昨日と今日で寒暖差が激しすぎる・・・
「はぁっ!」
男に殴りかかる俺。だがその瞬間、男が影の中に入って消えてしまう。
「チッ、厄介な能力だな・・・」
正直、今までだったら勝てる気がしなかっただろう。
だが・・・
「そこだッ!」
「っ!?」
出口付近の柱の影から出ようとしていた男に、《断罪の一撃》を放つ。
しかし男の反応が早く、回避されてしまった。
「おいおい、俺を殺すんじゃなかったのか?無視してアイツらの後を追おうっていうのは、ちょっといただけないぞ」
「・・・反応が早いな。俺の移動する場所を読んだのか?」
「さぁな」
星辰力の流れと《魔術師》の力を読み取れるおかげで、男の居場所はすぐに分かる。今の俺なら、例え相手が影に隠れようとお見通しだ。
「ここを通すつもりはない。通りたいなら、俺を殺してから行くんだな」
「・・・チッ」
男が俺を睨む。そして溜め息をついたかと思うと、懐から何かを取り出した。
「・・・人質に逃げられるよりマシか」
それはスイッチだった。指をかける男を見て、急いで止めようとするが・・・
「遅い」
男がスイッチを押す。それと同時に、建物が大きく揺れ始めた。
「おい、一体何を・・・!?」
「これは爆弾の起爆スイッチだ」
淡々と答える男。
「万が一の時の為に、この建物にはいくつもの爆弾を仕掛けておいた。それを全て爆発させたんだ。直にこのビルは崩壊する」
「なっ!?」
「ちなみに爆発と同時に、セキュリティシステムも作動する仕組みだ。この建物の入り口は全て封鎖され、誰もこの建物に入れない。そして誰もここから出られない」
男が愉快そうに笑う。
「先ほどの奴らは、まだこの建物を出ていないだろう。人質と共に死ぬしかない」
「・・・下種野郎が。お前も死ぬんだぞ」
「ハッ、俺の能力を忘れたのか?」
ニヤリと笑う男。
「お前らは建物の瓦礫に潰されるだろうが、俺は影の中に入ってやり過ごせる。死ぬのはお前らだけだ」
「そうですか。言いたいことはそれだけですね?」
突然声がしたと思った瞬間、男の身体が剣で貫かれていた。
「がはっ!?」
大量の血を吐く男。その後ろで剣を刺していたのは・・・
「三咲姉!?」
「七瀬、無事ですか?」
微笑む三咲姉。男の後ろ空間に穴が空いており、別の異質な空間が広がっている。三咲姉は、その空間に立っていた。
あれって・・・
「・・・なる・・・ほど・・・な・・・」
息も絶え絶えに男が呟く。
「《聖王剣》・・・次元を・・・切り裂く・・・剣か・・・」
《聖王剣》・・・ガラードワースの学有純星煌式武装で、現在は三咲姉が使い手として選ばれている。
空間ごと削り取って敵を攻撃することが出来るという、かなり強力な剣だ。今の三咲姉のように、次元を切り裂いて異次元空間に道を作ることも出来る。
恐らく、入り口からここまで道を作ってきたんだろう。
「アナタには色々と事情を聴きたいので、このまま捕らえさせてもらいますよ」
「ハッ・・・断る・・・」
その瞬間、男が何かを地面に落とした。突然の目が眩むような閃光に、咄嗟に目を閉じ手を翳す俺と三咲姉。
「閃光弾!?」
「ぐっ!?」
光が収まった時、男の姿はどこにも無かった。聖王剣は血でべっとり汚れ、その場には大きな血溜まりが残っていたが。
「無理矢理剣を抜きましたか・・・下手すると死にますよ、あの男」
「自業自得だろ」
三咲姉の唖然とした呟きに、吐き捨てるように答える俺。と、壁や天井にヒビが入る。
「げっ、ヤバ・・・」
「七瀬、早く!」
手を掴まれ、引き寄せられる。俺が異次元空間の中に入ったと同時に、穴が完全に閉じた。
間に合った・・・
「助かったよ三咲姉・・・ところで、五和姉達は?」
「先に逃がしました。フローラちゃん達も無事ですし、今頃紗々宮さんがエンフィールドさんに連絡している頃でしょう」
「良かった・・・これで綾斗も《黒炉の魔剣》が使える・・・」
ホッとして力が抜け、その場に崩れ落ちる俺。三咲姉が慌てて支えてくれる。
「七瀬!?大丈夫ですか!?」
「メッチャ疲れた・・・大して動いてないのに・・・何でだろう?」
【当然ですよ】
七海の声がする。
【クローディアさんも仰ってましたが、精神は治癒能力じゃ回復出来ません。マスターは試合での暴走で、身体だけでなく精神もかなり消耗しています。それが完全に回復しないうちに動いてるんですから、いつもより体力の消耗が激しくて当然です。肉体と精神は切っても切れない関係ですし】
マジか・・・正直、身体に力が入らない。どうしよう・・・
「よっと」
「・・・え?」
いきなり三咲姉が俺をおぶった。おいおい・・・
「勘弁してくれよ・・・」
「フフッ、良いじゃないですか。七瀬をおんぶするなんていつ以来でしょうね」
何故か嬉しそうな三咲姉。何か恥ずかしいけど・・・安心するのは何でだろう。
段々と意識が遠のいていく。
「・・・ゴメン・・・ちょっと落ちるわ・・・」
俺は三咲姉に一言詫びると、意識を手放したのだった。
*****
「・・・んっ」
気が付くと、目の前に見知らぬ天井が・・・って、二度目だなコレ。
恐らく医療院だろう・・・ベッドからむくりと起き上がる。
「あ、起きたね」
すぐ側から声がした。振り向くと、ベッドの側の椅子にシルヴィが座っていた。
「おはよう、ななくん」
「おはようって言うには、ずいぶん遅い時間だけどな」
窓の外は真っ暗で、恐らく夜遅い時間なんだろう。フローラを救出したのが明け方頃だったから、ほぼ一日眠っていたことになる。
「フフッ、ぐっすり眠ってたね。身体の具合はどう?」
「問題無いな。何だか身体が軽いわ」
「だからって、無茶しちゃダメだよ?とりあえず様子見で一晩入院して、明日には退院できるみたいだけど・・・ちゃんと休みなさいってさ」
マジか・・・まぁ七海曰く、精神が結構消耗してたみたいだしな・・・
新学期が始まるまで、少しゆっくりしようかな・・・
「シルヴィ、フローラがどうなったか分かるか?」
「医療院で手当てを受けた後、ユリスさんと一緒に星導館に戻ったよ。大した怪我はしてなかったみたい」
「良かった・・・助けられたのはお前のおかげだよ。ありがとな」
「私はちょっと力を貸しただけ。ななくんが頑張ったからだよ」
微笑むシルヴィ。
「あ、そうそう・・・ユリスさんと綾斗くん、優勝したよ。やっぱり決勝で《黒炉の魔剣》を使えたのは大きかったね」
「そっか・・・優勝したか・・・」
遂にやったんだな、アイツら・・・ホッとする俺。
「これでアイツらの願いは叶うな」
「でも、ななくんは残念だったね・・・願いを叶えられなくて」
「・・・いや、叶ったよ」
そっとシルヴィの手を握る。
「だって俺の願いは・・・シルヴィに会うことだったから」
「・・・え?」
ポカンとしているシルヴィ。
「ど、どういうこと・・・?」
「俺はな、シルヴィ・・・お前と会う為にアスタリスクに来た。もう一度だけお前と戦って、自分の中でケリをつけたかった。そしてそれが終わったら、もう二度とお前と会うつもりは無かったんだ」
それを聞いて、シルヴィが悲しそうな顔をする。
「戦う前に、一度お前と会いたかった。会って話がしたかった。だから《鳳凰星武祭》で優勝したら、お前と会って話すことを願おうと思ってたんだ。まぁ、思わぬ形でそれが叶ったわけだけど」
苦笑する俺。
「まぁそんなわけで、俺の願いは叶った。後はお前と、《王竜星武祭》で戦うことが俺の望みってとこかな」
「・・・じゃあ」
俺を見つめるシルヴィ。
「じゃあ、もう私と・・・《王竜星武祭》以外で会うつもりは無いの・・・?」
目に涙が浮かんでいる。ヤバい、泣いちゃった・・・
「・・・人の話を最後まで聞いてくれよ」
シルヴィの目元を、指でそっと拭ってやる。
「最初はそのつもりだったけど・・・言ってくれたよな、俺と一緒にいたいって。それ聞いて、本当に嬉しかったんだ。俺だって本当は・・・本当に許されるなら・・・シルヴィと一緒にいたかったから」
俺はシルヴィを見つめた。
「・・・良いのか?俺はお前を殺しかけた男だぞ?そんな俺が・・・本当にお前と一緒にいても良いのか?」
「・・・バカ。前にも言ったじゃない・・・」
シルヴィの手が、俺の頬に添えられる。
「『私が気にしてないんだから、君が気にする必要は無いんだよ』って。私は・・・今も昔も、ななくんと一緒にいたいって思ってるんだよ」
「シルヴィ・・・」
「好きだよ、ななくん・・・大好き」
微笑んでそう言うシルヴィに、俺はドキドキが止まらなかった。
どうやら俺は、この幼馴染に敵わないらしいな・・・
「・・・参った。俺の負けだ」
「え、何が・・・?」
「やれやれ、シルヴィの頑固さには脱帽だわ」
「なっ!?誰が頑固よ!?」
「お前だよバカ」
俺は苦笑しながらそう言うと・・・シルヴィを抱きしめた。
「えっ・・・ななくん・・・?」
「・・・好きだ、シルヴィ」
「ふぇっ!?」
耳まで真っ赤になるシルヴィ。いやいや・・・
「何照れてんだよ。人のこと好きって言っといて」
「だ、だって!言うのと言われるのとじゃ全然違うもん!」
「まぁ確かにな」
俺もドキドキしたし・・・人のこと言えないか。
「・・・シルヴィ」
シルヴィを真っ直ぐ見つめる俺。
「これからもずっと・・・俺と一緒にいてくれるか?」
「・・・それは幼馴染として?それとも・・・恋人として?」
「・・・この流れでそういう質問する?」
「ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないもん」
コイツ・・・表情は真面目だけど、口元が笑ってるし・・・
まぁ良いけどさ。
「・・・恋人として、だ。俺の彼女になってほしい」
シルヴィの目を見て、ハッキリ伝える。シルヴィの目には、また涙が浮かんでいた。
「・・・はいっ」
微笑むシルヴィの目から、一筋の涙が流れる。やがて、どちらからともなく顔を近付けると・・・
俺達はそのまま、お互いの唇を重ね合わせたのだった。
どうも~、ムッティです。
シャノン「遂にななっちが結ばれた・・・良かった・・・」
良かったねぇ・・・チッ。
シャノン「舌打ち!?」
まぁシルヴィと結ばれたけど、他の女の子とイチャついたりするけどね。
シャノン「やっぱり・・・ななっち酷い・・・」
七瀬「だから何で俺のせいみたいに言うの!?ってか作者!お前自重しろよ!」
断る!趣味全開で書くことの何が悪い!
七瀬「開き直った!?」
シルヴィ「作者くん・・・あまり私のななくんに浮気させないでね?」
うん!分かった!
七瀬「態度違い過ぎだろうが!」
それではまた次回!
七瀬「無視すんなあああああっ!」