日々の激闘を戦い抜く人類最後のマスターにとって、気の休まる時間はそう多くない。 レイシフトが無い時でもサーヴァントと訓練し、時にはサーヴァントのお願いをかなえるために奔走し、時には夢の中でさえサーヴァントと繋がり命がけでサーヴァントとの記憶を追体験する。
ナーサリーライムとのお茶会に出席し、〆切り前で部屋に籠りっぱなしの作家サーヴァント達に間食を持っていったり、いつの間にかマイルームに入り込んだジャックと一緒にお昼寝したり、それを目撃したバーサーカーの嫉妬の炎から逃走したりとマスターには休日と言うものは一切ないのだ。
なのでカルデアの食堂で取る食事は数少ないマスターの心休まる時間であった。
「いやぁ、うまい! 俺が生きていた時代の食い物でも美味だと満足していたが、この味を知ってしまったら元に戻るには苦労するだろうなぁ! いやぁ、世界とは広い物よな!」
「もうちょっと静かに食えよフェルグス。 ちょ、こっちにご飯粒が飛んできてるんですけど!?」
「ふふ、性欲もさることながらお主はアルスター一の健啖家であったな。 しかし、こうやって食を共にするというのも久しいな。 しかもこのミソ・スープであったか……なかなか奥が深い」
「うむ、なんと脂ののった鮭だろうか! 知恵の鮭にも劣らずの一品。 またこの鮭を見事に調理した腕前もまた見事だ……」
「お、俺は今とんでもない方々と卓を囲んでいるのでは……あぁマスター骨ならば私がとりましょう」
「クーちゃん! ほらあーん! あーん! あー……ちょっとガン無視!?」
無論、食事とはコミュニケーションの一環としても有効である。 旨い飯に旨い酒、これがあれば誰だって気を良くするし仲だって深まりやすい。 なので絆を深めるためにマスターはサーヴァントやカルデア職員と共に食べることがほとんどだった。 それにマスターは一人で食べるより誰かと笑いながら食べるほうがずっとご飯も美味しくなると考えていた。
と言うことで今回マスターはエミヤと源頼光に協力してもらい日本食の体験と言うことで誇り高きケルトの戦士たちと共に食を囲んでいた。
メニューはシンプルに焼き鮭に味噌汁、それに漬物や卵焼きなどを添えたもので、すべてエミヤが調理したものであった。 因みに食材提供は俵藤太からである。
「うむ、この白米は実に良い。 甘やかな味がこの鮭とよく合う! どれもう一杯おかわりといこう」
笑いながら茶碗を持って厨房へと入っていくフェルグス・マックロイを見るとサーヴァントは本来は食事を必要としないということをマスターは忘れそうになる。
もうこれで六杯目のおかわりであり、鮭も三匹目である。 俵の兄さんがいなかったら他のサーヴァントの分がなくなりどこかの王の聖剣が真名解放されていたであろうことは間違いない。
「____??」
「うん? 皆良く食べる? それはそうであろう、食べるということは生きるということ。 自然の力を自分の体に取り込むということ。 日々生きるか死ぬかの戦士たちにとって食事とは切っても切り離せない物だ。 どれ私も鮭とミソスープを……」
「そんなこと言って戦衣装が入らなくなっても知らねーあぶねっ!?」
「サーヴァントは体型は変化しないので問題ない」
「問題ねーなら槍を投げんなよ!」
槍をクーフーリン顔面直撃コースで投げてから厨房へと入っていくスカサハと入れ替わりでフェルグスがおかわりを持って席へと帰ってきた。 茶碗にはこれでもかと言うくらい白米が山盛りになっており、鮭も二匹皿に載せていた。 正に健啖家ここにありと言う盛り方である。
「____??」
「ん? まぁ俺は姐さんほど深く考えているわけでない。 ただ旨い飯、旨い酒それと良い女! それがあれば日々は満たされていたし、良い戦いにも恵まれた。 それがあったら十分。 それ以上を求めるのは戦士としては欲深すぎる」
「____??」
「んん? 鮭二匹は欲深だと? はっはっは! 確かにちと贅沢だったか! これは失敬、だがこの鮭と白米が旨すぎるのがいかん! 今日ばかりは見逃してくれ!」
豪快に笑いながら鮭と白米をかきこむように食べ始めるフェルグス、鮭の骨など気にせず一緒に噛み砕いている。 流石ケルト一の益荒男と評されるフェルグス、食べ方も豪快である。
フェルグスはすでに山のように盛られていた白米を半分以上食べるとふと思いついた様に、先ほどからクー・フーリンに食べてもらおうと鮭を丸ごと一匹頬に押し付けているメイヴに向って話しかけた。
「旨い飯に有りつけた、後は旨い酒と良い女だが……どうだメイヴ、今夜は俺と旨い酒と共に一晩過ごさぬか?」
「____!?」
突然のフェルグスの誘いに、なぜかマスターが咳き込む。 ディルムッドが慌てて水を飲ませようと厨房へと入っていく。 クー・フーリンは始まったとばかりに笑みを漏らし、フィンはそのド直球な誘いになぜか感銘を受け、ちょうどおかわりを持って帰ってきたスカサハはやれやれとため息をついている。
「絶!対!い!や!」
「即答!? 何故だ!?」
「だって何時までたっても終わらないんだもの! こっちの身にもなって頂戴! そ、れ、に。 今私はクーちゃん狙いなんですもの! ねークーちゅわぁーん」
「あーめんどくせー」
そういってクー・フーリンに抱き着く女王メイヴ、当のクー・フーリンは面倒なのに捕まったと言いたげな表情で鮭の骨をかじっている。
「そうか……ならば邪魔をするわけにはいかんな。 うむ。 ならばスカサハの姐さんはどうか!」
焼き鮭をその卓越した技術で肉を一片とも残さず、だが骨は一本とも欠かさずに食べているスカサハは誘いを受けるとその箸を止め、ため息をついた。
「まったく……お主は少し節操がなさすぎるぞ。 まぁワシは別にかまわんが」
「おぉ! 僥倖!」
「その代り、食後の運動に付き合ってもらおうか。 その後にまだその命が尽きていないのならばその時は相手をしよう」
「お、おぉ……この命、今はマスターの物。 無駄に使うわけもいかんしな……その話はマスターに尽くしてから、お願いしよう」
「____! ___!?」
ディルムッドが持ってきた水を飲んで、ようやく落ち着いたマスターがフェルグスの誘いをどういう事だと問い詰める。 女性経験のないマスターにとってフェルグスの直球さは衝撃だった、マスターにとって女性とのそういう行為はもっとお互いを知り合ってからやるものだと思っていたし、恥ずかしげもなく抱きたいと相手に伝えること自体マスターには聖杯回収よりも難しいことであった。
「なんだ、マスター。女を床に誘うのがそれほど珍しい事か? 良い女がいたら声をかける。抱きたかったら抱きたいと声にする! 良い女を抱くことは良い男になるための一つだぞ? あぁ無理矢理はいかん、そんなことは戦の褒美として村娘を襲う奴らとなんも変わらんからな」
「____!!!」
「直球過ぎる? それはそうとも! 恋心は極力胸に秘める物だが、高ぶる心を収めるには俺はこれしか方法を知らん。 時には思ったことを声に出るまま伝えることも大事なことだ」
「____!?!?」
「はっはっは! そんなに恥ずかしがるな! その年ならば女子の一人や二人抱いたことがあるだろう? その時の気持ちを思い出してみろ。 女を抱きたいという気持ちは劣情ではない、抱きたい女を前にしながら何も行動を起こさないことこそが劣情……マスター? どうした?」
「________」
「ん? どうしたそんなに耳に口を近づけて、言いたいことがあるのなら直接……うむ? ふむ……ふむ……」
どうも周りに聞かれたくない事らしく、マスターはフェルグスの耳元で話し始めた。 しかしそんな堂々と内緒話をされては誰もが気になるもの、ディルムッドの制止にも耳を貸さずフィンは親指をかむかむし始め、スカサハはルーンを使って無理矢理盗み聞きしようとしている。 案外ケルトの連中は悪戯好きと言うか、子供っぽい所がある。 純粋な戦闘者としての側面なのかは分からないが、そのせいで一番の常識人であるディルムッドの胃が捻じれ狂う日も近い。
「なんだマスター! お前まだ女を抱いたことが無いのか! なんと勿体ない! 人生の半分を損しているぞ!」
「_____!?!?!?」
フェルグスの驚いた声が食堂中に響き渡り、食堂で食事をしていた特定の女性サーヴァントの動きが一瞬止まった。 マスターが顔を真っ赤にしながらフェルグスを殴りつけるが当のフェルグスは笑いながら、マスターに謝っている。 スカサハとフィンは何だそんなことかと呆れ半分だが、マスターにとっては自害レベルの赤っ恥である、ここにマシュがいたらそれこそマスターは自分の舌を食いちぎる勢いであっただろう。
「フェルグス、そのくらいにしとけ。 俺たちの時代と違って坊主の時代じゃそういったことは色々と厳しいんだよ」
「なんと、現代では禁欲生活でも強制されているのか」
「アンタが凄すぎるだけだ」
現代に召喚されたことがあるクー・フーリンがフェルグスをたしなめるが、フェルグスにとってはマスターがまだそういうことに未経験なのは驚きであった。 なんせカルデアにおいてマスターに好意を寄せる女性サーヴァントは少なくない。 またマスターが自分の部屋にサーヴァントを呼び寄せることも多々あるので、そういったことはもう経験済みだとフェルグスは思っていたのである。
「______」
「ま、マスター気をお確かに! 大丈夫です! 女性経験が無くともそれを恥じることはありません! 私の逸話を見れば分かるでしょうなまじ女性経験があると」
「イケメンは黙っとれ_____」
「マスター!?」
必死にケルト一番の苦労人であるディルムッドがマスターを慰めている間、フェルグスがつい放ってしまった一言はサーヴァントからサーヴァントへと伝わっていってしまった。
大半のサーヴァントはそっとしておいてやれ。 とか、そんなこと暴露してやんなよ。 とか、馬鹿め! 何を恥じる必要がある、俺も童貞だ! など主に男性サーヴァントからの同情的な意見が多かったが、問題はそれ以外の一部の女性サーヴァントだった。
「
「あぁ、息子が嫁を貰った時に恥をかかせないようにするのも母の役目。 嫁なんて有り得ませんが、ここは私が一肌脱ぐしかありませんね」
「食べていいのカ? ならばマヨネーズをあえるとしよう。 うーん高カロリーなのだナ」
「あの、私はバーサーカーじゃなくてアサシンなのですが、なぜこのメンバーに……いえ寝床には忍び込んでますが」
と事の発端はいつも通りのバーサーカー共であった。 自分たちがマスターの初めてになるのだと聞かない彼女たちはいつしか自分に初めてを捧げるために今日まで貞操を守っていたのだと話を捻じ曲げ、同士達と結託し、他のクラスのサーヴァントまで仲間に引き入れ、マスターを襲う算段までつけ始めていた。 因みに皆が皆最初は自分だと思い込んでいるので、遅かれ早かれ内輪もめするのは確定である。
「先輩は私が守ります! いや……あの……守った後はどうするかまではノーコメントです!」
「人類を守るためのマスターを性に溺れさせようとは言語道断です! 大丈夫です! 旗を使えば一ターンはマスターを守れます!」
「いや、私に話を振られても困るぞ、私は誓いを立てているのだし……え? うむ、まぁマスターの貞操を守るのは大事なことだな、うん」
「いやそっとしておいてあげなさいよ……ちょっと! 誰よいまぼそっと未経験同士気が合うのかなとか言ったの!? それ不名誉とかそんなの通り越してただのいじめだからね!?」
「クリスティーヌ……君を汚そうとする者を私は誰一人として許しはしない……」
「息子が乱暴されようとして黙っている母がいると思いますか?」
そうはさせぬ、せっかく今まで綺麗な身でいたのだこのまま清純な身でいてもらうと聖職者や、純潔を誓うものや、巻き込まれただけのドラ娘や、頼りになる後輩や、お前どっから湧いた精神汚染者や、あれ、貴方向こう側にいませんでした? などなど貞操観念が高いサーヴァント達が同盟を組みマスターの貞操を守るために徒党を組んだ。
そうしてカルデアは、マスターの純潔はしかるべき時まで私が守る! 組(反乱分子あり)と、マスター全ての初めては私が貰う! 組(ほぼ全員が反乱分子)といやマスターが可愛そうだろそっとしておいてやれよ組に割れることとなった。
ドクターからの反応は「人類の一大事になにやってんの君たち!?」 だったがダ・ウィンチちゃんは面白そうなので許可した。 やはり天才はどこかネジが一本無くなっている。
そんな中マスターはそんな馬鹿みたいなことが行われているとは露とも知らず、フェルグスから童貞だということをカルデア中にバラされた傷心を癒すために、アステリオスやナーサリーライムやジャックなど純粋なカルデア年少組と遊ぶようになっていた。 対傷心宝具皆に絵本を読み聞かせ。それはマスターに将来保育士の職を目指させるには十分であった。 みんな純粋でかわいいや、あぁこらジャックちゃん解体しちゃダメでしょそんなくろひげばっちぃですよ。
それが後にマスターがロリに走ったと抗争を激化させる要因となるのだが、マスターは知る由もない。
_______マスターの明日はどっちだ。
今回も意味もないし山もないし落ちもないのだナ。
このごろ何回回そうが礼装ばっかりで★4サーヴァントなんかでやしません。 だれか呪いかけました?
いつも通り頭空っぽで書いているので間違った表現や、おかしい表現はバンバン指摘してほしいです。