もっと早く寝るんだった・・・
「・・・ここだよな?」
夜、俺はベランダにいた。しかも女子寮最上階の部屋の、である。
言っておくが、決して不埒な目的の為ではない。クローディアから呼び出されたので、《星脈世代》の身体能力でここまで登ってきたのだ。
「やってることはただの不法侵入だよな・・・」
ため息をつきつつ、窓を開けて中に入る。クローディアの言ってた通り、ちゃんと窓が開いてたな。
「失礼しまーす・・・クローディア?」
呼びかけてみるが、返事は無い。
ってか、この部屋広くね?寝室みたいだが、まるで高級ホテルだな・・・と、部屋の扉が開いた。
「あら七瀬、いらしていたのですね」
「おぉ、お邪魔して・・・」
そこまで言って、俺はフリーズしてしまった。
目の前に、生まれたままの姿のクローディアが立っていたのだ。細くくびれた腰、しなやかな太もも、そしてたわわに実った胸まで全て丸見え・・・
まごうことなき全裸である。
「ちょ、え!?何で裸!?」
「シャワーを浴びていたものですから」
恥ずかしがることもなく、堂々と自分の裸を晒すクローディア。そのままクローゼットまで歩いていき、中からバスローブを取り出して羽織った。
「すみません、お見苦しい姿をお見せしました」
「いや、その・・・ご馳走様です」
「フフッ、こんな貧相な身体で喜んでいただけたのですか?」
「うん、とりあえず紗夜に謝れ」
今のセリフを聞かれたら、俺が紗夜に謝るハメになりそうだが。
「紗夜?あぁ、沙々宮紗夜さんですか。今日の朝、教室を半壊させた方ですよね?おかげで今日の仕事が増えました」
「・・・何かすいませんでした」
心なしか怒っているような感じがするクローディアに、俺は思わず謝った。いや、別に俺は何もしてないんだけどな。
「まぁそれはさておき・・・どうぞお掛けになって下さい」
後ろの椅子を勧めてくれるクローディア。俺はお言葉に甘えて椅子に座り、クローディアはベッドに腰掛けた。
「遅くに呼び出してしまってすみません」
「いや、大丈夫だよ。クローディアこそ、女子寮に男子を入れて大丈夫なのか?」
「問題ありません。自警団も不法侵入者には制裁を加えますが、個人の交友関係には口出ししませんので」
「・・・つまり自らの意思なら、異性を入れても構わないと?」
「そういうことです」
マジか・・・その辺り、星導館は結構緩いんだな・・・
「一応異性の寮へ入る場合には、正規の手続きを済ませる決まりになっているのですが・・・面倒ですので、今回はこういう形で入ってきていただきました」
「生徒会長が決まりを守らなくて良いのかよ・・・」
「あら、通報ボタン一つで不法侵入者になるのは七瀬ですよ?」
「すみません、マジで勘弁して下さい」
この性悪女、いざという時はそれを使うつもりか・・・
「で、どうしたよ?わざわざ自分の部屋に呼び出したりして」
「実は、七瀬にお願いがありまして」
「お願い?」
「はい。一週間後、七瀬のクラスに転入生が来るんです」
「マジで?」
入学から二ヶ月しか経っていないこの時期に、転入生が来るというのは珍しいことだ。
「ひょっとして・・・訳ありか?」
「そういうわけでは無いんですが・・・彼を特待生として何度も勧誘したのですが、全て断られてしまいまして。ようやく心変わりしてくれたようで、今月から転入してくれることになったんです」
「なるほど・・・そんなに凄い奴なのか?」
「いえ、実績はほとんどありません」
「は・・・?」
え、どういうこと?
「だって、特待生として何度も勧誘したって・・・」
「ぶっちゃけスカウト陣からは猛反対を受けましたが、生徒会長の権力を使って無理矢理押し通しました。権力万歳です」
「何してんのお前!?」
アカン、完全に独裁者だよこの子!
「ってか、そこまでして何で勧誘したんだ?」
「詳しくは言えませんが・・・先見の明、とだけ言っておきます」
「先見の明、ねぇ・・・」
まぁクローディアのことだし、何か考えがあるんだろうけど・・・
「で、俺に何を頼みたいんだ?」
「彼を受け入れるにあたって、一つ問題がありまして」
「と言うと?」
「男子寮の空き部屋が無いんですよ。現在増設工事を行っているんですが・・・彼が来るまでには間に合いそうもありません」
「え、ヤバいじゃん。どうすんの?」
「そこで七瀬には、部屋を移動していただきたいんです。七瀬は《冒頭の十二人》ですから、特権で個室をいただけますし」
「あー、そういうことか」
そういや、前にそんな話をクローディアが言ってたな。あの時はそのままで良いって言ったから、今も夜吹と一緒の部屋なわけだが。
「了解、移動するよ。転入生の部屋が無いと困るしな」
「ありがとうございます。ただ、もう一つ問題が・・・」
「え、まだあんの?」
「えぇ。先ほども言いましたが、『男子寮の空き部屋が無い』んです」
「あぁ、さっき聞いた・・・って、まさか個室も無いのか!?」
「そうなんです。全て埋まっていまして・・・」
申し訳なさそうな顔のクローディア。え、マジでヤバいじゃん!
「じゃあ俺、どうしたら良いんだ!?」
「そこで提案なのですが・・・ここに住みませんか?」
「・・・は?」
え・・・どういうこと・・・?
「ここ・・・女子寮の私の部屋で、一緒に住みませんか?」
「・・・ハァッ!?」
いやいやいや!何でそうなった!?
「それはマズいだろ!?」
「あら、私と一緒は嫌ですか・・・?」
悲しげな表情のクローディア。
「そうじゃなくて!そもそも学校から許可が下りないだろ!」
「下りましたよ?」
「はい!?」
「特例措置として、ちゃんと許可は下りました。状況が状況ですから、学校側も認めざるを得なかったんでしょう」
クローディアの言葉に愕然とする俺。
男子が女子寮に住むこともそうだが、女子と同じ部屋に住むことを認めるとは・・・いくら何でも緩すぎやしないか?
「こことは別にもう一つ広い寝室がありますので、七瀬にはそちらを使っていただきます。今住んでいる部屋よりも全然広いですよ」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
「お風呂やトイレは私と共用になってしまいますが、どうぞご容赦下さい」
「あの、クローディア・・・?」
「それでは一通りご案内しますので、分からないことは何でも聞いて下さいね」
「人の話を聞けえええええ!」
叫ぶ俺に、キョトンとしているクローディア。
「あら、どうされました?」
「どうされました?じゃないわ!何であっさり受け入れてんの!?」
「許可は下りましたよ?」
「そういう問題じゃなくて!男と一緒に住むなんて、普通は嫌だろ!?」
「私は構いませんよ」
「何で!?」
何でこんな平然としてられんの!?友達とはいえ男と一緒に住むなんて、普通の女子は嫌がるもんじゃないのか!?
「だって七瀬ですし」
あっけらかんと答えるクローディア。
「相手がよく知りもしない男子だったら、私だってこんな提案はしません。それこそ、夜吹くんなら本気でお断りですね」
あ、夜吹がフラれた・・・ドンマイ。
「私がこの学校で唯一信頼できる男子の友人は、七瀬しかいません。だから七瀬なら一緒に住んでも良いって、そう思ったんです」
「クローディア・・・」
「それとも・・・七瀬は嫌ですか?私と一緒に住むというのは・・・」
シュンとするクローディア。ハァ・・・
「・・・別に嫌じゃないぞ」
「それでは決定ですね」
「切り替え早いなオイ!?」
コイツ・・・まさかさっきの演技か!?
「フフッ、もう私の演技には騙されないんじゃなかったんですか?」
「騙されたあああああっ!?」
悪戯っぽく笑うクローディアを見て、崩れ落ちる俺。こんなの卑怯すぎるだろ!
「やっぱり七瀬は信頼できますね」
「どういうこと!?」
「純粋に私を信じてくれますし、心が綺麗だということです」
「何か貶されてない!?」
「あら、褒めてるんですよ?」
笑うクローディア。
「では、明日からここに住むということで。七瀬が使う寝室はしっかり清掃しておきましたので、七瀬も帰ったら引っ越しの準備をして下さいね」
「・・・了解」
ハァ・・・もうどうにでもなれ・・・
「同居するんですし、呼び方もダーリンに変えましょうか?」
「誰がダーリンだ!」
何故か嬉しそうなクローディアなのだった。
こんにちは、ムッティです。
七瀬、クローディアと同居するってよ。
・・・チッ。
まぁ自分が書いてるんですけどねww
さて、特待転入生とは何霧綾斗くんのことなのか←
それではまた次回!