「やっぱJKと言えば女子会っしょ!」
ある日突然そう言いだしたのは、この頃カルデアに召喚された一人のサーヴァントであった。 美しい山吹色の髪をなびかせた古き日本の小町を思わせる美少女は、その頭の天辺と腰の先にそれぞれ狐の耳と尻尾が生えている。
服装はと言うとこちらは古き日本と言うよりかはちょっと古い
その名は鈴鹿御前、「鈴鹿の草子」や「田村の草子」等々で登場する女丈夫であり、またの名を立烏帽子。 本来の性格はJKにほど遠く真面目でアンニュイな委員長らしいのだが、何があったかギャルギャルな女子高生を本気で演じている。 因みに彼女を象徴する立烏帽子は滅多に付けず、簪を専らつけているのだが本人からすると「自分が何を着てもそれが『立烏帽子』スタイル」だと開き直って主張している。
そんな鈴鹿御前がいるのは、人理継続保障機関カルデアにある食堂である。
料理長
そんなカルデアの食堂は今日はいつもの様子とは違いなんだか華々しい。 テーブルに並べられた夕食の数々はバイキング式で、どれもヘルシーながら味も良く、オシャレに盛り付けられており、中には芸術品の様なお菓子まで置かれている。
席に座っているのは皆女性であり、職員やサーヴァントたちが垣根なしに談笑しながら中にはお酒を嗜んでいる物や嗜み過ぎて多少酔っぱらいと化している者もいた。
右を見ても美女、左を見ても美少女と桃源郷のような光景にフェルグスなどが突入しても可笑しくなかったが、今日は食堂に男子が入ろうとすると結界により一日眠ってしまうほどの電流が体に走る様になっており、黒髭とダビデがその餌食になっていた。
正に男子禁制の乙女の花園、女性の女性による女性のための会、略して女子会である。
女子会を発案したのは鈴鹿御前であった。 今どきのJKは女子会と合コンだと、唸るマスターの協力を無理矢理取り付け、ダ・ヴィンチちゃんから許可証を貰い、エミヤに許可を貰い、カルデア中の女子たちを集めて何とその日に開幕を宣言、宴は知れど「女子会」なんて知らないサーヴァントや日々の激務から解放された職員の耳に入り、鈴鹿御前の想定していた人数の約二倍の人数が集まり女子会ならぬ「女子宴」が此処に開催を宣言されたのであった。 _因みに合コンはメンバーによってはカルデアが壊滅しかねるのでまた後日となった_
「それで、マシュちゃんはマスターとはどんな感じなのさー」
「それは私も気になるわー、見ててほっこりするもの貴女達」
「どんな感じと言われましても……いつも通りで特に変わったことは……」
その中でマシュは、お酒でいい感じに仕上がっているブーディカとマタ・ハリから絡まれていた。 普段大人な二人であるが、誰かの恋の話になるとそれはもうお見合いを進めてくるおばさんのようにちょっかいをかけてくる。 更に今日はお酒も入っているため、更にねちっこくマシュに絡んでいる。
「ちがーう、そうじゃなくて。 進展したの? あんなに一緒にいるんだからもうそろそろ一歩先を踏み出したっていいんじゃないの?」
「それ私も気になるわ! 実際の所どうなっちゃってるのかしら!」
「一歩と言われましても……」
その話を聞きつけたのか、三人目のお節介焼きであるアイリスフィールがとてとてと近づいてくる。 遠くではイリヤとクロが溜息をついており、どうやら先ほどまで大いに絡まれていたようであった。
「好きなんでしょ? あの子の事!」
「す、好き……確かに尊敬していますし、大事な人だと思っていますが……私の様な地味な人間が……」
マシュは「好き」という気持ちをあまり自覚できていなかった。 人理が救われたあの日、マシュの心の庭に一粒愛と言う花が芽を出してきたのは彼女自身が自覚しているほどに事実であるが、それを育てる恋の太陽からの日差しが足りなかった。
そもそもマシュは自分を過小評価する癖があった。 周りが大人な母性の化身のような女性だったり、その美貌を武器にしていたアサシンや、世界三大美人の一人などがいたらそれは自己の評価も低くなるだろうが、マシュもまた何処に出ても恥ずかしくない立派な美少女であり、可愛らしい乙女なのだ。
「もーう、マシュちゃんったら貴女も十分可愛らしいのよ? まったくこんなかわいい子を不安にさせるなんてあの子もなんだかんだで罪作りねー……」
「まぁお姉さんがマスターに意識的にアプローチしろって言っても無理だろうし……」
「それは……まぁ、ねぇ……」
結局のところマシュが一歩前進するより、マスターがマシュに一歩近寄ればいい話のなのであるが、女性に関しては酒呑童子曰く「小僧と同じか下手したらそれ以下のおぼこ」なマスターにはある意味世界を救うより無理難題なのであった。
の割には何処かでサーヴァントを召喚してはフラグを引っ提げてくる。 相手に意識だけさせておいて自分だけ無意識とはキープをしまくる恋多きやり手の女子高生みたいなマスターであるが、面白がって異性へのテクニックを教えている男サーヴァントたちにも原因はある。 無駄に覚えが良いので結構活用しているのだ。_無論性質悪く無意識に_
「じゃあもう、後ろからぎゅーっ! ってやっちゃえばいいじゃん! 言葉で伝えにくかったら行動で示すしかないし!」
さらに恋バナと聞いてJKなセイバーである鈴鹿御前が首を突っ込んでくる。 その後ろからは呆れ顔満点にもう一人の狐である玉藻の前=タマモが頭を抱えながらついてきていた。
「んで、更にチューでもすれば一発っしょ!」
「まぁ、情熱的ねー。 でもあの人も結構情熱的だったわねー……三年目の頃だったからしら?」
「へぇ、アイリさんって意外に奥手だったんですねぇ。 旦那様と付き合って三年目です?」
「いえ、生まれて三年目かしら?」
「リアル源氏物語!?」
玉藻が尻尾を逆立てて驚愕するその後ろで、事情を良く知らない娘二人は父親の異常性癖だと勘違いして世界の向こうにいる父親に向けて若干軽蔑の視線を向けている。 届いているか分からないが届いていたのならば風邪の一つでも引いているのかもしれない。
「偽狐はああ言ってますけど、言葉に乗せて伝えるのは大事な事ですよ? それこそ『お前が好きだ、お前が欲しい!』みたいな事を叫びながら伝えたってマシュさんからだったら喜んで落ちちゃうと思うんです」
「そ、そんな海中武闘伝G人魚姫みたいなこと言えません!」
「何その人魚姫!?」
G人魚姫とはアンデルセン先生が提案しバベッジ先生の協力の下執筆された、旧三部作とはまるで作風が違う人魚姫である。 歴代人魚姫のファンからの評判は悪かったが、サブキャラである円卓無敗などのキャラクターや熱くて王道な展開は低学年サーヴァントにも受けて徐々に人気が出始めた作品であった。
「ま、まぁG人魚姫はともかく自信を持つことです。 このまま下向きで何もせず過ごしていたら周りにすぐ盗られちゃいますよ? まぁ別世界の私は旦那様を無事ゲットできましたが。 そこの偽狐と違って?」
「はぁ? そんなこと言うなら私にだって月にカレシいるし! てかここでのアンタは脳内旦那様しかいない何時かは結婚できると思っているアラサーみたいなもんだし!」
「はぁ!? まだアラサーじゃありませんし! これだからのべ別世界384,400 kmの超距離恋愛の良さが分からないJKは……それだったら貴女だって彼氏出来なくて焦ってるなんちゃってJKでしょうが! 合コンとかほんもんの狐になって出直してくださいまし!」
「はん、言っとくけどアンタみたいなの合コンしたら酢豚に入っているパイナップル並にウザがられること間違いないし!」
「んなっ、乙女に向かってパイナップルイン酢豚とか、なんという侮辱! ムッキー! あったまきた!」
「お、お二人とも落ち着いてください!」
「えーお姉さん意外と好きだけどねパイナップル」
「そういう問題じゃありません!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ狐二匹を落ち着かせようとするマシュ。
__先輩が、私の心の中を覗いてくれれば良いのに。 それだったらこの胸を締め付ける思いを解いてくれるに違いないのに
全体宝具持ちの鈴鹿御前を羽交い絞めしながらマシュは、この場にいない自分の先輩に思いを馳せる。 何故だか今すぐにでも会いたくなってくる。
__先輩は今何をしているのでしょうか。
「だから俺は思うのだ! 筋肉と美女に出会う確率は比例していると!」
「なるほど! 数学的ですな! やはりすべては筋肉に帰結する!」
「ねーよ」
「______」
その頃マスターは自らの部屋で筋肉たちに囲まれていた。 右を見れば細マッチョ、左を見てもゴリマッチョ。 正に筋肉の楽園、マッスル天国である。
余りの暑苦しさに礼装でかけていた眼鏡が拭いても拭いても曇っていく。
原因は、食堂が今日だけ女性専用になって飯のありつきに困ったサーヴァントたちがマスターの部屋に押し掛けたのが原因であった。 一人用に作っていた夕食は相手が女子会ならこっちは男子会だとマスターの部屋で勝手に宴を始めた男たちのつまみに持って行かれ、部屋の主はおつまみを作る使用人へとランクダウン。 今では一緒にマッスル達に囲まれて酒臭い空気と共に自分で作ったおつまみをハムスターのようにかじっている。
「応、マスター! ここにきて大分経ち、お前を慕う女もいることだ。 一人や二人は抱いた頃だろう?」
「____!」
と、先ほどまでレオニダスと筋肉統一論を話していたフェルグスがマスターの肩を組んで豪快に笑いながらとんでもないことを聞いてきた。 大きな手で肩を叩いてくるから若干痛い。
余りの唐突さにおつまみを噴き出そうになりながらマスターが否定すると、その眉を八の字にしながら唸り始めた。
「……もしかして、そっち系か? それだったら俺と……」
「______!!」
更に必死にマスターは否定する。 止めて熱い目で見ないで。 これが冗談ではなく本当にやるのがフェルグスである、マスターはバレンタインの時に渡された部屋の鍵を未だに返せていないのだ。
「はははっ! 冗談だとも、まぁ冗談でなくても良いがな……全く勿体ない、お前だったら頼まずともあちらから絶世の美女たちが来るというのに。 自らチャンスを棒に振るのか?」
「____……」
「頼んでも止めてくれない? ……まぁ、そうだな。 じゃあマシュ嬢はどうだ? 一夜過ごすとはいかずとも熱い口づけなどは交わしても良い頃ではないか?」
それこそ無理だとマスターは笑う。 マシュは大変可愛らしく素敵な女の子だが、何より大切な後輩であるし、傷つけたくない。
だがそのことを伝えるとフェルグスはさらに口まで八の字にして唸り始めた。
「そりゃあ傷つけるのはいかんが、恋人という物は傷つけあうものだし、愛とはその傷で出来たかさぶたのことを言ったりするのではないか? 一回傷つけるのを覚悟して思いっきり抱きしめてみたらどうだ? きっと良い結果が」
「____……!」
「いやいやマスターが自分から女性を抱きしめるとかカルデアの終わりですって。 いや比喩じゃなくてホントに」
マスターが顔を赤くして首を振ると、その後ろから右手にビールを持ちながらロビンフッドが姿を現す。 このアーチャーも自他ともに認める恋の狩人であり、この間メドゥーサを口説いて撃沈していた。
「こういう時は恋文ですよ旦那。 一枚の紙に出来る限りの表現使って愛を伝えるって寸法で、これをして落ちなかった町娘はいませんって」
「それって下手したらストーカーから来た怪文書と間違われないかネ?」
「黒幕おじいちゃんは余計な事言うなっての。 まぁどうだマスター? あれならマシュの嬢ちゃんなら十分伝わると思うんだが?」
自信たっぷりに語るロビンフッドだがそもそもマスターはマシュに愛を伝えるとは一言も言っていない。 それなのにいつの間にかマスターの周りにあーでもないこーでもないとサーヴァントが集まって議論し始めた。
「こういう時は花束じゃないかな? 花ならほら私の足元にたくさん咲いているしね」
「いや、素直に告白が一番だろう。 余がシータにしたときはいや毎日のように伝えていたが」
「アビシャグればいいんじゃないかな?」
「いえ、ここは騎士の頃のようにダンスを洒落込むのは……」
「■■■■■■____!」
「むやみなプレゼントは危険ですマスター!」
「イケメンは黙っとれー……」
「マスター!?」
もはやバーサーカーしか真面目な事を言っていないような気がする空間にマスターは辟易してきた。 というか周りに筋肉が密集してきてなんだか意識が朦朧として来ていた。
なんだかんだで人と言うのは自分以外の恋に首を突っ込みたがる生き物である。 他人事と思って、とマスターは心の中で思うがこれが自分ではない誰かの恋バナであったならマスターも喜んで首を突っ込んでいたのは間違いなく、強く言えない。
マスターの恋バナをつまみに男子会はさらに筋肉密度を増していく。
それこそマシュがマスターの心を覗いてくれればそれで済む話なのだが、そんなことは出来はしない。マスターは少しだけ胸が締め付けられるような感覚に天井を見て、なんだか無性にマシュに会いたくなっていた。
__マシュはいま何をしているのだろうか……
__二人の明日はどっちだ。
「待て待て、なぜ私はどっちの会にも入れないんだ!?」
一人の白百合の騎士が静まった廊下で叫ぶ。
「うーん、どっちにも異性だと判断されてるんじゃない? 僕も出来なかったし!」
一人のセーラー服を着たピンク髪が笑いながら答えた。
「いや可笑しいだろう!? せめて体を女にしているのだから女子会には居れてもいいだろう?」
「性別がどっちでもなれるというのは不便な事だね、自分も体を男のそれにしてみても男子会は駄目だと言われたよ」
緑色の髪をした人物が興味深そうに自分の体をまさぐっていた。 その胸が大きくなったり小さくなったりしている。
「いいじゃん、いいじゃん! このまま僕たちで男女会といこうよ! 似た者同士でさー!」
「いや貴方は明確に男だったはずではないか!? ちょっとまって、引っ張るな! 私は違うー!! 似ていないー!!」
引きずる音が聞こえて、三人の姿が廊下の向こうへと消えていった。 白百合の騎士は若干涙声であった。
これは誰も知らない物語、性別とか特攻とかいろんな意味で。
__白百合の騎士の性別はどっちだ。
久しぶりに山もなく落ちもない話!
メイドデオン君ちゃんに鼻血を出したこの頃。 あんなん秘境ですわ。
次回から多分アガルタのサーヴァントも出ますが、表記はネタバレ防止の真明では表記しません。
でも一応ネタバレ注意です。
感想&誤字報告ありがとうございます。 今回は特に誤字が多かったです。 すいません……
お詫びにオリジナル笑顔送りますね。
次回は試験があるので少しばかり更新が遅れるかもしれません。