カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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ごめんなさい、長いです。


妹、巻き込まれる~激闘わくわくざぶーん編~

 

流れるプールにきのこの大型ウォータースライダー、波が出るプールと様々なお客のニーズに合わせた遊び場に、プールサイドには白い人工砂によって美しい海の砂浜を再現し、まるで本場ヨーロッパのリゾートの海に泳ぎに来たように錯覚させるようなゆったりとした空間を実現させている。

ここは「わくわくざぶーん」名前は少々あれだが冬木では人気のレジャースポットであり、体温に近い水温で保たれているプールはガラス張りの巨大ドームと合わさって一年通して楽しめる全天候型屋内ウォーターランドと化している。

今日も休みとあって、そんなわくわくざぶーんは老若男女問わず人でごった返していた。 小さな男の子から大きな水着美女まで様々な人が行き来するなか、ある二人の女子がプールサイドに立っていた。

 

「すごい……外は冬なのにここだけまるで夏の海辺の様です……」

 

「人が多いわね、何処で泳ごうかしら?」

 

一人はまるで西洋人形を思わせる様な白くきめ細かい肌に細い手足、触ったら崩れてしまう様な儚さとは裏腹に、ワンピース型の水着で主張している大きな双丘は健康的そのものであり、その彼女を包む儚さと彼女から出る色気が矛盾することなく混ざり合ったその様は道行く男たちの視線を奪うには十分すぎるほどであった。

 

もう一人は、片方の少女と違って活発な印象であり、水着も片方の少女の大人しげな水着とは違い、オレンジとホワイトのストライプの動きやすさを重視した水着であるが、彼女の薄赤色の髪と目と合わさって彼女には良く似合っている。 その胸を押さえつける水着によってもう一人の少女と比べると胸のボリュームが少ないように思われるが、リングの部分から見える谷間を見るとそれはただ大きい胸を小さく見せていることがその道の人間なら分かる。

 

その美少女達はカルデアが誇る人理の守り手マシュ・キリエライトと、その彼女が敬愛する、または敬い、なお愛するカルデアのマスター、その妹である。

二人は出会ってそんな日数も経ってはいない、そんな二人がなぜこのわくわくざぶーんにざざーんしに来たのか、それは数刻前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「先輩? 先輩ー? せんぱーい? こちらですか?」

 

その日、マスターの家ではマシュが忙しく家の中を歩き回っていた。 目的はマスターその人、せっかくの休日たまたま寝室として使わせてもらっているマスターの部屋で「ゴットマーザー」なるイタリアマフィアの壮絶なる抗争を描いたらしい映画をベットの奥下で見つけたので一緒に見ようとマスターを探しているのだが、どうも見つからない。

 

「先輩? いないのですか? せんぱーい?」

 

今のマスターの寝室である屋根裏部屋、各人の寝室、庭、キッチン、リビング、バスルーム、床下の収納室、トイレ、鍋の中まで探してみたがその姿はない。

また誰かにアンサモンされてしまったのかとマシュは不安になって天才ダ・ヴィンチちゃんを頼ろうとしたが、今は冬木の調査に行っているようで姿が見えない。

どうしようもないマシュはリビングに行ってマスターの所在を知らないか聞いてみることにした。

 

「あー、あの子なら友達と遊びに行くって言ってたわよー珍しいわね、あの子がマシュちゃん誘わないなんて」

 

「遊びに……ですか」

 

結果、所在は簡単に分かった。 マシュはまた厄介ごとに巻き込まれてないようでよかったと安心するのが半分、何故自分に一言言ってくれなかったのだろうというやきもちの入った疑問が半分のため息をつく。

 

「あらら、拗ねちゃったかしら、帰ってきてから機嫌を取るために甘やかしコースね。 ……そこらへんも私達に似てくるとは」

 

「兄さんも兄さんね、そんな遊んでばっかりいるから成績上がらないのよ」

 

苦笑しながらテーブルで新聞を読んでいるマスターの母の横でノートにペンを走らせているのはマスターの妹である。

燈色の眼と髪は極端に母似なマスターとは真逆にマスターの妹は極端に父似であることを示し、その幼さを思わせる大きな目もまた父から継いだものである。 しかしながら性格はどちらかと言うと母似であり、大人しげな第一印象とは裏腹に積極的な行動力を持ち、人とは隣で一緒に歩くことが好きなマスターとは違い三歩先を歩くことを好む。

これは人との関係構築性にも当てはまることであった。

 

「全く、帰ってきたと思ったら女の子を連れて帰ってくるなんて……頭が足りていないというレベルじゃないわ……あぁマシュさんが悪いってことじゃなくて」

 

「____さんは先輩の事が嫌いなんですか?」

 

マシュからの問いにマスターの妹はペンを止めるとマシュの方をじっと見る。 マスターの青い目とは違う、薄赤色の目が少しばかり不機嫌な顔と共にマシュを見つめてくるのでマシュは目をそらしてしまう。

出会ってから数日しか立っていないが、どうもマシュはマスターの妹からは良い印象を持たれていないと感じていた。

 

「____嫌いよ、大っ嫌い。 あんな人。 マシュさんもあんな男なんかじゃなくてもっと」

 

「こーら」

 

「あいたぁ!?」

 

「人の色恋に口出さないの。 うちの子を好きになってもらったマシュちゃんに失礼でしょうが」

 

「す、好き……」

 

「あら、違うの?」

 

「いえ! あっ、その好きというか尊敬してるといいますか……」

 

「あらあら、良いのよ別に隠さなくてー」

 

真っ赤になって俯くマシュを見て増々不機嫌になるマスターの妹。 別に妬いているわけではない、ただ納得がいかないのだ。 あんなに素敵な女の子が自分の兄なんかに無自覚ながらも恋をしているということに。

 

「なんで、あんな子が兄さんなんかと……」

 

マスターの妹がマシュと出会ったとき、彼女は息を飲んだ。 それくらい可憐であり、儚く思えた。 接してみると心まで透き通った水のように清らかで純粋だった。

だからこそ、自分の兄と言う俗な青色の絵の具に彼女の心が塗りつぶされていくのに納得できなかった。 もっと相応しい相手がいるはずだと思ったのだった。

 

「もっと相応しい人が……兄さんなんかには勿体ないのに……」

 

「でも、それじゃあマシュちゃんも暇ね……そうだ、遊びにってらっしゃいな! あ、そうだ何処かにチケットが……」

 

ぶつぶつと独り言を言うマスターの妹を放っておいて、何処かの棚からチケットを取り出すマスターの母、チケットには「わくわくざぶーん」と書かれた入場券の類のようで、乗せてる絵を見る限り遊泳施設の様であった。

 

「『わくわくざぶーん』、プールでしょうか……しかし今は冬ですし、泳ぐには寒すぎるのでは……?」

 

「のんのん、まぁ行けば分かるわ。 なんだかイベントも合ってるみたいだし、そうね、一人じゃつまんないだろうし……そこのぶつぶつ言ってる猫かぶり娘も連れて行くといいわ!」

 

「誰が猫かぶり……へっ?」

 

にっこり笑いながらマスターの妹に指を指す母、それはある意味強制に近い母からのお願いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さんったら無理矢理なんだから!」

 

「すいません、私のせいで……」

 

「あぁ、いいのよ気にしないで。 ……確かにマシュさん一人で行かせると色々と危ないだろうし」

 

「はい?」

 

時は戻ってわくわくざぶーん。

美少女二人はまず何処で泳ごうかとわくわくざぶーん内を歩き回っていた。 遠くの方では男たちがマシュ達に声をかけようとしてお互いを牽制し合っている。

 

「しかし、何処のプールも人が多いわね。 これじゃあ満足に泳げるかどうか……」

 

「今日はイベントがあると聞いていますし、仕方ないかと」

 

「そうねー」

 

休日とイベントが重なったこともあってか、わくわくざぶーんは賑わいを見せており、何処のプールも人で溢れていた。 仕方ないのであまり人気のないプールを目指すが、そこもイベントの会場として使われるらしく泳ぐことは出来ず、仕方なく周りと比べて人の少ない流れるプールで泳ごうということになった。

 

「まぁ、贅沢は言ってられないか。 マシュちゃんってそういや泳ぎは得意なの?」

 

「いえ、あまり経験がないと言いますか……夏に海で少し泳いだきりでしょうか」

 

「そっか、じゃあ私が手取り足取りおしえ……きゃっ!?」

 

と、前を注視してなかったマスターの妹が前から走ってきた小さい子供とぶつかってしまう。 マスターの妹は体勢を崩すだけで済んだが、子供の方は尻もちをついてしまったらしく床でへたり込んでいる。

 

「っと、ごめんなさい。 大丈夫かしら?」

 

「はい、ごめんなさい、こちらも前を見ていませんでした」

 

外国人だろうか、マシュと同じように白い肌に白に近い銀のような髪の毛を束ね、金色の目をしていた。 倒れた少女はマスターの妹の手を取ると立ち上がるとお辞儀をしてお礼を言った。 中々礼儀正しい子であり、そのまま何ともなく別れようとしたが、マシュが固まっていることに気付く。

見ると向こうもマシュを見て固まっている。

 

「……何故、ここに?」

 

「えっと……その……」

 

「あー……マシュさんのお知り合い?」

 

じりじりと近づくマシュに、冷や汗を垂らしながら後ずさる少女。 なんだかカバディでも始まりそうな空間にマスターの妹はとりあえず落ち着かせようと間に入るとするが、

 

「あー! トナカイさん!」

 

「先輩っ!?」

 

 

突如向こうに指を向けてなぜかトナカイと叫ぶ少女、それになぜか先輩と釣られて向こうを向いていしまう。 その一瞬を見逃さず少女は信じらないくらいの速さで人の間を駆け抜けていってしまう。

 

「はっ、騙されました!」

 

「なんでトナカイが兄さんに変換されているの!?」

 

「待ちなさい、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィさん!」

 

「なにその名前!? サンタ!?」

 

そのまま貴族みたいな名前の少女を追いかけていくマシュ。 遅れてマスターの妹も追いかけていくが、マシュも中々に足が速く追い付くのがやっとである。

 

「くっ、人多くてなかなか……!」

 

「マシュさん、あの子知り合いなの?」

 

「ええ、彼女もカルデアの仲間です、しかしなぜここに……」

 

「あぁ、つまり兄さんの知り合いってこと……」

 

また兄かと溜息をつくマスターの妹、妙齢から子供まで一体カルデアという所で兄は何をしていたのかと疑問が増すばかりである。

 

「あわわわわわわ! どどど、どうしましょう! 騎士さーん! 助けてー!」

 

と少女が走っていく方向に、友達と保護者だろうか他に二人の少女と一人短髪の背の高い外国人の男が少女に向かって手を振っていた。 それを見た瞬間マシュは更にスピードを増してその集団に向って走っていく、もはやマスターの妹には追いつけない。

 

「あぁ、良かった。 皆散らばってしまったから探すのに苦労……どうしたんだいレディ、そんなに息を荒げて」

 

「あわわわわ、見つかりました! 見つかりました!」

 

「ああ、見つけたとも。 これに懲りたら皆散らばるような」

 

「違います! 見つかってしまったんです!」

 

「なに? それは一体どういう……」

 

「____なーにーを……」

 

「んん? この声は……いや、幻聴だろうこんなところにあの子が」

 

「しているんですか卿はー!!!」

 

「んぐわぁー!?」

 

マシュが高く飛び上がったかと思うとそのまま男に向けてドロップキックを放った。 対応も出来ずダイレクトに顔面にドロップキックを食らった男はそのままプールに突っ込んで沈んでいく。

 

「あ、マシュだー」

 

「本当だわ、こんなところで奇遇ね!」

 

「あわあわあわあわ、騎士さーん!?」

 

「ナーサリーさんにジャックさんまで……ここで何をしているのですか?」

 

「「泳ぎに!」」

 

「答えになってません!」

 

「ぜぇ、ぜぇ、やっと追いついた……」

 

やっとマスターの妹が息を切らして追いつくと、マシュの周りをくるくる回っている少女二人とプールに沈んで行っている保護者らしき男。 何が何だか分からない妹はただ沈んでいく保護者を逃げた少女と共に引き上げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、ジャックさん達がカルデアの船に乗り込んで密航したので捕まえに来たと……」

 

「ごめんなさーい」

 

「す、すまないマシュ、なぜ私だけ正座をさせられているんだ……?」

 

その後、マシュはランスロットと呼ばれる保護者をとりあえず正座させてから、残りの少女たちに事情聴取を行っていた。 逃げた少女を合わせると少女は三人、名前をジャック、ナーサリー、それとジャンヌ・リリィである。 自由奔放なジャックとナーサリーはともかく真面目なジャンヌ・リリィがカルデアから脱走したのはマシュにとっては意外だったらしく、どうも額に手を当てながらどう自分の先輩に説明したことかと悩ませることになった。

 

「マシュ嬢、せめて正座を解いてくれないだろうか……このままだと周りの目線が」

 

「事情は分かりましたが、なぜジャックさん達はこんなところに?」

 

「無視なのか!?」

 

「海の予行練習よ!」

 

正座をさせられている男の周りをくるくると回りながらナーサリーと呼ばれる少女が答える。 その少女は西洋人形その物を思わせるような可愛さを持っており、なんだか不思議な魅力を持った少女であった。

 

「予行練習?」

 

「だって、皆泳げないんだもん。 これじゃジャンヌが海に行っても泳げないし」

 

水色と白のストライプの可愛らしい水着を来た少女、ジャックが答える。 なぜか大きなサングラスをかけており、右手にはサルっぽい人から貰ったというジュースを持っていた。

 

「つまり、泳ぎの練習をするためにわざわざ密航し、冬木に来たと? この冬真っ盛りの寒空とは思わずに?」

 

「ええその通り! まぁ、実を言うと泳ぎの練習はこのクジラのお腹の中の様な建物を見つけた時に決めたのだけれど」

 

「それでは、当初の目標は何だったのですか?」

 

「おかあさんに会いに」

 

「やっぱり……」

 

もはや何度目ともいえないサーヴァント達の田舎に帰ろうである。 実際にはマスターの田舎に無許可でアポイント無しに帰ろうであるから性質が悪い、サーヴァントたちは自分たちが外に出るということはイコール神秘の秘匿が破られていると言うことに気付いていないのだ。 いや、気付いてはいるがそんな事を気にしていないサーヴァントたちが圧倒的多数ではあるが。

マシュはまたマスターがマスターの母からプロレス技を食らう光景がありありと浮かび、また深く溜息をつく。 これでこの冬木には聖杯戦争が出来るぐらいにサーヴァントたちが集まってしまったことになる。

 

「それで、ランスロット卿は何をしているのですか? まさかジャンヌさん達のエスコートなんて言わないですよね?」

 

次に、マシュは正座をさせているランスロットに質問した。 ランスロットを見るマシュの目は冷たく、可哀想に明日には発狂して数年間全裸で森を走り回るのねと言う様な目である。

戦闘時には冷たいどころか積極的に頼りにするぐらいには尊敬されているのだが、ランスロットが女性といるときはまるで反転現象が発生したかのように、冷たい目で塩対応になり、その眼を見るとランスロットは生前のある騎士を思い出して心臓が止まりかける。

 

「いや、私達は密航したレディをカルデアに帰還させるために王と同行して……」

 

「私、達? 他の方々もこちらに?」

 

「あぁ、ガウェイン、トリスタン、ベディ、モードレッドの四人だ」

 

「全員ではないですか!? お、王は、アルトリアさんは許可したのですか!?」

 

「ええ、許可しました。 私だけでは彼女たちを押さえきれなかったでしょうし、日々の疲れを癒してもらおうと思いまして、モードレッド卿がはしゃいで行方不明になるとは思いもしませんでしたが。 いや予測は出来たのですが、かのじゃじゃ馬を抑えるとなるとアグラヴェインでもないと説得は不可能でして」

 

後ろから聞こえる聞き覚えのある声に振り向くと、彼、彼女たちの王がいた。 黄金の髪をまとめ、凛として立つその姿はまさに一国の王としての相応しい威厳を持っており、その姿にランスロットも正座を正して王に首を垂れる。_ジャパニーズオジギ_

まぁ、今は水着姿で片手に水鉄砲を持った姿ではあったが、それでも眩しいほどの輝きは放っていた。

 

「アルトリアさん……!」

 

「あの、もうそろそろ私ついていけないんですが……」

 

いきなり登場人物が増えすぎて、訳の分からなくなってきているマスターの妹。 此処だけ外国になったかのように外国人だらけであり、そして恐るべきことにマシュの知人ということは自分の兄の知人と言うことでもある。 なんだか友達の友達に囲まれている様な気まずさを覚え、控えめに手を上げながらマスターの妹は説明を要求した。

 

「あぁ、失礼しました。 貴方は……」

 

「こちらは_____さん、マスターの妹さんでして今日は二人で此処に遊びにきていたのです」

 

「なんと、マスターの……私はアルトリア・ペンドラゴン。 どうぞ気楽にアルトリアとお呼びください」

 

「は、はぁ。 どうも……マスター?」

 

自分と同年代にも見えるが、その精神は自分よりも大人であり、そのギャップに戸惑いながらもマスターの妹とアルトリアは握手を交わす。

 

「それで、ガウェイン達はまだモードレッド探索から戻ってはいないのですね」

 

「はっ、畏れ多くも私もレディたちの対応に追われておりモードレッド卿を発見すること叶わず。 逆に散り散りになってしまった結果に……」

 

「良いのです。 少し、思い出に浸るために一人になってしまった私にも責任はあります。 これから皆で探せばいいでしょう」

 

「ね、ねぇマシュさん、あの人たちってどういう関係なの?」

 

「え。 あっ、えーっと……大きな会社の社長とその部下と申しますか……」

 

まるで騎士とその王の様なやり取りにマスターの妹はマシュに関係性を問うが、マシュの方もまさか古いブリテンの王とその臣下と言えず誤魔化していく。

マスターの妹はどこかの黒い髭のせいで神秘に触れてしまったとはいえまだ一般人、あまりこちらの方に巻き込むことをマシュは良しとはしなかった。

 

「それでは、各自分散してモードレッド卿の捜索に……」

 

「いえ、ここは固まって動きましょう。 此処は広大です、また散り散りになって手間がいるでしょう」

 

「承知いたしました。 それではレディたち、行きましょう」

 

「えーマシュと一緒が良いー」

 

「こら、ジャックったら! 元は私たちが悪いんですから……」

 

「だって騎士のおじ様ったら女の人から声をかけられるたびにお話ししてちっとも前に進まないんですもの」

 

「お父さん?」

 

「いや、声をかけてくださるご婦人を無下にするわけにはだね……」

 

マシュからプールも凍るような冷たい目で見られ、滝のように汗を出しながら弁解するランスロット。 なるほど、と何となくマシュが冷たくなる理由が分かった気がするマスターの妹であるが、それならばなぜ同じように女の子に囲まれる自分の兄には冷たい目どころか熱い眼差しを向けるのかと疑問が増すばかりであった。

 

 

 

 

 

 

「宜しいのですか? 貴女はマシュと遊びに来たのでは……」

 

「いえ、いいんです、私はここには何度も来たことがあって案内も出来ますし、それに懐かれちゃったみたいで……っとと次はどこ行くの?」

 

「あのキノコのスライダーにいきましょ!」

 

「賛成です!」

 

その後、マシュ達はアルトリア達と一緒に行動していた。 マスターの妹の周りには彼女に懐いた三人の少女たちがこぞって彼女の手を取ってあっちに行ったりこっちに行ったりするので、そのたびにマスターの妹は三人の少女から振り回されていたが、妹が出来たみたいで悪い気はしていなかった。

少女たちをマスターの妹に任せている間、マシュ達はどうやってモードレッド卿を見つけるか話し合っていた。

 

「それで、モードレッド卿について目星はついているのですか?」

 

「いえ、ですが誘い出す方法はあります」

 

「それは?」

 

マシュが問うと、ランスロットが遠くのプールを指さす、そのプールには何かの小さな即席のステージが出来上がっており、垂れ幕には「集え強者! 冬木市ウォーターブリッツ大会」と書いてあった。

 

「モードレッドは王への叛逆の精神が渦巻いている。 なので、今ここで開催されているウォーターブリッツの大会に王が出場することを伝え、モードレッドを誘い込む」

 

「つまり、アルトリアさんを囮にして見つけ出すと?」

 

「囮ではない、あちらが王の威光に誘い出されるのだ。 その為には大会で勝ち進まなければいけないが……王ならばそのくらいは容易いことだろう」

 

「欲を言うならばマスターの指揮があれば勝利はより確実に近づくのですが、贅沢は言ってられません。 三人一組での出場なので私としてはランスロット、ガウェインを加え、確実に勝利を収めていきたいところですが……」

 

「それではまず、サーガウェインを見つけなければいけませんね、エントリー時間も近づいてきています。 急いでガウェイン卿の所在を……」

 

「マシュちゃあああああああん!!」

 

突然可笑しな青年たちがマシュの名前を呼びながら走ってくる。 あまりの血走った目に思わずマスターの妹とランスロットがマシュの目の前に立って威圧感を出すが、後ろから来た人物たちに気付くと驚いた様に目を開かせた。

 

「待ってください、いきなり走りだされては……ガラハッド卿! 」

 

「ガウェイン卿……? 何だね、その周りの美女たちは?」

 

その青年たちの後ろにいたのは同じ円卓の騎士ガウェインであった、後ろにはトリスタンとベディヴィエールもおり、ベディ除く二人の騎士は_何となく理由は察せるが_、どういうことか美女たちに囲まれていた。

 

「うわああああ! マシュちゃんだぁぁぁぁぁ! 水着可愛いいいいいい!! 天使いぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「な、なに!? 誰……あ、サルさん」

 

「ありゃ、ぐだっちの妹ちゃんじゃねぇべか。 ありゃー大きくなっただがやー」

 

「あ、さっきのおサルさんだー」

 

「おろ、さっきの迷子ちゃん。 今度は迷子じゃないんだべな、えがったえがった」

 

「本当お猿さんにそっくりだわ!」

 

「ナーサリー! 失礼ですよ!」

 

「いいべ、いいべ、自分だってそっくりと思ってっから。 木登りだって得意だべ? なはは!」

 

青年たちはマシュに近づくと、プールの水も蒸発するような目線でマシュを下から上まで見つめ始める。 が、ランスロットが鋭い目線で威嚇しているのに気付くと、マスターの妹といつ知り合ったのかジャックと話しているサルと呼ばれた青年の背中に急いで隠れ始めた。

 

「王よ、分散してモードレッド卿を捜索しましたが、姿は見えず。 用心深く潜んでいるのか、それともプールの底に潜んでいるのか……」

 

「ご苦労でした、ベディヴィエール。 その青年たちは?」

 

「はい、こちらはマスター達のご友人でして、ご厚意に甘えてモードレッド卿の捜索に協力してもらっているのです」

 

「先輩が此処にいらっしゃるのですか!?」

 

マスターがいると知った瞬間に、そわそわと周りを見回していくマシュ。 時折自分のどこか可笑しい所がないかと身だしなみを整えている姿はまるでデートで相手より先に来てしまった女の子の様である。

もしマシュに尻尾があったなら千切れるぐらいに振り増しているだろう。

 

「それがな、ぐだ男は皆で迎えに行ったらいなくなってんのさ」

 

「うむ、ナンパ……ごほん、捜索に加えなかったのがそんなに気に障ったのか……少し悪いことをしたな」

 

「マシュー、なんぱって何?」

 

「確か、出会いを求めて男の人が女の人に声をかける行為だと聞いたことが……」

 

「じゃあ、フェルグスのおじさまと同じね! ロマンチックに言い寄って結局失敗するんでしょう? 可笑しいわ、可笑しいわ!」

 

「ぐっ!?」

 

「うぐっ!?」

 

子供の純粋で残酷な言葉のナイフが青年たちの心に突き刺さる。 確かに見ればガウェイン達には美女たちが群がっているのに、マスターの学友たちには相手にもされていないどころか最初から眼中にも入っていない。 辛うじてサルの学友が今ジャックたちに懐かれて追いかけっこをしているだけである。

 

「あー、つまり兄さんの友達たちはイケメンの外国人にあやかろうとして見事失敗したってわけ。 宝石と石ころどっちを取るかなんて見なくても分かるでしょうに、男ってなんでこう浅ましいというか……ここまで来ると哀れね」

 

「心無い言葉ぐわっ!?」

 

「言い返せない正論ぐわっ!?」

 

さらにマスターの妹が止めを刺して、撃沈する青年二人。 いそいそとプールに入っていって流れ出る涙を誤魔化している姿は海に浮かぶクラゲのそれである。

 

「んで、兄さんはいるの、いないの?」

 

「いやーいたのはいたんだべが、皆で別れた後からどっかにいっちゃったみたいだがや。 それで次は皆でぐだっちを探そうってなってんだべ」

 

「先輩、いないんですか……」

 

先ほどとは一変して、露骨に気を落とすマシュ。 直前でフォーを取り上げられたフォウ君のようにうなだれている。

 

「まぁ、ここにいるのだからいつかは会えるだろう。 そうだ、先ほどレディから貰ったジュースは」

 

「いりません。 ご婦人からの饗応はお断りしてください、自重してください。 ひっそりとマスターの妹さんにも声をかけようとしないでください」

 

いつもより棘のあるマシュの言葉に、プールでクラゲの真似をする人間が一人増える。

 

「そうですね、彼が此処にいるのだったらぜひ見つけたい所ですが、時間も近い、とりあえずエントリーに向かいましょう。 ここまで来たのです、貴方達もご一緒に」

 

「うわぁーい! ここにきて初めて美人からのお誘いだぁ! 行きます行きます!」

 

「食事など一緒にいかがですか?」

 

「それは止めた方が……」

 

アルトリアの誘いにプールから飛び出して後に続く学友達、美人に弱いのは騎士も学生も関係は無いらしい。 _騎士達の目が何だか怖かったが_

開催の時が近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

「やってまいりました! ウォーターブリッツ冬木カップ! 百戦錬磨の兵ども、聖杯が欲しいかー! 高級ホテルの宿泊券が欲しいかー!」

 

ウォーターブリッツ特設会場の中、司会の声に応え、会場に選手たちの声が響き渡る。 会場には老若男女様々な人が集まっており、それぞれ的を首にかけ、種類が違う水鉄砲を手に持っている。

 

「ならば戦え! 栄光を掴むために! ルールは簡単、相手を濡らして自分が濡れなければオーケー! 胸と背中にある的が十分に濡れるとセンサーが発動して選手は退場となる! チーム全員、もしくはリーダーが濡れてしまったらそのチームは失格! これだけだ! チームにはそれぞれ長距離、短距離用の水鉄砲とそれを防ぐための盾が支給されている、十分に戦ってくれたまえ! それでは全員指定された持ち場に行ってくれたまえ!」

 

しかし説明もそこそこに、チームに開始場所が記された紙が配られ、貰ったチームからそれぞれ持ち場へと歩いていく。

皆、豪華な賞品もあってか、戦気があふれ出ており、例え小さな女の子で編成されたチームであろうとも油断は出来ないくらい、戦いの雰囲気が出来上がっていた。

 

「ほーう、ぐだ男君ってば何時の間にそんな綺麗なお姉さんと知り合ったのかしらー不思議ですわねー」

 

「そうですわねー奥様。 しかも逆ナンですって? 全敗した私たちのあてつけかしらー」

 

「んだ、ぐだっち! おめえさも大会出場してたんだべか! いやーこれは負けてらんねぇべ!」

 

その中で特にそんな雰囲気に関係なく出来る限りの殺意を噴き出しているチームが居た。 マスターの学友たちで構成されたチーム「神聖隊」であった。

殺意の向き所は一人の青年と二人の美女で構成されたグループ、マスターが率いるというか率いさせられているチーム、「ブラックフラッグ」である。

 

「_____……」

 

「あら、マスターのお友達ですの? お友達の割には凄い殺気向けて来てますけど」

 

「マスターが羨ましいんでしょ。 もっと挑発してあげよっか、その方が戦いやすくなるし」

 

「それもそうですわね、ほらマスター、ぎゅーってしてあげます」

 

「_____!?」

 

そんな美女たちに抱き着かれて顔を真っ赤にするマスターと、抱き着かれたマスターを見て顔を真っ赤にするマスターの学友。 その怒り、もとい殺気は周りに共感、もとい伝染として周りの男たちも移って行き、あの男だけは殺すと会場の意識が一つになっていく。

 

「おや、マスターはここにいたのですね。 今回はお互い別チームなのは残念ですが、お互い全力を尽くして頑張りましょう」

 

そんな中にどろどろとした空間の中に清涼剤の役割を持ってアルトリアのチーム「ラウンズ」が挨拶をして持ち場へと歩いていく。 パートナーにはかの有名なランスロットとガウェインの双璧、突破するには常人はおろかサーヴァントでさえも困難である。

 

「そうそう、マシュもこの会場に来ていますよ」

 

「______!?」

 

「ははは、そこまで驚く必要はないでしょう。 観客席でライブ映像を見ながら残りの騎士達と共に応援してくれています、お互いかっこ悪い所は見せられませんね」

 

そう言ってランスロット笑うが、それを聞いたマスターは苦笑いしかできない。 ライブ映像で見ているということはマスターがアン&メアリーと一緒にいる所も見ているということ、それは帰ってから妬きマシュマロ案件であり、それを解消させるためにマスターはマシュを精一杯甘やかさなければならず、それが二人っきりならいいものの他のサーヴァントが見ている所でやってしまうと、大事件が起こりかねない。

マスターは戦う前から汗が止まらなくなってきていた。

 

 

 

「先輩、また違う人と……」

 

「兄さんまた違う女の人と……」

 

そんなマスターの思いを知ってか知らずか、しっかりとマシュは観客席からマスターを拗ねた表情で見ており、マスターの妹の方もなんだか機嫌を悪くして自分の兄を睨んでいた。

残された円卓の騎士たちは、同じ観客席で自分の王を応援しながらモードレッドが何処に紛れ込んでいるか監視しており、双眼鏡で選手たちの顔を一人一人確認している。

 

「トリスタン卿、何時までも水着の女性に目を奪われないように」

 

「私は悲しい……なぜベディ卿は私の思考パターンを先読みしてくるのか……」

 

若干一名、違う確認をしている騎士が居たが。

 

「なによ、兄さんったらデレデレしちゃってみっともないったらありゃしないんだから!」

 

「しかし、先輩が出場をするなら私も一緒に出てみたかったです……」

 

「同感ね、あのへらへらした顔をびしょ濡れにしてやりたかったわ」

 

「じゃあ、出てみるか?」

 

「誰っむぐ!?」

 

突如現れた少女に声を上げる前に口を塞がれるマスターの妹、その少女は彼女が先ほど出会ったアルトリアに良く似た顔で、水着の上からジャケットを羽織っており、三人分の的と水鉄砲を持っていた。

 

「モードレッドさん!?」

 

「モードレッド? じゃあアルトリアさんが探していたのってこの人? 男じゃなかったんだ……」

 

「しーっ、あの真面目野郎どもに気付かれるだろ! それよりも、丁度いいところにいたな! な、一緒に出場してくれよ!」

 

そういって手を合わせるモードレッド、普段は無理矢理にでも相手を連れまわすぐらい自分本位なモードレッドの貴重なシーンであったが、そもそも手に持っている水鉄砲は何処で手に入れたのか、三人一組のエントリーなので一人では出場は不可のはずである。

 

「出場って、その水鉄砲はどうしたんですか?」

 

「譲ってもらった! ちょいと尻を蹴飛ばしてな」

 

つまりは脅迫に近い形であった。 モードレッドのあまりの奔放さに開いた口がふさがらないマシュであったが、そんなことはお構いなしにモードレッドは無理矢理マシュに盾を持たせようとして来る。

 

「いや、私は今回は観戦をアルトリアさんから……」

 

「なんだぁ? マスターの貞操より父上の命令の方が大事なのか?」

 

「な、なんで先輩の……その、なんで危機なんですか!」

 

「なるほど、親子なのね……似ているはずだわ……」

 

マスターの妹の何だか合点のいっている様子に、嬉しいのか怒ってるのか分からない表情を一瞬見せるモードレッドだが、気を取り直してマシュに何か企んでいる顔をしながら近づく。

 

「そりゃわかんだろ。 もしマスター達が優勝して見ろ、あのメロン海賊たちはさっそく賞品使ってホテルで一泊と洒落込むぜ? そこで何が起きるか分からねぇほどいい子ちゃんじゃねぇだろ?」

 

「そ、それは……まだそうとは決まったわけでは……」

 

「そりゃそうだ、父上が俺以外の奴に負けるわけないからな。 だが、相手はマスターがいる。 それに父上は自分が前に出たいからってあの不倫野郎にリーダーを任せやがった」

 

「し、しかし……」

 

「それに、俺たちが優勝すればホテルに泊まるのは、俺たちだ。 無論マスターも入れてな」

 

「なっ……!」

 

「ちょ、ちょっとマシュちゃん……?」

 

完全に極悪人の顔をしながらマシュにあることないことを吹き込んでいくモードレッド。 だが、マスター関連には見境が無いマシュはどんどんと眼に闘志の炎が宿っていく。 気付けばマシュはモードレッドに乗せられて怪しい話に聞き入っていた。

 

「きっとアイツも喜ぶぜ? そのまま良い雰囲気になって、そのままホテルで長い夜を……なんてことも」

 

「そ、そんな……ダメです……私達にはまだ早すぎます……あぁ、でも先輩が求めるのであれば……」

 

「早いか遅いかの問題なの……!?」

 

「なぁ、いいじゃねーか。 これは私欲の戦いじゃねぇ、マスターを守る立派な正義の戦いだぜ?」

 

「正義の、戦い……!」

 

完全に私欲の戦いであるが、もはやマスターの事しか頭にないマシュは判断も出来ずモードレッドから差し出された手を握ってしまう。

商談成立と見たモードレッドは、次の獲物にマスターの妹を捕捉すると、その腕を取って有無を言わさずに試合会場へと引っ張っていった。

 

「ちょ、ちょっと! 私には説得も無しなわけ!?」

 

「おう、お前はそうだな……うちのマスターと同じところがありそうだったからな! 説得が無理と思ったら実力行使だと相場は決まってる!」

 

「な、なんでさー!?」

 

妹の叫びもむなしく、騎士達に気付かれないままマシュとマスターの妹は、一人の反逆の騎士によって無理矢理参戦させられてしまい、ここにチーム「カムラン」が結成されることになった。

ほどなくして、試合が開始される合図である笛が施設中に鳴り響き、戦いの幕が開けた。

このモードレッドの参戦がどのような混乱をもたらすことになるかは、まだ誰にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいですかガウェイン、貴公の遠距離型の水鉄砲は射程こそ長いですが、一回の射撃ごとに空気を籠めなければいけません。 撃つなら当たる時を狙いなさい」

 

「はっ! このガウェイン、王への忠誠を持って敵を打ち破る様をお見せしましょう」

 

「ランスロット、貴方の盾は攻撃性こそ持ちませんが、防御の方法はこれしかありません。 今回は貴方が倒れてしまうと私達の敗北となります。 貴方の技巧をもってその身に一粒の水滴さえも防ぎきることを期待します」

 

「はっ、お任せください。 王は後方の憂いなく御自身の御威光をその水鉄砲を持ってお示しください」

 

南国のジャングルをデザインされたいろんな背の高い木々が並ぶジャングルプールエリア。 そこで索敵しながらウォーターブリッツ経験者であるアルトリアは忠臣二人に戦い方を享受していた。 開始されてから、三十分以上は経っており、所かしこで脱落者も出始めていた。

円卓の誇る最強の騎士達といえど、持つのは剣ではなく水鉄砲であり、自分たちの時代では考えられぬ動き方をしなければならないため、円卓の騎士達は苦戦を強いられると思われていたが、彼らが撃滅または壊滅させたチームは開始から五チームにまで上る。

経験者であるアルトリアの的確な作戦指示も要因の一つだが、恐るべきは騎士達の異常な適応力であった。 水鉄砲の仕組みを理解し、盾の有効範囲を理解し、射線を理解し、自分たちが勝利するための動きを理解した。

結局彼らが危うかったのは最初のチームの戦闘のみであり、その後は相手の動きから自分の動きを理解し、いまや並の選手の力量を大きく上回る動きをするようになっていた。

 

「しかしなるほど、これがウォーターブリッツという競技……王が楽しむ理由も分かる気がしますな。 怪我の心配が無い所が特によろしい」

 

「先ほどのチームで五チーム目ですが、油断は禁物です。 このサバイバルのルールは言わば弱者必滅のルール、弱いチームから駆逐されていき必然的に強者が残る……それに此処は広い、狙撃や挟撃などには気を付けたいところです」

 

「確かに、飛んでくるのが弓ではなく殺意無き水では我々の戦場で鍛えられた勘というのも働きにくいですからね。 超絶技巧のランスロット卿でも飛んでくる水を二方向同時にというのは難しいでしょう」

 

「彼女……マシュなら造作もないのだろうが、いや盾だけを振るというのは経験が浅いのでな。 今回ばかりは卿に頼らせてもらおうか、私の出番がないこと祈るよ」

 

そういいながら微笑み合う騎士達、上空のドローンから映されているライブ映像ではその様になり過ぎる二人に会場の女性達が黄色い声を上げる。

 

 

「対象発見だべ……」

 

「待て、まずは経験者らしいアルトリアさんを狙う。 そのまま続けて第二射でリーダーを狙う」

 

そのアルトリアを狙う影があった、生い茂る木々に隠れながら長距離用の水鉄砲がアルトリアに狙いを定め、引き金を絞っていく。 殺気のない銃口にアルトリア達はまだ気付いていない。

 

照準(セット)完了(アライメント)……あ、だべ」

 

「撃て」

 

「_____っこの感覚!?」

 

「王よ! 私の後ろに!」

 

アルトリアが何かに感づき、大きく体を逸らすと同時に、的があった部分に勢いよく水がレーザーの如く飛んできた。 長距離からの正確な狙撃にランスロットが前に出てアルトリアを庇い、すぐさまガウェインが索敵を開始する。

アルトリア達は自分たちにも悟られぬほどの狙撃に驚くが、それ以上に驚いたのはその狙撃を避けられたマスターの学友たちのチームであった。

 

「マジかよ、避けやがったぞ!? マジで人間か!? 第二射は!」

 

「無理だべ、こっちに気付いたべ。 アルトリアさんと盾役の人が向かってくるべよ、敵の有効射程内まで想定五秒。 足早いっぺな……」

 

「水の軌道から位置を把握したのか! 弾幕張りながらウォータースライダー区域まで走るぞ! 狙撃が無理なら他の敵と混戦させるしかない!」

 

「急げ! 時間稼ぎも長くは持たんぞ!」

 

迫ってくるアルトリア達に出来る限りの弾幕を浴びせて物陰に隠れさせている間に、サルと学友は長距離用の水鉄砲を持って現エリアから離脱していく。

彼が離脱したことを確認すると、残りの学友たちも最後尾に盾持ちが付き、後ろから狙われない様にしながら離脱していった。

 

「敵二名、離脱していきます。 追いますか?」

 

「いえ、おそらく相手は私達を誘い込んで他の敵と戦わせる魂胆でしょう。 おそらく敵が多く集まるであろうウォータスライダーエリア方面へと離脱していきましたから」

 

「では、このまま敵同士が消耗するまで待ちますか?」

 

「いえ、それでは機を逃します。 ここは誘いに乗って、敵が集まるウォータースライダーエリアで敵を殲滅させましょう。 おそらくもうそろそろエリア封鎖が始まる頃です」

 

今回のウォーターブリッツはワクワクざぶーん全域を試合会場としたため、選手が少なくなると会敵が難しくなる。 なので一定時間毎に中央のエリア以外のエリアは侵入不可になるように出来ており、不可になった時そのエリアにいる選手は失格となる。

なので、選手たちは皆自分たちのエリアから中央エリアを目指さなければならなくなり、その途中で同じ考えを持つ同エリアのチームと戦闘になる。 結果そのエリアで生き抜いた強者だけが中央のウォータースライダーエリアを目指すことになり、そこで決着がつく。

 

「しかし、このままいくと乱戦になるのは明らかです。 そこで……」

 

アルトリアが一つの案を出す。 彼女の一つだけ飛び出している髪の毛がぴょこんと揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

ウォータースライダーエリア、中央には大人たちがスリル満点に飛びこめる二、三メートル程度の滝があり、その横にはなぜかきのこに模されたウォータースライダーが並ぶ、子供から大人まで人気のあるエリアである。

そのエリアは今ウォーターブリッツ用に様々な障害物が立ち並び、そこではいくつもの水が飛び交っている限りなく平和な紛争地域と化していた。

プールの上にも足場が出来ており、滑ったらプールに真っ逆様ではあるがその足場の先で乗り込める子供も大人も遊べる海賊船は拠点としては最適であり、皆そこを目指そうとして牽制し合っている。

 

「サル! 無事か!」

 

「おーう、二人とも無事だったべか。 こっちはどうも膠着状態だっぺな、あの外人さんたちが後ろから付いて来ててくりゃあ一気にあの沈没船までいけるんだっぺが……」

 

「それが、どうもあっちの動きが可笑しい。 普通はそのまま追撃、ここで挟撃しようと迫ってくると思ったのだが……」

 

「あちゃあ、読まれたっぺかな?」

 

「多分な、あの人たちが付いてきてくれたらそのまま乱戦に参加させれたんだが……」

 

その後マスターの学友たちは近くに設置された障害物を高台代わりにして地の利を取りながら戦況を観察していた。

自分たちのチーム以外誰もが敵であるこの空間で、戦闘能力的にも、その人目を引く顔の良さ的にも目立つアルトアリア達を乱戦に引きずり込むということは、この膠着状態に陥って皆が場外負けをするという状況を打破する一手だったのだが、それも期待できなくなり、マスターの学友たちは溜息をつきながら撃ってくる相手を冷静にチームワークを駆使してやり返している。

 

「このままじゃあ、誰もあの海賊船にたどり着けずにルール負けしちまうな……」

 

このウォータースライダーエリア以外のエリアが禁止区域になった時、エリアは海賊船を中心に狭くなっていく。 つまり、海賊船に乗りこまない限り場外負けの危険性は無くならない。

しかしながら海賊船をつなぐ通路はこの大会では封鎖されており、プールに浮かぶ足場しか海賊船に続く道はない。

なので、最初にこの海賊船に到着した者にとって後から足場を渡る者は一列に並ぶことを余儀なくされ、格好の的でしかなくなり、実質勝利に王手をかける。 これが全チームが海賊船を目指す理由でもあった。

 

「ほぼ全チームが集まっているこの状況で何の策もなく飛び出すようなものだな」

 

「エリア封鎖の時間も残り少ないし、どうすっかな……ぐだ男の奴がさっさと脱落してくれているのを願うが」

 

「だべな」

 

だが膠着状態になって十五分程度が経ち、エリア封鎖が予告されるアナウンスが流れたころ、事態は急変した。

 

「……どうもおかしいな」

 

「妙だっぺな……どうも撃ち合いの方向が違ってきてるっぺ」

 

それまでは、各チームはそれぞれの障害物に身を隠し、自分の対角線上にいる敵を攻撃しており、大きく勢力はジャングルエリアからきた中央、流れるプールエリアからきた右側、子供向けエリアの左側で、敵の敵は味方理論で各方面で撃ちあう形になっていたのだが、今は自分が来たエリアの方角に向って撃ち続けている。

後からこのエリアに来たチームに挟撃を食らったのか、それともまず自分の周りのチームを片づけようとしたのか、中央にいるマスターの学友達は一向に状況がつかめない。

 

「しかし、各方面が潰しあっているのは好機だ。 こちらも暗黙の臨時協定を壊して、中央突破を図りながら海賊船を目指す!」

 

「いや、待て……何か変だぞ。 左右の敵が中央に向かってきている!?」

 

それは、左右のチームたちが撃ちあいながら中央の方へ向ってきている光景であった。 中央に向かう左右のチームたちはお互いに潰しあいながらも中央に向かって足を進めており、中央もそれを押しとどめるために撃ち返さなければならず、結果全員が共倒れと言う形で脱落していく。 もはや誤射などを気にしていられないぐらいの混沌とした戦場と化していた。

 

「なにが、起こっているんだ!?」

 

「二人とも、あれ見るべ! ありゃ人間じゃねぇべよ……」

 

「あれは、アルトリアさん!? 一人で左側全員追い詰めてんのか!?」

 

「右の方にはガウェインさんとランスロットさんか……何てことだ、三人でこの戦況を崩壊させたのか……」

 

それはアルトリアが一人で突入して、場をかき乱している様であった。 飛んでくる水をまるで先読みしているかのようにかすりもせずに避けながら的確に打ち返している。

ガウェインの方も的確にワンショットワンキルで仕留めていき、飛んでくる水はランスロットが盾で全て弾いている。

 

「くそ、中央はじきに崩壊する! こうなったらいったん他のエリアに……」

 

「駄目だ! エリア封鎖が始まった! 俺たちは前に出るしか生き残る術はない!」

 

「誘われていたのはオラ達だっただがや……!」

 

サル君がやられたという様に、頭を抱える。 もはや共倒れしか向える結末は無い。 辛うじて残ったとしても、アルトリア達からの残党狩り、そうしなくても海賊船に乗り込み高みの見物をするだけであとは決着はつく。

 

「良し、このくらいでいいでしょう。 あとは皆が潰しあうだけです」

 

アルトリアが合図とばかりに空に水を飛ばすと、それを見たガウェイン達が合流に向かう。

これはサーヴァントだからこそ実行可能な作戦であった。 マスターの学友達が逃げたあと、エリア封鎖ギリギリの時間になるとアルトリア達は二手に分かれた。

アルトリアは単騎で子供向けエリアからスライダーエリアに、ガウェインとランスロットは流れるプールエリアからスライダーゾーンに。 どれもカメラに映らないように、しかしながら全速力で向かい、到着すると各方面を後ろからじわじわと狙い撃ちにした。

後ろから撃たれたチーム達は暗黙の共戦協定が崩れたと誤解し、内側で撃ちあいを始め、それはどんどんと広がっていった。

焦ったのは最前線にいるチームらであり、後ろで始まる撃ちあいに挟撃の可能性を危惧し、参戦したいが、参戦すると次は各方面からの挟撃を食らうという状況にどうにもできない。

その状況でアルトリア達が戦線を押し上げると、いよいよ前線にいるチームは挟撃の恐怖を無視できなくなり、唯一の逃げ場である前へと足を進めざるを得なくなる。

すると、全く同じ状況に陥っていると気付かない左右の陣営はどちらとも、相手が自分が前に出たために相手も前に出てきたと考え、そのまま両陣営は激突、そのまま中央を巻き込む形で、乱戦と化したのである。

恐るべきはそんなことを実行できる精神と肉体を持つサーヴァントである。 もはやイカサマに近い。

 

「しまっ……アルトリアさん達が海賊船に向かうぞ!」

 

「ンな事言ったって、もう無理だべ!」

 

「くそっ……! 何故誰も気づかん! このままでは共倒れだぞ!」

 

この状況を破るにはここのチーム全員が協定を結んで、アルトリア達に牙をむくことであるが、そんなことは不可能である。

学友達が、自分の身を守るのに必死な間、これを機として海賊船に向かっていたチームを尽く打ち破りながらアルトリア達は海賊船へと悠々と足を進めていた。

 

「これで、勝利は間違いないでしょう。 ガウェイン、ランスロット良くやってくれました」

 

「いえ、これも王の戦術があってこそ。 私は盾役でしたので実質はガウェイン卿が居なければ成立しませんでした」

 

「いえ、ランスロット卿の鉄壁の守りがあってこそこの作戦は成功したのです。 流石は円卓最強と名高い騎士……」

 

「いいえ、どちらか一人でも欠けていたならこの作戦は成功しませんでした。 誇りなさい、貴方たちは王の勅命を見事果たしたのだ」

 

「「はっ……」」

 

まるで城へと凱旋するかのように、海賊船へと向かうアルトリア達。

だが、アルトリア達は忘れていた。 この状況を予測しえる人物がいることに。彼らを尊敬し、目指すべき目標とし、理解し、彼らから教えを受けた者がいることを。

 

「_____この覚えのある感覚っ! しまっ……!?」

 

「王よ!」

 

海賊船まで、あと半分と言ったところで、海賊船から水がガウェインの的を一閃する。 アルトリアを狙った射撃を庇ったのだ。 アルトリアは最前列で、盾となるランスロットは最後尾、盾も間に合わず、結果ガウェインがアルトリアをその胸に隠して背中の的をさらけ出すしかアルトリアを救う道はなかった。

 

「ガウェイン!」

 

「王よ、どうか、勝利を……」

 

そういってガウェインはそのままプールの底へと消えた。 いや、怪我一つないのだが、場面的に浮かばない方が良いと空気を呼んだのかそのままガウェインは潜水しながら姿を消してそのまま浮かび上がることはなかった。

 

「そんな……!」

 

「王よ、まだ相手は健在です! 盾の後ろへと! ガウェイン卿の犠牲を無駄にするおつもりか!」

 

「……っ! ランスロットはその身を第一に! 貴方がやられると御仕舞なのです! 私はそのまま射線を見て避けます! このまま海賊船へと突撃! 敵を撃滅します!」

 

「御意! ……それでこそ我等が王です」

 

そのまま二人は陣形を維持しながら不安定な足場を全速力で進んでいく。海賊船からは絶えず、水鉄砲の狙撃が続いており、正確な狙撃と常人では考えられない空気の再装填速度に、アルトリアは同じく大会に参戦していたサーヴァントたちを思い浮かべる。

 

「わお、あの騎士が庇う所までピシャリだね。 さっすがマスター」

 

「でも、そんな相手の性格まで利用して避けられない罠を仕掛けるなんて、マスターったら根っからの善人の癖に、戦いのときはこんなチョイ悪になれるんですね……」

 

「嫌いになった?」

 

「いいえ、ゾクゾクします♡」

 

「僕も。 んじゃ出るから援護よろしくー」

 

「お任せください」

 

そうして、海賊船から白い水着姿の少女が出てくる。顔に大きな傷がある以外は可愛らしい少女であるがその手には短距離用の水鉄砲、つまりは大会の出場者である。

彼女の名はメアリー・リード、会場でマスターと共に居た美女の一人であり、サーヴァントの一人である。

 

「貴女は……」

 

「こんにちは王様、そしてさようなら王様。 まさか海賊に名乗り何て期待しないよね?」

 

「____っ!」

 

敵の出現にアルトリア達が足を止めた隙に、水鉄砲を乱射しながら一気に間合いを詰めていくメアリー。 プールの波で揺れる不安定な足場でさえも何の意にも介さずに走れるのは流石海賊出身のサーヴァントと言う他ない。

 

「あてずっぽうでも、この回避行動がとれない足場では……王よ、私の盾に隠れて射撃を!」

 

「分かりました!」

 

そのままランスロットが盾だけをアルトリアの前に出して、アルトリアの身を守る。 幸運にも他のチームで海賊船へと続く足場に向かう者はおらず、前だけに集中することが出来たので、このままメアリーはアルトリアを仕留める事が出来なくなった。

 

「ふーん……でもそうすることも想定済みなんだよね、こっちは!」

 

が、メアリーもサーヴァントである。 そのままメアリーは至近距離までアルトリア達に近づくとそのまま高く飛んで空中で宙返りし、ランスロットの後ろに回り込みながらながら水鉄砲を乱射する。 サーヴァントであり、水上の戦闘に慣れたメアリーだからこそできる芸当であった。

 

「なんとっ……! むんっ!」

 

だがランスロットも円卓最強の騎士、盾を使って水を弾き飛ばしながらメアリーと対峙するが、その時点でランスロット達は自分たちが詰れたことに気付く。

 

「しまっ……」

 

「くっ……!」

 

「はーいそこまでです」

 

海賊船の甲板部分からもう一人の美女が長距離用の水鉄砲でアルトリアに狙いを定めながら声をかける。 メアリーとは対照的に赤色の水着を着た、誰もが羨むナイスなバディの美女である。

彼女の名前はアン・ボニー。射撃の名手であり、メアリーの一番の相棒である。

 

「さ、どっちを選ぶ? 僕に撃たれて負けるか」

 

「私から撃たれて退場となるか」

 

「どっちがいい?」

 

「どちらがよろしいですか?」

 

これはランスロットが何よりも固い忠義を持つことを逆手に取った作戦であった。 完全なる挟撃、アンに対処しようとしたらメアリーが、メアリーを対処しようとしたらそのアンがその引き金を引く。 アルトリアがランスロットを庇おうが、ランスロットが攻撃することは不可。 どうあがいても対処は不可能であった。

これがサーヴァントではないなら突破も可能であっただろうが、相手はサーヴァントに加え射撃の名手である。 唯一の突破方法は挟撃される前に、アルトリアが自分の勝利にかけてメアリーに向かって突撃することであったが、それも今になっては叶わない。

 

「流石ですね、この作戦を考えたのは?」

 

「分かるでしょう?」

 

「サーヴァントの事になると誰にも負けないからね、僕たちのマスターは。 単身での挟撃、その隙に乗じての乗船、その時の列の並び、誰が何を持つかまでぜーんぶ御見通し」

 

ふとアンの隣に一人の青年が立っていることにアルトリアは気付く。

 

「マスター……!」

 

「_____」

 

誤魔化すように頬をかきながら笑うマスターに、アルトリア達は自分たちが罠にかけられた事に納得がいく。 アルトリア達はマスターはあの乱戦に巻き込まれているものだと思い込んでいたが、どうやら甘かったらしい。 下手をすれば自分以上にサーヴァントを理解するこの青年に、なんの対策も無しに挑むこと自体が甘かったのだと、爽やかな悔しさと共にマスターと笑いを交わす。

 

「_____」

 

「了解、これが手向けといたしましょう」

 

「うん、解体しちゃおう」

 

「それ、わたしたちのセリむぐぐ」

 

マスターが手を上げると同時に、アンとメアリーの水鉄砲に力が籠められる。 次は勝つと、アルトリアがリベンジを決心してメアリーに最後の抵抗を試みて銃口を向ける。

マスターの手が降ろされる____

 

「ちょーっとまったー!!」

 

「ちょちょっと落ちるー!?」

 

「ゴムボート、足場に接触します……!」

 

その時であった。 勢いよく発進してきた一つのゴムボートが足場へとぶつかってきたのだ。 当然足場は大きく揺れて、そこにいる全員は身動きが取れなくなる。

 

「今だ! あの船の上のデカメロンを狙え!」

 

「えっ!? えーっと……そこ、動くな!」

 

「_____っ!」

 

「きゃっ……!?」

 

その間に、ゴムボートに乗っていた一人の少女の水鉄砲から、綺麗にアンの胸元に向かって水が発射される。 咄嗟にマスターが盾で防ぎ、アンを押し倒すことで脱落せずに済んだが、これによってマスターの詰みが崩れる。

 

「王よっ!」

 

「ええ、突入します!」

 

「しまっ……!」

 

その隙を逃さず、アルトリアが船内へと突入する。 逃がさぬとメアリーは水鉄砲を乱射するが、ランスロットと一人の少女によって全て防がれてしまう。

 

「んなっ……マシュ!? 君は観戦しているのでは……それにモードレッドまで!」

 

「それがいろいろと事情がありまして……」

 

「父上を倒すのは、この俺だ! 邪魔はさせねぇ!」

 

「この……邪魔はそっちだ!」

 

その少女たちはモードレッド、マシュとマスターの妹で編成されたチーム「カムラン」であった。 メアリーとモードレッドが睨みあっている間、マシュとマスターの妹は船内へと入っていく。

残されたのは、ランスロットとモードレッド、それにメアリーであった。

 

「そんじゃあ蹂躙と行くか!」

 

モードレッドが吠える。 決着の時は近づいていた。

 

 

 

 

「マスター! 御覚悟を!」

 

「先輩! 不純異性交遊はまだ早すぎます!」

 

「兄さん! ……えっと、とりあえず覚悟!」

 

「マスター、こういう事はもっと落ち着いたところで……ほら、人が見ていますわ」

 

「______!?」

 

三人が甲板に到着した時、マスターはアンとくんずほぐれつになっていた。 実際はアンが掴んで離そうとしないので、マスターが離れようともがいているだけなのだが、アルトリア除く二人には、またマスターが女性と良い雰囲気になってるようにしか見えない。

 

「へぇ……余裕あるのね兄さん……」

 

「先輩、最低です」

 

「_____!?」

 

一瞬の躊躇なくマスターの妹はマスターに向けて水鉄砲を発射する。 対するマスターは弁解しながら床を転がり盾を展開してこれを回避するが、彼女たちの冷たい目線は回避できなかった。

 

「マスター、どうします?」

 

「_____……」

 

が、そんな時でさえもマスターは何とか戦略を立ててこの状況を打開しようとアンと密着しながら小さく作戦を話し合っていた。

 

「____……」

 

「……そうですわね、私としては勝ちたいです、優勝よりも」

 

「____……」

 

「リーダー狙い……? ……ふむ、ふむ、なるほど……」

 

「いい加減、離れないかしら?」

 

マスターの妹が顔に青筋を立てながら、水鉄砲をマスターに向ける。 さすがのアルトリアもこんな状況になっているとは思いもよらなかったため、銃を向けていいのか戸惑っており、マシュに至っては笑顔が怖い。

すぐさまアンと離れると、アンの前に立って盾を構える。

 

「先輩、降伏を。 こうなった以上先輩に勝利の可能性はありません」

 

「待ってください、此処は正々堂々と一騎打ちに……」

 

「そんな必要はない! 今すぐにでもその顔をびしょびしょに……!」

 

ここで突入したのがアルトリア一人であったなら、問答無用で戦闘になっていたであろうが、マシュとマスターの妹が一緒に乱入してきたのがマスターにとっては幸運であった。

それぞれ、マスターの対処を協議している間、横目で下で戦っているメアリーを見る。

メアリーはモードレッドの乱入によって、ランスロットとの二対一の戦闘を強いられており、このままでは敗北は確実であった。

 

「___……」

 

一瞬、モードレッドが突撃してきた時のようにマスターには一瞬の隙が欲しかった。 それさえあれば、逆転できるのだ。 マスターは目の前の三人に時間稼ぎをしながらその時をじっと待っていた。

 

 

「おっと、そろそろ動きが鈍くなってきたか?」

 

「くっ……」

 

「モードレッドあまり前に出過ぎるな! もしお前が当たったらマシュ達まで失格なんだぞ!」

 

「うるせぇ! 俺に指図するんじゃねぇ!」

 

モードレッドとランスロットの相性は凄ぶる悪かったが、戦闘においてその連携は見事の一言に尽きた。 命中弾をランスロットが叩き落とし、隙を逃さずモードレッドが撃ち続ける二人の連携は、水上戦のプロであるメアリーを苦戦させ、その体力を奪っていった。

 

「一瞬、一瞬の隙があればいいんだ……」

 

「……? まてモードレッド、何か様子がおかしい。 防御戦に徹しすぎている。 相手は何かの策を持っているのではないか?」

 

「なら、その策ごと打ち破ればいい! ランスロット俺に合わせろ! このまま一気に……!?」

 

その時、決着をつける一撃がその銃口から放たれた。 しかしそれはその場にいるサーヴァントたちの水鉄砲からではなかった。 その一撃は船から遠く離れた地上から、一人のサルの様な人間からであった。

 

「セット。 多分避けるだろうけど、これで……オラ達の勝ちだべ……!」

 

長距離水鉄砲による狙撃。 その一撃は遠く離れたモードレッドの的を捉える。

 

「……っぐぉぉ!!」

 

前に出ようとしたせいで、ランスロットの盾も間に合わず、モードレッドはその直感によって体をそらしてその狙撃をすれすれで回避するが、体をそらしたことで一瞬隙が出来てしまう。

 

「「それを、待っていた!」」

 

アンが、甲板から素早く水鉄砲を取り出し一瞬でランスロットに照準を合わせて発射する、そのタイミングに寸分の狂いもなくメアリーがランスロットに水鉄砲を発射しながらモードレッドに抱き着きそのままプールの中に引きずり込む。

 

「んだとぉ……!?」

 

「ま、さ、か……!」

 

正に比翼にして連理、正反対の二方向からの同時攻撃にさすがのランスロットも対応できず、その背中の的が水に濡れ、モードレッドも抵抗できずプールへとダイブしてしまい。 両人とも失格、そしてリーダーが退場となったためそのチームのメンバーも全員失格となる。

 

「まさか、先輩はここまで予想して……?」

 

「_____……」

 

驚く後輩に、まぐれだと笑うマスターであるが、そのマスターの的も濡れていた。 アンの照準がぶれないため、一瞬遅れて発射された二人の水をその身を挺して受け止めた結果であった。 これによりマスターのチームも失格である。

 

「……引き分けですか。次回に持ち越しと言うことですね」

 

失格になったことによって、アルトリアも笑って水鉄砲を下ろす。 決着は次回に持ち越しとしたらしい、そのまま船を下りてランスロットを迎えにいった。

 

「……兄さんは一体、向こうで何をしてきたの? 一体何が……」

 

「……どうかされたのですか?」

 

兄の姿を見て信じられないという目で見つめるマスターの妹。 それはまるで別人を見ている様な目であり、マシュはそんなマスターの妹を不思議そうな目で見つめながら、モードレッドの回収に向かっていった。

 

「ごめんなさい、マスター。 勝ちたいがために優勝を不意にしてしまって」

 

「_____」

 

歩きながら、申し訳なさそうに謝るアンに、笑って頭を撫でるマスター。 結局のところマスターは優勝よりも勝ちたいというアン・ボニーの気持ちを最優先に作戦を立案したのだった。 次は勝とうとアンに微笑むとアンは少し顔を赤くしながら、彼の頬にキスをすると走ってメアリーを迎えに行った。

 

「先輩……」

 

「兄さん……」

 

_____冷たい視線を残して。

 

 

「こ、これで、オラ達の優勝だべ……オラを守るために散っていった学友よオラは勝ったべ……!」

 

その様子を見ながら、勝利の涙を流すサル君、周りには失格となったチームがへたり込んでおり、どうやら神聖隊はあの地獄の様な戦いを大きな犠牲を経て勝ち残ったようであった。

 

「うぅ……みんなでホテル行くべ……っておろ?」

 

そんなサル君の的からヒットしたというブザーが鳴る。 まさか涙で反応したのかとサル君は笑うが、顔に水がかかった時その顔は真っ青になった。

 

「えっと……解体するね?」

 

「解体はしちゃだめよ!」

 

「こんな勝ち方でいいんでしょうか……?」

 

サル君がその眼に見たのは、水鉄砲を持った三人の少女。 そういえば会場で見た気がするなと近くで鳴るブザー音が遠くに聞こえながら、サル君はそう、ふと、思った。

 

「終了ー! 優勝はチーム「おとぎばなし」だぁぁぁぁ!!」

 

「うっきーーーーーーーっ!?」

 

その日、わくわくざぶーんではサルの泣き声が聞こえたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何処のキャベツ畑から拾ってきたの、その子たちは」

 

マスターの家、その玄関でマスターの母は腰に手を当てながらそう言った。

 

「______……」

 

マスターの母が見つめる先には、苦笑いをしながら立っているマスターとその背中に隠れながらマスターの母を見る三人の少女たちがいた。

 

「マシュちゃんから、他のお客さんの事は聞いてるけど。 その子たちを家に住まわせるなんて話は聞いていません」

 

「______……」

 

「あのねぇ、この家がそんなに大きいように見えるかしら? アンタだって部屋を譲って屋根裏部屋に住んでいるのに、この子たちのスペースが何処にあると思ってるの?」

 

マスターの母の正論に言いよどむマスター、それでもと何とか説得をしようとするマスターに一人の少女がマスターの裾を引っ張って首を振る。

 

「あの……もういいんです。 ごめんなさい、トナカイさん。 カルデアから出ること自体駄目なのに、これ以上トナカイさんに迷惑はかけられません……」

 

「でも、また寂しいって泣いちゃうのジャンヌでしょ? それに、マスターにホテルの券プレゼントするって」

 

「いいえ、泣きません。 と言うか泣いてません! 立派にお留守番できます!」

 

そう少女は言うがその言葉とは裏腹にマスターの服を握る力は強くなる一方で、口では強がっても本当はマスターと離れるのが嫌なのは誰が見ても分かることであった。

 

「はぁ……アンタって子は何でこう節操無しなんでしょうね?」

 

そういってため息をつくマスターの母。 なんだか昔を思い出してるようで、遠い目をしながら、クスリと笑った。

 

「_____!?」

 

「無自覚なのが余計に性質悪いの。 全く……さ、外は寒いでしょう中にお入りなさいな」

 

「えっ……?」

 

「いいの……?」

 

「別に駄目だなんて一言も言ってないわ。 私、子供が寒そうにしてるのだけは耐えられないのよ」

 

そういってウィンクするマスターの母を見て、少女たちは喜んで家の中へと走って入っていく。

 

「_____?」

 

「どうせ、良いというまでそこ動かないつもりなんでしょ? そういう所もお父さんそっくりなんだからまったく……まぁ、ちょっと早い孫が出来たと思うことにするわ」

 

そういって笑うマスターの母に、マスターはどれだけ懐が深いんだと若干困惑しながら笑い返す。 その笑い顔はまるで兄弟のようにそっくりであった。

 

「ありがとう! おかあさんのおかあさん!」

 

「ちょっと待って、ほんとに孫じゃないわよね?」

 

_____マスターの明日はどっちだ。

 

 

 




ごめんなさい、いつもよりものすごく長くなってしまいました。 節操なく書くからこうなる!
今回は妹、わくわくざぶーん編、妹とタイトルに書きながらあまり妹の出番がないという不具合、許してください。

ちょっとテストが始まるので、少し投稿速度が遅くなります。 すいません。

感想&誤字報告毎度ありがとうございます。 とても励みになっています。 監獄塔送りにしますね。(エドモン復刻おめでとう)

それでは長いですが、ちびちびと楽しんでみて頂けると嬉しく思います。

次回はマスター不在中のカルデアのちょっとした一幕。

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