カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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新宿のサーヴァントネタバレ注意です。


リリィパンデミック! アラサー紳士編。

 

 

 

 

 

 その日マスターはとても珍しいことに自分から目を覚ました。 寝ぼけ眼で時間を見てみると朝の六時過ぎごろ、マスターが自分でも珍しいと思うほど早起きであった。

 珍しくというのもマスターはかなりの寝坊助であるからであった。 毎朝マシュが起こすか、その他のマスターの私室に潜り込んだサーヴァントなりが起こすなりしないといつまでも暖かな布団の中で安らかな眠りについてしまうのだ。 これが大人数のサーヴァントの契約したことによる副作用なのかそれともただの体質なのかは誰にも分からなかったが、日々ガードが固い彼が寝起きの時に限っては甘くなるので日々特定のサーヴァントたちが彼に愛の物理的モーニングコールをしようと争いを繰り広げられているのは確かであった。

 

「起きたか。 お前にしては珍しいことだ……まぁこの状況では仕方のないことだが」

 

 暗闇の中から若い男の声が聞こえる。 姿形は見えぬが、その声だけでマスターには誰かが分かって優しく返事を返す。 彼ならば自分の部屋にいつの間にかいたとしてもなんら可笑しくないからだ。

 

「アヴェンジャー……」

 

 眠そうな声で姿形の見えない男の名をクラス名で呼んだ。 マスターはサーヴァントたちを基本真名で呼ぶ、カルデアには数十名のサーヴァントが召喚されており同じクラスも重複してるため戦闘の際指示に支障が出ないようにするための措置なのだが、この姿の見えない声の主だけは別であった。

 男の真名を巌窟王エドモン・ダンテス、復讐者(アヴェンジャー)のクラスを冠するこの男は生前は復讐を持って悪を断じた男であり、マスターとは特別深い縁を持ったサーヴァントでもあった。

 初めて出会ったのにも関わらず親しい雰囲気を醸し出す二人に、とあるサーヴァントたちは大きな危機感を持つぐらいである、一体どこで出会ったのかと聞くとマスターは笑って夢で出会ったというばかりであり、そんな少女マンガ的な答えが返ってくるとは思わなかった某サーヴァント達は青ざめるばかりである。

 

「_____?」

 

「いや、コーヒーは俺が入れよう。 それよりもあまり体を動かすな、()()()()

 

「____!?」

 

 マスターがふと隣を見ると、ひとりの少女が寝息を立てていた。 背は小さく綺麗な長髪をしていて年齢はジャックやナーサリーと同い年ぐらいであった。

 少女はぐっすりと眠りながらマスターの腰にしがみついており、マスターは全く見たこともないサーヴァントに困惑するが、エドモンはその光景に小さく笑う。

 

「まるで見たことがないと言いたそうだな。 いや、確かに見たことはないだろうな、だがあちらからしたらお前の事を十二分に知っている。 そら、顔を良く見てみろ」

 

「_____?」

 

 エドモンの言うとおりマスターが子供の顔を良く見ると何だか見知った顔に似ていることに気付く、有り得ないと思いながらも頭を撫でてみると二つの小さな角がその頭についており、その疑惑は確信へと変わった。

 

「____清姫……」

 

 だがそれに気づいたことで増々マスターは困惑することになった。 元の清姫とは小さすぎるのだ、これではまるで___

 

「気付いたようだな、そうとも()()()()()()。 あり得ないことにサーヴァントがだ」

 

 エドモンが、コーヒーを持ってマスターにその姿を見せた時マスターは今度こそ息を飲んで驚いた。

 

「そして、そう、この現象はどうも無差別らしい」

 

 若返っていた。 小学生高学年ぐらいの背になり、長いネクタイをぶら下げた少年がそこに立っていた。 入れたてのコーヒーをマスターに渡すさまは小さい従者の様でとても信じられなかったが、この口ぶりは間違いなくマスターの知る巌窟王であった。

 

「コーヒーを飲んだら起きるがいい、今日は大変な一日になるだろう」

 

 そういって少年らしからぬ凶悪な笑みを見せた。 なるほど自分の昔の姿を見させられるというのは中々に巌窟王には気に障ることらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日カルデアは混乱に包まれていた。 まず驚愕したのは朝食を作るために厨房へと立ったエミヤであった、彼は自分の姿を鏡で見たとたんその自分の姿に悲鳴に近い声を上げた。

 その栗毛で童顔な少年に自分が戻っていると気付いたエミヤは姿を消して自室へとひきこもり部屋から出てこなくなった。

 その次に坂田金時が金太郎になってしまい、高校生ぐらいの年齢になった頼光が_だがその胸は豊満であった_暴走。

 ブーティカは目つきの悪い少女になり_その胸は豊満であった_、アン・ボニーも縮んだ_その胸は豊満_がなぜかメアリーは傷が少なくなったぐらいでその容姿は変わらなかった。

 更に小さくなったネロ・クラディウスを見た若くなったカリギュラが卒倒して緊急治療室へ運ばれ、カエサルは著しく痩せてしまい、クレオパトラが気絶してしまった。

 その対応に追われた職員たちはこの前例のない事態に右往左往するばかりで、そればかりかサーヴァントとしての能力はそのままであったので止めようとしても止められず、増々場は混乱するばかりである。

 

「おかわりです」

 

「おかわりだ」

 

「おかわりを」

 

「おかわりします!」

 

「おかわり……」

 

「は、はい! 唯今! これがあの王で、この杯が……」

 

「これどれがどの父上なんだ!?」

 

 そして混乱しているのは職員だけではなかった。 カルデア食堂で食事をしているのはアルトリア・ペンドラゴン達である、最早残すのみはキャスターだけとなったこの最も多い同一人物の集まりもまたリリィがすでにいるのにも関わらずリリィ化現象に巻き込まれており、さしもの臣下たちも困惑していた。

 これまではその王としての在り方や真に失礼ではあるがその身体的特徴によって判別が出来ていたのだが、リリィ化してしまったことにより更に見分けが付けづらくなったのだ。

 辛うじて見分けがつくのが、リリィ化してもまだ大人びた少女で若返りが止まったロンゴミニアドを抜いて成長することが出来たアルトリアである。 が、服もご丁寧にリリィ基準になって甚だ見分けずらい。

 そして困惑する臣下たちも若返っており、モードレッドは小さな少女に、ガウェイン卿は齢十五程度の少年に、そしてランスロット卿はロン毛になっていた。 皆が皆自分の知らない顔になっているのでいちいち驚きながら友に接する光景は何処か喜劇を思わせるが本人たちにとっては混乱極まる状況である。

 

「_______!!」

 

「ましゅたぁ、お腹がすきました……」

 

 と、そこにあの髭は何処だとマスターが怒鳴り込んでくる。 右手には清姫と手をつなぎ。肩にはほうほうと逃げてきた金時改め金太郎が乗っている。 ちょっとしたビックダディであった。

 

「これはマスター! 良かった、貴方まで若返っていては場の収拾ができませんでした」

 

「これはこれは。 ははは、控えめに言って見習い保育士と言ったところですかな?」

 

「______……」

 

 笑い事じゃないと目の前のロン毛にため息をつきながら、元凶を探す。 あの髭の事だし朝は優雅にコーヒーか紅茶でも飲んでいるに違いないと踏んでここまでやってきたのだがどうやら的を外したらしく、その姿は食堂には無い。

 

「おい! マスター! 一体どうなってんだよ! 父上が皆して縮んじまってるじゃねーか! てか俺も!」

 

「_____……」

 

「ばっ、可愛いってなんだばーか!? 頭なでんじゃねぇ! 噛むぞコラ、っちょきいてっておま、なでるなぁ……」

 

 とりあえずモードレッドの頭を撫で回した後、マスターは清姫たちの朝食を用意してから食堂にいるサーヴァントたちに被害状況を確かめながら犯人の聞き込みを始めた。

 エドモンとは別行動での、手分けしての聞き込みである。 _十中八九犯人は分かっていたが_

 結果は朝食を取りに来たサーヴァント達全員が若返っているという状態であり、昨日は一日部屋にいたというサーヴァントたちも縮んでしまっていると言う、だが神様系のサーヴァント達は若返っておらず、またスカサハなどの一部サーヴァントや、元々から小さいサーヴァントなどは若返ってはいなかった。 __クーフーリンによると少しぐらい若返ろうが変わらないぐらいに年を取っているらしい、なおその後クーフーリンはセタンタ再教育コースへとスカサハに連れて行かれてしまった_

 だが、肝心の犯人の行方は知らないらしく、皆首を横に振るばかりである。 そんな時マスターに犯人の居場所を知っているというメドゥーサがマスターに話しかけていた。

 どうやらメドゥーサはリリィ化から逃れられたらしく、昨日偶然厨房で怪しげな人物を見たらしい。

 

「姉上達も元々が神だったからか若返ってはいませんでした。 なので私も影響はなかったのだと思いますが……こちらです、確かこの食糧庫の中で誰かが……」

 

 普段着である黒いセーターを着てメドゥーサに案内されるとそこは厨房の食材庫の中であった。 冷蔵庫に入りきらない食料や、果実などが保管されているこの倉庫の中でメドゥーサは不審な人物を見たらしい。 基本的に料理を作る者しか入らない食材庫の中になんでメドゥーサがいたのかマスターは不思議に思ったが特に追求せずに手がかり探しを始めることにした。

 

「確か……ここ辺りで、何か怪しげな事をして居たような気がします。 何か手がかりを残しているかもしれません、探してみましょう」

 

「_____」

 

 率先して調べ始めるメドゥーサを見てマスターは頼もしさを感じた。 メドゥーサはサーヴァントの中でも屈指の常識人でもあり、英霊ではなく一般人の目線に立って物事を考えることが出来る数少ないサーヴァントであった。

 聖杯戦争に参加し現代と言うのものをその体で感じたことが大きいとメドゥーサは語っていたが、それを抜きしてもマスターにはメドゥーサは落ち着いた大人の女性であり頼りに出来る女性であった。_時々血を吸ってくるのは勘弁願いたかったが_

 それを何気なしに伝えると。

 

「……そうですか、ありがとうございます」

 

 と、不満げな声で返答が帰ってきたのでマスターはしまったと自らの言を後悔した。 メドゥーサは姉たちを美しさの定点としており自らの高い身長などをコンプレックスにしているのだ、メドゥーサとしては頼もしいやかっこいいなどではなく可愛らしいと言われた方が好むのである。

 

「_____……!」

 

「いえ……自分で分かっていますから」

 

 何とかしてマスターは機嫌を直して貰おうとフォローの言葉を選ぶが一向に自体は悪くなるばかりで、マスターは気分を沈ませながらどうやって機嫌を直して貰おうか頭をフル回転させる。 が、マスターの鼻孔にふと花の良い匂いが香ると背中に柔らかい感触と共にいくばかの心地よい重さが圧し掛かる。

 

「ふふ……貴方と言う人はどこまでもお人好しなのですね。 ただ私が勝手に機嫌を悪くしただけで自分の失言だと気を落とすなんて……まったく……」

 

「_____……!?」

 

 マスターはメドゥーサに後ろから抱きしめられていた。 彼女の肌理(きめ)やかで細長い腕がマスターの首で交差し、美しい長髪がマスターの頬をくすぐり花の良い香りで満たすとマスターは見る見るうちに顔を赤くして動揺する。

 

「_____全く、貴様という奴は何処まで阿呆なのだ? 」

 

「_____?」

 

 そういうとメドゥーサのマスターを抱きしめる力が一気に強くなる。 彼女の髪が一束一束集まると、まるで蛇のように形を成していき、マスターの体を締め付けていきマスターは指一本動けない状態となる。

 

「呆れたものだ、人の言葉を信じ切り、疑うこともせぬとは。 それはもはや美徳と言うよりただの間抜けと言うのだ。 そもそも私は神の出来そこないだというのに何故姉上達と一緒でこの身が変化しないと思ったのだ?」

 

「_____!!」

 

 マスターはその変わり様に驚愕すると共にある一人のサーヴァントを思い出した。 この尊大な口調で、マスターを嘲笑う声、そしてこの蛇の様な髪の毛を持つサーヴァントは一人しかいなかった。

 

「___ゴルゴーン……!」

 

「そうとも、やっと気づいたか馬鹿め」

 

 今までマスターがメドゥーサと思っていたのはメドゥーサではなく、メドゥーサに若返ったゴルゴーンであった。 元々はメドゥーサが成長してしまった姿がゴルゴーンであるから、その癖や口調が全て再現されており、マスターを完璧に騙せていたのだ。 姉であるステンノ達が大丈夫ならメドゥーサも大丈夫だろうと信じ込んでしまったマスターの敗北であった。

 

「なるほど、その顔は完全に信じ込んでいたな? 全く、我がマスターならこの私でも見分けがつくだろうと思ったのだが、心底残念だ。 サーヴァントの見分けもつかないとはな、期待外れも良いところだ」

 

「_____……」

 

 わざと心底がっかりした様子でマスターを詰っていくゴルゴーン、マスターが悔しそうな表情を見せるたびゴルゴーンは快感を感じる様にその頬を上気させて、吐息を荒くする。

 冷える食糧庫の中で、体温が上がった二人の白い吐息だけが中に浮かんでは消えていく。

 

「まぁ、良い。 すぐに見分けがつくようにしてやろう……今度こそ間違えぬようにな!」

 

 そういってゴルゴーンはマスターの服を乱暴に破くと、その首筋に口を付けて思い切り歯を立てた。

 

「______ーーーっ!?」

 

 その瞬間マスター視界がまるで目の前で火花が散ったように閃光と暗転を繰り返していく。 マスターの服の中にゴルゴーンの髪がマスターの体をまさぐる為に入り込み、吸いつく口の端からは血が一筋また一筋と流れていた。

 吸血である。 魔術師の血は魔力を短期間ながらこめやすく、それを経口摂取などで魔力を譲渡させることが可能であるが、ゴルゴーンやその姉妹たちは吸血によってその対象から魔力または生命エネルギーを強制的に摂取可能である。 衝動とはいかないものの吸血は中々に癖になるものらしく、ステンノ達はメドゥーサに、メドゥーサはマスターや女性職員などに吸血を度々行っている。

 だがマスターはゴルゴーンからの吸血は初めてであり、そのどの姉妹とも違う痛みと快感にマスターは只々悶える事しかできなかった。 まるで全身の血を一滴残らず吸い取られそうな勢いでゴルゴーンから血を吸いとられていき、マスターは意識が朦朧となり始めていた。

 

「んぐっ……じゅるっ! んふっ……中々に美味ではないか、なるほど姉上達が褒める程度はあるらしい。 貴様、まだ耐えられるだろうな? 貴様とは初めての直接的な魔力供給だからな、この程度でくたばって貰っては落胆の極みという物だ。 それとも……」

 

 ゴルゴーンがマスターの首から流れ出る血をその長い舌で舐め取ると、そのままマスターの耳へとその舌を侵入させ、淫靡な声でマスターへと呟いた。

 

()()()の魔力供給でも、良いのだがな?」

 

 ゴルゴーンの目が捕食者の眼からそれとはまた違う獣の眼になった時、マスターは赤く上気した顔を一転させて青ざめると朦朧とした意識の中激しく抵抗するがサーヴァントであるゴルゴーンに敵うはずもなく、ゴルゴーンの髪がマスターの服をどんどんと脱がしていく。

 

「_____!!」

 

「そうか、だが()()()はもう準備は万端と言った様子だが?」

 

 もはやマスターは猫に追い詰められた鼠、後は猫の好きなようされてその屍をこんこんと晒すのみである。

 

「____……!」

 

「優しくしてやるとはいわん、いわんが……天国に、連れて行ってやろう……」

 

「ほう、それは良かった。 こちらも優しくするつもりはないからね」

 

 その時食糧庫に無数の銃声が響いた。 とっさにゴルゴーンはマスターを抱きかかえると室内を跳ねまわりながらその銃弾を全て回避し、謎の相手と会敵する。

 ゴルゴーンは目の前の御馳走をもう少しと言う時で奪われたことに怒り心頭で、自分の歯を噛み砕かんばかりに歯を食いしばっていた。

 

「うーん、本当ならばダンテス君や、君の妄信的な愛の追跡者達などが助けに来るのが筋というものなのだろうが……」

 

「誰だ貴様は!」

 

「誰だと聞かれて答える悪の親玉はいないなぁ、そういうのは探偵が自分で見つけるものだし? まぁ今の私はすこぶる機嫌がいいので姿を現すのもやぶさかではない」

 

 そういうと男は、その心の内で幾つもの悪事を考えてそうな笑みで手に超過重武装棺桶を構えながらその姿を現した。

 

「始めまして、ゴルゴーン君。 新入りのアーチャーアラフィフ紳士、改め若返ったアラサー紳士だ! いやー体が軽い軽い! こんなに軽かったかなぁこの棺桶!」

 

 その人物は髭も無ければ皺もない若々しいが青年終了期の男であったが、マスターにはその男が持っている棺桶にどうも見覚えがあった、そしてその減らず口にも。 自分の若返った姿にテンションが青天井であり、これでもかと先ほどゴルゴーンに放った機関銃に劣らぬほどその口からは言葉が飛び出していく。

 

「そうか、新入りか、ならば今すぐ私の視界から姿を消すがいい。 それが嫌ならば私が消す」

 

「Oh、このお嬢さんはお楽しみを邪魔されてお冠らしい、わかるよーその気持ち。 私でも怒り狂うだろうネ! と言ってもマスターをそのままにしては置けない、というか生きてるかいマスター君? おーい?」

 

「_____……」

 

 顔だけを上げて、マスターはやぁ教授と目の前に笑いかける。 それ見ると表情だけ驚いたという顔をして、マスターを笑い返す。

 

「おぉ流石にタフだな~。 全く君は新宿でもそうだったがどうも悪というものに好かれやすくないかね? 私が言うのもなんだが友人は選んだ方が良い、せめて密室で二人きりの時に相手を襲わない程度の友人をネ! おっとこの場合はどうなるんだろうか、友人でなく強姦魔とでも表現すべきかナ?」

 

「良し殺す。 死んで後悔するがいい」

 

「おっと、そうはいかない。 実際君の相手をするのはこの年の私でも腰が折れるからね、というか無理だ。 あーレディ達! 出番ですよー!」

 

 目の前の教授が指を鳴らすと、二人の女性が入り口から姿を現した。 最上級の陶器のように白く輝く肌と女神の様な美貌に不敵な笑みを備えたこの生ける芸術品を見た瞬間、激怒していたゴルゴーンは一瞬にして青ざめて後ずさりを始める。

 

「あら、メドゥーサがいるわね」

 

「あら本当、縮んだはずのメドゥーサがいるわ」

 

「まぁゴルゴーンなのでしょうけど、ずいぶんとまぁ盛った猫の様に鳴くものね」

 

「躾がなっていなかったのかしら、メドゥーサよりも年が上ならちゃんとお行儀よく出来ていると思ったのだけれど」

 

「残念ね、(ステンノ)

 

「ええ、残念よ(エウリュアレ)

 

「「再教育ね」」

 

「き、貴様っ! 何て事を……なんてことをしてくれる……! 貴様には罪悪感の欠片もないのか!」

 

「ないなー。 私を誰だと思ってる? 天才数学者兼、教授兼、悪の組織の大ボスだよ? そんなものに心を痛めていては悪巧みの一つも出来やしない」

 

「貴様ぁ……! 覚えておくぞ! 次に会ったときは覚悟しておくがいい!」

 

 二人の姉に追い詰められながらゴルゴーンはその教授にありとあらゆる呪詛と暴言を吐き続ける。 マスターが連れてきても怒るくらいなのに、只の人間にやられたとあってはその怒りは倍増しているはずである。

 

「好きにしたまえ。 私が君を覚えていたらの話だが……おっとキメ顔しててマスター忘れるところだった、さぁ行こうか」

 

 教授がマスターを担いで食糧庫から出ると、ゴルゴーンの声にならぬ悲鳴が食糧庫に響いたが扉が閉まった瞬間、その声も消え失せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、窮地のマスターを救うとかまた正義の味方っぽいことやっちゃったなー……癖になりそうで怖いネ、これ!」

 

「____……?」

 

「あぁ、犯人は確保した。 やはり黒髭だ、理由はくだらなすぎて聞いていない」

 

 その後、マスターは食堂でレバニラ炒めを食べ自分の貧血気味である体を戻そうとしながら、帰ってきたエドモンから報告を受けていた。

 どうやら犯人の調査から逮捕まで全てマスターが襲われている間に完了していたらしく、首謀者の黒髭はまたルーラー裁判へと連行された。 判決は最近召喚されたアヴェンジャーのお世話、どうやら極刑であるらしい。

 ついでにメドゥーサ状態のゴルゴーンもマスター独占法違反によって三日間ご飯抜きの判決を下され、また自分の姉達との雑用にも駆り出されることになった。

 

「リリィ化現象は今日にでもダ・ヴィンチが解毒剤を作って元に戻すらしい、それまでの辛抱だ。 まったく、くだらん」

 

 少年姿のエドモンがマスターに食後のコーヒーを作るために厨房へと入っていく、ついで教授も注文したが完全に無視をしていた。

 

「いやぁ、この姿とも今日でお別れか。 もっとアラサー紳士でいたかったのだが、ぶっちゃげアラフィフの私が全盛期なのでアラサーだとあまり力も出ない。 仕方ないと腹をくくって激渋いぶし銀オジサンへと戻るとしようか……」

 

「____?」

 

 教授のボケを華麗にスルーしてマスターはなぜアラフィフが全盛期なのかを目の前の教授に尋ねる。 すると教授は少し考えると、

 

「悪のボスが一番輝くときは、読者の前で姿を現し、そして消える時だからさ」

 

 と意地の悪そうな笑みをしながらマスターに答えた。 なるほど、確かに彼の人気はライヘンバッハへと落ちる描写と共に上がっていったのだろう。マスターはそう思うと、一つため息を吐いて、もう一つ質問をした。

 

「____?」

 

「真犯人が私? ははは、そんな馬鹿なこと……やっぱりわかっちゃった?」

 

 証拠もない、証言もない、ただあるのは勘だけであった。 少し目が逸れているとか、助けに来るタイミングが良すぎたとか、どこか申し訳なさそうな顔をしているとかそんな証拠にもならないマスターの勘が、自分の目の前の教授が真犯人と言う妙な確信に繋がっていた。

 

「全く、証拠もなしに犯人と決め付けるなんて探偵失格だなぁ? まぁぶっちゃけ黒髭君が吐いちゃってるだろうしこの後ダンテス君の口から遅かれ早かれ告げられていただろうしね」

 

「_____?」

 

「うん、裁判の心配? ハハハそこはご無用、証拠も全部消してるし、私はただ薬品の場所とそれを効率よくカルデア全体にまき散らす公式を黒髭君に教えただけだからね。 私にはなーんの危害は及ばない」

 

 つまりそれは全責任が黒髭一人に行くということであった。 流石悪の大物ボス、トカゲのしっぽ切りが上手いらしい。

 

「______?」

 

「うん? 動機? そうだなぁ、肩慣らしに一度悪い計画を立てたかったのもあるし、もう一回アラサーの若さを経験したかったのと、ホームズをちっさくして笑いたかったのと……」

 

 そういって、一つ咳をすると目の前の犯罪界のナポレオンは無い髭をなぞり、微笑みながらウィンクしてこういった。

 

「君にいい所を見せたかったのサ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しくマスターはその日自分から目を覚ました。 時計を見るとまだ六時である。 マスターは自分でも珍しいなと思うと大きく欠伸をした。

 珍しいというのもマスターは重度の寝坊助であり、毎朝マシュが起こしに来るか、マスターの自室に入り込んだサーヴァントが起こすかしない限り永延と安らかな眠りついてしまうのだ。

 それに昨日はサーヴァント無差別リリィ事件により、幼子になってしまったサーヴァントたちのお世話に翻弄されっぱなしだっため疲れ果て早起きするどころではなかったのである。

 

「……起きたようだな」

 

 ふと暗闇の中から一人の若い男の声が聞こえる。 その聞き覚えのある声にマスターは特に驚くことは無く、一言おはよう、と告げると男は影の中から姿を現した。

 長いネクタイが特徴的なスーツに身を包み、手には自分とマスターの分であろうか入れたてのコーヒが湯気を立てている。

 

「____……」

 

「戻ったとも、まったく忌々しい物を見せられた」

 

 男の名は巌窟王エドモン・ダンテス。 今度こそ子供の姿ではなく、恩讐の彼方へと身を投じた一人の男としての姿でマスターの目に映る。

 

「_____」

 

「おっと、動くな。 ()()()()

 

 マスターがコーヒーを受け取ろうと身を起こそうとすると、何かに抱き着かれている様な重みを感じて動きを止めた。 ゆっくりと首を回して重みを感じる方向見てみると、そこには見慣れている人物たちがマスターに抱き着きながら寝息を立てていた。

 

「しぇんぱい……良い匂い……」

 

「ましゅたぁ……抱っこ……」

 

「まじゅつしさまぁ……肩車を……」

 

「____……」

 

「くくっまるで見たことがある顔だと言いたそうだな?」

 

 エドモンが小さく笑いながら、コーヒーを近くのテーブルへ置く。

 マスターはだんだんと昨日の出来事を思い出す、リリィ化事件の真犯人が分かった後、マスターは小さくなったサーヴァントのお世話をする際、怖いので一緒に寝て欲しいというサーヴァントたちの願いを聞き一緒のベットで寝ていたのだ。

 マスターはサーヴァントたちが寝付き終わった後自分はこっそりと違う部屋に移動するつもりだったのが、なんとサーヴァントたちよりも先に寝付いてしまったのであった。

 その結果がこの全方位に敷かれた地雷原である。 エドモンが元に戻ったのと同じく、皆同じ大きさに戻っており一見するとハーレム状態だが、誰かが目を覚ました途端マスターがどんな目に遭うかは想像に易い。

 というかいつの間にかマシュが居るのはなぜなのか、事件中は姿を見なかったがもしや夜中こっそり自分のベットに忍び込んだというのだろうか。

 乙女の柔肌を全身に感じながら、マスターは必死に解決策を探すがまったくもってこの状況を打破する作戦が思いつかない。

 

「____!」

 

「知らん、他人からはいざ知らず、お前が招いたことだろう。 心配するな骨は拾ってやる」

 

 唯一の頼りのエドモンも、コーヒーを飲みながら本を読みだしており全く手伝う気を見せない。 それでも骨は拾うと言っている当たり本当に危なくなったら助ける準備は満タンであった。

 

「____……」

 

 昨日の事件をしのぐ大事件の予感にマスターは死刑台へと送られる死刑囚の気持ちになりながらまた一分また一分と彼女らの目覚めが近づくのを感じる事しかできなかった。

 

 _____マスターの明日はどっちだ。

 

 




ちっさくなった、サーヴァントが!
もっといろいろな小サーヴァント書きたかったけど新宿クリアーして新宿アーチャーの事が書きたくなったので急きょ変更致しました。 出なかったサーヴァントはまた次の機会に。

感想、誤字報告ありがとうございます! お礼に、コロラトゥーラなりきりセット送りますね。これで一緒にレッツクリスティーヌ!

あ、リクエスト募集しています。
それでは今回も楽しく見て頂けると嬉しいです。

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