カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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カルデアに神様を求めるのは間違っているだろうか?

「じゃあ私は、こっからこっちを頂くわね」

 

金星の女神がパイの表面をナイフで軽くなぞって線引きをし、傷つけた部分の内側を自分の物だという様にナイフで軽く叩いた。

これでも譲歩をしたのだと言う割にはパイの三分の二以上を主張しており、それを見て他の女神達は困ったように首を傾げる。

 

「んー、それじゃあ皆に持っていく分が無くなっちゃうのよねー、ここがデメテルちゃんの分、ここがアテネちゃん、ここがヘスティアちゃんでー……」

 

すると月の女神が金星の女神が引いた線を無視して、皆のお土産にと次々とパイに線を引き始める。 結果金星の女神が引いた時よりもさらに図々しくパイを占領することになり、更に女神たちは唸りながら首を傾げてしまう。

 

「オー! それじゃあ私の分が無くなってしまうデース! うーん、私は一緒にいられるだけで十分ですから……よし! このぐらいあれば満足かしら?」

 

「ちょっと!? なんだか遠慮している風にして半分以上持って行っているじゃない!」

 

「そっちは最初に三分の二も主張していマース!」

 

金星の女神と南国の女神が言い争っている間に、女神ではないが冥界代表として冥界のざざーん女王がパイの中心部分を円で囲むようにナイフで傷つけてこれでどうかと提案した。

 

「私としては、量より質を選びたい所存ですね。 これがただ一つの物だというのであれば特に……」

 

「ふーん、一番美味しい所を持っていくってわけ。 どこの冥界も空気が読めないというか大胆というか……」

 

「そうよね、それが出来れば最初からこんな不毛な話し合いしていないもの」

 

「え? え?」

 

「ハデス並に……いやあれは大人しかったから、うん! 兄さん並みに空気が読めないわね!」

 

お前に言われちゃおしまいだ、と月の女神に他の女神は何とも言えない目線を送るが当の月の女神は気付く様子もなくニコニコしている。 なんだかんだでこの女神が一番フリーダムである。 ざざーん女王は女神トークに着いていけずもっと円を小さくした方が良かったのだろうかと悩んでしまった。

 

「馬鹿馬鹿しい……こんな仲良しごっこをしながらいざとなったら一人も約束など守る気などありはしないくせに。 『女神同盟』でもあるまいし……皆時が来ればこうする魂胆なのだろう?」

 

「え? そうなのですか?」

 

すると何処からともなく現れた一人の蛇の女神がパイを持ち上げ、勢いよく齧り付く。 パイの中身が飛び出し、その口を汚すのも気にせずそのまま食べ続け、蛇の女神はついにそのパイを食い尽くす。 満足そうに口元を舐めながら嗤うような視線を他の女神たちに向ける。

 

「ふむ、美味だ。 このパイのように彼奴もさぞ美味だと良いのだが……なぁ?」

 

「え? ……え、え?」

 

蛇の女神が口を歪めると、他の女神達も愉しそうに笑った。 困惑しているざざーん女王をよそに、誰もいない食堂に美しく恐ろしい笑い声だけが渦巻いていた。

 

 

 

 

リズムよく包丁がまな板に当たる音が聞こえ、鍋からはぐつぐつと何かが煮える音、フライパンからは香ばしい香りと共に肉がジューシーに焼ける音が聞こえ、それを聴く者はもうすぐ夕餉が近いことに気が付き、その鳴る腹の音と共に料理が出来上がることを待ち望む。

 

「あぁ、フライパンの肉汁は取ってくれると助かる、ソースに使えるからな。 それとそこのボウルに卵を二個ほど落としておいてくれ、あぁ卵白は別にして」

 

「さーてと、パイの調子はどうかな~……うん、このままあともうちょっとってとこか、牛肉の煮込みはどうかなぁ」

 

「……あぁ、美味しい出汁がでています。 エネミーの骨にも旨味はあるのですね……さてと、お魚の方はどうかしら、塩で揉んでおいたから味は出ていると思うのだけれど」

 

お馴染みカルデア食堂は、今日は珍しくカルデアのお母さんたち大集合で料理を作っている最中であった。 和と洋、それに中華となんでもござれのフルコースのバイキング形式、基本的に当番以外の者は作りたいときに厨房を利用して良いことになっているので、たまたま気分が乗った者達が集まるとこうやって皆で料理を作ったりするのだ。 次々に作り出される料理の数々にもう待ちきれないというサーヴァントたちが一足先に食堂の席についており、アルトリアシリーズは回転する中華テーブルに座りながら他のアルトリアを目で牽制している。 まるで仕留めた獲物を取り合うライオンの様である。

 

「あそこは夕食毎に争っているが、何か因縁でもあるのか?」

 

「_______……」

 

「サバンナの飢えたライオン? なんだそれは……?」

 

そんな料理が出来上がるごとに昂るブリテンライオンたちを遠目で見ながら、獅子の耳と尻尾を持つ狩人、アタランテはカルデアのマスターと共に夕食が出来上がる時間を待っていた。

近頃マスターは戦闘時のあらゆるサーヴァントとの組み合わせに対応できるようにするために、戦闘時のサーヴァントの行動を一つ一つ改めて把握する目的で、それぞれのサーヴァントと二人だけでじっくりと時間をかけて戦闘訓練を行っていた。

今日はアタランテとの訓練であり、丁度夕飯の時間も近かったのでマスターは夕飯でも一緒にどうかとお誘いしたのだ。 それにアタランテは二つ返事で了承し、共にカルデアの食堂へと来たのだった。

普通は男性には見向きもしないアタランテが自分の誘いに快く答えてくれたことに、マスターはアタランテから信頼されているみたいでなんだか口元がにやけてくるのを感じながら、手元の資料へと目を通す。 資料には今日アタランテと訓練した際のデータが全て載っており、マスターはこのデータと実際訓練した際の感覚を頭の中で組み合わせながら戦闘の際に切る選択肢(カード)を作っていくのだ。

 

「それは、今日私と訓練した時の物か? どれ、私にも見せてみろ」

 

「_____?」

 

「見て分かるのかと? ふっ、こう見えても私はアルゴナウタイの中では頭が切れる方だったのだぞ? それこそイドモンやアスクレピオスには敵わなかったが……この程度の書物……など……造作も……」

 

そういってマスターが持っている書類を横から覗いてみるが、書類に書いてあるのはAやらBやらQやらの単語に良く分からない数字の羅列、それにマスターのメモが乱雑に書かれているだけで、まるで一見すると子供の落書きの様であった。

 

「……むぅ。 なんだこれは、子供の落書きか……?」

 

「________?」

 

「んなっ! 何だその顔は! どちらかと言うとこれは汝の書き方の問題だろう! もっと見せてみろ! 」

 

アタランテが体ごとマスターへと近づいてきて、書類へと手を伸ばしてきた。 アタランテの美しい髪がマスターの頬を撫で、森の匂いが鼻孔をくすぐる。 あんなに強力な矢を打ち出している手とは思えないほど柔らかい手がマスターの手に重なり、彼女の翠玉のような目がその美しい顔ごとマスターの目の前へとやってくる。

 

「______」

 

その美しさにマスターはしばし見惚れる。 目を離そうとしても離せない、マスターの暗号めいた資料に集中しているその横顔の美しさは女神の様であり、森の狩人とは思えないほど気品に満ち溢れていた。

 

「……? 私の顔に何かついているのか?」

 

「____!!」

 

マスターの視線に気付いたのか、マスターを見つめ返すアタランテ。 マスターは首を勢いよく横に振りながら赤くなった顔をごまかすように、暑がるふりをしながら手を仰いで顔に風を送る。 目があっちこっちにせわしく動いており、誰がどう見ても三文役者である。 シェイクスピアが見たらさぞ大笑いすることであろう。

 

「そうか、ならばあまり熱のこもった視線を送ってくれるな。 私も、その、なんだ、羞恥心ぐらいあるのでな」

 

「_____……」

 

そういってそっぽを向くアタランテ。 ほんのり赤くなっているアタランテの頬とピクピクと動く獣耳を見て、魚のように口をパクパクさせながら顔をアタランテより顔を真っ赤にしていくマスター。 そういう反応はずるいと思う。 マスターだって健全な男子なのだ。

 

「……お前らそんなラブコメ今どきの高校生でもやらな──」

 

「マスター、別の席へ移ろう。 此処の席はどうも熊に呪われているらしい」

 

「______」

 

「ちょちょちょっとまって! せめてセリフぐらいは最後まで言わせて!?」

 

と、そんな二人の間に割り込んできたのはカルデアマスコット選手権で不名誉の最下位に下り詰めたクマか人か分からない生モノ、ギリシャ神話伝説の狩人であるはずのオリオンである。 因みに人気としては水着を着ていた時のマリー・アントワネットにくっついていたカニより順位が下である。 何時もはアルテミスと一緒のはずなのだが今日は珍しく一人であった。 テーブルの上にちょこんと座る姿は人形みたいだが、なんだか可愛くないのがこのクマの不思議な所であった。

 

「_____?」

 

「アルテミスはどこかって? いやそれが昨日から姿が見えなくてな、それでてっきりお前さん達のところでろくでもない事やってるんじゃないかと……」

 

「アルテミス様……」

 

汗っぽい液体を額から出しながら溜息をつくオリオンと、遠い目をしながら胃を押さえているアタランテ。 女神様の気まぐれで気苦労が絶えないサーヴァントの二号と三号の姿がそこにあった。 _因みに一号はメドゥーサさん_

 

「とにかく、アイツが関わってないんなら大丈夫か……どうアタランテちゃんお茶でも」

 

「否、断る。 止めて欲しい」

 

「うん、分かってた……はーい! そこのお嬢ちゃん一緒にお茶しない?」

 

「申し訳ありませんが私はライオンの方が好みなので……」

 

アルテミスがいないとわかるや、速攻で女性に声をかけていくオリオン。 こういう色を好む所は英雄らしいが、いかんせんクマなので皆何とも言えない顔をしてスルーしていく。 というか喋るクマっぽい人形とお茶しないかと言われて「はい、いきます」と言える女性はナーサリー・ライムぐらいしかいないだろう。_そのナーサリーもオリオンをお茶会の眠りねずみぐらいにしか思っていない_

 

「やぁそこの南国風のお姉さん、俺と一緒に一夜の思い出でも」

 

「あら可愛いクマさん。 ……ってあら? あらあら!」

 

「おぉ!? もしかして脈あり!? おねーさん! その胸で抱きしめて! ギリシャの果てまで!」

 

オリオンの方を向いて目を輝かせる南国風のお姉さんに、久々にロマンチックな雰囲気を感じて「やっぱり、熊になってもいけるじゃん! オレ!」と嬉しさのあまり少しばかり涙目になりながらお姉さんの豊満な胸に飛びつくように、オリオンはテーブルから飛び出す。 まさに羽の生えた気分なのであろう。

 

「こんなところに居たんですネー! マスター! チャオー!」

 

「ふっ、まぁそんなところだと思ったぜ……ぬわーっ!」

 

が、当の南国のお姉さんは飛びついてくるオリオンを華麗にスルーすると、そのままマスターの元へとタックルするように抱き着きに行った。 すれ違う様に飛んだオリオンは正に太陽に近づきすぎたイカロスのようにただ下へと真っ逆様。 その体の物理的柔らかさで何回かバウンドして床へと転がると、丁度食堂に来ていたアステリオスに知らず知らずに踏みつぶされてしまった。 アルテミスの罰は本人がいない所でも健在らしい。

 

「ずっと探してました! もう、どこ行ってもマスター居ませんし、私、ここに来たばっかりで、しかも森と違って同じ景色が続いてるから迷ってしまいマース。 でも会えてよかったわ! さ、私にマスター成分を補給させてくださいね、ンフーフ!」

 

「______!?」

 

眩しいばかりの笑顔でマスターに抱き着くのは、南国の部族のような出で立ちの大人びた長身の女性、ケツァル・コアトルであった。 最近召喚に応じたサーヴァントであり、アルテミスとイシュタルに続いて三人目の神霊系サーヴァントである。 太陽神の名に恥じない、まさに誰にでも平等に降り注ぐ太陽のように公平で、優しく、素晴らしい包容力を持つカルデアにはあまり居なかったお姉さん系のサーヴァントである。

そして何処かの過去もしくは未来で縁があったのかケツァルはマスターをえらく気に入っており_本人いわく、「秩序で、正義で、一生懸命とかお姉さんのツボすぎて反則デース!」らしい_スキンシップ激しめでマスターと接するので、どこぞの母や蛇娘が黙ってはいない。

……のだが、霊格を落としているとしても本人は女神。 あの恐るべし怪異殺しの自称母と正面から殴り合える、というかルチャリブレ対古武道の総合格闘技戦になって良い試合してしまうほど強い。 なのでカルデアサーヴァントの間ではマスター争奪戦に強敵が乱入してきたと噂になっていた。

 

「_____!?」

 

「もう、そんなに恥ずかしがることはありまセーン! ンフフ、そんなに暴れられると……んーむっ」

 

「______!?!?!?」

 

「えへへ、こんな風に偶然マスターの頬に唇が当たってしまいマース! ええ、偶然に!」

 

ケツァルから頬に思いっきりのキスを食らい頭と耳から沸騰したやかんのように湯気を出しながら固まるマスター。 カルデアではマスターに関しては余計な諍いを起こさないために「周りを挑発するような行為は禁止」と一種の協定をサーヴァントたちは結んでいるのだが、そこは神様、そんなことは知らぬとばかりに周りに誰が居ようが平然と抱き着き、あまつさえキスである。 思いっきり周りを挑発する行為に当然、良く思わないサーヴァントたちが出てくる。

 

「……それくらいにしてもらおう。 私とマスターはこれから今後の戦略について話しあわなければならないのでな」

 

明らかに不機嫌な顔を隠しきれていないアタランテが、マスターをケツァルの拘束から無理矢理引っ張り出す。 マスターはまだ放心状態であり、アタランテが頬をつねったりひっぱたりして何とか元に戻そうとしている。

一方のケツァルはマスターを取られたことにはあまり気にせずにその様子を面白がりながら、厨房から真直ぐ喉に向けて飛んできた包丁を指で挟むようにして受け止めていた。 厨房から漏れ出す濃い殺気に物騒な笑顔で答えながら指を鳴らす姿は、人を激しく照らしつける太陽神の激しい一面を思わせる。

 

「あらあら、まぁまぁ……私としたことが手が滑ってしまいました……お怪我、ありませんでした?」

 

「貴女、包容力があるように見せているけど実際は逆ですね。 母性があり過ぎるのも困りものデース……どんな子供も幼年期の終わりを迎える物ですよ?」

 

「そもそも、婚姻前の男女がそんなに身をくっ付けあうものではありません。 はしたないですよ?」

 

「オゥ、都合の悪い話は聞こえないようになってマース……そもそもあなただって良くマスターに抱き着いているデース?」

 

「私は母なので問題ありません」

 

「母って便利デース……あ、これ返しマース」

 

厨房から聞こえるおどろおどろしい声に向って若干呆れ気味に包丁を投げ返すケツァル、途中夕食前だというのにこっそりと冷蔵庫からスイーツを盗もうとしていた茨木の頭を掠めていき、それに驚いて声を上げてしまった茨木はルーラー達に捕まり別室へと連れて行かれてしまった。 おそらく歯医者ボルグの刑であろう、南無。

 

「マスターさーん? いるー? ってあらダーリン、そんなところでお昼寝?」

 

「うん、ちょっとね。 天日干しでもしようかなって……」

 

「ここ、室内よね?」

 

しばらくして、床でぺちゃんこになった居るオリオンを頭に乗せてふわふわとマスターの所へやってきたのは月の女神のアルテミスである。 手には何かのファイルを持っており、なんだかニコニコしてマスターを見ている。 恋愛脳(スイーツ)な月の女神になんだか嫌な予感を感じるオリオンとアタランテから散々引っ張られて頬が赤くなっているマスター。 女神様と言うのは大抵碌な事をしないのだ。

 

「アルテミス様、その手に持っている物は……?」

 

「そうそう! マスターに見せたいものがあったの!」

 

「また、レイシフトでハネムーン行きたいとか言うんじゃないよな?」

 

「ちーがーいーまーす! ねぇマスター! お見合いしてみない?」

 

「____?」

 

「は?」

 

「はい?」

 

食堂が一瞬で静寂に包まれる。 月の女神の爆弾発言にケツァルでさえも目を丸くしてアルテミスを見ている。 というか神様がお見合い進めてくるってどうなのか、それってもはや一種の神託ではないのだろうか。

皆が唖然としている中、ただ一人アルテミスは手に持っていたファイルをマスターに見せてくる。

 

「ついこの前、あっちで集まりがあったからついでに皆にマスターの事を紹介してみたの! そしたら意外に皆食いついてきたっていうか、一度会ってやってもいいって……」

 

「ちょ、ちょっとまった……なに? 誰に紹介したのお前?」

 

「えーっと、アテナちゃんでしょ、ヘスティアちゃんでしょ、ペルちゃんでしょそれに__」

 

「まてまてまて、待って、ちょっと待って。 何? え? もしかして集まりってオリュンポスの集まりだったの? というか最後のペルちゃんってもしかしてペルセポネ?」

 

「ええ! 特にアテナちゃんのツボに入っちゃったらしくて、ぜひとも自分の神殿にって」

 

「お前はマスターを星座にする気なの!? というかアテナはやめろよ……お前ら処女神全員恋愛脳(スイーツ)なんだから絶対ロクでもない事起きちゃうって……起きちゃった人が此処にいるもの……」

 

「アテナ様までこうなのか……?」

 

アタランテが絶望に震える中、遠くでメドゥーサとヘクトールが物凄い形相でこちらを凝視して、腕を勢いよくバツ字にクロスさせている。 まるで絶対に行くなと訴えているようであった。 何か生前に因縁でもあったのだろうか。

 

「____……」

 

「まぁまぁ、ちゃんと写真も持ってきているんだから! 見てみて、アテナちゃんとか超美人!」

 

「なんだかお見合い勧めてくるおばさんみたいになってるぷぎゅる!」

 

「オゥ、なんだか気の強そうな美人さんデース! 知ってる、知ってるわ! これイシュタルちゃんと同じタイプね! つんでれって言うんでしょ?」

 

禁句を呟いたオリオンを潰しながら、アルテミスがファイルの中から写真を取り出すと、そこにはケツァルが感嘆の声を漏らすほどの輝かしい美人が写っていた。 どれほど輝かしいかと言うと、輝かしすぎて写真から極光が漏れだしてマスターには写真が光っているようにしか見えないほどに輝かしい。

 

「阿呆! これ権能ありありの状態じゃねぇか! マスターもあまり見るなよ、目がつぶれるぞー」

 

「えー、せっかく撮ってきたのにー」

 

慌ててオリオンが写真を裏返しにして、アルテミスに珍しく説教をする。 当のアルテミスはつまらなそうにブーブー言うだけであるが、神様と出会って星座になっちゃったオリオンからすればなんとしてでも阻止しなければならない事案であった。 下手すればマスターの魂は永遠に囚われてしまうかもしれないのだ。 実際アルテミスはある恋した少年を氷漬けにしている。 神様なんて基本人間の都合なんて気にしない。

 

「うーん……ざんねーん。 約束通りデートしないと怒っちゃうからねダーリン!」

 

「へいへい、お安い御用ですって……はぁ……」

 

その後数十分にもわたる決死のオリオンの説得に、渋々折れるアルテミス。 遠くから見ていたヘラクレスもほっと肩を下ろす。 とりあえずオリオンのおかげでマスターのオリュンポス行きはマスターが生きている間は中止になったわけではあるが、マスターは自分が死んでから魂は果たしてどこに行くことになるのか、少しばかり不安になった出来事であった。

 

「まぁ、マスターが死んじゃってから魂持っていっちゃえばいいんだし!」

 

「だからそれを止めなさいって!」

 

訂正、大きく不安になった出来事であった。

 

 

 

「ねぇ、無銘の……エミヤだっけ。 じゃあエミヤ君、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

「君はいらん、そういう年でもないのでね。 ……何の用だ?」

 

食堂がアルテミスとオリオンの夫婦漫才で騒がしくなっている頃、金星の女神であるイシュタルが厨房へと顔を出していた。 隣では暴走しかけている頼光を必死にブーティカが止めており、イシュタルはそれを見て見ぬふりをしながらエミヤにある一つの注文(オーダー)をしていた。

 

「パイ? 作れるが、そんな大きなものを一人で食べるつもりかね? 体型的にもよろしくないと思うが……」

 

「金星投げつけるわよ? 違うわよ、ちょっとみんなで分けるつもりなの」

 

「分ける? 君がか? ……何を企んでいる?」

 

「……べっつにぃ?」

 

怪しい笑みを浮かべる様子に、エミヤは似た誰かを思い出してすこし頭痛を覚えた。 このごろ養父といい、義母に、義妹に、果てにはタイガーなジャガーまでもがカルデアに召喚されて絶賛胃痛中である。

 

「ただ、話し合いをするだけよ。 誰が何処を取るかをね」

 

そういって一人笑う金星の女神。 なにかロクでもないことを考えていることは明白だが、悲しいかな、女神は基本的に自分勝手、人間が反抗したって無駄なのである。

 

________マスターの死後はどっちだ。

 




師走は忙しい……書ける暇がねぇ! ということでまたまた遅くなりました。 許してください……
ついに最終決戦が近づいてくるこの頃に、ケツァル姉さんと、神様たちの紹介を少しばかりいれたお話です。 なんか神様いっぱいいるけど、七章以前のお話。 ピックアップで来てくれた感じです。

感想、誤字報告毎度ありがとうございます。 おかげで一か月近く書いて来れました。 本当に感謝です。
次は最終決戦が終わった後ぐらいでしょうか。 それでは楽しんでみて頂けると幸いでございます。


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