「ここはもう見慣れてるわ」
「ずっと修行してたんだもんね」
そんな会話をしながら歩く俺とシルヴィ。
レヴォルフの次は、界龍第七学院へやってきていた。四ヶ月もここにいた為か、星導館のような懐かしさすら覚える。
「八重ちゃんには連絡したの?」
「あぁ。生徒会の手伝いが終わり次第来るってよ」
八重は界龍に入学後、正式に星露の弟子となったらしい。星仙術には興味を示さず、迷わず《木派》に所属することを選んだようだ。
《水派》のトップであるセシリーは凄く残念がっていて、俺のところに半泣きで連絡してきたっけな・・・
一方《木派》のトップである虎峰は喜んでおり、ずいぶん八重のことを目にかけてくれているそうだ。八重が生徒会に入ったのも、書記を務めている虎峰のススメがあったからみたいだし。
そんなことを考えていると、シルヴィがニヤニヤしながら俺を見ていた。
「ん?どうした?」
「八重ちゃんと趙くん、良い感じみたいじゃない。このままくっついたりして?」
「そうなったら、俺としては嬉しいけどな」
「どうしたのななくん!?シスコンのななくんにあるまじき発言だよ!?」
「お前は俺を何だと思ってんの?」
シスコンなのは認めるが、妹の恋愛を邪魔する気は流石に無い。
どっかの妹命みたく、妹と良い感じになっている男を抹殺しようとも思わないしな。
まぁ、八重に相応しくない男なら話は別だが・・・
「虎峰は俺の親友だから。アイツなら、可愛い妹を安心して任せられるよ」
「へぇ・・・信頼してるんだね、趙くんのこと」
「勿論。これでアイツが男じゃなかったらなぁ・・・」
「え、どういう意味!?」
「最初は虎峰のこと女だと思ってさぁ・・・ちょっとドキッとしたんだよね。ほら、アイツ顔立ちが中性的じゃん?見方によっては美少女に見えるからさ」
「何てこと・・・思わぬところに敵が・・・!」
「シルヴィ?」
何やらブツブツ言っているシルヴィ。俺が首を傾げていると・・・
「七瀬・・・?」
「え?」
俺の名前を呼ぶ声がしたので振り向くと、小紋を羽織った女性が立っていた。
長く艶やかな黒髪に、華奢でほっそりとした体躯・・・俺の顔を見て、女性は嬉しそうに笑った。
「やっぱり七瀬や!久しぶりやなぁ!」
「おぉ、冬香じゃん!」
界龍の序列三位・・・《神呪の魔女》こと梅小路冬香だった。俺が界龍を出る時にはいなかったから、ずいぶん久しぶりに会う気がする。
「元気そうだな。秘術の研究はどうよ?」
「おかげさんで順調やわ。復活までもう少しってとこやろか」
笑顔で答える冬香。そっか、順調そうで良かった・・・
「そういう七瀬は、こんな所でどないしはったん?」
「学園祭巡りだよ。星露とか妹に会っていこうと思って」
「あぁ、八重ちゃん?あの子はえらい伸びるわ。虎峰が目ぇかけるのもよう分かる」
うんうんと頷く冬香。と、何かに気付いたような表情になる。
「あ、うちはそろそろ行かなアカンわ。七瀬、また今度ゆっくり話そうな」
「おう。秘術とやらが復活したら、一度手合わせしようぜ」
「フフッ、そん時はよろしゅう。ほな」
冬香は笑いながら手を振ると、人混みの中へ消えていった。
「あの人が《神呪の魔女》・・・噂には聞いてたけど、あれが京美人ってやつなんだね」
「あのはんなりした感じが好きって人も多いだろうな。俺も冬香と喋ってると、何となく落ち着くし」
そんな会話をしていると・・・
「七瀬お兄様っ!」
八重が駆け寄ってきて、俺に抱きついてくる。
「おう、お疲れ八重。もう手伝いは良いのか?」
「はい!師父からお兄様達をお連れするよう言われてますので!あ、シルヴィお姉様もお久しぶりです!」
「久しぶり、八重ちゃん。案内よろしくね」
「お任せ下さい!」
八重はそう言って笑うと、俺とシルヴィの手を引いて進むのだった。
*****
「おぉ、七瀬!」
八重に案内された先では、星露が椅子に座ってまったりとしていた。こちらに気付き、笑顔で手を振ってくれる。
「久しぶり、星露。忙しいとこ悪いな」
「ほほっ、構わぬ。雑務は全て虎峰に任せておるのでな」
「前言撤回。仕事しろクソチビ」
「急に辛辣じゃの!?」
全くコイツは・・・八重も溜め息をついていた。
「師父、趙師兄の負担を考えてあげて下さい。その椅子ぶち壊しますよ?」
「八重までどうしたのじゃ!?」
「アハハ・・・流石は兄妹だね・・・」
苦笑しているシルヴィ。星露がシルヴィに視線を移す。
「久しいのう、歌姫殿。仕事の方は大丈夫なのかえ?」
「せっかくの学園祭だもん。ななくんとデートしたいじゃない」
「ホッホッホッ、熱いのぉ!」
愉快そうに笑う星露。
「せっかく来たのじゃ。客人はもてなさんとな・・・八重、スマンが暁彗を呼んできてくれぬか?」
「かしこまりました」
八重が一礼して出て行くと、星露が俺の方を見た。
「七瀬、お主の妹は逸材じゃ。武術の才に秀でておる」
「お前の目から見てもそう思うか?」
「うむ。純粋な武術において、ゆくゆくは虎峰を超えるじゃろう。もしかすると、暁彗と肩を並べるかもしれぬ」
「そこまで!?」
シルヴィが驚愕しているが、俺としてはそこまで驚きは無かった。
八重の成長速度は尋常じゃない。界龍で修行してなかったら、実家で組み手した時にあしらえたかどうか分からないほどだ。
この界龍で、星露達から本格的な武術の手ほどきを受けたら・・・アイツは今よりはるかに強くなるだろう。
「星露、八重を頼んだ」
「うむ、任せるが良い」
自分の胸をドンと叩く星露。
「これでも千年以上生きておるからの。弟子を育てるのはお手のものじゃ」
「・・・は?」
俺はポカンとしてしまった。千年以上生きている・・・?
「何じゃ、信じられぬか?」
「いや、お前がただ者じゃないのは分かってるつもりだけど・・・」
「ふむ・・・では少し、この世の理を明かしてやろう」
星露が指を鳴らした瞬間、周囲が暗転する。そして目の前に、半透明の地球が浮かび上がった。
これって・・・
「ホログラム・・・?」
「その通りじゃ。よく見ておれ」
突如として無数の隕石が現れ、地表に向かって降り注いでいく。
もしかして・・・
「・・・《落星雨》の再現?」
「うむ」
シルヴィの言葉に頷く星露。
「でもこれだと、隕石がいきなり地球の周りに現れたみたい」
「『《落星雨》は、世界中のあらゆる天文台が一切感知できなかった』・・・授業ではそう教えられておるのじゃろう?」
「そうだけど・・・本当にいきなり降って湧いたっていうの?」
「ではそれを確認すべく、儂らにはどう見えていたのかを教えてやろう」
再び指を鳴らす星露。立体映像の地球が迫り、空から地表を見下ろす目線となった。
そして巨大な隕石が目の前を横切り、地表に激突したかと思われた瞬間・・・積層型の魔法陣が広がり、内側がごっそりとえぐれたように消え失せる。
何だこれ・・・
「衝突のエネルギーを術式に転化させ、範囲内の物質を丸ごと転移させたんじゃろう」
「転移って・・・何処へ?」
「それは分からんが・・・儂らは『あちら側の世界』と呼んでおる」
おい、それってつまり・・・
「《落星雨》は自然災害ではなく・・・何者かが意図的に引き起こしたってことか!?」
「その通りじゃ。衝突時の粉塵がほとんど観測されておらんのも、これが理由じゃ」
星露の言葉に絶句してしまう俺とシルヴィ。
確かに《落星雨》は、本来なら規模的に人類が絶滅してもおかしくないほどのものだった。
それでも人類が無事だったのは、隕石が地表に衝突していなかったから・・・?
「それが本当なら、一体誰がこんなことを・・・」
「それは分からぬ。じゃが、もし《落星雨》が人為的に引き起こされたものなら・・・それが一回だけとは限らぬという話じゃ」
「つまり今後も起きる可能性がある・・・いや、ひょっとしたら過去にも起きていたかもしれない・・・?」
「うむ、確かに《落星雨》の規模は未曾有のものであったが・・・万応素もマナダイトも、昔から地球に存在しておった。今とは比較にならぬほど僅かじゃがの」
「それなら、《星脈世代》もいたことになる・・・つまりお前は、その中の一人だったってことか・・・?」
「そういうことじゃ。かつては魔法使いや仙人などと言われておった」
「・・・スケールの大きい話だなオイ」
「私のキャパシティを超えてるよ・・・」
溜め息をつく俺とシルヴィ。
信じられない気持ちではあるが、恐らく事実なんだろうな・・・っていうか、星露なら何でもアリな気がするわ。
「ホッホッホッ、まぁ信じる信じないはお主らの勝手じゃ。それに事実を知ったからといって、何かが変わるわけでもあるまい」
愉快そうに笑う星露。
「今の世は素晴らしい。有望な素養を持った若人が溢れておる。儂はそういった若人の指南役を買って出ることで、その者の素養を引き出して育てたいのじゃ。そして・・・儂を楽しませてくれそうな、強き者が現れるのを待っておるのよ」
「・・・ホントにバトルジャンキーだよな、お前」
コイツはホント、楽しそうに戦うもんな。俺も手合わせしてもらったけど、活き活きしてたっけ・・・
ボコボコにされたので、個人的には苦い思い出ではあるが。
「何だか無性に戦いたくなってきたのう・・・七瀬、久々に手合わせをせぬか?」
「勘弁してくれ・・・」
げんなりする俺なのだった。
*****
「七瀬、茶だ」
「サンキュー、暁彗」
暁彗が淹れてくれたお茶を一口飲む。
「美味いな・・・流石だわ」
「大師兄の淹れて下さったお茶は一級品ですね」
八重も美味しそうに飲んでいる。暁彗が誇らしげな顔をする一方・・・
「ま、まさかシルヴィアさんにお会いできるとは・・・!」
「趙くん、コンサートにも来てくれてるよね。いつも応援してくれてありがとう」
「こ、光栄です!」
シルヴィを前に、虎峰が舞い上がっていた。あんな虎峰、初めて見るな・・・
「本当に《戦律の魔女》と付き合ってたとはねぇ」
セシリーがニヤニヤしながら俺を見る。
「七瀬も隅に置けないねぇ」
「何ニヤニヤしてんだスボラ女」
「アンタホント辛辣すぎない!?」
「それより七瀬・・・アレをどうにかしてくれ」
沈雲が困り顔で指差した方向には・・・
「グビッ・・・ぷはぁっ!ちょっと、甘酒が足りないんだけど!?」
「い、今持ってくるのじゃ!」
自棄酒するかのように甘酒をグビグビ飲んでいる沈華と、そんな沈華の下へ何杯も甘酒を運ぶ星露の姿があった。
「あれ、おかしいな・・・星露って沈華の師匠じゃなかったっけ・・・」
「あぁ、僕に雑務を押し付けた罰です。やらせといて下さい」
「根に持ってたんですね、趙師兄・・・」
虎峰の言い様に、若干引いている八重。まぁ星露が悪いんだけどな。
「ってか、何で沈華は荒れてんの?何かあったん?」
「・・・無自覚って恐ろしいね」
「これが鈍感系主人公ってやつか・・・」
セシリーと沈雲が溜め息をつく。何の話だろう?
「流石に師父が可哀想なので、私も手伝ってきます」
そう言って席を立つ八重。八重が側に近付くと、沈華が八重に抱きついた。
「うぅ、八重ぇ・・・」
「黎師姉、ご自愛下さい。ですからお兄様にはシルヴィお姉様がいらっしゃると、あれほど申したではありませんか」
「分かってるわよぉ・・・別に私は、七瀬のことが好きだったっていうか・・・ヒーローみたいに助けてくれて、ちょっと憧れてただけなんだからぁ・・・」
「はいはい、分かりましたから。とにかく落ち着きましょう」
どんな会話をしているかは聞こえないが、八重が沈華の頭を撫でていた。
あのツンデレ沈華が、八重にベッタベタだと・・・?
「・・・《水派》と《木派》って、折り合いが悪いんじゃなかったっけ?セシリーと虎峰は仲良いけどさ」
「まぁ基本的に仲良くはないんだけど・・・八重は特別だね」
苦笑する沈雲。
「星仙術に興味を示さなかったから、《水派》の一部は反感を抱いてたんだけど・・・八重はとにかく礼儀正しくて気配りが出来るから、反感を抱いてた連中もすっかり毒気が抜けたっていうか・・・」
「しかもあの子、人の懐に入るの上手いもんね。今じゃ《水派》の連中で、八重を悪く思ってるヤツなんていないんじゃない?《木派》の連中だって、八重が《水派》の連中と仲良くしてても何も言わないし」
「八重が良い子だってことは、皆分かってますから。《木派》の皆も八重を可愛がってますし、今や界龍のアイドルみたいな存在ですよ」
セシリーと虎峰もそんなことを言う。凄いなアイツ・・・
「ほほっ、言ったであろう?八重は逸材じゃと」
いつの間にか星露がやってきていた。
「強さもそうじゃが・・・八重には人を惹きつける魅力がある。あれなら暁彗達のチームに入っても、和を乱すことなどないじゃろう」
「暁彗達のチームって・・・まさか黄龍!?え、アイツ《獅鷲星武祭》出んの!?」
「ん?言っとらんかったか?」
「聞いてねぇわ!」
完全に初耳だ。マジか・・・
「ちなみに、八重は既に界龍の序列十二位・・・《冒頭の十二人》に名を連ねている。実力も申し分ない」
「いつの間に・・・」
暁彗の言葉に頭を抱える俺。八重とは戦いたくないなぁ・・・
「ななくん、ドンマイ」
シルヴィが苦笑している。一方、虎峰は首を傾げていた。
「そんなに八重と戦いたくないんですか?」
「当たり前だろ。可愛い妹と戦いたいヤツが何処にいるよ」
「でも姉上方とは戦ってましたよね?」
「姉さん達は良いんだよ。殺しても死なないような人しかいないんだから」
「酷い言い様ですね!?」
「いや、むしろ殺す気でいかないと・・・俺が殺される」
「どんな姉弟関係ですか!?」
「虎峰とセシリーみたいな関係だよ」
「あぁ、納得です」
「虎峰!?何でそこで納得しちゃうの!?」
セシリーのツッコミ。それにしても、八重がねぇ・・・
「・・・まぁ誰が相手だろうと、俺達も負けられないからな。当たったら全力で叩き潰す。ただそれだけだ」
俺の言葉に、皆も不敵な笑みを浮かべる。
「望むところだ。俺達は負けん」
「アタシも雷を使う身として、七瀬には負けられないね」
「僕も親友として、七瀬には負けたくないです」
「《鳳凰星武祭》じゃ、《叢雲》と《華焔の魔女》に負けたからね。リベンジマッチだ」
それぞれの意気込みを聞き、星露が笑みを浮かべる。
「んー、燃え滾るのう!儂も運営に掛け合って、何とか出場を・・・」
「「「「「それは止めろ」」」」」
「あっ、はい・・・」
全員の意見が一致した瞬間なのだった。
*****
「・・・マジか」
俺は今、超高級ホテルの一室にいた。六花園会議が行なわれる、あのホテルである。
「シルヴィ、よくこんな場所を用意できたな・・・」
界龍を出た頃には日も暮れていたので、一日目の学園祭デートは終了となった。
シルヴィが事前にホテルを予約しており、学園祭の期間中はそこで二人で寝泊りしようという話になっていたのだが・・・
「まさかこんなに高級な所だとは・・・絶対高いだろここ」
「それなら心配ないよ」
シャワーを浴び終え、バスローブ姿のシルヴィがやってきた。
「ぺトラさん・・・ウチの理事長が、このホテルのオーナーと旧知の仲なの。今回ちょっと口をきいてもらって、二人とも三日間タダで泊まれるようにしてもらったんだ」
「・・・権力って恐ろしいな」
ここにタダで泊まれるとか・・・ヤバいだろ。
「ってか、よく理事長さんも口をきいてくれたな」
「休みを勝ち取るついでに、ホテルのことも頼み込んだんだよ。おかげでいっぱい仕事を詰め込まれちゃって・・・参るよねホント」
「お疲れ」
苦笑する俺。するとシルヴィは、向かい合う形で俺の膝の上に座ってきた。
「ちょ、シルヴィ・・・?」
「ねぇ、ななくん・・・」
潤んだ瞳で俺を見つめるシルヴィ。
「私、今回すっごく頑張ったから・・・ご褒美が欲しいな」
「ご、ご褒美というと・・・?」
「・・・分かってるくせに」
妖艶な笑みを浮かべるシルヴィ。落ち着け、理性を保つんだ・・・
「私ね・・・ななくんが欲しいな」
「っ!」
理性?何それ美味しいの?
俺とシルヴィは唇を重ね、そのままベッドへと倒れこんだのだった。
その後のことは・・・まぁ語るまでもないだろう。
二話連続投稿となります。
シャノン「最後のななっちとシルヴィアさん・・・」
おっと、それ以上はいけない。
この作品はR-18じゃないから。
シャノン「そ、そうだね・・・」
それより冬香だよ・・・マジで難しい・・・
シャノン「京都弁って独特だもんねぇ・・・」
そうなんだよ・・・上手く書けてないと思いますが、申し訳ありません。
京都出身の方がいらっしゃいましたら、遠慮無く指摘していただけると幸いです。
シャノン「お願いします(ぺこり)」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」