「お世話になりました」
万理華さんに頭を下げるシルヴィ。
結局俺達は、休暇が終わる前日まで滞在していた。一織姉・二葉姉・三咲姉・四糸乃姉・五和姉・六月姉・ユリスは、先にアスタリスクへと戻った。
本当はユリスも一緒に戻る予定だったのだが、『彼女と二人でゆっくり戻ってこい』とのことで、四糸乃姉と一緒に一足先に戻ってしまったのだ。
どうやら気を遣わせてしまったみたいだな・・・
「またいつでも来い。待ってるからな」
微笑む万理華さん。あれから傷も癒え、すっかり元気になっていた。
一方・・・
「うぅ・・・お兄ちゃん・・・」
十萌は泣きそうな顔で俺に抱きついていた。
恥ずかしがりやの十萌が、人前で俺に抱きつくとは・・・よっぽど寂しがってくれてるんだな。
「そんな顔すんなって。また帰ってくるから」
俺は笑いながら十萌の頭を撫でた。
「ってか、アスタリスクまで遊びに来いよ。いつでも大歓迎だから」
「聞いたか十萌?これで気兼ねなく遊びに行けるな!」
「あ、万理華さんは却下で」
「何故だ!?」
「酔っ払いの相手が面倒。以上」
「うぅ・・・私にだけ冷たい件について・・・」
「アハハ・・」
苦笑する十萌。と・・・
「七瀬お兄様、今度はアスタリスクでお会いしましょう」
「すぐにそちらへ行きますからね!」
笑顔の八重と九美。
二人は三月で中学を卒業し、四月からアスタリスクへ来ることが決まっている。八重は界龍、九美はクインヴェールに内定しているそうだ。
「おう。それにしても界龍かぁ・・・八重、ドンマイ」
「え、何でですか!?」
「あそこには戦闘狂、もしくは性格の悪いヤツしかいないから」
「・・・急に行きたくなくなってきました」
「まぁとりあえず、困ったら虎峰を頼れ。アイツは信頼できるヤツだし、話もしっかり通しておくから」
「了解です。ありがとうございます」
恐らく星露のことだから、俺の妹である八重を放ってはおかないだろうな・・・
戻ったら釘を刺しておかないと。
「九美ちゃん、楽しみにしてるからね」
「はい!四月からお世話になります!」
シルヴィにぺこりと頭を下げる九美。クインヴェールにはシルヴィや四糸乃姉もいるから、とりあえず大丈夫そうかな。
「そういや、十萌はどこの学園を志望してるんだ?」
「星導館だよ」
笑顔で答える十萌。
「私には、一番合ってる学園かなって。それに・・・」
「それに・・・?」
「・・・お兄ちゃんと一緒の学園に通いたいから」
「十萌、今すぐ星導館に行こう。クローディアに頼んで今すぐ入学させてもらうから」
「落ち着けシスコン」
万理華さんがチョップしてくる。
「そもそも十萌がいなくなったら私が困る。誰がご飯を作ってくれるんだ」
「いや、自分で作ってよ」
十萌のツッコミ。俺はひとしきり笑うと、皆を見回した。
「それじゃ、行ってくる」
「あぁ、行ってこい」
「行ってらっしゃいませ!」
「お気をつけて!」
「連絡ちょうだいね!」
万理華さん・八重・九美・十萌に見送られ、俺とシルヴィはアスタリスクへと・・・
「あ、忘れ物」
「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」
皆が揃ってずっこける。
「ちょ、おま・・・何か色々と台無しだぞ!?」
「ゴメンゴメン」
俺は笑いながら謝ると・・・そのまま万理華さんを抱き締めた。
「な、七瀬・・・?」
「肝心なこと、ちゃんと言ってなかったなって思って」
「肝心なこと・・・?」
「・・・産んでくれてありがとう」
「っ・・・」
思い返してみると、俺を産んだのが万理華さんだと分かってから・・・ちゃんとこの言葉を伝えていなかったことに気付いたのだ。
「万理華さんが俺を産んでくれたから・・・俺は家族に、仲間に、恋人に恵まれた。だから・・・本当にありがとう。俺は今、最高に幸せだよ」
「・・・バカ。何でこのタイミングで・・・」
万理華さんの目から涙が溢れる。
「あぁ、もう・・・歳はとるもんじゃないな・・・涙腺が緩くて仕方ない・・・」
「・・・身体は大事にしろよ。万理華さん一人の身体じゃないんだから」
「あぁ・・・分かってるさ」
抱き締め返してくる万理華さん。
「七瀬こそ、身体に気を付けてな・・・《獅鷲星武祭》、応援してるぞ」
「あぁ、優勝してみせるよ・・・仲間達と一緒に」
俺は万理華さんから離れ、拳を突き出した。
「じゃあ・・・行ってくる」
「あぁ・・・行ってこい!」
万理華さんと拳を合わせ、俺は今度こそアスタリスクへの道を歩き出した。
「八重ー!九美ー!待ってるからなー!十萌ー!万理華さんをよろしくなー!」
「はい!またアスタリスクで!」
「絶対会いに行きますからね!」
「万理華さんのことは任せて!」
八重・九美・十萌が笑顔で手を振ってくれる。俺とシルヴィは、同じように笑顔で手を振り返すのだった。
*****
「ななくん、コーヒー買ってきたよ」
「お、サンキュー」
帰りのフェリーの中で、俺はシルヴィとまったり過ごしていた。先程の船内放送によると、あと一時間ほどでアスタリスクに到着するそうだ。
「・・・ありがとな、シルヴィ」
「え、何が?」
「ユリスから聞いたよ。俺が部屋から出て行った後、皆に『これで良いのか』って問いかけてくれたって」
「あー、そのことね」
苦笑するシルヴィ。
「私が発言しなくても、きっと皆は同じ結論を出したと思う。だってななくん、とっても愛されてるもん」
「・・・それは改めて感じたよ」
皆で抱き合いながら泣いたあの日・・・俺は改めて、家族の絆を感じることができた。
だからこそ、独りよがりになるのをやめたんだけどな。
「・・・あれから、皆で話し合ったんだ。零香姉のこと」
「・・・うん」
「やっぱり、どんな罪を犯したとしても・・・零香姉は家族だから。俺達で捕まえて、罪を償わせようっていう結論になった」
「・・・そっか」
「まぁ、言うほど簡単じゃないけどな・・・」
溜め息をつく俺。
「恐らく零香姉は、何かを企んでるんだと思う。だからこそ、俺を勧誘にきたんじゃないかな・・・お仲間もいるようだし」
「ウルスラ・・・今は『ヴァルダ』だっけ?零香さんはそう呼んでたんでしょ?」
「あぁ、恐らくそれが純星煌式武装の名前だと思う。ただ、そんな名前の純星煌式武装に聞き覚えがないんだよな・・・」
純星煌式武装に関しては、《神の拳》のこともあって色々と調べたが・・・人体を乗っ取って日常生活を送る純星煌式武装など、聞いたことがない。
「それにヴァルダは、オーフェリアの名前を出していた。あの《孤毒の魔女》が仲間だとするなら・・・厄介なんてもんじゃない」
「一体何を企んでるんだろう・・・よく分からないけど、嫌な予感がする・・・」
「・・・俺もだ」
ただ、次に零香姉が現れたら・・・力ずくで捕まえる。それだけだ。
「まぁとりあえず、今は《獅鷲星武祭》に集中しないと・・・強敵揃いだしな」
「《獅鷲星武祭》かぁ・・・ルサールカは出場するはずだから、シノンと戦うことになるかもしれないね」
「だよなぁ・・・ガラードワースからは、ランスロットとトリスタンも出てくるだろうし・・・四糸乃姉だけじゃなくて、三咲姉達まで相手にすることになるかもな」
「だね。ひょっとすると、八重ちゃんや九美ちゃんも参加するかもよ?」
「それは勘弁してほしいなぁ・・・」
あまり家族同士で戦いたくないんだけど・・・と、シルヴィが面白そうに笑っていた。
「どうした?」
「いや、何て言うか・・・ななくんがどれほど家族を大切に思ってるか、表情を見てると分かりやすいなって思ってさ」
「・・・勘弁してくれ」
全く・・・すぐからかおうとするもんな、コイツは・・・
「・・・心配しなくても、シルヴィのことも大切に思ってるよ」
「フフッ、心配なんかしてないよ」
俺の手を握り、肩に寄りかかってくるシルヴィ。
「・・・ちゃんと分かってるから。私だって、ななくんのこと大切に思ってるし」
「・・・あぁ、分かってるよ」
シルヴィの手を握り返す。こうしてると、何だか安心するな・・・
「・・・ゴメン、ちょっと眠くなってきたわ」
「アハハ、実は私も・・・ちょっと寝よっか?」
「だな・・・おやすみ・・・」
「おやすみ・・・ふあぁ・・・」
俺とシルヴィは身体を寄せ合い、手を握りあったまま眠りについたのだった。
お互いの温もりを感じ、安らかな寝息を立てながら・・・
三話連続投稿となります。
シャノン「次回からは新章?」
そうそう。ただ、次の投稿は来週の半ばになりそう。
シャノン「え、ストック尽きた!?」
いや、ストックはあるんだけど。
ちょっと忙しくなるから。
シャノン「あ、なるほど・・・」
これからも頑張って投稿していきますので、よろしくお願い致します!
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」