カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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マシュ学校へ行く。~初登校編~

 

「はいはーい、席に着いた席に着いたー!」

 

何も変わらない日常、と言っても、寝て起きたら彗星のガスか何かで人類は一年半も眠っていたという大事件の後だが、そんな大事件の後でも学校は続いていく。 休みの日の後は学校、これもまた学生にとっての人理である。

そんな月曜の朝の朝礼前、ざわざわと賑わっている二年生の教室に先生が手を叩きながら教室に入ってくる。 席を離れていた学生たちは、いそいそと席に着きながら次の授業の準備しながら先生の話に耳を傾ける。

その中で、隣同士の二人の女子生徒がひそひそと噂話に興じていた。

 

「今日さ、転校生。 来るらしいよ」

 

「うっそ、男、女?」

 

「ウチのクラスは男! ほら、前からガス事故で休校してる男子校の……」

 

「あーあそこからまた来るわけ? あそこレベル高いけど女子への耐性なさすぎじゃない?」

 

「まー小学校からエスカレーター式の男子校だしね……」

 

「ま! かっこよければなんでもいっか!」

 

「さっぱりしてんなオイ」

 

「はーいそこの男に飢えた女子ー、今から紹介するから静かにねー」

 

「「飢えてませんけど!?」」

 

 

 

吠える女子二名の教室からから所変わって、そこから一階上の一年生の教室。 こちらも今日から来る転校生の話で持ちきりであった。 ただ先生が厳しいのでかなり小さな声でだが。

 

「なぁ、今日転校生くるってな」

 

「マジか!? 女? それとも女子?」

 

「女しか頭にねーじゃねーか。 でも女の子だってよ、しかも外国人」

 

「わが世の春が来たー!!」

 

「なんでこの時点でそんな自信が持てるのお前」

 

「だって、外国人だろ。 ちょっと優しくすればそのまま……」

 

「そんなんだから、女子からゴミを見る目で見られるんだよ」

 

「女子から視線を移されることもない男よりはマシですー」

 

「無関心と悪意はどちらがマシなのかという議論は今だ答えは出ていませーん」

 

「うるさいぞ、そこの! さ、入ってきなさない」

 

怒鳴られた男子学生二人は身を縮めこませて、転校生が入ってくるのをじっと待つ。 だがやはり気になるものらしく、先生から注意を受けてもまだひっそりと噂話が続いている。

 

「どうしよう、外国人ってみんな年取って見えるらしいじゃん。 俺年下好きなんだよね……」

 

「いや、この教室入ってくる時点で同い年だし。 てかなんでお前と付き合う前提なの?」

 

「し、失礼します!」

 

声と共にドアが開く音がして、教室の皆がドアの方に顔を向ける。 そして転校生が入ってきた瞬間

 

「……」

 

「____」

 

教室は静寂に包まれた。

噂話をしていた男子生徒も、友達が増えると喜んでいた女子生徒も、ちょっと悪ぶってるヤンキーな男子生徒も、特に興味を示さなかったクールな女子生徒も、みな言葉を失った。

それほど目の前の人物は可憐であり、華麗であった。 その顔は西洋人形みたいに整っており、どこか儚げな印象を合って雪原に咲く白百合のようであるが、その触ったら壊れてしまいそな印象とは正反対に、健康的な体は教室中の男子だけではなく、女子の眼さえ釘付けにする。 まさに、まさにパーフェクト、クラス中の男子が「この世の春」を実感した。

 

「ま、マシュ・キリエライトと申します! どうかその、仲良くさせていただけると嬉しいです……」

 

「「■■■■■_____!!」」

 

マシュがぺこりと頭を下げた瞬間、教室は歓声、というか咆哮で満たされ、教室のガラスにひびが入った。

 

 

 

 

時は数日前にさかのぼる。

 

「これが、日本のアニメ……なるほどティーチさんが熱中する気持ちも分かるような気がします」

 

マスターが帰省して数日後の夕飯前、リビングでマスターとマシュの二人は一緒のソファーに座りながら丁度放送していたアニメを二人で見ていた。 夕飯の準備をしているマスターの母にマシュは手伝いを申し出たが「いいから座ってなさい」と笑顔で断られ、渋々マスターと共にゆったりしている。 台所からは中華特有の調味料の匂いが漂って来て、マスターは今日は母の得意な中華料理だと気付いて小さくお腹を鳴らした。

 

「あっ……ふふっ、お腹が鳴りましたね。 お母さんからは断られましたが、やはり私も手伝った方が良かったのでは……」

 

「_____」

 

「母さんは中華の時は一人の方が早い? 確かに、鉄人もびっくりのスピードですね……良い匂い……あっ」

 

と、匂いを嗅いだマシュのお腹からもくぅ、と可愛くお腹の音が鳴る。 慌ててお腹を押さえるマシュに、それを見たマスターはお返しとばかりに小さく笑う。

 

「わ、私だってお腹が鳴るときだってあります! ……もう!」

 

余りにしつこくマスターが笑うので、頬を膨らませてそっぽを向くマシュ。 マスターも少しデリカシーが無かったかなと反省し、機嫌を直して貰うため謝りながらそっとマシュの手の上に手を重ねた。 マシュの方もしばらくして少し顔を赤らめながら指を絡ませると、そっと頭をマスターの肩に乗せてテレビを見始める。 それを見て苦笑しながらマスターも一緒にまたテレビを見始めた。 アニメも終わって今はニュース番組の時間であった。

 

「青春ねぇ……青春と言うかもはや夫婦の域に行こうとしてるんだけど、なにあれレオナルドさん一年の間に何があったの?」

 

「いろいろですよ、いろいろ。 うーん、良い匂い。 今日は中華か……っとおーい二人ともイチャイチャしてないでちょっとこっち来てくれるかーい?」

 

「い、イチャイチャしていません!」

 

「_____!」

 

「うーん、セリフまで被るところがマジで夫婦ね……我が息子ながら末恐ろしいわ……」

 

「さて、これを見てくれるかな?」

 

部屋に入ってきた普段着を来たモナリザ(ダ・ヴィンチちゃん)がテーブルに一つの書類を置いた。 書類には「編入届」と書かれており、名前の欄にはマシュの名が記入されている。

 

「これは……?」

 

「穂群原学園への転入届さ、此処からはちょっとばかしかかるがね。 自由な校風が売りだそうだよ」

 

「学校……学校に行けるのですか!?」

 

ダ・ヴィンチちゃんの言葉を聞いてマシュは眩しいばかりに目を輝かせる。 今にも飛び跳ねんばかりに興奮しており、ダ・ヴィンチちゃんは目を丸くしながら苦笑してその他の書類をマシュに渡す。

 

「そっか、マシュちゃんずっと施設の病院暮らしって言ってたものね……」

 

「でも、どうしてこんな……誰にも言ったことなんてないのに……」

 

「えぇー誰にも? 本当に?」

 

ダ・ヴィンチの言葉を聞いて、ふと、マシュは自分の先輩に視線を移す。 照れくさそうに笑っているマスターを見て、マシュは感づいた。 確かに誰にも言ってはいないことはなかった、ただ一人、旅の途中、就寝前にたった一回だけぽつりと漏らしたことがある。

__もしかして、もしかして……

 

「今回の彼の帰省にはもう二つ目的があってね。 一つはマシュを親に紹介すること、もう一つは君を学校に連れて行くことだ。 いやぁあまりにも熱心に頼んでくるもんだからさ、感謝してくれたまえよ?」

 

「せんぱーい!!」

 

感極まって、マシュはマスターがいるソファーにダイブして抱き着きに行く、マシュのマシュマロフライングボディプレスを喰らったマスターは幸せ半分鈍痛半分でマシュにハグ返しをするが、感極まり過ぎたマシュは力加減を忘れて抱きしめてくるので、マスターの体は内から鈍い音を出してきている。因みにマシュは嬉しさのあまりそれに気づくことはない。

 

「せんぱい……! せんぱい……!」

 

「____! ____!? _____……」

 

「うぅ、良い話ねぇ……息子泡吹いてるけど」

 

「此処の家にお邪魔してから私爆笑しかしてない気がしているんだが! ___君泡吹いてるのがまた!」

 

「ただいまー……息子が泡吹いてる!?」

 

泡を吹く息子、それに抱き着く義娘、泣いている妻、爆笑しているモナリザ。 仕事から帰って第一に目に入るのがこのカオスな光景なマスターの父はただ、中華料理の香りを嗅ぎながら、すこしだけ腹を鳴らすのだった。

 

 

 

 

 

 

「んだ、ぐだっち、おめえもこっちの学校さだったか! というか日本帰ってきてたべか」

 

「そうだぞ、夏休みいきなり外国行くとか言い出した時には皆『何言ってんだこいつ』と止めもしなかったのだが、まさかその翌日に姿を消すとは……」

 

「そしてあの流星の大事件だろ? もうお前外国でくたばってんじゃないかと皆して噂してたんだが……いやぁまたその青い目が見れて安心した」

 

時は戻って穂群原学園二年の教室、難なく自己紹介を済ませたマスターはお昼休みに元の学校の友人達に囲まれていた。 皆個性的であり、気さくなマスターの友人である_ひとりなんだか訛ってる人が居るが_

マスターを囲んでいる友人はマスター含めて皆、元々は穂群原学園ではなく違う学園の生徒であり、 小学校からのエスカレーター式の男子校で、小学校のクラスは学部を変えない限り高校まで変わることはなく、クラスの一人一人が強い絆で結ばれているという、人呼んで神聖隊(ヒエロス・ロコス)学園。

本当ならばマスターはそちらの学園に行かなくてはならないのだが……

 

「いやぁしかし、流星のガスに続いて、うちの学校にもガス漏れが発覚するとは……まぁ一年半もほったらかしだったのだから仕方がないかもしれんが……」

 

「でも、そのおかげで女子がいる学園生活を送ることが出来る! いやぁ冬木のガス会社さまさまだぜ!」

 

「んだんだ! でもオラ達女子とロクに話したこともないから皆すぐ赤くなってあたふたしちゃうけどな」

 

が、マスターたちが通っていた学校は、なぜか地下を含むいたるところからガス漏れが発生しているらしく立ち入り禁止。 仕方がないので、それぞれ近くにある学校に編入されることになったのだ。 _実際の所ダ・ヴィンチちゃんがマシュを同じ学校に行かせるため前々から計画している節があるが、マスターは怖くて聞けなかった。_

マスターの学友もマスター同じく女性経験が全くない者たちであり、女子がいる空間に喜んではいるが、苦労もしているらしく、カルデアでいきなり美女たちがいる空間に放り込まることになったマスターは同じシンパシーを感じられずにはいられなかった。

 

「そんや、朝に上の階から獣の咆哮が聞こえたけど、此処って動物でも飼ってるのけ?」

 

「お前の実家と同じにしてくれるなサルよ……ほら、ぐだ男の他にもう一人転校生が来たというからそれではないのか?」

 

「あー見た見た! 外国人の子だろ! ありゃ後輩共も叫ぶわ、すげー可愛かったもん」

 

「_____……」

 

興奮気味に話す学友を見て、マシュの事だなと思うマスター。 カルデアのサーヴァントたちは皆歴戦の美男美女ぞろいで地味に思われがちだが、マスターからして見ればマシュも十分美人で魅力的である。 サーヴァントたちを見慣れたマスターが思うのだから他の一般人では相当であろう、そのことに何だか誇らしい気持ちになる反面、なんだか自分だけの後輩では無くなってくるようでいけないと思いつつもジェラシーを感じてしまうマスター。 許してほしい彼も一般男子学生なのだ。

 

「ほう、超絶面食いのお前がそこまで絶賛するとは、相当だったのだな」

 

「おうよ、綺麗なショートヘアーで、片方の目が隠れてて、眼鏡かけてて、なんだか優しそうな感じで彼氏の言うことなんでも聞いてくれそうな母性を持ってるような……」

 

「それってぐだっちの後ろにいる様なお人だべか?」

 

「そうそう、まさにこんな……」

 

と、得意げに話していたマスターの学友が固まる。 ついでに教室も固まる。 固まってないのはサルと呼ばれた学友と、マスターだけであり、なんだかものすごい視線を感じたマスターがゆっくりと後ろを振り向くと弁当箱を持ちながらおどおどしているマシュが居た。

 

「あの、先輩。 良ければご一緒に昼食でも……」

 

「「「「喜んでー!!」」」」

 

瞬間、部屋中の男子たちの_女子も何人か含む_咆哮と共に乱闘騒ぎが始まる。 「先輩と言われたのだからそれは年上である自分の事だ」と誰もがそう思い込み、一人しかいないマシュとの昼食権を巡り凄惨な戦いを繰り広げる様は、まるで数少ない魔神柱を狙うマスターたちの狂乱の様だった。 _これが人類悪_

 

「______?」

 

「え、あっそうでした。 此処では先輩という呼称が皆さん全員に当てはまるのでしたね……それでは、こほん、____先輩、一緒に昼食でもいかがですか? 今日はお母さんからお弁当を頂いて……もちろん先輩の分も!」

 

その瞬間、ぴたりと教室の喧騒が止む。 箒で殴り合っていた男子も、黒板消しを煙幕代わりに使っていた男子も、教科書の角で殴るという中々痛い攻撃をしていた女子も、一斉にマスターの方へと視線を向ける。 なんだか魔神柱に睨まれている様な錯覚を起こすぐらいに大量の目がマスターを見ていた。

目線から感じる感情は、嫉妬、憤怒、殺意、殺、殺、殺、殺。 マスターは今度はジェラシーではなく生命の危機を感じることになった。

 

「_______!!」

 

「うん? ぐだ男君? 何処に行こうとしているのかね?」

 

「まぁ、座ってお茶でもしようや……」

 

「はー! すっごい美人だがやー! ぐだっちこの子と友達かなんかけ?」

 

「______!?」

 

「裏切者? 裏切ったのはそっちのそうではないのかね……? 我等神聖隊は他人の幸せを許さぬ!」

 

マシュを連れて逃げようとするマスターを掴む四つの手。 マスターとは深い絆で結ばれている学友たちのまさかの裏切りに_サル以外_驚きの表情を隠せないマスターではあったが、女子と言う華がない男子校の生徒において、いつの間にか美少女と仲良くなっているということ自体が裏切りに等しいのである。 それがただの妬みからくる感情であっても。

 

 

 

 

「へぇ、マシュちゃんは向こうでこいつと知り合ったんだねー、こいつぐだぐだしてるから苦労したでしょ」

 

「授業中に寝て、廊下に立たされても廊下で寝てしまうのがこの男だからな。 それでついた名前はぐだぐだのぐだ男」

 

「まぁ、オラ達はぐだっちだったりぐだだったりちょくちょく変えて呼んでるべ。 あっマシュちゃんそれ美味しそう一口」

 

「「触るなッ!」」

 

「ウキッ!?」

 

「先輩のあだ名ですか……ふふっ、なんだか可愛いですね。 先輩? 何で頭を抱えているのです?」

 

「_____……」

 

学友たちの裏切りにより結局逃げ切れず、机を合わせて昼食を取るはめになったマスター。 教室どころか廊下からも濃い殺気を感じるマスターは頭を抱えながらせめて何も起きないことを祈るのみである。 因みにマシュは周りを囲む空気に全く気付いていない。

 

「______?」

 

「はい、家庭的な和風のお弁当で、とても新鮮です! 先輩のお弁当は私のとは逆に洋風ですね、から揚げにチキンライス……なるほどオーソドックスですね」

 

周りを刺激しないように気を付けながら、マシュと会話を交わすマスター。 お弁当を食べる姿もまた可愛らしいマシュの姿に周りは癒されるが、その分「お前はマシュちゃんのなんなんだ」とマスターに殺意が向かってくる。 何にもしていないのに殺意が向かってくるマスターはもはやどうすればいいのか分からない。

 

「むむ、先輩の持っているから揚げ美味しそうですね……さすがお母さんです、から揚げも手作り……」

 

「マシュちゃん、俺もから揚げ持ってるけど……」

 

「いえ、____先輩から貰うので、ありがとうございます」

 

「んだな! オラも冷凍食品より手作り選ぶほごもごっ!」

 

「サル君には僕のから揚げ上げるねー!」

 

サルと呼ばれた学友にマシュから一瞬で断れた学友がから揚げを押し込んでいる間、マスターはマシュにから揚げを渡そうと箸でから揚げを持ち上げる。

周りから殺気は漂っているが、久しぶりに学友と賑やかな食事を楽し無ことが出来て、改めてマスターは自分達は日常を取り戻すことが出来たのだと実感する。 あの苦しいが楽しかった旅は無駄ではなかったのだと。

 

「……むぅ」

 

「_____?」

 

と、から揚げをマシュのお弁当にいれようとした時、マスターはなんだかマシュが不服そうな顔をして自分を見ていることに気付いた。 何か不味いことでもしたかなとマシュの方に顔を合わせると、マシュはまるで親鳥から餌を貰おうとしている雛鳥のように口を開けていた。

 

__あれ? この子こんなに甘えん坊だったっけ!?

 

マスターの額から冷や汗が流れる。 確かに、人理を救ってからなんというか積極的になったマシュであるが、こんな周りが見ている中でこんなおねだりをしてくるとはマスターからは予想外であった。

 

「____……?」

 

「はい、玉藻さんからこれをすればマスターはすぐさま昇天だと……」

 

確かに周りからすぐさま昇天されそうである。 玉藻はカルデアに帰ったら金時ビリビリの刑に処すと心に決めたマスターであった。

 

「……ダメですか?」

 

「___あーん……」

 

残念そうにマスターを見るマシュ。 目の前で麺類を取り上げられたフォウ君の様な目は極大特攻であるマスターは、その眼に逆らえず死の恐怖から立ち向かいながら、から揚げを摘みマシュの口に運び込む。

 

「んっ……おいひいです! あっ、少しお箸咥えてしまいましたね……」

 

「「殺……」」

 

周りの殺気濃度がぐんと上昇する教室内、「こんなところでいちゃついてんじゃねーぞ」という女子の怒りも含めておおよそ二百パーセント程度の上昇率である。

 

「ずい、ぶんと、仲がよろしいんですねぇ……」

 

「あ、あ。 まる殺でカッ殺プルのよう殺」

 

「い、いえそんな……」

 

「そういや、マシュちゃんって何処住んでんだべ? 外国からきたんでごじゃーしょー?」

 

殺意が隠せてない友人の視線を必死に反らしながら、早く昼休み終ってくれと願うマスター。 マシュも照れたことでマスターへの視線が物理的に痛くなってくる。

そんな中、最早何弁か分からない方言を使いながら、質問するサルと呼ばれた学友。 マスターに殺意も向けず、素直に羨ましいと口にするこの学友こそ真の友なのではないかとマスターは思ったが、今サルの学友が放った質問は、この教室を崩壊に導くことに気が付かなかった。

 

「はい、先輩の家にお邪魔させていただいてます!」

 

何かが顕現するかのように、窓ガラスにひびが入った。

 

______マスターの明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、また遅くなってしまった……」

 

日も落ちて、夜の帳が下りてくる頃、また裁判の資料集めで遅くなったマスターの父が帰りを急いでいた。 だが走り方はなんだかスキップみたいで上機嫌である。

それもそのはず、家族が増えたのだ。 いや実際には義娘であるが、性格もいいし、容姿も端麗、気配りも出来てとても良い娘さんである。 ちょっと考えているより早かったが、息子が嫁を連れてきたことに父として喜びの感情の方が大きかった。 なぜモナリザがいるかは別として。

 

「うぅぅぅぅ……」

 

「……ん?」

 

と、家も近くなってきた頃、近くの路地で誰かの泣き声をマスターの父は耳にした。 少女の声である。 何だかマスターの父は幽霊かと勘ぐったが、あまりその手の話を信じていないマスターの父は、何かあったのかもしれないと路地に入り込む。 マスターの父は正義感の強い男で、弱い立場の者を救うために弁護士になった正義の人物でもある。

 

「お嬢さん、どうかしましたか?」

 

「うぅ……」

 

路地に入るとすぐに、その声の主は見つかった。 なんだか町には不格好な着物姿の少女だが、所々は擦り切れ、頭にはなぜかカップラーメンが乗っている。

 

「うぅ……旦那様を追いかけたのは良い物の、途中で飛行機に振り落とされるとは……清姫一生の不覚……」

 

「なんだ、道に迷ったのか。 お嬢さん大丈夫ですか? お怪我は? お送りましょうか」

 

「あら、天の救いとはこのことです……何と正直に何の邪のないお人……ある方の家を訪ねたいのですが、この有り様でして」

 

ふと、顔を上げると中々の美少女、マスターの父はこんなところに少女一人を置いていけるほど冷たい人間ではいられなかった。 しゃがみこんで頭に着いたゴミを払いながら、マスターの父は目の前の和服美少女の力になろうとした。

 

「そうですか、大変でしたね。 してその人の名前は分かりますか?」

 

「ええ______様と言うお方の……」

 

「はい? 息子?」

 

______マスターの父の明日はどっちだ。





マシュ、学校に行く初回!

なんだかいろいろとグダぐだしてるけど是非はないよネ!

さぁ次はいよいよあの方が……

そういえばぐだ子を妹にと言う声がありますけどどうしましょうか。 いた方が面白いのなら、がんばって登場させたいと思っています。

感想、誤字報告ありがとうございます! お礼にお年玉で黒髭送りますね!!

では、今回も楽しんでみて頂ければ嬉しいです。

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