危うくR-18のタグを付けなきゃいけない話を書くところだった・・・
昔の俺は、とにかく力を扱いきれなかった。力加減が出来ず、学校でクラスメイト達を傷付けてしまうこともあった。
そんな俺の周りに人が集まるわけもなく、俺は孤立した。俺としても、その方がありがたかった。誰かを傷付ける心配も無いし、父さんや母さんに頭を下げさせることも無いのだから。
学校で孤独な毎日を送っていた俺は、いつしか家族に対しても心を閉ざすようになっていた。
そんなある日、俺の前にシルヴィが現れた。
「どうして一人でいるの?一緒に遊ぼう?」
シルヴィは何を思ったのか、毎日しつこく俺に絡んできた。その度に冷たく突き放していた俺も、遂にキレてしまった。
「俺に近付くなッ!俺の側にいると、お前が傷付くんだッ!俺はもう・・・誰も傷付けたくなんかない・・・」
涙を流す俺を、シルヴィはギュっと抱き締めてくれた。
「・・・君は優しいんだね。そんなにボロボロになってまで、私の心配をしてくれるなんて・・・」
あやすように、優しく頭を撫でてくれた。
「君はもっと、人の温かさに触れるべきだよ。でないと、君が壊れちゃうもの」
その日から、俺はシルヴィに心を開くようになった。
シルヴィは格闘技を習っているらしく、俺が全力で挑んでも全然勝てなかった。だがシルヴィと模擬戦をするようになってから、俺は段々と力の制御が出来るようになった。
星辰力をコントロールする方法や格闘技術も、シルヴィから教わった。周りや家族にも心を開けるようになり、俺は孤独ではなくなった。
だがあの日・・・俺の運命は大きく変わることになる。
「純星煌式武装?」
「そう。七瀬にピッタリだと思って」
休暇でアスタリスクから帰ってきていた零香姉が、俺にプレゼントしてくれたのだ。
あの純星煌式武装・・・《神の拳》を。
「触れてみて」
零香姉に促されるまま、俺は《神の拳》に触れた。
次の瞬間、目の前が眩く光り・・・光が収まった時、俺の両手には《神の拳》が装着されていた。
「流石は七瀬ね!これで貴方はもっと強くなれるわ!」
「本当に?シルヴィより強くなれる?」
「えぇ、勿論よ!」
俺は嬉しかった。シルヴィより強くなって、今度は俺がシルヴィの力になるんだ・・・そう決意した。
その後に起きる悲劇のことなど、この時はまだ知る由もなかった。
《神の拳》を手に入れた俺は、人気の少ない山の中で訓練していた。
零香姉からは、父さん達には《神の拳》のことは内緒にしようと言われていた。使いこなせるようになったら披露して、皆を驚かせようという計画らしい。
そんなわけで一人黙々と訓練していたところへ、俺のことを快く思っていない学校の同級生達がやってきた。
「おいおい、バケモノがこんな所で何してんだよ」
「・・・訓練だよ。用が無いなら帰ってくれ」
「訓練?ハハッ、まだ人間から外れたいのかよ?」
俺をあざ笑う連中。俺が溜め息をつき、訓練する場所を変えようとその場を去ろうとした時だった。
「そういやお前、あの紫色の髪の女とよくつるんでるよな。アイツもバケモノなのか?だったらお似合いだよお前ら。バケモノカップルの誕生ってか?ハハハッ!」
俺の中で何かが切れ、視界が真っ暗になった。そして・・・
「・・・!・・・くんッ!ななくんッ!」
「・・・え?」
気が付くとシルヴィがいて、必死になって俺の腰にしがみついていた。
「お願いだからもう止めてッ!これ以上はダメッ!」
「いや、何言って・・・」
そこまで言いかけたところで、俺は気付いた。《神の拳》を装着した自分の手に・・・血が付着しているということに。
そして俺の目の前には・・・
「うぅ・・・助けてぇ・・・」
血を流し、倒れている同級生達がいた。俺と目が合うと、恐怖の表情を浮かべて叫ぶ。
「ひぃっ!?ご、ごめんなさい!もう何もしませんから!許して下さい!死にたくないッ!死にたくないよぉッ!」
そこで俺は理解してしまった・・・
これをやったのが俺であることを。そして危うく殺しかけてしまったところを、シルヴィが止めてくれたのだと。
結局その件はただのケンカということになったものの、それ以来その連中は学校に来なくなった。
そして俺も、その一件以来段々と歯止めが効かなくなっていた。今までは流すようにしていた悪口も、耳に入った瞬間その悪口を言っていた奴らを容赦なくボコボコにしていた。
その度に父さんと母さんに頭を下げさせる結果になっていたものの、その時の俺はそれすらどうでも良いと思うほどに荒れていた。
「ななくんまたケンカしたの・・・?」
「シルヴィには関係ないだろ」
シルヴィは心配してくれたが、俺は冷たく返していた。
そんな日々が続いたある日、シルヴィが思いつめた表情で俺に言ってきたのだ。
「ななくん、私と決闘して」
「・・・何だよいきなり」
「私が勝ったら・・・もう《神の拳》は手放して。ななくんがそんな風になっちゃったのは、多分それのせいだから」
「勝手なこと言うな。何でシルヴィに指図されなきゃいけないんだよ」
「・・・勝つ自信ないんだ?ななくん、私に勝てたこと一度も無いもんね」
「っ・・・上等だよ・・・!」
分かりやすい挑発に乗ってしまった俺は、俺の家の稽古場でシルヴィと決闘することになった。
度が過ぎた時に止められるようにと、父さん・母さん・万理華さんが立ち会うことになった。
アスタリスクから帰省していた一織姉達や、まだ幼い妹達も見守る中・・・決闘が始まった。
「遅いよっ!」
「チッ・・・」
俺は予想以上に苦戦を強いられた。《神の拳》は家族の前で使えないが、強くなった俺なら《神の拳》を使わなくても勝てると思っていた。
しかし、現実は甘くなかった。
「はぁっ!」
「ぐはっ!?」
シルヴィの拳をくらい、吹き飛ぶ俺。
「・・・もう降参して。これ以上、ななくんを無駄に傷付けたくない」
「・・・ふざけんなッ!」
頭に血が上った俺は、遂に・・・
「来い!《神の拳》!」
《神の拳》を使ってしまった。
「ッ!?何で七瀬がアレを!?」
父さん達が驚愕していたが、そんなことはどうでも良かった。俺はシルヴィに接近して懐に入り・・・力を解放した。
「七瀬ッ!止めろッ!」
「《断罪の一撃》ッ!」
シルヴィが光の柱に呑み込まれた。そして光が消えた時、そこには・・・全身ボロボロのシルヴィが横たわっていた。
「あ・・・」
その姿を見て、俺は正気に戻った。
やってしまった・・・俺はとうとう、シルヴィまで傷付けてしまったのだ。
「あ・・・ああっ・・・あああああああああああああああっ!?」
シルヴィは病院へ搬送され、俺は父さんと母さんに問い詰められた。
「答えろ七瀬ッ!何でお前が《神の拳》を持ってんるだッ!」
「アレは家の地下室にあったはずよ!?厳重に封印していたはずなのに!」
「落ち着け千里!百愛!」
万理華さんが必死に二人を宥めていた。俺は訳が分からなかった。
「地下室・・・?《神の拳》は、零香姉がくれたんだよ・・・?俺へのプレゼントだって言って・・・」
「何・・・?」
「零香が・・・?」
怪訝な表情の父さんと母さん。
「・・・零香は明日、アスタリスクから帰ってくる。本人に聞いてみるしかない」
万理華さんはそう言うと、俺の肩に手を置いた。
「七瀬、《神の拳》は使うな。お前にはまだ早すぎる。幸いシルヴィは一命を取り留めたが、最悪死んでもおかしくなかったんだ。分かるな?」
「・・・うん。ごめんなさい」
俺の心は罪悪感でいっぱいだった。
この手でシルヴィを殺しかけた・・・その事実が、俺の心に重くのしかかっていた。
「・・・悪い七瀬。父さんちょっと取り乱したわ・・・」
「母さんも驚いちゃってつい・・・ゴメンね」
父さんと母さんが優しく声をかけてくれたが、俺は顔を上げることが出来なかった。
翌日、俺は病院へと足を運んだ。シルヴィはベッドの上で横たわっており、全身に包帯が巻かれていた。
その痛々しい姿に胸が痛くなった俺は、ただひたすらに昨日のことを謝り続けた。許してもらえないだろうし、罵られるのも覚悟の上だった。
だが・・・
「良かった・・・ななくん、元に戻ったんだね」
俺の目に映ったのは、シルヴィの笑顔だった。
「私は大丈夫だよ。だから気にしないで」
「いや、でも・・・」
言いかけた俺の口を、シルヴィが塞いだ。包帯の巻かれた手で。
「私が気にしてないんだから、君が気にする必要は無いんだよ」
シルヴィのその言葉は、俺にとって何よりも救われる言葉であり・・・それと同時に、何よりも辛い言葉だった。
自分を殺しかけた相手を、こんなにあっさり許すなんて・・・よほど優しい人でないと出来ない。俺はこんなに優しい女の子を、危うく殺しかけてしまったのだ。
とてもじゃないが、俺にはこの子の側にいる資格なんて無い・・・その日俺は、シルヴィから離れることを決めた。
俺が失意の中家へ帰ると、何やら稽古場の方で物音がした。帰宅したことを知らせるため、俺は稽古場を覗いた。
「・・・ただいま。シルヴィに会って・・・きた・・・よ・・・」
父さんと母さんが、血溜まりの中に沈んでいた。その光景を見た俺は、言葉を失ってしまった。
「・・・お帰り、七瀬」
血溜まりに沈む父さんと母さんの側には・・・血塗れの零香姉が立っていた。
「父さんと母さんに聞いたわ・・・《神の拳》で、シルヴィを殺しかけたそうね」
哀しげに笑う零香姉。手には同じく血塗れの、剣型の煌式武装を持っている。
「貴方に《神の拳》を渡したことを、二人から問い詰められてね・・・面倒だったし、殺しちゃったわ」
俺には、零香姉が何を言っているのか分からなかった。と・・・
「あれ?七瀬?」
「帰ってたのか?」
俺の後ろから、一織姉と万理華さんがやってきた。
「どうしたの?そんな所に突っ立って何を・・・」
稽古場の光景を見た一織姉と万理華さんが固まった。零香姉が力なく笑った。
「あら・・・来てしまったのね」
「い・・・いやあああああああああああああああっ!?」
一織姉の絶叫。万理華さんが震えている。
「れ、零香・・・お前がやったのか・・・?」
「・・・そうよ」
父さんと母さんの遺体を見下ろす零香姉。
「じゃあね、二人とも・・・安らかに眠ってね」
「・・・は?」
この人、今何て言った?父さんと母さんを殺しておいて・・・安らかに眠ってね?
「ふ・・・ふざけるなあああああああああああああああッ!」
俺は零香姉に突進した。とにかく許せなかった。
「《神の拳》ッ!」
両手に《神の拳》を装着し、零香姉に向かって拳を放つ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「・・・ごめんね、七瀬」
零香姉はそう呟くと、拳を避け・・・剣で俺の腹を突き刺した。鮮血が飛び散る。
「ごふっ・・・!」
「七瀬ッ!」
万理華さんが急いで駆け寄ってくる。零香姉は俺を万理華さんに向かって突き飛ばし、向かい側の出口から逃走した。
「七瀬!しっかりしろ!」
「七瀬ッ!七瀬ッ!」
「叫び声がしたけど、何かあったの!?」
「え・・・何これ・・・」
「お父様!?お母様!?七瀬!?」
皆の叫び声を聞きながら、俺の意識は沈んでいったのだった。
どうも~、ムッティです。
シャノン「ななっちの過去・・・ずいぶん重いよね・・・」
ちょっと重くしすぎた感はあるわ・・・
シャノン「あと、零香さんの目的が分からないよね・・・どうして《神の拳》をななっちに渡したのか・・・」
そこも追々明らかにしていけたらと思ってます。
とりあえず、もうそろそろこの章は終わります。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」