パートナー
星導館に入学して、早くも二ヶ月が経とうとしていた。
俺は相変わらず、序列九位のままだ。いや、維持しているというべきか。序列上位者には挑まず、公式序列戦の挑戦者には勝っているといった状況だ。《冒頭の十二人》の座に執着は無いが、戦いに負けるのは癪に障るからな。
そんなこんなで、今日も平和な朝を・・・
「夜吹いいいいいッ!」
「助けてえええええっ!」
迎えられなかった。登校してくると、何故か夜吹がユリスに追い掛け回されていた。
夜吹の奴、今日は早めに登校するとか言ってたけど・・・何をやらかしたんだ?
「あ、ななっち!おはよー!」
クラスメイトの一人、シャノン・ソールズベリーが挨拶してくれる。俺とユリスの関係に興味津々だった、あの赤髪の女の子である。
「おはようシャノン。何があったんだ?」
「んー、夜吹くんの自業自得だね」
苦笑するシャノン。
「夜吹くん、また学内新聞でお姫様の記事を書いたんだよ。それがお姫様の不興を買っちゃったの」
「どんな記事なんだ?」
「これだよ」
シャノンが空間ウィンドウを開く。そこには・・・
『丸くなった《華焔の魔女》、これも《覇王》との愛の影響か!?』
なるほど、こりゃユリスも怒るわ・・・ちなみに《覇王》とは、いつの間にか付いていた俺の二つ名である。
ってか夜吹の奴、余計なこと書きやがって・・・
「・・・シャノン、残念なお知らせだ。今日限りでクラスメイトが一人この世を去る」
「それ絶対夜吹くんのことだよね!?」
「さて、消すか・・・」
「止めたげてよぉ!」
シャノンが必死で俺を止めようとしている中、夜吹はユリスに追い詰められていた。
「・・・夜吹、覚悟はいいな?」
「ま、待ってくれ!これに訳があるんだ!」
「訳だと?」
怒り心頭のユリスに、夜吹が必死で言い訳していた。
「俺はただ、お姫様が七瀬と出会ってから変わったって書いただけなんだよ!でも部長が『面白みに欠けるわね』とか言い出して、見出しと内容をいじったんだ!これは俺のせいじゃない!」
「・・・その部長とやら、ろくな奴じゃないな」
「ごもっとも」
苦笑する夜吹。
「これで分かってくれたか?俺は何も悪く・・・」
「いや、お前が悪い」
「何で!?」
「そもそも二ヶ月前、私と七瀬が恋人だという嘘の記事を書いたのはお前だ!お前に非があるだろう!」
「うっ・・・」
言葉に詰まる夜吹。一方、ユリスは身体から炎を迸らせていた。
「さて・・・覚悟はいいな?」
「ヒィッ!?」
「・・・うるさい」
机に突っ伏して寝ていた紗夜が、むくりと起き上がった。
あ、ヤバい・・・睡眠を妨害された時の紗夜は、メッチャ機嫌が悪くなるんだよな・・・
「・・・三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム」
自分より巨大な銃を展開し、ユリスと夜吹に銃口を向ける紗夜。星辰力が急速に高まっていき、マナダイトが輝きを増す。
「マズい!?シャノン、逃げるぞ!」
「え・・・きゃっ!?」
シャノンを抱えて教室を飛び出す。その瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡った。
あー、やっちゃった・・・
「・・・クラスメイト、何人いなくなったかな」
「怖いこと言わないでよ!?」
シャノンのツッコミ。結局クラスメイト達は無事だったが、主犯の紗夜と元凶のユリス&夜吹は谷津崎先生の怒りを買い、無事では済まなかったのだった。
*****
「全く・・・今日は酷い目に遭った・・・」
「お疲れ」
肩を落とすユリスに、苦笑しながら労いの言葉をかける俺。授業も終わり、俺達は寮へ帰る途中である。
「おのれ夜吹、沙々宮・・・許さんぞ」
「まぁまぁ、そう怒んなって」
「ハッ、相変わらずだな」
そんな声が聞こえる。振り向くと、レスターが呆れ顔で立っていた。後ろには、ランディとサイラスもいる。
「おぉ、レスターじゃん!聞いたぞ、もうすぐ《冒頭の十二人》復帰だって?」
「あぁ、ようやく序列十七位まできたぜ」
俺との決闘に負けたレスターは、《冒頭の十二人》から一気に序列外となった。
だが、そんなことで凹むレスターではない。決闘や公式序列戦を利用し、遂に序列十七位となったらしい。
凄いな・・・
「今月の公式序列戦で《冒頭の十二人》に挑戦するつもりだ」
「そうか・・・私を指名できない以上、七瀬を指名するつもりか?」
ユリスの質問に、レスターは首を横に振った。
「いや、七瀬は指名しねぇ。戦うなら同じ土俵に立ってから・・・《冒頭の十二人》に返り咲いてからだ」
「そっか・・・次に戦えるのを楽しみにしてるよ」
「そうやって余裕をかましてられるのも今のうちだぞ、七瀬!」
ランディが前に出てくる。
「次こそはレスターが、お前をコテンパンにするんだからな!覚悟しとけ!」
「あ、序列外になったランディじゃん」
「それを言うなあああああっ!」
頭を抱えるランディ。ランディも序列七十二位で《在名祭祀書》入りしていたのだが、先日の決闘で挑戦者に敗れてしまった。結果、序列外になってしまったのである。
「ドントマインド」
「普通にドンマイって言えよ!逆に腹立つわ!」
ランディのツッコミ。
「ってか、サイラスは決闘とかやらないのか?」
「ぼ、僕はそういうのはちょっと・・・弱いですし」
「でも《魔術師》なんだろ?」
「僕の場合、能力が弱いので・・・」
小さい声でボソボソと話すサイラス。確かに、戦闘向きって感じじゃないな。
「じゃ、俺達はもう行くぜ。訓練があるからな」
「熱心だなぁ」
レスターの言葉に感心する俺。
「もうすぐ《鳳凰星武祭》だからな。俺はランディと組んで出場するつもりだ」
「なるほど、道理で気合いが入ってるわけだ」
「嫌でも気合いは入るさ。だが、まずは今月の公式序列戦だ。《冒頭の十二人》なら、トーナメントで比較的楽な場所に配置される可能性が高いからな」
「あー、そういうことか」
一回戦から潰し合いにならないよう、有力な選手は分散されるからな。《冒頭の十二人》なら尚更だ。
「お前らもコンビを組んで出るのか?」
「んー、ユリスと一緒なら出ても良いかなって思ったんだけど・・・どうやらユリス、俺をご所望じゃないみたいなんだ」
「は・・・?」
「だ、誰もそんなことは言ってないぞ!?」
慌てて否定するユリス。
「私はただ、お前に甘えたくないだけだ!きちんと自分でパートナーを探して、自分の力で出場したいのだ!」
「ハイハイ、分かってるって」
俺は苦笑した。ユリスはホント不器用だなぁ・・・
「・・・まぁ気持ちは分かったが、急いだ方が良いぞ。《鳳凰星武祭》のエントリー締め切りは今月いっぱいだしな」
「わ、分かっている!必ず間に合わせる!」
「それなら良いが・・・じゃ、またな」
そう言って、レスター達は去っていった。
「・・・なぁユリス」
「な、なんだ?」
「真面目な話、どうしてもパートナーが見つからなかったら・・・その時は諦めて俺と出よう。出場できない事態だけは避けたいだろ?」
「うっ・・・それはそうだが・・・」
言葉に詰まるユリス。
以前話してくれたのだが、ユリスは母国の孤児院を救いたいらしい。その孤児院は年々孤児が増える一方、資金繰りが厳しくなっているそうだ。孤児院を救えるだけのお金を手に入れる為、ユリスはどうしても《鳳凰星武祭》で優勝したいのだという。
それなら、《鳳凰星武祭》に出場できないと話にならない。
「ユリスは甘えたくないって言うけど、俺は前に言ったろ?もう一人で頑張るな、いつだって頼ってくれて良いって」
「七瀬・・・」
「だから約束だ。もしパートナーが見つからなかったら、その時は俺と出よう。俺なんかじゃ頼りないかもしれないけど、出れなくなるよりマシだろ?」
「た、頼りなくなんかない!私は誰よりもお前のことを頼りにしている!」
赤面しながら叫ぶユリス。
「ただ・・・お前だって、《鳳凰星武祭》に出るなら早くパートナーを見つけないといけないだろう?私を待ってくれるのはありがたいが、申し訳ないというか・・・」
「心配すんな。俺は元々、《鳳凰星武祭》に出るつもりはなかったんだ。ただ、ユリスと一緒なら出ても良いかなって思った。だから、ユリス以外の奴と出るつもりは無いさ」
「そ、そうなのか・・・?」
「あぁ、だからお前は安心してパートナーを探せ。最悪見つからなくても俺がいるんだから、焦ったり妥協したりする必要は無い。コイツとだったら出たい・・・そう思えるパートナーを探すんだぞ」
「う、うむ!頑張るぞ!」
「そうそう、その意気だ」
ユリスの頭を撫でる俺。
「・・・ありがとう、七瀬」
頬を赤く染めつつ、小さく呟くユリスなのだった。
こんにちは、ムッティです。
昨日、藍井エイルさんの活動休止前最後のライブに行ってきました。
楽しくて、盛り上がって、感動して・・・
エイルさん、ありがとう。
復帰してくれる日を、いつまでも待っています。
・・・小説と全く関係無い話でスミマセン(笑)
それではまた次回!