『あれ?この物語のヒロインってユリスだったっけ?」
いいえ、シルヴィです・・・一応。
それではいってみよー!
「ふぅ・・・良いお湯だった」
風呂から上がり、一息つく俺。
流石は天然の温泉・・・久し振りに入ったけど、やっぱり良いもんだ。
そんなことを思いながら窓の外を見ると、ユリスがいるのが見えた。
「この寒い中、何やってんだアイツ・・・」
玄関を開けて家の外に出てみると、ユリスは空を見上げてボーっとしていた。
「ユリス?」
「ん?あぁ、七瀬か」
俺が声をかけると、ユリスがこちらを振り向いた。
「うわ、寒っ・・・こんなところで何やってんだ?」
「いや、星が綺麗だと思ってな」
「星・・・?」
空を見上げる俺。そこには、満天の星空が輝いていた。
「ここは凄いな・・・これほどの星が見えるとは・・・」
「そうか?リーゼルタニアでも結構見えたと思うぞ?」
「ここ程じゃないさ。こんな満天の星空が見える場所、そうそうあるまい」
「そっか・・・喜んでもらえたなら何よりだよ」
ユリスの隣に立ち、改めて空を見上げる。
そういや、最近は星を眺めるなんてこともしなくなったっけな・・・
「・・・お前は愛されているのだな、七瀬」
ユリスが急にそんなことを言う。
「突然どうしたよ?」
「いや、先程三咲さん達と話をしてな・・・少し聞いたのだ。昔の七瀬のことを」
「昔の俺、ね・・・」
あの頃は酷いもんだったな・・・思い出しただけで嫌になる。
「お前は今も・・・ご両親に負い目を感じているのか?」
「・・・そりゃ感じるさ」
溜め息をつく俺。
「何の恩も返せないまま、二人ともあの世に逝っちまったからな・・・」
「七瀬・・・」
「前にユリスには話したけど・・・昔の俺は力を制御できなくて、色々な人を傷付けてしまった。その度にあの二人は、周りに頭を下げて謝って・・・俺のせいで散々迷惑をかけてきた。それを謝ることも出来なくて、何の恩も返せなくて・・・二人には、未だに申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
あの二人はきっと、『そんなこと気にするな』と言ってくれるだろう。だが、俺にとっては『気にするな』という方が無理だった。
「だからこそ・・・綺凛は凄いと思う。お父さんを助ける為に、アスタリスクで戦ってるんだから」
「ひょっとして、それで綺凛に力を・・・?」
「・・・そうかもな」
俺は父さんに何もしてあげられなかったけど、綺凛は違う。お父さんを助けようと、必死に頑張っている。
だから俺は、アイツの力になりたいと思ったのかもな・・・
「綺凛の伯父さんに腹が立ったのは・・・万理華さんの姿を見てきたからかな。両親が亡くなった後、俺達の面倒を見てくれたのは万理華さんだから。あの人なら、自分の甥や姪をあんな風に扱わない・・・そう思った」
「大切に思っているのだな。万理華さんのことも」
「当たり前だろ。あの人がいるから、今の俺達がいるんだしな」
本当に、万理華さんには感謝してもしきれない。俺のアスタリスク行きを後押ししてくれたのもあの人だし。
「そうか・・・なら、万理華さんにはしっかり恩を返さないとな」
「・・・だな」
ユリスの言葉に頷く俺。
「とりあえず、当分の目標は《獅鷲星武祭》の優勝か・・・ユリスは、国王の権利を拡大したいんだよな?」
「うむ。その通りだ」
頷くユリス。
「あの国を変える為には、今のところそれが一番良い方法だからな。これ以上、統合企業財体に大きい顔はさせん」
そう語るユリスの表情は、忌々しげに歪められていた。
「これ以上、犠牲者を出してなるものか・・・」
「・・・その犠牲者っていうのは、《孤毒の魔女》のことか?」
「ッ!?」
ユリスが息を呑む。やっぱりか・・・
「何故それを・・・」
「ユリスと《孤毒の魔女》と旧知の仲らしいことを、綾斗から聞いてな。近い年齢で旧知の仲、それもリーゼルタニアに来ていたとなると・・・《孤毒の魔女》は、孤児院にいたんじゃないか?お前はアイツに『戻ってこい』と言ってたらしいしな」
「・・・本当に敵わないな、お前には」
ユリスが脱力する。そして懐から、一枚の写真を取り出した。
「この写真、覚えているか?」
「これって・・・」
幼いユリスと、幅広い年代の子供達が写っている写真だ。シスターらしき女性達も写っている。
これは間違いなく・・・
「ユリスの部屋に飾ってあった・・・孤児院の子供達との写真だよな?」
「あぁ。私の隣に写っている、栗色の髪をした女の子・・・それがオーフェリアだ」
「・・・嘘だろ?」
髪や瞳の色、目つきや雰囲気・・・全てが違っている。
全くの別人だろコレ・・・
「何がどうなったら、あそこまで変わるもんなんだ・・・?」
「オーフェリアは、実験材料にされたのだ」
苦々しい表情のユリス。
「研究内容は・・・後天的に《星脈世代》を作り出すこと、だ」
「・・・本気で言ってんのかよ」
人権無視もいいところだ。しかもそれが事実なら・・・
「《孤毒の魔女》は・・・元々《魔女》どころか、《星脈世代》ですらなかったってことか・・・?」
「あぁ。それが今や世界最強の《魔女》だ。本当に恐れ入る」
吐き捨てるように言うユリス。
「普通なら実験は成功ということで、大々的に報じられていることだろう。だが何も報じられないということは・・・何かしらの問題があるということだ」
「問題か・・・そりゃあるだろうな。《星脈世代》じゃなかった人間が、あれほどの力をノーリスクで使えたら奇跡だろ」
「同感だ。事実、オーフェリアは一度力を暴走させている。結果として研究所は崩壊、ソルネージュの特殊部隊がオーフェリアを救助したのだ」
「だからレヴォルフにいるのな・・・ひょっとして、その実験を行なったのはフラウエンロープか?」
「ご名答だ。その後どんな取引があったのかは知らないが、オーフェリアの身柄はフラウエンロープからソルネージュへ移された」
「やっぱりか・・・」
アルルカントも、運営母体のフラウエンロープも、ロクなことしないな・・・
「ってか、そもそも何で《孤毒の魔女》はフラウエンロープの実験材料に?」
「孤児院の借金の抵当だ。強制的に徴収され、ある日突然孤児院から姿を消したのだ」
悔しそうに唇を噛むユリス。
「当時の私は何も知らなくてな・・・シスター達に聞いても教えてくれず、兄上に泣きついて調べてもらったのだ。当然、何とかオーフェリアを取り戻そうとしたが・・・私は自分の無力さを思い知った。統合企業財体に意見できる者など、誰もいなかったのだ」
「ユリス・・・」
そっか・・・だからユリスは、あれほどまでにリーゼルタニアを変えようと・・・
「前々回の《王竜星武祭》を見た時は、自分の目を疑った。まるで別人のように変わり果てたオーフェリアが映っていたのだから。とてもではないが、あの・・・優しくて植物の世話をするのが大好きだった、あのオーフェリアとはまるで違ったのだ」
そういや、ユリスが植物好きなのは親友の影響だって言ってたっけ・・・
あれは《孤毒の魔女》のことだったんだな・・・
「アスタリスクに編入してすぐ、私はオーフェリアを探し出して説得を試みた。しかし聞き入れてもらえず、『どうしてもと言うなら決闘で勝て』と言ってきたのだ。その結果は・・・言わなくても分かるだろう」
「・・・あぁ」
確かにユリスは強い。だが、《孤毒の魔女》の強さは次元が違う。
こう言ってはユリスに申し訳ないが、勝負にならないだろう。現に今回も、《孤毒の魔女》に完膚なきまでに叩きのめされているのだから。
「オーフェリアは強い。二度も敗れている以上、今の私では相手にならないことはよく分かっている。だが、それでも・・・」
拳を強く握るユリス。
「それでも私は・・・アイツを諦めることが出来ない。もっと強くなって、私はアイツを・・・オーフェリアを取り戻す」
そこまで言うと、ユリスが自嘲気味に笑った。
「・・・滑稽だろう?二度も痛い目を見ている無様なヤツが、それでもまだ痛い目を見ようとしているのだから」
ユリスの表情はあの時・・・ユリスと初めて出会った日、周囲に心を開かない理由を聞いた・・・あの時に似ていた。
だから俺は・・・
「・・・そんなわけないだろ」
ユリスを抱き締めた。あの時と同じように。
「痛い目を見て、叩きのめされて・・・それでも前を向いて立ち上がれるんだ。お前は凄いヤツだよ」
「七瀬・・・」
急に抱き締められても、暴れることなく俺に身体を委ねてくれているユリス。この一年で育んできた信頼関係が、確かに感じられた。
「俺なんて、前を向くことも出来なかった・・・いや、向いてるつもりになってたって言った方が正しいか。情けないもんだよ」
シルヴィと戦う為にアスタリスクに行ったっていうのに、《神の拳》を使うことを躊躇ったり、仲間を信じることが出来ずに距離を置こうとしたり・・・
ホント、思い返してみるとダメなところしかない。
「・・・情けないものか」
抱き締め返してくるユリス。
「私が前を向けるのは・・・七瀬、お前のおかげだ。あの日のお前の言葉に、私は救われたのだ。だからこそ、私はいつだって前を向くことが出来る」
あの時と違って、ユリスは俺の腕の中で微笑んでいた。
「側にお前がいるのだ。これほど心強いことはあるまい。これからもよろしく頼むぞ」
「・・・おう。任せとけ」
もう外の寒さを感じないほど、俺の身体はユリスの温かさを感じていたのだった。
どうも~、ムッティです。
いやー、美しい友情だね。
シャノン「いや、友情っていうか・・・お姫様ってヒロインだったっけ?」
ヒロインはシルヴィ・・・のはず。
シャノン「そこは断言しようよ!?」
いや、《王竜星武祭》編のユリスがメッチャ可愛くなってたから・・・
ユリスへの愛に溢れてしまった結果、こうなってしまったんだ・・・
シャノン「相変わらずの浮気性だね・・・」
っていうか、今一度この作品を読み返してみるとさ・・・
ユリスがヒロインの方がしっくりこない?
シャノン「嘘でしょ!?これまでの話を全否定!?」
いや、最初の方のユリスが七瀬に心を開くシーンあるじゃん?
あそこからユリスヒロインルートでもおかしくなかったよね。
シャノン「まぁ確かに・・・フラグは立ったよね」
だよね?まぁ、最初からシルヴィをヒロインにするって決めてたからスルーしたけど。
シャノン「どうすんの?まさかのハーレム化?」
ハーレムまではいかないと思うけど・・・
ユリスを含め、何人かをヒロインにする案は検討してるわ。
シャノン「軸がブレッブレだね・・・」
まぁ連載して二年ぐらい経つからねー。
シャノン「なお、《空白の七ヶ月》が二度もあった模様」
スイマセン、ホントスイマセン・・・
とりあえず構想を練っていくので、今後の展開をお楽しみに。
それではまた次回!以上、ムッティでした!
シャノン「またね~!」