ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態 作:ヤン・ヒューリック
ブラックゴーストは営利団体ではない。
この結論に我々が行き着いたのはミュータント計画、サイボーグ兵士開発計画、並びに未来戦計画を総合的に判断した為である。
厳密に言えば利益は相応に受け取るが、営利を受け取ることそのものが彼らの目的ではないということだ。
世界が滅びてしまった時の為に、そんな状況に陥ったとしても戦える兵士と兵器の製造。
そうした世界になっても、イニシアティブを取れる為というにはあまりにも大仰、というよりも荒唐無稽な発想は武器商人、というよりも営利団体とは思えない非合理的な回答にしか思えない。
戦争が経済を生み出す。ちまたで騒がれる軍産複合体や陰謀論に出てくる理論であるが、その理屈が正しければ日露戦争にて勝利した大日本帝国は多額の外債を抱えることもなかったはずであり、むしろ参戦していないWW1では参戦国であり当事者となった欧米の隙をうかがう形で「大戦景気」を生み出している。
尤も、終戦と同時にその景気も終了し、逆に昭和に入ってから取り付け騒ぎが起きるなどの大不況が待ち受けていた。
現在において、戦争が利益を生み出すというのは否定されている。生み出したとしても、極めて限定的で、なおかつ危険な投機にしかならない。
むしろ一定以上の均衡を保ち、互いに軍拡競争を行う方が、軍需産業としては戦争が起きるよりもありがたいのである。それでも、いわゆる軍需産業は正直好調であるとは言えない。
アメリカのフォーチュン誌で発行されているフォーチュン・グローバルという企業の売り上げや規模のランキングでは、ボーイングやロッキードなどの軍需企業よりも、ウォルマートやエクソンモービルなどの企業の方が上位にある。
ちなみに軍需の売り上げが上なのはロッキードではあるが、ロッキードはボーイングで規模と売り上げで負けている。ボーイング社の売り上げは民間用のエアバスがたたき出しており、軍需部門は正直、好調とは言えない。
やや脱線してしまったが、軍需は決して利益率がいいものではない。だからこそ、その利益率を上げる為にこうした計画を立案したという見方も出来るが、彼らほどの技術とテクノロジー、そしてそれを支える頭脳がこれほど非効率的な商売を考えるとは思えない。
そこで到達したのが、彼らの目的とは営利ではなく、未来戦計画になどに代表されるこうした計画そのものではあったのではないかという見解である。
つまり、未来戦計画という計画そのものが彼らの目的であり、それを実現に移す過程のサイボーグ、ミュータント計画はあくまで手段に過ぎなかったということである。
そう考えると、この非合理的な経営にも納得が出来る。初めから未来戦計画、つまり最終戦争という極限状態の中で、イニシアティブを取るという発想こそが目的ならば、彼らのスポンサーである国家や組織、企業を配慮することなど必要ない。
むしろ、今ある文明を滅ぼした上で世界を征服する。極限状態において生存可能な技術と、相応の軍事力があれば、世界を支配というのはそこまで荒唐無稽な話ではない。
やや強引な未来戦計画の動機、こじつけとも言ってもいい理由は、むしろ彼ら自身が望んでいた結末であったのである。