学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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これにて≪鳳凰乱武≫編は終了です。


修行

 「んー・・・」

 

 自室のベッドに寝転がり、考え事に耽る俺。

 

 「どうしよっかなぁ・・・」

 

 【マスター、どうしました?】

 

 七海が話しかけてくる。

 

 「いや、停学処分くらったじゃん?その間、どうしよっかなぁって」

 

 【・・・どうしましょうねぇ】

 

 四ヶ月ということは、ちょうど今年いっぱいだ。年が明けるまで何をしよう・・・

 

 【そもそも停学処分中って、寮に居て良いんですか?】

 

 「クローディアに聞いたら、それはオッケーみたい」

 

 とはいえ、一人でトレーニングするのも限度があるし・・・

 

 と、俺の端末に着信が入った。相手は・・・沈華?

 

 「もしもし?」

 

 『もしもしじゃないわよバカアアアアアッ!』

 

 「うおっ!?」

 

 空間ウィンドウに、激おこぷんぷん丸状態の沈華の顔が映る。その後ろに、苦笑を浮かべる沈雲の姿があった。

 

 「ど、どうしたよ沈華?何怒ってんの?」

 

 『師父から聞いたわよ!?アンタ停学処分になったんですって!?』

 

 「・・・耳が早いな、星露のヤツ」

 

 ついさっき処分を言い渡されたんだが・・・いつ情報をキャッチしたんだ・・・

 

 『何でアンタが停学処分なわけ!?あんなの事故みたいなもんでしょうが!』

 

 「仕方ないだろ。暴走して綾斗達を傷付けたのは事実なんだから」

 

 『アンタの意思じゃないでしょ!?運営委員会は何を考えてんのよ!?アンタに停学処分下すわ、結婚発表したアイドルに残留を提案するわ!』

 

 「おいちょっと待て!?後半は別の運営だろうが!ってかお前までそのネタかよ!?」

 

 『総じて言いたいのは、この帽子がきっと私の全ての言葉だと思うの!せーのっ!』

 

 沈華が頭の帽子を見せる。そこには『FU●K』と記されていた。

 

 「おい止めろおおおおおっ!?OGのネタまで持ってくるんじゃねえええええっ!?」

 

 何なの!?某アイドルのディスりでも流行ってんの!?

 

 「・・・でもまぁ、ありがとな沈華。俺の為に怒ってくれて」

 

 『っ!?べ、別にアンタの為じゃないわよ!?運営に腹が立っただけだから!』

 

 急に赤面し、顔を背ける沈華。素直じゃないなぁ・・・

 

 『やぁ七瀬、突然すまないね』

 

 沈雲が苦笑しながら前に出てくる。

 

 『実は師父が、君と話したいと仰っていてね。それで連絡したんだ』

 

 「え、星露が?」

 

 『あぁ。師父、どうぞ』

 

 『うむ、ご苦労じゃ』

 

 沈雲と沈華が下がり、星露の顔が映った。

 

 『七瀬、身体の具合はどうじゃ?』

 

 「もう大丈夫だよ、星露。それより・・・ゴメンな。せっかくお前に忠告してもらっておきながら、あんなことになっちゃって・・・」

 

 『気にするでない。お主が一番辛かったじゃろうからな』

 

 首を横に振る星露。

 

 『ところで七瀬、停学中はどうするつもりじゃ?』

 

 「いや、今それを考えててさ・・・この力も上手く使いこなせるようになりたいし、トレーニングしようとは思うんだけど・・・」

 

 『それなら、一つ提案して良いかの?』

 

 「提案?」

 

 首を傾げる俺に、星露がニヤリと笑った。

 

 『停学期間中、界龍に来て儂の下で修行せぬか?』

 

 「っ!?」

 

 星露の下で修行って、つまり・・・

 

 『師父!?何を仰っているのですか!?』

 

 慌てて立ち上がる沈華。

 

 『他の学園の者を界龍で鍛えるなんて!?』

 

 『まぁそうなんじゃが、素材に惚れた弱みとでも言うべきかのう・・・どうにも放っておけんのじゃ』

 

 俺を見て愉快そうに笑う星露。

 

 『身体の使い方から力の操り方まで、みっちり教えてやるぞい。星仙術は万応素をコントロールする技術じゃから、《魔術師》の力の扱い方とも通ずるところがあろうて。悪い話ではないと思うが・・・どうじゃ?』

 

 「・・・ハハッ」

 

 思わず笑ってしまう俺。

 

 「参ったな・・・断る理由が無い。むしろこっちが頼みたいぐらいだ」

 

 『おぉ、では・・・』

 

 「あぁ、よろしく頼む」

 

 『ちょ、何勝手に決めてんのよ!?』

 

 沈華が割り込んでくる。

 

 『大体、アンタんとこの会長が許すわけ・・・』

 

 「あら、私は大賛成ですよ?」

 

 「え、クローディア!?」

 

 いつの間にか、後ろにクローディアが立っていた。

 

 「《万有天羅》、七瀬をお願いできますか?」

 

 『任せておけ。これほどの素材を無駄にはせぬ』

 

 笑顔で頷く星露。

 

 『では七瀬、詳しい日時はまた連絡する。準備しておくのじゃぞ』

 

 「了解。頼んだ」

 

 通信が切れる。俺はクローディアを見た。

 

 「・・・本当に良いのか?」

 

 「私が《獅鷲星武祭》で優勝する為にも、七瀬には強くなってもらいたいですから」

 

 「うわ、容赦ねぇ・・・」

 

 俺の反応に、クスクス笑うクローディア。この性悪女め・・・

 

 「それに・・・七瀬が行きたいと言っているんです。私が止める理由もありません。私は七瀬を信じていますので」

 

 「・・・ずるいな、お前は」

 

 そう言われたら何も言えないだろ・・・

 

 クローディアの頭を撫でる俺。クローディアは目を閉じ、そのまま俺に身体を委ねるのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「じゃ、行ってくるわ」

 

 界龍へ旅立つ日、星導館の正門前には綾斗・ユリス・クローディア・綺凛・紗夜・レスターが見送りにきてくれていた。

 

 「しかしまぁ、お前が《万有天羅》の下へ修行に行くとはな・・・」

 

 ユリスが呆れている。

 

 「次にお前と会えるのは四ヶ月後か・・・寂しくなるな」

 

 「えっ、ユリスが寂しいとか言ってる・・・アスタリスク崩壊も近いな」

 

 「人が素直になっているのがそんなにおかしいか!?」

 

 ユリスのツッコミに、全員笑った。

 

 「あのユリスが素直に・・・あれ、何か涙が・・・」

 

 「本当に変わりましたね、ユリス・・・」

 

 「何で綾斗とクローディアは泣いているのだ!?」

 

 綾斗とクローディアが、ユリスをおちょくって遊んでいる。と、綺凛が一歩前に出た。

 

 「七瀬さん、頑張って下さい。私も特訓して、もっと強くなりますから」

 

 「おう、お互い強くなろうな」

 

 「はいっ」

 

 拳を合わせる俺達。

 

 「それと、言うのが遅くなったけど・・・ありがとな、綺凛。俺、お前とタッグが組めて良かった。負けちゃって、お前の願いを叶えられなかったけど・・・最高に楽しい《鳳凰星武祭》だったよ。誘ってくれて、ホントにありがとう」

 

 「っ・・・ず、ずるいですぅ・・・」

 

 ポロポロ涙を零す綺凛。

 

 「このタイミングでそんなこと言うなんて・・・ひっぐ・・・」

 

 「ゴメンゴメン、ちゃんと伝えてなかったからさ」

 

 綺凛の頭を撫でる俺。

 

 「次の《獅鷲星武祭》では、お前の願いを叶える力になってみせるから。だからお互い頑張ろうな」

 

 「っ・・・勿論ですっ!」

 

 綺凛が笑顔を見せる。よしよし、やっぱり綺凛はこうでないとな。

 

 「七瀬、向こうに行ってもちゃんと連絡してほしい」

 

 「身体に気を付けろよ」

 

 紗夜とレスターが笑顔でそう言ってくれる。

 

 「あぁ。それと紗夜、あんまり寝坊すんなよ?谷津崎先生に殺されるぞ?」

 

 「・・・善処する」

 

 苦い表情の紗夜。ったく・・・ま、紗夜らしいな。

 

 「んじゃ、そろそろ行くわ。またな」

 

 「うん、行ってらっしゃい!」

 

 「強くなって帰ってくるんだぞ!」

 

 「連絡はマメにして下さいね」

 

 「お気を付けて!」

 

 「また会おう」

 

 「帰ってきたら決闘しやがれ!」

 

 皆の声援を受け、俺は界龍への道を歩き始めた。

 

 その途中・・・

 

 「ななくんっ」

 

 「えっ・・・?」

 

 不意に声がしたので振り返ると、細い路地道に変装状態のシルヴィが立っていた。

 

 「シルヴィ!?お前明日からツアーだから、今日旅立つって言ってなかった!?」

 

 「その前に、ななくんのお見送りにきちゃった」

 

 ニッコリ笑うシルヴィ。

 

 「あの《万有天羅》の修行じゃ、休みなんてほぼないと思うし。ななくんと会えない日々が続くと思ったら、今のうちに会いたくなっちゃって」

 

 シルヴィが急に口を尖らせる。

 

 「全く、彼女をほったらかして修行だなんて・・・ホント酷い彼氏だよね」

 

 「返す言葉もございません・・・」

 

 「フフッ・・・冗談だよ」

 

 面白そうにクスクス笑うシルヴィ。

 

 「ななくんが決めたことだもん。応援するに決まってるじゃない」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 「その代わり!終わったらデートしてもらうんだからね!」

 

 「あぁ、勿論」

 

 俺はシルヴィを抱き締めた。シルヴィも、俺に身体を委ねてくれる。

 

 「俺、強くなるから。シルヴィに負けないぐらい、強くなってみせるからな」

 

 「私も負けないよ。《王竜星武祭》で勝つのは私だからね」

 

 「いや、俺だ」

 

 お互い睨み合う・・・が、すぐに笑ってしまう。

 

 「フフッ、私達ってホント負けず嫌いだよね」

 

 「だな。似た者同士カップルってところか」

 

 「ホントにねー」

 

 でも、こうしてシルヴィといられて幸せだ。シルヴィが愛おしくてたまらない。シルヴィも、優しく微笑んで俺を見ていた。

 

 「ななくん・・・」

 

 「シルヴィ・・・」

 

 二人の顔が近付き・・・唇が重なった。お互いの身体を強く抱きしめ、何度も求め合う。

 

 長い時間そうしていたが、やがて名残惜しく思いながら離れる。

 

 「・・・それじゃ、行ってくるな。シルヴィもツアー頑張れよ」

 

 「ありがと。向こうからでも連絡するからね」

 

 「あぁ、俺も連絡する。お互い頑張ろうな」

 

 「うんっ!」

 

 手を振り合い、シルヴィと別れる。アイツの為にも強くならないとな・・・

 

 気合いを入れ直した俺は黙々と歩き続け、界龍へと辿り着いた。と、正門の前に星露が立っていた。

 

 「おぉ七瀬、よく来たの」

 

 「わざわざここで待っててくれたのか?」

 

 「うむ。誘ったのは儂じゃからの」

 

 頷く星露。律儀なヤツだなぁ・・・

 

 「七瀬よ、覚悟は出来たかの?」

 

 「出来てるさ。よろしく頼む」

 

 「うむ。それでは・・・ようこそ界龍へ!」

 

 正門が開かれ、星露が中へ入っていく。

 

 俺は意を決して、一歩を踏み出したのだった。

 




三話連続での投稿となります。

この話で≪鳳凰乱武≫編は終了です。

シャノン「次回からは新章に突入するの?」

いや、一区切りついたからオリキャラ紹介かな。

シャノン「あー、前に言ってたやつ?」

そうそう。ぶっちゃけ新章のストックあまり無いから、ここらで時間稼ぎしないと。

シャノン「裏事情をアッサリぶっちゃけたね・・・」

あと、短編とか書きたいんだよねー。

七瀬の日常とか、色々な事件があった後の後日談とか。

シャノン「それ良いね!でも、本編の投稿が遅れるんじゃ・・・?」

ホントに短い話なら大丈夫かなって。

そうやって時間を稼ぎつつ、本編の執筆を進めねば・・・

シャノン「いや、だからそんな裏事情を暴露しなくても・・・」

そんなわけで、次回からはオリキャラ紹介です。

まずは一織からになるかな?

投稿は9月4日(月)を予定しております。



いつもこの作品を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

これからもこの作品をよろしくお願い致します。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」


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