カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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ゴルゴーンの末弟、誕生?

オリオン曰く、神様を嫌いになりたかったらギリシャ神話を見なさい、ヘスティアちゃん以外ロクな女神いな、まてまてその弓下ろして話せばわかる。 らしい、まぁ神様なんてどこも人間を試すわ、試した割には勝手に失望するわ、湯浴み中偶然通りかかってしまった狩人を動物にしちゃうわ、弟の馬鹿さに耐えられず天岩戸に引きこもるわ(玉藻談)で、何処にも真面な神様なんて数えるほどしかいない。 触らぬ神に崇りなし、神様の考える事には人間は近寄らない方が良い。 勇者気取りの人間なんて神様にとっては暇つぶしの道具としか見られていないかもしれないのだ。

ここカルデアにも驚くべきことに神様は存在している、正しくは自分の霊基をサーヴァントレベルまで落とした神様だが、その性格はサーヴァントのレベルをはるかに超えており、どこかの月の神様なんて日々フリーダムで、その姿を見るたびに何処かの狩人は胃を押さえるはめになっているぐらいだ。 がんばれ獅子耳狩人、まだまだ苦難は始まったばかりだ、ビバ信仰。

 

さて、そんなカルデアに、そんな神様を二人も持つ苦労人なサーヴァントが一人いる。 大人びた風貌に、長い髪、高い身長、カルデア眼鏡ニスト選手権で常に上位をキープしているまさに大人のお姉さん。 名をメドゥーサ、有名な方の名前ではゴルゴンだろうか。 見た相手を石化させるという伝承は有名であり、もちろんメドゥーサもその能力を所持している。

 

「次は、鳳凰の羽根と……隕蹄鉄と……ふぅ……」

 

そんなメドゥーサは大きく溜息をつきながら、廊下を歩いていた。 手にはお使いと書かれたメモ、なんだか何日も寝ていないような表情で体を引きずるように歩いている姿は仕事に疲れたOLの様だ。 理由は姉のお使いのせいである。 彼女の姉、ステンノとエウリュアレは女神である。 二人とも輝かしいほどの笑顔と仕草を持って見たもの全てを魅了する美しさを持ったアイドルだが、その実その性格は人をその気にさせてあざ笑うのが趣味な控えめに言ってあくまである_悪魔ではない_そんな二人のお使いに日々駆り出され、もはやメドゥーサの体はヘトヘト、心はぼろぼろであった。

 

「_______?」

 

「はい? あぁ……マスターでしたか、私はこの通り姉様達のお使いを……姉様達は基本的に自分では動かない人たちでして……」

 

そこに、通りがかったカルデアのマスターが心配して声をかけてきた。 どうやらメドゥーサは自分でも気づかないぐらいに疲労困憊してたらしく、マスターも慌てて肩を貸して、近くの部屋に寝かせることにした。

 

「この頃お姉様たちのお使いのレベルが地獄級になってきていまして……いえ、私は良いのです、こうして三人揃えるだけでも奇跡、少しでもお姉サマーズの役に立てるのであれば私の体など……」

 

「____!」

 

「ふふ、お優しいのですねマスターは……少しだけ、甘えるとしますか……」

 

そういって疲労が限界に近づいていたのか、そのまま気絶するように眠るメドゥーサ。 大事な妹であろうメドゥーサをここまで扱き使うとは、さすがのマスターも怒った。 必ずかの邪知暴虐の神々を説得しなければならぬと決意した。 マスターは姉妹内ヒエラルキーが分からぬ。 姉の理不尽さと、妹のわがままさなど無縁だった。 けれども悪意には人一倍敏感だった。 そうしてマスターは眠ったメドゥーサに毛布をかけ、精のつく食事を用意し、カルデアのスイーツバイキング無料券を枕に忍ばせてから、姉二人のいる部屋へと向かったのだった。

 

 

「それで、私達に文句を言いに来たわけ。 只のマスターの癖に?」

 

「それで、私たちに一言言いに来たのですね。 只のマスターの癖に?」

 

「はい、女神様」

 

「ますたぁ、めが、ぐるぐるしてる……」

 

「はい、女神様」

 

が、何の対策も無しに二人の女神の前に行くということは怒りのままに城に入り込むメロスと同じ。 結果マスターは加護があるとはいえ女神二人がかりの魅了の眼差しに耐えられず、ただの壊れたレディオのように同じ言葉を繰り返す人形のようになっていた。 同じ部屋にいたアステリオスが若干怖がっている。

 

「はい、女神様」

 

「ふーん、メドゥーサが倒れたのね……やっと」

 

「流石に取り柄が体力と図体しかない駄妹でも限界があったのですね」

 

「はい、女神様!!」

 

「あら、そんなに怒らなくてもいいじゃない、姉の物は姉の物、妹の物は姉の物、この地球が始まった時から決まっていることなのよ?」

 

「ロクにお使いも出来ない駄妹が悪いのです、私達に文句を言われてもどうもできません」

 

「_______!!」

 

「ますたぁ、もどった……!!」

 

あまりの言い様に、魅了(せんのう)も解けるほどに怒り出すマスター。 ステンノ達の為にメドゥーサは倒れたというのにその妹を駄妹扱いとは、懐が深すぎて心配されているマスターもこれには我慢ならなかった。

 

「へぇー……貴方も怒ることってあるのね」

 

「……へぇ、相手がメドゥーサだからでしょうか?」

 

「_____!」

 

「ますたぁ、おちついて」

 

もう頭に来て何が何だか分からなくなってくるマスター、人のために真摯に怒れることも彼の魅力の一つであったが、人のためになるとブレーキが効きにくいのはマスターの欠点であった。

 

「ますたぁ、おちついて、えうりゅあれたち、わらってる。 あのかおを、するときは、なにかたくらんでる」

アステリオスが何かを感づいてマスターを止めようとするが、頭に血が上ったマスターには効果が無かった。 なのでつい、こんな言葉を口にしていた。

 

「______!!」

 

「はぁ? 貴方がメドゥーサの代わりをする? 冗談でも言って良いことと悪いことがあるわよ」

 

「メドゥーサの代わり何て何処にもいません、アリにでもなって出直してきてください」

 

「_______!!」

 

「へぇ、何でもする……ふーん、令呪に誓うのね……どうする(ステンノ)?」

 

「確かに、あの子の疲れを見抜けなかったのも事実……そうですね、その誓いに免じて今日一日ぐらいなら認めてあげてもいいでしょう」

 

「そうね、あの子にも時には休息を与えないと、じゃあ決まりね」

 

「____?」

 

「ええ、認めてあげます。 ふふ、マスターなのにサーヴァントに仕えたいだなんて、面白い人ね……」

 

まるで計画通りと言うようにじゃあくに笑う女神二人、なんだかマスターが酷い目に遭うような気がしてアステリオスはおろおろしながら見守るばかりである。

 

「じゃあまず、呼び方を変えて貰いましょうか」

 

「___?」

 

「ええ、貴方メドゥーサの代わりなんでしょう? だったら貴方はサーヴァントを率いるマスターでなくサーヴァントに仕えるマスターなわけ、ということはまずは上下関係から改めてもらなわきゃね!」

 

「女神様は言われて慣れてますから……」

 

「愛しい人かしら?」

 

「うーん、愛らしい人?」

 

「ご主人様?」

 

「Basimin tatli belasi?」

 

「それはちょっと過激ですね」

 

「じゃあお姉さまね!」

 

「ええ、お姉さまにしましょう」

 

「_____?」

 

何でもするといったのは正に軽率であった。メドゥーサの代わりと言ったがまさか妹ポジションまで代わりをさせられるとは思っていなかったマスターはただ困惑するばかりであるが、令呪に誓ったからには撤回するわけにはいかなかった。

 

「人間風情が私達を姉と慕えるのです、この世で二度もない奇跡なのですよ?」

 

「精々、駄妹ぐらい働いてちょうだい? ぐ駄弟?」

 

なんだかろくでもないことが始まろうとしていた。

 

 

 

 

「いやぁ、レフのテロ以降めっきり利用者が減ってしまった食堂だけど、これだけサーヴァントがいたら賑やかだねぇ」

 

「今日は先輩もお休みと言うことで、サーヴァントの皆さんもそれぞれの休日を堪能しているようですね、あそこは海賊の皆さんでしょうかまだ昼前だというのに酒盛りをしています」

 

ここはおなじみカルデア食堂、今日は珍しいマスターの休日であったため、サーヴァントも暇なのか食堂に集まっており賑やかだった。 ロマンとマシュが食堂に入ると部屋の隅で酒盛りをしている海賊たちが目に入る。 すでに何本も空の酒瓶がそこらに放置されており、いい感じに出来上がっている。

 

「でゅふふふwwww朝っぱらから飲むお酒は堪りませんなwwww拙者このために生きてるでごじゃるよーあ、もう死んでるんだった! てへ!」

 

「うざっ……あ、アンこれなんだろ、ショーチュー? 日本のお酒みたいだけど」

 

「まぁ、マスターの国のお酒なんですね、早速飲んでみましょう」

 

「ホント、酒ってのは偉大だねぇ! このために生きている奴もいるんだからさ! そしてここの酒は上物ばかりときた、あぁたまらないね!」

 

「ちょっと、BBA呼んだの誰ー? 拙者よんでないでごじゃるよー?」

 

「いえ、そもそも貴方を誰もお誘いしていません。 どこから湧いてきたのですか、船内のネズミより鬱陶しいですね」

 

最早英霊の欠片もない酒飲み集団である。 このままではカルデアの酒を飲み干してしまうと危機を覚えたマシュが止めに行こうとした時、食堂のドアが開き、マスターがサーヴァントと共に入ってきた。

 

「エウリュアレたんキター! しかもステンノちゃんもキター! 拙者の春でござる春でござる!」

 

「皆さん、おはようございます。 あの、その姿は?」

 

「……組体操か何かかい?」

 

ドクターとマシュが首をかしげる。 アステリオスの肩にエウリュアレが乗っているのはいつもの事なのだが、今日はマスターの肩にステンノが立ち乗っていた。 けっこうマスターにはきついらしく少し足がプルプルしている。

 

「ほら、呼ばれていますよ。 駄弟」

 

「駄弟!? 」

 

「えーっと一体どういう……」

 

「えっと、ますたぁが、めどぅさのかわりになって、ますたーがさーヴぁんのさーヴぁんとになって、えうりゅあれがますたぁに……あれ?」

 

「ふふ、とにかく(ステンノ)の下にいる哀れなマスターは今日一日私達の所有物(おとうと)ってわけ! そうよね駄弟?」

 

「____……」

 

「お姉さま!?」

 

「すごいや! あの女神から弟呼ばわりされるなんて普通じゃ天地がひっくり返ってもありえないぞぉ! いやぁ羨ましいなぁ!」

 

「_____……!」

 

「はいはーい! じゃあじゃあ拙者はお兄ちゃん役を希望しまーす! さぁエビバディセイおにいちゃーん! もしくは兄上、あぁ兄貴でもいいですぞー!」

 

「ほら、駄弟。 ドクターとマシュにお願いがあったのでしょう。 手早く済ませなさい」

 

他人事だと思って楽しそうにしているドクターを恨めしそうな顔で見ながら、要件を口にするマスター。 それと食堂で手が空いているサーヴァントがいないか声をかけ始めた。 やはり体を動かして居るのが性に合っているのか何名かが手を上げる。 ドクターも快諾して、制御室に向かった。

 

「あれ? 拙者放置? 放置プレイ……? でもエウリュアレたんたちからやられると興奮するー! でゅふふふふwww」

 

「最早救いようがないですわね……」

 

「本人が幸せならいいんじゃない? たぶん」

 

 

 

 

「しかし、いきなり魔獣狩りとは、魔術師殿もなかなか苦労性ですな……その状況を見る限り」

 

「はは、またなんともな姿だな、君といるとどうも退屈しないようだ」

 

「主殿を足蹴にするとは……その首落ちても文句はいえまいが、主殿の頼みとならば別……しかし……むむ……」

 

そしてマスターが向かった先はレイシフトした先のオケアノスであった。 マスターの頼みとはメドゥーサのお使いを達成するための魔獣狩りであった、獲物は隕蹄鉄をもつケンタウロスであった。 メンバーはマシュの他に食堂で手が空いていた呪腕のハサンと荊軻、それと何時の間にかついてきていた牛若丸である。

 

「うん、確かにそのあたりにケンタウロスの反応があるね、しかも群れだ」

 

「ならば、早速行動に移るとするか。 そうだな……私が一番だったら、君に酒でも一献注いでもらおうか」

 

「ほう、ならば私は魔術師殿に、新しいダークでも強請るとしようか。 ククク……」

 

「ならば牛若は主殿に……主殿に……一番になってから考えます! では!」

 

ドクターの報告を聞いてから、それぞれ獲物を狩りに姿を消すサーヴァントたち。 牛若丸は張り切り過ぎたのか一飛びではるか遠くまで飛んで行った。 マシュ達はエウリュアレ達の護衛とこちらに逃げてきたケンタウロスの討伐が役割である。

 

「しかしながら、なぜ先輩はエウリュアレさん達の弟に……?」

 

「うちの駄メデューサが心配になったんですって、ふふ、それにしたってサーヴァントのために体を張るなんてよほどのお人好しか、それとも頭が可哀想なのか……」

 

「メドゥーサさんのために……ですか」

 

「あら、やきもちかしら? 可愛い所がありますね」

 

「ち、違います!」

 

ちょっと拗ねた顔をして否定するマシュ。 なんだか必死に否定された気分でなんだか傷つくマスターであったが、今は上に乗っているステンノを支えるので精一杯であった。

 

「おっと、会話中すまないがそちらにもケンタウロスの反応が迫ってきているよ!」

 

遠くから喧騒共に蹄の音がアステリオスの耳に入り、戦闘態勢を取る。 続いてマシュが盾を構えて守るようにマスターの前に来た。 女神二人は戦う素振りさえ見せないが一応、警戒はしている。 どんどん森がざわめくように喧騒が近くなってきていた。

 

「……くる!」

 

「____!____むぐっ!?」

 

「総員、戦闘たいせーい! ……一応言ってみたかったのよ、これ」

 

「ええっと……りょ、了解しました!」

 

「みんな、ぼくが、まもる!!」

 

そして戦闘が始まった____________

 

 

 

「ふむ、まぁ私ではこの程度か、さすが山の翁は経験が違うようだな」

 

「いや、荊軻殿も見事……牛若殿は……」

 

「主殿! 首級を取って参りました! どうですか!」

 

「いや、牛若殿、今回取ってくるのは蹄鉄であり首ではありませんぞ……」

 

結果はアステリオスが、ケンタウロスを千切っては投げ千切っては投げの大戦果であり、隕蹄鉄も十二分に集めることができた。 因みに首の数では牛若丸が一番であったが、首は関係ないので丁重に埋めることになった。 南無。

 

「_______?」

 

「そうね、私達を肩に乗せながら戦う姿は勇者様みたいだったわよ? 」

 

「ぼくが、いちばん? うん……ますたぁも、えうりゅあれたちもだいすきだから、がんばった」

 

そういって恥ずかしげに笑うアステリオス。 同じもじゃもじゃなのに黒髭と比べてまるで天使である。

 

「_____?」

 

「ごほうび? ……じゃあ、てを、つないでかえりたい」

 

「手? それだけいいの?」

 

「うん、えうりゅあれ、も」

 

「ふふ、仕方ないわね、ほら」

 

「へへ、あったかい……」

 

そういってエウリュアレとマスターの手をつなぎながら歩くアステリオス。 暖かい手のぬくもりを感じながらアステリオスはまた皆で手をつなげられたらいいなと微笑みながら思った。

 

 

「あはは! 樽ごともってこーい!!」

 

「このBBA底なしか……? うっぷ拙者もう限界……アン氏、メアリー氏介抱して……できればナース姿で」

 

「解剖ならしてあげるけど?」

 

「私達に近づいたら頭をザクロにしますわよ」

 

「ねぇダーリンってお酒強いの?」

 

「それクマに聞くの? まぁ元の状態だったら強いだろうな」

 

「へー、なんで?」

 

「そりゃお持ち帰りしやすいでででで! しまった! 誘導尋問だったか!」

 

「麗しのアタランテ! まさかこの目で見られるとは……余は嬉しい!!」

 

「帰りたい……」

 

マスターたちが帰ってくると、海賊たちの飲み会は人数も増えてさらに盛り上がっており、どんちゃんさわぎになっていた。_若干一名死んだ魚の様な目で胃を押さえている狩人がいるが_

 

「さてと、これで集まったわね……」

 

「集まったとは?」

 

「いいえ、何でもないわ……あらアステリオス、あなた髪が固まってきてるわよ、潮風にやられたのかしら……お風呂に入りましょう」

 

お風呂と言う単語に黒髭が反応するが、アンの銃弾によって黙らせられる。

 

「おふろ、しゃんぷーが、めにしみる……」

 

「シャンプーハットつけるから大丈夫よ」

 

「そうですね、私達も汗をかいてしまいましたし……駄弟」

 

「____!」

 

「先輩も慣れてきましたね……」

 

瞬時に反応してステンノを肩に乗せるマスター、適応力はさすがだが、そんなことまで適応していいのかと少し不安になるマシュであったが、とりあえず気にしないことにした。

 

「それでは行きましょうか。 (エウリュアレ)

 

「……! ええ、行きましょう。 (ステンノ)

 

なんだか、また何か企んでいる笑みを漏らす女神二人であったが、肩に担いでいるマスターとアステリオスはまるで気が付いていなかった。

 

 

 

「めが、しみる……」

 

「ほらほら、あともうちょっとだから我慢しなさい」

 

濡れたアステリオスがまるで泡まみれの濡れたモップみたいになってエウリュアレから洗ってもらっている。 髪の毛が多いのでエウリュアレも洗うのに一苦労らしい。 ぐちぐちといいながらしっかりと丁寧にアステリオスの髪の毛を洗う姿はまるで兄妹みたいである。 そんな兄妹みたいな微笑ましい光景を見ながら、マスターは最大の危機に陥っていた。

 

「ほら、手が止まっていますよ?」

 

「_______……」

 

現在マスターがいるのはカルデアの温泉施設の女湯であった。 メドゥーサの代わりなのだからと無理やり連れ込まれたマスターは、今潮風で痛んだらしいステンノの髪の毛を洗っている。 今は四人の他に誰もいないが、もし誰かが入ってきてしまったらマスター消滅の危機である。 ある意味人理の危機でもあった。

 

「ほら、早くしないと誰か来てしまいますよ? ほ、ら?」

 

楽しそうに笑いながら体を押し付けるステンノ、髪を洗うと言いながら、座っているのはマスターの膝の上であり先ほどから柔らかい感触がマスターの体のあちこちに当たっており顔がまだ風呂に入ってもいないのに真っ赤になってしまう。 それを見てさらに面白そうに口元を歪めるステンノ。 あくまである。

 

「_____……」

 

「ふふ、そうそう。 丁寧にお願いするわ……」

 

手にシャンプーを付けて、髪を梳くようにして丁寧に洗っていく。 気持ちがいいのかステンノは目を細めてうっとりとした表情で体をマスターに預ける、髪は潮風で痛んだという割には絹糸のように滑らかで指で梳いても引っかからずに滑っていく。 風呂場であるから当然衣類は着ていない、必死の懇願によりタオルを巻いてもらったが、そのタオルも水を吸って透けてきている。

 

「う、ん……そう、です……ん……」

 

「____……」

 

流石は「可憐である」ということに特化した女神である。 少しでも気を抜くと抱きしめたくなる衝動がマスターを襲う。 魅了をかけていないのはマスターを試して楽しんでいるからである。 もちろんマスターはメドゥーサの信頼に賭けてそんなことは出来ない。

 

「へぇ、(ステンノ)相手に意外と耐えるわね……」

 

「……? えうりゅあれ?」

 

「あぁ、ごめんなさい。 すぐに流してあげるわ」

 

「あら、タオルが……」

 

「_______!!」

 

ステンノが巻いていたタオルがはらりと落ちて、輝かしいほどの肌が露わになる。 マスターが目をそらそうとするが、その美しさに目が離せない。

 

「ふふ、タオル、巻いてちょうだい?」

 

「____!?」

 

ステンノが面白そうに口元を歪めて体を押しつける、完全にマスターの反応を楽しんでいるのだ、魅惑の塊に抗うのも必至な只の人間の男、その男が自分に指一本手出し出来ない事を分かっててなお、挑発して、その反応を見て盛大に愉悦っているのだ。 さすが暗黒姉妹である。 マスターは頭が真っ白になるのを感じながら、次々に繰り出されるステンノの無理難題をこなしていくしかなかった。

 

 

 

そのあと、黒髭のバニー姿を想像することによってなんとか耐えることに成功したマスターはまたステンノを肩に乗せながらステンノ達の部屋へと目指していた。 なにかお願いがあるらしい。 因みにアステリオスはそのあとマスターがドライヤーと櫛で手入れをしてふわっふわな髪の毛になっていた。 エウリュアレが気持ちよさそうに顔を埋めている。

 

「_____……」

 

「はい? また肩の上に乗る? 当たり前でしょう駄弟が姉より高い所にいるなんて有り得ません。 自分が今奴隷以下の存在ということをまだわかっていなくて?」

 

なるほど、日ごろのメドゥーサの扱いが何となく分かる言葉に、マスターは同情した。

 

「お願いというのはこれです」

 

ステンノ達の部屋に着くと、ステンノ達は一つの袋を取り出した。 中身は再臨するための素材、鳳凰の羽根と今日集めた隕蹄鉄である。

 

「これで、あの娘を、メドゥーサを強くしてほしいの」

 

「______?」

 

思いもしなかったお願いに、ふと唖然とするマスター。 つまり、今日の狩りもメドゥーサに集めさせていたのも全てメドゥーサの為だったというのだろうか。

 

「そう、今日の狩りはあの子のため。 いえ、貴方がメドゥーサを見て私達に来るところからでしょうか」

 

「_____?」

 

「メドゥーサのあの姿を見れば、お人好しの貴方のことだからメドゥーサを無理にでも休ませて私達の所に来ると思ったの」

 

「まさか。あの娘の代わりをするなんて言い出すような変な人なんて、とんだ計算違いでしたけど」

 

「______?」

 

つまり、全てはメドゥーサのために女神たちが仕組んだ、遠回しな妹へのご褒美なのだろうか。 実際に倒れるまで疲れさせて、マスターを巻き込むあたり遠回し過ぎるが。

 

「つまり、貴方は今日一日仕組まれて遊ばれたってこと。 ……怒った?」

 

「_____」

 

少しだけ申し訳なさそうに聞いてくるエウリュアレに、笑いながら首を振るマスター。 なんだか二人がなんだかんだで妹思いだということが分かって嬉しかったのだ、メドゥーサが姉を慕っているように、ステンノとメドゥーサも妹を愛していた。 それがなんだかとても嬉しかったのだ。 だからマスターは笑って二人を許した。

 

「……本当に変な人。 散々弄ばれたのにそうやって笑えるのですね。 いろんな勇者様を見てきましたが、そこまで変な人はいませんでした」

 

「まったくね、ホントお人好しなんだから」

 

そういって笑い合う三人。 アステリオスはお風呂に入って眠たくなったのかベッドですやすやと寝息を立てていた。

 

「_____?」

 

ふとマスターは自分から動かない女神たちが良く鳳凰の羽根を手に入れたことを不思議に思った、中々希少な物のはずなのだが、いったいどのようにして集めたのだろうか。

 

「えぇ、おかげで何回もメドゥーサを行かせる羽目になりました」

 

「_____!?」

 

「えぇ、当たり前でしょう? 今はサーヴァントでも私達は女神。 試練を与える側なのですから」

 

「メドゥーサは疲れて、素材も集まる。 ほら、一石二鳥でしょう? それに昔から妹の物は姉の物、姉の物は姉の物。 姉に敵う妹はいないと言われてるでしょ?」

 

「______……」

 

さすが、暗黒神殿の暗黒姉妹。 なぜメドゥーサが姉に似なくなったか良く分かったとぼやきながらため息をついた時であった。

 

「聞こえたわよ、マスター。 貴方()()()()メドゥーサの代わりということを忘れてないかしら? 日はもう落ちたけどまだ昇っていないわ」

 

中々に耳ざとい女神がそんなボヤキも聞き逃さず目がきらりと光った。

 

「……」

 

「聞こえましてよ、マスター」

 

「___!?」

 

何も言っていないのにじりじりとにじり寄ってくる女神二人、このままいい雰囲気で終わると思っていた空気が一変する。

 

「何もできないへっぽこの駄弟の癖に、姉に口答えするなんて、どこまで横着なのかしら」

 

「全く気を許した瞬間これとは……愚かな弟には少々躾が必要みたいですね(エウリュアレ)

 

「えぇ、立場の違いという物を分からせなくてはいけないみたいね、(ステンノ)

 

そのままマスターの首へと近づいてくる二人の女神。 なんだか怪しい雰囲気に体の危機をマスターは感じる。

 

「一つ命令してあげる……動いちゃだめよ?」

 

「___?____っ!?」

 

二人の歯がマスターの首筋に突き刺さる。 血管の中まで入ってくる感触がしたと思うと、今まで味わったことのない感覚がマスターを襲う。

 

「ちぅ……へぇ、メドゥーサほどではないけど中々良い味をしているわね……」

 

「えぇ、男なのに処女の味がします……不思議、まるで女が混ざっているかのよう……ちぅ……」

 

血が二人の唇からこぼれて床へと落ちる。 マスターは彼女たちから血を吸われていた。 痛いようなくすぐったいような、二人の柔らかい唇の感触もあってかどんどんマスターの頬も上気している。

 

「ぷはっ……動くなと言ったのに、まだ躾が足りないかしら。 あむっ……!」

 

「____!?_____!!」

 

更に強く血を吸われる感覚に、立っていられずベッドへと倒れ込むマスター、幸いアステリオスは起きなかったが起きてしまったら大変なことになる。 マスターは声を出さないように手を口で押えるが、それでも息が漏れてしまう。

みると女神たちは、マスターが倒れたのをいいことに覆いかぶさるようにマスターを押さえつけながら、自分が血を吸いやすいようにマスターの服を乱暴に引き裂いていく。 女神ではなくサーヴァントになったことにより身体能力が向上した事で出来るようなった、女神時代には考えることも出来ない行動である。

 

「はぁ……とっても可愛らしい顔をしていますわよ、マスター……。 あぁ本来であれば男に食い散らかされる運命の私たちが、男であるマスターをこんなにするなんて……愉しいわ、とても……はむ」

 

「ふふ、まるで初夜を経験する処女みたいね。 可愛いわ、マスター……」

 

「ふふ、メドゥーサでは見られないリアクションですね。 これ以上やるとどうなるでしょう?」

 

「____……___、_!」

 

最早息も切れ切れで許しを請うマスター、最早息をするのもやっとの状態でこれ以上されるとどうなるか分からなかった。 しかしながら興奮し、ギラギラと光る眼でマスターを見る二人の顔はそんなことは気にも留めない。

 

「ふふ、マスターがサーヴァントに懇願するだなんて、可笑しな人。 令呪でも使えばいいのに、優しいのかしら? それとももう令呪も使う余裕がないのかしら?」

 

「あぁ、マスターったら……」

 

「ふぅ、ちっぽけな人間の癖に馴れ馴れしくて、ずけずけと人の心に入り込んで……あむ」

 

「ふふ、魔力から何もかもが魔術師として三流で、阿呆みたいに真直ぐな事しか取り柄が無いのに……あむ」

 

「……なんで」

 

「なんで……」

 

「血だけはこんなに美味しいのかしら_____!」

 

「____ぁ……」

 

その二人の言葉を最後に、意識の糸がプツンと切れたマスターはそのまま動かなくなってしまう。 目もうつろであり、宙を彷徨ってしまっている。

 

「……あら? 落ちてしまったみたいね。 ふふ、だらしない顔」

 

「メドゥーサとは違って長く持たないのですね。 まぁ、でも良いでしょう。 また次があるんですもの」

 

「そうね、今度はメドゥーサも混ぜて飲み比べをしてみましょうよ」

 

「あぁ、それは良いわね。 うふふ……次が楽しみね、(エウリュアレ)

 

「ええ、(ステンノ)。 次はもっと可愛がってあげましょう……うふふ」

 

「うふふふふ……」

 

 

 

 

 

「_______!!!」

 

「ひゃっ……」

 

声にもならぬ声を上げながら飛び起きようとするマスター。 誰かから押さえてもらわなければベットから転げ落ちていたことだろう。

 

「お目覚めになられましたか、マスター」

 

気付くとマスターはメドゥーサからベッドで膝枕をされていた。 柔らかい感触がマスターを安心させる、なんだかひどく怖い夢を見たいような気がするのだ。 こう、吸血鬼に襲われるような。

 

「いえ、申し訳ありませんマスター。 それは夢でありません」

 

「____?」

 

マスターが首筋に痒さを感じて、触ると、二つの何かの跡が残っていた。

 

「それは吸血痕です、姉様達から血を吸われたのです。 すみません、姉様達は私以外の血はあまり吸ったことが無いので加減がきかなかったのでしょう」

 

「______」

 

二人の女神からされたことを思い出し、なんだか恥ずかしくなってくるマスター。 いったいどんなことになってしまったのだろうか。

 

「私はお姉さまたちから躾として血を吸われるのですが、まさかマスターの血まで……申し訳ございません」

 

謝るメドゥーサにメドゥーサは悪くないと、笑いながら手を振るマスター。 何時までも膝枕をしてもらっては悪いと思い、起き上がろうとするがすこし頭がクラクラと揺れるようで上手く行かない。

 

「まだ起きない方が良いでしょう。 吸血はされる側に快楽を与える反面、体に負担をかけてしまいます。 その上魔力も吸われていますから……」

 

「_____?」

 

「姉様達ですか? マスターの魔力を吸ったおかげで気力十分、有り余る魔力を早く消費したいと何処かへ行ってしまいました。 まぁ下姉様はちょっとやり過ぎたと思って、自己嫌悪しているみたいですが……あぁ、それとこれは上姉様からの伝言です『もう少し、お肉を食べるようにしなさい。 ホホホ』……以上です」

 

「______……」

 

まぁそのおかげでメドゥーサの膝枕を味わえているのだから悪くないと言って、申し訳なさそうにしているメドゥーサが気にしないように笑うことにした。 メドゥーサは何も悪くは無いのだ。

 

「……貴方は優しいのですね、その優しさに甘えてしまいそうです」

 

「______?」

 

「……ふふ、そうですか。なら少し甘えてみましょう」

 

メドゥーサがマスターの目を見つめる。 魔眼殺しを付けているため石化はしないが、なんだが体が固まるような錯覚を受けるほど、珍しく綺麗な目だと感じた。 そのままメドゥーサの唇がマスターに近づいてくる。 マスターは心臓が高鳴る音を聞きながら、ゆっくりと目を閉じる。 そのままメドゥーサの唇が近づいていき______

 

 

「あむっ」

 

「____!?」

 

マスターの首筋に吸いつかれた。

 

「ところで、お姉さまたちによれば、まるで処女の血が混ざった様な独特な味がするそうですね……」

 

メドゥーサの目がギラギラと輝いていく。 マスターは忘れていた、メドゥーサも立派なゴルゴン姉妹の一人だということに。 メドゥーサの舌が首筋を舐めて、一番良い血がでるところを探り当てる。 というかメドゥーサの方が吸血に慣れているみたいで______!!

 

「頂きます……」

 

「__________!!!」

 

 

_____________マスターの明日はどっちだ……




ごめんなさーい! また長くなってしまいましたー!!! 許して。

今回はメドゥーサ三姉妹のお話。 女神にはご用心のようなお話です。

アステリオス君良いよね……三章はガチ泣きしました。

感想とネタのコメントをたくさんいただいて嬉しいです! もう天に上る気分です。ヘヴンズフィール。

誤字脱字の報告ありがとうございます。 あまりお世話にならないように努力はしていますが、どうにもどこかに誤字が……ヘルダイバー。

今回も長いですが、楽しんで見て頂けると嬉しいです。 では。

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