ダンジョンをとあるチート持ちが攻略するのは間違っているのだろうか 作:しろちゃん
とある方向から鐘の音が鳴り響いた。
広大な外壁に、一つだけしかないこじんまりとした門、その奥に佇むな建物の外観は正に教会と言っていい程に白く、清楚な雰囲気に包まれている。
しかしそれは一階、
そして 、白と黒が入り乱れている外観の三階は、神ヘスティアのために作られた、大量の本棚が置かれている図書室。
最後に館の名前の所以、屋根にある巨大な白と黒の、二つの釣鐘
ただいま建築中の【ヘスティア・ファミリア】の
自身に宛がわれた、今だ本が置かれていない、本棚ばかりの読書ルームで、一人何かを書いているヘスティアは一段落したのか、腕を伸ばしながら背もたれに寄りかかった
「うーん、出来たー。散々迷ったけど、やっぱこれでいいや、いや、これがいい」
書き終えた一枚の羊皮紙を満足げに見ていると、まだ建設途中のこの館に入って来た人物が、これから自分の聖域となるだろう場所の扉を荒々しく開けた
「ヘスティアァ!」
「ひぅっ!?」
勢いよく開けられた扉に驚き、固まっている主神に、黒鐘 色は怒りの形相で睨みつける
「ななななんだい色君、ど、どうしたんだい?」
「どうしたんだい、じゃねぇよ!これ見てみろ」
そう言って机に叩きつけられた情報誌にはこう書かれていた
『【ヘスティア・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】に圧倒的勝利!!立役者は、【リトル・ルーキー】ベル・クラネルと他者を寄せ付けない圧倒的速度でLv.3まで上り詰めた、【
「なぁ、ヘスティア。昨日の
「い、いやでもほら、変える事には成功して「なんも成功してねぇよッ!?」ひぃっ!!」
「言ったよな!!あんだけ圧倒的に勝利したボクの
「ししし仕方ないじゃ無いか!?ボクだってフレイヤがここまで食いついて来るとは思わなかったんだよ!」
「フレイヤって誰だよ!?そいつか!そいつが俺の二つ名をカオスな事にしている張本人か!!よしッ今から抗議に行ってやる!!」
「ま、待つんだ色君!それはまずい、ちょっ、まっ、話、話を聞くんだ色君!?」
抱き着きながら引きずられているヘスティアは必死になって声を荒げた
「離せヘスティア!どんな奴かは知らんが一発ガツンと言って来てやる!!」
「駄目だ駄目だ、いくら色君でもフレイヤの所は駄目だ!あのファミリアはオラリオで1,2を争うファミリアなんだぞ!!」」
「はぁ!?なんだそれ!?じゃあ何か?俺の二つ名はこのままずっと、【
「そうだよ!!少なくともボク達がオラリオで一番強い勢力にならない限りは、君の二つ名はずっと、【
ぜぇぜぇ、はぁはぁ、と声を荒げた二人は肩で息をしながらお互い下を向いている
「なんだそれ、何でこんな中二病、セカンドルーキーとかでよかったじゃん、一番強いファミリアって・・・」
「色君は
顔を上げたヘスティアは色の目の前に一枚の羊皮紙を広げた
「これは?」
「ボク達の【ファミリア】のエンブレムさ!迷いに迷ってようやく完成したんだぜ!」
見せつけられたエンブレムを見ながら色は苦笑いした
「どうだいどうだい!カッコいいだろ!!」
「うーん、なんていうか、あれだな、凄く俺達っぽい」
ヘスティアが待つ羊皮紙には白と黒の二つの鐘、それを包み込むように後ろで揺らめく炎が刻まれていた。
皆さんおはようございます。リリはリリルカ・アーデと言います。今日は【ヘスティア・ファミリア】の日常風景を紹介したいと思います。
まず皆様、朝はかなり早く起きます、ていうか鐘の音によって起こされます。理由は色様が言い出した早朝訓練を行う為です。強制的に起こされ、目を擦りながら割と大きな庭の方に行き、まずは準備運動から始めます。
「♪♪♪♪♪」
色様が持っているスマホという道具から軽快な音楽と準備運動の指示をする声が流れ、それに従い体を動かしていきます。しかし何度見てもスマホと言う道具は不思議ですね、色様の世界の物らしいのですが、《魔法》で充電?をする事で動くらしいです。色様の世界では電属性の魔法が多様されているのでしょうか?
さて準備運動が終わりました。ここから先は本格的な訓練の時間です。訓練の内容は、腕立て100回、腹筋100回、背筋100回、スクワット100回、ダッシュ50
そしてそれを行っている現在のリリは・・・
死にかけています
「あがががががががが」
もう一度言います。死にかけています!!
さて、どうして死にかけているかと言いますと、その訓練の最後に、この一言が付け加えられるからです。
ヤマト・命の【フツノミタマ】を受けながら
これを考えた人は馬鹿じゃないんですかね!!つまり色様は馬鹿ですね!!知ってましたよこん畜生!
勿論、Lv.1のリリがLv.2の命様の《魔法》に耐えられるわけも無く、気を失って死なない様に、必死に手足をジタバタさせているのがこの訓練の風景です。
地獄です。
それでも首ぐらいは回せるので、せっかくですし皆様の様子を見てみようと思います。
「うぐぐぐぐぐぐ!!」
まず、ヴェルフ様はリリと違ってLv.2なので何とか体を動かせているみたいですね、それでも滴る汗の量からかなり無理をしているご様子、一回一回腕立てするのもしんどそうです。
まぁリリは腕立てなんて出来ないですし、しんどそう、というより死にそうですけどね!!
次に命様を見てみましょう
「ぐぅぅぅぅぅぅ!!」
必死です、必死に《魔法》を発動させています。もうかれこれ15分ぐらいになりますが、全力で【フツノミタマ】を発動させ続けるのはキツイ見たいですね。足元に精神力が切れかけた時用の
因みにリリの目の前にも救済措置のために
さて、最後にベル様と色様を見てみましょう
「うおおおおおおお!!!」
「ああああああああ!!!」
もうスクワットまでいっています、速いです。ていうか色様は《スキル》を使うのは卑怯なんじゃないでしょうか?本人は《魔法》以外の
「命さん!ちょっと威力落ちてきてますよ!!」
「は、はい!すみません!!」
あ、ベル様が余計な事を言ってしまいましたので体にかかる重力が増しました、体が潰れる前に
「リリは・・・ここまで・・・らしい・・・です・・・ガクッ」
リリが最後に見たのはスクワットを終えて走り去っていくベル様と色様の靴の裏でした
「ぜぇ・・・はぁ・・・」
「お、お疲れさまだね、サポーター君」
早朝訓練を何とか生き残ったリリはヘスティア様から貰った、程よく冷やされた水を一気に飲み干しました
「ング・・ング・・ぷはぁ・・・そ、そろそろ死にます、リリは死んでしまいますぅ」
そう言いながら一階にある大広間の、やたらと大きい机に突っ伏します、あぁひんやりしていて気持ちいい
「えーと、朝ご飯はどうするんだい?」
「はぁ、はぁ・・・あ、後でいただくのでお弁当にしてもらっていいですか?」
「了解したよ、ベル君と色君はどうする?」
「今食べます!」
「今食べる!」
ヘスティア様が早朝訓練をしている時に、何時も作ってくれている朝食を二人は美味しそうに食べています。ちょっとムカつきます。
因みにヴェルフ様はリリ同様机に突っ伏し、命様に至っては
・・ピク・・・ピク
リリより死にかけています。全力で《魔法》を使うという事は全力で走るのと同義ですからね、いくら
「それにしてもサポーター君も大分成長したよね、最初の方は今の命君みたいにソファーに倒れて痙攣するだけだったのに」
「ああ、そうですね・・・だって成長しないと成長した命様に殺されますから・・・・ふふふ」
そうなんですよ、この訓練のエゲツない所はこっちが少しでも
意味がわかりません。
しかし、この訓練を始めた頃はリリも抗議しましたよ?こんなの人間の所業じゃない!って。でも更新された【ステイタス】を見たら何も言えなくなりました。
だってもう滅茶苦茶上がってたんですよ、色様は異世界の物語でやっている修行法とか言ってましたけど、その物語の主人公、星を破壊できる程に強くなってるんですよね・・・リリ達もそれぐらい強くなったらどうしましょうか?
「それじゃあ、そろそろダンジョンに行こうか」
「オッケー」
「「「・・・・・」」」
「そ、それじゃあ皆気をつけて行っておいで!」
暫く休憩した後、ベル様が何時ものように皆様に声をかけてきます。そして何時ものように早朝訓練で疲れきっている色様以外の皆様が無言で立ち上がり、何時ものようにヘスティア様が見送ってくれます。
「いってきます!それじゃあ色、何時ものお願い」
「あいよ」
そして最後に色様が右手をホームの屋根の方へ向け
「ほいっ!」
ゴーン、ゴーン
スキルを使い、二つの鐘楼を鳴らしました。さて、今日はどんな冒険がリリ達を待ち受けているのでしょうか、少しドキドキしながら、リュックを背負い直します。
「お、おい鐘がなったぞ!」
「やべぇもうそんな時間か、はやく上層の奴らに知らせろ!!」
「『
なんだかここら辺は騒がしいですね。
あっという間に中層です、上層?いつも通りモンスターがわんさか出てきましたよ?
「結構あっさり16階層まで来ちゃったね」
「ベルやクロッチがランクアップしたからな、それにこの前と違ってクロッチが迷子になって無いし」
「ヴェルフ、ただでさえあの二つ名で恥ずかしいのにクロッチは止めてくれって言ってるだろ?それにあれは事故だぜ事故、俺は悪くなーい。」
「悪くなーいじゃないですよ。前の時だって色様が居ればあんなにボロボロにならなくて済んだんですからね、少しは反省してください」
「まぁまぁリリ殿、今は自分が居るので誰かが迷子になる事なんてないですよ」
「それは、そうですが・・・」
確かに命様の《スキル》があれば誰かが迷子になる事なんて事は無いと思いたいですが、リリ達に常識は通じませんから、少し心配です。
「おっ、いるいるめっちゃいるじゃん」
16階層にある割と広いルームに着きました。先行していた色様がこっちに向かって手を振ってきます。さて、ここからが本番ですね
「色、数はどれぐらい?」
「うーん、多すぎて解んね、とりあえず100以上は居ると思うぞ?」
「なぁリリスケ、魔剣使うか?」
「そうですね、命様、一応【
「は、はい・・・ファッ!?ミノタウロスが78!?他のモンスターを併せると169体ぐらいです!!「その程度なら魔剣は必要ないですね」はいぃぃぃ!?」
何やら騒ぎ出した命様をほっといて、少し小高くなっているルームの入り口から眼下を見下ろします。いつも通りモンスターがひしめき合ってますね。
「ベル様とヴェルフ様、武器はどうしますか?」
「僕はヴェルフが新しく作ってくれた大剣を使ってみようかな」
「俺は何時ものでいいぞ」
「あ、あの少し落ち着き過ぎでは!?」
「はい、これとこれですね。色様は今日は何かやりたいことが有るんですよね?」
「おう、リリそのリモコン取ってくれ」
「こっち、こっち見てます!!モンスターの大群がこっち見てます!!!」
「これですか?ヴェルフ様に何個か作って貰ってましたけど、これボタンが着いてるただの箱ですよね?」
「いいんだよ、《
「来てますよー!!モンスターが向かって来てますよー!!!!」
「まぁ、リリは後方支援に徹するので、皆様はいつもどうり好きなだけ暴れてください」
「うん、それじゃ、行ってきます!!」
「はぁ、俺も大分毒されて来たな」
「よっしゃ!命ちゃん、今日はあいつら相手に平行詠唱の訓練だ。接近戦は俺が【
「は?何か言い・・・てえぇ!?体が勝手に!?」
皆様行ってしましました。こうなってしまったら、リリは後ろから皆様が囲まれない様に指示するぐらいしかやる事がないんですよね、少し寂しいです。
嘘です、やっぱりちょっとホッとしています。
「イヤァァァァ!!!無理です!色殿!?無理ですよォォォォ!!!!」
「出来るって!ほら詠唱して詠唱」
あーあ、命様がミノタウロスの群れに突っ込んでいきました。平行詠唱の訓練とか言われてましたけど、あれはただの苛めじゃないのでしょうか?
「う・・・ぐ・・・これも修行、やるしかない!!【掛けまくも畏(かしこ)き――いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を。救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい)】・・・【フツノミタマ】!!て、えええええ!!!出来てる!?自分、平行詠唱出来てる!?」
「だから出来るって言ったじゃん。最初は体の制御は俺に任せて、そのまま平行詠唱の感覚を体に馴染ませていこう!」
「は、はい!」
質が悪いのはその苛めが割と身になるところでしょうか。いや、やってることは無茶苦茶なんですけどね?それでも実際結果を残してるんですから誰も文句を言えないわけでして。
「色様って教育に才能が有りますよね」
「はぁ・・・はぁ・・・ん?なんだって?」
「なんでもありませんよ、はい
「あー、水でいい、疲れたからちょっと休憩しようと思ってたんだよ」
そう言って、息を荒げながらリリの所まで来た色様は、座り込みながら水を飲み始めました。
「大丈夫ですか?《
「大丈夫だぞ、正確には体力の上限が低くなる、だからな。こうやって座って体力を消耗しなければ問題ない。まぁ流石に【
「はぁ、でも命様は大丈夫なのですか?現在近くにいた色様が抜けて大分苦戦していられるようですが?」
「大丈夫だって、電撃で援護するし、俺だって伊達に37階層のモンスターと戦ってたわけじゃないんだぜ?あれ位のモンスターなら命ちゃんの体を操って余裕で全滅まで持ってってやる」
「そうですか、しかし37階層ではレーダーを使っていたから集団戦闘が出来ていたのでは無いのですか?電撃を攻撃に使っていたらここから見えない敵に対して対処できないのでは?」
「え?」
「へ?」
あ、命様がミノタウロスの群れに飲み込まれました
「命ちゃぁぁああああああああああん!!!」
やっぱり色様に教育は無理そうですね
「さて、リリも魔石を集めるために行きますか」
そう言いながらリリも大分少なくなったモンスターの集団に突っ込んでいきます。
「うぅ・・・酷い目に会いました」
「ごめんね命ちゃん、次は気をつけるから」
「ええと、はい、よろしくお願いします・・・うぅ、成功した手前、二度とやりたくないと言えない自分が恨めしい」
「モグモグ、色様は・・・ゴクン、もうちょっと常識ってものを覚えた方がいいですよ・・・ムシャムシャ」
「あんなことがあった後に平然と飯を食っているリリスケも大概だと思うぞ?」
「大丈夫ですよ命さん、その内慣れますから!」
「自分の常識が崩れていく音が聞こえてきます」
命様をなんとか救い出して、モンスターの大群を蹴散らした後、リリ達はようやく17階層まで来られました。さて、来られたのはいいのですが・・・
「ベル様、色様、どう思いますか?」
リリの言葉にベル様は顎に手を当て、色様は頭を掻きながら皆様に聴こえるように一言だけ言いました
「来るよね」
「来るだろ」
「ですよね」
声を揃えたお二人にリリも頷きます
「ヴェルフ様、命様、魔剣を5本ずつ渡しておきますね、それとバックパックはここら辺に置いて置きましょうか」
「おいおい、いきなりどうしたんだよ」
「あの、説明していただいてよろしいですか?リリ殿」
このパーティーに入って間もないお二人は、やはり、この異常事態に気付いていませんでしたか。しかし時間があまりないと思いますので、手短に説明するとしましょう
「リリ達が17階層に入ってから、今向かっている18階層に来るまでにモンスターがどれだけ出て来たか覚えていますか?」
「えっと・・・あれ?この階層に入ってからは一体も出てきてない?」
「そういえば、確かにそうだな、それと何か関係あるのか?」
「大ありです。時に命様、9階層から11階層に出来た大穴は知っていますか?」
「それは勿論です、原因不明の爆発で出来た大穴の事ですよね?あれのせいで自分達も一時ダンジョンに行けなくて困っ・・・て?あれ、リリ殿?なぜ今そのような話を・・・」
信じられないような目で見てくる命様にリリは真実を突き付けます。
「あの穴が出来る前もこんな感じにモンスターが出て来なかったんです。その後は少し・・・ええ、さっきのに比べたら大したことないのですが、当時のリリ達にとって少し大変な事態に陥ってしまって、その結果があの大穴に繋がるんですけど、おっと、もう嘆きの帯壁ですか、気を引き締めてください」
「何が、何が起きたのか教えて欲しいのですが、リリ殿!?」
「命ちゃん、ちょっとだけ声のボリューム下げてね、多分結構ヤバいかも」
「理不尽!?」
慌てふためく命様に色様が、すかさず声を掛けました。ヴェルフ様はだいぶ慣れて来たのか、神妙に自身の獲物を構えます
そして、リリ達は嘆きの帯壁のある大広間の中心部に到着し・・・
「来るよ!!皆!!!!」
地響きが鳴り、ベル様の声を合図に大広間全域の壁にビキリ、と罅が入りました・・・
ゴォォォン、ゴォォォン
鐘楼の館方面から鐘の音が聞こえて来ます。どうやら色様がスキルを使ったようですね
「おい、鐘の音が鳴ったぞ」
「よっしゃ、これで安心してダンジョンに行けるぜ」
「オイお前ら今からダンジョンに行くぞ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」
「なんだか、うるさいですね。それにしても一人頭2000万ヴァリスぐらいはすると思ったのですが、まさか1600万ヴァリスだったとは、もしかしてボラれました?」
「リリスケ、何度も言われただろ?前例が無いから今はこれで勘弁してくれって、別にボラれたわじゃ無いんだから、その魔剣をしまえ」
「むぅ、それはそうですが。所でヴェルフ様?最近動きが、ぎこちない気がするのですが、体はちゃんと休めてますか?」
「うっ・・・リリスケは心配性だな、気のせいだ、気のせい」
ヴェルフ様はそう言ってますが、明らかに動揺しましたよね・・・怪しい
「ヴェルフ様は「おーい、ヴェルフ殿とリリルカ殿じゃねーか!」・・・ん?あれは」
此方に大柄な男性冒険者様が手を振りながら駆け寄ってきました
「【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花様じゃないですか、お久しぶりです」
「おう、リリルカ殿は久しぶりだな、て言うかよリリルカ殿、俺の事は桜花って呼び捨てにしていいって言ってるだろ?」
「リリはサポーターですからそうは行きません。桜花様の方こそリリをリリルカ殿と呼ぶのは止めて貰えませんか?」
「それは出来ねぇな、お前らには、あの時千草・・・いや、【タケミカヅチ・ファミリア】を救ってくれた大恩があるんだ、命をそっちに預けた事を差っ引いても返しきれねぇよ、だからせめて、その恩を返す時まで俺はこの呼び方で呼ばせてもらう」
その言葉にリリは深い溜息を付きました。恩って言われましても、モンスターは
しかもその後に痛い目を見ましたから、今後そのような人助けはしない様に思っていましたし、少しだけ罪悪感を感じます
「なぁヴェルフ殿、俺達今日は休息日なんだが、良かったら一緒に呑みにいかないか?」
「悪ぃな桜花、今日はちょっと無理そうだ」
ヴェルフ様の肩に手を回した桜花様は残念そうな顔で、そうか、とだけ呟きました。それにしてもこのお二人は仲がいいですね、中層に帰ってからも、ちょいくちょく食事を一緒に食べに行っているぐらいには
「ってそうだ、あんな所で膝を抱えて座ってる命はどうしたんだ?なんかぶつぶつ言っているようだが」
「不幸な事故ですよ、不幸な事故」
「そうだな、不幸な事故だ」
ヴェルフ様と一緒に命様とは反対の方向を向きます、決して死んだ目で膝を抱えながら「ゴライアスが一体・・・ゴライアスが二体・・・」と呟いている命様が怖いわけではありませんよ
「ゴライアスを五体同時に相手にしたってどういう事ぉ!?」
・・・決して
「全く、色様はなんでも正直に話しすぎなんですよ。もしリリ達が換金した額がバレて襲われでもしたらどうするんですか」
「悪かったって、でも何かミィシャさんには嘘が通じないんだよなぁ。今日もしきりに、何かあったんだよね?って聞かれるし」
「色も?僕もエイナさんに何回も聞かれた」
「女の勘は侮れないって言うしな、ベルもクロも災難だったな」
「あんなバカデカい魔石を五つも引きずって帰ったら、誰だって気付くって解りましょうよぉぉぉぉぉ!!!!」
「冗談だよ」
「冗談だぜ」
「冗談です」
「冗談だ」
「ちくしょぉぉぉ!!!」
あっはっはっ命様は面白い方ですね。現在リリ達は茜色に染まる夕日を背に、
「それにしても稼いだなぁ、まぁ欲を言えば16階層までの分もリヴィラじゃなくて地上で換金したかったけどな」
「それは無理ですよ色様、ただでさえゴライアスの魔石でいっぱいいっぱいだったんですから、少し人手が足りません」
「ていうより色の《スキル》が無かったらあんな物持って帰れなかったけどね」
「道を触れるだけで広げて行ってたもんな、魔石だって二つ同時に持ち上げてたし、まぁベルも2つ引きずってたけど」
「自分の常識が・・・あれ?常識ってなんだっけ?」
また命様が一人でブツブツ言いだしました、大丈夫でしょうか?・・・ん?あの方は
「あ、やっば、色!!こっち、こっちから帰ろ!!」
「お前は何を言って・・・おやぁ、これはこれは、アイズ・ヴァレンシュタインさんじゃないですかぁ」
曲がり角を曲がってきたのは金髪に金色の瞳を持つ『剣姫』、アイズ・ヴァレンシュタイン様です。
「貴方言いましたよねぇ、俺が努力してないって、それで?努力してLv.3になった俺に何か言う事は無いんですかぁ金髪ゥ」
「ヴェルフ様?どうしてうちの副団長様は『剣姫』に挑発的な態度を取っているのですか?」
「あー、リリスケは知らないのか、クロと『剣姫』はな、初めて会った時から凄く仲が悪いんだ」
仲が悪いですか、しかし色様と剣姫様は自ら事を荒立てるタイプじゃないと思うのですが、いったい何があったのでしょう
「どうしましたぁ、だんまりですかぁ、謝罪の一つでも貰いたいものですねぇ」
「・・・」
「あ、あの色殿、そこまでにしといた方が・・・」
「皆、僕は神様呼んでくるから、それまで頼んだよ!」
「え?ちょっとベル様!?」
そのままベル様は風の様に走り去っていきました、あれ?もしかしてこれは結構ヤバいのでは?
「おいクロ!そこまでにしとけ!」
「そうですよ色様、もうそろそろ帰りましょう!」
「断る!大体この馬鹿二回も俺の事をいきなり殴ってきやがったんだぞ?何で俺が引き下がらなきゃならんのだ」
ちょっと色様!?馬鹿は駄目ですよ馬鹿は、ほら『剣姫』様の顔が『剣鬼』様になってますよぉぉぉ!!
「・・・してやる」
「ん?なんだってぇ?もっと大きな声で謝罪してくれませんかねぇ金髪ゥ」
「ブッ殺してやる!!」
あ、抜刀なされました。
「来いや金髪!積年の恨み晴らしてやる!!」
「うるさいクソ虫」
「ぷべらッ!!」
えぇ、ランクアップした色様を一瞬で吹っ飛ばすとか『剣姫』ってやっぱり凄いんですね。あ、色様がマウントポジションを取られました。
「君が、泣くまで、殴るのをやめないッ!」
「止めてくだされ『剣姫』殿ぉぉ!!色殿が、色殿が死んでしまいます!!!」
「ヴェルフ様、リリはこういう時どうしたらいいのでしょうか、止められる気がしないのですが」
「信じるしかないだろ?ベルが早く帰ってくるのを」
「ですよねー」
結局夕日が沈むまで色様はアイズ様にボコボコにされてました。
「こんなのが落ちでよろしいのでしょうか?」
「何言ってるんだリリスケ?」
「いえ、何でもありません」
リリルカ・アーデ
Lv.1
力:F382
耐久:D501
器用:F356
敏捷:E498
魔力:E421
《魔法》
【シンダー・エラ】
・変身魔法
・変身後は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は
・模倣推奨
・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】
・解呪式【響く十二時のお告げ】
《スキル》
【
・一定以上の装備加重時における補正。
・能力補正は重量に比例。
「痛って、マジあの金髪ムカつく!!いつか絶対泣かす!!」
「まぁまぁ、ほら、そのおかげで耐久値が凄く伸びてるよ?」
「うれしくねぇよ!?大体あいつの攻撃一発でもまともに受けたら体に穴空いてるからな!!冗談じゃねぇ!?」
俺はヘスティアに声を荒げる、仮に【
「お、落ち着くんだ色君「ちょっとクロ借りていいか?」・・・おぉ、ヴェルフ君!色君の【ステイタス】更新は今終わったばかりだ。ほら色君、ヴェルフ君が来たよ!」
唐突に開けられた扉の前でヴェルフは呼び掛けて来た。これ幸いとばかりに俺をヴェルフに押し付け、すぐにヘスティアはベルの部屋に突貫していった。
「ヘスティア様は本当にベルの事が好きだよな」
「全くアイツは、それはそうとまた例のあれか?ヴェルフ?」
「あぁ、すまねぇが頼むぜクロ」
俺とヴェルフは鐘楼の館の離れにあるヴェルフの工房に足を運んでいく。
「それにしてもクロって、何の捻りもないよな」
「しょうがないだろ、だったらまたクロッチて呼んでもいいか?」
「勘弁してくれ」
二人して話しながら歩いていると、不意にヴェルフの方からバキッ!という何かが壊れた音が聞こえた
「チッ、此処までか」
「おぉ、でも今日は一日持ったんだから上々じゃね?」
「いや、まだまだだ、せめて三日ぐらいはもたしてぇ」
ヴェルフは懐から一本の壊れた魔剣を取り出した。それは重力を生み出す魔剣『鈍刀・重』、俺の話を参考にヴェルフが作った、自身に重力の負荷を掛ける、修行用の魔剣だった
「俺にも一本作ってくれよ、少しは
「多分意味ねぇぞ?これはLv.2の俺にとっては結構な負荷にはなってるが、Lv.3のクロには殆ど無意味だ」
「力の差があり過ぎるって事か?」
「ま、そう言う事だな、てなわけで今日も参考までにお前の世界の話を聞かせてくれ」
「オーケー、じゃあ今日は炎が腕から出せる少年と不思議な武器を扱う集団の話でもするか」
こうして【ヘスティア・ファミリア】の一日は終わっていく。
次回から原作との乖離が大きくなっていきます。