カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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モードレッド外伝 叛逆の騎士、もしくは乙女?

此処はおなじみ人理継続保障機関カルデア。 次の特異点に備え英霊たちと日々訓練に勤しんでいるマスターだが、毎日訓練ばかりでは体が壊れてしまう。 ムァスタアアアアア!筋肉は動かした分だけ休ませるのも大事なのです! とレオニダスも言っている。

 

「______……」

 

「フォーウ……」

 

なので今日のマスターがやるべきことはただ休むということだった。 ベットの上でだらけながら遊びに来たフォウ君をモフモフし、心も体もリフレッシュ。 正にマスターにとっては最高の休日の過ごし方だった……だったのだが。

 

「おい、今日は外には出んのか。 ネタをくれネタを、締め切りが近いのだ。 いや近かったと言うべきだが」

 

期待はあらゆる苦悩のもと。(Expectation is the root of all heartache.)と申しますが、実は吾輩明日で〆切りなのです。 いえ、実際には三日前でしたが、明日で限界なのでマスターにネタを頂戴せねば明日からはもやしとレオニダス殿が作ったなめこが主食になってしまいます」

 

こんな時に限ってマスターの部屋にはカルデア働かないサーヴァント選手権の上位に組み込む作家サーヴァント二人が邪魔しに来ていた。 というか来てもネタが無いらしく、詩的に時には感情的に愚痴っているだけなので本当に邪魔である。

 

「_____……」

 

「なに? そんなに愚痴るのだったら書くのを止めろ? 阿呆かお前は、 世の中の作家が皆楽しみながら書いていると思うな。 〆切りとネタ切れに悩みながら書き上げた後の何ともいえない快感が醍醐味なんだ」

 

苦労は楽しんでやれば、苦痛を癒す。(The labor we delight in cures pain)まぁ、悩むことも楽しみなのですよ吾輩達にとっては、ということでネタを所望します」

 

「フォーウ……」

 

だったらせめて自分の部屋でやってくださいと抗議の視線を向けるマスターとフォウ君。 ごもっともな意見であるが基本駄目人間もといサーヴァントな二人はそんな視線さえネタにしようとする。

 

「_______?」

 

「なんで〆切り前にやらなかったのか? 鬼かお前は、俺が夏休みの宿題を早めに終わらせる優等生に見えるか? こっちは夏休み最後の日どころか新学期始まってむこう一週間はまだセーフだ」

 

「時」は破産者である(Time is a very bankrupt.) 〆切りを守らない吾々ではなく、夏休みを長くし過ぎた編集者に問題があるのですな」

 

作家ってみんなこんなんだよねー!(フォーウ!)

 

フォウ君が完全に見下した様な鳴き声を上げるが、もちろん何と言っているか分からないがマスターだけは何となく何と言うとしているのかは伝わった。 どこかの花の魔術師のせいだろうか。

 

「_______隙ありっ!!」

 

「______!?」

 

もう作家サーヴァントたちを無視して昼寝でもしようと不貞腐れ寝を実行しようとしたマスターに一つの影が突然襲いかかった。 影はマスターを毛布で包むとその上に圧し掛かり、マスターを身動きできないようにして頭にチョップをした。

 

「はっはー! 敵将打ち取ったりー! このHPやらATKやらが上がりそうな秘宝は我がものだー!」

 

「フォー!?」

 

勝利の声を上げながら、フォウ君をライオンのキングばりに持ち上げるのはアーサー王伝説に出てくる叛逆の騎士、モードレッドであった。 カルデアでは訓練と非常時以外では鎧は脱ぐようにブーディカから決められており、今はホットパンツにTシャツ一枚の姿である。_なおカルナは鎧を剥ごうとするため、特例で免除されている_

 

「_______!!」

 

「フォー!」

 

「うぉっ! おのれ二匹そろって叛逆か! よい! ならばこのモー王が直々相手してやろう!」

 

やられてばかりで堪るかとフォウ君がモードレッドの顔に貼り付くと同時に、マスターが逆にモードレッドを布団に包もうとして、もみくちゃになる二人と一匹。 二人の笑い声と一匹の鳴き声が部屋に響く。

モードレッドは円卓の騎士の中で一番最初に召喚された騎士であり、マスターとの付き合いも長い。

マスターにとっては、気難しく、わがままで粗暴であるが、自分を信じ剣と誇りと命を預けてくれた、マシュとはまた違った側面のサーヴァント(相棒)

モードレッドにとっては、馬鹿で、弱っちく、むこう知らずではあるが、気難しい自分を受け入れ、叛逆の騎士を愚直なまでに信じ、そして全てを預けたマスター(相棒)

最初こそ反発しあう二人であったが、一緒に特異点を旅していきながら絆は絡まり、時にほどけて、そして更に強く絡まり、今ではマスターとモードレッドはお互いに信頼し合い、言いたいことを言える親友ともいえる仲であった。

 

「わはははは! くすぐるのは無しだって……」

 

「はぁ、見るからに幼児二人がじゃれ合う図だな。 つまらん、やるならプロレスごっこぐらいして見せろ」

 

「じゃじゃ馬ならしにしてはどうも幼稚すぎますな。 どちらかと言うと猪……うりぼうですか」

 

つまらなそうにじゃれ合う二人を見ている作家達に気付いて固まるモードレッド、どうやらマスターに奇襲するのに夢中で二人には気付いていなかったからしい。

 

「いつから……居やがった?」

 

「おまえの頭はジャガイモでも詰まっているらしいな、さすがジャガイモのマッシュが主食だっただけある! どちらが先に入っていたかも分からないほどのマッシュ頭だ!」

 

「うむ、劇こそまさにうってつけ(The play's the thing)! 良い喜劇役者になれましょう」

 

「ぶった切る……!」

 

「_______!!!」

 

クラレントを構えたモードレッドを慌てて止めるマスター。 これでもこの人たちは仲間なんです。 主に人間が見たくないところを嬉々として暴いてくるけど仲間なんです。 働かないけど、この頃マスターにコーヒーどころかシチュー作らせたりしてるけど仲間なんです。

 

「そもそもうら若き男女がベッドでまさぐり合ってると思ったら、その実は幼子たちの戯れですと来た! これではまさに話にもならない!」

 

「純粋すぎる関係大いに結構ですが、どうもこう、袋とじ開いたらなんの変哲もないピンナップだった時のがっかり感ですな、一種の詐欺でしょう」

 

「止めるなマスター。 此処で切った方が人類のためになる」

 

「______!!」

 

「ドフォー!?」

 

女と言う単語に更に熱が付いたのか、もはや振り上げながら作家達に近づくモードレッド、フォウ君も加わって必死に止めているが、当の作家たちは顔色変えずネタを探している。

 

「ったく、早く出ていきやがれ」

 

マスターとフォウ君の必死の説得により何とか怒りを鎮めるモードレッド、煽りを任されれば右出る者はいない作家二人と沸点が低いモードレッドとの組み合わせは火薬庫に火種を投げ込むことと同義である。

 

「言わなくとも出ていくとも、こう五月蠅いと書けるものも書けん」

 

「そうですな、ではリア王じゃなかったリア充のマスター。 じゃじゃうりぼうならしもほどほどに……」

 

「出てけー!!」

 

ダメ人間二人を蹴りだすモードレッド、これでせいせいしたと溜息を吐きながらベッドに戻ってきた。 マスターは苦笑するばかりである。

 

「ったく、なんだか疲れた……誰が幼稚だってのあいつだってガキじゃねーか」

 

「______」

 

「あぁ? 中身はおっさん? くくっ……確かにな! さてと、じゃあ星のフォウ争奪戦再開といくか! とーりゃー!!」

 

「_____!?」

 

マスターに布団と共に飛びかかるモードレッド、まだまだ勝負はついていなかったらしく、またフォウ君をかけた戦いに火蓋が切られた。 今度はアンデルセンが言ったようにプロレス技も混ざり合い、巻き込まれたフォウ君はもうヘトヘトであった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……諦めろぐだぐだ王、マウントを取った、地の利を得たぞ!」

 

「___、____!」

 

どれくらい長い時間続いたのだろうか、二人ともいつの間にか意味も終わりもない遊びに熱中し、ベッドのシーツはぐちゃぐちゃ、布団もしわくちゃになってしまい、枕からは羽が飛び出ている。 フォウ君の毛並もくしゃくしゃで部屋隅っこで不貞腐れて寝てしまっている。 この光景をエミヤ達オカンが見たらさぞ雷が落ちるだろう。

 

「ふふ……さっさと負けを認めるんだな」

 

マスターの上に乗っかりながら勝利を確信した笑みで見下ろすモードレッド、さすがは直感スキル持ち、マスターの攻撃を華麗に避けながらクラレント(枕)をマスターの頭部へと打ち込み、ふらついたところを抑え込んでの勝利であった。

 

「______……」

 

「良し良し、貴様は捕虜として丁重に扱ってやろう! ……あー疲れた……」

 

流石にモードレッドには敵わないと、笑いながら敗北を認めるマスター。 モードレッドもさすがに疲れたのか、マスターの上へと倒れ込む、二人とも汗をびっしょりと掻いていて息も荒い。

 

「ん……良く見るとお前ってさ、綺麗な目してるよな」

 

ふとモードレッドとマスターの目が合うと、そのままモードレッドはマスターの目を見つめた。 青玉(サファイア)を思わせる様な淡い青色の瞳がモードレッドを捉え、モードレッドももっと近くで見ようと、どんどんと顔を近づけてくる。

 

「……_____」

 

「うん? オレの目も? そ、そうかな……」

 

同時にマスターもモードレッドの吸い込まれるような翡翠の様な美しい緑色の目に惹かれていた。 結果二人とも目を見つめ合ったまま顔を近づけていく。

 

「……」

 

「……」

 

二人とも、一言もしゃべらずに顔だけが近づいていく。 妙な雰囲気にモードレッドの直感が「ダメよ」と警鐘を鳴らしているが、なんだか止まらない。 そして二人の顔がどんどんと近づいていき__

 

「……いって」

 

「_____っ」

 

お互いの鼻先がぶつかった。 なんだか二人とも間抜けみたいで二人して無邪気な子供のように笑い合う。 それでも密着した体は離れようとしなかった。

 

「……んっ」

 

そして先に唇を奪ったのはモードレッドだった。 勢いが付きすぎて歯がぶつかりお互い少し涙目になるが、そのまま深く口づける。 まるで人工呼吸の様な深いキスだった。

 

「んむ……ぷはっ……」

 

「______」

 

「ん? ……んんっ」

 

息が続かなくなってモードレッドが口を離したところで、次はマスターから口づけをした。 モードレッドとは逆に触れるだけのキスだったが、熱い唇の感触がモードレッドの体を火花のようにつらぬいた。

 

「はぁ……」

 

「_____……」

 

熟した果実の様な甘ったるい匂いが二人の鼻をくすぐる、モードレッドの直感が警鐘が鳴りやまないがそんなものはまるで聞こえていないようだった。 目が蕩ける、また二人の顔が近づいていき__

 

「あ、あのう……」

 

ドアから聞こえた声によって、勢いよく離れた。

 

「うひゃああ!? 白い父上!? 」

 

「_____!?」

 

見れば、花の少女騎士であるアルトリア・リリィがアップルパイを手に持ちながら、顔をゆでられた蛸みたいに真っ赤にしながら部屋の入り口に立っていた。 なるほど果実の匂いはアップルパイであったか。

 

「い、いやですね、私、エミヤさんと一緒にパイを作りまして、そのあの、おすそ分けしようとおもって、その、ドアをノックしても返事が無かったので、あのそのあのえっと……ごめんなさーい!!」

 

丁寧にアップルパイを置いてから部屋から走り去るアルトリア・リリィ。 荒れたベッドの上で汗だくの二人が口づけしていたらそれはそう思うだろう。

 

「えっと……オレはなにを…し……て……」

 

冷静になって、今までの事を振り返るモードレッド。 たしかマスターと遊んで、目が気になって、見つめ合って、その後は……あとは……

 

「……くられんと、どばー!!」

 

「______!?」

 

鼻から勢いよく魔力が奔流するモードレッド。 いまさら自分がとんでもないことをしたことに気付く。

 

「お、おれおれおれ! にゃー!? にゃー!? 」

 

解読不可能な事を言いながら脱兎の如く部屋を飛び出していくモードレッド。 一人残されたマスターは自分はとんでもないことをしていたのではないかと一人顔を真っ赤にしながら枕へ顔を埋めた。

 

 

 

「先輩はモードレッドさんと喧嘩でもしたのですか?」

 

「____?」

 

 

それから数日後、カルデア食堂でマシュと食事をしながら、マスターは曖昧な返事をした。 この頃モードレッドの様子というとそれはそれは可笑しいものであった。

マスターと出会うと逃げ出し、直感スキルを駆使して出会わなくても逃げ出す。 その癖して他のサーヴァントがマスターといると不機嫌になり、何かあったかと聞かれると顔を真っ赤にして怒り出す。 誰がどう見ても二人に何かがあったのだが、二人に訊いても頑として口を開かない。 なので近頃のカルデアの奥様方の噂はそれで持ちきりであった。

 

「もしそうだったら早く仲直りすることを推奨します。 先輩たちが仲たがいしていると私も悲しくなります」

 

「_____……」

 

「喧嘩はしていない? しかしながらこの頃のモードレッドさんの行動は先輩に対して冷たくありませんか?」

 

マスターからしてみれば、どうやって仲直りなんてすればいいか分からなかった。 そもそも喧嘩なんてしていない、だが喧嘩をしていないからこそこっちが謝ったら済むという問題ではなかった、それに話そうとしてもあっちはすごい勢いで逃げていくので言葉を交わすこともできない。

 

「____……」

 

マシュに気付かれないように溜息をつく、何故あんなことをしてしまったのかマスターは今でも分からなかった。 マスターからしてみればモードレッドは一緒に馬鹿やるような相棒であり、そんな感情を抱いたこともなかった。 そもそも女扱いをすると怒る。 しかしあの時はなぜか二人ともそんな複雑な思いなんて欠片も無くて、ただ口を塞いでいた。 一体どうして、頭の中で様々な感情の糸が絡まり合って頭を重くする。

 

「ふん、幼児が成長したか。 それでも小学生低学年ぐらいの成長だが、その感情を知るには十分な成長だろう」

 

とそんなマスターの横にアンデルセンが座ってきた。 手には原稿とコーヒーを持っている。 またネタ探しだろうか?

 

「_____?」

 

「うん? 〆切り? 安心しろ、これは来週分だ。 お前たちの砂糖よりも甘ったるい状況を見たらネタには困らん」

 

「アンデルセン先生? 何を言って……」

 

「一緒に居過ぎて、これが当たり前と思っていたんだろう? だが一緒に居過ぎて、普通に過ごしていれば当たり前に思う感情も無くしている。 阿呆め、男だぞお前は。 そしてあっちは女、こうなるのは必然とも言える。 むしろ今までこうならなかったのが奇跡なのだ。 お前が今感じている思いは何だ? 面倒な物全部取っ払ってそれだけ感じてみろ」

 

さすがにアンデルセンには御見通しだったらしい、少し説教じみた言葉を聞いて、マスターの頭の中で絡み合っていた様々な感情の糸が解けていく。

 

「ほう、気付いたか。 そうだその感情だ。 いいぞ、低学年から初心な中学生までには成長したらしい」

 

「______」

 

「礼を言うぐらいならコーヒーの一つや二つ持ってこい」

 

「あの、お二人とも言ったい何の話を……」

 

「______!」

 

「仲直りする方法を思いついた?」

 

 

 

 

誰もいない廊下でモードレッドは荒れに荒れていた。 渦巻いた感情が胸を突き破ろうとして何度も声を上げる。 マスターに会おうと思うと胸が高鳴る、顔を思い浮かべると顔が熱くなる。 他の奴といるだけで胸がざわつく、あの笑顔が誰かに向けられるだけで頭に血が上る。 だが足はマスターを見るたびに遠くへと向かってしまう、なんだか顔を直視できない。

今まで自分が感じたことがない感情に戸惑い、それがモードレッドを苛つかせる。

 

ああ、私の勘が当たってしまった!(my prophetic soul!)なるほど、純粋さ故にそれに気付いても感情のコントロールが効かないのですな。 まるで生まれたての赤ん坊がそのまま大きくなってしまったかの様……」

 

「今のオレは一度キレたら制御できんぞ」

 

すると、モードレッドに今、会うとアウトなことになること間違いなしなサーヴァントツートップの一人、シェイクスピアが声をかけてきた。 こいつを見ても殺意しか湧かないのに、なぜアイツは違うとさらにモードレッドはさらに困惑する。

 

「それは怖い。 ですがこうやって何時までもうじうじとされるのは吾輩としても目も当てられませんので」

 

「オマエ斬られたいのか?」

 

芝居はしまいまでやらせておくれ。(Play out the play.)とりあえず、最後まで話をお聞きなさい」

 

「……早く済ませろ」

 

クラレントを下ろし、話だけは聞いてやろうと壁に寄り掛かる。 だがクラレントは放さない、もしもシェイクスピアの話がどうでもよかったらその場で叩き切るつもりである。

 

「単刀直入に言いましょう、生まれたてのじゃじゃ馬よ、貴女は今やっと恋を知ったのです」

 

「……はぁ?」

 

「貴方方は、当たり前のように常に共に居たせいで、当たり前に芽生える感情に気付かなかったのです。 貴方方はなんだ? マスターとサーヴァント。 ふむそうでしょう、では男と女とは思わなかったのですか? こうなるのは当たり前なのです。 恋は目ではなく心で見るもの。(Love looks not with the eyes but with the mind. ) 貴方達は相手をそういった心で見ることをしなかった」

 

「お前一体何を言って……」

 

「彼からの接吻を受け、目は蕩け、天にも上るような気分で呆けていた。 それが貴方なのです」

 

モードレッドの顔がどんどんと赤くなる、彼女の直感がまたもや「ダメよ」と警鐘を鳴らす。 次の言葉を聞いてしまったら自分は制御できなくなる。

 

「そうです、今の貴女はなんとも簡単な存在」

 

「止めろ」

 

「何処にでもいる」

 

「止めろ!!」

 

弱きもの、汝の名は女なり。(Frailty, thy name is woman.)

 

モードレッドのメーターが振りきれる。 最早誰にも止められない、クラレント片手にシェイクスピアに飛びかかる。 首を狙った一閃は容易に彼の首を胴体から離すだろう。

だがシェイクスピアの体は霧のように消え去る。 キャスターによる幻影だ。

 

「貴女は認めるぐらいなら死んだ方がマシだと考えるでしょう、ならばさあ、お嬢さん、死んで生きるのです。(Come, lady, die to live. )明日への一歩は昨日との決別! さらばですさらば……あ、メディア殿、もう通信切ってもらっても良いですかな? このままじゃかっこつか」

 

声だけ残して消え去っていくシェイクスピア、残されたモードレッドは行き場のない怒りを壁にぶつける。

 

「糞がっ! 言いたい放題言いやがって! 自分が女だってことぐらい知ってんだよ! くそっ! くそっ! 」

 

怒りを紛らわせるように壁を何度も殴る、だがシェイクスピアの言葉はモードレッドに渦巻いていた謎の感情の正体を明らかにさせた。 怒りも冷めていくにつれて別の感情がモードレッドを熱くさせる

 

「ったく、死んで生きろだ? こっちは一回死んでるっつーの……あーもー!!」

 

頭を掻き毟りながら、吹っ切れたように声を上げるモードレッド。 気持ちが分かったのならば、後は行動しかない。

 

「男か、女か……生きるか死ぬか、それが問題だ。(To be, or not to be: that is the question)ってか、ったく……」

 

 

 

マシュと食堂から帰ってきたマスターがマイルームの扉を開ける。 仲直りというか関係を改善する方法は見つけたが、肝心のモードレッドが逃げてしまうのでどうしようか考えていたマスターだがどうもいい方法が思いつかない。 いっそアルトリアに頼んでみるかと考えていると、ふとベッドの布団が妙に膨らんでいるのに気付いた。

だがマスターは天井を見る、これが清姫や頼光だった場合、毛布は囮で自らは天井に張り付いていることが多いからである。 もはやホラー映画の類だが警戒を怠るとマスターはホラー映画より酷い目にあうのだ。 だが天井には誰もいない。 ならば毛布に潜り込んでいるのは誰なのだろうか、警戒をしながらベッドに近づいていく。

 

「____?」

 

「……隙ありっ!」

 

「_____!?」

 

ベッドに近づいた途端に、毛布の中から手が伸びてきて、マスターを毛布の中へと引きずり込んだ。 しまった、今回は天井がブラフであったかと後悔したが、何時まで経っても何もしてくる気配がない、マスターが不思議に思い目をうっすらと開けてみると。

 

「よ、よぉ……」

 

そこにはモードレッドがマスターに馬乗りをしながら照れくさそうに笑っていた。 毛布の中なので、熱がこもり、モードレッドの匂いも濃く感じられた。

 

「_____……」

 

「いや、そのなんだ……その……とぅ!」

 

言葉につまり、なんだか気恥ずかしくなってきた二人だが、突然モードレッドがマスターの首筋にチョップを当てる。

 

「よ、良し。 敵将捉えたり! 死にたくなければ……そのなんだ、オレの物になれ!……んだよ笑うなよ! このっ!」

 

「_____!!」

 

モードレッドらしいやり方に、堪え切れず笑い出すマスター。 よほど恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらマスターにチョップを繰り返す。 マスターにとっては可愛らしいが、なんせ相手はサーヴァントなのでちょっと痛い。

 

「______!」

 

「ふぁっ……」

 

マスターが謝りながらモードレッドを抱きしめる。 抱きしめられたモードレッドはさっきまでの勢いは何処に行ったのか急にしおらしくなり、マスターの背中に腕を回す。 お互いの体温が伝わって、心臓の音が聞こえてくるぐらい静かになった。 いつかのように、二人がお互いの目を見つめ合う。 こんなこと前は何とも思わなかった二人だが、今は心臓が飛び出しそうなぐらいに跳ねている。 そして顔がゆっくりと近づいていく。

 

「______」

 

「んむっ……」

 

口づけを交わす二人、軽く、触れるような、まるで無垢な子供同士が意味も分からず交わすようなキスである。

 

「あぁ……ちくしょう……やっぱり好きだ。 お前の事」

 

「_____?」

 

モードレッドが、照れくささをごまかすように、今度は深く、貪るようなキスをする。 モードレッドがマスターの半開きの口をこじ開ける様に舌を入れる、マスターの口に甘い香りが広がり、マスターも無意識に舌を絡ませる。 体を摺合せ、お互いの口内を貪る姿はまるで蛇が絡み合うようである。

 

「時々、自分が誰だかわからなくなる」

 

長い長いキスの後モードレッドは、自嘲気味に自分の事を口にした。

 

「女だと言われると怒り、しかし男扱いされても怒る。 自分でも分からなくなるんだ、オレは男になりたかったのか、ただ女だと侮られるのが我慢ならなかったのか」

 

「_____それ、は」

 

「でもな、マスター。 オマエの前だけでなら、お前と二人だけなら、俺は好きな方になれる気がするんだ。 伝承通りの叛逆の騎士でも、その、なんだ。 一人の女でも……どっちがいい?」

 

そういって顔を背ける、いろんな感情が混ざり合って、まともにマスターの顔が見れなくなるぐらい顔が赤くなっている。 元々女扱いされると殺気まで出す彼女だ、相当の覚悟をしたのだろうとマスターは察した。

 

「_そのままでいいよ」

 

「……え?」

 

しかし、マスターの返答は意外な物であった。 モードレッドからしてみたらどっちを選んでも、マスターの望む通りになれるはずだったのだが、そのままでいいと言われるとどうすればいいか分からなかった。

 

「女扱いされると怒って、男扱いしても怒って、アルトリアの悪口も褒めるのも駄目で、他のサーヴァントとレイシフトするだけでも不機嫌になるし、意見が違っただけで喧嘩になったりもするけど」

 

「な、なんだよ……そこまで言わなくなっていいじゃねぇか」

 

「でも、そんなところ全部含めてモードレッドなんだ。 男でもなくて女でもない、そんなモードレッドが俺は好きだ」

 

「んなっ……おまっ……」

 

金魚みたいに口をパクパクとさせながら、顔も金魚みたいに赤くなっていくモードレッド。 いまにも煙が出そうな勢いである。

 

「そ……んなことをマジな顔して言いやがって、此処まで悩んだ俺が馬鹿みてぇじゃねぇか……バカ、ばーか……」

 

「______?」

 

そのまま、マスターを抱きしめるモードレッド、マスターの胸に顔をうずめて、しばらくそのままでいると何かを決心した様に顔を上げてこういった。

 

「______オレを貰え」

 

「_____!?」

 

驚いて、モードレッドの目を見るマスター。 モードレッドはマスターを一時も逸らさずに見つめ続ける、どうやら本気らしい。 毛布の中の温度で二人は汗が伝っていた。 マスターがモードレッドの汗をぬぐうと、モードレッドは小さく頷く。

 

「ひゃう……」

 

嬌声と共に、毛布が蠢いていく____________

 

 

「うーむ! これで今週のネタには困りませんな。この目で見れないのは残念ですが、まぁこのさい音声だけでも筆は進みます」

 

「まったく、いったんはどうなるかと思ったが、一件落着だな。 マシュ嬢から恋愛小説のリクエストがあった時はさすがの俺も焦ったが、これで良し。うら若き少年少女の愛のお話程読者諸君に砂糖をぶちまけるネタはないからな。 いつかはくっつくだろうが、〆切りの問題上、煽って早めにくっ付けさせて正解だった」

 

隣の部屋ではダメ人間二人が壁に当てたコップを耳に当てながら執筆中であった。

 

「おぉ、全く若さとは良いものですな、しかしアンデルセン、貴方は人を愛さなかったのでは?」

 

「そうだ、俺は人を愛さん。 だが人の色恋沙汰を遠くから冷やかすのは嫌いとはいっていない」

 

「なるほど、最悪の性格ですな」

 

「お前も人の事が言えるか」

 

「これはこれは、まったくですな。 フハハハハハ!」

 

二人とも腕がせわしなく執筆に向かっている。 アンデルセンはタブレットで、シェイクスピアはタイプライターで驚異的な速さで文章を進めていく。 正に今の二人は絶好調そのものであった。 盗み聞きしながらではあるが。

 

「お二人とも楽しそうですね」

 

「げぇっ!? 聖処女!? 」

 

と、そこに現れたのはジャンヌダルクである、隣にはマルタと天草士郎までいる。

 

「さてと、マスターの部屋への盗聴行為は第一級カルデア法違反ということは知っていますよね?」

 

「も、勿論ですとも! いやぁ、そんなことをする女性サーヴァントたちには困りますな!」

 

マルタがボキボキと指を鳴らす。 普通に怖い。 普通に町娘モードである。

 

「アンタ達、現行犯逮捕という言葉は知っているわね?」

 

「勿論だ、タブレットあるからググっても良いぞ?」

 

部屋の入り口には強化解除に定評のあるツインアームビッグクランチ時貞が陣取っている。 これではもう逃げられない。

 

「どうでしょう、今回の犯行は罰金50万QP、またはナーサリーのお説教ルーム行きと言うことで」

 

「賛成」

 

「賛成です」

 

「早っ!? べ、弁護士を要求しますぞ!」

 

「却下します」

 

スピード裁判に定評があるルーラー裁判が幕を開け幕が下がる。 所要時間3秒程度である。

 

「さて、お支払い頂くお金はお持ちですか?」

 

「いやぁ吾輩、原稿料が来週でして」

 

「同じく、作家とは貧乏なものだ」

 

因みに円卓が金融業をしているが、あまりにも高い利子なので誰も利用したがらない。

 

「ならば、ギルティですね」

 

さ、さらば、私を忘れるでないぞ。(Adieu. Remember me. )

 

「言っている場合か」

 

三人の影が近づいていき。 二人の叫び声が_隣の部屋に聞こえないように_響いた。

 

 

そしてさらに数日後、おなじみカルデア食堂である。

 

「はい、旦那様(ますたぁ)あーん……」

 

「あらあら、こちらも美味しいですよ。 ほら母が食べさせてあげますから口を開けて」

 

二人の美女のバーサーカーに挟まれながら、昼食を食べさせてもらっているマスター。 何も知らない物が見れば羨ましがるだろうが、大体事情を知っているカルデアのメンバーは憐みの視線をマスターに向けている。

 

「おう、マスター。 またやってんのか?」

 

と、そこにモードレッドがやってきた。 今ではマシュも安心するぐらいすっかり仲直りしており、今まで通り親友の仲に戻ったと周りからは思われていたが___

 

「おい、口元、ご飯粒ついてんぞー」

 

「_____?」

 

とモードレッドが口元を指さす。 マスターが取ろうとするが、何処だか分からない。

 

「ったく、しかたねぇな。 取ってやるよ」

 

「_____?」

 

笑いながら、顔をモードレッドまで持っていくマスター、それは私の役目だというバーサーカーの熱い視線をモードレッドは華麗に無視している。 さすがは円卓の騎士である。

 

「ここだよここ。 んっ……」

 

「____!?」

 

「んなっ!」

 

「■■■っ!」

 

だが、モードレッドは指で取るのではなく、そのままマスターに口づけをした。 食堂が騒然となり、バーサーカーでさえも余りの出来事に固まる。

 

「……ぷはぁ。 取れた取れた」

 

「_____!?」

 

「あん? 決まってんだろ、オレはお前のもんだ。 そういう事はオレにさせろ」

 

そういって、呆気にとられるバーサーカーに向かって悪い顔で笑う。ただ一人しかいないマスターを誰にも渡すものか。 それは彼女による反逆の開始の合図であった。

 

__________モードレッドの明日はどっちだ。

 

 

 

 




長くなった!! ちょくちょく書きたいこと書いていったらものすごく長くなりました!
作家サーヴァントは登場させるにあたってすごい疲れました。 童話と名言集漁らなければいけなかったとは……
今回はモードレッドです。 ヤン(キーっぽい娘が)デレ(る姿)っていいよね……
しかし描写するにあたって自分にはそんな経験は無いので、少女マンガに頼っています。今回お世話になった少女漫画は動物の■医者さんでした。 おもしろい。

モードレッドに関しては、マスターの縁召喚で早めに召喚されたといった感じ。 メタ的に言うと、ピックアップで四章クリア前に引けた的な感じです。

感想ありがとうございます! 出来る限り返信していきたいですが、大体は最新話書き終った後に一気に返信しているので、遅れています。 ごめんなさい。
それでは今回は何時もより長めですが、楽しんで読んでいただけると嬉しいです。

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