翌日、俺は界龍の正門の前で皆に見送られていた。
「色々世話になった。ありがとう」
「うむ。儂も楽しかったぞ」
笑っている星露。
「これからも鍛錬に励め」
「いつでも遊びに来なよ?待ってるからね」
「《獅鷲星武祭》に向けて、お互い頑張りましょう」
「次こそは負けないと、《叢雲》と《華焔の魔女》に伝えておいてくれ」
暁慧、セシリー、虎峰、沈雲が言葉をかけてくれる。
「おう、お前らもありがとな。冬香にもよろしく伝えておいてくれ」
別れの挨拶をしていると、沈華が俯いているのに気付いた。
「沈華?どうした?」
「・・・何でもない」
ふいっと顔を背ける沈華。沈雲が苦笑しながら、沈華の背中を押す。
「ほら、沈華」
「お、押さないでよ・・・」
そう言いつつ一歩前に出た沈華は、不安げな顔で俺を見た。
「れ、連絡くらい・・・寄越しなさいよ・・・?」
「あぁ、また連絡するよ」
沈華の頭を撫でる俺。沈華の顔が赤く染まる。
「のう沈雲・・・あれは本当に沈華なのかえ・・・?」
「えぇ、そのはずですよ。七瀬と出会ってから、すっかり乙女になった感じがします」
「フッ、恋は女を変えるのさ・・・」
「うるさいですよセシリー。ちょっと黙って下さい」
「虎峰!?アンタ七瀬の辛辣さが移ってない!?」
「やかましいぞセシリー。そういうところが残念なんだ」
「大師兄まで!?」
背後で皆がヒソヒソ話しているが・・・完全に丸聞こえだった。沈華が耳まで真っ赤になり、プルプル震えている。
「い・・・いい加減にしなさああああああああああいっ!」
沈華の絶叫が響き渡るのだった。
*****
俺は界龍を出た後、商業エリアへとやってきていた。例の熱愛報道があった為、変装をして顔がバレないようにしている。
指定された店の前で待っていると・・・
「なーなくんっ!」
「うおっ!?」
いきなり左腕が柔らかさに包まれた。見ると、変装したシルヴィが抱きついている。
「・・・気配消して近付くの止めてくんない?」
「えへへ、ゴメンね。でも気付いてたでしょ?ななくん、星辰力の流れに鋭いし」
「・・・まぁな」
とはいえ、いきなり抱きつかれるとは思わなかった。俺の左腕が、シルヴィの胸の谷間に挟み込まれている。ヤバい、理性が崩壊しそう・・・
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、シルヴィは穏やかに微笑んでいた。
「ななくん・・・強くなったね」
「え・・・?」
「フフッ、私だってそれくらい分かるよ?《鳳凰星武祭》の時とは明らかに違うもん。界龍でかなり鍛えたんだね」
「・・・やっぱシルヴィには敵わないな」
苦笑する俺。シルヴィがえっへんと胸を張る。
「これでもななくんの彼女だもん。まぁこの四ヶ月、一度も会ってなかったけど」
「すいませんでした」
一応マメに連絡は取っていたが、結局会いはしなかった。シルヴィはツアーで忙しかったし、俺も鍛錬の日々を送ってたからな・・・
しかも冬期休暇にリーゼルタニア行くって言った時の、シルヴィの反応といったら・・・
『ふーん・・・私とは会わないのに、ユリスさん達とは会うんだ・・・しかもユリスさんの故郷に行くんだ・・・私は放置するんだ・・・ふーん・・・』
あまりの怖さに土下座して謝った俺は、シルヴィと予定を合わせてデートすることになった。それが今日なのである。
「ホントすいませんでしたシルヴィアさん・・・責任を取って切腹します」
「いつの時代!?ちょ、刀なんて何処から取り出したの!?止めてえええええっ!?」
必死に止めに入るシルヴィなのだった。
*****
「もうっ!ななくんのバカっ!」
「すいませんでした」
あの後シルヴィに刀を取り上げられ、そのまま説教タイムに突入してしまった。ようやく終わって歩き出したが、まだシルヴィはへそを曲げている。
もっとも、俺の手をしっかり握ってはいるが。
「ダメ、許さない。私は軽い女じゃないもん」
「あ、クレープ売ってるじゃん。奢るけど食べる?」
「あ、食べる!イチゴのやつが良い!」
おおう、チョロい・・・大丈夫か俺の彼女・・・
そんな心配を抱きつつ、二人でクレープを食べながら商業エリアを歩く。
「何処行こっか?」
「シルヴィは行きたいところ無いのか?」
「んー・・・」
考え込むシルヴィ。
「・・・ねぇ、デートって何処へ行くものなの?」
「今さら!?」
「だってしたことないもん」
「いや、俺だって無いけど・・・」
「ホントにぃ?」
疑いの眼差しで見てくるシルヴィ。いやいやいや・・・
「マジで無いって。強いて言うなら・・・ユリスと洋服を見に行ったり、クローディアと映画を観に行ったり、綺凛と泳ぎの特訓の為にプール行ったり、紗夜と銃の専門店に行ったりしたくらい?」
「この女たらしいいいいいいいいいいっ!」
シルヴィが殴りかかってきた。
「ちょ、痛い痛い!全部付き合う前の話だから!」
「言い訳無用だよおおおおおおおおおおっ!」
「止めてええええええええええっ!?」
悲鳴を上げる俺なのだった。
*****
「ふんっ」
「ハァ・・・」
そっぽを向くシルヴィと、溜め息をつく俺。洋服を見に来た俺達だったが、シルヴィの不機嫌さで重い雰囲気が漂っていた。
「シルヴィはどういう服が好きなんだ?」
「知らないっ」
この調子である。どうしたものかと考えていると・・・
「あれ?ななっち?」
声をかけられた。振り向くと、シャノンが立っていた。
「おー、シャノン。ってか、よく俺だって分かったな。一応変装してるんだけど」
「そりゃ分かるよ。ななっちほどじゃないけど、私も星辰力の流れには鋭い方だし。それほどの星辰力を持ってる人なんて、ななっちぐらいしか知らないもん」
笑いながら答えるシャノン。なるほどな・・・
「っていうか、久しぶりだね。界龍での修行は終わったの?」
「まぁな。明日からリーゼルタニアへ行くから、今日は彼女とデートなんだ」
「彼女?」
シャノンがシルヴィを見る。おずおずと頭を下げるシルヴィ。
「こ、こんにちは・・・」
「こんにちは。シルヴィア・リューネハイムさん」
「「!?」」
驚愕する俺達。え、バレてる!?
「な、何を言ってるのかな?私はただの一般人・・・」
「私、アナタのライブに何回か行ったことがあるんです。その時に感じたアナタの星辰力の流れと、今アナタから感じる星辰力の流れが一緒なんですよ」
にこやかに言うシャノン。コイツ、鋭いな・・・
「例の熱愛報道は、やっぱり本当だったんですね。そうじゃないかとは思ってました」
「どうして・・・?」
「ななっちが暴走したあの試合、私は観客席で見てましたから。あんな愛おしそうな表情してたら分かりますよ」
「うぅ・・・」
恥ずかしくなったのか、手で顔を覆うシルヴィ。シャノンが俺を見た。
「ななっち、ちゃんとシルヴィアさんを大切にしないとダメだよ?危険な状態だったななっちを、身体を張って助けてくれたんだから」
「・・・あぁ、分かってる」
頷く俺。
「ずっと想い続けて、ようやくまた会えたんだ。もう離したりしないさ」
「ななくん・・・」
「うん、それでこそななっちだね!」
笑顔で俺の肩を叩くシャノン。
「じゃ、デートの邪魔しちゃ悪いから行くね。年が明けたらちゃんと学校来てよ?ななっちがいないとつまんないし、クラスの皆も寂しがってるんだから」
「・・・皆、怖がってないか?その・・・試合であんな暴走したし・・・」
「そんなわけないでしょ」
呆れた表情のシャノン。
「普段のななっちを知らない人ならともかく、私達はよく知ってるもん。あの程度でななっちから離れる薄情者、少なくともウチのクラスにはいないよ」
「・・・そっか。ありがとな、シャノン」
「どういたしまして。じゃあまた学園でね。シルヴィアさんも、お仕事頑張って下さい」
「あ、うん・・・ありがとう」
シャノンは笑顔で手を振り、店を出て行った。
「・・・ホント、良い友達を持ったわ」
「フフッ、ホントだね」
微笑むシルヴィ。そっと俺の手を握ってくる。
「・・・離さないでね」
「・・・当たり前だろ」
シルヴィの手を握り返す俺。
「だからシルヴィも・・・離れるなよ」
「勿論・・・ずっと側にいるよ」
笑い合う俺達なのだった。
*****
「ここで大丈夫だよ」
「そう?」
一日デートを楽しんだ俺達は、クインヴェールのすぐ近くまでやってきていた。辺りはすっかり暗くなり、静けさが漂っている。
「それにしても、仕事大変だな・・・年末いっぱいあるんだろ?」
「うん、カウントダウンコンサートで最後かな。それが終わったら、少しお休み出来るんだけどね」
笑っているシルヴィ。
生徒会長を務めながら芸能の仕事をこなすって、かなり大変なことなんだろうな・・・
「・・・身体には気を付けろよ?」
「うん、ありがと」
微笑むシルヴィ。
「ななくんは?冬季休暇はずっとリーゼルタニアにいるの?」
「いや、ある程度滞在したら実家に帰るつもりだよ。夏季休暇は《鳳凰星武祭》があって帰れなかったし」
「フフッ、妹さん達も会いたがってるんじゃない?」
「・・・この前、『絶対に帰ってこい』っていう連絡が来たよ」
姉さん達が帰ってこないから、アイツらも寂しいんだろうなぁ・・・
「お姉さん達は?帰らないの?」
「いや、実は・・・」
「今年は皆帰るよ」
すぐ近くで声がした。振り向くと、四糸乃姉がこちらへ歩いてくるところだった。
「あれ、四糸乃姉?どうしたの?」
「ちょっと買い出し。ミーちゃん達が甘い物食べたいって言うから」
買い物袋をぶら下げている四糸乃姉。お姉さんやってるんだなぁ・・・
「シノン、皆帰るって本当なの?」
「うん。一織お姉ちゃんも二葉お姉ちゃんも、休みが取れたんだって。三咲お姉ちゃんといっちゃんとむっちゃんは、冬期休暇はいつも帰ってるし。私もシーちゃんと一緒で、カウントダウンコンサートが終わったら休みになるから」
「そっかぁ・・・良いなぁ・・・」
「もし良かったら、シーちゃんも来る?」
「え、良いの!?」
「勿論。ね、なーちゃん?」
「そうだな。シルヴィさえ良かったら、だけど」
「お邪魔します!」
テンションが上がっているシルヴィ。四糸乃姉がおかしそうに笑っている。
「フフッ、なーちゃんの未来のお嫁さんだもん。皆大歓迎だよ」
「いや、気が早くない・・・?」
「え、結婚しないの?」
「・・・将来的にはしたいけど」
「や~ん!ななくんったら~!」
両頬に手を当て、恥ずかしそうに照れているシルヴィ。
「子供は何人が良い?星野家みたいな大家族が良いかな?」
「だから気が早いっての」
「あうっ」
シルヴィの頭にチョップを下す。痛そうに頭を擦るシルヴィ。
「まだそういうこと考えるのは早いって。今はただ・・・シルヴィと一緒に楽しく過ごしたいから」
「ななくん・・・」
「二人とも熱いなぁ」
苦笑している四糸乃姉。
「じゃあ私は先に戻るから、シーちゃんはゆっくり戻ってきてね」
「あ、私も戻るよ!」
シルヴィは俺に顔を近付けたかと思うと、唇にそっとキスしてきた。そして名残惜しそうに俺から離れると、ニッコリと笑った。
「じゃあななくん、良いお年を!星野家で会おうね!」
「なーちゃん、また年明けにね!良いお年を!」
「おう、実家でな!シルヴィも四糸乃姉も、良いお年を!」
シルヴィと四糸乃姉は俺に手を振り、クインヴェールへ戻っていったのだった。
どうも~、ムッティです。
シャノン「私の出番キタアアアアアッ!!!!!」
メッチャ喜んでるな・・・
シャノン「だって久々の出番だよ!?」
毎回後書きに出てきてるじゃん。
シャノン「後書きなんてどうでもいいの!私は本編に出たいの!」
あ、じゃあもう後書きには出ない方向で・・・
シャノン「すいませんでしたあああああ!もうワガママ言いませんからあああああ!」
それではまた次回!
次回の後書きは別キャラが出ます。
シャノン「止めてええええええええええっ!?」