「ここが一番落ち着くわ」
「フフッ、自分の学園だもんね」
ルサールカと別れた俺達は、星導館学園へとやってきていた。
アルルカント、レヴォルフ、界龍、ガラードワース、クインヴェール・・・それぞれの学園に良いところがあったけど、やっぱり俺は星導館が一番好きだな。
そのことをしみじみと感じていると・・・
「あら、七瀬」
「シルヴィも一緒じゃない」
たこ焼きを食べながら声をかけてきたのは、一織姉と二葉姉だった。
「二人とも来てたんだ?」
「今日はオフなのよ。《星武祭》と違って怪我人はほぼ出ないから、治療院としては本当に助かるわ」
「ちなみに私はバリバリ仕事中よ。星導館の敷地内をパトロールしてるの」
「いや、パトロール中にたこ焼き食ってんじゃねーよ」
呆れる俺。
ホントに仕事してんのかな、この人・・・
「だってお腹空いたんだもの。こういう楽しみがなきゃ、やってらんないわよ」
「ほう・・・いい度胸をしているな、二葉」
「ぐふっ!?」
背後からした声に、二葉姉が変な声を出す。
現れたのは・・・
「ヘ、ヘルガ隊長!?」
「やぁ一織、しばらくぶりだな」
警備隊の制服に身を包んだ美女が、一織姉に微笑みかける。
この人って・・・
「君が星野七瀬くんだな?初めまして、ヘルガ・リンドヴァルだ。星猟警備隊の警備隊長を務めている」
「星野七瀬です。姉がいつもお世話になっております」
一礼する俺。
ヘルガ・リンドヴァルといったら、アスタリスクで知らない者などいないほどの超有名人だ。
二つ名は《時律の魔女》・・・自らの周囲の時間を操る能力を持っている。オーフェリア・ランドルーフェンと並び、アスタリスク史上最強の《魔女》との呼び声も高い。
この人が・・・
「ハハッ、そう畏まらないでくれたまえ。君とは一度会ってみたいと思っていたんだ」
「自分にですか?」
「あぁ。《鳳凰星武祭》を見せてもらったが、身体能力の高さを感じたよ。それに加えて《魔術師》の力・・・二つが組み合わさった時、君の力は強大なものとなるだろう。君にはまだまだ可能性がある」
「恐縮です」
あのリンドヴァル隊長にそう言ってもらえるのは、俺としても嬉しい。
と、俺はリンドヴァル隊長の後ろで縮こまっている人がいることに気付いた。
「谷津崎先生?何してるんですか?」
「・・・警備隊長殿の案内役だ」
いつもより覇気の無い声の谷津崎先生。珍しいな・・・
「あれ?そういや釘バットはどうしt・・・」
「うわああああああああああっ!?」
慌てて俺の口を塞ぐ谷津崎先生。リンドヴァル隊長の目が鋭く光る。
「釘バット?何の話だ?」
「何でもありません!こっちの話なんで!」
谷津崎先生は愛想笑いで誤魔化すと、俺に鬼のような形相を向けてきた。
恐らく、『余計なことは喋るな』ということだろう。よっぽどリンドヴァル隊長が怖いんだな・・・
リンドヴァル隊長は首を傾げたが、一転して二葉姉に呆れたような視線を向ける。
「二葉、今は勤務中だぞ。食事している場合か」
「も、申し訳ありません!」
ビシッと敬礼する二葉姉。隣では、一織姉も敬礼していた。
「も、申し訳ありません隊長!私がついていながら・・・」
「一織・・・お前はもう私の部下ではないのだから、そう硬くなるな」
苦笑するリンドヴァル隊長。
「全く・・・お前といい谷津崎といい、何故私に対してそんなに硬くなるのだ・・・」
「リンドヴァル隊長が怖いからでしょうね」
「七瀬!?」
「何言ってんのアンタ!?」
「死にたいのかお前!?殺されるぞ!?」
「谷津崎先生、もう恐怖を隠す気ゼロですよね」
思わずツッコミを入れてしまう俺。一方のリンドヴァル隊長は、なかなか興味深そうな表情をしていた。
「ほほう・・・やはり私は怖がられているのか?」
「威圧感がありますからね。それに加えて、リンドヴァル隊長は有名人ですから。要は皆、恐れ多くて緊張してしまうんですよ」
「なるほど・・・だがそういう君は、私に対してハッキリものを言うのだな」
「リンドヴァル隊長の場合、変に気を遣われる方が嫌なタイプかなと思いまして。気に障ったのなら申し訳ありません」
「フフッ・・・ハハハッ!」
愉快そうに笑うリンドヴァル隊長。
「面白いな君は。初対面でそんなことを言われたのは、君が初めてだ。流石は一織と二葉の弟・・・肝が据わっている」
「畏まった態度が苦手なだけですよ」
「ククッ・・・良いな、気に入った。卒業したら、是非ウチに入ってほしいものだ」
「前向きに検討させていただきます」
「おぉ、本当か?期待しているぞ」
リンドヴァル隊長は微笑むと、手を差し出してきた。
「私のことはヘルガでいい。よろしく頼む」
「俺のことも七瀬で。よろしくお願いします」
握手を交わす俺達。ヘルガさんは二葉姉に視線を向けた。
「さぁ、そろそろ行くぞ二葉。谷津崎、引き続き案内を頼む」
「は、はい!」
「了解です!」
「では七瀬、また会おう」
「えぇ。ヘルガさんもお仕事頑張って下さい」
ヘルガさんは笑いながら手を振ると、二葉姉と谷津崎先生を連れて人混みに消えていった。
「いやー、ヘルガさんって良い人だな」
「勘弁してよ・・・本当に心臓が止まるかと思ったわ・・・」
「流石ななくん、怖いもの知らずだね・・・」
一気に脱力する一織姉とシルヴィなのだった。
*****
「あー、疲れた・・・」
「ずいぶん歩いたもんね・・・」
ホテルに帰ってきた俺達は、ベッドでうつ伏せになっていた。
二日間で六学園全てを回るというのは、なかなかのハードスケジュールだよな・・・
「明日の最終日はイベントかぁ・・・一番疲れそうだな」
「だね・・・星露も何を考えているんだか・・・」
実は前々から星露に、最終日に行なわれるイベントに参加してほしいと頼まれていたのだ。
何でも『参加型フィールドシュミレーションバトル』とか言っていたが、詳細は当日まで内緒らしい。
怖いな・・・
「シルヴィは無理に参加しなくてもいいぞ?」
「ななくんが参加するなら、私も参加するよ。ちょっと興味もあるし」
そう言って笑うシルヴィ。なら良いけど・・・
「一度シルヴィアと話し合った方が良いんじゃないかしら?」
パイヴィの言葉が甦る。
「・・・なぁシルヴィ」
俺は起き上がり、姿勢を正した。
「俺達の関係・・・ちゃんと公にした方が良いと思うか?」
「・・・私はこのままでも別に」
「本当にそう思ってるのか?」
「っ・・・」
唇を噛むシルヴィ。
「俺には、そうは見えないんだけど」
「・・・怖いの」
シルヴィがポツリと漏らした。
「私が叩かれるのは良いの。でも、ななくんが叩かれるのを見るのは嫌なの・・・あの時みたいに・・・」
「シルヴィ・・・」
熱愛報道が出た時、俺はずいぶんと叩かれたからな・・・
『お前はシルヴィアにふさわしくない』だの、『二度とシルヴィアに近付くな』だの・・・
「本音を言ったら、私はちゃんと世間に事実を公表したい。私とななくんは付き合ってるんだって、胸を張って言いたい。でも・・・そのせいでななくんが叩かれるなら、今のままでいい。ななくんがいてくれたら、それだけで私は・・・」
「シルヴィ」
側に近付き、強く抱き締める。
「ゴメンな・・・辛い思いさせたな・・・」
「ななくん・・・」
「俺はシルヴィの側にいるから。もう手を離さないって、約束しただろ?」
優しく微笑む俺。
「叩かれることなんて、最初から覚悟の上だよ。何せシルヴィはトップアイドルなんだから、俺のことを快く思わない人がいたっておかしくない。っていうか、普通に考えたらそういう人の方が多いと思う。特に俺達の場合、報道が出るキッカケが悪かったからな」
《鳳凰星武祭》で俺が暴走した際、それを止めようとしてシルヴィが俺にキスをした。
ファンからしてみたら、そんなヤツとシルヴィが付き合うなど許容できないだろう。多くの人が交際に反対するのも頷ける。
それでも・・・
「たとえ叩かれても、反対されても・・・俺はシルヴィが好きだから。これからも一緒にいたいから。だから安心してほしい」
「・・・うん」
抱き締め返してくるシルヴィ。
「私も、ななくんの側にいたい・・・どれだけ反対されたって、この気持ちは絶対に変わらないから・・・」
「俺もだよ」
頷く俺。
「だから・・・学園祭が終わったら、今後についてきちんと話し合おう」
「・・・うんっ」
笑顔で頷くシルヴィ。
「ななくん、大好き・・・」
「俺もだよ、シルヴィ・・・」
お互いの唇が重なり合う。どうやら今夜も、あまり眠れそうにないな・・・
そんなことを思いながら、シルヴィと共にベッドへと倒れこむ俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
最近、マジでシルヴィがヒロインしてる件について。
シャノン「いや、今までがおかしかったでしょ。ヒロインなのに影が薄くて・・・」
本当にすまないと思っている(キリッ)
シャノン「あ、コイツ絶対反省してないな・・・」
あ、そうそう。告知が大変遅くなったのですが・・・
現在、『刀藤綺凛の兄の日常記』と二回目のコラボをしております。
シャノン「今回は綺凛・凛綺さんがシナリオを書いてくれたんだよね?」
そうそう。これがメッチャ面白いの。
自分が書いた七瀬視点の話も、『刀藤綺凛の兄の日常記』の方で掲載されております。
皆さん、是非読んでみて下さい。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」