学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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ストック全然貯まってねえええええ!!!!!


第五章《懐国凱戦》
四ヶ月後


 「んー、よく寝たぁ・・・」

 

 俺は大きな欠伸をしながら、廊下を歩いていた。

 

 すると・・・

 

 「やぁっ!」

 

 「はぁっ!」

 

 柱の陰から二人の男が飛び出し、両側から俺に拳を放ってきた。

 

 だが・・・

 

 「よっと」

 

 その場にしゃがみ、拳をやり過ごす俺。二人の拳はそれぞれ相手の顔面に直撃し、二人は同時に倒れた。

 

 「おはよう宋、羅。朝から元気だな、お前ら」

 

 「当然のごとく避けられたな・・・」

 

 「もうお前に攻撃が当たる気がしないぞ・・・」

 

 溜め息をつきながら起き上がる二人。前回の《鳳凰星武祭》でも戦ったこの二人には、界龍に来てから色々と世話になっていた。

 

 「宋、羅、無駄だ。七瀬に不意打ちなど通用しない」

 

 二人の後ろから、一人の男子生徒が現れた。容姿は非常に中性的であり、女子と言われても信じてしまうだろう。

 

 俺も最初、女子だと思ってたっけ・・・

 

 「趙師兄、おはようございます」

 

 宋と羅が包拳礼の構えを取る。

 

 趙虎峰・・・界龍の序列五位であり、武術を得意とする《木派》のトップだ。二つ名は《天苛武葬》で、前々回の《鳳凰星武祭》では準優勝を果たしたほどの実力者である。

 

 「おはよう虎峰、性転換しない?」

 

 「しませんよ!何度言わせるんですか!」

 

 「いや、男にしておくのは勿体ないなって」

 

 「どういう意味です!?」

 

 「お前が女だったら、俺は放っておかなかったな」

 

 「じゃあ男で良かったですよ!」

 

 「えー」

 

 界龍の良心である虎峰は、このように完全なツッコミキャラと化していた。おかげで俺もイジりやすく、こんな風に仲良くなれているのだ。

 

 「まぁいいや。後で手合わせしようぜ」

 

 「良いでしょう。全力でやらせてもらいますよ」

 

 「二人とも朝から元気だねぇ・・・」

 

 俺の背中にぐでーんともたれかかってくる、一人の女性。

 

 やれやれ・・・

 

 「おはようセシリー、相変わらず朝には弱いんだな」

 

 「どうも朝は苦手でねぇ・・・七瀬ー、食堂までおぶってー」

 

 「はいはい」

 

 苦笑しながらおぶる俺。

 

 セシリー・ウォン・・・界龍の序列四位で、星仙術を得意とする《水派》のトップだ。二つ名は《雷戟千花》で、前々回の《鳳凰星武祭》で準優勝を果たした虎峰のパートナーだった人物である。

 

 「ちょ、七瀬!?何をしているんですか!?」

 

 趙が慌てている。

 

 「え、何って・・・おんぶ?」

 

 「女性の身体を気安く触ってはいけません!セシリーも女性なんですから、男性に対してもっと節度を持った接し方をして下さい!」

 

 顔を真っ赤にしている趙。おやおや・・・?

 

 「セシリー、虎峰が妬いてるぞ」

 

 「あら、ゴメンね虎峰。お姉ちゃんを取られたのが悔しかったの?」

 

 「なっ!?そんなわけないでしょうが!」

 

 「安心しろ虎峰、俺とセシリーじゃそんな仲にならないから」

 

 「だから違うって言ってるでしょうが!」

 

 「ちょっと七瀬、こんな魅力的な女を前に何てこと言うんだい?」

 

 「自分で魅力的とか言ってんじゃねーよ、ズボラ女」

 

 「酷くない!?」

 

 「人を無視しないで下さい!」

 

 ギャアギャア騒ぐ俺達。何事かと、他の生徒達が集まってくる。

 

 「《木派》のトップと《水派》のトップを相手に、ここまでフレンドリーな関係を築くとは・・・恐るべしだな、七瀬」

 

 「師兄も師姉も楽しそうだしな・・・こんな光景、初めて見るかもしれん」

 

 苦笑している宋と羅なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「はっ!」

 

 虎峰の拳が迫ってくるが、それをいなしてこちらも拳を放つ。

 

 腕を掴まれそのまま後ろに投げられるが、空中で一回転して着地。距離を詰めてくる虎峰を迎え撃つ。

 

 「あの趙師兄と、体術で互角にやり合うとは・・・」

 

 「たった四ヶ月でこれって・・・ヤバいわね・・・」

 

 「あたしはもう、体術じゃ七瀬に勝てないねぇ・・・」

 

 見学している沈雲・沈華・セシリーが何か言っていた。

 

 界龍に来てから、早いものでもう四ヶ月が経とうとしている。もう年末だし、各学園も明日から冬季休暇に入る時期だ。俺も年内で謹慎が解けるので、年明けからは星導館に復帰出来る。

 

 クローディア達とは連絡を取り合ってはいるが、界龍に来てから会ってはいない。

 

 会いたいな・・・

 

 「考え事ですか?」

 

 蹴りを放ってくる虎峰。しゃがんで避け、腹部に右ストレートを叩き込む。

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 呻く虎峰に再び拳を放つが、後方に跳んで距離を取られた。

 

 「ここに来てから四ヶ月かと思うと、時間の流れは早いなと思ってさ」

 

 「それを言うなら、七瀬の成長も早いですよ」

 

 痛そうに腹部を擦る虎峰。

 

 「初めて手合わせした時は、僕の方が上手だったはずですが・・・雷による身体強化も無しでこれとは、恐れ入りますよ」

 

 「お前だって《通天足》使ってないだろ」

 

 「アレは滅多に使いませんから」

 

 《通天足》とは、虎峰が使用する純星煌式武装だ。

 

 《通天足》を使った時の虎峰の強さといったら・・・封印解除状態の綾斗と互角にやり合えるだろうな。

 

 「ほっほっほっ、やっておるの」

 

 愉快そうに笑いながら、星露がやってきた。後ろに一人の男を従えている。

 

 「おー、星露に暁彗じゃん。暁彗がいるなんて珍しいな」

 

 「・・・明日で星導館に戻るのだろう?その前に、一度お前と手合わせしたくてな」

 

 淡々と話す男・・・武暁彗。

 

 界龍の序列二位で、二つ名は《覇軍星君》だ。体術で虎峰を、星仙術でセシリーを凌ぐほどの実力者である。

 

 「マジか・・・俺、初日にお前にボコボコにされたんだけど・・・」

 

 「・・・あれから四ヶ月経っている。虎峰と互角にやり合えている以上、初日のようなことにはなるまい」

 

 「どうだかな・・・ま、精々頑張るわ」

 

 「・・・期待している」

 

 コイツの強さ、マジでヤバいんだよな・・・

 

 四ヶ月の鍛錬で、虎峰やセシリーとは互角にやり合えるようにはなったが・・・暁彗には、未だに勝てる気がしない。

 

 と、星露が潤んだ瞳で俺を見ていた。

 

 「明日で最後か・・・寂しいのう」

 

 「今生の別れじゃないだろ。また遊びに来るし」

 

 「まぁそうじゃが・・・今夜は七瀬の送別会を開く。暁彗、茶を用意しておくのじゃ」

 

 「御意」

 

 いや、送別会って・・・まぁありがたいけどさ。

 

 「ところでさぁ、七瀬」

 

 後ろで見ていたセシリーが話しかけてくる。

 

 「明日から星導館も冬季休暇だろう?なら、別に明日帰る必要も無いじゃん。冬季休暇が終わるまで、こっちにいちゃダメなのかい?」

 

 「冬季休暇は予定があってな。リーゼルタニアに行くことになってるんだ」

 

 「リーゼルタニアというと、《華焔の魔女》の故郷ですよね?」

 

 「まぁな」

 

 虎峰の問いに答える俺。

 

 「リーゼルタニアの国王であるユリスのお兄さんが、是非遊びに来てくれって招待してくれてるみたいでさ。ユリス達は明日出発するんだって」

 

 「なるほど・・・あれ?でも七瀬、明日は予定があるって言ってませんでした?」

 

 「あぁ。ユリス達は明日出発して、一晩紗夜の実家に泊まってからリーゼルタニアに行くらしい。俺は明日予定があるから明後日出発して、向こうでユリス達と合流予定だ」

 

 「そうでしたか・・・七瀬はご友人の実家に泊まらなくて良かったんですか?」

 

 「いや、本来は俺もお邪魔するつもりだったんだけど・・・色々あってな」

 

 「「「「「「?」」」」」」

 

 遠い目をする俺に、首を傾げる虎峰達なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「宴じゃあああああっ!」

 

 「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」

 

 星露の音頭と共に、俺の送別会が始まった。

 

 星露の弟子達が色々と準備してくれたみたいだし、何だか申し訳ないな・・・

 

 「七瀬ー、楽しんでるかーい?」

 

 何故かセシリーの顔が真っ赤だった。足元もおぼつかない様子・・・

 

 っておい!?

 

 「セシリー!?お前まさか酒呑んでんの!?」

 

 「大丈夫だよー、これジュースだからさー」

 

 「セシリーは雰囲気で酔える人なんですよ」

 

 虎峰が呆れている。いや、雰囲気って・・・

 

 「酔うような雰囲気でも無いんじゃ・・・」

 

 そう言って辺りを見回していると、片隅に明らかに場違いなバーカウンターがあった。そこだけ照明が暗く、静かな音楽が流れている。

 

 バーテンダーの格好をした暁彗が、沈華のグラスに飲み物を注いでいた。

 

 「オレンジジュースだ」

 

 「うふふ、大師兄ありがとー」

 

 明らかに酔っている沈華。

 

 「何やってんだあああああっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 暁彗の頭を引っぱたく俺。

 

 「何でバーテンダーやってんのお前!?どうやってバーカウンター用意したの!?」

 

 「これも師父の期待に応える為だ」

 

 「そんなこと期待してねーわ!茶を用意しろとしか言ってなかっただろうが!」

 

 「無論用意してある。飲むか?」

 

 「苦いから要らん!俺にもジュース寄越せ!」

 

 「御意」

 

 「あの大師兄とここまでフランクに・・・凄いですね、七瀬」

 

 虎峰が若干引いていた。沈華の右隣の席に座ると、酔った沈華が腕に抱きついてくる。

 

 「うふふ・・・七瀬ぇ・・・」

 

 「お前まで雰囲気酔いかよ・・・」

 

 頭を抱える俺。沈華は俺の肩に頭を載せ、そのまま寝てしまった。

 

 やれやれ・・・

 

 「悪いね、七瀬」

 

 苦笑している沈雲。

 

 「沈華は一度寝るとなかなか起きないから、少しそのままで頼むよ」

 

 「・・・ったく、面倒なヤツだな」

 

 「ほっほっほっ、仲が良さそうで何よりじゃ」

 

 俺の右隣の席に、笑いながら座る星露。

 

 「沈華も、七瀬が帰ってしまうのが寂しいんじゃろうな」

 

 「どうかな。清々するとか言いそうだけど」

 

 「口ではそう言うだろうけどね。本音は違うと思うよ」

 

 沈雲がそう言う。ま、分かってるけどさ・・・

 

 「まぁ、皆とは毎日顔会わせてたからな・・・俺も少し寂しいよ」

 

 「いっそ界龍に転校・・・」

 

 「しないわバカ」

 

 「ほっほっほっ、それは残念じゃのう」

 

 愉快そうに笑う星露。

 

 「ところで七瀬、お主は来年の《獅鷲星武祭》には出るのかえ?」

 

 「出るよ。クローディアのチームに参加することになってる」

 

 「ほう、正直じゃのう・・・アーネストには明言しなかったというのに」

 

 「あの時はまだ、返事を保留してたんだよ。でも参加するって決めたし、俺とクローディアの仲が良いのは周知の事実だしな。隠したとしてもバレバレだろ」

 

 「それもそうじゃのう」

 

 苦笑する星露。

 

 「他のチームメンバーは決まったのかえ?」

 

 「綺凛は確定だな。ユリスは勧誘するって言ってたから、ほぼ確定だろう。当然綾斗も勧誘するだろうし、あと一人は・・・紗夜じゃないかな」

 

 近接戦闘が出来るメンバーは揃ってるし、あとは後衛で援護してくれるメンバーが必要だ。そうなると、紗夜はうってつけの存在と言える。

 

 《獅鷲星武祭》で優勝を狙うなら、恐らくこのメンバー構成だろうな。

 

 「そういや、虎峰とセシリーは《獅鷲星武祭》に出るのか?《鳳凰星武祭》から鞍替えしたって聞いたけど」

 

 「えぇ、出ますよ」

 

 頷く虎峰。

 

 「我々は今回、本気で《獅鷲星武祭》を制するつもりです。チームリーダーとして、大師兄にも出ていただきますから」

 

 「え、暁彗が!?」

 

 「うむ。出るぞ」

 

 重々しく頷く暁彗。確かコイツ、一度も《星武祭》に参加してないんだよな・・・

 

 ここに来て参戦してくるか・・・

 

 「ちなみに、あとの三人は?」

 

 「僕と沈華も出るよ」

 

 沈雲が手を上げる。

 

 「もう一人は今のところ未定だね。そこが悩みの種なんだよ」

 

 「まさしくそうなのじゃ」

 

 顔を顰めている星露。

 

 「こやつらの実力に引けを取らず、尚且つチームの和を乱さぬ人物・・・難しいのう」

 

 「どっかの性悪兄妹がいる時点で、チームの和も何も無いと思うけど」

 

 「このメンツじゃ、僕らも迂闊なことは出来ないさ」

 

 肩をすくめる沈雲。性悪っていう自覚はあるんだな・・・

 

 「ってか、冬香は出場しないのか?序列でいえば、暁彗に次ぐ実力者だろ?」

 

 梅小路冬香・・・≪神呪の魔女≫の二つ名を持つ、界龍の序列三位だ。普段は専ら黄辰殿の奥で、術の研究に勤しんでいる。

 

 数日前から所用で留守にしている為、今この場にはいないが。

 

 「冬香は正式には客分の扱いじゃからのう。儂の弟子で結成するチームには入れぬのじゃ」

 

 溜め息をつく星露。

 

 「それに冬香の術は、まだ完全には復活しておらぬ。本人もそちらに集中したいじゃろう」

 

 「あー、梅小路家の秘術ってやつか」

 

 梅小路家は特殊な血族で、独自の技術体系を千年以上も受け継いできているらしい。

 

 しかし過去に失われてしまった秘術があるらしく、冬香はそれを復活させたいのだそうだ。

 

 そっか、じゃあ冬香は出場しないのか・・・

 

 「ま、誰が来ても強いチームには変わりないか・・・勿論、誰が来ても負けるつもりは無いけどな」

 

 「それは我々も同じです」

 

 不敵に笑う虎峰。

 

 良いねぇ・・・楽しみになってきたわ。

 

 「七瀬ーっ!」

 

 背中に抱きついてくるセシリー。まだ酔っているみたいだ。

 

 「・・・おい暁慧、アルコール呑ませてないよな?俺達未成年だからな?」

 

 「安心しろ。れっきとしたジュースだ」

 

 「ホントかよ・・・」

 

 疑いの眼差しで暁慧を見ていると、セシリーが頬を膨らませた。

 

 「ちょっと七瀬ー、あたしを無視するとはいい度胸じゃないかー」

 

 「酔っ払いの相手は面倒だからな」

 

 「ふーん・・・《戦律の魔女》以外の女に興味は無いってことかい?アンタ達、付き合ってるんだろう?」

 

 ニヤニヤしながらからかってくるセシリー。

 

 シルヴィが暴走した俺を止めた時にキスをしたことが、メディアを通じて世界中に伝わってしまったことから、一時期熱愛騒動が連日報道されてしまった。

 

 俺もシルヴィも無言を貫いたことで、四ヶ月経った今はある程度落ち着いたが・・・

 

 俺達が幼馴染であることもバレてしまい、多くの人々が俺達の関係を疑っているのが現状だ。

 

 今のセシリーみたいに。

 

 「少なくとも、女としてのお前に興味が無いことは確かだよ」

 

 「なぁっ!?これでも容姿には自信があるんだけど!?」

 

 「容姿が良いのは認める。ただし性格が残念すぎて差引きゼロだ」

 

 「そこまで!?」

 

 俺は哀れみの目でセシリーを見ると、視線を虎峰に向けた。

 

 「あーあ、虎峰が女だったらなー」

 

 「だから僕は男ですって!」

 

 「容姿も性格も申し分ないのに・・・ハァ・・・」

 

 「露骨に溜め息つかないでもらえます!?」

 

 「何で股間に余計なものをぶら下げてきちゃったんだよ」

 

 「そんなこと言われたってしょうがないでしょうが!」

 

 本当に残念でならない。初めて見た時に女だと思って、ちょっとドキッとした俺の気持ちをマジで返してほしい。

 

 「七瀬、気持ちは分かるぞ。儂もそれは常々思っておった」

 

 「師父!?」

 

 「虎峰、今からでも遅くはない。取れ」

 

 「取りませんよ!?大師兄まで何を仰るんですか!?」

 

 「趙師兄、僕の知り合いにその手の専門の医者がいますよ。紹介しましょうか?」

 

 「しなくて良い!っていうか沈雲、お前そんなキャラだったか!?」

 

 「あー、まどろっこしい!虎峰、お姉さんがソレ引きちぎってあげる!」

 

 「ちょ、セシリー!?止めてええええええええええっ!?」

 

 虎峰の悲鳴が響き渡るのだった。

 




どうも~、ムッティです。

ここから新章でございます。

シャノン「おーっ!私の出番はまだかーっ!」

次の話で出るよ。

シャノン「ですよねー、出ませんよねー・・・えっ?今何て?」

いや、だから次の話で出るって。

シャノン「・・・マジ?」

マジマジ。まぁたまには出したいなって思って。

シャノン「作者っちマジ愛してる!」

ちょ、抱きつくなっての!?

それではまた次回!

シャノン「私の活躍ぶりに刮目せよ!」

いや、活躍は・・・まぁ良いや・・・

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