エリオとノエルが案内してくれたおかげで、俺とシルヴィはガラードワースを色々と見て回ることができた。
途中でシルヴィが『ダブルデートみたいだね』と言った時の、エリオとノエルの反応といったら・・・二人とも顔を真っ赤にしてたっけな。
そんなこんなでガラードワースを後にした俺達が、次にやってきたのは・・・
「じゃーん!秘密の花園へようこそ!」
テンションの高いシルヴィ。そう、俺達はクインヴェール女学園に来ていた。
アスタリスク唯一の女子校とあって、外部の人達より他学園の男子生徒達が数多く見受けられる。
「自分の気持ちに正直な奴が多いってことだな」
「アハハ、確かに」
笑っているシルヴィ。
「っていうか、そろそろお腹空かない?何か買ってくるから、どこか座れる場所の確保をお願いしてもいい?」
「了解。買い終わったら連絡くれ」
「オッケー」
一旦シルヴィと別れ、俺は腰を落ち着けて食事できそうな場所を探す。
「んー、人が多いなぁ・・・」
「あ、あのっ!」
「ん?」
振り向くと、クインヴェールの制服を着た少女が立っていた。走ってきたのか、少々息を切らしている。
「えっと、俺に用かな?」
「はい!あの、星導館の星野七瀬さんですよね!?」
「うん、そうだけど・・・」
「うわー!やっぱり!」
目をキラキラ輝かせる少女。
「実は私、星野さんのファンなんです!」
「ファン!?俺の!?」
「はいっ!」
ブンブン頷く少女。
「同じナックル型の煌式武装を使う身として、星野さんを尊敬してまして!動きとか参考にさせていただいてるんです!」
「マジか・・・」
まさか俺みたいなヤツにファンがいたとは・・・ありがたいな。
「私、若宮美奈兎っていいます!その・・・握手して下さい!」
「お、おう・・・」
差し出された手を、恐る恐る掴む。少女・・・若宮さんは感激の面持ちだった。
「わぁ・・・!私、もう一生手を洗えないよぉ・・・!」
「いや、ちゃんと洗ってね」
何とオーバーな子だろうか・・・俺なんかと握手したくらいで・・・
「俺なんかで良かったら、いつでも握手させてもらうからさ」
「ホントですか!?ヤッター!」
大喜びの若宮さん。本当に変わった子だなぁ・・・
「あ、いました!美奈兎さん!」
「もうっ!探しましたわよ!?」
二人の少女がこちらへ駆け寄ってきた。一人は紫色のロングヘアの少女、もう一人は柔らかな金色の髪の少女だ。
「突然いなくなってしまって、心配したんですよ?」
「アハハ、ゴメンゴメン。星野さんを見かけたから、つい・・・」
「星野さん?」
そこで初めて、少女達が俺の方を見た。二人とも驚いた顔をしている。
「えっ、星導館の・・・」
「《雷帝》!?」
「どうも、星野七瀬です」
とりあえず挨拶しておく。すると二人も、俺に対して一礼した。
「初めまして、蓮城寺柚陽と申します」
「ソフィア・フェアクロフですわ。以後お見知りおきを」
「フェアクロフ?ひょっとして、アーネストの・・・?」
「あら、お兄様とお知り合いなのですか?」
お兄様って・・・え、妹!?
「マジか・・・アーネストのヤツ、こんな美人な妹がいたのか・・・」
「び、美人っ!?」
赤面してしまうソフィアさん。すると・・・
「貴方達、こんなところで何をしているのかしら?」
「さ、探したんだよ・・・?」
またしても新たな少女が二人やってきた。一人は緑色のロングヘアの少女、もう一人は薄紫色の髪の少女だ。
おぉ、続々とやってくるな・・・
「あら、貴方は・・・星導館の《雷帝》?」
「《鳳凰星武祭》でベスト八の・・・」
「どうも・・・ん?」
薄紫色の髪の少女をじっと見つめる俺。この子、どこかで・・・
「な、何・・・?」
「あぁ!ニーナ・アッヘンヴァルさんだ!」
「ふぇっ!?」
驚いている少女・・・アッヘンヴァルさん。
「ど、どうして私の名前を・・・」
「去年の《鳳凰星武祭》に出てたでしょ?《魔女》の能力が面白いなって思って、注目してたんだよね」
アッヘンヴァルさんは、《戦札の魔女》の二つ名を持つ《魔女》だ。
トランプの四つのスートを模した煌式武装を使用し、スートや数字の組み合わせで能力を変えられるという面白い力を持っている。
珍しかったので、俺もよく覚えていた。
「綺凛とも、『対戦してみたいな』って話してたんだよ。いやぁ、ここで会えるとは」
「で、でも・・・私はタッグパートナーの足を引っ張って・・・」
「そう?むしろアッヘンヴァルさんがいたから、あそこまで戦えたんだと思うよ?少なくとも、俺は試合を見ててそう思ったけど」
「っ・・・」
アッヘンヴァルさんの目に、みるみる涙が溜まっていく。
えっ・・・?
「うっ・・・うえええええん・・・」
「ちょ、何で泣くの!?」
うろたえる俺。その様子を、若宮さん達は何故か微笑みながら見ていたのだった。
*****
「へぇ、皆でチームを組んで《獅鷲星武祭》に出るんだ?」
「うん!チーム・赫夜っていうんだ!」
笑顔で答える美奈兎。
俺は五人に案内にしてもらい、人の少ない場所へと連れてきてもらっていた。シルヴィにはメールで連絡しており、食べ物を買い次第こちらに来ることになっている。
やはりどの店も混んでいるようで、少し手間取っているらしい。
「七瀬も《獅鷲星武祭》出るんでしょ?」
「まぁな。だから美奈兎達には負けられないわ」
「うぅ、強敵だなぁ・・・」
「そんな弱気でどうしますの!」
顔を顰める美奈兎に、ソフィアが喝を入れる。
「優勝を目指す以上、七瀬さんを倒さなくてはいけないのですよ!?もっと強気な姿勢を見せてくださいまし!」
「ソフィア先輩の言う通りよ。それに出場する以上、敵は七瀬のチームだけじゃない。どのチームが相手だろうと、油断なんて出来ないわよ」
緑色のロングヘアの少女、クロエ・フロックハートも頷いている。俺は思わず苦笑してしまった。
「ソフィアとクロエは手厳しいなぁ・・・まぁ正しいんだけども」
ちなみに俺は皆のことを、美奈兎・ソフィア・クロエ・柚陽・ニーナと名前で呼ぶようになった。俺が『苗字じゃなくて名前で呼んで』とお願いしたら、『じゃあ私達のことも名前で』となって今に至る。
ソフィアに関しては年上なので、最初は『ソフィアさん』と呼んで敬語を使おうとしたのだが・・・
『お兄様を呼び捨てになさっているのですから、どうか私のことも呼び捨てでお願い致します。敬語も不要ですわ』
とのことだったので、普通にソフィアと呼ぶことにした。
話してみて分かったのだが、どうやらソフィアはブラコンらしい。アーネストのことを『理想の男性像』と語るなど、すっかり心酔しているようだ。
アーネストが羨ましいかぎりである。
「フフッ、愛情の裏返しですよ。このチームのメンバーは、美奈兎さんの熱意に心を打たれて集まっていますから」
「美奈兎がいたからこそ、このメンバーが集まったんだよ」
柚陽とニーナがそんなことを言う。
話を聞いて驚いたのだが、柚陽は天霧辰明流の分家筋の道場の門下生らしい。つまり綾斗と同じ流派で、綾斗とも面識があるとのことだ。
ただ柚陽が得意とするのは、剣術ではなく弓術なんだとか。天霧辰明流って、槍術とか組打ち術とかホント幅広いよなぁ・・・
っていうか・・・
「何でニーナは俺の膝の上に乗ってんの?」
「落ち着くんだもん」
何故かニーナに懐かれた俺。ここに来る途中も、ずっと服の袖を掴まれていた。
何か懐かれるようなことしたっけ・・・?
「そうしていると、まるで兄妹みたいですね」
柚陽が笑いながら言う。
ニーナは俺の一つ下・・・高等部一年らしい。八重や九美と同い年なので、妹でもおかしくない・・・
ん?九美?
「・・・なぁニーナ、星野九美って知ってる?今年からクインヴェールの高等部に入学したから、ニーナと同学年のはずなんだけど・・・」
「知ってるよ。同じクラスだもん」
「まさかのクラスメイト!?」
何てこった・・・世間は狭いな・・・
「九美は有名人だよ?ウチの《冒頭の十二人》・・・序列七位だし」
「・・・もう嫌だ。何なのウチの妹達」
八重といい九美といい、知らない間に《冒頭の十二人》になってるんだけど・・・
入学早々順位上げ過ぎだろ・・・って、俺が言えたことじゃなかったわ。
「九美ちゃんのことなら、私達もよく知ってるよ」
美奈兎がそんなことを言う。
「チームメイトだし」
「・・・はっ?」
俺が間の抜けた声を出した瞬間・・・
「七瀬兄さあああああああああああああああんっ!」
「うおっ!?」
俺の名前を叫びながら、こちらへ全力で走ってくる人影が一つ・・・間違いない。
「九美!?」
「九美ですよおおおおおおおおおおっ!」
俺の目の前で急停止する九美。
「もう!来てたなら連絡して下さいよ!」
「この間連絡したら、『十萌ちゃんと万理華さんが来れないなんて・・・もう学園祭なんてどうでもいいです・・・』とか言ってたじゃん。てっきり参加しないもんだと・・・」
「兄さんの為なら駆けつけるに決まってるじゃないですか!柚陽先輩から連絡をもらってビックリしましたよ!」
「柚陽が?いつの間に・・・」
「ここに来る途中で少々」
ニッコリ笑う柚陽。マジか・・・
「それよりニーナちゃん?何で兄さんの膝の上に乗ってるんですか?」
「七瀬の膝の上は落ち着くから」
「ズルいです!私も乗ります!」
「いや、重量オーバーだわ」
「私そんなに重くないですよ!?」
「高校生の女子を二人も乗せられるわけないだろ。一人で限界だ」
「ニーナちゃん!代わって下さい!」
「嫌だ」
「なっ!?じゃあ勝負です!兄さんの膝に座る権利を賭けて!」
「望むところ」
九美とニーナが睨み合う。って、そんなことはどうでも良くて・・・
「・・・なぁ、九美がチームメンバーってマジ?」
「マジよ」
クロエが答えてくれる。
「昨年の段階で私達五人は揃っていたんだけど、最後の一人が決まらなくてね。それならいっそ、今年入学してくる新入生に賭けようって話になったの。それで今年から高校部に上がったニーナが連れてきたのが、彼女のクラスメイトになった九美だったのよ」
「最初は私達も彼女の実力が分からず、少々戸惑っていたのですが・・・ある出来事をキッカケに、彼女をチームに勧誘したのです」
「ある出来事?」
ソフィアの説明に首を傾げる俺。
「えぇ。七瀬さん、昨年の《鳳凰星武祭》のニーナさんのタッグパートナーを覚えていらっしゃいますか?」
「・・・ゴメン、ニーナしか覚えてない」
「サンドラ・セギュールさんですわ。《鳳凰星武祭》の後、純星煌式武装の使い手になりまして。序列七位・・・《冒頭の十二人》になったんです」
「へぇ・・・って、あれ?序列七位ってまさか・・・」
「えぇ。九美さんはサンドラさんを倒して、序列七位になったんですよ」
勝負を始めた九美とニーナを見て、笑みを零す柚陽。
「サンドラさんは、ニーナさんのことを自分の手駒としか見ていませんでした。《鳳凰星武祭》で負けたことをニーナさんのせいにして、容赦なく切り捨てたんです。サンドラさんが組んだ《獅鷲星武祭》に出場するチームに、ニーナさんは入れませんでした」
「それでニーナには私達のチームに入ってもらって、サンドラのチームと模擬戦をやったの。結果は私達の勝ち・・・ニーナも吹っ切れた顔をしてたわ」
クロエも二人を見て微笑んでいる。
「でもサンドラは、その時のことを根に持っていてね。私達が訓練している時に噛み付いてきて、ニーナのことをバカにしたのよ。その時私達と一緒にいた九美が、サンドラにキレて決闘を吹っ掛けたの。結果は九美の圧勝、サンドラはボコボコにされたわ」
「いや、ボコボコって・・・」
「比喩表現じゃなくて、本当にボコボコにされたのよ。九美の拳や蹴りが、何度もサンドラの顔面や腹部に入って・・・正直、ちょっとサンドラが可哀想になったわ」
「あれなら校章を破壊できたと思うんだけど・・・意識消失まで追い込んだからね」
クロエと美奈兎の説明に戦慄を覚える俺。アイツ怖いな・・・
「でも、おかげで九美ちゃんが強いって分かったし・・・何より、九美ちゃんは優しいなって思ったよ。相手が《冒頭の十二人》だろうが、友達をバカにされたら絶対に黙ってない・・・そんな九美ちゃんだから、一緒に戦いたいと思ってチームに誘ったんだ」
「そうですね。九美さんと出会ってから、ニーナさんの笑顔も増えましたし。ニーナさんがあんな風にじゃれ合うのは、九美さんだけですよ」
美奈兎の言葉に頷く柚陽。そっか・・・
「・・・やるじゃん、九美」
兄として誇らしく思う俺なのだった。
二話連続投稿となります。
シャノン「ここで『クインヴェールの翼』と絡ませてきたね」
そうそう。九美はチーム・赫夜のメンバーということにしました。
早く『クインヴェールの翼』の続きが読みたいなぁ・・・
シャノン「そういえば、私は《獅鷲星武祭》出るの?」
・・・気が向いたら出すわ。
シャノン「それ絶対出ないパターンだよねぇ!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「私に出番をくれええええええええええっ!」