カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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お菓子に目が無い茨木と、可笑しな集団との話。

深夜。 サーヴァントも眠る_サーヴァントに睡眠は必要ないのだが_丑三つ時、誰もいないカルデアの食堂に影が一つ。

人のモノではない大きな二つの角、燃えたぎるように赤く、武者鎧を容易く切り裂く爪をもつ手足。 そして金色に輝くばかりの美しい長髪。 見よ彼の者は人ではあらぬ、人から奪い、人を攫い、人を食す。 見よ彼の者は鬼である。 大江山の鬼である。 大江山が大将、大江山の茨木童子である。

そんな鬼が夜更けに人目を忍んで、まるでコソ泥のようにカルデアの食堂に忍び込むのには重大な理由があった。

大江山の鬼がそんな恥を忍んでまでやらなければならぬ理由、それは______

 

「きひひひ、くふふふ、きゃっははははは! あった、あったぞ! あっぷるぱいとやら!」

 

洋菓子(スイーツ)探しであった。

 

「うむ、どうなつにぷりんもあるな……くふふ良い、良いぞ! 正にここは宝物殿! 洋菓子の宝物殿よ!」

 

既に片手にはこの頃教えてもらったココアを注いだコップを持っている。 これはココアパウダーと同じ量の砂糖を入れ、溶かし、更に生クリームと牛乳を入れて甘々にした特別レシピである。 マスターがレイシフト中の疲労回復のためにエミヤから教えてもらった秘伝のレシピで、どんな疲労も一発で吹っ飛ぶのだ。 作り方はマスターやエミヤは頑として教えなかったため、時々温めにして飲ませてもらっていたフォウ君から聞きだした。

 

「旨し。 ココア旨し」

 

過酷なレイシフトに於いて粉末ココアは志気向上薬に属す。 今飲んでいる鬼は只の甘いもの好きなだけであるが。

 

「おのれあのマスター(人間)め、あっぷるぱいはあの緑の狩人の物だから駄目だと? ふん、そんなことをはいそうですか、と素直に聞く鬼がいるものか! 鬼を何だと思っておる、幼子と同じような扱いをしおって……おぉ! これは見たこともないチョコレート! 吾が美味しくいただいてやろうではないか……」

 

エミヤ達が日々のおやつ用に作って保管している冷蔵庫から、両手で抱えるほどの洋菓子を持ちご満悦の茨木童子。 おそらく翌日にはデザート盗難という第一級カルデア法違反者として山狩りならぬカルデア狩りによって捕縛、粛清されるだろうが、今の茨木童子にはまったくもって知りえぬことであった。

 

「ふふふ、大量大量。 奪いたいだけ奪い、食えるだけ食う。 これが鬼の醍醐味よ!」

 

それでいいのか鬼の醍醐味。 上機嫌に鼻歌を歌いながら食堂から出ようとした瞬間。 何者かの気配を捉えた茨木童子は素早く厨房へと入りその身を隠した。 流石の鬼である、一切気配を感じさせぬ見事な隠れ方であった。 その両手にスイーツが無ければ。

 

「あら? 誰かの声が聞こえた様な気がしたのですが……まぁいいでしょう、議長である私が遅れては示しがつきませんし……」

 

食堂へと入ってきたのは、カルデア一正直な乙女(本人談)清姫であった。 何時もとは違う漆黒の着物を来ており、食堂に入ると何もせずに手に持っている蝋燭の明かりだけをつけ、席に着いた。

 

「なんだ? あやつもすいーつを食べに来たのではないのか……何にせよあやつ一人なら気付かれずにここから……ん?」

 

ココアが冷めぬ内にと食堂から気配を消して出て行こうとした時、またも食堂に誰かが入ってきた。 人間ではない事は確かだが、只でさえ暗いうえになぜか「母」と書かれた紙袋を被っており、誰だか判別がつかない。 何にせよ恰好を見る限りまともな奴ではなさそうだ、と茨木は自分の今の姿も顧みず思った。

 

「あら、あらあら。 議長、お早いですのね」

 

「これはこれは、いつも一番手に来るとはさすが『まざぁ』様ですね」

 

「いえいえ、名誉会員としてこれ位は……あら、他の皆様もおいでになられたようですね」

 

すると二人だけではなく、ぞろぞろと数名が食堂の中に入ってくる。 どれも紙袋を頭に被っており、なんだか怪しい宗教集団のようだ。 なんだか茨木は即刻逃げ出したい気分になったが、なかなか食堂にいる謎の人物たちは手練れの気配を持っており上手く逃げだせる機会が掴めない。 なので茨木はこの怪しげな集団が食堂を去るまで厨房に隠れるしかなかった。

 

「皆様、集まりのようですね。 今回はめでたく新しくこの会合に加わったメンバーを紹介いたします。 毒、こちらへ」

 

清姫は、皆が着席したことを確認すると一人の女性を紹介した。 清姫に呼ばれた女性が前に出る。なんだか褐色な肌色に、黒い衣装に青い花を一刺ししていて、「毒」と書かれた紙袋を頭に被っていた。

 

「あの……初めてお呼びにかかりました。 毒と申します……今回はきよひ、議長からお誘いを受けてきました。 あの、よろしくお願いします」

 

周りから小さく拍手が送られる。 毒と呼ばれた少女はあまり人前に出ることが慣れていないのかいそいそと自分の席に戻っていった。

 

「それでは、早速今回の議題に移りましょう。 毒さんは初めてですから無理をせず、嘘をつかないようにゆっくりで結構ですからね」

 

議長と呼ばれている清姫が何処にしまっていたのか、プラカードを出すと机の上に立てた。

 

「今回の議題は、『旦那様(ますたぁ)が時々見せる男らしい姿』です!」

 

「おぉー」

 

「は?」

 

思わず茨木から声が出た、出さずにはいられなかった。 なんだこの集会、大江山でもこんな間抜けは集まりはなかったぞ。 なんぞこれ……なんぞこれ……茨木の頭に疑問が次々に浮かんでは消える。

 

「今回は、大人しめだけれどいざという時には熱くなったり、夢中でふざけたりする旦那様(ますたぁ)の、時々見せた胸が高鳴る男らしい姿を報告していただきましょう!」

 

「じゃあ、まずは僕たちが」

 

手を挙げたのは二人のサーヴァント、背の高い方は「海」、背の低い方は「賊」と書いてある袋を被っている。

 

「この前に、レイシフトの事故で南国の島に遭難した時の話なんだけど」

 

「その時にメア……賊さんが何かに引っかかって転ぼうとした時ですわ」

 

「その時に、マスターがとっさに僕を抱きかかえてくれてね。 マスターって意外と筋肉あるんだよ? 知ってた? その時はマスターも水着だったから、胸板に密着してね。 あぁこの子も男なんだなぁ……って」

 

「その後に私も転びましたけど、その時はさすがに支えきれずに一緒に倒れてしまいました。 まぁその後は……ふふふ」

 

「最後が何か気になりますけど……なるほど、それは中々乙女心にくるシチュエーションですね……」

 

食堂の各々が二人に賞賛を送る、ぶっちゃげ皆紙袋被っているので何かの儀式にしか見えない。 怖い。

 

「じゃあ次は沖……桜さんがいきますよー!」

 

勢いよく手を挙げたのは「桜」と書かれた紙袋を被った、和服姿のサーヴァントだった。 なんだか紙袋の口元らへんが赤く染まっている。

 

「この前に一緒にマスターと一緒に模擬訓練を行った時の事です! その時は桜さんも一緒だったからなのか、高難易度の訓練も難なくクリアーし好成績を残せました! そして休憩時に、汗をタオルで拭きながら水を飲むマスターの姿がなんだか色っぽく見えたんです!」

 

「……それだけですか? 確かに水も滴る旦那様(ますたぁ)……と言いますが、海賊さんコンビと比べると……」

 

「いいえ、これからです! それで、休憩中に私の病弱スキルが発動してしまってまた吐血してしまったんです。 そしたらマスターがすぐに駆け寄って抱きかかえてくれて……そ、そして自分が飲んでいた水をわ、私の口にッ!!」

 

「なんと……!」

 

何人かの紙袋が席を立ちあがる。 食堂がざわめきに満たされ、清姫がテーブルを扇子で叩き静粛を促す。 それほど衝撃な出来事だったらしい。 マスターからすれば無意識にやったことだろうが、それが実際性質が悪かった、こっちのアプローチには気付いて流す癖に、自らアプローチしたときマスターは殆ど無自覚である、自らが人間誑しだと気付いていない。

 

「だったら俺も、マスターと無人島の時に一緒の寝床で寝たぞ!」

 

と袋に「サモ」と書かれたサーヴァントが声を張り上げた。

 

「だったら、私も子イヌと一緒に一緒の宿屋に泊ったわよ! 何にもなかったけど!」

 

その次は「鰤」と書かれた紙袋を被る、水着か鎧か分からない衣装のサーヴァントがカミングアウト。 場は一層盛り上げを見せた。

 

「静粛に! 今回の議題は旦那様(ますたぁ)が見せる男らしい姿ですよ! まったく、それはそうと先ほどの二人の発言が嘘では無いことが分かったので問い詰めてきてもいいですか?」

 

なんだかんだで一番落ち着いていないのは清姫だった、先ほどから口から火がチロチロと出ている。 いつ転身火生三昧(ばくはつ)しても可笑しくない状況である。

先ほどからうんざりとしている茨木がさらにうんざりした。 一体何なにやってるのだこやつ等、そんなに欲しいなら奪えばいいではないか、英霊共がなんとなさけない。 と。

 

「ならば、私が……」

 

場を元に戻すように、「無当選」と書かれた尻尾が生えたサーヴァントがおずおずと手を挙げた。

 

「私が部屋で過ごしていると、突然マスターが部屋に来た。 マスターがあちらから部屋に来るのは珍しいことだとは皆知っていると思うが、手にアップルパイを持っていてな。 どうしたのか聞くとなんとマスター自らが作ったというではないか。 何時も世話になっているからと私のために他の英霊に作り方を聞いてまで手間をかけてくれたのだ。 その時のマスターの笑顔と私に隠そうとする絆創膏だらけの手がいまだに忘れられない。 他と比べると男らしい姿ではないとは思うが……私はそういう所があやつの一番良いところだと思うのだ」

 

部屋が静まり返る。 清姫も、周りの紙袋も皆、頭を覚ましたようだった。 飽きれていた茨木も、少し驚いた顔をしていた。 あれ?じゃあこのアップルパイ誰の? と。

 

「そうですね、そういう所が旦那様(ますたぁ)の良い所ですもの」

 

「誰が良い思いをしたかで争っているのではあの子の良い所を見つけられませんものね」

 

各々がしみじみと思い出す、サーヴァントの自分に親身になってくれたマスターの事を忘れて自分の事ばかり語っていた。 そういう所に信頼を置いたのに。と

 

「そうやねぇ、旦那はんはそういう所が一番男らしいわぁ。 どこかの鬼がそこの無当選はんの洋菓子愚図るもんやから、仕方なく苦労してもう一つ作るところかなぁ……なぁ茨木?」

 

気付くと茨木の後ろに「酒」と書かれた紙袋を被った、恰好が過激な幼子型サーヴァントが立っていた。 紙袋からなんだか角っぽい物が飛び出ている。

 

「その声、もしかして……」

 

「盗み聞き、趣味が悪いわぁ……あとその両手にえらい乗ってる甘味、それはこの後皆で食べるもんやって……しっとった?」

 

「いや、あの、その……これはその……」

 

「酒」の字がどんどん赤く光る、逃げようとするとすぐ後ろには、紙袋たちが囲むように立っていた。 それぞれ開いた穴から鈍く光る目が除く。

 

「いや、まて話せばわかる! そ、それに酒呑の話ではこのあっぷるぱいは吾のもの……」

 

震える茨木に紙袋たちがじりじりとにじり寄る。 食堂のドアがゆっくりと閉まっていく……

 

「お、おうちかえるーーー!!」

 

_______茨木童子の明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 




うむ、分かる人には分かるであろう紙袋たちの密会。

すまない、今回も途中で無理矢理終わらせた感じがあるが許してほしい。


誤字脱字を報告してくれる皆さん、いつもありがとうございます。 お世話になっています。

感想を書いてくれる皆さん、ありがとう。 このシリーズは貴方たちの優しさで成り立っています。

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