カルデアの落ちなし意味なしのぐだぐだ短編集   作:御手洗団子

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夢の中で和服美人と、ローマと。

 その日、人類最後のマスターは頬に触れる優しい風と共に目を覚ました。

 見てみるとそこはいつも自分が就寝しているマイルームではなく、暖かい日差しと、心地よい風が吹く草原であった。

 そして頭には柔らかい感触、就寝しているときに使っているダ・ウィンチちゃん特製反発調整機能付き枕よりも心地よい感触と暖かさが両立されたような、いつまでも寝ていたくなるような、そんな心地よい感触がマスターを包んでいた。

 

「おはよう、いえ、おやすみなさいかしら? またこうして会えるなんて思ってもみなかったわね」

 

 愛おしそうに頭をなでられたことで自分が膝枕されていたことにマスターは気付いた。 顔を見ようと顔を動かすが、サーヴァントの顔には影がかかっており誰だが分からない。

 夢を共有しているということは自分と契約してるサーヴァントなのだろうが、夢の中だからだろうか声を頼りに思い出そうとしても記憶に霞が掛かったように上手く思い出すことができないでいた。

 

「ふふ、良いのよそのままで。 これは夢、ひと時の幻。 目もくらむ朝焼けが貴方の眠りを妨げるまで、こうしていましょう?」

 

 マイルームだから朝焼けは見られないのでは? というツッコミを最上の膝枕を手放したくないマスターはそっと飲み込み、頭を膝枕に沈ませる。 花の様な甘い匂いがマスターの鼻孔をくすぐり、その匂いをもっと味わうようにマスターは無意識にその膝の中に頭を埋めた。

 

「ふふふ、可愛らしい人。 何時もは貴方を遠くから見守るだけだけれど、今この時ぐらいは二人っきりで……」

 

 そんなマスターの髪を柔らかな手櫛で梳かしながら、そのままマスターの耳や頬へと手を伸ばし始めた。 すこしくすぐったく感じたマスターが身をよじらせると女性サーヴァントは嬉しそうにまた頭を撫で始める。

 

「あぁ、あの子もこんな気持ちだったのかしら……どちらかと言うとあの子はされている側だったけど」

 

 何かを思い出したのかサーヴァントはくすりと笑うと、マスターの耳に口を近づけ

 

「ふぅー……」

 

 と息を吹きかけた。 突然の刺激にマスターの体が震える。 何事かと女性のサーヴァントの方へ顔を向けようとするが、顔をがっちりとホールドされてピクリとも動けなかった。

 

「うふふ、やっぱりこそばゆいものなのね。 顔が真っ赤で林檎みたい……なんだかもっとしたくなってしまうわね」

 

 そのまま耳元で囁かれる言葉に、ますます顔を赤くするマスター。 なんだかマタ・ハリから時々受ける誘惑の様な、ブーディカから受ける甘やかしのような、それ二つを足して両儀さんを加えた様な、そんな今までにないタイプの女性のイタズラに、マスターの心臓はどんどん高く速く跳ねていった。

 

「えーっとこの後は、んー……」

 

「――!!?!?」

 

 サーヴァントはマスターの耳から離れ、そこから頬へと移動したかと思えば、そのままマスターへとついばむような口づけをし始めた。 しかもそれはどんどんと口の方へと近づいていくではないか。

 これはいささかこの人類最後のマスターには刺激が強すぎた。 何せ女性経験どころか、エスカレーター式で幼稚園から高校、そして進学予定だった大学まで全て男子しかいない男子校だったので異性と手をつなぐという行為自体、自分の母親としかやったことが無いという有様だったのだ。 なので貞操観念――実際は女性に向けて使われることが多い言葉なのだが――が高く、女性との接触も避けるような男であった。

 まぁ良く言うと純粋で硬派、悪く言うと只のヘタレなのである。

 

「――!!――――!」

 

 必死でやめる様に説得をするのだが、サーヴァントは微笑みながら受け流すだけ。 いや決して、決してマスターにとっては嫌なわけではないのだが、このまま女性に良いままにされて唇を奪われたとなってはたとえ夢の中であっても男の沽券にかかわる。 現実ではマリーのベーゼや静謐のハサンとの事故でいとも簡単に奪われてしまったが、あれは事故であると心の中で決めつけなかったことにしている。 所謂現実逃避と言うものだ。

 

「んっ、んっ。 大丈夫、誰も見ていないわ。 ここは貴方と私だけの世界だもの」

 

 そういって、サーヴァントの唇はついにマスターの唇の端へと到達した。 次の一回でマスターの唇へと到達するであろう。 マスターの顔はもはや赤くなりすぎて白が混じったピンクになっていた。 熟したリンゴと言うより桃である。

 

「……いいわよね?」

 

 少し恥ずかしがった声でマスターに尋ねるが、ヘタレなマスターは、良いよ。とも、駄目だ。とも言えずエリChanライブを前にした子イヌのように震えるだけである。

 その様子を見たサーヴァントはくすりと笑うとマスターの唇を奪うべくそのまま唇と近づけていき――

 

「例えそれが夢であれど、只々平穏な世界にて男女が睦ましく愛を語る……これもまたローマ」

 

 視界の端に映った異様な雰囲気を醸し出している筋肉ダルマに驚いて、唇は触れ合う寸前で止まった。

 

「……どなた?」

 

(ローマ)はローマであり、ローマは(ローマ)である。 ローマとは世界であり、そこで横たわる我が子もまたローマ。 そして根源(ローマ)の一部、お前もまたローマなのだ」

 

「ごめんなさい、良く分からないわ……」

 

 現れるはずのない夢の中に出てきた大男、ローマ帝国の神祖である最も偉大なローマの王ロムルス(ローマ)。 それはマスターにとっては(ローマ)の救いであったか、それとも目の前で御馳走を奪わんと来た地獄(ローマ)からの使者だったか。

 表情がめまぐるしく変わるマスターの表情からは読み取れなかったが、この夢が終わるのは確かな事であった。

 

「そう……この人を起こしに来たのね。 まだ朝にはなっていないはずだけれど?」

 

「確かに我が子(ローマ)が穏やかな朝日に包まれるまで時間はある。 だが我が子(ローマ)に余裕はない。 このまま夢の中で蜜月を過ごすのも良いだろう。 だがそうすると現実では非ローマ的な行いが起き、カルデア(ローマ)は混沌の炎と化すことになる」

 

「つまりマスターに何かが起きようとしているのね?」

 

 ロムルスの只ならぬ言い方に、マスターも女性サーヴァントも緊張していた。 自分たちがこうしている間にも世界を救うためのカルデアに危機が迫っているのだ、となれば今すぐにでも目を覚まして対処しなければならない。 もう少しだけ触れ合いたかった気持ちもマスターとサーヴァントにはあるにはあったが。

 

「――直球(ローマ)的に言うと、夜這いに来たある三人が扉の前で鉢合わせになっている」

 

「あら」

 

「――――!!!!」

 

 これでもかと言うくらいに女性サーヴァントにしがみつくマスター。 まるで起こさないでと言っているように女性サーヴァントの膝へ顔を埋めながら手はしっかりと背中に回してホールドしている。 どれだけ起きたくないか推して知るべし。

 

「無駄だ、お前もローマならば覚悟を決めローマ」

 

 ある意味惰眠貪ってる場合じゃねぇ状況なのだが、寝ても地獄起きても地獄ならいっそこのまま寝ていた方が心の平穏だけは保たれる、そう考えたのであろうがそうは問屋(ローマ)が卸さない、ロムルスはマスターの足を掴むとそのまま引きずるようにマスターをどこかへ連れて行ってしまった。 声にもならないマスターの泣き声が当たりに響いたが、あいにくここは夢の中、頼みの和服美人サーヴァントも困ったように笑いながら手を振るだけである。

 

「今度は起きているときに膝枕してあげましょう……」

 

 もはや遠くなったマスターの泣き声を聞き、起きた後のマスターの身を気遣いながら和服美人サーヴァントはそう思うのであった。

 夜明けは近い。

 

 

 

 




とりあえず、ふと思い浮かんだ状況を気の向くままに書いてみました。
文章が可笑しいとか、表現が間違っているなどの貴重なアドバイスはいつでもありがたく拝見させていただきますので遠慮なく罵倒ください。

ローマのシックスパックを枕にしたいと思う今日この頃であります。

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