「皆おはよう。呼び出したりしてすまないね」
翌朝、俺達はヨルベルトさんに集められた。昨日の襲撃事件について、話したいことがあるらしい。
「実は警察から連絡があって、昨夜の襲撃犯の正体が分かったそうだ」
「誰なのだ?」
ユリスの問いに、ヨルベルトさんが苦い顔をする。
「ギュスターヴ・マルロー。あの《翡翠の黄昏》に加担していたメンバーの一人だ」
「なっ!?《翡翠の黄昏》だと!?」
驚愕しているユリス。
《翡翠の黄昏》とは、アスタリスク史上最大の人質テロ事件だ。犯行グループは総勢七十七人にも及び、星猟警備隊の隊長が単独で解決した事件としても知られている。
「首謀者や主要メンバーは逮捕されたって聞いたけど、逃げ延びた人達もいたんだ?」
「えぇ。ギュスターヴ・マルローを含め、七人程逃げ延びています」
綾斗の疑問に、クローディアが答える。
「《翡翠の黄昏》を起こした七十七人のうち、およそ四分の一は金銭目的で加担していました。ギュスターヴ・マルローは、その中の一人だったようですよ」
「そうみたいだね。二つ名は《創獣の魔術師》・・・長い時間をかけて具現化した幻獣を使役できるようだ」
「なるほど、幻獣ですか・・・」
ヨルベルトさんの説明に納得する綺凛。昨日の獣も幻獣だったのか・・・
と、ヨルベルトさんが俺を見た。
「・・・ところで七瀬くん」
「何ですか?ベルトルトさん?」
「ヨルベルトさんね。わざとなの?わざと間違えてるの?」
綾斗のツッコミ。ヨルベルトさんは苦笑しながら、俺の後ろを見た。
「ずっとツッコミたかったんだけど・・・その子は寝ているのかい?」
「あぁ、コイツですか?」
俺の背中では、紗夜がスースー寝息を立てていた。
「何で寝てるのだお前はあああああっ!?」
「うきゅっ!?」
ユリスに頭を引っぱたかれ、目を覚ます紗夜。
「・・・ユリス、人の安眠を邪魔しないでほしい」
「大事な話の最中だろうが!よく眠れるなお前は!」
「えっへん。凄いだろう」
「褒めてないわ!大体、何で七瀬が紗夜をおぶっているのだ!?」
「半分寝ながら歩いてたから、危ないなって思ってさ。ここまでおぶってきたら、いつの間にか熟睡してたんだよ。起こすのも可哀想だから、そのまま寝かせてた」
「七瀬の背中は温かくて安心する。お昼寝には最適」
「まだ朝だからな!?起きてからそんなに経ってないからな!?」
ユリスの全力ツッコミ。そんなやり取りに、全員が苦笑していた。
「まぁそうカッカするなよユリス。要はそのドクター・マルコーを捕まえれば、万事解決ってことだろ?」
「ギュスターヴ・マルローな!?ハガレンの世界じゃないぞここは!?」
「お前よくハガレンとか知ってたな・・・」
ネタが通じたことに、不覚にも感動してしまう俺。
と、ヨルベルトさんが咳払いする。
「まぁそんなわけで、警察からは護衛の申し出がきているけど・・・どうする?」
「不要だ。足手まといになるだけだしな」
バッサリ切り捨てるユリス。ヨルベルトさんも苦笑していた。
「まぁそう言うだろうと思ったよ。ただし、身の回りには十分注意してくれ」
「分かっている。話はそれだけか?」
「あぁ。ただ、ユリスと天霧くんにはまだ話があるから残ってくれ。あと七瀬くんも」
真剣な表情のヨルベルトさん。真面目な話らしいな・・・
「・・・クローディア、紗夜を頼んだ」
「分かりました」
クローディアが紗夜をおぶり、綺凛と共に部屋を出て行く。
「兄上、話とは何だ?」
「んー、そうだね・・・」
ヨルベルトさんは紅茶を飲むと、笑顔でとんでもないことを言ってきた。
「七瀬くんと天霧くん・・・どっちかユリスと結婚してくれないかな?」
「脳天かち割るぞアンポンタン」
「ちょ、七瀬!?こんな人だけど仮にも国王だよ!?」
「いや、天霧くんも結構酷いこと言ってるよね」
綾斗の言葉にツッコミを入れるヨルベルトさん。一方、ユリスは赤面していた。
「な、何を言い出すのだ兄上!冗談にも程があるぞ!」
「これでも本気さ」
ヨルベルトさんが真顔になる。
「ユリスが《鳳凰星武祭》で優勝したことで、統合企業財体にとってユリスの価値は上がったことだろう。今はまだ僕の方が彼らにとっての価値は高いだろうけど、今後のユリスの活躍次第では僕の価値を抜くことになる。そうなったらこの国の女王に即位させられて、意にそぐわない相手との結婚を強要させられるかもしれない」
「っ・・・それは・・・」
言葉に詰まるユリス。なるほど、その可能性は大いにあるな・・・
「だから今のうちに、少しでも気の合う相手を見つけておく必要がある。今すぐ結婚しろとは言わないけど、婚約ぐらいはしておいた方が良い。七瀬くんのことも天霧くんのことも、嫌いではないんだろう?」
「そ、それは勿論・・・だ、大事な友人だからな・・・」
顔を赤くしながら言うユリス。
「だ、だが!それとこれとは話が別だろう!大体そんな考えで結婚を迫るなど、七瀬にも綾斗にも失礼ではないか!」
「無礼は重々承知の上だよ。その上で聞くけど・・・二人とも、ユリスのことはどう思っているのかな?身内贔屓かもしれないけど、ユリスは魅力的な女の子だと思うよ?」
「あ、兄上!?」
ユリスが赤面しながら止めようとするが、ヨルベルトさんは止まらない。
「この国は統合企業財体の傀儡国家だけど、王族ともなると不自由な思いはしないはずだよ?そういった点も魅力的じゃないかな?」
「兄上っ!いい加減に・・・」
「まぁ確かに、仰る通りだと思います」
ユリスの言葉を遮る俺。
「ユリスは魅力的な女の子だと、俺も思います」
「な、七瀬!?何を言っている!?」
「可愛いし、ちょっと無愛想だけど実は凄く優しいし、プライドは高いけど人の心により添える良いヤツだし・・・」
「止めろおおおおおっ!?」
両手で顔を覆うユリス。耳まで真っ赤になっている。ヨルベルトさんは満足げだ。
「だったら・・・」
「だからこそ、ユリスの意にそぐわない結婚は出来ません」
ヨルベルトさんの言葉を遮り、キッパリと断言する俺。
「今ユリスは、アスタリスクで自分の願いを叶える為に戦っています。俺はそんなユリスの力になると約束しましたし、それを違えるつもりはありません」
「・・・結婚することは、ユリスの力になることではないと?」
「ユリスにその意思が無い以上、俺はそう考えます。むしろ結婚してしまえば、俺はユリスの枷になりかねない・・・それだけは御免です」
「七瀬・・・」
俺を見つめるユリス。俺はヨルベルトさんを見据えた。
「ユリスは大切な友人ですが、それと結婚とは話が別です。それに俺には、真剣に交際している彼女がいますので。もう、彼女の手を離すわけにはいかないんです」
「その彼女というのは・・・《戦律の魔女》のことかな?熱愛報道が出ていたけど」
「えぇ、その通りです」
「ちょ、七瀬!?認めちゃって良いの!?」
綾斗が慌てて割り込んでくる。溜め息をつく俺。
「ヨルベルトさんは、本気でユリスの今後を心配して話を持ちかけてきてる。なら、俺も本気でこの人と話す必要がある。誤魔化すのは失礼だ」
「・・・有り難いね」
柔らかく微笑むヨルベルトさん。
「ユリスには、キミのような男と結婚してほしいんだけど・・・どうやらキミの決意は固いようだね」
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
深々と頭を下げる俺。
「気にしないでくれ。僕も色々と悪かったね。ただ・・・」
「ただ・・・?」
俺が首を傾げると、ヨルベルトさんはニヤリと笑った。
「さっきも言ったけど、この国は統合企業財体の傀儡国家だ。つまり統合企業財体の不利益にならないなら・・・重婚だって認められるだろう」
「マジで!?」
「マジで。現に僕も妻であるマリアと結婚してるけど、多くの愛人達がいるからね」
「モテモテかアンタ!?」
「フッフッフッ・・・国王ともなるとモテるのさ」
「いや、統合企業財体から送られてきているだけだろう」
呆れているユリス。愛人が認められてるって・・・この国ヤバくね?
「まぁそんなわけで、気が変わったらいつでも言ってくれ。今後ユリスが、キミという枷を必要とする時が来るかもしれないし」
「な、何を言っているのだ兄上!?」
「ハハッ、その反応はあながち満更でもない感じかな?」
「い、いい加減にしろおおおおおっ!?」
いたたまれなくなったのか、部屋を飛び出していくユリス。
やれやれ・・・
「綾斗、ユリスを追ってくれ。襲撃の件もあるし、一人にしておくのは危険だ」
「了解」
苦笑しながらユリスを追う綾斗。と、ヨルベルトさんが溜め息をつく。
「・・・七瀬くんも言ってくれたけど、あの子は優しい。女王になってしまったら、否が応でも統合企業財体の言うことに従わざるをえない。あの子はただ傷つくだけだ」
「だから政治に関心も無く、自らの意見も主張しないボンクラを演じてるんでしょう?統合企業財体にとっては、これ以上ないほど扱いやすいでしょうからね」
「ハハッ、バレてたか。まぁ、自堕落な生活を満喫しているのは事実だけどね」
笑うヨルベルトさん。この人、本当にユリスのことを大切に想ってるんだな・・・
「・・・七瀬くん」
真剣な表情で俺を見るヨルベルトさん。
「ユリスの兄としてお願いしたいんだけど・・・どうかあの子の力になってあげてほしい」
「言われなくてもそのつもりです」
俺の返事に、満足そうに笑うヨルベルトさんなのだった。
二話連続での投稿となります。
そしてここで残念なお知らせが・・・
シャノン「どうしたの?」
ストックが尽きました・・・
シャノン「oh・・・」
早急に執筆活動を進めたいと思いますが・・・
少し間が空いてしまうかもしれません・・・
シャノン「構想は練ってあるんでしょ?」
ある程度はね。
なるべく早めに書きたいと思います。
シャノン「≪七ヶ月の空白≫の再来か・・・」
≪翡翠の黄昏≫みたいに言わないで!?
今回はそんな長期間空くことはない・・・はず。
シャノン「断言はしないのね・・・」
とりあえず、少し時間を下さい。
申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。
それではまた次回!
・・・あると良いな。
シャノン「不吉なこと言わないの!またね~!」