱりそう思いますか?どうやら(わたくし)にも成長期が来たようですね」

 

そう言いながら朗らかに笑う春ちゃんに、いい感じに冷やした風を送ってやる。【フツノミタマ】の中で50(メドル)5往復、それが今彼女に課せられている訓練内容だ。

 

最初は皆と同じ訓練内容にしていたのだが、なんと自分から、こっちの方が効率よく制限値(エクセリア)を貯められるから変えてくれと進言して来たのだ。実際そうだったので、こうして彼女だけ違う訓練内容を行っている。

 

因みに、俺やベルでも厳しい空間なのに潰されないのは本人曰く【フツノミタマ】の弱所を見切っているのだとか、要するに危機察知能力の強化版みたいな感じらしい。

 

そう言えば春ちゃんに聞き忘れていたことを聞いとこう。

 

「あのさ、春ちゃん達がヘスティアの借金を返すために頑張ってた事は聞いたけど、あれは何なの?」

 

指差した方向にはアレスを幽閉している檻を見張っていたラキア兵がクキュロプスの羽帽子を被った春ちゃんに手を降っていた。借金返済の為だから勝手に借りていた事は許したけど、用途間違ってね?

 

「え?(わたくし)のファンの方々ですが?」

 

「・・・・・・そっか」

 

この女狐は一体どこにむかっているのやら

 

もしかすると金色繋がりで話した、あの漫画のアイドルヒロインに影響されたのかもしれない。

 

今後教える漫画の知識にも気を付けよう。

 

そうして体を休めながら待っていると、最後の一人が走り終わりそうになっていた

 

もう少しでヴェルフも終わりか。最近アイツも訓練を全てこなせるようになってきたし順調だな。おっと、速く動かねぇと

 

「ゼハァ!ゼハァ・・・お、終わったぞ」

 

「おう、お疲れヴェルフ。回復薬(ポーション)そこに置いとくから勝手に飲んでくれ。俺は」

 

ドシャッ!

 

「倒れた命ちゃんの面倒みるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色殿、かたじけない」

 

「いいって、ゆっくりしときな」

 

仰向けに寝ている命ちゃんの額に手を当て、余分な熱を霧散する。器用値が上がったからだろうか?最近こういう【一方通行(アクセラレータ)】の細かな操作が出来るようになったのだ。

 

「あ~気持ちいいです。色殿、精神力回復特効薬(マジック・ポーション)を下さい」

 

「はいよ」

 

気持ち良さそうに目を細めている命ちゃんに柑橘色の液体が入った試験管をストロー付きで渡してやる。何故持っているのかって?それは各団員が常に回復薬(ポーション)系統を持ち歩く事を心がけているからです。理由?うちのファミリアは何時いかなる時でも現状みたいな事が起こることを想定しているんですよ。

 

因みにベルがファイヤボルトを上空に打つのは緊急事態発生と全員集合の合図だったりする。

 

我がファミリアはこういう細かな取り決めを行うことで世界一安全な迷宮探索を心掛けております。それなのに何故か入団希望者が現れない、解せぬ。

 

「ふぅ、もう大丈夫です。ありがとうごさいました」

 

「あいよ。でも大丈夫、命ちゃん?精神力回復特効薬(マジック・ポーション)を使う数、大分少なくしてるぜ」

 

「大丈夫です、気にしないで下さい。あの二人に負けたくないので」

 

立ち上がった命ちゃんの指差した方向には元気に回りを爆心地に変えているリリと、それを軽々と避け反撃の機会を伺っている春ちゃんの姿があった。

 

「あの二人も強くなったよな。リリなんかこの前俺の反射を力づくで破って来たんだよ。困っちゃうぜ☆」

 

いやー、あの時はビックリした。リリが「あ、ベル様!!」って言ったから振り向いた瞬間に目の前が真っ暗になったからな。何してもいいぞって言った手前、なにも言い返せなかったのは苦い思い出です。

 

「色殿、足が震えてますよ?」

 

「む、武者震いだし、ビビってねぇし。そう言う命ちゃんも次の組み手相手だろ、大丈夫?」

 

「ふっ、今回も敏捷値(スピード)で撹乱してやりますよ」

 

「あ、何かリリがその事に対策がある。とか言ってたから気を付けてね」

 

おっと、命ちゃんの動きが止まったようだ

 

「命様~!交代でございます。(わたくし)も油断していなかったのですが、負けてしまいました!」

 

因みに、春ちゃんとの組み手のルールは攻撃を当てた方が勝ちという事になっているが、同じLv.同士の場合はそんなものは無く、どちらかが戦闘不能になるまで戦う事になっている。

 

そして、避ける事に対して特化している春ちゃんに攻撃を当てたと言うことは・・・

 

「・・・・・・・・フッ」

 

ニヒルに笑う命ちゃんだが、足が震えていた。

 

がんばれ命ちゃん、

 

全く、うちの【小さな賢者(クレバー)】は最恐だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は夕暮れ、ラキア兵を待っている俺達は途中村の近くで沸いたハーピーを殲滅したり、夜から始まる祭りの用意を手伝ったりして時間を潰し、ただいま2度目の夕食を迎かえ、入浴時間である。

 

勿論『エダスの村』にうちのファミリアが使うような大入浴場は無いので、俺達で即席風呂を作り、そこに入ることにしている。

 

作り方?適当に穴掘って、ヴェルフが加工して、川から水運んで、ベルが沸かすだけ、一時間で出来るね。

 

「もうなんでもありだね」

 

とはヘスティアの談だ。俺もそう思うけど、女子達が喜んでいたから細かい事は気にしないことにした。

 

と、言うことで、ただいま女子団員と女神様が入浴中で俺達は暇を持て余している訳だが、ここらで疑問に思っていた事を言ってみるとしようか

 

「お前らってさ、女湯覗かねぇの?」

 

「ブッ!?」

 

「いきなりどうしたんだ、クロ?」

 

飲んでいた水を吹き出したベルと違ってヴェルフは冷静に対応してくれる。流石に年上だな、ベルは耐性無さすぎ。

 

「いやさ、こういう時ってお約束じゃん?それなのに今まで一度もそう言う話しなかったなって思ったんだよ」

 

「ゲホッ!ゴホッ!な、なにいってるのさ!?」

 

「クロがそう言う話題出すって珍しいな、俺はてっきり強くなる事以外に興味ないと思ってたんだが」

 

「お前は俺をどういう目で見てたんだ」

 

心底不思議そうに見てくるヴェルフを睨み返す。いや、興味はあるよ?女体を見慣れているだけで、普通に恋人欲しいよ?裸を見慣れているだけで。

 

「で、どうする?覗く?覗かない?」

 

「覗かないよ!?」

 

「俺も反対だな、リリスケに殺される」

 

まぁそうなるよな、ただ気になったから聞いただけだし。この話はここで打ち切り、顔を真っ赤にしているベルの為に違う話題を振る事にする。

 

「なぁヴェルフ、例のアレはすぐに出来そうなのか?虚空が出来たって事は加工には成功したんだろ?」

 

「あ~、少し時間をくれ。できるだけ後悔しないように作りたいんだ。すまんなベル」

 

「急がなくても大事だから!?ねぇ色、本当に僕が貰っていいの?」

 

「気にすんなって、どうせ俺は使いこなせないんだし貰ってくれ」

 

期待と不安が入り交じったベルの肩を叩いてやった。ヘスティアがベルにナイフを渡してたから、俺も何か渡してやりたいと思って渡たそうとしたんだが、どうやら予想以上に好感度が取れたらしい。嬉しさが滲み出ているベルの顔を肴に酒を一口

 

それにしても女の風呂って本当になげぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】が即席で作った風呂場に真っ直ぐ向かっている数人の人影があった。団員が入っている事を計算に入れた時間帯、見つからない様に念入りに下調べをしたルート。

 

正に穴一つ無い作戦の下、黒い影は慎重に突き進む。

 

(ゴッデス、ターゲットβまで残り約50(メドル)です)

 

(了解、そのまま待機しといてくれ。フォックス、レーダーの反応はあるかい?)

 

(いえ、まだピリピリする感じがないですね。もう少し進んでください、プリンセス様)

 

ハンドシグナルで会話をし、コードネームで呼び合う者達に油断という二文字はない。しかし、もう少しで目標地点にたどり着くという所で、その中の一人が焦ったような声を上げた。

 

「本当にするんですか!!皆様!?」

 

「今さら怖じけついたんですか?シャドウ」

 

「シャドウも乗り気だったじゃないか」

 

「シャドウ様、いい加減覚悟を決めてください」

 

「もうその呼び方はいいですから!!それと、自分はずっと止めていますからね!?」

 

「「「またまたぁ」」」

 

「この人達怖い!?」

 

覗こうとしてるのは【ヘスティア・ファミリア】の主神と女性団員だった、彼女らの目標はただ一つ、ベル・クラネルのみ。しかし、命だけはその行為を止めようと奮闘する

 

「大体ベル殿の○○○何てどうでもいいじゃないですか!?」

 

「なに言ってるんですか、ベル様の○○○ですよ?重要に決まってるでしょう」

 

「そうです。ベル様の○○○を皆様で共有し絆を深める。どうでもいい何てとんでもない」

 

「フフン、まぁボクはベル君の○○○を見たこと有るけどね」

「「ぐぬぬ」」

 

「意外と大きかったぜ」

 

「「!?」」

 

「もう帰っていいですか?」

 

ガックリと項垂れ、踵を返そうとする命の肩はガシッと掴まれた。

 

逃げられない!

 

「それにしても問題はこの壁ですよね」

 

「色君もえらく高く作ったよね。いったい何(メドル)あるんだい?」

 

風呂場付近にまで近づいた彼女達を待ち受けていたのは、高く積み上げられた石の壁。「これぐらい高かったら何が来ても安心だろ」と色が風呂場を囲うように積んだのだ。

 

「ほら、もう諦めて帰りましょうよ」

 

頑なに帰ろうと主張する命だが、そんなものを聞き入れて帰るのならば、こんな所に彼女達は来ていないだろう。

 

「皆様、安心してください。(わたくし)にいい案があります」

 

「ほぅ、流石春姫君だ。リリ君も参謀の座が怪しまれるね」

 

したり顔で笑うヘスティアに済ました顔でリリは返した。

 

「いいんですよ、リリは前衛ですし。それに今後その役(参謀)後方支援(バックアップ)の春姫さんの方が適任ですから色々任せていこうと思っていた所です」

 

「リリ・・・様」

 

一つの戦力として認められている事に感動して瞳を潤ませる春姫。しかしその内容は男の入浴を覗く為の作戦立案、台無しである。今まで止めようとしていた命も少し感動して口元を押さえている所を見ると、もうこのファミリアは駄目かもしれない。

 

「それで?作戦を聞かせて下さい」

 

「はい!リリ様が石壁の上まで私達を投げ飛ばします!!」

 

「「「・・・・・・・それで?」」」

 

「以上です!!」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

数分後、風呂場の上空で何かが雷に打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、貴殿方はこんな所で留まっているのですか?」

 

「「「はい」」」

 

青筋を立てて眼鏡を光らしているアスフィさんに、説明をするために残った俺とベルとヘスティアは正座をしながら答えた。凄く怖い

 

「いいですか?オラリオでは良くも悪くも貴殿方の噂で一杯です。【イシュタル・ファミリア】だって黙っていませんし、今の【ヘスティア・ファミリア】がどれだけ重要な位置(ポジション)にいるか良く理解してください!!」

 

「「「はい、はい、すみません」」」

 

もう俺達は土下座をする勢いで謝っているのに弾丸の様な説教は止まらない。やはり、余計な魔力を消費しないため、上空にだけ飛ばしていたレーダーに掛かったアスフィさんをハーピーと間違え、雷を放ったのがいけなかったっぽい。

 

その後、助けた俺達の裸を見て気絶した事も原因だろう。

 

「これからはもう少し慎重に動く事ですね!!」

 

「「「すみませんでした!!!」」」

 

遂に三人仲良くDOGEZAした。何て言うか、本当にごめんなさい。

 

「まぁまぁ、それぐらいにして。お祭りの準備が出来たので良ければ一緒にどうですか?」

 

おぉ!!ナイスだリリ、その調子で助けてくれたら説明する時に逃げた事は忘れてやる。

 

「は?いえ、貴殿達はこのまま帰還してもらいま」

 

「祭りっていいですよね!!!!!」

 

あ、違う。これ俺達を助けようとしたんじゃ無くて、ラキアが金を持ってくるまでの時間稼ぎだ。

 

「えっと、アーデさん。いきなり何を?」

 

「だって祭りですよ!!リリ達冒険者はその職業上、殆ど関わらない事じゃないですか!?こんなに貴重な経験、やっておいて損はないはずです!!!!」

 

「は、はぁ」

 

二億ヴァリスは返せるって伝えたのに必死すぎだろ、この金の亡者め

 

「だったらアスフィさんも祭りに参加して、踊りましょう!!いえ、踊るべきです!!!朝方ぐらいまで!!!!!!」

 

「は、はい。え?朝方?そんな時間な」

 

「聞きましたか皆さん!!!言質・・・じゃない、アスフィ・アンドロメダのやる気を!!!ほら!色さん速くエスコートして上げてください!!!それでも男ですか!?」

 

あ、そこで巻き込んでくるんだ

 

(色さん!!マリウスさんが明日の朝方には来ると言っていたのでそれまで時間を稼ぐんですよ!!)

 

リリは鬼気迫る表情を浮かべ、ハンドシグナルで意図を伝えくる。しかしだ、生まれてから今まで踊りなんてものと無縁な俺は断固拒否さしてもらう

 

(ふざけんな、大体俺が踊ったり出きるわけねぇだろ?ベルだったら踊った事あるしベルにやらせろよ)

 

(うぇ!?ちょっと色、僕に振らないでよ!!それに色の方がアスフィさんと仲良いだろ!!)

 

(そうですよ!!それにベル様と踊るのはリリの役目です!!)

 

(ちょっとリリ君、それは聞き捨てならないぞ!!ベル君と踊るのはこのボクだ!!!)

 

(じゃあこうしましょう。時間を決めて交代制でどうですか?)

 

(クッ仕方ないか、それでいいよ)

 

(僕の意思は!?)

 

(おまえッ!?ベルお前ふざけんな!?三角関係とかどこのハーレム主人公だゴルァ!!!春ちゃんもお前に気があるっぽいし、代われ!!)

 

(最後本音漏れてるよ!?)

 

(とりあえず色さんはアスフィさんと踊っててくれたらいいんですよ!速く動いてください!!)

 

(色くん、これは主神命令だ!!その子と踊って出来るだけボクがベル君と踊れる時間を稼いでくれ!!)

 

(納得いかねぇ!?)

 

「アスフィさん俺と踊ってください!!!」

 

「え、あ、はい」

 

ここまで約3秒、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きである。

 

 

 

 

 

 

赤のロングスカートとゆったりとした白のブラウス、色柄のベストをボタンで止めた服装。何時もの冒険者の服とは違い、村人から借りた服を身に纏っているアスフィさんは変わらない空色の髪と銀色の眼鏡を揺らしながら、優しく俺をリードしてくれる。

 

こういった事に慣れているのか、足を踏まないように気を付けて踊ってる俺に対して、彼女は流れるような動作で郷土舞踏(フォークダンス)をこなしていく。やはり彼女と俺では釣り合っていないのでは無いのだろうか?

 

そんな不安を察してくれたのか、手を取り合っている俺に、宝石が溢れ落ちてきそうな澄んだサファイアブルーの瞳を向けて、一言。

 

「どうしてこうなるのよ」

 

「なんかすいません」

 

あ、違うわ。これ死んだ魚の目だわ。

 

「別に色君が謝る事はないわ。ただ、自分の拒否できない性格が恨めしいだけで・・・ふ、ふふふふ」

 

「は、ははははは!!」

 

怖えぇよ!?その死んだ瞳を虚空に向けて笑うの止めてください!!!ちょっ村人の皆さん!?そんな微笑ましい目で見てないで助けて!!な、なんかこの状況を打破出来るものは無いのか!?

 

「それではこの帽子姫、歌わせてもらいまーす!!!」

 

「「「「「「「うぉおおおおおお!!!!帽子姫様!!!!」」」」」」」

 

春ちゃん!!なに俺のスマホのカラオケ機能使って疑似アイドルライブやってんの!?ラキア兵もノリノリ過ぎだろ!!

 

「ベル様!!次はリリと踊ってください!!!」

 

「なぁ!?まだボクの番は終わってないぞ!!」

 

「ちょっ、二人とも、あまりくっつかないで!?」

 

アイツらは予想道理過ぎだぁ!!後で覚えてろよ!?ま、まだ常識人のヴェルフと命ちゃんが残ってるからな!二人とも助けて!!!

 

「ヒック、ヴェルフ殿~!!お酒ついで下さいよ~ヒック」

 

「こりゃだめだな。クロ、コイツ介抱しとくから後頼んだぞ!!」

 

「なにいってんれすか!?わたひはまだのめまふ!!!」

 

ベロベロに酔った命ちゃんはそのままヴォルフに連れられて家の中に・・・なんてこったい!?

 

「えっと、アスフィさん?ちょっと休憩しますか?」

 

「ふふふ休憩?知ってる?その言葉は私とは無縁の言葉なのよ。大体ヘルメス様は」

 

何かブラック企業に就職した人間の成れの果てみたいになってるんですけど!?会ったこと無いけどヘルメス様アスフィさんに何してんの!!

 

「そうだ、色さんに聞いておきたい事があるだけどいいかな?」

 

今までブツブツ呟いていたアスフィさんが急に質問してきた。キャンプファイヤーに照らされた瞳は先程の死んだような物ではなく、真っ直ぐ俺に向けられている。

 

「なんですか?」

 

回りの喧騒で聞き逃さないように耳を傾けた、集中すると少しだけアスフィさんの手が汗ばんでいるのが解る。暑いのだろうか?

 

「どうして上空にいる私の正確な位置がわかったの?」

 

彼女の柔らかな手が少しだけ震えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17階層、大広間。

 

安全階層(セーフティポイント)の前に立ち塞がる階層主(ゴライアス)の目の前、ベル・クラネル率いる【ヘスティア・ファミリア】は当たり前のように相対していた。

 

『オオオオオオオオオオ!!!』

 

「弱ェんだよ!」

 

総身七(メドル)に達する灰褐色の巨人が振り下ろした両腕を空中で蹴り返した黒い少年は、仰け反っている巨人に落雷を落とす

 

『ガアアアアアアアア!!』

 

「ちょっと色さん!!今回はリリに任してくださいって言ったじゃないですか!!!」

 

激しい雷光に身を焼かれる巨人。しかしそれを見た小人族(パルゥム)の少女は、自信の何倍もの大きさがある大槌をブンブンと片手で振り回しながら抗議の声を張り上げた。

 

「いや、えっと」

 

「全く、今から手出し無用で頼みますよ!」

 

「はい、すみません」

 

「えっと、ドンマイ色」

 

ベルに肩を叩かれ慰めてもらっている色を尻目にリリは巨大な大槌を抱え跳躍、雷で麻痺して動けないゴライアスの腹部に狙いを定め、フルスイング。

 

『ゴゥッ!?』

 

超重量の一撃を横っ腹に受け、霞む程の勢いで吹き飛ばされた灰色の巨人は嘆きの大壁にめり込み、ようやく停止する。

 

「更にもう一発!!」

 

それに追い討ちを掛けるため、リリは【怪力乱神(スパイラル・パワー)】で何倍にも高められた力値を存分に使い、ゴライアスに向けて大槌を勢いよく投げ飛ばす。常識はずれのスピードで投げられた大槌(ビックハンマー)はブォォォン!!!と激しい音を立て、回転しながら一直線に進んでいく

 

『ゴブォッ!?』

 

あたり一面に飛び散る巨人の血飛沫、ゴライアスの推奨Lv.は4だ、それをLv.2のリリが軽々と倒した様は正しく異常と言えるだろう。その光景を目にしたヴェルフは怒りの声を上げた。

 

「おいリリスケ!!あんまり乱暴に扱うなよ!?それ作るのにどれだけの労力を注いだと思ってるんだ!!」

 

「大丈夫ですって。ゴライアスの頭を潰したぐらいで、どうにかなるような武器じゃないでしょう?」

 

「えっとリリ?壁にめり込んでる大槌(ハンマー)から目を背けちゃ駄目だよ?」

 

前でゴタゴタしだした三人を背後に、怒られて後方に向かった色は大広間に繋がっている通路から沸いてくる無数のモンスターを命達と殲滅していた。

 

「それにしても、二億ヴァリス受け取れて良かったですね」

 

「そうですね春姫殿。そういえば色殿はアスフィ殿とどういった話しをされていたのですか?自分、何故かあの時の記憶が曖昧で」

 

「んー?そんな大した話じゃねぇぞ?て言うか命ちゃんはお酒の飲み過ぎに注意な」

 

こんな会話をしている彼等だが、場面を見れば何十ものモンスターに囲まれている状態である。普通のファミリアなら前方のゴライアスと後方の大量のモンスターでパニックを起こしても仕方がない状況だ。しかし彼等は一切動じず殲滅、そのまま何事もなかったかのようにベル達と合流した。

 

これが怪物進撃(デス・パレード)と言われる者達の実力、そんな彼等が今回の迷宮探索で向かう先は・・・・

 

「何かあったら(わたくし)に教えて下さいね。直ぐに回復薬(ポーション)を渡しますから」

 

サンジョウノ・春姫は大きなバックパックを背負い直す。

 

「後衛は自分にお任せを、何が起きても魔法で時間を稼ぎます故」

 

ヤマト・命は自身の刀に手を掛ける。

 

「刃溢れしたら直ぐに俺に言えよ?」

 

ヴェルフ・クロッゾはそれぞれの武器を注意深く見つめる

 

「何が来ても叩き潰してやります」

 

リリルカ・アーデは大槌(ビックハンマー)を肩に担いだ

 

「油断すんなよ。作戦通りにしっかり攻略すんぞ」

 

黒鐘 色は黒い籠手(ガントレット)に包まれた掌を開閉する

 

「それじゃあ行こうか・・・19階層に!!」

 

そして、ベル・クラネルは19階層に向かって足を進めた

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、いずれ最強を欲しいままにする者達の【眷属の物語(ファミリアミィス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の伝説はここから大きく動く事になるのだ

 

 

 

 

 




◯◯◯の中身はそれぞれの想像に任せます


さて、次から九巻突入・・・

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