ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態   作:ヤン・ヒューリック

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第六章 ミュータント計画 後編

ピッグス湾での失態はミュータント部門にとって、有益な顧客を失い、超能力兵士というコンセプトそのものを危うくしていまうという最悪の結果をもたらすこととなった。

 

だが、これだけならばミュータント計画が最終的に頓挫することは無かった。軍事、情報関連では大きな失点となったが、それでも「科学のアウトソーシング」という収益源への影響は無かったからである。

 

だがその後もミュータントとなった人間達は、とにかく性格や思考が荒いものが多い。とある電気を操る能力を持つ少女などは、一々自販機を殴っては金を入れずに勝手にジュースを飲み、そして暴れるなどの行動が目立った。

 

サイコキネシスを持つ少年は、とにかく九歳以下の少女に対して性的な思考を抱く上に、凶暴性限り無く、最終的には処分せざるを得なかったという。

 

「ガモの術式には無理があった。というよりも超能力という力を得た代わりの代償が、とてもではないが許容できる範囲を超えていた。組織に対する忠誠を持てない者も現れたほどであった。無論、反逆者は即座に処分され、彼ら自身が新たな実験台となったほどだ」

 

これは当時サイボーグ部門にいたアイザック・ギルモア博士のコメントである。そもそも、ガモ自身、超能力が何かを代償にして得た力であることは自覚しており、その抜本的な改善を行うべく試行錯誤を繰り返していた。

 

「彼は間違いなく、当時表舞台にいればノーベル賞を取っていただろう。彼はオカルトや超常現象の一切を信じず、そして同時にそれらをまるで手品のタネを暴くがごとく調査していった」

 

彼の天才振りは、脳死であった自分の息子を救う、脳の原理についてを解明していたことなど多くの功績に現れていた。だが、皮肉にもそれが彼の研究を追い込むことになる。

 

これは超能力という力が、人間という生物に新たに生まれてくるもの、獲得できるものではなく、自らの能力の一部を犠牲にして生まれた副産物に過ぎないことを証明してしまったからに他ならない。

 

彼の息子であるイワン・ウイスキーは幼児のままで身体の成長を止めてしまうことを代償に、そして他の能力者達は身体能力は残す形で、代わりに理性や思考力、自制心などを犠牲にしてしまったことが兵士としての素養に致命的な欠陥が出てしまう。

 

ハイテク化する現代戦争においては、一兵士であっても相応の学力が求められる。地形を判断し、地図を読み、そして何よりも作戦目的を冷静に判断した上で自律的な行動を取らなければならない。

 

ただ人を殺すだけならば機械で代用することは造作はないが、それを支える人員は身体能力は無論のこと、相応の頭脳が求められる。アフリカや中東などの少年兵などはそんな必要は無いが、ブラックゴーストが顧客とする国家、組織は皆、そんなちんけなゲリラやテロ組織などではない。

 

そして、単なるゲリラ戦やテロでは何一つ金が動かないことも、ブラックゴーストは理解していた。彼らは様々な戦争をシュミレートしていたが、その中でもこうした現在における地域紛争、テロ戦争が経済低利益を生み出さない、生み出したとしてもあまりにも効率が悪いことを理解していた。

 

冷戦構造のように、互いに対立し合い、正面装備を調えていくことこそが、彼らにとって利益を得やすい構造であることは間違いない。

 

ミュータント計画が頓挫したのはこうしたシュミレートにより、利益を得る要素が存在しないということにある。

 

ここまで書くと分かると思うが、ミュータント兵士達を製造し、台頭していくことは、彼らが得意とする正面装備は無論のこと、レーダーやソナー、各種センサー類などが不要化していくことを意味する。

 

テレパシーや透視、そしてサイコメトリーなどが発達したとしても、彼らに得る利益は極めて限定的なものとなる。

 

兵士として使い物にならない上に、自らの得意分野である科学技術が不要化する可能性、この二つはミュータント計画を頓挫させる理由としては十分すぎた。

 

ミュータント計画は大幅に縮小させられたが、ガモは新人類を生み出す研究を行う代償と引き替えに自らの息子であるイワンをブラウンに引き渡すなどとの交換条件を受け、密かに主流部門から消えていた。

 

だがガモのもたらしたもう一つの商法、すなわち「非合法な科学のアウトソーシング」はブラックゴーストに多大な収益をもたらしたとされている。


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