ここはおなじみ人理継続保障機関カルデア。 今日も様々な英霊たちが集い、力を合わせて人類を救うためにマスターと共に特異点へと赴く。 まさに人類最後の希望である。
そんなカルデアで、一人のサーヴァントが嫉妬の炎で身を焦がしていた。
「この頃、私の扱いが雑ではありませんか……?」
腰まで伸びた綺麗な長髪は絹の糸のようにきめ細かく、上品に笑う様は鈴の音の様な声も合わさって、見た者の記憶に焼きつくほど可憐で、行動一つ一つに品があり、まさに立てば芍薬歩けば牡丹な少女。 幼さの残る顔には恋に燃えて爛々と輝く目に、二つの角。 彼女は恋に燃える女、日本が生み出した恋に生きた女シリーズ(玉藻作)の代表ともいっても過言ではない少女。 清姫である。 _____因みに恋に生きたシリーズの原点は玉藻ママであるらしい
「
元々女性から慕われる性質なのは分かっている、自分が愛した安珍の生まれ変わりなのだ。 女性から慕われるのは当たりまえ、だからマスターが周りからちやほやされようとも笑って許せる、なぜなら妻は自分なのだから。
だが、他の女の所に行くのは許せない。 自分が愛した安珍の生まれ変わりだからこそ、今度こそ約束を果たしてもらう。 忘れるものかこの痛み、忘れるものかこの悲しみ。
というわけで清姫はいよいよへびおこであった。 まぁ他の女性サーヴァントに焼きもちを焼いているだけなのだが、このままでは焼きもちどころか焼きマスターまで出来そうな勢いである。 裏を返せば自分のマスターを盗られそうだと焦っている証拠でもあったが、今の清姫の頭の中にあるのはどうやってマスターの目を自分に向けさせるかであった。
「しかし、どうしましょうか……お部屋に入ろうとも
出会ったばかりの頃のマスターの部屋はまだ部屋のロックも只のキーカードで行われているだけの簡単な扉であり、清姫は毎日のように忍び込んでその体に抱かれようと迫ったものだが、今では、指紋、声紋、構成遺伝子の認証ロックに加え、エクスカリバーのビームを三秒程度なら耐えられるほどの魔術的にも物理的にも強靭な扉でその部屋は閉ざされており、そう簡単には侵入できなくなっていた。 清姫にとっては自分の事を理解して貰っている様な感じがして、とても嬉しく思っていたが、このような時はとても煩わしい。 扉の接続部分を根気よく、大体四日ぐらいかけて溶かしていけば侵入できるとは思うが、いかんせんその間にマスターが帰ってきては意味がない。
「仕方がありません。 こういう時は妙に凝らずにすとれぇとに行くのが一番だと玉藻さんも言ってましたし、原点に立ち直るとしましょう!」
「ダーリンの心を仕留める101の方法」(アルテミス、玉藻共同出版)を握りながら立ち上がる清姫。 なんだか碌でもないことが起きようとしていた。 そこ、いつもの事とか言わない。
次の日、マスターが部屋から出ようとすると妙な光景に出合わした。
「________?」
「はい! 私、清姫は一大決心いたしました! 」
なぜマイルームの前に正座で居るのかをマスターは聞いたのだが、完全に聞こえていない。 なんだか今日の清姫はいつもにもまして暴走しているような雰囲気がマスターには感じ取れた。 だってなんかニトロの甘い匂いがするし。
「
部屋に戻り、扉をすべて施錠するマスター。 ヤバいよ、清姫がスイーツ拗らせちゃったよ……マスターは頭を抱えた、なんだかアルテミスを見たアタランテの気持ちがいまなら分かる気がする。 いつも何を言ってるか分からない清姫であるが、今回はいつにもまして訳が分からない、だぁりんってなんだっちゃ……
「あぁ、ますたぁ! じゃなかっただぁりん! お願いします! 今日だけは今日一日だけはちゃんと話を聞いてくださいまし! 」
激しいノックと共にマスターを呼ぶ声が聞こえるが、心を鬼にして枕に顔を突っ伏し体を震わせながら部屋の隅にて待機するマスター。 怖がっているわけではない、決して怖がっているわけではない。 ただ震える体を抑えきれないだけなのだ。 それに訓練の連続で疲れている、正直そっとしてほしかった。
「……くすん、くすん」
しばらく無視し続けていると、扉の向こうからすすり泣く声が聞こえた。 何時もは諦めて食事時に再突入してくる清姫であったが、今回は違った、泣いている。 あの清姫が泣いているのだ、一瞬嘘泣きかと思ったが、嘘を徹底的に嫌う彼女にはありえない事であった。
「くすん、ごめんなさい……ますたぁ。 また日を改めます……」
「_______」
マスターはため息を一つ漏らすと、自分の頬を思いっきり引っ叩いた。 清姫だってサーヴァントだが、その前に一人の女の子なのだ。 普段は自分の都合のいいように話を解釈する子だがそれが出来ないくらい拒絶してしまったらしい、流石にそれは酷い仕打ちだった、自分の身の可愛さに、目の前の女の子を傷つけてしまったのだ。
「_________」
「ますたぁ……」
決心してマイルームのドアを開くと、 泣き顔の清姫が見る見るうちに笑顔に変わっていく。 自分から蛇に食べられに行く鼠の気持ちになったが、これでいい、女の子は笑顔が一番だとマスターは思った。
「
「_______」
数十分後、腕を組みながらカルデアの廊下を歩く清姫とマスターの姿があった。 すれ違う人、皆が驚きで目を丸くしている。 なんせ、無理矢理清姫が腕を組んでいるのではなく、マスターも清姫に微笑みかけながら時々清姫の頭を撫でたりしているのである。 清姫は一体どんな魔術……いや魔法をかけたのだ!? あのマスターが自らあのような事を……ついに人理は崩壊してしまったのか!? とカルデア職員は急いでマスターの心理状態のチェックに急ぎ、キャスターのサーヴァントたちは解呪のために自らの工房に急いだ。
「ふふふ、幸せです……」
清姫の出した願いは、今日一日恋人になってほしいという物であった。 清姫からしたら、
「はい、
散々いちゃつきながら廊下を歩いた後は食堂で、清姫が作った料理に舌鼓を打つ。 清姫も嘘さえつかなければ良くできた嫁である、肉じゃがだってお手の物、柔らかい肉と芯まで味が通ったジャガイモが美味しい。 _隣にあった山盛りのマッシュポテトは一体だれが作ったのだろうか_
「________」
「え? 私はそんな……はい、では、あ、あーん……」
次はマスターから、清姫の口に肉じゃがを運ぶ。 まさかの食べさせ合いっこに食堂にいた誰もが驚くというより、戦慄する。 何名かは歯ぎしりもしている。 あのマスターがあの清姫といちゃついている。 あのアンデルセンがタブレットを落とし、シェイクスピアが原稿に飲んでいたコーヒーを噴き出す。 それぐらい衝撃的な出来事である。
「美味しいですけど、すこし……恥ずかしいですね。 つ、次は私ですよ! はいあーん!」
モーツァルトが楽器の音を外した。
「こうやって、
食堂で腹ごしらえをした後、目を丸くしている周りの人の視線を背に受けながらまた廊下でイチャイチャとしながらマスターのマイルームへ戻ってきた。 部屋で何をするかと思えば、マスターの部屋の掃除や、マスターの洗濯物にアイロンをかけたりと、マスターの身の回りの世話であった。
「________?」
「いいえ、これが私が今やりたいことなのです。 私はこれで幸せなのですもの」
幸せそうに笑いながら、また掃除を再開する清姫。 ふとベッドの下に何かを見つけたのか、手を伸ばして一つの本を取り出した。
「あら、あらあら
「______!?!?!?」
それは同士
「_______……」
「へぇ、あの黒髭さんから……」
「______??」
「いえ? 怒ってませんよ? 殿方ですからそれ位興味があるのが普通でしょう。 嘘も言っていないみたいですし……黒髭さんのお部屋は後で
グッバイ黒髭、君の事は忘れない。 毎度毎度ひどい目にあう黒髭に心の中で合掌する。
「でも、この本は処分いたしますね?」
清姫のにこやかなグッドスマイルにマスターはいいえとは言えず、パイケット本はその場で焼却された。 さらば黒髭の置き土産。
「_______~~♪」
その後はベッドで二人より添いながら過ごしていたが、清姫の提案によってカルデアに一つある、温泉へと足を向けていた。 カルデア職員のリフレッシュのために用意されたこの場所は実際は温泉ではなく大きい風呂であったが、マイルームはシャワーしかないので、日本生まれのマスターや日本出身のサーヴァントは重宝していた。
清姫は温度調整のためと言ってどこかに行ったので今はマスター一人が温泉に入っている。 良い湯加減で、日々の疲れも吹き飛ぶようだった。
「湯加減はどうですか?」
何処からか清姫の声が聞こえる、丁度良いと伝えると清姫は
「でしたら次はお背中を流しますね」
といつの間にかマスター後ろに姿を現した。 さすがストーキングのスキル持ち、全くマスターに気配を悟られず背後へと回ってた。
「_______!!」
「ふふふ、そこまで驚かなくても良いではありませんか、今は私達は恋人なのです、一緒のお風呂に入っても可笑しく何てありません」
そういう問題ではないと焦るが、マスターもどこかでは混浴する予感はしていた。 あと期待もしていた。
「意外に、背中が大きいのですね……」
「______!?!?」
後ろから手を回され、抱きしめられるマスター。 柔らかい感触が背中に当たり、清姫のため息めいた吐息が耳にかかる。 青少年の何かが危ない状況であった。 清姫は着痩せするタイプである、普段は着物で隠れているが、なかなかに大きい。 フェルグスの叔父貴が反応していたので間違いなく女の体としては極上なのだろう。 マスターの顔は真っ赤である。
しかし当の清姫は悲痛な声で、ある願いを言った。
「お願いがあります、
清姫はそういいながら強く抱きしめる。 しかしながらそれは不可能に近いことは清姫自身が分かっていた。 所詮は自らが強請ってもらった今日一日だけの権利、目の前のマスターは優しい、優しすぎる。 これが他の誰かなら嘘でも愛してると言ってくれるだろう、だが自分は嘘を許すことが出来ない。 自分を悲しませないための嘘でも一切許せず、目の前の愛する男を燃やしてしまうだろう。 そしてそれを理解している目の前の愛すべき男は自分を悲しませないために嘘を付けないだろう。 どちらにせよ清姫はその言葉を聞くことは出来ないのだ。
初めて清姫は自分の願いを後悔した。 その言葉を聞きたいがために、今日マスターに無理を聞いてもらったのに、その言葉が出ることは無いことは分かっていたのだ。 自分の気持ちに嘘ついたわけではない、偽りで塗りつぶしたわけではない。 心のどこかで希望を持っていたのだ、マスターがその言葉を本心から言ってくれるかもしれないと。
「________」
だがマスターはただ何も言わず、清姫の手をそっと握るだけだった。
「
そういって清姫は悪戯っぽく笑う。
あの後二人はマスターのマイルームまで一言も話さなすことはなかった。 このドアが閉められると、明日からは元の通り、バーサーカーらしくまたマスターを追いかける日々である。
「今回で、
その建前まだ続いていたのかと苦笑するマスター、二人して笑い合う。 なんだか二人ともぎこちない笑い方だった。
「そ、それではお休みなさい。
_____やはり、自分は愛したものからは愛されないのだ。
清姫は流れそうになる涙を押しとどめる。 ここで涙でも流してしまえば、今日の楽しい思い出は全て嘘になる。 それだけは嫌だった。 あの日のように駆け出そうとする、あの日とは逆に愛する者から逃げるために。 今日この日を良い思い出にしておくために。
だが、マスターはそれでは納得できなかった。
「______!」
「えっ、きゃっ」
清姫の手を掴むと、強引にマイルームの中へと引きこむ。 マイルームドアが閉まり、電気もつけられていない部屋で二人だけが抱き合っている。 目の前の相手の顔が辛うじて見えるほどの暗さだった。
「____なに、を……」
突然の出来事に顔を赤くして困惑する清姫の目を見据えると、マスターは深呼吸し、言葉を放った。
「_______愛してる」
「は、はいっ、んむぅっ……!?」
間髪入れずに、清姫の口を奪う。 なんせ自分から口づけをする経験は初めてであり、ぎこちないがそれでも恰好はついてはいただろう。 初めてのキスの味がニトロの味というのも悪くは無いとマスターは思った。
別に清姫に同情したわけでもない、憐みを抱いたからでもない。 狂っていても、生前の人間と重ねていても、自分を慕ってくれる人が今日一日だけでも愛してくれと、それが自分でも不可能と知りながらも願ってきた、だったらこっちも全力で相手を愛すべきだと、そう思っただけである。
今日一日、この時間だけでも何もかも忘れて目の前の相手をただ愛そうと思っただけである。 それにマスターも少なからずとも清姫を思っていた。 ならそれだけで十分じゃないか。
「はぁ、
清姫が涙を流しながら、何度もマスターと口づけをする。 清姫の涙は驚くほど暖かく、その情熱的な口づけは両者とも赤く火照させる、まさに焔色の接吻だった。
そのままもつれ込むようにベットへと倒れ込む。
「________」
「はぁ、はぁっ……あの……」
マスターから押し倒されるような体勢になった清姫がマスターの顔を見る、顔は上気して赤く、いつもは優しい青い目がなんだか獣の様だった。 何を求められているのかが察しが付き、清姫の顔がさらに赤くなる。 なんだかんだで清姫もそっちの方面は、まったくもって経験が無い。 どうなるだろうか予想もつかない。
だからこう言うしかなかった。
「_____優しくしてくださいね……」
_____________清姫の明日はどっちだ
序盤は朝に寝ぼけながら書いて、後半は夜中に深夜テンションで少女マンガ見ながら書いた結果です。 これもう恥ずかしくて見直せねぇな!
清姫のバーサーカー具合が足りないと思いますが、意中の人を掴んだら普通に嘘をつかなければ良妻になるんじゃないかというイメージで書きました。
誤字脱字、ここ設定チガウなどのご指摘、ご感想はバンバンお送りください。