カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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マスター、帰省する。 ~ただいま編~

点滅する信号、舗装されたコンクリートに休日の学生や時間に追われた社会人たちが行き交い、無数の足音と話し声が一つのBGMとなって街を彩っている。

そう、ここは何でもない普通の街並み。 何処に行っても見ることが出来る代わり映えのない風景。

 

「ここが、ここが、先輩が生まれ育った町なんですね……人が一杯います、ビルが沢山立っています。 これが先輩がいた世界なんですね……あぁ、あれはもしや不夜城コンビニエンスストアでは!?」

 

そんなどこにでもある普通の光景をまるで初めてみたかのように目を輝させて見つめている少女がいた。 手には大きい旅行バッグを持っており、きょろきょろと周りを見ながら歩く姿は都会にやってきた田舎者のようだが、その容姿はまるでガラス細工で出来た人形のようにどこか儚げで触っただけで壊れそうな繊細さを持った美しさをもっている。 しかし隣にいる少年に見せる笑顔はまるで雪山に咲いた一輪の花のように華麗であり、可憐であった。

彼女の名前はマシュ・キリエライト。 隣にいるマスターである少年と共に世界を救ったどこにでもいる女の子である。

 

「こらこら、マシュ。 そんなにはしゃいだら、他の人に迷惑になってしまうよ? 」

 

「あ、すみません。 初めてみる光景なのでつい……」

 

そして、もう一人少年の隣にいるのはマシュとはまた違った美人、まさに顔のパーツから体の大きさまですべて計算された様な完璧な美しさを持つまさに一つの芸術品と呼べるような絶世の美女、そう例えるならモナリザの様な、可愛さを備え持ったマシュと違い究極的に美を追求した様な美人であった。

この美女の名前は、誰もが知るレオナルド・ダ・ヴィンチ、れっきとした現美女元男である。

 

「_____?」

 

「はい、とても楽しいです! そして楽しみです!」

 

そして通り過ぎた人たち皆が振り向くぐらいの美女二人を連れて歩くマスター。 そこを代われと道行く男たちの鋭い目線が突き刺さってなんだか先ほどから冷や汗が止まらない状態である。

 

「いやはや、マシュがこんなにはしゃぐなんてね。 あの子の笑顔だけもこの世界を救った価値はあると思わないかい?」

 

「_____」

 

「へぇ、最初からあの子の為だったって? 言うじゃないか、少年。 ランスロット卿から女の子の口説き方でも習ったかい?」

 

「____!?」

 

「冗談さ、それが君の強さだからね。 そら、マシュが呼んでるよ」

 

「せんぱーい! 早く行きましょう!」

 

「____!」

 

向こうで手を振るマシュに向かって返事をして走っていくマスター。 そんな二人を見ながらダ・ヴィンチちゃんは、何もない一日の何でもない平凡な一日、彼らが待ち望んだ一日が始まろうとしていることに心の底から祝福していた。

 

 

 

 

「ほら、さっさと押しちゃいなよ。 そうしてたら何時まで経っても進まないぞー」

 

一時間後、街をマシュの希望通りに散策しながら到着したのはある一軒家だった。 大きくもなく小さくもない平凡な一軒家であり、日本になら何処にでもある普通の家である。

だが、表札に書かれているのはマスターである少年の苗字。 これだけでカルデアの特定のサーヴァントたちにとってはある一種の特異点と同義である。

そう、彼の実家である。 なんだかカルデアの皆はマスターは帰る家を持たない可哀想なカルデアっ子と思っている節があるが、ちゃんと彼にも実家はある。

そんな自分の家なのに先ほどからマスターはインターホンを押すか押さないかで十五分も苦悩していた。

インターホンの前で右往左往して、押そうと思ったら指を離し、また頭を抱えて悩みだし、また指を近づける、傍から見ればとんだ変人である。 実際お隣さんが変な目で見てきているのでマシュ達はなんだか居たたまれない。

 

「先輩、そろそろ……」

 

あまりにそわそわしているマスターに心配したマシュが促してくるが、実際一年半も合わなかった親に何て言えばいいのかマスターには思いつかなかった。 こんにちわ、だろうか、それともご無沙汰してもうすだろうか。

 

「全く、こういう所は小心者なんだから、ほいっと!」

 

「____!?」

 

何時まで経ってもうねうねと玄関を歩き回っているマスターに、呆れて我慢も限界と、勝手にダ・ヴィンチちゃんが家のインターホンのボタンを押す。 家の中に電子音が響いて、誰かがパタパタとこちらへ歩いてくる音がして、マスターはさらにパニック状態に陥った。 まだ何も考えてないのにー! とダ・ヴィンチちゃんを睨むが当の本人はそっぽを向いて口笛を吹くのみである。 さすが天才、解決方法はいつもダイレクト。

 

「はいはーい、どちらさ……ま……」

 

そうしているうちに玄関を開けて出てきたのは、エプロンをつけた女性だった。 凛とした顔に青い目と綺麗な黒髪が腰まで伸びており、なかなかの美人だった。 何処かの湖の騎士卿だったら口説いているだろう。 あとポロロン卿も。

 

「あっ……」

 

そしてマシュはその女性を一目見た瞬間気付いた。 この女性が自分の先輩の母親なのだと。 マスターと目の前の女性の顔が綺麗に重なったのだ。

前にマスターはマシュに自分は母親似だと言っていたが、此処まで似ているとはマシュは思わなかった。

 

「あ、アンタ……」

 

「_____……」

 

マスターの母親は目の前の息子を見ると、信じられ無さそうに口をパクパクと開けたり閉じたりしている。 対するマスターの方も自分の母親に何を言ったらいいのか分からない顔で恥ずかしそうに頬を掻いていた。無理もない、マスターは一年半の間自分だけではなく自分の家族たちの生死までかけた戦いをしてきたのだ。 今の彼の胸の中では様々な感情が渦巻いているだろう。

 

「もう、あんたったら……!」

 

「____……!」

 

マスターの母親は目じりをぬぐうと我慢できないと言う様にマスターへと駆け出す、そのままマスターに飛びつくように高く飛ぶと__

 

「今までどこ行ってたのよこのバカ息子ー!!!」

 

「_____!?」

 

「せんぱーい!?」

 

そのままマスターに鮮やかなドロップキックを繰り出した。 まともに母のドロップキックを食らったマスターは勢いよく転がって行き、近くの電信柱に衝突して止まる。

 

「高校生なったから夏休みから寮に住みたいとか言い出すわ、仕方なく認めたら一か月もせずにスカウトされたとかで住み込みで外国に行くわ! と思ったら寝て起きたら一年半経ってるし!……いやそれはどうでもいいの……」

 

「どうでもいいのですか!?」

 

「問題なのは、何時まで経ってもあんたが学校にも行かず、寮にも帰らずに行方不明だったってこと! 人類空白の一年半の時は良いとしてもそれから一か月以上も経っているのに家にも連絡入れずで一体全体何処で何やってたのか包み隠さず話しなさいぃぃぃぃ!!」

 

「___人理救ってたんだよお母様ぁぁぁぁぁ……」

 

そのまま追撃とばかりに、倒れているマスターにケツァルお姉さんも手放しで大絶賛するような逆エビ固めを決めて地面にタップさせるマスターの母、だがタップしようとも此処はルール無用のデスマッチ、爆笑しているダ・ヴィンチちゃんとおろおろするマシュをよそに母の説教と息子の絶叫が通りに響いていた。

 

 

 

 

「そうなんですか、そちらの施設でお世話に……家の息子馬鹿だから役に立たなかったでしょう?」

 

「いえいえ、こちらとしてもこの異常な事態に彼の様な前向きな子が居てくれたおかげで精神的にも助けられましたから」

 

「先輩!? 先輩聞こえますか!? しっかりしてください!」

 

数分後、玄関で和気藹々と談笑をしているマスターの母とダ・ヴィンチちゃんの姿があった。 なんだか家庭訪問に来た先生と母親みたいな雰囲気である。 因みに隅ではぼろぼろになったマスターが倒れており、マシュの必死の救命活動が続いている。

 

「で、そのえーっとカルデア? にいたおかげで彗星のガスで眠らずに済んだと……ご迷惑おかけしませんでした?」

 

「いえ、彼も雑用ながら嫌な顔一つせずに働いてくれました。 明るく元気で、職場での人気もあるんですよ?」

 

「まぁ、そんな先生ったら。 家の子の精神年齢が低いから皆可愛がってあげてるだけですよ!」

 

母からの容赦ない言葉に、バイタルが下がり続けるマスター。 マシュが慌てて頭を撫でながら励ましの言葉を贈るが、なかなかバイタルは上昇しない。

今回マスターは運よくカルデアの施設にいて、一年半の眠りから逃げることが出来た一般人であり、カルデアでは周りの職員から勉強を教えてもらいながら雑用ではあるが仕事を手伝っていた、とダ・ヴィンチちゃんはマスターの母に説明していた。

流石に下手をせずとも一瞬で死んでしまう状況でたった一人のマスターとして世界救ってました。 なんてことは言えないし、信じてもらえないだろう。

最初は怪訝な顔をしていたマスターの母であったが、天才であるダ・ヴィンチちゃんの話術に乗せられ、学校の問題は全てこちらが解決する、あとちゃんと給料も出る、と聞いた途端に上機嫌になった。 今ではダ・ヴィンチちゃんのカルデアの研究員という肩書も何の疑いもなく信じている。

 

「まぁ、こんなところでお話もなんですし、どうぞ中に。 えーっとレオナルドさんと、こちらは……」

 

「え、あっ! ま、マシュ・キリエライトと申します! あ、お初にお目にかかります! えっと、その先輩からはそのお世話に……!」

 

マスターの母親から視線を向けられると慌てて自己紹介をするマシュ。 緊張しすぎてしどろもどろで、視線が右往左往しており落ち着かない様子である。 因みにマスターの介抱中に勢いよく立ち上がったので、マスターはまた地面に叩きつけられた。 そろそろ涙で水たまりが出来そうである。

 

「マシュさん……綺麗な名前ね。 えーっとマシュさんはうちの子とはどういった関係で?」

 

「関係!? えっと先輩とはそのマスタ……パートナーと申しますか……その、なんといいますか……」

 

「ぱ、パートナー……」

 

パートナーという言葉にピクリと反応するマスターの母。 恥ずかしそうに俯くマシュを頭のてっぺんからつま先の先まで値踏みをするように見ると、何かを考え込むように顎に手を当てる。 マシュからしてみたら、自分のマスターの母親から裁定を受けているようで落ち着かない。 ダ・ヴィンチは隣で笑いをこらえている。

 

「出会いは!」

 

「えっ? あっ! 廊下で寝ていた先輩を私とフォウさんが見つけた時からです!」

 

「フォウ……? 馴れ初めは!」

 

「なれそっ……私を安心させるために手を握ってくれた時からです!」

 

「ロマンス! うちの子にキュンと来るところは!」

 

「えっと、時々見せる子供っぽい笑顔とか、寝起きの時のぼーっとした顔でしょうか!」

 

「メターナル! ……ごにょごにょはした?」

 

「うなっ! それは……その……答えられません!!」

 

「エクセレーント! さ、中へいらっしゃい! ほら、アンタも何時まで床に転がってんの!」

 

「ぶわははははは! さすが君のお母さんだね! 何て言うか肝が太い!」

 

「_____……」

 

マスターの母から肩を抱かれながら家の中へと入っていくマシュ、とても気に入られたらしく「息子が(むすめ)を連れて帰ってきた」と大興奮である。

ダ・ヴィンチちゃんは大爆笑しながら、家の中へと入って行き、マスターは余りの恥ずかしさに顔を手で覆い隠しながらダ・ヴィンチちゃんに続いていく。

自分が紹介する前にマシュが気に入られたことが嬉しくもあるが、それ以上にマシュが赤裸々に自分の事を母に語っているのがさらに恥ずかしいらしく、頭から湯気が出ている。

 

「おーっと、その前に! ストップ! 家に入る前に私に何か言わなくちゃいけない事があるでしょ!」

 

と、マスターが家に入ろうとした時、マスターの母が手のひらを突き出しながら、マスターをストップさせた。

言わなくてはならない事と言われても、何も思いつかないマスターはとりあえず、思いつく限りの言葉を出す。

 

「_____?」

 

「ちがーう、確かに心配したけど、それはレオナルドさんから聞いたからもういい!」

 

「_____?」

 

「だー、寮の事はもういいの! まったく、この鈍さはマシュちゃんも苦労したでしょうね……まったく。 家に帰ったら何て言わなきゃいけないの? 昔から母さんいってるでしょ?」

 

そこで、マスターは驚くように目を見張った。 マスターの母は可笑しそうに笑うと、その言葉が自分の息子の口から出るのを待っているかのようにマスターを母の眼差しで見つめる。

マスターは頬を掻いて照れくさそうにすると、恥ずかしそうに、しかしながら嬉しそうにその言葉を口にした。

 

「______ただいま、母さん」

 

「お帰りなさい、さ、外寒かったでしょ。 さっさと入んなさい」

 

なるほど、親子だ。 とダ・ヴィンチちゃんは笑い合う二人を見ながら、そう感じていた。 笑顔が親子そろってそっくりなのだ。

マスターはこの母親を守れたことに、心の奥で一人誇りを感じながら家へと入っていった。

今日もなんでもない普通の一日が始まろうとしていた。 _ただ一つ普通じゃないところ上げるとしたら、彼の家に家族が増えそうなことだろうか。_

 

_____少年の一日が、また始まる。

 

 

 

 

 

「しまった、今日もまた遅くなってしまった……母さん怒ってないといいけどな……」

 

夜、鞄を持ったスーツの男性が家路を急いでいた。 見せたいものがあるからと早く帰ってきてネ☆ と妻から職場に電話がかかってきたのは良いものの、次の裁判の資料をまとめるのに手こずって、結局帰れたのは定時をずいぶんと過ぎてからである。 遅くなると決まって妻が拗ねるのを知っている男性はどう言い訳しようか悩みながら家の前へ着く。

とりあえず甘い物でも買ってきたので、頭を撫でるなりすれば機嫌を直してくれるだろうと希望的観測をしながらドアへと手をかけた。 _息子からはいい加減バカップル卒業しろと言われ続けているが、二人とも反省する気はない_

 

「か、母さんただいまー! 甘い物買ってきたから機嫌直して……」

 

「あ、はいお帰りなさいです!」

 

そっと、ドアを閉める。 表式を確認。 良し、ちゃんと自分の名字である。 仕事で疲れた幻覚だろう。 妻はクォーターだけど日本人離れした娘はいないし。 そう思ってもう一度ドアに手をかける。

 

「た、ただいまー! さっきなんだか可愛い娘さんがいたよな気がするけど気のせい」

 

「あ、どうもお世話になってます。 おおぃ、___君。 父君がお帰りだぞー」

 

そっと、ドアを閉める。 表式を確認。 どうあがいても愛すべき我が家。 なぜかモナリザが歩いて居たような気がするが、多分気のせいである。 気のせいであって欲しい。

 

「あなた、玄関で一人で何やってんの?」

 

と、玄関で男性が頭を抱えていると、見かねた男性の妻がドアを開けて男性を迎えに来た。 男性はやっぱりさっきのは幻覚だったのだと喜び、妻へと抱き着いた。

 

「あぁ良かった母さん! なんだか仕事で疲れているのか知らないけど、可愛い娘さんがいたり、モナリザが歩いてたような幻覚をさー」

 

「あぁそれ! 見せたいものってそれなのよ! マシュちゃーんこっちいらっしゃーい!」

 

「へっ……?」

 

男性の妻が呼ぶと、家の中からなんだか照れくさそうに先ほどの美少女と、男性の息子が出てきた。 ってなんで息子、いつ帰ってきたの。

男性はもはや頭が真っ白になりながら呆然と妻を見つめる。 いったい何があったというのか。

 

「えっと、母さん。 これは一体……」

 

「父さん! 何と私達に義娘(むすめ)が出来ました!!」

 

「はい……? はいーーーー!?」

 

父親の絶叫が通りに響く、なるほどこんな所は父親似か、と後ろの方でモナリザが爆笑していた。 貴方は一体誰なんだ。

 

 

______父親の明日はどっちだ。

 

 




武蔵爆死しました。(カルデアではあけましておめでとうございます。 今年もよろしくおねがいします。の意)

2017年も始まって、二章も一・五章の期待が高まり、FGOもまだまだこれから言った感じで非常に楽しみです。
今年もバリバリ書いていきたいです。 主にギャグラブをね!

今年初の投稿も、マスターの帰省話。 やっと家につきました。 次からはマシュ学校に行く編。 にカルデアのハチャメチャ話をはさんでお送りしていきたいと思います。

感想、誤字脱字報告の皆様、今年もよろしくお願い申し上げます。 いや、誤字とかは気を付けていきたいですけどネ!

では、楽しんでいただけると幸いです。

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