艦娘達の戦後-at-   作:雨守学

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「「「「司令官、トリックオアトリート!」」」」

 

「随分可愛いオバケが来たな。鳳翔」

 

「はい、お菓子よ」

 

「わーい」

 

町内はハロウィンで盛り上がっているようだ。

家にも、第六駆逐隊他、駆逐艦が訪ねてきた。

 

「お菓子がいっぱいなのです」

 

「これからもっとお菓子を貰いに行くわよ!」

 

「行ってくるよ。司令官、鳳翔さん」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

「いってらっしゃい」

 

第六駆逐隊は他の家に入っていった。

 

「ハロウィンって、日本でも結構浸透してたんですね」

 

「俺が子供の頃には、こんなに大がかりにはやってなかったな」

 

見慣れた町をオバケが駆け巡っていた。

本物のオバケが紛れ込んでいても気が付かないだろうなと言うほどに、クオリティーの高い仮装もあった。

 

「提督さ~ん! 鳳翔さ~ん!」

 

「瑞鶴、翔鶴」

 

「にひひ、トリックオアトリート!」

 

「ほらよ。にしても、瑞鶴の仮装はいいとしても、翔鶴のそれ……」

 

「どう? エロいっしょ! サキュバスってやつだよ」

 

「わ、私は嫌だったんですよ? 提督」

 

「え~? 似合ってるよね? 提督さん」

 

「う~ん……似合ってはいるが……危なっかしいと言うか……目のやり場に困るな」

 

「もっと見ていいんだよ、ほれほれ~。おっぱい当てちゃうよ」

 

「ちょ、ちょっと瑞鶴、押さないで」

 

「お、おい! 瑞鶴!」

 

「にひひ~、逃げろー」

 

「ま、待ちなさい瑞鶴!」

 

瑞鶴が逃げるのを翔鶴が追っていった。

あんな格好でうろつくのは良くないと思うが……大丈夫だろうか……。

 

「提督?」

 

「ん、なんだ?」

 

「提督はああいう格好がお好きなんですか?」

 

鳳翔は、じとーっとした目で俺を見た。

 

「やっぱり、胸の大きい子の方がお好きなんですか?」

 

「別にそんな事ないが」

 

「でも、何だか喜んでいたようですし……目のやり場に困るだなんて、言われたことないですよ……私……」

 

「そりゃ、何度も見てるしな」

 

「提督!」

 

鳳翔は軽く俺の肩を叩いた。

 

「妬いてるのか?」

 

「……妬いてます。私は貴方の妻なんですから……」

 

「それ以上の特別扱いは無いと思うけどな」

 

そう言うと、鳳翔は顔を赤くした。

 

「それでも……私だけを見て欲しいんです……」

 

「我が儘だな」

 

「我が儘です……」

 

次の子が来るまで、俺たちは手を握って、寄り添っていた。

 

 

 

そんなハロウィンも終わりを迎え、町はいつもの顔を取り戻していた。

 

「今年のハロウィン、凄かったね」

 

「そうだな。お菓子もたくさん貰えてよかったな」

 

「うん」

 

響は、貰ったお菓子の包みを大切そうに仕舞った。

ハロウィンの包み、可愛いもんな。

 

「次はクリスマスか……。楽しみだな」

 

「響は何が欲しいんだ?」

 

「それはサンタさんにしか教えないよ」

 

ん?

 

「いい子にしてないと、サンタさんは来ないんだ。去年は来なかったんだ……。私がいい子にしてなかったから……。司令官、今年の私はいい子だったかな?」

 

ん?

ん?

 

「あ、あぁ……」

 

「そうか。もっといい子にしたら、もっといいものがもらえるかもしれないな」

 

そう言うと、響は嬉しそうに笑った。

 

 

 

「えぇ!? 響ちゃんが!?」

 

「そうなんだ……」

 

「それは……えっと……冗談じゃなくて……ですか?」

 

「本気っぽいんだ」

 

「響ちゃんがサンタを信じているなんて……。いや、でも、響ちゃんなりの気の遣い方なんじゃ……」

 

鳳翔はどうしても信じられないようだった。

まあ、そうだよな。

暁ならまだしも……。

 

「去年はどうだったんですか? 去年も一緒だったんですよね?」

 

「去年は忙しくてな……。クリスマスも暁の家で過ごしてもらったんだ。もちろん、プレゼントはあげたぞ。前から欲しそうにしてたものを……」

 

「直接ですか?」

 

「あぁ」

 

「だからサンタが来なかったと……。じゃあ、やっぱり本当に……」

 

「まいったな……」

 

「とりあえず、様子を見ましょう?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 

翌日。

朝早くから庭で音がして、目が覚めた。

鳳翔ではないし……。

 

「司令官、おはよう」

 

「響、何してるんだ? こんな朝早くから……」

 

「掃除だよ。落ち葉がたくさん散らばってたから」

 

「にしても、珍しいな。自分からやるなんて」

 

「少しでもいい事をしておきたいんだ。サンタさんに大きなお願いをするから」

 

「そ、そうか……」

 

「朝ごはん、作る時呼んでね。手伝うから」

 

「お、おう……」

 

 

 

「それであんなに……」

 

「やっぱり信じてるぞ……」

 

「でも、良い事じゃないですか。ああやって子供は成長していくんですよ」

 

確かにいい事だ。

だけど、そうじゃない。

 

「いや、ああまでされると、プレゼントがどれだけ大きなものなのか気になってな……」

 

「お金の事気にしてるんですか!? ケチですよ、提督」

 

「違う違う。用意できないくらいの物だったらと言う話だ」

 

「用意できないもの?」

 

「例えば……この世に無いものとか……」

 

「そんなもの……」

 

「例えばの話だ。とにかく、響の欲しいものが用意できなかった時、あいつの行いを考えると可哀想だろ……」

 

「確かにそうですけど……」

 

庭の方を見ると、響がせっせと掃除をしていた。

 

「響ちゃんに欲しいものを聞いたらどうです?」

 

「聞こうとしたんだが、サンタにしか教えないときたんだ」

 

「なるほど……」

 

「とにかく、どうにかして響の欲しいものを知らないといけない。サンタを信じている以上、夢は壊したくないしな……」

 

「分かりました。何とか聞き出そうと思います」

 

こうして、俺と鳳翔の戦いは始まった。

 

 

 

「鳳翔さん、何か手伝うことはない?」

 

「そうねぇ。じゃあ、毛糸を巻くの手伝ってくれる?」

 

「うん」

 

俺はそれを新聞ごしに見ていた。

 

「響ちゃんは、何か欲しいものとかないの?」

 

「あるよ」

 

「何か聞かせてくれない?」

 

「秘密。サンタさんに頼むんだ」

 

「えー、教えてくれてもいいじゃない」

 

「いくら鳳翔さんの頼みでも駄目なんだ。言ったら叶わないんだ」

 

そりゃ神社やお寺でのお願いごとの事だろ。

ごっちゃになってるぞ。

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

鳳翔、お前……。

 

「だから、ごめんね」

 

…………。

 

 

 

「駄目ですね……」

 

「ああ言われると、崩しようがないな……」

 

「意地でもサンタにしか教えないとなると、どうしたものでしょうか……」

 

サンタにしか教えない……か……。

 

「でも、響ちゃん、どうやってサンタに教えるのでしょうか……」

 

「だよな……」

 

一瞬の沈黙。

 

「「そうか!」」

 

鳳翔も同じように考えたらしく、お互いに目を合わせ、頷いた。

 

 

 

「響、ちょっといいか?」

 

「なに? 司令官?」

 

響は机を拭くのを止めて、俺の前に座った。

 

「サンタの件だが、お前、去年は手紙を出してなかっただろ」

 

「手紙?」

 

「そうだ。サンタに欲しいものを頼むときは、手紙を書かないといけないんだぞ」

 

「そ、そうだったのか……。てっきり、念じるものだと思ってた……」

 

響は相当ショックだったらしく、肩を落とした。

念じる……か……。

ああ、だからか……神社やお寺のお願い事とごっちゃになってたのは……。

 

「去年は書いてなかったから来なかったんじゃないか?」

 

「し、司令官……どうしよう……。私、サンタさんの住所知らないよ……」

 

「安心しろ響。俺はサンタと知り合いなんだ」

 

「え? 嘘だよそれは」

 

冷静な突っ込み。

なんでサンタを信じるのに、そこは信じないんだ。

 

「本当だ。人は誰でも親になると、サンタと知り合いになれるんだ」

 

「本当? 鳳翔さん」

 

「えぇ、本当よ」

 

「し、知らなかった……」

 

なんで鳳翔に確認を取った。

そして、なんで俺を信じずに鳳翔を信じた。

 

「……とにかく、そう言う事だ。今から書いた方がいいんじゃないのか? 何しろ、サンタの住んでいる所は遠いし、世界中の子供の手紙を見なければいけないからな」

 

「そうだね。分かった。手紙、書いてくるよ!」

 

そう言うと、響は自室へと向かっていった。

 

「やりましたね」

 

「ああ。サンタの方はどうだ?」

 

「連絡しておきましたよ。協力してくれるそうです」

 

「そうか」

 

しばらくして、響が自室から出てきた。

手には、欲しいものを書いた紙が握られていた。

 

「見ちゃだめだよ?」

 

「ああ、見ないよ。ほら、封筒に入れるぞ」

 

響の紙と一緒に、もう一枚紙をいれた。

 

「それは?」

 

「響がいい子にしていたかどうかを書いた紙だ」

 

「見せて!」

 

「これは子供に見せちゃダメなんだ」

 

鳳翔の目が俺を見ていた。

おそらく、「そこまでする必要が……」と言っているのだろうが、響は意外と用心深い性格してるしな。

 

「すぐにポストに入れに行こう!」

 

ほら来た。

 

「ああ」

 

 

 

響と二人、近くのポストまで来た。

 

「住所は見せないぞ。サンタの住所は秘密なんだ。大量のプレゼントを盗まれたらいけないからな」

 

「分かった」

 

「それじゃあ、入れるぞ」

 

そうして、ポストに手紙をいれた。

 

「サンタさん、来るかな?」

 

「どうかな? 響の行いによるんじゃないか?」

 

「悪く書いてたら、司令官と一生口きかないから」

 

「一生かよ……」

 

 

 

数日後、サンタからの連絡を受け、喫茶店へと足を運んだ。

 

「おう、待たせたか?」

 

「いえ、私も今来たところですから」

 

そう言うと、大和は微笑んだ。

 

 

 

「これ、手紙です」

 

「すまない……」

 

「いえ。でも、こんなに手の込んだ事するなんて、提督も案外子供ですね」

 

「それだけ響が用心深いという事だ」

 

手紙の住所は、大和の家のものだった。

 

「良いですね。クリスマス。大和も、提督とクリスマス、過ごしたかったなぁ」

 

「今年のクリスマスは家で過ごすんだが、お前も来ないか?」

 

「え? 悪いですよ」

 

「この件のお礼もあるし、鳳翔も大和を呼ぶつもりでいるぞ」

 

「でも……」

 

「もちろん、お前に相手がいないのなら……だけどな」

 

そう言うと、大和は小さく笑った。

 

「じゃあ、その時は」

 

「ああ、待ってるよ」

 

「待ってるって。それって、大和に相手が出来ないと言う意味ですか?」

 

「い、いや……そうじゃなくてだな……」

 

「なんて、ふふふ。それよりも、響ちゃんの手紙、読まなくていいんですか?」

 

「お、おう……そうだったな……」

 

開封し、響の手紙を取り出した。

 

「さて、何が欲しいのか」

 

手紙には、サンタへのメッセージと共に、欲しいものが書かれていた。

 

「なんて書いてあったんですか?」

 

大和に手紙を渡す。

それを見て、大和は目の色を変えた。

 

「これって……」

 

「ああ……」

 

窓の外では、落ち葉が風に煽られていた。

 

 

 

「響、サンタから返事が来たぞ」

 

「え!?」

 

「ほら」

 

「ありがとう。読んでくるね」

 

サンタからの手紙を持って、響は自室へと走っていった。

そして、数分してから、帰って来た。

 

「司令官……鳳翔さん……」

 

「どうした?」

 

「サンタさん……私の欲しいものはあげられないって……」

 

「あらあら……」

 

「いい子にしてたって書いたけどな」

 

「うん……。いい子にはしてたけれど、別のものにしなさいって……」

 

響は明らかに落ち込んでいた。

 

「……何を頼んだんだ?」

 

それは知っていた。

鳳翔にも、それを話した。

だけれど、俺はそれを響の口から聞きたかったんだ。

 

「司令官と鳳翔さんが……欲しいと思うもの……」

 

俺と鳳翔が欲しいもの。

何故それが響の欲しいものだったのか。

 

「司令官も鳳翔さんも……大人だから……サンタは来ない……。私を育ててくれたり……良いことをたくさんしてるのに……」

 

ああ、そういうことか……。

 

「だから……私は司令官と鳳翔さんが欲しいものをサンタさんの代わりにあげたいと思ったんだ……。でも……」

 

「響ちゃん……」

 

「響……」

 

「司令官と鳳翔さんが欲しいものって何? 書かなかったから、駄目って言われちゃったのかな……」

 

響は今にも泣きそうだった。

そんな響を、俺は抱きしめた。

 

「俺たちの欲しいものは、サンタは持ってないし、俺たちはもう持ってるんだ」

 

「……それはなに?」

 

「家族だよ」

 

「家族……?」

 

「ああ、お前も鳳翔も俺も、この世に一人しかいない。唯一無二の存在。それをサンタが持ってるわけないだろ」

 

「鳳翔さんも……同じ……?」

 

「えぇ」

 

「そっか……。そうだったんだ……」

 

「俺たちにとって、お前という存在が、最高のプレゼントなんだよ」

 

「司令官……」

 

「響……」

 

「……今のセリフは……流石に恥ずかしいよ……」

 

「な……!」

 

「私も恥ずかしいと思いましたよ」

 

「鳳翔……お前まで……」

 

そう言われると、なんだか恥ずかしくなってきた。

 

「くそ……」

 

赤面していると、響は俺の胸に顔を埋めた。

 

「響?」

 

「私も同じだよ……」

 

そう、小さい声で言った。

鳳翔にも聞こえたようで、響の頭を撫でた。

 

「ありがとう、響ちゃん」

 

「ありがとう、響」

 

響は恥ずかしそうに、顔を隠していた。

 

 

 

「別の欲しいもの、何か決まったか?」

 

「もういいんだ。サンタさんには頼まないようにする」

 

「え?」

 

「いつまでもサンタさんに頼る子供じゃいけないと思うんだ。いい子にするのは当たり前だしね」

 

「急に大人になったな」

 

「それに、私の欲しいものは司令官が買ってくれるから」

 

「まあ、そうだな」

 

「だから、去年みたいに、私の欲しいものを当ててね」

 

「え!?」

 

「あらあら、大変ですね、提督。もし当たらなかったら、響ちゃん、ショックで口もきいてくれないかもしれませんよ」

 

「嘘だろ……。何が欲しいんだ?」

 

「秘密」

 

「うぅ……」

 

鳳翔の方を見ると、面白そうに笑っていた。

 

「なんだその余裕は。鳳翔、お前も当てなきゃいけないんだぞ。家族だろ?」

 

「私はなんとなく分かってますよ」

 

「本当か?」

 

「でも、教えません。提督が選ばないと意味がないんです。ね、響ちゃん」

 

「うん」

 

「うーん……なんだぁ……?」

 

悩む俺の姿を、二人は笑ってみてやがった。

クリスマスまではまだ時間はある。

決して手の届かないものではないだろうが……。

 

「くそ、絶対当てて見せるからな!」

 

「楽しみにしてるよ、司令官。えへへ」

 

そう言って、響はにっこりと笑った。

 

――続く。


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