寂しい・・・
「お前、どうしてここに・・・」
驚いているユリス。
「近くを通りかかったら、やたらデカい怒鳴り声が聞こえてな。来てみたら、このゴリラがお前に絡んでる現場に遭遇したわけだ」
「誰がゴリラだ!バカにしてんのかテメェ!」
「よく分かったな、バカのくせに」
「この野郎・・・ッ!」
怒りに表情を歪めるレスター。俺はレスターを睨みつけた。
「お前だってユリスをバカにしただろうが。人のこと言えねぇだろ」
「事実を言っただけだ!道楽気分の姫様がいたって、ただ迷惑なだけだろうが!コイツにいてほしいと思ってる奴なんざ、この学校に一人もいねぇよ!」
「貴様・・・!」
身体から炎を迸らせるユリス。そんなユリスを、俺は手で制した。
「止めとけ。お前がコイツと決闘する必要は無い」
「邪魔をするな!お前には関係無いだろう!」
「あるね。俺はお前の友達なんだから」
「誰が友達だ!私は友達だと思ってないぞ!」
「何を基準に友達とするのかは、人それぞれなんだろ?お前が言ったんだぞ」
「ぐっ・・・」
言葉に詰まるユリス。俺はユリスの目を真っ直ぐ見た。
「お前が俺のことをどう思おうが、俺はお前を友達だと思ってる。それを否定される筋合いは無い」
「お、お前・・・」
恥ずかしさからか、ユリスが頬を赤く染めていた。俺は再びレスターを睨みつけた。
「おいゴリラ、お前言ったよな?ユリスにいてほしいと思ってる奴なんて、この学校にはいないって」
「それがどうした?事実だろうが」
「事実じゃねぇよハゲ。お前の勝手な妄想を押し付けんな」
「なっ・・・テメェ!」
憤るレスターに、俺はハッキリ言ってやった。
「ユリスにいてほしいと思ってる奴なら、ここにいるんだよ」
自分自身を指差す俺。
「ユリスに謝れ。これ以上、俺の友達を侮辱するな」
「・・・ハッ。ユリス、テメェにもこんなこと言ってくれる奴がいたんだな。だが生憎と、俺も謝るつもりは微塵もねぇ。そこでだ・・・」
俺を見るレスター。
「テメェ、俺と決闘しろ」
「な、何を言っているのだレスター!」
抗議するユリス。
「ここのルールに則るだけだろうが。コイツが勝ったら、俺はお前に謝ってやるよ。ただし俺が勝ったら、次の公式序列戦でお前は俺を指名しろ。公式序列戦の場で、正々堂々とお前を打ち負かしてやるよ」
レスターはそう言うと、俺に向かって指差した。
「テメェ、名前は?」
「・・・星野七瀬だ」
「了解・・・不撓の証たる赤蓮の名の下に、我レスター・マクフェイルは汝星野七瀬への決闘を申請する!」
レスターの言葉に応じて、俺の制服の胸の校章が赤く発光した。
「受けるな!お前が決闘をする必要など・・・!」
決闘を止めようとするユリス。俺は右手で、ユリスの口を塞いだ。
「むぐっ!?むぐぐぐっ!?」
「大丈夫だよ、ユリス。すぐに終わらせる・・・我星野七瀬は、汝レスター・マクフェイルの決闘申請を受諾する」
受諾の証として、再び校章が赤く煌いた。ユリスの口から手を離す俺。
「下がってろユリス」
「し、しかし・・・!」
「良いから。これは俺と、あのゴリラとの決闘だ」
「そういうこった!いくぜ!《ヴァルディッシュ=レオ》!」
レスターが煌式武装の発動体を取り出す。レスターに負けないサイズの斧が出現した。
「コイツが俺の煌式武装《ヴァルディッシュ・レオ》だ。テメェも早く煌式武装を出しやがれ」
「必要無い」
「は・・・?」
「必要無いと言ったんだ。さっさとかかってこいよ」
「テ、テメェ・・・!」
表情が憤怒に染まるレスター。
「調子乗ってんじゃねぇッ!」
レスターがダッシュしてくる。そのまま斧を振り上げ、俺を目掛けて思いっきり振り下ろしてきたが・・・
俺はそれを左手で受け止めた。
『なっ!?』
驚愕する一同。
「レ、レスターの斧を片手で!?」
「嘘でしょう!?」
信じられない表情をしているランディとサイラス。ってか、お前らまだいたのな。サイラスに関してはこれが初ゼリフじゃね?
一方レスターは、両手でより一層強く斧に力を込めていた。だが、そんなことをしても無駄だ。
「クソッ!?斧が全く動かねぇ!?」
「お前の負けだよ、ゴリラ」
俺は右手で拳を作り、レスターのがら空きの校章目掛けて拳を放つ。校章は粉々に砕け散り、レスターは吹き飛んで後ろの噴水に直撃した。
『決闘決着!勝者、星野七瀬!』
俺の校章から機械音が鳴り響く。
「レスター!?」
「レスターさん!?」
ランディとサイラスが、吹き飛んだレスターの安否を確かめに走っていく。
「お、お前は一体・・・」
「言っただろ?すぐに終わらせるって」
唖然とするユリスに、俺はニヤリと笑ってみせたのだった。
*****
俺とユリスは、倒れているレスターの元へと歩み寄った。
「俺の勝ちだな、ゴリラ」
「・・・テメェ、何しやがった」
弱々しく言うレスター。どうやら、結構なダメージを受けたようだ。
「特別なことは何もしてねぇよ。左手に星辰力を集めて斧を受け止め、同じく右手に星辰力を集めて殴っただけだ。戦闘の基本だろ?」
「そ、そんなバカな!?あのレスターの攻撃を、無傷で受け止めたんだぞ!?」
「俺が拳に集めた星辰力が、ゴリラの斧の星辰力を上回ってただけの話だろ」
喚くランディの言葉に、素っ気無く返す俺。
「つまりあなたとレスターさんとの間に、それほどの星辰力の差があったということですか・・・あのレスターさんの直接攻撃を左手だけで受け止めるなんて、どれほどの星辰力を持っていたら可能なんです・・・?」
呆然としているサイラス。お、どうやらコイツは頭が回るみたいだな。
「まぁそういうわけだ。お前の敗因は得体のしれない相手に、よく考えもせず突っ込んできたことだな。そんな戦い方しかしないから、ユリスに三回も負けるんだよ」
「う、うるせぇ!余計なお世話だ!」
「やれやれ・・・ま、俺が勝ったんだ。約束は果たしてもらうぞ」
俺の言葉に、レスターが苦い顔をした。そして・・・
「・・・悪かったよ。熱くなってたとはいえ、流石に言い過ぎた」
「・・・別に」
「お前はエリカ様か。いや、ユリス様か」
「やかましい!」
俺のツッコミに、顔を赤くして怒鳴るユリス。
と、ランディとサイラスがレスターに肩を貸して立ち上がらせる。
「行こう、レスター」
「念の為、医務室で診てもらった方が・・・」
「そんな必要ねぇよ」
レスターはサイラスの言葉を一蹴する。そして俺の方を見た。
「星野七瀬・・・今回は俺の負けだ」
「おっ、素直に認めるのな」
「あぁ、完敗だ。だが、俺は負けたまま終わるつもりはねぇ。ユリスと同じく、テメェにもリベンジしてやるからな」
「なら、ユリスより前に俺にリベンジするんだな。俺に勝ったら、ユリスが決闘を受けてくれるってよ」
「おい!?私はそんなこと一言も言ってないぞ!?」
「安心しろ、ゴリラに負けるつもりは無い」
「言ってくれるじゃねぇか。絶対ギャフンと言わせてやるよ」
「そうかい。なら、せいぜい頑張れよ・・・レスター」
初めてレスターの名前を呼ぶ。ニヤリと笑うレスター。
「ハッ、覚悟しとけよ・・・七瀬」
そう言うとレスターは、ランディとサイラスに連れられて去って行った。
「いやー、すごいな七瀬!」
草むらの陰から、野生の夜吹が飛び出してきた。
「夜吹!?お前もいたのか!?」
「よぉ、お姫様」
「あれ、二人とも知り合いか?」
「去年お姫様が転入してきたクラスが、俺のクラスだったんだよ」
「へぇ・・・ユリスも災難だったな」
「何でだよ!?」
「全くだ。我ながら不運だったと思う」
「ねぇ、何で俺の扱いってこんなに酷いの!?」
『夜吹だから』
「ハモった!?」
ガックリと崩れ落ちる夜吹。
「それはそうと夜吹、悪かったな。折角の《冒頭の十二人》同士の決闘を邪魔しちまって。大スクープだって言ってたもんな」
「構わねぇよ。もっとデカいスクープが撮れたしな」
満面の笑みを浮かべる夜吹。
「入学初日にして序列九位になった男、星野七瀬!これは最高のスクープだぜ!」
「・・・あ、俺《冒頭の十二人》になったのか」
「今更か!?」
ユリスのツッコミ。
「正直全く意識してなかったわ。ユリスを侮辱されたことに腹が立っただけだし」
「なっ・・・!」
顔を赤くするユリス。夜吹がニヤニヤしている。
「おやぁ?これは恋の予感かぁ?特ダネの匂いがするなぁ?」
「だ、誰が恋だ!貴様のカメラを燃やしてやろうか!?」
「ちょ、止めてえええええ!?」
そのまま走って逃げて行く夜吹。全くアイツは・・・
と、ユリスがチラチラと俺の方を見ていた。
「ん?どうしたユリス?」
「いや、その・・・ほ、本気なのか・・・?」
「何が?」
「私のことを・・・と、友達だと思っているというのは・・・」
「当たり前だろ」
言い切る俺。ユリスは驚いていた。
「な、何故だ!?私は今日、お前にあんな冷たい態度をとったというのに!」
「あ、冷たい態度っていう自覚はあったんだ」
「バ、バカにするな!私にだってそれくらいの自覚はあるぞ!」
「だったらもうちょっと愛想よくしろや」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まるユリス。
「・・・私だって、好きであんな態度をとっているわけではない。ただでさえ私には、一国の姫という肩書きが付いて回る。簡単に心を許すことなど出来ないのだ」
「何で?」
「私が王族だから近づいてくる者も少なくないからだ。興味津々で質問攻めにしてくる者、何とか取り入ろうと媚を売ってくる者・・・正直ウンザリなのだ。皆は私を、ユリス個人としては見てくれない。それが嫌で、私は周りから距離を置いているのだ・・・」
「ユリス・・・」
「・・・レスターの言う通りだ。私にいてほしい者など、この学校には一人もいない」
自嘲気味に笑うユリス。なるほど、今のコイツに必要なのは・・・
「・・・ユリス」
「え・・・?」
ユリスをそっと抱きしめる俺。ユリスは一瞬驚き、すぐに顔を赤面させた。
「な、な、な・・・・・!」
「・・・お前はもっと、人の温かさに触れるべきだ」
俺の言葉に、暴れていたユリスが動きを止めた。
「初めての場所に来て、周りには知らない奴しかいなくて・・・そんなの誰だって心細いさ。特にユリスは一国のお姫様だからな。周りに気を許せないのも、今の話を聞いてよく分かった。だけどな・・・」
俺はユリスを見つめた。
「そんな奴しかいないわけじゃない。俺はユリスと仲良くなりたいと思ってる。王族だの何だのを抜きにしてな。クローディアだって、本気でお前のことを心配してた。お前は友達じゃないなんて言ってたけど・・・それでもクローディアにとって、お前は大切な友達なんだよ」
ユリスの目に、みるみると涙が浮かんでいく。
「そういう奴もいるんだよ。皆がお前の敵なわけじゃないんだ。周りに気を許せ、距離を置くななんて簡単には言わないけどさ・・・それでも・・・」
俺はユリスに笑顔を向けた。
「もう一人で頑張るなよ。辛い時は、いつだって頼ってくれて良いんだから」
「・・・ッ!」
ユリスの目から、とめどなく涙が溢れる。それでも嗚咽を必死に堪えるユリス。
俺はユリスの背中に回した両手に、そっと力を込めた。
「今ここには、俺達以外誰もいない。我慢しなくて良いんだぞ」
右手をユリスの頭に持っていき、そのまま撫でる。
「今までよく頑張ったな」
「・・・ッ!七瀬・・・ッ!」
限界だったようだ。初めて俺の名前を呼んでくれたユリスは、そのまま俺の胸に顔を埋めながら号泣した。
俺はユリスが泣き止むまで抱きしめつつ、頭を撫で続けたのだった。
こんにちは、ムッティです。
今回、主人公が決闘しています。
一瞬だけですが(笑)
個人的には、ユリスが七瀬に心を開くシーンを描きたかったんです。
今までがツンツンしてたので、これからデレさせたい!(願望)
それではまた次回!