「もう五年も前の話なんだな・・・」
稽古場を眺めながら、俺は当時のことを思い出していた。零香姉に刺された俺は、意識を失ってしまったので覚えていないが・・・
「・・・あれがきっかけで、一織姉の治癒能力が目覚めたんだっけか」
「そうよ」
背後から声がする。振り向くと、一織姉が立っていた。
「本当に一時的なものだったし、力としても微々たるものだったけど・・・それでもあの時、私に治癒能力が発現したの。それですぐ、七瀬の傷を止血することが出来たのよ」
「その後の訓練の末、治癒能力を使いこなせるようになったんだっけ・・・所属していた星猟警備隊を辞めて、治療院に勤めるようになって・・・」
「えぇ。星猟警備隊の仕事もやりがいはあったけど・・・私はやっぱり、誰かの命を救う為に仕事がしたいと思った。そう思うきっかけが、あの事件だったわ」
微笑む一織姉。
「父さんと母さんのことは助けられなかったけど・・・七瀬のことは助けられた。それが私の、唯一の救いだったわ」
「一織姉・・・」
「まぁ姉さんが辞めたせいで、こっちは大変だったんだけどね」
二葉姉が苦笑しながら現れる。
「若きエース様がいなくなったもんだから、戦力不足になっちゃって・・・隊長には、『妹のお前が姉の分も頑張れ』とか無茶ぶりされるし」
「アハハ・・・何かゴメンね」
「まぁ、おかげで手柄が立てやすくなったんだけどね。それで今、一等警備正にまでなれてるわけだし」
肩をすくめる二葉姉。
「罪を犯した人間は、その罪を償わないといけない。そこから目を背けて逃げる奴を捕まえて、向き合わせるのが私達の仕事だから。そういう仕事に就きたいと思ったのは、姉さんに憧れたのもあるけど・・・やっぱり、あの事件がきっかけだったんだと思うわ」
「二葉姉・・・」
「フフッ、やっぱり姉様達もですか」
「目指す道は違くても、皆きっかけは一緒なんだね」
三咲姉と四糸乃姉もやってくる。
「私は、皆が自分の正しいと思う道へ進めるように導きたい・・・道を踏み外しそうな人がいたら、手を差し伸べて元の道へ戻る手伝いがしたい・・・そう思って、教師を目指そうと決めました」
「私は・・・皆を笑顔にしたい。どんなに辛いこと、苦しいことがあっても・・・見ている人を少しでも元気にしてあげたい。だから歌ってるんだよ」
「三咲姉・・・四糸乃姉・・・」
「皆色々と考えてるんだねぇ」
「尊敬。流石は姉様達です」
五和姉と六月姉が拍手している。
「・・・私もさ、実は教師に憧れてるんだよね」
「驚愕。五和の成績で教師とは・・・」
「そこ!?いや、確かに成績は芳しいとは言えないけどさ!」
むくれる五和姉。
「ただ・・・力を正しく使えるように、指導してあげられたらなって。小さい頃から、苦しむ七瀬の姿を見てきたからね・・・」
「・・・同意。実は六月も思っていました」
頷く六月姉。
「六月達では力不足で・・・七瀬を助けてあげることが出来ませんでしたから。だからそこ力をつけて、今度こそ七瀬のように苦しむ人を助けられたらと・・・」
「五和姉・・・六月姉・・・」
そんなこと思ってくれてたのか・・・
「夢なら私にもあります」
「私もです!」
「うおっ!?」
急に現れた八重と九美が抱きついてくる。
「私の夢は・・・七瀬お兄様より強くなることです」
「え、俺・・・?」
「はいっ」
笑顔を見せる八重。
「もう、守られるだけの存在では嫌ですから。七瀬お兄様より強くなって、今度は私がお兄様を・・・家族を守ってみせます」
「八重・・・」
「私は、世界一のアイドルになります!」
屈託の無い笑みを浮かべる九美。
「皆を照らす、大きな光になりたい・・・その為に打倒四糸乃姉さん、打倒シルヴィ姉さんを目指します!」
「え、私倒されるの!?」
「えぇ、ぶっ倒します!」
「怖っ!?怖いよくーちゃん!?」
四糸乃姉が怯える中、九美の表情が真剣なものとなる。
「私は誰にも負けません・・・自分にも、零香姉さんにも」
「九美・・・」
「フフッ、皆頼もしいね」
「あぁ、全くだ」
十萌が万理華さんを支えながらやってくる。
「ちょ、万理華さん!?まだ起きちゃダメだって!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「問題あるから言ってるんだけど!?」
「口うるさくなったな、一織・・・お前は私の姑かっ!」
「誰が姑ですって!?私の三倍も生きてるくせにっ!」
「ちょ、おまっ・・・誰が三倍だっ!せいぜい二倍だわっ!」
ギャーギャー言い合う一織姉と万理華さん。十萌が苦笑しながら離れ、こちらへとやってくる。
「やれやれ・・・あれだけ元気なら問題ないね」
「・・・みたいだな。何か心配して損したわ」
「確かに」
十萌はそう言って笑うと、俺の目を真っ直ぐ見てきた。
「私も負けないからね」
「え・・・?」
「もう二度と、家族を失いたくないから。だから・・・私も強くなる。皆を支えられるくらい、強くなってみせるから」
「十萌・・・」
「・・・七瀬」
万理華さんが俺の名前を呼ぶ。
「零香の件は・・・星野家全員の問題だ。お前が一人で背負う必要はない」
「でも・・・俺と零香姉は・・・」
「千里と百愛の子だよ、間違いなく」
言い切る万理華さん。
「確かに産んだのは私だ。だが、お前達を育ててきたのは他でもない・・・千里と百愛だ。あの二人こそ、紛れも無くお前達の親だよ」
「万理華さん・・・」
「私の名前は星野万理華。お前達の伯母であり、家族だ。だから・・・」
万理華さんはそう言うと、俺を強く抱きしめた。
「私の前からいなくならないでくれ、七瀬・・・お前までいなくなってしまったら、私は・・・私はっ・・・!」
泣きじゃくる万理華さん。一織姉達も、泣きながら抱きついてくる。
「一人で背負わないでよ、七瀬・・・」
「私達、家族じゃない・・・」
「大切な弟を、一人で苦しませたくないんです・・・」
「なーちゃん、お願い・・・」
「水臭いマネは止めてよ・・・」
「同意。六月達も共に背負います・・・」
「お兄様がいないと寂しいです・・・」
「私達と一緒にいて下さい・・・」
「お兄ちゃん、行かないで・・・」
俺は・・・溢れる涙をこらえることができなかった。
「・・・ありがとう、皆」
俺は皆の温もりに包まれながら、そう呟くのだった。
二話連続投稿となります。
シャノン「良かったね、ななっち・・・」
ホントにね・・・美女&美少女達に囲まれて羨ましい。
シャノン「そこ!?」
アスタリスクの世界に転生したい今日この頃です。
シャノン「何があったの!?」
来世はアスタリスクのイケメン男子にしてくださあああああいっ!
シャノン「唐突な『君●名は。』!?」
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」