翌日。
「全くお前は・・・起こしてやったのに何で二度寝するんだよ」
「悪かったって。昨日は遅くまで学内新聞の記事を書いてたもんだからさぁ」
夜吹とそんな会話をしつつ教室に入ると、既にユリスが席に着いて読書していた。
「おはよう、ユリス」
声をかけると、ユリスの身体がビクッと震えた。
「あ、あぁ・・・おはよう・・・七瀬」
ユリスの顔は、何故か真っ赤だった。と、その言葉にクラス中がざわめいた。
「い、今お姫様が挨拶したよな!?」
「確かに聞いたぞ!どういうことだ!?」
「しかも今、星野くんのこと名前で呼んだよね!?」
「やっぱり、あの二人ってそういう関係なの!?」
おー、反応が凄い・・・中等部から上がってきてる奴らにとっては、ユリスのこの対応が信じられないんだろうな・・・
「し、失敬だな貴様ら!私だって挨拶くらいは返すぞ!」
「嘘だな。去年俺が挨拶したら、普通に無視されたぞ」
「うぐっ!」
夜吹の言葉に、何も言えなくなるユリス。
「ユリス・・・せめて挨拶ぐらい返そうぜ」
「あ、あれは夜吹だったから無視したのだ!」
「うん、それなら納得だわ」
「だから何でだよ!?」
夜吹のツッコミ。と、クラスメイト達が集まってきた。
「それより、学内新聞見たぜ!序列九位だって!?」
「凄いね星野くん!入学初日に《冒頭の十二人》入りだなんて!」
「あの《轟遠の烈斧》を打ち破るなんて、大したもんだぜ!」
「星野くんとリースフェルトさんって、やっぱりそういう関係なの!?」
おおう、何か話題になってるみたいだな・・・ん?
「ちょっと待って。『やっぱりそういう関係』ってどういうこと?」
質問してきた赤髪の女子生徒に尋ねる。
「え、だって二人は付き合ってるんでしょ?」
『ハァッ!?』
思わずユリスと二人で叫ぶ。
「どこからそんな話が!?」
「あれ、学内新聞読んでないの?」
女子生徒が手元の端末を操作すると、空間ウィンドウが開いた。そこには・・・
『愛の力で《轟遠の烈斧》を撃破!騎士と姫の禁断の恋!?』
大きな見出しと共に、俺がユリスを抱きしめている写真が掲載されていた。
「な、何だこれは・・・ッ!?」
最大まで顔を真っ赤にしたユリスが叫ぶ。なるほどな・・・
「・・・おい夜吹」
こっそり教室から逃げようとしていた夜吹が、ピタッと動きを止めた。
「とりあえず言い訳を聞こうか?」
「い、いや!これはつまり・・・その・・・」
ダラダラと汗を垂らす夜吹。
「夜吹、貴様・・・!」
身体から炎を迸らせるユリス。昨日より怒ってるな・・・
「消し炭にしてくれるわあああああっ!」
「ごめんなさあああああいっ!」
逃げる夜吹を追いかけるユリス。さよなら夜吹、お前のことは忘れるまで忘れない。
「あらあら、朝から元気ですね」
微笑みながら教室に入ってきたのは・・・
「おぉ、クローディア。おはよう」
「おはようございます、七瀬。学内新聞、拝見させていただきました」
「・・・言っておくが、ユリスとはそういう関係じゃないからな」
「あら、では何故ユリスを抱きしめたんですか?」
「・・・ノーコメントで」
「フフッ、それは残念です」
楽しそうに笑うクローディア。
「ですが・・・あの子と仲良くなったみたいですね」
「これからだよ。ようやくアイツが作ってた壁を壊したってとこだ」
「その壁、私は壊せなかったんですよ?それを一日で壊してしまうんですから、七瀬は凄いですね。流石は私の友人です」
「そりゃどうも」
「それと、序列九位もおめでとうございます。《冒頭の十二人》入りということで、資金面で色々と優遇されますよ。寮の部屋も個室をいただけますが、どうされますか?」
「んー、とりあえず部屋は今のままで良いかな」
「あら、夜吹くんと一緒の方が良いですか?」
「・・・やっぱり個室もらおうかな」
アイツが一緒だと、いつ新聞のネタにされるか分からないしな・・・
「ま、今はそのままで良いよ。まだ入学二日目だし」
「それもそうですね。気が向いたらお声掛け下さい」
「了解」
と、むすっとした表情のユリスが戻ってきた。
「おー、ユリス。夜吹はどうした?」
「逃げられた・・・全く、逃げ足だけは速い奴だ」
ユリスから逃げ切ったのか・・・凄いな夜吹。
「おはようございます、ユリス」
「・・・クローディアか」
微笑むクローディアに対し、不機嫌な表情のユリス。
「何か用か?」
「あら、用が無くては来てはいけないのですか?」
「・・・別に」
「でた、ユリス様」
「うるさいぞ七瀬!」
ユリスが俺の頬をつねってくる。
「いふぁいっふぇ(痛いって)」
「やかましい!お前などこうしてやる!」
「ふぁふぇふぇ~(止めて~)」
ユリスが両手で俺の頬をつねっているのを見て、クラス中が驚いていた。
「おい、あのお姫様があんなことしてるぞ!」
「やっぱりあの二人、ただならぬ関係ね!」
「だ、断じて違うぞ!」
赤面しながら一喝するユリスだったが、誰も聞いてはいなかった。
「フフッ。では、後はお二人でごゆっくり」
「クローディア!?お前まで何を言う!?」
笑いながら去ろうとするクローディア。去り際、俺の耳元で一言囁いた。
「・・・ユリスのこと、よろしく頼みますね」
「・・・了解」
俺の返事に満足げに微笑むと、クローディアは教室から出て行った。
「全く、何なのだアイツは・・・」
「来てくれて嬉しかったくせに」
「う、嬉しくなどない!」
「お、照れてる?」
「照れてないわ!」
全力で否定するユリス。素直じゃないなぁ・・・
「・・・全く。我が『友人』ながら、お前の相手をするのは大変だな」
ユリスがため息をつく・・・ん?
「ユリス、今俺のこと『友人』って言った?」
「・・・ッ!」
途端に赤面するユリス。ほほう・・・
「そっかぁ、『友人』かぁ」
「な、何をニヤニヤしているのだ!?」
「べっつにぃ?」
「ニヤニヤするのを止めろおおおおおっ!」
ユリスはそう叫ぶと、両手で顔を覆ってしまった。
「あれ、ユリス?」
「・・・ダ、ダメか?」
「え?」
「私がお前を・・・『友人』と呼んでは・・・ダメか?」
「・・・ダメなわけないだろ」
ユリスの頭を撫でる俺。
「言ったろ、俺はユリスの友達だって」
「七瀬・・・」
俺はユリスに笑顔を向けた。
「改めてよろしくな、ユリス」
ユリスに手を差し出す。ユリスは驚いていたが、俺の手をとった。
「こちらこそよろしく頼む、七瀬」
初めて見たユリスの笑顔は、最高に可愛かった。と・・・
「あの二人、マジで付き合い始めたのか!?」
「禁断の恋キター!」
「お前らいい加減にしろおおおおおっ!」
盛り上がるクラスメイト達に叫ぶユリス。と、担任の谷津崎先生が教室に入ってきた。
「お前ら席に着けー。特にそこのバカップル、イチャついてないで席に着けー」
「だ、誰がバカップルですか!」
「お前と星野だよ、リースフェルト。学内新聞、教師の間でも話題になってんぞ?」
「な、な、な・・・!」
今にも顔から火が出そうなユリス。
本当はあんなに感情が豊かなんだな・・・これからはもっと、自分の素を出していけると良いんだが・・・
『君はもっと、人の温かさに触れるべきだよ』
昔、ある人に言われた言葉だ。まさか俺が言う日が来るなんてな・・・
「おい星野、ボーっとしてないで早く席に着け」
「あぁ、スミマセン。八つ裂き先生」
「何か変な漢字に変換しなかったか!?」
「気のせいですよ」
俺は笑いながら席に着いた。そして気付いた。
「・・・あ、紗夜がいない」
放課後・・・職員室に出頭した紗夜は、寝坊したと弁明。
ユリスが怖くて教室に戻れなかった夜吹と一緒に、谷津崎先生にこっぴどく叱られたのだった。
二話続けての投稿となります。
投稿出来る日が有ったり無かったりラジバンダリ←古いww
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