カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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妹、巻き込まれる~無理矢理帰省編~

 

 

多くの摩天楼が立ち並び、その下を人が行き交っている。 道路に車は絶えることなく、電車にはすし詰めされた人たちが互いを押しながら流されていく。

そんな冬木から遠く離れた大都会に、一つの女子校がある。 その中ではトップクラスの高校であり、様々な秀才やお嬢様たちが通う花園。_流石に金ドリルはいない_

そんな花園に通う一人の少女のロクでもないことに巻き込まれた話。

 

「じゃあ、この問題は……____さん、お願いね」

 

「はい」

 

一人の少女が先生に当てられ、黒板へと向かう。 薄い赤の入った色の髪の毛と目をしており、小さな顔立ちに真ん丸とした大きな目が合わさって全体的に幼く、小動物的なイメージを持たれるが、細い腰つきの割に、胸などは周りの生徒と比べてもなかなか大きい部類にであった。

 

 

「……はい、正解です。 流石__さんね。 この通りこの問題はこの公式を応用して____」

 

「____さんって頭良いよね。 今回入学した一年生の中でもトップなんでしょ?」

 

「そうそう、それにおしとやかだし、誰にでも優しいしね。 今度の生徒会選挙でも生徒会長から推薦されたってのも納得かも……」

 

教室で流れる噂を特に気にする様子もなく席に座り、少女は誰にも見えないように机の中に入れていた封筒を中から取り出す。 中に入っているのは一枚の手紙と写真。 学校に行く前にポストに届いていたものだ。 この現代社会においてわざわざメールも使わずに送ってくる自分の母はまだ機械音痴が治っていないのかと苦笑する。_そういう少女も全くの機械音痴である_

 

「……帰ってきたんだ、兄さん。 別に帰ってこなくたって良かったのに」

 

写真には、いつも通り変わらない自分の兄とその隣で幸せそうに微笑む謎の美少女。 変わらない笑顔で幸せそうに笑っている自分の兄に心の中で舌打ちをする。 まったくもって忌々____

 

「ふん、そのまま彗星のガスで目覚めなければ……は?」

 

いやいや、隣の美少女は誰だ? なんでうちの兄さんと幸せそうに腕組んでるの? 誰だこの外国人!? 誰だ!?

 

「いやいやいや、あの兄さんに彼女? まさかそんな……あんなぐだぐだ男を好きになる女の子なんか……」

 

いやいや、有り得ない。 と、現実から逃避するように小さく笑いながら、残っていた手紙を開く。 どうせ合成写真でしたとか、ドッキリでしたとかに決まってる。 心の中でそう思い込みながら、手紙を開いていくと、そこには

 

「お変わりないでしょうか、これを見ているとき貴方は写真を見てとても驚いていることでしょう。 そうです音信不通だった親不孝息子が帰ってきました、それも嫁を連れて。 とても気配りの出来て良い子です、一度会ってみることをお勧めします。 というか、彗星ガス事故から貴方も帰ってきてないのだから一回帰ってきなさい親不孝娘__母より」

 

とだけ書いてあった。 ……嫁?

 

「_____YOMEーっ!? あっ……」

 

思わず少女は立ち上がり叫ぶが、その後すぐにしまったという様に顔を引き攣らせる。 教室にいる全員が少女のいきなりの行動に目を丸くしていた、今は授業中ということをすっかり忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「おいおい、授業中に謎の奇声をあげたんだってぇ? とうとうお前の化けの皮もはがれる時が来たか!」

 

「止めないか、君だって授業中読んでる漫画に感情移入しすぎて叫んで先生から廊下に立たされたことあるだろう」

 

「その時感涙もしてたから、困惑する先生も合わせてなんだか映画の」

 

「あーやめやめこの話止め!」

 

「あー……」

 

昼休み、廊下を歩いていると三人の学友が塞ぐようにして話をしてきた。 知的な少女、野性味あふれる少女、ほんわかな少女という水と油並に混ざり合わない性格の三人だが、何気に気は合うのか、それともほんわか少女が卵の役割をしてマヨネーズと化しているのかは分からないが、いつも一緒にいるメンバーであり、よく少女に絡んでいた。

 

「じゃあ、私はこの辺で……」

 

「だー待て待て! なんか一通り話し終わったみたいな雰囲気出して逃げようとすんじゃない!」

 

「じゃあ、私急いでるので……」

 

「完全に避ける気じゃねーか! 待て待て待て! あれだ兄ちゃん帰ってきたんだろ!」

 

絡まれると面倒くさいので避けようとしていた少女の足が止まる。

 

「なんでアンタ知ってんの……」

 

母上(かーちゃん)から電話で聞いた。 偉く大騒ぎだー、って。 確か外国にバイト行ってたんだよな?」

 

少女は思わず顔を押さえる。 この三人の中でも野性味あふれるのとは少女は子供っからの付き合いであり、母親の付き合いもあってお互いの家庭事情にはなぜか詳しかった。 そして昔っから頭悪いはずなのに偏差値が高いこの学園にこの野生の黒豹が来れているのかも少女にとっては謎であった。

 

「ほう、兄君が居たのか。 初耳だな」

 

「お兄さん……ってことは__さんに似てるのかな?」

 

「それがさーぜっんぜん似てないのさ! _____の兄貴から良く遊んでもらってたけどさ、性格も____と真逆っていうか……ふぐっ!?」

 

「あら、誰との性格が逆なのかしら?」

 

「いででででで! やめてアイアンクローはやめて!」

 

どうも少女は兄の話題と関わるといつもの自分ではいられない。 猫を被るのを忘れ、目の前の学友をアイアンクローで締め上げる、すると学友が暴れた拍子に、少女が持っていたファイルから、兄の写真が一枚こぼれてゆっくりと床へと落ちる。

 

「む? 写真が落ちたぞ。 どれ、私が拾おう」

 

「あっ! ちょっ……!」

 

「わ、可愛い子……隣にいるのは……」

 

「おー、それそれそれが____の兄貴! って隣の美少女は誰だー!?」

 

少女のアイアンクローから逃げ出した黒豹の学友が写真を見て絶叫する、どうも少女の兄が帰ってきたのは知っているが、謎の美少女を連れて帰ってきたことは知らされてなかったらしい。 そのまま床に倒れ伏せて、かさかさというかじたばたというか何だか虫が這いずりまわるようなもがきを見せている。 女の子というより人間が見せてはいけない姿である。

 

「マジか……兄ちゃんマジか……信じて送り出した兄ちゃんが外国人の美少女にドハマりして幸せダブルピースフォトレター送ってくるなんて……ジョン万次郎かよ……」

 

「なんでアンタが一番ショック受けてんのよ……というか、なによその最後の意味不明なジョン万次郎は」

 

「なんだ、もしかしてあの黒豹……」

 

「しー、あの子もそういう時があったんだよ……」

 

床で這いずりまわる物体に、憐みの目線を向ける学友二人。 同じ学友の余りのショック具合に二人は黒豹の学友が持っていた淡い……淡くはないかもしれないがそんな気持ちを察して合掌をしているが、少女には悪い何かに憑りつかれた黒豹の学友を除霊しようとしている学友二人の図にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

「対象を確認……いつでもいけますが……」

 

「まぁ、待て。 只の誘拐と思われなくちゃいけねぇ」

 

学園の外に、そんな賑やか少女たちを遠くから見ている謎の者たちが居た。 一人は細くやせ形、静かな雰囲気とは裏腹に底なしの狂気を内包した姿であり。

一人は背の高い筋肉質の男、無害そうな笑い方をしているが、何を思っているか他人に全く悟らせない人物であり、ある意味一番の危険人物であった。

 

「しかし、なんで妹君を狙うのですかキャプテン……まったくもってこちらにプラスが無いと申しますか……ぶっちゃけクリスティーヌを敵に回すだけなので帰りたいのですが……」

 

「なーに、俺様には計画があるのさ、誰にも予測ができない最高で最大のな……ふっふっふ……くっくっく……でゅーふふwwwデューフフッフwwwヌカコプゥwww」

 

女子校の前で、気持ち悪く高笑いする謎の大男、通りを行く人々が怪訝な目で見つめ、それを見た小さな女の子が指を指すが、見ちゃいけませんと母が目を隠して連れいていく。 なんだかロクなことにならない予感がしていた。

 

 

 

 

 

「いい加減に立ち直りなさいよ、兄さんくらいでそんなうじうじして……」

 

「うるせー……兄ちゃんとは小さい頃結婚の約束……はしたこともないけど、フラグ立ってたじゃん? 入学祝いに、似合うからって綺麗な髪留めくれたじゃん? 完全に親友の兄との禁断の愛ルートじゃん?」

 

「立ってないわよ、兄さん素であれよ。 そもそも自分で高校まで家族としか女性とは手を繋いだことがないって嘆いてたから、妹みたいな存在にしか見られてないわよ、貴方」

 

「ここぞとばっかりに止めを刺すなよ!? 兄ちゃんだぞー……顔は良いのに全くモテる気配のなかったあの兄ちゃんがだぞー……てかそもそも男子校だろー……どこで見つけてきたんだよー……」

 

学校も終わり、運動部の生徒も校庭でそれぞれの競技の練習をし始めたころ。 少女はいまだに落ち込んでいる黒豹の少女に付きまとわれ食堂まで連れてこられていた。

野性味あふれる少女はこの後部活動があるというのに、なぜか牛丼をやけ食いしており、これで三皿目である。

 

「それに、オマエはどうなんだよー。 自分の兄さん取られて思うとこ無いのかよー……」

 

「あるワケないでしょ。 なんで兄さんが彼女連れてきたくらいで目くじら立てなきゃいけないのよ、どちらかと言うとあんな男選ぶ彼女さんの方を……」

 

そういって、少女は頭を抱える。 ……そういえば彼女じゃなかった_________!

 

「ほら、オマエだって頭抱えてんじゃんか、素直にお兄ちゃん取られたくないと……なんだこの手紙?」

 

ブーブー言ってくる学友の前に一枚、母から送られた手紙を広げる。 学友はそれを怪訝に思いながら読んでいると、ある一文字を見つけたとたん血相を変えて席を立ち上がった。

 

「YOMEーー!? 嫁っておま、彼女できたとかのレベルじゃねー!? なんなんですこの子はー!?」

 

「はーい、全く同じ反応をありがとう」

 

「なぁ! 実家帰るんだよな!? 明日から祝日重なって連休だし!」

 

「帰らないわよ、なんでわざわざ兄さんの顔見に行かなきゃいけないのよ馬鹿馬鹿しい」

 

肩を揺らしてくる学友を鼻で笑う少女、此処からだと高速バスか、新幹線でも使わなければいけないし、大体少女には行く気なんてさらさらなかった。 テストも近いし、兄の顔を見るぐらいなら勉強でもした方が何倍もマシだと思ったのだ。

 

「良し! 私もついていく! 準備してくるからおいていくなよ!」

 

「話聞いてる!?」

 

が、色々と頭がパンクしている学友にはそんなことは一切お構いなしと、残った牛丼を掻き込むとその場からものすごい速さで家へと向っていった。 正にジャガーである。

一人残された少女は溜息をつきながら学友が残していった皿を返却口にへと返すと、どうやって学友を説得するか考えながら、自分も帰ろうと食堂を後にした。

 

「_____ん?」

 

が、玄関へと向かっているうちに少女は何かの違和感に気付く。 赤く染まる夕暮れ、土足でありながらいつも綺麗な廊下、自分の足音しか聞こえないくらい静かな______

 

「今、部活動の時間じゃ……」

 

否、静かすぎるのだ、部活動が始まり、生徒たちが多く行き来するこの時間帯に少女は誰ともすれ違わなかった。 少女が今いる廊下を見渡しても誰一人として少女以外に人が居ない。

 

「誰もいない……? 先生……?」

 

流石に不気味に思った少女が近くの職員室の扉を開く。 この時間帯ではまだ学校職員は帰宅していないであろうし、誰かしら絶対にいるはずなのだが__

 

「うそ……」

 

職員室でさえもまるで伽藍の堂、誰一人として姿は無かった。 しかし、机の上の書類は出しっぱなしであり、パソコンだってつけたままの状態であったためこの直前までは人が居たのは確かであった。

 

「皆、何処に行ってしまったの……? そうだ、携帯……」

 

思いついた様に、折り畳み式の携帯を取り出すが、当たり前のように圏外になっており少女を嘆息させるだけであった。 いよいよもって自分が異常な事態に置かれていることを実感してきた少女は、とにかく走って外を目指すことにする。

誰もいない廊下に少女の足音だけが響いていく、玄関に着いた少女はそのまま外に出ようと流れる汗も拭かずにそのまま扉に手をかける。

 

「____っ!? なんで、鍵が……!? 開かないっ……!」

 

が、その扉さえ鍵が施錠されており、こちらから鍵を開けようとしても何か強い力に抑えられているかのように動かない。

まるで学校が少女を自分の中から出さないようにしているかのようだった。 常軌を逸した事態に、半ばパニックなってきている中、一つの足音が少女の背後から聞こえてきた。

少女は天の助けとばかりに振り向いて、声をかける。

 

「良かった、私以外にも学校に……ひ、と?」

 

「あぁ、クリスティーヌの妹よ。 残念ながら私は人ではない……この身は憎しみの詰まった只の肉袋、醜き憎悪の幽霊が動かしている只の人形であるが故に」

 

それは、人の形をしているが、明らかに人の雰囲気を身にまとっていなかった。 細い長身に、まるで舞台に出る様な衣装姿、顔の片側だけ仮面をつけており、そして鉤爪のように歪に変化した爪は人のモノではなかった。

 

「だ、誰……?」

 

「おぉ、なるほど……声がクリスティーヌにそっくりだ……喉が震えて出る声ではない、我が姿を見て恐怖をした時、魂の震えからでるその声が……」

 

その男の眼のはまるで少女を見ていなかった、まるで遠く誰かに思いをはせているかのように遠くを見て、自分の肌にその鋭い鉤爪が食い込むことも構わず自分自身を抱きしめる。

その光景は、異様であるが、美しくもあり、その相反した光景が深く少女に恐怖を抱かせる。

 

「あぁ、クリスティーヌ。 けれど君は昔の君ように私を受け入れてくれたね……あぁクリスティーヌ、クリスティーヌ……!」

 

「貴方は一体誰なの……! 私はクリスティーヌじゃない!」

 

少女が叫ぶと、男はゆっくりと少女を見据える。 その眼には凍える様な悲しみと燃える様な怒りが同時に存在しており、底なしの狂気が彼を渦巻いてるかのようだった。

 

「もしかすると我がクリスティーヌになっていたかもしれない緋色の乙女よ、そうとも、お前はクリスティーヌではない。 我がクリスティーヌは『_______』ただ一人……」

 

「兄さん……!?」

 

「さぁ、お喋りは終わりだよ。 クリスティーヌの妹よ、どうか手間を取らせないでおくれ」

 

その言葉と同時に鉤爪がせわしなく動き、男はゆっくりと少女へと近づいていく、明確な死が近づいてくる様に少女は逃げまどい、そこらにある物を手当たり次第に投げつけるが、何を投げつけようとも、男の鋭い鉤爪が意にも介さず容易き切り裂いていっていまう。

 

「あぁ、緋色の乙女よ。 何を怖がっている? 恐れることは……っ!?」

 

突然、白い粉の様な物が辺りに散らばって行き、男の視界から少女が掻き消える。 足元には先ほど男が切り裂いた赤い円筒状の物体が転がっていた。

 

「……これは、消火器。 というものだったか……?」

 

男は音で、少女が階段を使って上へと向かったのを確認すると、ゆっくりと歩きながら少女を追い始める。

 

「しかしながら、流石はクリスティーヌの妹君……機転の利きようは憎きシャニュイ子爵の様……」

 

白き霧を纏いなから不気味な仮面と共に歩く様は正に怪人と表現するにふさわしい姿であった。

 

 

 

 

「______はぁっ、はっ!」

 

少女は必死で走っていた、時に躓き、時に物に当たりながら必死にであの男から逃げていく。 「常に優雅であれ」と少女の母はいつも言っていたが、今はそんな言いつけを守れるほどの状況ではなかった。

 

「あぁ、何処に行こうというのか。 その体に傷がついてはいけないというのに」

 

「っ!?」

 

だが、隣の教室の扉が開いたと思うとあの男がゆっくりと出てくる。 先ほどまで下の階にいたはずなのに一体どうやって来たというのだろうか。 そもそもどうやって教室の中で待ち伏せをしていたというのか。

少女は恐怖のあまり尻もちをついてしまうが、それでも逃げようと四つん這いになりながらも逃げていく。 相も変らず男は、只ゆっくりと歩いて少女を追いかけていく、まったくもって捕まえようとする気が見られない。 しかし狩りを楽しもうとする気配は男からは全く感じられず、まるで何かを試そうとしているかのようである。

 

「____はぁ、近寄らないで! こっちに、来ないで!」

 

「おぉ、緋色の少女よ。 もうこれで御仕舞なのかい? あぁ、駄目だ自分で顔を隠しては……恐怖の時こそ顔を上げなければ、誰がその顔を見るというんだい。 顔を隠すのは決まって醜い怪物なのだ……」

 

「いやっ! 助けて! 誰か助けて! _____兄さんっ!」

 

「あぁ……ならば仕方がない。 緋色の少女よ、痛みは無い……安心して眠りにつくがいい」

 

ついに追い詰められた少女は、ゆっくりと向かってくる鉤爪に目を深く閉じる。 知らずと彼女のポケットからゆっくりと写真が一枚零れ落ちて、裏返る。 すると妙な紋章が写真から浮かび上がり、鈍く光り出した。

 

「……キャプテン、作戦変更です。 ……キャプテン?」

 

「とーーーーーう!」

 

と、一人の男がガラスを突き破って少女の前へと立ちふさがった。 黒い髭の生えた長身の体格の良い男で大きなマントを羽織って、手にはなぜか海賊が持っている様なマスケット銃と鉤爪を持っており、ハッキリ言って目の前の仮面の男よりも奇妙であった。

 

「だ、誰……?」

 

「誰だ誰だと聞かれたら答えてあげるのが世の情け! 美少女の叫びを聞きつけ海賊マントを引っ提げてやってきた、貴方だけの救世主、人呼んで髭黒、イズヒア!」

 

「は、はぁ……?」

 

先ほどの間でホラー的展開がぶち壊しであった。 いきなり、目の前に現れて聞いたこと以上に喋りまくりわざとらしくウィンクしてくる謎の黒髭に少女は只々困惑するだけである。

 

「さぁ、怪人ファントムよ! 大人しく彼女から手を引くでござる! さもなくばこの髭黒の銃が火を噴くことに……」

 

「ああキャプテン、計画変更です……早くここから」

 

「ちょちょちょ、ファントム殿! ちゃんと台本通りにしてもらわないと困るでごじゃる! このままではマスターの妹ちゃんをかっこよく助けてベタぼれしてもらって第二章は二人でイチャイチャしながら解決していくという作戦が……」

 

「ですから、その計画が……」

 

「あの、全部聞こえているんですけど……」

 

小さく話しているつもりだろうが、少女にまる聞こえである。 もはや少女には何が何だかわからない、謎の怪人から襲われたら次はなんだか気持ち悪い怪人が来て打ち合わせをし始める、一体自分が何をしたというのか。

少女は自分の運命を強く呪った。 あとついでに関係者らしい兄も呪った。

 

「ほら、もう一回! 栄光の主役の座を勝ち取るためにはこうやるしかないでごじゃる!」

 

「いえ、ですから。 それ……」

 

「もー、何が不満でご……あれ?」

 

仮面の男床を指を指す方へと黒い髭が顔を向けると、目玉が飛び出さんばかりに目を開いて驚き始める。 紋章が浮かんだ写真が誰かにメッセージを送る様に点滅している。

 

「あ、あれーっ…… これってもしかして……」

 

「もしかしてです、バレました。 昔話の君が血相を変えてこちらへと来るでしょう」

 

「馬鹿ー!? なんでそういうことは早くいってくれないのー!?」

 

「ですから先ほどお伝えしようと」

 

「……バイクの音?」

 

怪人同士が言い争っている間に、少女の耳には都会では珍しくないバイクの音が聞こえてきた。 その音はどんどんこちらへと近づいてきており、その音に少女は疑問を持つ。

無論、バイクで登校なんて禁止されているし、そもそもここは学校の三階、バイクの音が近づいてい来ること自体おかしいのだ。 それも上から。

 

「____失礼します」

 

「えっ、きゃっ____っていやーっ!?」

 

すると、何者かに抱きかかえれる感触の後、少女はそのまま窓から外へと投げ出された。 体が宙に浮く感覚が今から下に落ちるぞということを思い知らされ、少女は絶叫するが、その直後、今まで自分がいた教室が盛大に爆発した音でかき消される。

 

「お、おち_____?」

 

そのまま少女は地面へと真っ逆様、地面へと激突するかと思われたが、何時まで経っても衝撃がやってこない、恐る恐る目を開けてみると誰か自分を抱きかかえて立っていることに気付いた。

 

「ごめんなさい、怖がらせてしまいました」

 

見ると、抱えているのは自分とあまり変わらない年の少年。 まるで忍者の様な衣装とマフラー、赤い髪を目元まで伸ばしており、髪からうっすら見える目もまた髪と同じく、燃える炎のように真っ赤であった。

 

「____えっと、どなた?」

 

「あぁ、名乗りもせずにすみません。 怪しい物ではありません、えーっと……小太郎とお呼びください。 妹殿」

 

もはやこの空間に怪しくない者がいる者か。 仮面をつけた怪人、なんか変な髭、それに忍者風の少年。 いよいよもって少女はこれは夢じゃないのか、夢であってくれと思い始めた。

 

「大変混乱していると心中お察しします。 まさか自分達もこのような事態になるとは想定外で……」

 

「い、いえ……もうこっちとしてもついていけないというか……自分『達』?」

 

「はい、もう一人自分と同じく主殿から頼みを受けた、」

 

と少年が喋っていると、空から一つの影が少年の隣へと落ちてきた。

 

「金時殿という頼れる御人が僕と行動を共にしてくれています」

 

それは、ライダースーツに身を包んだ大男。 輝かんばかりの金髪に、スーツの上からでも分かるぐらいの肉体。 サングラスをかけ、派手な意匠を凝らしたベルトを付けたその姿はテレビで見る様なヒーローの様である。

 

「おう、風魔の! 嬢ちゃんは無事か?」

 

「はい、金時殿。 この通り」

 

「オーケイ、じゃ行くか!」

 

「行くかって、何処に? 誰か説明を……というか降ろしてー!」

 

金髪の男が指笛を鳴らすと、爆発した教室からバイクが飛び降りてくる。 そんなバイクに特に驚きもせず、赤毛の少年は少女を有無を言わさずバイクのサイドカーに乗せると、自分は金髪の男の後ろに乗って、そのまま学校を走り去る。

校門を出る時に、妙な感覚が少女の体を通り抜け、学校の方を見て見ると部活動をしていた生徒たちが爆発した教室を驚いたように見つめていた。

 

「そんな、さっきまで誰も……」

 

「すまねぇな嬢ちゃん、向こうの魔術は俺ッちもわかんねぇから詳しいことはいえねぇが、嬢ちゃんはだいぶデンジャラスな結界に閉じ込められてて迎えに行くのが遅くなっちまった」

 

「結界? 魔術? そんな子供みたいな……」

 

「残念ながら真実です。 本当でしたら知らずにそのまま学校生活を送って居れたのですが……どうも身内が暴走してしまって……」

 

ヘルメットを被らせられながら、少女はどんどんと都市から離れて行ってる光景と頬の当たる風の感触が、とうとうこれが夢じゃないことを認めざるを得なくなって、深々と溜息をつく。

 

「あの、これ何処に向かってるの? 私の家はそんなに裕福でもないし、身代金なんか……」

 

「へへっ! 聞いたか風魔の! 流石は大将の妹、ゴールデンな図太さと言うか。 安心しな嬢ちゃん、向かっているのは嬢ちゃんの家だ!」

 

「ええ、妹殿。 今はとりあえず自分たちにまかせてください。 説明はそこでちゃんといたしますので……」

 

「あー、そう。 貴方たちも兄さんの知り合いってわけ……分かったわ、兄さんにたっぷりと説明してもらうから……」

 

そのままバイクは、高速に乗るとものすごい速さで駆けていった。 もうすぐ、日が沈もうとして、空が暗くなり始めた時だった。

 

 

 

 

 

「うっそ、信じらんない。 もう着いたわけ……?」

 

「そりゃあ、俺ッちのベアー号はゴールデンにグッドスピードだからな」

 

「まぁ、途中空も飛びましたしね……」

 

数時間後、少女は、マスターの妹は実家の前へ立っていた、新幹線でも一時間以上はかかるというのに、只のバイクでこんなに早く着けるとはマスターの妹は思っていないかった。

なんだか、途中森を突っ切ったり、空を飛んだりしたがそこはまぁ、気にしないというか自分の兄に詳しい説明をしてもらうつもりではあるが。

 

「はぁ、帰ってくるつもりなんてなかったのに……荷物も全部あっちに置きっぱなし……」

 

これで、今日何度目か分からない大きなため息をつくと、実家のドアノブへ手をかける。

この向こうには兄がいる。 本当は顔を見たくもないが、いろいろと説明をしてもら分ければならない。 写真の美少女は誰か、後ろの二人は誰か、なぜ自分の日常をぶっ壊してくれたのか。 聞きたいことは山ほどあるのだ。

息を整えて顔を上げるとマスターの妹は実家のドアを勢いよく開けて_____

 

「マシュちゃん、清姫ちゃんと来て次は南国風のお姉さんってアンタって子はどれだけ節操がないのよ! しかもその次はお母さんだぁー!? アンタ自分の母親を蔑にして現地妻、いや現地母作るって一体どういう神経しているのよー!?」

 

「_______!?」

 

「オー、見事なレイネーラデース! さてはお母さんけっこうな格闘技ファンデスね!」

 

「母は悲しいです……ぐすっ、マシュさんは分かりますがこの南蛮人とも密かに内通していたなんて……」

 

「せんぱーい!? お母さんそれ以上は先輩の骨が! 骨がー!?」

 

__そっと閉める。 なんか兄が母に人工衛星式背骨折り喰らっていた。 そして周りには様々な美女たち。 ハッキリってカオスである。

 

 

「家、間違えたみたい」

 

「え? でも確かにここが主殿の……」

 

「間違えてるみたいー! 連れてってー! 何処か遠くへ連れてってー!!」

 

「嬢ちゃん!? ベアー号が嫌がってるって! 待て待てエンジンを噴かすな!?」

 

「あんなん誰が見たってカオスでしょ! いやー! 小太郎君助けてー!」

 

「妹殿のキャラが先ほどと全然違う……!」

 

もはや、まだあの不気味な空間がマシだとジタバタするマスターの妹。 完全に猫の皮なんか剥ぎ棄て途中でなんだか仲良くなった小太郎に抱き着きながら助けを求める。

あの中に入るのだけは死んでも嫌だった。

 

「む、娘が……」

 

「あ、お父さん! 良かった、お父さんはまともだった!」

 

その時、丁度仕事から帰ってきたのか、マスターの父が驚いた様にマスターの妹を見つめる。 それもそうだ、連絡もせずに急に帰ってきたのだから驚くはず__

 

「娘が……男の子侍らせて帰ってきた……!」

 

「えーーー!?」

 

と思ったら、真っ青な顔して家に入っていく、マスターの父。 絶対に勘違いをしていると父を追いかけるが、そこには

 

「へぇー……息子も、息子なら。 娘も娘ね……」

 

般若みたいな顔をしたマスターの母が立っていた。 リビングのドアからはみ出して痙攣している足はもしかして兄のものだろうか。

 

「だから、帰ってくるの嫌だったのよ……」

 

 

_____妹の明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 




武蔵再爆死!(カルデアでこんにちはの意)

さて、無理矢理妹編です。 モデルは無論あの子。 立ち位置的には魔術とか全然知らないのに、サーヴァントの起こすハチャメチャに巻き込まれる立ち位置。
学校内の結界は、実際に妹を捕まえようとしていたどこかの魔術師からぶんどったのを使っています。 その際学校の被害も全部そっちに擦り付けているのが黒髭と言う男。

家族が増えて、更ににぎやかになったマスターの家。 これからも帰省編、学校編は続いていきますが、次回は普通にカルデアでの出来事です。 マスターまた小さくなる。


感想、誤字脱字報告ありがとうございます。 お礼に黒鍵三色セット送りますね。

それでは楽しんで読んでもらえると嬉しいです。

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