あべ☆こべ   作:カンさん

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第一部・中学二年生編
第一話 ひきずられる男


「なあなあ、兄ちゃん私たちとお茶しなーい?」

「お茶するだけだからさ、別にいやらしい意味はないからさっ」

 

 いかにも『私ギャルです』と言った感じのガングロ玉子二つが、俺に対してニコニコ……いや、ニタニタと付きまとう。

 この世界に生まれ落ちて何度も経験した、しかしいつまで経っても慣れないコレにため息を吐きつつ、百を超えてから数えるのを辞めた台詞を繰り返す。

 

「待ち合わせをしていますので、申し訳ありませんが今回はご縁がなかったということで……」

「そんなことを言わずにさあ?」

「ちょっとだけだからさ!」

 

 音にするなら『プワーン』と言ったところか、強烈な香水か何かの臭いに思わず一歩下がる。いい加減にして欲しいと二度目のため息を吐き、さてどうまこうかと考えていたその時、後方から聞き覚えのある声が響いた。

 

「――探したわよ、キョウ」

「……かがみ姉さん」

 

 後ろを振り返る。走って来たのだろうか、少し息を乱していて額には汗が垂れていた。

 彼女は今世の俺の姉『柊かがみ』だ。俺と同じ色の長髪をツインテールにした気の強い高校一年生。俺の二つ年上だ。

 かがみ姉さんは俺を後ろへとやると、キッと鋭い眼光で目の前のギャルたちを睨み付けた。

 

「……うちの弟に何か?」

「はあ? 別にウチら遊ぼうって誘っただけだしィ」

「てか、ウチらが用あるのはそっちの子で、オネエチャンはお呼びじゃないしィ」

 

 そこまで言うとギャハギャハと不快な声で笑う。

 ……背後からでも分かるぐらいに、姉の怒気が伝わってきて……正直帰りたい。それに、姉さんは人一倍正義感が強くこういう輩にはとても厳しい。だから昔からよくケンカをしては生傷が絶えない。

 

「お生憎様。うちの弟はあんた達みたいな頭の軽そうなのとじゃあ、釣り合わないわ」

「は?」

「何あんた調子に乗ってんの?」

 

 で、こうして一触即発な空気になるのはお決まりである、と。

 そして俺もいつものように警察を呼べるようにと携帯を取り出す。

 

「こら! 何しているの!」

 

 ただ、今日は正義感ある人が近くにいたらしく、婦警さんが慌てたようすでこちらに来ていた。目の前の女たちはぎょっとした顔になり、一目散に逃げていった。

 

「覚えておけよ!」

「顔覚えたんかんな!」

 

 ……捨て台詞も忘れずに。

 

 その後は婦警さんに注意を受けて、姉さんが反発し、それを俺が抑えると言うちょっとしたことが起きたが、無事に本来の買い物へと向かうことになった。

 

「ああ、いらつく……」

「まあ、かがみ姉さんは悪くないしね。悪いのは絡まれた俺だし」

「……仕方ないでしょ。あんたのソレはもはや呪いなんだから」

「でもあの婦警の人は悪くないし言ってることは間違っていないよ」

「……」

 

 自分でも分かっているのだろう。姉さんは何も言わずブスッとしていた。

 頭では理解できていても心では納得していない。そんなところか。

 

「でも、助かったよ。いつもありがとね」

「……家族なんだから、当然でしょ」

 

 そう言うとフイッと顔を背けて小さく零した。頬を染めていることから照れているのだろう。そんなツンデレのテンプレを見せられてつい笑ってしまう。それに気づいた姉はジトッと非難ありありの目で俺を見た。

 

「というか、あんたもいい加減学習しなさいよ」

「ああ、うん……」

「気の無い返事ねえ。良い? 何度も言うけど、男があんな所に行っちゃ駄目よ? 私が居なかったらどうなっていたか……だいたいあんたは危機感というものが――」

 

 姉の説教を聞き流しながら、俺はこの世界の異常……あるいは俺の異常に本日三度目のため息が漏れる。

 痴漢ならぬ痴女。メンズファースト。女性主体の社会。

 男女の価値観が逆転した日本。それが俺の生まれ落ちた世界。

 

(転生して早十数年。未だに慣れない……)

 

 柊キョウ中学二年生。未だにこの世界に慣れません。

 

 

第一話 ひきずられる男

 

 

 最初に違和感を感じたのは、長女と次女の会話だった。

 

『うがー……彼氏欲しいなぁ』

『どうしたの突然?』

『いやさ? 今日帰りにラブラブなカップル見ちゃって……』

『それで勝手にダメージを受けたと。でも、まつりそんな相手居るの?』

『う……そ、そういういのり姉さんはどうなのよ?』

『……』

『ごめん……』

『謝らないで……』

『でもまあ、弟が居るだけあたしらはマシ、かなあ』

『ああ、言えてる! うちの弟のこと知ると皆一気に目の色変えるもの』

『はー、どこも似たようなものなのかねえ』

 

 この時は喪女の寂しい会話かな? と聞き流していた。しかし、このことが嫌に頭を離れずしばらくの間ひっかかりを覚えていた。

 ……言い訳をさせてもらうと、俺はニュースだとか新聞とか見なかった。興味がなかったというのもあるが、まさか価値観が違うとは思ってもいなかったのだ。

 

 そして、決定的なのは小学校で起きたとある出来事。

 小学三年生となり、久しぶりのプールに大人気なく楽しんで着替えようとした時のことだ。

 

『あれ……?』

『どうしたの、柊君?』

『いや、俺のパンツが無くなって……』

 

 まだ何も知らなかった俺は取り敢えずノーパンのまま教室へと戻り、先生へと報告した。――それも、周りに生徒が居る前で、だ。

 その時のダイジェストをどうぞ。

 

『先生』

『ッッ!!!? ど、どうしたの柊君?』

『いや、その……プールの後に着替えようとしたらパンツが無くて……職員室に届いていないですか?』

『い、いや知らないなあ……と、ところで今、柊君はパ、パンツ穿いていないの?』

『え? はい、正直スースーして嫌な感じですけど、仕方なく』

『……』

『先生?』

『ブハッッッ!!!』

『せんせーーーーーい!?』

 

 ちなみに犯人は誰だったかは言わないでおく。

 とにかく、このことがきっかけで俺は何かおかしいと思い、できうる手段を全て用いて調べた。その結果俺はこの世界のことを知った。

 

 出生率とか戦争の影響とか色々と要因はあるけど、この世界では男性が恐ろしく少なく、その数は年々減少している。それによって男は希少な存在で、家族に男がいるだけで一種のステータスとなるらしい。

 そんなアホらしい状況が大昔から続いているせいで、戦国時代の武将はほとんど女性だった。その名残で男は女に守られるものという風潮がそのまま現代に受け継がれ、女は強く、男はお淑やかに、なんて言われている。

 

 ここまでこの世界の価値観を話したが、別にこの先生きていけないというほど深刻かと聞かれれば苦笑いしつつ首をぎこちなく横に振れる程度には大したことは無い。人という生き物は順応性の高い生き物で、時が経てばある程度のことは慣れていくものだ。実際、今の俺は違和感を感じるものの、特に今すぐ死んで来世をエンジョイしたいと思ったことは一度も無い。人間、やればできるのだ……。

 

 しかし、その過程で苦労するかしないかは話が別である。

 価値観の相違は俺を大いに苦しめた。目を閉じて振り返れば鮮明に思い出せる日々。

 シャツにパンツで家をうろつけば家族全員で説教され、ゲーセンに行けば高確率でナンパされ、半袖の服を着て半ズボンを穿けば肌の出し過ぎだと言われる。

 俺の何気ない行動はいつも周囲を驚かせ、噂では清楚系ビッチなんて言われていた。真に遺憾である。かがみ姉さんが居なければ、今ごろ俺のイメージは酷いものとなっていただろう。……貞操の危機感を持てと怒られる日々が始まったのは、思えばこの日からだったのかもしれない。

 

 まあ、つまり何を言いたいかというと――この世界物凄くめんどくせえ!! である。

 

 

 ☆

 

 

「あ、お姉ちゃんキョウちゃんこっちこっち~」

「おまたせーつかさ。待たせて悪いわね」

 

 ナンパ女組に絡まれてから数分後。俺とかがみ姉さんは街のモールへと来ていた。

 先に来ていたもう一人の姉――つかさ姉さんは、ふにゃりと柔らかい笑顔を向けて俺たちを迎えた。かがみ姉さんの謝罪に気にしていないと言って許した。

 つかさ姉さんはかがみ姉さんと双子だ。と言っても二卵性双生児だからかあまり似ていない。姉は動の性質で妹は静の性質、と言ったら分かりやすいか。

 

「それにしても遅かったね。何かあったの?」

「いや、ちょっと道に迷って――」

「別に。いつものようにこいつがナンパされてたのよ」

「ええ!? 本当に!? キ、キョウちゃん大丈夫!?」

「ちょ、ねえさ」

 

 かがみ姉さんの言葉を聞いた途端、つかさ姉さんは顔を真っ青にして俺の体を調べ始めた。何かされた? 妙なことされていないか? そう言いながら過剰に心配する。

 俺はこうなることを分かっていたもう一人の姉をジト目で見る。しかし本人は悪戯が成功した猫のように笑っていて、正直イラッとした。

 

「つかさ姉さん。俺は大丈夫だから」

「ホントに!? ホントのホントに!?」

 

 見ての通り、つかさ姉さんはブラコンだ。彼女は三人の姉が居るからか、下の俺を猫可愛がりして昔からこのようにベッタリだ。学校に行くのも、飯を食うのも、遊ぶのも、風呂に入るのも、寝るのも一緒だった。後半二つは説得に説得を重ねて中学に上がる前に何とか辞めさせることができたが。正直、愛が重い。

 

「それよりも姉さん。俺の修学旅行の買い物をさっさと終わらせて、カラオケにでも行こうよ」

「あら、確かにそろそろ行かないと時間が無くなるわね。つかさ行くわよ」

「あ、うん分かった。じゃ、行こうかキョウちゃん?」

「……うん」

 

 差し出された手を取る。外に行くときはいつもこうしている。拒否をしたら? はは、一時間はこの場に留まることになる。

 

 で、今日は一週間後に控えた修学旅行の準備に来ている。と言っても、必要なものは粗方親が買ってくれていて、じゃあなんでこうして姉弟三人で此処に来たかと言うと……。

 

「でも呆れたわ。あんたがそこまでズボラだとは」

「去年買ったから、まだ着れると思うんだけどなぁ」

「……女の私はそういうことは分からないけど、そんなこと言ってるとまた父さんに怒られるわよ?」

 

 そう言われて『うへぇ……』と思わず口に出した。

 そもそも、俺自体は此処に来るつもりはなかった。

 しかし、父さんが異議を唱えたのだ――水着が古いと言って。

 ここ最近の流行は移り変わりが早く、そういうことに無頓着な俺は毎回父さんのコーディネートによって服を決められている。もし父さんが居なかったら、俺は流行遅れの烙印を押されていただろう。

 んで、今回修学旅行で持っていく水着を見た父さんが。

 

【う~ん。これはもう古いなぁ】

 

 という訳である。 

 成長期とはいえ、一年前の水着なら良いと思うんだけどなあ。

 正直流行りものとか興味ないから、さっさと買ってしまおうと一人デパートに向かおうとして――現在に至る。

 

「なんでも良いよ。さっさと終わらしてカラオケ行こう」

「何でも良いって……全く。これでもっと男らしかったら完璧なんだけどねえ」

 

 それってカマっぽくなれってことですか? 嫌だよそんなの。

 というか、かがみ姉さんソレ何気にブラコン発言だからね?

 

 そうこうしているうちに水着売り場にやってきた。

 たくさんのマネキンに色々な水着が着用されていて、見ていてキメーなって思う。

 無機物の気持ち悪さと男の気持ち悪さが合わさって言えば良いのかね? なんで無駄にモッコリさせるのだろうか。製作者の見栄か性癖か……やめよう、深く追求しても意味がない。

 さてちゃっちゃと終わらせようと歩を進めるが……思わずため息。

 

「……あのさ。恥ずかしがるなら、なんで着いて来たの?」

「いや、何というか……」

「あう……」

 

 双子揃って顔を真っ赤にしている。別にマネキン見て『モッコリだ! モッコリ!』って騒ぐ齢じゃあるめいし……。

 まあ、無理もないか。

 よくよく考えれば分かる事だ。

 今の姉さんたちは、前の世界で言えば女性用の水着コーナーで立ち往生する童て……少年ってことになる。

 そう考えれば姉たちの反応も納得できるだろう。

 ――だが、俺は知っている。この世界の男の面倒臭さを!

 俺は姉二人の手を掴んで……も動かないから腕を引っ張って無理矢理歩かせる。

 

「ちょ、キョウちゃんせめて心の準備だけでも……!」

「付いて来たのは姉さんたちでしょ」

「わ、私たちが来たのはさっきみたいな変な虫がつかないようにするためであって……!」

「だったら尚更近くに居てよ」

「で、でも此処なら男の人だけだから安心じゃあ……」

 

 ――それが嫌なんだって。

 嫌だ嫌だと抵抗を続ける二人だが、無理矢理ほどくようなことはしない。弟である俺に手荒な真似をしたくなくて、そしてそれが分かっている俺。

 清楚系ビッチでは断じて無いが、腹黒キャラくらいには思われそうだ。ははっ。

 

 中に入ってしまえばこちらのモンで、二人は大人しく俺の後ろを付いて歩くようになった。それを確認した俺は二人の腕を放して手頃な水着を……。

 

「……ねえ、二人とも。ちょっと引っ付き過ぎじゃない?」

「こ、こうでもしないと変態でしょうがっ!」

 

 まあ、女性の水着コーナーで男が一人でブラブラしていたら変な目で見られるよね? かがみ姉さんが訴えているのはそういうことなんだろう。でもさ、二人して俺の背中にピッタリ引っ付くのやめてくれない? 一般常識的に変なんだけど。

 

「こ、こうしていれば男連れだと思われるから……」

 

 あー、アレね。彼女の下着を見に来た彼氏ですよーみたいな?

 可愛い顔してなかなか考えるじゃないか、つかさ姉さんも。

 

 ……仕方ない。

 

「まあ、気持ちは分かったけどあまりベタベタしない方が良いと思うよ? 声かけられたらめんどうだし。それにそうやってコソコソするから恥ずかしいんじゃない? もっと堂々としたら?」

「……」

「……」

 

 俺の言葉を聞いて二人は少しだけ離れて俺の後ろを歩く。どうやら俺の言い分に納得したらしい。

 尤もらしいことを言ったけど、ぶっちゃけテキトーなんだよね。

 これで歩きやすくなったから良いけど。

 

 ……後頭部に視線を感知。どうやら周りに目移りさせないために弟の頭を凝視することで精神の安定を図っているらしい。

 とりあえずさ……。

 少しはオチツイテ!

 

「うーん……これで良いかなぁ?」

 

 あの後、適当に物色したものの特にこれと言った物が見つからず。

 結局選んだのは無難なトランクスタイプの海パンだった。

 絵柄が変わっただけで、ぶっちゃけ去年の物とそこまで変わらない。正直金が勿体ないと思う。そんなことを言ったら父さんから説教されてしまうが。

 しかし、意外と時間がかかってしまったと店内備えられた時計を見ながら思う。昔は女性は無駄に買い物が長いと思っていたが……なるほど、こうやって時間が経つのか。あまり知りたくなかったケド。

 

「じゃあ、これにするから姉さんたちは……」

 

 流石に会計まで付き合わせるのは可哀想だ。

 そう思って振り返ると……。

 

「うわー。うわー。こ、こんなにグイッってイッてたらみ、見えちゃうんじゃあ……」

「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ……フンドシ……!」

 

 …………上がブーメランパンツを見て両手で口を押さえているかがみ姉さん。下が顔を真っ赤にして褌を凝視しているつかさ姉さん。

 二人とも特殊なお趣味をお持ちのようで。軽率に彼女たちのベッドの下を探ったらとんでもないものが出てきそうだ。

 とりあえず周りのお客様のご迷惑になるので、早々に自分の世界から帰って来て貰わないと。そう思って二人を呼びかけようとしたら……。

 

「あらお客様! なにかお困りでしょうか!?」

 

 まるで阻むかのようにヌッと男性店員が現れた。

 思わず顔を顰めそうになるも、それを何とか自分の中に押し込んで。

 

「いえ、大丈夫です。もう決めたので後は会計を――」

「でしたら! 当店ご自慢の商品を紹介しましょう! お客様の魅力を際立たせるおすすめが……実はこちらにあるんですよ?」

 

 先ほどまで裏声だったのに、途端に低い声で囁くのやめてくれませんかね? ゾワリとするわ。というか人の話聞けよ。会計するって言っているだろーがっ。

 そんな俺の無言の抗議を視線に乗せて送るも、分かってますよといった風に笑みを浮かべてこちらにウインクを一つ。おえ。

 店員は華麗な動きでかがみ姉さんの元に行くと、彼女が鼻息荒く見ていたブーメランパンツを剥ぎ取るとすぐさまこちらに向かってバッと広げた。

 

「こちらなんてどうでしょう? お客様の甘いフェイスとこの過激な下着のギャップ……これなら彼女もイチコロ間違いない無し」

 

 てめえを一殺してやろうか? てか何故よりによってブーメランパンツ(ソレ)を選ぶ!? 元の世界でも限られた人でしか許されない代物だというのに!? 俺そこまでムキムキじゃないし、ギャップとかいらん!

 

「キョウ! これにしましょう!」

 

 かがみ姉さんは黙っていてください。

 

「お気に召しませんでしたか? でしたら――」

 

 そう言って店員はかがみ姉さんにブーメランパンツを手渡すと、舞うような動きでつかさ姉さんの元に向かい、一つの赤い布を剝ぎ取ってドンッとこちらに見せた。

 

「こちらなんてどうでしょう? お客様の甘いフェイスとこのギリギリを攻めた前衛的なデザインの赤・褌・☆。色気と肉体美を見せつけ、幾人もの女を魅了すること間違いなし!」

 

 間違いしかないと思うんですが。

 というか褌って下着に該当すると思うんですけど!? こんなの履いて海に出たら変態じゃねーか!?

 

「き、き、きききキョウちゃん! ちょっとだけ考えても」

 

 一考の余地もありません。

 

「さあ、どちらになさいますか?」

 

 そう言って善意100%の笑顔で薦めてくる男性店員。

 そうなんだよ、この世界の人たちは真面目にこういうのが良いと考えているんだ。つまり俺とセンスが合わない。

 後ろで興奮している姉二人も、別に変態とかそういうことではなく、なんて言えば良いのだろう……。前の世界で言えば、フリフリしたかわいらしい水着やビキニを薦めているのと同じ、だと思う。

 つまり、世間一般的に言えば彼らはおかしくなく、俺のほうが異常なのだ。

 ……いや、訂正する。

 姉さんたちはちょっと異常だわ。だって目が血走っているし。弟に向ける目じゃねえよ。

 俺はため息を吐いて、自分が選んだ水着を店員に見せる。

 

「すみませんが、すでに選んでいるので」

「あら、そうでしたか。申し訳ありません出過ぎた真似を」

 

 すると店員は苦笑して「失礼しました」と言って立ち去って行った。

 最初から言えればここまで疲れなかったんだがな……勢いすごくてできなかったんだけどね。

 

「絶対に似合うと思ったのに」

「バルサミコ酢―……」

 

 あー、もう。やっぱりこの世界と俺の感覚は合わない……。

 後ろからの姉二人の言葉を聞いてそれを再確認した俺は、選んだ水着を買うべく会計しに行った。

 

 

 その後、買った水着を見た父が少しだけ残念そうにため息をついた。

 ため息をつきたいのはこちらの方だよ!

 


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