翌日・・・迎えに来てくれるというクローディアを待っていると、病室のドアが勢いよく開いた。
部屋に飛び込んできたその人物は、俺に抱きついてきた。
「七瀬ッ!」
「うおっ!?ユリス!?」
俺の胸に顔を埋め、肩を震わせて泣くユリス。
「良かった・・・本当に良かった・・・!」
「いや、どうしたよお前・・・」
「どうしたもこうしたもあるか!」
ユリスがガバッと顔を上げ、泣きながら叫ぶ。
「試合の翌日に見舞いに来たら、面会謝絶で追い返されて!お前がフローラの救出に尽力してくれていたことを、決勝の前にクローディアから聞かされて!終わった後、お前がまた入院したことを知って!心配で心配で頭がおかしくなりそうだった!」
「ユリス・・・」
「本当に・・・本当に心配したんだぞ・・・ひっぐ・・・」
嗚咽を漏らすユリスの頭を、俺は優しく撫でた。
「・・・優しいな、ユリスは。心配してくれてありがとう」
「七瀬・・・ぐすっ・・・」
俺がユリスをあやしていると、綾斗とクローディアが入ってきた。
「七瀬、大丈夫かい?」
「お待たせしました」
「おー、来てくれてありがとな」
手を上げて挨拶する俺。ユリスもようやく俺から離れた。
「綾斗、ユリス・・・優勝おめでとう」
「ありがとう、七瀬のおかげだよ」
綾斗がニッコリ笑う。
「フローラちゃんを助けてくれたんだろう?おかげで《黒炉の魔剣》を使えた。使えなかったら、間違いなく勝てなかっただろうからね。ありがとう、七瀬」
「私からも礼を言う。フローラを助けてくれて、本当にありがとう。本当にお前には、いつも助けられているな」
「俺だけの力じゃないさ」
肩をすくめる俺。
「綺凛と紗夜とレスター、三咲姉と五和姉と六月姉、イレーネとシルヴィ・・・皆が力を貸してくれたから、フローラを助けることが出来た。俺がやったことなんて、本当に微々たるもんだよ」
「イレーネと《戦律の魔女》?あの二人も尽力してくれたというのか?」
「あぁ。イレーネは《歓楽街》が怪しいって教えてくれたし、あの場所を突き止められたのはシルヴィの力のおかげなんだ」
「そうだったのか・・・」
「あら七瀬、《戦律の魔女》に会えたんですか?」
クローディアが驚いている。
「まぁな。おかげで色々とスッキリしたよ」
「そうですか・・・良かったですね」
何処かホッとした様子のクローディア。色々心配かけたしな・・・
っと、今はまずやるべきことがあったな。
「綾斗、ユリス・・・ゴメン」
頭を下げる俺。
「俺が暴走したせいで、お前らを傷付けて・・・本当にゴメン」
「そんな!?止めてよ!?」
綾斗が慌てている。
「七瀬の意思じゃなかったんだし、仕方ないって!ね、ユリス!?」
「そうだぞ七瀬。気にするな」
「いや、でも・・・」
言いかけた俺の口に、ユリスがそっと人差し指を添える。
「私が気にしていないのだから?」
「・・・お前が気にする必要は無い、か」
以前俺がユリスにそう言って、後日ユリスにそっくりそのまま返されたんだっけ・・・
シルヴィに言われたこのセリフ、すっかりユリスに使われてるな・・・俺のせいだけど。
「・・・ホント、良い女だよお前は」
「なっ!?そ、そういうセリフを恥ずかしげも無く言うなっ!」
赤面するユリスを見て、綾斗とクローディアが笑っている。
「あー、七瀬がリースフェルトさんを口説いてるー」
「浮気性ねー、七瀬は」
「なーちゃん、めっ!」
いつの間にか、一織姉・二葉姉・四糸乃姉がやって来ていた。ジト目で俺を見ている。
「な、何だよ・・・」
「べっつにぃ?」
「シルヴィと恋人になったのになー、って思っただけよ」
「なーちゃん、浮気は良くないよ」
「「「えっ!?」」」
驚く綾斗、ユリス、クローディア。
「七瀬、本当なの!?」
「おい詳しく聞かせろ!」
「あらあら、久々の再会でそこまで進んだんですか?」
「お前ら落ち着け!ってか何で知ってんの!?」
「姉さんから聞いたわ」
「私は四糸乃から聞いたよ」
「シーちゃんからの電話で聞いたの」
「シルヴィいいいいいいいいいいっ!」
アイツ何考えてんの!?仮にもアイドルだろうが!
「大丈夫だよ、なーちゃん。シーちゃんに隠す気なんて全く無いから」
「何が大丈夫なの!?」
「七瀬、これはもう結婚宣言するしかないわよ。それならタブーとされる恋愛もうやむやになるわ。ファンを裏切ったとか叩かれるけど、そこは運営が守ってくれるわよ」
「何処のアイドルの話してんの!?」
「名案ね。いっそ会見を開いて、『恋愛禁止のルールで我慢できる恋愛は恋愛じゃありません』とか言っちゃえば良いんじゃない?」
「だから何処のアイドルの話!?さっきからギリギリなとこを攻めてくるね!?」
アカン、これ以上はマズい!
「とにかくこのことは他言無用だから!分かった!?」
「ハイハイ、シルヴィが総選挙のステージで言うまで黙ってるわよ」
「総選挙って何!?いい加減にしろバカ姉共!」
何だろう、もうツッコミすぎて疲れた・・・
「・・・フフッ」
突然一織姉が笑い出す。
「・・・元気そうで安心したわ。ね、二葉?」
「そうね。やっぱり七瀬はこうでなくちゃ」
笑う二葉姉。二人とも・・・
「あの、一織姉・・・二葉姉・・・」
「はい何も言わない」
「んぐっ!?」
二葉姉が後ろから俺の口を塞いだ。そのまま抱き締められる。
「・・・謝るのは私達の方よ。七瀬が《魔術師》だってことを知っていながら、それをずっと隠してきた・・・自業自得だわ」
「七瀬の力を知っていながら、それを言わなかった・・・でもそのせいで、今回の暴走が起きてしまった・・・七瀬、本当にゴメンね」
謝ってくる二人。止めろよ二人とも・・・
「・・・俺が暴走したのは俺のせいであって、二人のせいじゃない。俺に謝らせないつもりなら、二人も謝ったりするなよ」
「七瀬・・・」
「ったく、俺を止める為に無理しやがって・・・ユリス達を避難させることに専念してたら、傷つかずに済んだだろ」
「・・・それは無理な相談ね」
一織姉が微笑み、俺の頭を撫でる。
「だって七瀬は・・・大事な弟だから。見捨てるなんて選択肢、最初から無いもの」
「弟の為に身体を張るのは当然じゃない。だから七瀬は、もっと私達に甘えなさい」
「っ・・・このバカ姉共・・・」
「フフッ・・・なーちゃんの為なら、どんなバカにだってなっちゃうよ」
俯く俺の手を、四糸乃姉が微笑みながら握る。ユリス・綾斗・クローディアが、優しい眼差しで見つめる中・・・
俺は姉達の温もりを感じながら、静かに涙を流したのだった。
*****
星導館に戻ると、綺凛・紗夜・レスターが出迎えてくれた。何故か三咲姉、五和姉、六月姉もいて、そのまま俺の退院祝い&綾斗・ユリスの祝勝会に突入。
後からフローラもやってきて、俺の姿を見るなり号泣して抱きついてきた。何度も謝っていたが、フローラは何も悪くない。俺は優しく頭を撫で、フローラを励ましたのだった。
そして翌日・・・俺はある人物から呼び出しを受けた為、ユリス・綾斗・クローディアと共に運営委員会本部に向かっていた。
そこで待っていたのは・・・
「やぁ、よく来てくれたね」
《星武祭》運営委員会の実行委員長、マディアス・メサだった。
星導館のOBで、かつて《鳳凰星武祭》を制した実力者らしい。優勝の願いとして運営委員会入りを希望し、そこから最高責任者にまで上り詰めたそうだ。
よほど出来る人らしいな・・・
「まずは・・・そうだな。フローラ嬢の誘拐の件から話そうか」
その言葉に、ユリスの身体に力が入る。
決勝終了後のインタビューで、ユリスはフローラの誘拐事件のことを公表したらしい。しかも黒幕が《悪辣の王》ということもぶちまけたことで、この一件は大々的に報じられたそうだ。当然事実関係が明らかになれば、《悪辣の王》はタダでは済まない。
だが・・・
「結論から言うと・・・今回の誘拐事件と《悪辣の王》を結びつける証拠は出てこなかった。よって、我々が処分を下すことは無い」
「そんな!?」
ショックを受けるユリス。まぁ正直、そんな気はしてたけどな・・・
「委員長、逃走している誘拐犯は見つかっていないんですか?」
「あぁ、残念ながらまだ見つかっていない」
俺の問いに、肩をすくめて答える委員長。
「《歓楽街》を仕切っているマフィア連中が、フェスタを賭けの対象にしていたらしくてね。星導館を優勝させないように、フローラ嬢を誘拐して邪魔をした・・・というのが、運営委員会の考えだ」
委員長はそう言いながら、申し訳なさそうに俺達を見た。
「すまないね。直接の証拠が無い限り、我々も処分を下すことは出来ないんだ」
今回はあのブタに逃げられちまったな・・・
あの《魔術師》、やっぱり何が何でも捕まえるべきだったか・・・
「では次に・・・星野七瀬くん、君の処分についてだ」
・・・遂にきたか。
「星野七瀬くん・・・君には、四ヶ月間の停学処分を下すこととなった」
「なっ・・・停学・・・!?」
「四ヶ月もですか!?」
抗議の声を上げるユリスと綾斗。委員長は再び申し訳なさそうな顔をする。
「すまないね。これは星導館と協議した結果なんだ」
「なっ!?どういうことだクローディア!?」
ユリスがクローディアを睨む。
「・・・星導館は運営委員会での処分が下されてから、七瀬に対する追加の処分を検討する方針でした。ですが委員長から連絡をいただき、運営委員会と星導館との合同処分にしようという提案を受けたんです」
淡々と説明するクローディア。
「そして協議の結果、四ヶ月間の停学処分ということでまとまりました」
「ふざけるな!四ヶ月ということは、七瀬は今年いっぱい登校できないということではないか!」
「あまり彼女を責めないでやってくれ」
委員長がユリスを宥める。
「委員の中には、今後の《星武祭》参加に制限を加えようと提案する者もいた。彼女はそういった意見に反論し、最終的に制限は加えられなかったんだ。ただ、停学期間の方は少し長くなってしまってね・・・」
「そもそも私達は、処分など不要だと言っただろう!それが何故・・・」
「止せ、ユリス」
俺はユリスの肩を掴んだ。
「気持ちは嬉しいが、その辺にしておけ」
「七瀬!?お前はこれで良いのか!?」
「構わない。むしろ軽いだろ。俺は退学さえ覚悟してたからな」
ユリスへの攻撃は試合中だったからともかく、綾斗を殴ったのは校章を破壊された後だしな・・・
しかも一織姉と二葉姉にまで怪我をさせた以上、俺はもっと重い処分を覚悟していた。停学で済んだのは、まだ軽いと言える。
「星導館と合同なら、もっと処分が重くても不思議じゃない。この程度で済んだのは、クローディアが頑張ってくれたおかげだろ。ですよね、委員長?」
「あぁ、それは間違いない。医療院や警備隊からの抗議が無かったことや、フローラ嬢の誘拐事件を解決してくれた功労も勿論あるが・・・彼女が委員達を説得してくれたことが、一番大きかったと私は思うよ」
「・・・そんなことはありません」
俯くクローディア。
「結局こういった処分が下された以上・・・七瀬を守れなかったも同然ですから」
「十分守ってもらったさ」
俺はクローディアの頭を撫でた。
「ありがとな、クローディア・・・俺の為に頑張ってくれて」
「七瀬・・・」
涙を浮かべるクローディア。俺は委員長に向き直った。
「色々とご面倒をおかけしました」
「構わないさ。これが仕事だからね」
笑う委員長。
「君がまた《星武祭》で活躍する姿を、心から楽しみにしているよ」
「はい。ありがとうございます」
一礼する俺。
その後ユリスと綾斗は優勝の願いの話があるとのことだったので、俺とクローディアは先に星導館に戻ることにした。
帰りの車の中、俺はクローディアに話しかけた。
「クローディア、《獅鷲星武祭》の件だけど・・・お前のチームに参加させてもらっても良いか?」
「っ!?良いんですか!?」
突然の言葉に、目を見開いて驚くクローディア。
「あぁ。ユリスと綺凛も参加するだろうし、アイツらの力になるって約束したからな」
俺はクローディアに笑顔を向けた。
「それに・・・クローディアの力にもなりたいし。今回もそうだけど、お前にはいつも世話になってるからな。俺なんかの力が必要だって言ってくれるなら、喜んで力を貸させてもらうよ」
「っ・・・七瀬、大好きですっ!」
目に涙を浮かべ、抱きついてくるクローディアなのだった。
二話連続での投稿となります。
シャノン「前半のネタ大丈夫?だいぶ某アイドルの子をディスってるけど・・・」
大丈夫じゃない?ファンの方がいたら申し訳ないけど。
そんなわけで、今後も芸能ネタは取り入れるかもしれません。
シャノン「不倫ネタとか?」
あぁ、なるほど。七瀬にやってもらうか。
七瀬「するかバカアアアアアっ!」
それではまた次回!
シャノン「次回はななっちが不倫します!」
七瀬「するわけねぇだろおおおおおっ!」