「結局、世界救おうが何しようが給料は変わらないんだなー」
「元々高い方だろうが、文句を言うな」
「あ、でもあの子は時給が上がったって喜んでましたよ」
「うむ、あの少年は欲があるのか無いのか分からんな……」
「因みにいくら上がったんだ?」
「えーっと、日本円で五十円」
「「安い!」」
此処はおなじみ人理継続保障機関カルデア……の食堂。 世界が救われても彼らの仕事は続いていく、この頃は外界からの連絡も取れて時計塔や国連からの人員も増員されて交代制の二十四時間態勢でのメンテナンスもしなくても良くなり各自が十分な休息を取れるようになった。
なので、いつもはまばらだったカルデア食堂も常時賑わいを見せる様になり、厨房も増員の大忙しである。
「しかしあの少年も真面目だねぇ、もう戦う必要もないってのに日々トレーニングに励むなんて」
「ふむ、しかしながら近々あちらの上層部が少年の模擬戦を見に来ることもあるし、鍛えておくことには損はないだろう」
「といっても、もう戦闘シュミレーターの難易度もカンストしてますからね。 いまはタイムアタックに執心してるみたいですよ」
「シミュレーターだ。 ある意味あの子の成長具合が楽しみでもあるが、恐ろしくもあるな……んっ?」
と、白衣を着たカルデア職員が不意に何かに引っ張られる感触を感じて、後ろを見る。 流石にもう、厄介ごとは無いと思いたいのだが……
「こ、子供……」
「わ、わぁ、かわいい……あの子にどことなく似た可愛さですね……」
「……」
そこには小学校の高学年くらいだろうか、黒い髪と綺麗な青い目をした可愛らしい少年が白衣を引っ張っていた。 なんだかどことなくマスターに似ており、この前もこんなことがあった気がする職員は素直に少年に話しかけることが出来ない。
「この前の時よりもずいぶんと大きいな……」
「小学校高学年だな、この前の無邪気さや、奔放さよりも今の少年の大人しさが目立っているようだ……」
「……っ!」
すると、少年はどうやら白衣のカルデア職員を男だと思っていたようで、引っ張っている白衣の人物が女性だと気付くと顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「この女性への耐性のなさは決まりだな……うむ、幼いとこうなるのか……」
「かわいいですね……」
マスター?の少年はそんな女性の視線に気付くと、あたふたしながら他の男性職員の背中に回り込む。 それがまた女性職員にはツボに入るらしく写真を撮る始末である、白衣のカルデア職員に至ってはなんだか目が怖かった。
「おいおい、そんなにいじめてあげんな。 ほら坊ちゃん、一緒に飯食うか?」
「____!」
「せんぱーい! どこですかー!」
「_____!?」
と、食堂の入り口からマシュが呼ぶ声が聞こえてくる。 するとマスターは更に顔を真っ赤にしてテーブルの下に隠れるがデミ・サーヴァントがそんなことで見逃すはずがなく、机の下の少年をすぐさま見つけると、そのまま抱きかかえた。
「もう、勝手に歩き回ったらいけません! その状態のマスターはいろんな人のゾーンに入ってしまうのですから!」
「______!」
「おお、あのマシュ嬢がおねえちゃんみたいじゃないか、滅多に見られんなぁ」
まるで珍しいもの見る様にカルデア職員は笑うが、小さいマスターにとってはマシュから抱っこされてなお注目を浴びるのが恥ずかしすぎるらしくマシュの腕の中でジタバタと暴れはじめる。
「先輩、余り暴れないでください。 こうでもしないと先輩はまたすぐに、」
「___う……もう! おねえちゃん嫌い!」
「な”っ」
マシュにとっては地球が七回ほど滅びるほどの威力の発言に、マシュは石のように固まってしまい、その間にマスターはマシュの腕を退かして着地するとそのまま何処かへと走り去っていった。
「あー、あの子にとっちゃ恥ずかしすぎたかな。 まぁマシュちゃん、あの年頃の男の子は皆……マシュちゃん?」
「______」
「気絶してるな……」
「よっぽどショックだったんでしょうか……」
「あー、有り得ないー! あの遮那王が女の子だなんてー……しかもあの第六天魔王まで女の子ー!? この国は間違ってる! 女の子がどうやって刀振るうのよー!」
「いえ、沖田さん的にはあの宮本武蔵が女の子と言う時点で割とショックなんですが……」
カルデアの廊下で、そんなお前が言うなのバーゲンセールを開催しているのは、かの剣豪、新免武蔵守藤原玄信こと宮本武蔵と新撰組一番隊隊長、沖田総司である。 因みに武蔵に宮本が付いてないじゃんと思いの方もいると思うが、苗字の「新免」の代わりに出身地である宮本を使っていただけなので、さほど問題はない。
「というか、この国女剣士多すぎない? あの源氏の棟梁も凄い体だし、こりゃあ、あの上杉の毘沙門天の現身も女かも知れないわねー……」
「歴史って分かりませんねー」
どう突っ込んだいいか分からない会話をして歩いていく二人。 二人は腕の立つ侍同士と言うことで手合せをして来たばかりであり、死合いにはどんな手でも使うという戦術観において非常に気が合っていた。 今も手合せが終わってお腹も空いたし一緒にお茶でもしようと食堂を目指している所である。
「ここってうどんもあるのかしら、私お腹すいたー」
「ありますよ、食堂には西洋人風で日本出身のおかんとよばれる双剣使いのアーチャーが居まして……」
「何それ、すごく気になる! 矛盾しすぎてすごく気になる! あとで会いに……あれ、噂をすればあれ遮那王と弁慶じゃない?」
見ると、廊下の向こうに遮那王、牛若丸とその従者である弁慶が歩いていた。 だがどうにも牛若丸の方は不機嫌な顔を隠せてはおらず、弁慶の方はそんな牛若丸をいつ爆発するか分からない爆弾を見ているかのように戦慄いている。
「あぁ、これはお二人方食事に向かっているのですかな? 武蔵殿は噂はかねがね……義経殿もいつかは手合せ願いたいと楽しみにしております」
「え、えぇ、それは光栄と言うかなんというか……良かったー弁慶は女の子じゃなかったー……」
「それで、弁慶さんはどうしたんですか? その、牛若丸さん機嫌がすこぶる悪そうに見えるんですけど……」
「あぁ、それは……」
「____?」
と、弁慶の後ろからひょっこり小さな顔が二人を覗く。 それは綺麗な青い目をした子供であり、武蔵と沖田がその視線に気付いて見つめ返すとその小さな顔は顔を真っ赤にしてまた弁慶の背中へと隠れた。
「えーっと弁慶さんってお子さんいましたっけ……?」
「いえ、拙僧はこれでも仏に仕える身なので……破戒僧ではありますが」
「……主殿です」
「主殿って……マスター? そんなまさか、私の知ってるマスターはもっと大きくて、キリっとした美少……なんでもない」
「それがですな……ほらマスター殿、ご挨拶を……」
「_____……」
弁慶が恥ずかしがる少年を前に出すと、少年は顔を赤くして俯きながら自己紹介してまた弁慶の後ろに隠れてしまう。 弁慶の服を握りしめて腰に抱き着く様は何だか親猿に抱き着く子猿の様でもあったが、何にせよこの子供が弁慶大好きだということは二人には理解できた。
「うわーまた小さくなっちゃたんですね。 でも可愛いですね! この前よりも大きくなってるのでしょうか」
「なんで小さくなってるの……」
が、そんな光景を見て歯ぎしりをする人物がいる。 マスターに懐かれている弁慶を殺意のこもった目で見つめ、マスターが居なくなり次第即刻首を取ろうと鯉口を切ったり元に戻したりしたりしている。
「……寺の裏で切る」
まぁ、牛若丸なのであるが。 これでもかとマスターにくっつかれている弁慶を見て目からビームを出せるメジェド様もかくやと言う目力で殺意を送り、弁慶に冷や汗を絶やさせない。
「義経殿、もうそろそろ機嫌を直してくださらぬか……」
「別に私は機嫌など悪くしていない。 別に小さき主殿が弁慶派と知ってたとしても、大きくなった主殿は牛若丸派だと私は信じているのでな」
「ならば、刀の鯉口を切るのを止めて頂きたいのですが……」
どんどん増していく殺意に何とか鎮めようと弁慶が四苦八苦している間、武蔵と沖田はマスターに近づきその顔をもっと見ようとしていた。 しかしながら恥ずかしいのか二人が来ると弁慶の体を壁にして顔を見せようとはしない。
「うーん、恥ずかしがり屋さんですね。 このころから女の子は苦手だったんでしょうか?」
「赤面癖のあるマスターかぁ……いいかも……ほら、お菓子食べる?」
「____……」
武蔵が懐から飴を取り出してマスターに差し出すが、マスターは弁慶の後ろから少し顔を覗かせるだけでまたすぐに引っ込んでしまう。 まるで土竜の様であるが、そんな恥ずかしがり屋なマスターがなんだかツボに入ったのか、武蔵はなんとしてでもマスターの顔をじっくり見たくなり突然自分の刀から鍔を取り外す。
それは綺麗な細工がこしらえられた物であり、売れば結構な路銀になると武蔵自身が言っていた一品であった。
「鍔? それでどうするつもりなんです?」
「いいからいいから! ……ほーら、かっこいい細工でしょー? 見てみないー?」
と、その鍔をマスターの前に持っていくと見せびらかすようにいろんな角度から見える様に動かしていく。
「____……」
すると興味を持ったのか、マスターが弁慶の後ろからひょっこり顔を出すと鍔を見つめ始めてきた。 細かい細工がなされた鍔をもっと近くで見ようと少しずつ顔を出していくマスターに武蔵はにやりと悪そうに笑うともっと近くで見せるかのようにマスターの方へと近づいていく。
「ほら、持ってみる? 綺麗だよー?」
「____……?」
鍔を手のひらに載せてマスターの方へ持っていくと、マスターも鍔を手に取ろうと武蔵の方へ躊躇しながらも手を伸ばす。 少しずつ亀が首を伸ばすようにマスターの手が伸びていき、武蔵の手のひらにある鍔へと触れようとすると__
「____獲ったっ!」
「_____!?」
鍔を上へと投げてマスターの視線が逸れている隙に、マスターの手を掴みそのまま自分の胸へと抱き寄せた。 そのまま抱きしめるようにしながらマスターの顔を覗き込む。
「フィィーッシュ! 釣れた釣れた! 小魚で駄目なら海老で釣る。 これぞ二天一流の極意! うわーほんとにマスターなんだ、かわいい~!」
「それでいいんですか二天一流……あー! ずるいですよ、沖田さんにも触らせてください!」
「____!? べんけー! べんけー!」
「ぬおっ、義経殿! 流石にそれは死にまする!」
「動くでない、これは主殿を牛若派に戻すためのいたしかたない犠牲なのだ……」
美女二人に挟まれ頭から湯気が出そうなくらいに顔を真っ赤にしながら弁慶に助けを求めるが弁慶はマスターが離れてしまったことで牛若丸の刀から逃げるので精一杯でありそれどころではない。 結果マスターはむにむにの中ぷにぷにと顔を突っつかれたり頭を撫でられたりでやられたい放題である。
「わ、綺麗な目……こうやって見ると本当宝石みたい……」
「お肌もつるつるでぷにぷにですしねー下手したら女の子でも通じちゃいますね」
なんだかヒートアップしていっている二人にマスターは暴れて逃げようとするが、相手はサーヴァント、子供が敵うはずもなくテンション上がっているお姉さんたちはマスターの嫌だけど嫌じゃなくて抵抗するけど抵抗できない悔しさ的な表情が加わってなんだかさらに二人はさらにヒートアップする。
「なんだろう……なんだか……」
「なんでしょうね……はい……」
「ねぇ、マスター、お部屋でお話、しよっか」
「そうですね、廊下ではなんですし……」
「____!?!?」
完全に肉食動物の目をしている二人に本能的な恐怖を感じるマスター。 マスターは目が渦巻きのようにぐるぐるとまわっている二人を必死に説得するがまったくもって耳を貸さない、頭に熱がこもり過ぎて正常な判断ができていないのだ。 サーヴァントなのに。
「大丈夫、大丈夫。 ちょっと着物とか着てみるだけだから……」
「そうですよ、ついでに新撰組の羽織袴も着せましょう。 きっと似合いますよ……」
嘘だ、絶対それだけでは終わらないと彼女たちの目が、手つきが証明していた。 飢えたライオンセイバーの群れにクー・フーリンを投げ込めばどうなるかなんて子供でも分かる、マスターは自分の母が言っていた「いい? アンタは年上受けするから、一人で女の人に近づいては駄目、最悪食べられるわよ」という言葉を今更思い出して涙目になる。 食べられるのは嫌だった。
「____じぃじー! じぃじー!」
「ふふふ、弁慶は牛若丸の相手で……じぃじ? じぃじって_____っ!?」
「マスターにお爺さんっていましたっけ? エミヤさんはおかんですし……殺__っ!?」
マスターが涙声でその名を呼んだ瞬間、二人の背中に冷たい感触が走る。 それは明確な死という存在が自分たちを覆う様な感触。 死神が自分たちの首筋をなぞるような錯覚、振り向いたら目に映るのは首から離れた自分の体という確信めいた予感。
ギャグ空間に居てはいけない人物が自分たちの後ろに立っているという感覚が二人を動けなくする。
「____じぃじ!」
その中で唯一後ろを振り向いて笑顔を見せるマスター。 そのまま動けない二人を退かしてその人物へと走っていくが、彼女たちは振り向こうとしても明確な死のイメージによって振り向けない。
「____面妖な。 だが、その光は失われず、眩しき程に輝いている。 ならば肩に乗るがいい我が小さき契約者よ、未だ旅は終わらず」
「これ、じぃじと言うかじょうじなんじゃ」
「しっ、少しでも動けば首が飛ぶ……」
マスターの楽しそうな笑い声と共に、ゆっくりと甲冑が刻む重い足音が遠くになって消えても弁慶たちが声をかけるまで結局二人は動くことも振り向くことも出来なかった。
そのあと廊下に元に戻ったマスターが寝ていたのをマシュが発見するまで、小さくなったマスターの消息は不明であった。 その日、廊下で子供の笑い声と共に甲冑が歩く音が度々確認され、カルデアの謎に一つ新たな謎が加わったのはマスターには知る由は無かった。
「結局、マスターがあの姿なったのって誰のしわ……いや聞かなくてもいいや」
「しかし今回は一体誰が元に戻したのか……ダ・ヴィンチちゃんもパラケルスス殿も知らないの一点張りだ」
「それよりも、あの子、昨日マシュちゃんにあんなこと言っちゃったから機嫌を直すので大変らしいですよ」
「まぁ、気絶するくらいだからな……まぁマシュが拗ねるなんてあの子にしかしないだろうしレアといえばレアだな」
翌日のカルデア食堂、相変わらず賑やかになった食堂でカルデアの職員たちが昼食を食べながら喋り合っていた。 因みに今日の献立はエミヤのビーフシチュー、深い味わいと口に含んだ瞬間とろけるぐらいにとろとろに煮込んだ牛肉が売りである。
「因みにいつでも二人がコトに及んでも良いようにバイタルチェックは二十四時間体制だ」
「うむ、グランドオーダー中に鍛え上げた観測術は伊達じゃない」
「先輩たちサイテーです」
「まったくだな……ルーラーたちに裁いてもら……ん?」
ふと、食事中白衣を引っ張られる感覚して、振り向いてしまう白衣のカルデア職員。 回りの三人は察したのか無言で席を立って厨房へと避難していった。
「____……」
「……なんで毎回私なんだ……」
そこには、昨日見た青い目の可愛らしい少年。 青い目からはうるうると何かを訴えかける様な目をしており__
「いた! おかあさんいたよ!」
「でかしました! 早くソリに乗せるのです!」
「早くしないとジャバウォックが来てしまうのだわ!」
と、食堂のドアを突き破ってくるのはクリスマスで仲良くなったジャック、ナーサリー、ジャンヌ・スパム・ダルク・スパム・オルタ・スパム・サンタ・スパム・リリィの三人組みである。 後からマシュも戦闘態勢で食堂へと突入してきて、騒ぎに慣れていない新入りの職員たちが何事かと騒ぎ出す。
「あぁ、良かった。 先輩なら貴女の所にいると思いました! さ、ソリに!」
「ちょっと待て、何だその言いぐさ! 完全に最初から私も巻き込むつもりじゃないか!?」
「まぁぁぁぁすたぁぁぁぁぁぁぁぁ母はここですよぉぉぉぉぉぉぉ!」
「旦那様との愛の結晶ぅぅぅぅぅぅぅ!」
「来たのだわ! ジャバウォック達が来たのだわ!」
「おかあさんのおかあさんって鬼さんみたい!」
「言ってる場合ですか! 行きますよ! 最大出力!」
「待って! せめて心の準備をさせてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
そのままマスターと白衣の職員を連れたまま、近くの窓を突き破って空へと舞い上がっていくソリ、かわいそうにここでもかなりの標高があるというのにあれでは確実に高熱確定だろう、厨房へと避難していた職員たちは静かに合掌する。
「世界は救われても堅物女史は救われないな……」
「悲しいですね……じゃあ私エミヤさんのビーフシチューおかわりしてくるので……」
「南無……じゃあ自分も……?」
と、折角厨房にいるのでお代わりしようと鍋の方へと向かうが、なんだか下にある棚からガタゴト物音が聞こえてくる。
何かと思って三人が覗いてみると。
「お聞きしたいことがあるのですが……」
「ますたぁ、ご存じじゃありません?」
人が詰まっていた。
_____職員の明日はどっちだ。
キング破産しました。(破産とハサンをかけた爆笑必死のアサシンギャグ)
すまない、美少年好きと言う武蔵の言葉を聞いて書いてみたかっただけなんです。
あの方が出てくるのは、爆死した名残。 爆死告天使。
幕間的な小話でした。 次回はまた帰省編。
感想、誤字脱字ありがとうございます! 爆死した残りのヒュドラダガー送りますね。
それでは楽しんで見てもらえると嬉しく思います。