ドラえもん のび太の僕たちだけがいない街    作:雛月 加代

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第伍章:障害があったら乗り越えればいい

「あれ?」

 

「藤沼君、なにを急いでいるんだろう。」

 

藤沼家で誕生日会をしているはずの悟を見かけるのび太とドラえもん。のび太は持っていたレンズを覗き込む。

 

「ああ!」

 

「どうしたの?」

 

「わあ、すぐに止めないと。」

 

ドラえもんとのび太は大慌てで悟の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

【暗闇のトンネル】

 

階段を降りていく加代の母親の後姿に手を伸ばす悟。

 

(おまえさえいなければ・・・!)

 

だが間一髪のび太に阻止される。

 

「冷静になりなよ、悟君。死んじゃったら、マズイだろう。」

 

「もっとまずいのはお前が裁かれていなくなることじゃないか?」

 

「・・・・・・・・。」

 

「のび太、どうして悟が危ないことするって分かったんだ。」

 

謙也がのび太に聞くと、のび太はドラえもんに視線を移し、頷く。

 

「ドラえもん。」

 

ドラえもんも頷くと四次元ポケットに手をいれる。

 

「することレンズ」

 

「???」

 

「これで覗けば、覗いた相手がこれから何をするかを調べることが出来るんだよ。」

 

「へえ、まるで魔法だな。」

 

「魔法じゃなくて科学。まあ、どうでもいいけど。」

 

「ありがとう、みんな。ただ、どうしても今日、雛月が危ないって思うんだ。」

 

「悟、ここに来る前も何か物騒なことしてたろう?あれは何?」

 

「あ、あれはまた別で・・・・あの家に警察を呼びたかった。」

 

パトカーがサイレンを鳴らしながら、通り過ぎて行く。

 

「決めた。」

 

「???」

 

「みんな、協力して欲しい。あの母親の虐待を止めるために警察を動かそう。」

 

「悟・・・大騒ぎになるかもしれないぞ 。」

 

「望むところだ。」

 

「ちゃんと結末まで考えたか?」

 

「今おもいついたからそれはこれから考えるよ。」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「事件になってもいい、途中で見つかってもいい、どんな結末だろうと雛月が死ぬよりはいい。」

 

「悟が捕まるってオチはなしにしろよ、母ちゃん悲しむぞ。」

 

「いや、うちのお袋ならきっと、でかしたって言うと思う。」

 

「ああ、言いそう。」

 

「友達に助けを求められて、知らん顔なんてしてられるか。」

 

どこかのガキ大将みたいなことを言い出すのび太。

 

「当然僕もやるから心配要りません。」

 

「ありがとう、みんな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アパートごっこの木!!」

 

ドラえもんは苗を植えて、水をやる。すると苗はグングン育って、3分でアパートになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アパートの中】

 

「・・・すげえ。」

 

「凄い・・・・。」

 

「地下茎がそのまま部屋になるんだって。」

 

「22世紀の子供の遊び道具だけどね。」

 

「22世紀には便利な物があるんだな。」

 

「かなり上出来な隠れ家だな。俺もここに住みたいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな、雛月。」

 

「俺は一旦帰るけど、夜中に戻ってくるよ。」

 

「後は頼むぜ、のび太、ドラえもん。」

 

「うん。」

 

「またね。悟、賢也君」

 

「礼はいいよ。友達だろ加代ちゃん。」

 

「俺たちが必ず加代を守るから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが寝静まったころ、悟がアパートにやってきた。

 

アパートに入ろうとした、その時。悟は何かに吹っ飛ばされ、木に激突する。みると人間の半分程度の大きさのガードマン型ロボットが入り口の前に立っていた。

 

「大丈夫、悟君?」

 

「怪我はない?」

 

ドラえもんとのび太が急いで駆け寄ってくる。

 

「なんだよこれ?」

 

ガードマンロボット

 

人間の半分程度の大きさのガードマン型ロボット。命令すると周囲を見張り、不審者を追い払う。

 

 

 

 

【アパートの中】

 

「この新聞、種も仕掛けもないよ。はい、こうやって丸める。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

全員の視線を浴びながらのび太は新聞を丸めて、隙間に水を入れる。

 

「水を入れても溢れません。」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

シャアアアアアアアアア

 

「溢れてるべさ。」

 

「おっかしいな、テレビではうまくやってたのにな。」

 

溢した床をタオルで拭き始めるのび太。

 

「あれはねえ、種があるの。不器用な君には無理だよ。」

 

「だったら、22世紀の手品をやってよ。」

 

「手品なんて知らないよ。」

 

「悟?何かあった?」

 

頭を押さえて考え込んでいる悟に加代はたまらず声をかけた。

 

「昔・・・・ずっと昔・・・・やり残した事があるんだ・・・。」

 

「???」

 

「あ・・・・俺が考えたマンガの話さ・・・・」

 

予定を間違えて子供を死なせてしまった死神の話だ。なんとか元に戻そうとして

あがいて動けば動く程関わる人達が不幸になって行く。

 

「正しい事をしているつもりなのに自分が関わってしまうと・・・他人が傷ついてしまう・・・・」

 

「それが今の悟君みたいだと言いたいのかい?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「アホか。きみは。」

 

「???」

 

「きみは勘違いしてる。道を選ぶということは、必ずしも歩きやすい安全な道をえらぶってことじゃないんだぞ。」

 

「大岩選手だってそうだ。道一本選んだだけで世界チャンピオンになれたわけじゃない。ボクサーへの道を、それこそ血のにじむようなトレーニングで切り開いていったんだ!!」

 

「・・・・・・・・。」

 

「障害があったら乗り越えればいいべさ。」

 

「うん、そうだね。ありがとう、みんな。」

 

みんなの勇気に再び決心が固まる悟。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところが次の日、

 

「あれ、アパートが無いぞ。」

 

「埋まってる。」

 

アパートがなくなっていることに驚く悟とのび太。正確に言えばアパートの入り口が埋まっているということ。

 

「そうか、アパートごっこの木は一晩で腐って、土にうずまるんだった!!」

 

肝心なことを今更思い出す、のび太。

 

「!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

プレゼント、明日渡すね。約束。

 

 

 

 

 

 

 

・・・雛月はもう居ない。

 

 

 

 

 

 

「失敗したんだ」という思いしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加代を救うはずが自分たちの手で生き埋めにしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1998年3月3日16時50分

雛月加代死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラえもん のび太の僕たちだけがいない街

 

終わり

 


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