カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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マスター、帰省する。 ~お誘い編~

世界を救ったマスターである特別でもなんでもない只の一人の少年であり、礼装なしに魔術が使えない素人でありながら開位の贈られた魔術協会の異端児は今、町の中、一つの一軒家の前に立っていた。

右手にはスーツケース、左手には愛する後輩の手とつながっている。

 

「先輩? もうそろそろ……」

 

マシュが心配そうにマスターを見る。 マスターはグランドオーダーに行くような緊張と共に覚悟を決め、そのインターホンを押した。

その家の表札にはマスターの苗字が書かれていた。 

 

 

 

 

 

時は三日前に遡る。

人理が救われて、世界が平穏に保たれたことで英霊たちは自分の役目は終わりだと皆それぞれの場所に帰っていった。 別れを言って帰る者、いつの間にか帰る者、手紙を残している者、それに________

 

「この頃旦那様(ますたぁ)の様子が変と言うか、話しかけても上の空というか……マシュさんご存じありません?」

 

「えっ? えーっと……何かあったんだとおもいましゅ。 はい、何かが」

 

「むむ、その知ってるけど教えない的な言動……嘘ではないから余計に気になります。 途中自分の名前を利用したのも憎いですね」

 

「あ、あはは……」

 

普通に帰らない者も存在した! 帰らなかったサーヴァントたちは普通に生活に溶け込みそれぞれ自由を満喫している。 と、いうかマスターが結んだ縁とカルデアの召喚方法により普通に帰ったものも簡単にこっちに来られるらしく、感動的な別れをした後の翌日普通に居座っているサーヴァントだっている。 なんだかいろいろと台無しであった。

 

「まぁ、良しとしましょう……どうせ旦那様(ますたぁ)から直接聞けば良いことです、無論嘘は許しません」

 

「お、お手柔らかにしてあげてください」

 

平和になった世界の昼下がり、マシュと意地でも残る組の清姫は共に廊下を歩いていた。 マスターの事では水と油と言うかそこに卵を入れてマヨネーズの様な関係の二人だが、マスターの事が絡まない二人は意外と仲良しである。 一緒にご飯だって食べるし、一緒に女子怪、もとい女子会に参加したりする。

今日も廊下でばったり会った二人は、そのまま談笑しながら廊下を歩くことにしたのである。

因みに清姫はカルデア職員が選ぶ帰ってくださいサーヴァントランキング上位の猛者であるが、「強制送還したら井戸の中から意地でも単独顕現する」とクラスビーストのような事を言い出したため、マスターからの許可もあって渋々カルデアに受けいれられている。 嫌われているわけではない、ただ単純に魔術協会の人間と相性が悪すぎるだけなのである。

 

「マシュさんは時々でんじゃらすびーすとになりますからね。 本当はシールダーじゃなくてビーストっぽいクラスなのでは?」

 

「シールダーです! あ、あれは先輩に、ダ・ヴィンチちゃんでしょうか」

 

ふとマシュが前を見るとマスターとダ・ヴィンチちゃんが何か話し合いをしている姿が見えた。 マスターの手には何処かに旅行するかのように大きなバッグを持っている。

 

旦那様(ますたぁ)……っ!」

 

マスターを見つけると同時にパタパタと乙女らしい早足で、なぜか成人男性の全力疾走よりも早く移動する清姫。 もはやテケテケといった効果音の方が正しいような気がしてくるマシュであるが、このままでは清姫がマスターにまた迷惑をかけてしまうので疑問は隅に置いて清姫を追いかける。

 

「おお、マシュに清姫ちゃんじゃないか。 君たちってマスター君絡まないとすごく仲良いよね」

 

旦那様(ますたぁ)、今日もお元気の様で嬉しいです」

 

「____……」

 

「私も元気かと? ……ええ、たった今元気百倍になりました! 私の身を案じてくださるなんてこれはもう婚約したと同義では!?」

 

「_____!?」

 

「あぁ、間に合わなかった……お話のお邪魔をしてしまってすいません」

 

「いいや、構わないよ。 丁度マシュを探そうとしていたところだしね」

 

「私を……ですか?」

 

蛇のようにマスターの腕に絡みついている清姫を引きはがしながら、マシュはダ・ヴィンチちゃんの言葉に首をかしげる。 グランドオーダーも完了したし、身体検査もついこの前異常なしと報告されたので、しばらくは久しぶりの休息を満喫するようにとダ・ヴィンチちゃんから言われたばかりである、もしかしてまたデッサンのモデルだろうかと考えていると、ダ・ヴィンチは一つ咳をしてこう告げた。

 

「マスター君は、明日を持ってここカルデアを離れることになった」

 

「……え?」

 

「ぴぎゃっ!?」

 

ダ・ヴィンチちゃんから告げられた言葉に唖然とするマシュ、清姫を引っ張ることも忘れてしまい、引っ張られていた清姫は顔から床にびたんと落っこちてしまった。

 

「それは、いったい……」

 

「言葉通りだよ、彼は明日からここには居なくなるんだ。 彼には家族がいて、元の日常がある」

 

「_____」

 

「そ、そうです。 急すぎます! もっと前から言ってくれても……」

 

「それは……まぁ知ったら監禁してでも止めそうな人を何人か知ってるからねぇ……そこで伸びている蛇っ子とか」

 

いきなり告げられた事実にマシュは、しどろもどろになりながらマスターを見つめます。 その視線に気付いてもマスターは申し訳なさそうに目をそらすばかり。 マシュはもはや頭が空っぽで怒ればいいのか悲しめばいいのか分からなくなっていました。

 

「分かってくれるね、マシュ。 彼には一年間ずっと人理焼却の炎のせいで家族が無事かどうかなんて分からなかったんだ。 たまには顔を見せてあげなくちゃ」

 

「うぅ……先輩にも家族が……」

 

__そうだ、先輩はここで生まれたわけではないのだ。

カルデアで生まれ育ったマシュはカルデアが家であり、世界であった。 だがマスターには元の家族がいて、その帰りを待つ両親がいる。 マシュはその自分との違いを理解したが、なんだか心の穴がぽっかりと空くのを感じた。 何時までも一緒なんておこがましいが、それでもマスターとはずっとずっと一緒に居れると思っていた自分が何処かにいたのだ。

 

「……そうですよね、先輩だって家族と一緒の方が……」

 

心の穴が広がるのを感じながら自分を納得させていくマシュ。 そうだ、彼には危険な世界は似合わない、もっと穏やかな世界で笑うべきだ。 と無理矢理にでも納得させていく。

 

「じ、じゃあ、今日は送別会ですね! 皆さんにばれてはいけませんから、ひっそりとですが、私もがん、ば、り……」

 

「_____?」

 

何とか笑顔を作ろうとするが、どうも笑顔が作れない。 まるで泣きそうな顔になる自分の顔を何とか笑顔に作り直そうとするが中々上手く行かない。 これでは先輩が安心して帰れない、そう思いながらもなぜかマシュは笑顔を作れなかった。 心の穴が広がっていく。

 

「じ、じゃあ私は、これで……送別会の準備を……」

 

せめて泣き顔をは見せないようにと、マスターを背にして走り去って行こうとするマシュ。 マスターを見るとどんどんと心の穴が広がっていく、マシュはなんだか風景がモノクロに見えてくるような気がした。 色彩をくれた人が居なくなってしまうのだ、当然の事だろうとマシュは思いながらその場から走り去ろうとした。

 

「あー、まったまった! ごめんごめん、なんだかいい方向に美味しい感じに誤解してくれたので悪乗りしてしまった!」

 

「……へっ?」

 

と、慌てたダ・ヴィンチちゃんのストップがかかり、足を止めるマシュ。 これ以上ここには居たくない気持ちが強いが、自分が誤解をしていると言われてはマシュもそのまま走り去ることが出来なかった。

 

「確かにマスター君はカルデアを離れると言ったが、それは一時的、所謂帰省という物だよ」

 

「はい……? 帰省? カルデアを去るのでは?」

 

「ハハハ! 何それそんなことしたらカルデアは三日として持たないよ!」

 

呆然として、ダ・ヴィンチちゃんをみるマシュ、広がった心の穴が急速に埋まっていく。 ならば勘違いというのは……

 

「じゃあ、先輩とずっとお別れなんてことは……」

 

「そんなの彼からお断りだろう?」

 

その言葉を聞いた瞬間、マシュはその場に座り込んで大きく息を吐き出す。 勘違いをしていた恥ずかしさもあるが、マスターがまだ自分と一緒にいてくれると思っただけで心から安心したのだ。 マシュの世界がまたカラフルに彩られていく。

 

「じゃあ、お別れと言ってもしばらくしたらまた会えるんですね。 良かった……」

 

もうマシュには何の不安もなかった。 確かに彼が行ってしまうことは少し寂しいが、また会えるのだ。 それまでを楽しみにすればよいことだった。

 

「それの事なんだけどね、まぁここは彼から言ってもらおう」

 

へたり込んで安心しているマシュに向かわせるようにマスターの背中を押すダ・ヴィンチちゃん、なんだ気味が悪いぐらいニヤニヤしている。 モナリザがニヤニヤするとこんな感じなのだろうか。

マシュの前に来たマスターは、少し顔を赤らめながら。 一つ大きく咳をすると、マシュに向かっていくつか質問をしてきた。

 

「______?」

 

「はい? はい、美術館には興味があります、まだレイシフト以外ではどこにも行ったことがありませんから」

 

「______?」

 

「は、はい。 運動は苦手でしたが、運動自体は好きです。 デミ・サーヴァントになってから運動能力が向上したので、さらに楽しむことが出来るようになりました。 あの、先輩この質問には何の意味が……」

 

「______?」

 

「日本は、好きですね。 四季の変わり様が美しいですし、食べ物もおいしいと聞きます。 それに、先輩の生まれた国ですから……あの先輩そろそろ……」

 

いきなり問われてくる意味のないような質問に、マシュは首をかしげながら答えていく。 人ごみは苦手か、電車は好きか、寒い所は大丈夫か。 そんな質問が何個と飛び出してきた後、マスターは緊張した顔でここからが本題だとマシュに質問をしてきた。

 

「_____その、あるところに美術展が近くにある小さな一軒家があるんだけど。……マシュは小さな家でも不満はない?」

 

「……! はい、レイシフトで鍛えられてますから野宿だって行けます」

 

不意にマシュはマスターの顔を見る。 顔を赤くしながらも、何処か不安と期待の入り混じった目をしており、なにかの返事を待っている様であった。 もしかして今までの質問は。

____もしかして、もしかして、もしかして。 心に花が開くのを感じる。

 

「_____それで、そこには二人の夫婦が住んでいて、遠い所にアルバイトに行ったある人の帰りを待ってるんだけど……マシュは人見知りする方?」

 

「いいえ、先輩がいればどんな人だって怖くありません」

 

__きっとそうだ、きっとそうだ。 心に一本、また一本と花が咲いていく。

 

「_____それで、そのある人は、向こうで知り合った後輩をその夫婦に紹介したい……というか、後輩に自分の住んでいる町を見せて上げたいと考えているんだけど……付いてきてくれる?」

 

「……っ! はい、どこだって先輩とお供します! 連れて行ってください!!」

 

__心の中に花が咲き広がった。

目を輝かせて、マスターへと抱き着くマシュ。 なんだか床から蛇が威嚇するような声が聞こえるが、今は聞こえないふりをする。

マスターは、嬉しそうにしているマシュを見て、少しほっとしながらマシュの頭を撫でる。 なんだか床から蛇が威嚇するような声が聞こえるが、今は気にしない事にする。

 

「因みに、私もついていく。 ちょっと調査があるからね」

 

その二人をニヤニヤ見つめながら、ダ・ヴィンチちゃんも何処からかバックを見せつける様に取り出した。 なぜか宙に浮いている。

 

「調査? 一体何を……」

 

「いや、なんという偶然か。 本当は私一人で調査に行こうと思ったんだがね。 丁度彼の出身地の近くだったからさ」

 

「はい? ダ・ヴィンチちゃんはどこに……」

 

「いやなに、ちょっと冬木に用があってね! あ、私の分お部屋もあるかな?」

 

「_____!?」

 

そういってにやりと笑うダ・ヴィンチちゃん。 いきなり増えた旅の仲間に、マシュはなんだかワクワクを隠しきれなくなっていた。 マスターが生まれた町に行けるのだ。

 

_____マシュの旅は始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

「静謐さん! 旦那様(ますたぁ)は私達を置いて帰省することを決定いたしました!」

 

「……マシュさん。 ひっそりと一人ついていくなんて……」

 

「……彼女を責めることは出来ません。 誘ったのはマスターからですから」

 

「分かっていたでしょうに。 清姫さん」

 

「ライコーン」

 

「だれがライコーンですか、頼光です。 あの恥ずかしがり屋さんが母たちと一緒に帰省など認められないでしょう」

 

「では我々は何の手立てもないまま旦那様(ますたぁ)達を御見送りしてらぶらぶさせろと言うのですか!」

 

「そうです、それがカルデアの言う『正しいサーヴァント』のあり方です」

 

「自らは日々私達の目の前でイチャイチャしているのにですか……」

 

「おーい頼光サマ、大将たちが出発するみたいだぜー!」

 

「よし……」

 

「行くのですか?」

 

「……怒られますよ?」

 

旦那様(ますたぁ)には何回ストーキングしたか知れませんよ」

 

 

_______マスターの明日はどっちだ




うぉぉぉドクタァァァァ(二回目)

ロマンロス結構きつい……、きついのでマシュとのイチャイチャ書く……

次こそはぐだの家にGO。

今回から、マスター帰省編、とマシュ学校に行く編をちょくちょく挟んでいきます。
カルデアのぐだぐだも書いていくのでご安心!

感想、誤字報告ありがとうございます。 貴方たちは私にとってのドクターでございます。

では楽しんでみて頂けると嬉しく思います。

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