ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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中々改造具合が激しくなってきたぜ。


第21話 ヴェルフ・クロッゾの憂鬱

炉の中に炎が盛っている。

 

自身の頭髪と同じ赤色に燃える火をヴェルフ・クロッゾは真剣な眼差しで見つめていた

 

「そろそろか」

 

暗闇に包まれた鍛冶場の中、大型炉の中で赤黒にまで溶かされ、ドロドロになった何かを特殊な鋏で取りだし。額に汗を浮かべながら鉄床(アンビル)の上に置かれた特殊な型にドロドロの何かを丁寧に流し込んでいく

 

「・・・ふぅ、ようやく完成が見えてきたな」

 

汗を手拭いで拭き取ると、型に流し込まれた何かを後ろに置き腰を落ち着かせ、何気なしに周りを見渡した

 

そこにあるのはヴェルフ・クロッゾの血と肉の結晶、魔剣の数々が飾られている。

 

風や火が出せるスタンダードな物から重力を操る特殊な物まで、他の冒険者からしたら喉から手が出るくらい欲しがりそうな、様々な魔剣の種類を暫く感慨深そうに見つめた後、ヴェルフは無意識に独り言を呟いた

 

「魔剣なんて糞食らえだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフが特殊な型に入れた何かが冷えきった後に向かった先は【ヘファイストス・ファミリア】のホームだった。

 

見知った工業地帯を歩き、知り合いに軽い挨拶をしながら。覚悟を決めた瞳でゆっくりとホームの中に入っていく

 

「おお、誰かと思えばヴェルフ吉か?」

 

その声に内心舌打ちしそうになったヴェルフだが、グッと堪えて腕に持っている物を隠しながら挨拶する。

 

「なんだ椿か、久しぶりだな!」

 

「ヴェル吉よ、そのいかにも無理やりしてます的な挨拶はどうかと思うぞ?」

 

「・・・はぁ、面倒くせぇ」

 

紅の袴に大陸式の戦闘衣を身に纏った『ハーフドワーフ』の女性、椿にヴェルフは即座に態度を改めて鬱陶しそうにシッシッと手を振りながら歩みを進める

 

「なんじゃその態度はせっかく久し振りに手前(てまえ)と会えたというのにつれないのぅ」

 

「挨拶はちゃんとしただろ?後着いて来るな、今日はヘファイストス様だけに用があってきたんだよ」

 

「ほうほう、それはその箱の中身と関係があると見ていいのかの?」

 

「だから着いてくんな!!」

 

叫びながら走り出したヴェルフに椿は笑いながら並走してくる。割りと真剣に着いて来て欲しく無いのだが、【ヘファイストス・ファミリア】団長にして第一級冒険者の足を引き剥がす事は叶わず。遂にヘファイストスがいるであろう工房の前まで来てしまった

 

「のうヴェル吉よ、早くその中身を手前に教えぬか、気になってしょうがないじゃろうが」

 

「あぁもう、わかったわかった。ヘファイストス様に見せる時に勝手に見ろ。その代わり他の人間には絶対に言うなよ?」

 

「わかっておる、『最上級鍛冶師(マスター・スミス)』の名に置いて、その箱の中身の情報は漏らさんよ」

 

得意気に笑う彼女に深い溜息を吐いた後、ヴェルフはヘファイストスの工房の扉をゆっくりと開けた

 

その中にはヴェルフと同じ赤色の髪をした女性が、物々しい黒の眼帯とは違う方の瞳をジッと自身の鎚に向けている。

 

「何を腑抜けておる」

 

少し呆れた口調で掛けられた声にヘファイストスは背後を振り向き、ヴェルフの顔を見ると破顔した。

 

「あらヴェルフ、久し振りにね」

 

「はい、お久しぶりです、ヘファイストス様」

 

ヴェルフは椿と話していた声色より幾分柔らかくなった声で挨拶を交わし。早速本題に入ろうと、大股でヘファイストスの元まで歩み寄る

 

「ヘファイストス様、今日は見せたいものが」

 

「会いたかったわ。貴方が魔剣を家族(ファミリア)に使っていると聞いたのだけれど、どういうことかしら?」

 

それから小一時間ぐらい説教が行われたのは言うまでもないだろう。

 

「はぁ、貴方は魔剣が嫌いじゃなかったのかしら、それが練習用の魔剣なんて」

 

「俺は今でも魔剣は嫌いですよ」

 

「どの口がいうか、お主さっきは工房には魔剣を100本ぐらい飾ってあるとか何とか言うとったじゃろうが」

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

「お主性格変わったの」

 

【ヘファイスト・ファミリア】の主神と団長は揃って頭を抱えた

 

「それで、今日はどういった用件でここまで来たの?」

 

「・・・」

 

手に持っている箱を見ながら押し黙ってしまったヴェルフに、二人は怪訝な表情を向ける。長い沈黙の中、先に喋ったのは椿だった

 

「ヴェル吉よ、お主がどれほど凄い魔剣を持って来たか解らんがの。そのように焦らさんでも手前らは一流の鍛冶師(スミス)じゃぞ?驚かんからさっさとみせい」

 

口ではこう言っているが、その表情は目の前にお菓子を置かれた子供のようにキラキラしている。下手くそな挑発をしてくる彼女にヴェルフは逆に挑発し返すように、ニヒルな笑みを浮かべ答えた

 

「魔剣?そんな物じゃねえよ、これは」

 

そう言うとヴェルフは覚悟を決めた瞳で、持ってきた小さな箱を二人の前で開けた。その中には赤黒く光る3つの鉄の塊が納められている

 

「なんじゃこれは?」

 

「なに・・・これ」

 

「主神殿?」

 

拳程の大きさがある鉄の塊に鍛冶神は絶句し、1秒ごとに自分の背中を伝う冷や汗が増えていくのを感じながら、鉄の塊からヴェルフに視線を移した。

 

「ねぇヴェルフ、これはなに?」

 

「これは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】からの帰り道、茜色に染まる町並みをヴェルフは着流しを揺らしながら歩いていく。通りはどこもかしこも賑わっていた。客引きの看板娘や楽器を両手に持つ吟遊詩人、それらを見つめる【ヘスティア・ファミリア】専属鍛冶師の表情は非常に柔らかいものだ。

 

「こんなに早く終わるなら、色について行ったら良かったかもな」

 

あの後、鍛冶神に一通りの説明を終えたヴェルフは「色々考えさせられるから1日待って』という言葉を貰い、予定より早く帰艦することになった。それで微妙に時間が空いてしまい、昨日色に誘われたカジノを断った事を少しだけ後悔する。

 

そして西日に焼かれながら進んでいると

 

『──ヴェルフ』

 

懐かしい声が聞こえた。

 

ぴたっと動き止めたヴェルフは、キョロキョロと周りを見渡した。声が聞こえた路地裏を見ると、薄闇に広がる暗がりに一人の影が浮かんでいる。

 

声をかけようとするが、その影はまるでこちらを誘うよに、道の奥に引っ込んで行き、ヴェルフは一も二もなく追い出した。

 

路地裏の奥の奥。薄暗く、人が寄り付かない場所で、影は黒い外套のフードを脱いだ

 

「久し振りだな、ヴェルフ」

 

年配にも見える中年の男。男性にしては茶色く長い髪を結い、力の無い相貌で自分に振り返ったヒューマンに、追い付いたヴェルフは声をかけた。

 

「やっぱり親父か」

 

目の前の人物は正真正銘、ヴェルフと血の繋がったその人だった。

 

ヴィル・クロッゾ

 

王国(ラキア)に所属する、凋落した鍛冶貴族の現当主だ。

 

「その反応、私が何故お前の前に現れたか解っているようだな」

 

「解っているも何も、お前ら(ラキア)がわざわざ俺に会う目的なんて俺の魔剣以外にあるのかよ?」

 

「ああそうだ。ヴェルフ、我々のために魔剣を打て」

 

今現在行われている戦争の目的が魔剣だということを聞いて、ヴェルフは持っているケースに自然と力を込めた。

 

「言っておくが同伴を拒んだなら、都市に潜入した同志が、魔剣で火を放つ手筈になっている。無論、『クロッゾ』のな」

 

成る程、王国(ラキア)の『クロッゾの魔剣』に対する執着は凄まじいらしい。流石戦好きの神が率いる国だ。

 

「もう一度言うぞ、我々と・・・なんだ、何が可笑しい」

 

ヴェルフは父に言われて初めて、自分が笑っていることに気づいた。右手で自分の笑みを隠しながらウィルに向き直る。

 

「なぁ親父」

 

「なんだ」

 

「お前らは、あの戦争遊戯(ウォーゲーム)を見てまだそんなもの(クロッゾの魔剣)に執着してるのか?」

 

「っ!?」

 

顔を覆い隠す手の隙間から見えるヴェルフの相貌を見てウィルはたじろいだ。その瞳に映るのは激しく燃え盛る炎だ。まるで全てを焼き付くさんとするほどの激情がウィルを呑み込み、言葉を失わせる

 

「明日の日が出る頃に、オセロの密林前に来い。俺の魔剣を見せてやる」

 

話は終わりと言わんばかりに、着流しを靡かせながら帰路につくヴェルフをウィル含めるラキアの者達はただ黙して見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい金属の打撃音が響き、炎の熱で自身の顔を焼かれながらヴェルフは鎚を打ちつける

 

「やっほー、邪魔すんぞ」

 

軽い声で入ってきたのは、【ヘスティア・ファミリア】副団長、黒鐘 色(くろがね しき)だ。

 

「クロか、どうした?」

 

「訓練メニューを描いた紙を探してんだけど、ヴェルフしらね?」

 

「訓練メニュー?すまん、見てないな」

 

色は「そっか」と言いながら、いつも異世界の話をする時に座っている椅子に腰掛けた。そのままヴェルフが鉄を打っている所を見ている事にしたらしい

 

「クロ、そこにある槍使ってみるか?」

 

金属音しか聞こえない工房の中、先に声をかけたのはヴェルフだった。手を止めて指差す方には、銀色に輝く一本の(ランス)が立て掛けられている。

 

「うーん、止めとくわ。もうお前の武器を壊したくないしな」

 

「・・・・すまねぇ」

 

「いや、別にお前が謝ること無いだろ?俺が武器の扱い下手すぎるだけだって」

 

肩をすくめる色が本心で言っているのはわかっていた。それでも打ち付けるハンマーに余計な力が加わるのをヴェルフは自覚する

 

「別に他のファミリアの武器使っても俺は何も言わないぞ?」

 

「そんな事言われてもなぁ。根本的に俺が武器を使えねぇんだから、どのファミリアの武器でも一緒だろ?」

 

「だが・・・いや、何でもねぇ」

 

口を止めたヴェルフは、それ以上何も言わず手を動かす事を再開する。揺らめく炎に今まで壊された武器の数々が見えた気がした

 

最初の武器は剣だった。

 

何か武器を作ってくれないか。という要望に答え、その時最高の武器を作ったつもりだった。その最高の剣は5分後、激しいベクトル操作に着いていけず、ボロボロになって帰って来た。

 

次の武器はこん棒だった。

 

耐久力を重視した武器を貰った色は、遠慮せずに振り回し、モンスターに攻撃した。3発目で真ん中からボキリと折れた。

 

次に渡したのは『アダマンタイト』で作った大盾だった

 

コレならばと渡したそれは、動きづらいそうに戦っている姿を見た時に、自分から返してくれとお願いした。

 

色は自分で武器を使う才能がないと言った。

 

ベル達も色は武器を使う才能がないと言った。

 

しかしヴェルフはそうは思わなかった。

 

刀を持つと腕からすっぽ抜けて壊したり、鎚を持つと雷をノリで纏わして壊したり、弓を持つと玄をベクトル操作で引きすぎて壊したり。その後も様々な武器を壊されたが、ヴェルフは色が武器を使えないとは思わない。

 

何故ならアイツの雷は変幻自在に遠方の敵を撃ち抜き、アイツのスキルは応用の幅を利かせて最強の矛にも盾にもなるのだから。

 

色は武器を使えないんじゃない、武器を使う必要がないのだ。

 

だからこそ俺は・・・

 

「おいヴェルフ、聞いてんのか?」

 

「あ、あぁ。すまん、ボーとしていた、何だって?」

 

「だから、今日は何で女子が帰ってこないんだろうな、て話だったんだけど。鍛冶場でボーとするなんてお前らしくないぞ、大丈夫か?」

 

心配そうに見てくる色にヴェルフは立ち上がり、明日が早いので寝ることを伝えた。

 

「はぁ、お前も明日用事あんのな、リリ達もなんかバタバタしてるし、ベルも明日は忙しいと思うし、俺午後から暇なんだが」

 

「ベルが忙しいのは、お前がカジノでやらかした後処理があるからだろ?」

 

「ばっかお前、あれは必要な事なんだって。ベルだってノリノリだったしな」

 

「それでもベルはギルド、お前はデートだろ?ベルの奴、可愛そうに」

 

「ウッ、だってしょうがねぇじゃん。Lv.4の冒険者が隣に居たんだぜ?俺も【食蜂操祈(メンタルアウト)】がバレないように過剰にスキンシップをしたり誤魔化すので必死で、明日だって勘づかれてないかの確認の為にだな」

 

身ぶり手振り説明してくる色に、冗談だと笑いかけたヴェルフは、そのまま自室に戻ることにする。

 

部屋の中には巨大なバックパックが用意されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、日の出る前にヴェルフが指定した『オセロの森林』前の草原にウィル・クロッゾは立っていた。勿論森林の中には多数のラキア兵が控えている

 

「来たかヴェルフ」

 

「待たせたな、親父」

 

草原を貫く人工道を歩いてきたヴェルフは片腕を上げ、なんでもないようにウィルの前に近づいて来る。その背には魔剣が入っていると思われるバックパックが背負われていた

 

「約束の物は持ってきたのか。それではそれを」

 

「まぁまてよ。久し振りの親子の再開だ、一杯付き合え、そこに隠れている爺もな」

 

何もない草の上に胡座をかいたヴェルフはバックパックから酒とつまみの肴を取りだし、密林の方に眼を向けた。少しの間があったが、密林から白い髭に白い髪の男、ヴェルフの祖父、ガロン・クロッゾが厳めしい顔付きのままヴェルフの方に歩いてくる。

 

「どうしてわかった?」

 

「どうしてって言われてもな。俺の所属しているファミリアに入ると、どうしても気配に対して鋭くなるんだよ。まぁそう言うことも含めて話そうぜ、俺の家族(ファミリア)が買ってきた酒だ、旨いぞ」

「お前、ふざけているのか?」

 

我慢ならない、といった風に睨み付けるウィルにヴェルフは一言だけ

 

「いいから、座れ」

 

と言った。

 

その言葉に二人は渋々と言った風にヴェルフの両隣に腰掛けた、その背に大量の冷や汗を流しながら。

 

 

 

 

 

 

 

「親父、爺。俺はアンタ達に聞きたいことがあるんだ」

 

「なんだ」

 

「アンタ達はどうして鍛冶師になろうと思ったんだ?」

 

最初の質問はこんな会話から始まった。ウィルはそれに

 

「勿論、鍛冶貴族の栄光を取り戻すためだ」

 

と答えた、ガロンも同じような答えだ。それを聞いたヴェルフは、その答えを解っていたかのように「そうか」と言い、その後も次々と質問をしていった。質問の内容は大体は鍛冶に関するものばかりだ。火の調整、鉄の具合、加工の仕方、道具の選び方、基礎的なものから専門的なものまで質問していくヴェルフに、ウィルとガロンは酒が回ってきたのか、次第に饒舌に話していく。

 

「ヴェルフ、お前はもっといろんな事を知るべきだな!ワシが若い頃なんて、世界中巡り巡って修行したもんだ!」

 

「え、そうなのか?でも俺だってヘファイストス様の元でそれなりの経験をだな」

 

「馬鹿だなお前は。いいか?たった一人に習うんじゃなくてだな、色んな職人から良い所だけを盗むんだ、なぁ父上!」

 

「がははは!!そう言うことだ。でもなヴェルフ、鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、鎚に思いを乗せろ!!肝心のコレだけは忘れるなよ、これさえあれば・・・そうだな、この思いさえあれば」

 

次第に酔っ払って大きくなっていた声量が小さくなってきた事を感じたヴェルフは空を見上げた、快晴な青空は雲一つ無く晴れ渡っている

 

「親父、爺。アンタ達はどうして鍛冶師になろうと思ったんだ?」

 

「「・・・」」

 

再度された質問に二人は押し黙った。長い沈黙の後、酒の入ったコップを煽ったウィルは立ち上がり、ヴェルフを見下ろした

 

「最初はな、良かったんだ。例え魔剣が打てなくても私には鎚を振るえる手が、鉄を掴める手があるだろうと。そう思い鍛冶師となり、鉄を打ち始めた。そう思っていたのだがな」

 

そこからポツポツとウィルは誰かに語りかけるように自身の思いをヴェルフに教えた。自分が真摯に武器と語り合ってきた、ヴェルフが魔剣を打てると発覚するまでの鍛冶師の誇りを

 

「だけどな、私達には魔剣が必要なのだ。確かにお前が言うように、魔剣は使い手を残して砕けていく、時に絶大な力で人を腐らせるだろう、それでも、それでもっ!!」

 

「やめろウィル」

 

「父上、しかし!!」

 

「ならばそんな顔をするな」

 

「っ!?」

 

悲痛に歪められた顔を片手で覆い隠すウィルは崩れ落ちるように腰掛けた。

 

わかっていた。ヴェルフがどんな気持ちで自分達から背を向けたのか、どうして魔剣を打たなくなったのか。

 

ただ怖かったのだ、それを認めてしまえば一生没落した鍛冶貴族として蔑まれる事が、鍛冶貴族として今一度、成り上がれる為の魔剣(道具)を失う事が何よりも怖かった。

 

「なぁ親父」

 

「なんだ」

 

視線を上げるとヴェルフは、いつの間にか自身の足元に置いた一本の魔剣を見つめている。

 

「『クロッゾの魔剣』っていうのは、そんなに凄い物なのか?」

 

「どういう、事だ」

 

口を開いたのはヴェルフの祖父のガロンだった。ウィルは何を言われたか解らないという風にヴェルフを見つめている

 

「知ってるか?アイツは初めて使う魔法でこれ(魔剣)を越える威力を叩き出しやがった」

 

思い出すのは黒いゴライアスとの戦い、自分が危険だと、人を腐らせる力だと、ずっと思っていた魔剣を優に越える稲妻の光

 

「知ってるか?アイツはこれ(魔剣)を受けて平然としていやがった!」

 

思い出すのは【アポロン・ファミリア】との戦い、使った魔剣はたったの一本、自身の打ち出した高威力のそれを受けたアイツは一言だけ「熱い」と言い残した

「知っているか?アイツの世界にはこんなもの(クロッゾの魔剣)なんかより凄まじい武器が蔓延っているんだ!!」

 

思い出すのは工房での会話、アイツの国に撃ち込まれた武器はオラリオを丸々飲み込める程の威力があると、それすらも越える武器があると。

 

その時に言われたのだ

 

「それに比べるとお前の魔剣なんて大したことないぜ」と

 

恐らく魔剣が嫌いと言ったから気を使った言葉なのだろう、だが

 

「おい、落ち着けヴェルフ!!」

 

「うるせぇ!!お前らに何が解る!?普通の武器しか作れないお前らに何がッ!!」

 

思い出すのはベル達と一緒にダンジョンに入ってから今までの記憶。

 

「何が冒険者を腐らせるだ!何が鍛冶師の誇りだ!!何が呪われた鍛冶貴族だ!!!そんなもの(クロッゾの魔剣)をいくら作ってもアイツ(黒鐘 色)に一歩たりとも追い付いてねぇじゃねぇか!!!」

 

最初は【御坂美琴(エレクトロマスター)】を越える魔剣を作りたいと、作らないといけないと思ったのが切欠だった。そうして作られた魔剣は今までの、どの魔剣よりも遥かに高い威力を誇ってた。しかし呆気なく【一方通行(アクセラレータ)】の前に敗北し、更にそれを越えようと躍起になって魔剣を打っていた所に、国一つ滅ぼせる武器の事を色から聞かされたのだ。

 

ヴェルフは思った、自分は馬鹿だと。大海を知らない蛙だと。

 

人知れず心の中で茫然自失としていると遂にその時がやって来た。

 

ゴライアス五体同時討伐、その時に使用された魔剣は0本。それ以降ダンジョンで魔剣をモンスターに使用されたことは一度も無い。

 

何故使わないのか理由を聞くと経験値(エクセリア)にならないから、らしい。ふざけた理由だが実際に正しいのだろう、何故ならそれを話した小人族(パルゥム)の少女は軽々と魔剣を越える一撃を放っていたのだから

 

「俺は魔剣が嫌いだ、大っ嫌いだ!!そして何よりもこんな中途半端な糞みたいな武器しか作れない俺が嫌いだ、アイツに満足な武器を作れない俺が嫌いだ!あのファミリアで魔剣しか取り柄がない俺自身が大嫌いだ!!!」

 

ヴェルフは今までの激情を吐き出した。

 

重圧魔法を操り、敵味方の索的が可能な命

 

怪力乱神(スパイラル・パワー)】を手にしてから見違えるど強くなったリリ

 

Lv.2の攻撃を軽々と避けるセンスにレアスキル(ウチデノコヅチ)を持っている春姫

 

【ステイタス】の限界を越えるベル

 

そして、数々のチートスキルや魔法を有する黒鐘 色

 

その異常者達の集まりの中で、自身だけが追い付いていないのだ。それこそ重力魔剣を使い、無理やり鍛えようとしたりもしたが、焼け石に水のような効果しか得られず、追い討ちをかけるように【ヘスティア・ファミリア】は魔剣を一切使わなくなった。

 

ヴェルフは考えた、どうやればアイツらに並べるのか。どうやれば中途半端な力(クロッゾの魔剣)を超えられるのか。

 

いつか必ずでは駄目なのだ、時間が足りない、モタモタしていると、アイツらは階段を何段も飛ばして上に進んで行くのだから。

 

「親父、爺。見てくれ、これが俺の答えだ」

 

「なんだ、これは」

 

「・・・・・・」

 

ヴェルフがバックパックから取り出したのは拳程の大きさがある鉄の塊と黒い筒のようなものだった。先が尖った円錐形の赤黒色に鈍く光る鉄の塊を持ったヴェルフは説明を始める

 

「これは俺が新しく打った魔剣。いや、魔弾だ」

 

「魔弾?」

 

聞き返したウィルは不思議そうに鉄の塊を見つめた。どうやっても、これを武器として使う姿が想像出来ない。

 

「ヴェルフ、これは魔剣の塊だな?」

 

「な!?」

 

「流石に爺は気づいたか。そうだ、この魔弾は俺のスキルを最大限使用し、複数の魔剣を合成させた、この世界でたった一つの俺だけの武器だ」

 

 

言葉を失う二人にヴェルフは嬉しそうに頬をつり上げながら説明を続ける。

 

「だがな、この魔弾だけじゃ使えねぇんだ。もう一つ必要なのは、こっち黒い筒、『炎刀・虚空(えんとう こくう)』だ」

 

色は始めてこの武器を見た時にこう言った

 

「バズーカじゃねぇか」と

 

説明しながらもヴェルフの手は止まらない、魔弾を『炎刀・虚空(えんとう こくう)』に詰め込み、密林に向かって構えた。

 

「これに魔弾を入れて・・・しっかり狙いを定めるんだ。そして引き金を引き、撃ち出す」

 

瞬間、『炎刀・虚空(えんとう こくう)』から一直線に緋色の光が迸り、森林に破壊がもたらされた。いや、破壊など生易しい表現だ。半径3M程の赤光は不気味なほど綺麗に、文字通り一直線に森林を消滅さしている。

 

これを初めて見た色はこう言った

 

「ビームじゃねぇか」と

 

「「・・・・・・・」」

 

「ふぅ、まぁこんなもんだ。本当はもっと小型化する予定だったんだかな、今の俺の鍛冶アビリティじゃ難しいらしい。うん?どうした二人とも?」

 

隣を綺麗にされたラキア兵がガタガタ震えているのを横目に、ウィルとガロンの二人は思った。

 

こいつを怒らしてはイケナイ

 

「今日はいいものを見せてもらった。それじゃあ帰ろうか息子よ」

 

「そうだな父上、それでは達者でなヴェルフ!!」

 

「はぁ!?おい、ちょっとまてよ、親父!爺!!」

 

一目散に逃げていくウィルとガロンを見送ったヴェルフは密林で震えているラキア兵に視線を移した

 

「・・・バァン!!」

 

「「「「「すいませんでした!!!」」」」」

 

その日以降ヴェルフの前にラキア兵が現れることはなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見せてもらったわよ、ヴェルフ」

 

ヴェルフがしばらく草原で一人酒を煽っていると、ヘファイストスが後方から近づいてきた。

 

「凄まじい威力の武器ね、セオロの密林がボロボロだわ」

 

ヘファイストスが言うように目の前の密林は直線上に穴を開けられボロボロだった。それでも巻き込まれた人間はいない筈だ。その為にヘファイストスに話を着けてから来たのだから。

 

「色が言うにはこういう武器は兵器って呼ぶらしいですよ」

 

「兵器?」

 

聞き返してくるヘファイストスにヴェルフ顔を合わさず、前を向きながら答えた。

 

「誰でも使える武器の事をそう言うらしいです。アイツの国の兵器なら赤ん坊でも何千人の人間を殺せるなんて事を言ってました」

 

「・・・そう」

 

そんな馬鹿みたいな話が有るものか、と言う人間は神も含めて大多数いるだろう。例え、ヘファイストスであっても密林の惨状を見ていなければ信じられなかったかもしれない。それが嘘ではない解っていたとしてもだ。

 

「俺は魔剣が嫌いです」

「知ってるわ」

 

「だけど、アイツらに追い付く為には、どうしてもこいつと(クロッゾの魔剣)向き合わないといけなかった」

「うん」

 

「そうして、何本も魔剣を打っていて気づいたんです」

 

「なにを?」

 

「その剣を見せてもらっていいですか?」

 

そこでヴェルフは振り返り、ヘファイストスと視線を合わせた。彼女の両手にはそう言われるのが解っていたかの様に、一振りの剣が握られている

 

それは鍛冶神の派閥(ヘファイストス・ファミリア)入団の儀に見せられる剣だ。嘗て己の全身を震わした究極の一を見て、今のヴェルフ・クロッゾは呟いた

 

「・・・・こんなものか」

 

落胆でもなく歓喜でもない。至高に通ずる作品だった物に浮かんだその感情を受け止め、飲み込む様に瞳を閉じた。ヘファイストスはそんなヴェルフを何も言わずに見つめている

 

「俺は魔剣を超える魔剣を作る。アイツ(黒鐘 色)を超える魔剣を作りたい、そう思ってしまったんだ。その為にはまず」

 

「ッ!?」

 

再び合わさった目線の先に有ったものは、迸る炎の塊だ、今まで見たことの無い程の激熱に見つめられ、鍛冶神(ヘファイストス)は初めて全身が焼けるような感覚を覚えた

 

「アンタを超える」

 

「・・・・・・ぁぅ」

 

その意味を理解するのに掛かった時間は数秒だろうか。

 

仕方の無いことだ。だってここまでハッキリと自分を超えると言われたのは初めてなのだから。

 

そして恐らく近いうちに、その言葉は現実となるだろう。だって彼はもう取っ掛かりを掴んでいるのだから。

 

更に、その言葉に込められた思いは彼女の先の先を見据えている事も感じている。彼はこう言っているのだ。鍛冶神(ヘファイストス)など、ただの通過点に過ぎないと

 

「えっと、あの?ヘファイストス様?」

 

「ご、ごめんなさい。今は少しだけ放っておいて」

 

「は、はい」

 

耳まで真っ赤にした彼女は、剣を持っていない方の手で自身の火照った顔を覆い隠し、涙目でヴェルフから顔を反らした。

 

思ってしまった。理解してしまった。彼と一緒に武器を作ってみたいと、彼の隣でその行く末を見届けたいと。

 

簡単に言うと彼女はヴェルフに堕ちてしまった

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ。そうよヴェルフ、良かったら今から一緒に工房に来ない?」

 

「え?行きませんけど」

 

「はぅ!?な、何で?私じゃ駄目なの?やっぱり年上は嫌い?それとも他に好きな子が!?」

 

「え、ちょっ、近い、近いですよヘファイストス様!?」

 

「いいじゃない、私とヴェルフの仲でしょ?もっと近くに」

 

「まって下さい!む、迎えが、迎えが来てるので!?」

 

ヘファイストスは真っ赤な顔で抱き着こうとし、ヴェルフは真っ赤な顔で避け続ける。

 

「ふーん、非常時に女とイチャつくなんていい度胸じゃん、ヴェルフ?」

 

そんなヴェルフとヘファイストスの桃色空間を引き裂いたのは空から飛来してきた一羽の鴉、時間は午後を少しだけ過ぎた辺りだ。

 




次回は女の子達は何をしていたのか書こうと思います。

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