ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか   作:しろちゃん

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超短編


第19話 ミコトが斬る!

一目で和風と分かる室内で一人の少女が目を覚ました

 

「ふぁぁ」

 

体起こし、テキパキと布団を箪笥に片づけ、寝間着から私服に着替えた少女、ヤマト・命は畳を敷いてある自室から出て、下の厨房に喉を潤しに向かった

 

「おはよう命君、今日は何時もより早いね?」

 

「おはようございます、ヘスティア様。偶々、早く起きてしまって、よかったら飲み物をいただけますか?」

 

「いいよ、命君は麦茶でよかったかな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

厨房で朝食の準備をしていたエプロン姿のヘスティアに程よく冷やされた麦茶を渡されて飲んでいると

 

「ついでに色君の部屋にも、これを持って行ってくれないかな?」

 

麦茶の入ったコップを二つ渡された

 

「二つ、ですか?」

 

「うん、昨日からぶっ通しだったと思うから、今朝は喉カラカラだと思うんだ、っと魚焼いてたんだった、それじゃあ任せたぜ」

 

「はぁ、解りました」

 

ヘスティアから麦茶を乗せられたお盆を困惑しながら受け取った命は、あと一つは誰の物なのか疑問を抱きながら色の自室に向かった

 

コンコン

 

「色殿、入ってもよろしいですか?」

 

返事が無い、まだ寝ているのだろうか。そう思いながら命がドアノブに手を掛けようする前に、ドアが内側から開けられて、中の人物か出て来た

 

「あ、おはようございます命様」

 

パタン

 

命はとりあえず混乱しない様に扉を閉め、まず誰の部屋かを確認する。どう見ても色の部屋だ

 

ガチャ

 

「どうしたのですか?・・・まぁそれは、色様の言う通りでした、本当に飲み物を」

 

パタン

 

まて、混乱するな、頭を冷やせ、そうだ、とりあえずここにある麦茶を飲もう

 

ガチャ

 

「おはよう命ちゃん、お茶ありがと、ヘスティアに礼言っといて」

 

パタン

 

扉の前に呆然と立っているヤマト・命から、お盆を受け取った色は、そう言って春姫と一緒に部屋の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳なんですよリリ殿!!」

 

「はぁ」

 

命は早朝訓練が終わってすぐ、庭に残って大槌を振っているリリに、春姫が色の部屋にいた件について相談した。しかしリリは興味無さそうに大槌の点検をしている

 

「はぁ、じゃなくて、もっと真剣に答えてください!?」

 

「真剣にって言われましても、リリだって少し前は色様の部屋によく泊まってましたよ」

 

「・・・は?」

 

石の様に固まった命に、巨大な大槌を片手でブンブンと振り回すリリが言葉を続ける

 

「あぁ、でも相手が春姫さんとなると夢中にならない様に言っといた方がいいかもですね・・・うーん、やっぱり重さがイマイチ、今度ヴェルフさんに倍ぐらいに出来ないか相談しましょう。あれ、命さん?」

 

 

 

「ヴェ、ヴェルフ殿!!」

 

「ん?どうした、武器の点検か?」

 

顔を青くしながら命が向かった先はヴェルフの工房だった、中に入り息も絶え絶えにヴェルフに詰め寄る

 

「はぁ・・・はぁ、リ、リリ殿と春姫殿が・・・」

 

「あの二人がどうした?」

 

「よ、夜中に・・・し、色殿と」

 

「あぁ、それなら昨日クロから聞いたぞ?」

 

「なッ!?」

 

絶句した命を気にする素振りも無く、ヴェルフは続ける

 

「それにしてもリリスケも行ったのか、俺も混ぜてくれたらよかったのにな」

 

後ずさるしかなかった、脳の処理が追いつく前に

 

「まぁ、俺も少し前は工房で何度も」

 

ここからでなければ・・・

 

「わああああああああああああ!!!!」

 

「お、おい!・・・何だったんだ、いったい?」

 

 

 

 

 

命は走った、全力で走った、目指すのは白髪の少年。純粋無垢な彼ならば、きっと自分の思いを解ってくれるだろう

 

「神様、春姫さんの様子はどうでしたか?」

 

「!?」

 

何故か咄嗟に隠れてしまったが、春姫殿の話をしているのなら丁度いい。命は隠れていた曲がり角から身を乗り出そうとし、続けられた会話に今日最大の衝撃を味わう事になる

 

「早朝訓練が終わった後にグッスリだ」

 

「やっぱりそうでしたか。昔は僕も神様も朝になるまでずっとしてましたからね」

 

「そうだったね、色君が上手なもんだから3人とも寝れずに、いつの間にか朝になってたのはいい思い出だよ」

 

命は鐘楼の館から飛び出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タケミカヅチ様ぁ!?」

 

「お、おぉ?命か、どうした?」

 

命が向かった先は【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠(ホーム)だった。今日は他の団員はダンジョンに向かっているのか中にはタケミカヅチしかいない

 

「タケミカヅチ様にき、聞きたいことがあるのですが!!」

 

「な、何だ命、そんなに焦らなくてもちゃんと聞いてやるぞ?」

 

「は、はいその・・・だ、男女の営みについてです!!」

 

「!?」

 

驚愕するタケミカヅチに顔を真っ赤に染めた命は今朝の事を全部話した、そして自分はどうすればいいか、どう受け止めればいいのか。その答えをタケミカヅチに訪ねたのだ。

 

「う、うむ。そうか、色君が、英雄色を好むと言うが・・・」

 

「そ、それで、自分はどうすれば」

 

「そうだな、よし。実は今日、色君と将棋を指す約束をしていてな、その時にそれとなく真意を聞いてみよう」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ、安心して俺に任せておけ!!」

 

「はい!!」

 

元気よく返事をした命にタケミカヅチは勢いよく親指を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぃっす、来ましたよ、タケミカヅチさん」

 

「おぉ、来たか色君、まぁ腰かけたまえ」

 

そう言いながらタケミカヅチはワザとらしく、命が隠れている箪笥の傍まで誘導し、将棋盤を置いて見せた

 

「今日はえらく端っこでやるんですね?」

 

「そ、そうか?まぁそんな細かい事はどうでもよいではないか、どれ、甘味の一つでも持って来よう」

 

「え?いやそんな気遣ってもらわなくても・・・」

 

何とか話を逸らしたタケミカヅチは二人分の大福とお茶を乗せたお盆を将棋盤の傍に置き、将棋を指し始めた。あまり大きいとは言えない部屋に、二人の声と将棋を指す音だけが響いている

 

パチン

 

「その、色君。君に聞きたいことがあるのだが」

 

パチン

 

「聞きたい事ですか?」

 

パチン

 

「何だ、春姫の事をどう思っている?」

 

「ブッ!?」

 

命は慌てて口元を抑えた、さりげなくとは何だったのか、あまりにも直球過ぎる

 

「春姫ちゃんですか?そうですね、最初の方はよくケンカしてたんですけど。最近はかなり仲いいですよ」

 

「そ、そうか、仲がいいのか。所で風の噂で聞いたのだがな、色君は他のファミリア(ベル達)とも仲がいいのだとか」

 

直球過ぎますよ、タケミカヅチ様!?

 

他のファミリア(イシュタルファミリア)とですか?確かに仲がいいですけど、主神(イシュタル)がベタベタしてくるのはどうにかした方がいいですよね」

 

「「!?」」

 

「ま、まて、主神(ヘスティア)がベタベタして来るのか?」

 

「はい、主神(イシュタル)がベタベタして来るんです」

 

ヘスティアはベル一筋だと思っていた二人は驚愕に顔を染めた

 

「そ、そうか。それで色君の本命は誰なんだ?」

 

「本命?どういうことですか?」

 

「色君」

 

タケミカヅチは将棋駒から手を離し、色の肩をきつく掴んだ

 

「タ、タケミカヅチさん?」

 

「男なら、必ずしも心の中に自分がこれと決めた者がいるものだ、それを聞かせてくれ」

 

「・・・」

 

それを聞いた色はしばらく手を顎に当て考え込んだ後「成程、そう言う事ですか」と呟くと、目の色を変えてタケミカヅチの事を真っ直ぐ見据えた

 

「そんなの決まってるじゃないですか」

 

人差し指をピンと立てた色に、ゴクリとタケミカヅチは喉を鳴らし、言葉の続きを待った。命も緊張した面持ちで箪笥の扉に耳を傾けている

 

「フレイヤただ一人です」

 

タケミカヅチと命は気が遠くなるような感覚がした

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん命。あの美の女神に魅入られてるのなら、俺ではもうどうしょうもない」

 

夕食を食べ終えた命は空になった食器をぼーと眺めながらケミカヅチに掛けられた言葉を思い出して溜息を吐いた

 

「はぁ、自分はどうすれば」

 

「どうしたの、命ちゃん?」

 

「しかし、これは自分が間に入っていい問題なのだろうか」

 

「?まぁいいや。命ちゃん、今夜俺の部屋に来てもらっていい?」

 

「はい、わかりました」

 

ん?ちょっと待て、今自分は何を言われてなんて返した?

 

「サンキュ、じゃあ待ってるからね」

 

「ちがっ、色殿!?」

 

自分の部屋に戻ろうとする色に手を伸ばすが、反対側から服を掴まれる

 

「駄目ですよ命様、休息日は食器を自分で片づけるって決めたじゃありませんか」

 

「待って下さい春姫殿!?今はそれどころじゃ」

 

「駄目です。もぅ、色様だって片づけてるのに命ちゃんもしっかりしなきゃダメだよ?」

 

命は涙目になりながら、意外と力値が上がっている春姫にズルズルと厨房に引きずられた

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

緊張した面持ちで命は色の部屋の扉を叩いた。結局、義理堅い彼女は約束を破る事が出来なかったのだ

 

「はいはいって、何で帯刀してるの?」

 

勿論自分の貞操を守る為に最低限の装備をしている

 

「こ、これはその、実は刀が傍にないと落ち着かなくて」

 

「ふーん、まぁいいか、とりあえず中に入ってよ」

 

そう言って部屋の中に入っていく色に、命は腰の虎徹に手を掛けながら続いた

 

「そ、それでどのようなご用件でございましょうか?」

 

「そうそう、実は昨日春姫ちゃんに言われてさ」

 

「は、春姫殿に?」

 

嫌な予感がした命は声を震わしながら聞き返した

 

「うん、いくら【タケミカヅチ・ファミリア】に戻るからって命ちゃんも仲間はずれはダメって」

 

何言ってんですか、春姫殿ぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!

 

「だから命ちゃん」

 

ヒュンっと命は目をグルグルさせながら抜刀した虎徹を色の眼前に突き付けた

 

「え、ど、どうしたの?」

 

「じ、自分には既に心に決めた方がおられます!!たとえ色殿であろうと、この純血、捧げる訳には行きません!!覚悟ぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「はぁ!?」

 

こうして、命の命を懸けた死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、命様。昨日は色様とお楽しみだったのですか?」

 

「おはようございます春姫殿、えぇ、とても貴重な体験が出来ました」

 

春姫に挨拶を受けた命は眠たそうに目を擦りながら答えた

 

「まぁ、それは良かったです、それで、どんなお話を聞かされたのですか?」

 

「はい、金髪青瞳の忍びの成長物語を」

 

「成程、(わたくし)は空賊の少年と武器に変身できる少女の物語なのですが」

 

二人の会話を遠くで聞きながら、色は何事も無かったかのようにヘスティアと将棋を指している

 

パチン

 

「うーん、やっぱりヘスティアは強いなタケミカヅチさんも結構強かったけどそれ以上だ」

 

パチン

 

「色君の方こそ二日連続で夜更かししてるんだから、少しは弱体化したらどうだい?」

 

パチン

 

「はっはっはっ、現代日本人の俺にはこれぐらいどうってこと無いのだ」

 

パチン

 

「うっ、相変わらずイヤらしい所に・・・それで、命くんに異世界の事は全部話したのかい?」

 

・・・パチン

 

「うん、何か色々あったけど全部話した。驚いてたけど信じて貰えたし、最後は俺の世界の話に凄く食いついてた」

 

パチン

 

「色君は話し上手だからねぇ、昔は三人とも朝まで話し込んで悲惨な目にあったりしたよね」

 

「あったあった、遅刻してリリにめっちゃ怒られたよなぁ」

 

「そのリリ君も、この前は色君の話を朝まで聞いてたけどね」

 

鐘楼の館に小さな鐘の音と二人の笑い声が響き渡った

 

 

こうして【ヘスティア・ファミリア】の平和な日々が続いて行く・・・

 

 

 




勘違い物を1回は書きたいなぁと思って書いたらこんな様である。


次回から8巻突入、色とヴェルフとベルの話を中心にしていく予定です。

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