買いに行かねば・・・!
「・・・惜しかったな」
「・・・えぇ、素晴らしい戦いでした」
俺と綺凛は、部屋で紗夜とレスターの試合の中継を見ていた。
結果は紗夜達の負けで、決勝に進んだのはアルディとリムシィだった。
「綾斗先輩とリースフェルト先輩は、あの二人に勝てるでしょうか・・・?」
「さぁな・・・それよりまずは、準決勝を勝たないと」
まぁ力量差を考えると、よほどのことが無い限り決勝に進めるだろう。
そして決勝に勝ったら、あの二人は優勝・・・願いを叶えてもらえるのだ。
「・・・ゴメンな、綺凛」
「ふぇ?何がですか?」
「お前の親父さんを助けられなくて・・・ゴメン」
力になるって約束したのに・・・力になれなかったな。
「・・・いいんです」
首を横に振る綺凛。
「優勝できなかったことは残念ですが・・・父を助けるチャンスはまだあります。実は会長から、来年の《獅鷲星武祭》で会長のチームに参加してほしいと言われまして」
「マジか」
クローディアの奴、綺凛にも声を掛けたのか・・・
確かに綺凛なら、戦力としてこれ以上ないほどの人材だろうしな。
「七瀬さんも誘われてるんですよね?」
「まぁな。返事はまだしてないけど」
「私もです。ゆっくり考えてほしいと言われました」
笑う綺凛。恐らく、綺凛の答えはもう決まっているんだろう。
そして俺も既に、綺凛と同じ答えに決めている。
「今度こそ優勝しましょうね」
「だな」
綺凛も、俺の答えを分かっているようだ。お互い微笑み合う。
「それまでに、《魔術師》の力をマスターしたいな。七海に協力してもらって・・・七海に・・・七海・・・」
「七瀬さん?」
冷や汗ダラダラの俺を見て、綺凛が首を傾げる。
ヤベェ・・・
「七海の存在・・・完全に忘れてた・・・」
「えっ・・・」
唖然としている綺凛。俺は恐る恐る呼びかけた。
「・・・げ、現場の七海さーん?」
【・・・はーい。マスターから忘れられるほど影の薄い七海でーす】
「すいませんでしたあああああああああああああああっ!」
俺は全力で土下座した。地面に額を擦りつけた。
【どうせ私なんて空気ですよ・・・要らない子ですよ・・・】
完全に拗ねている七海。
【マスターときたら、私の言葉を無視して暴走しちゃうし・・・正気に戻ったと思ったら、私のこと忘れてるし・・・何ですか、コレ。私イジメられてるんですか?】
「違うから!マジでゴメンって!」
【ハァ・・・まぁ仕方ありません。力を制御し切れなかった私にも非はありますし、この辺でよしとしましょう】
「七海さん、あざっす!」
あー、良かった・・・と、綺凛が驚いた顔をしていた。
「・・・聞こえる」
「え?」
「私にも七海さんの声が聞こえます!」
「マジで!?」
【ふふん、どうですか?】
何故か得意げな様子の七海。
【マスターの《魔術師》の力は、私がずっと封印してましたから。それを全てマスターに返した今、私はその力を媒体に他の人と会話することが出来るようになったんです】
「へー・・・ってか、全部返した?俺に?」
【えぇ。まぁ返したと言うより、強引に持っていかれたんですけど】
苦笑する七海。
【これで私に頼らなくても、力を使えるようになりました。ですが・・・】
「再び暴走する可能性もある・・・ってことだな」
【・・・はい。ですからマスターには、力の制御を学んでもらわないといけません】
「了解。これからやっていくさ」
そんな会話をしていた時だった。俺の端末に着信が入った。相手は・・・
「あれ、クローディア?」
操作すると、空間ウィンドウにクローディアの険しい表情が映った。
『七瀬、緊急事態です』
「・・・何事だ?」
こういうクローディアを見るのは珍しいな・・・何かあったのか?
『落ち着いて聞いてください・・・フローラが誘拐されました』
「は!?」
「フローラちゃんが!?」
驚愕する俺と綺凛。誘拐って・・・
「どういうことですか、会長!?」
『先ほど誘拐犯を名乗る男から、ユリスの端末に着信が入ったんです。フローラを返してほしければ、《黒炉の魔剣》の凍結処理を行えと』
その言葉に、俺は否応なくピンときてしまった。《黒炉の魔剣》が狙いということは、黒幕は十中八九・・・
「《悪辣の王》か・・・ッ!」
『えぇ、でしょうね。そして実行犯はレヴォルフの諜報機関・・・《黒猫機関》のメンバーだと思われます』
クローディアも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
『彼らは冷徹ですから。幼い子供だろうと、容赦はしないでしょう』
「・・・要求に応じないと、フローラの命が危ないってことか。かと言って素直に要求に応じれば、綾斗は二度と《黒炉の魔剣》を使えなくなるよな・・・」
『えぇ。凍結処理は後々解除できますが、《黒炉の魔剣》は綾斗を認めないでしょうね』
「あのブタ野郎・・・卑劣なマネしてくれやがって・・・!」
怒りがこみ上げてくる。覚えてろよ、メタボ野郎・・・!
一方、綺凛は突然のことにおろおろしていた。
「ど、どうするんですか!?このままじゃ・・・!」
『分かっています。ですから、一つ作戦を立てました』
「作戦?」
『えぇ、二人の協力も必要です。よく聞いてください』
真剣な表情のクローディア。
『まず綾斗には、凍結処理の申請をしてもらいます。そして私が権限を使い、申請の受理を可能な限り遅らせます。明日の閉会式までは時間を稼げると思いますので、七瀬達にはそれまでにフローラを見つけてもらいたいんです』
「で、でもどうやって・・・」
『私の予想では、《黒猫機関》は再開発エリアに潜伏していると思われます。あそこはレヴォルフの庭のようなものですから、潜伏するには格好の場所でしょう。そこを重点的に捜索するんです』
「な、なるほど!それなら探す範囲がだいぶ狭くなりますね!」
『えぇ。既に沙々宮さんとマクフェイルくんが、再開発エリアに向かっています。二人と合流し、しらみつぶしに捜索してください』
「了解です!すぐ向かいます!」
俺はクローディアと綺凛の会話を、黙って聞いていた。頭の中で思考を整理し、仮説を組み立てていく。
『七瀬?どうかしましたか?』
首を傾げるクローディア。俺はようやく口を開いた。
「クローディア、俺の予想を言っても良いか?」
『えぇ、聞かせてください』
「・・・恐らくフローラは、再開発エリアにはいない」
『なっ・・・』
絶句するクローディア。俺は構わず言葉を続けた。
「《黒炉の魔剣》の凍結処理を要求してきた以上、向こうも自分達の正体がバレることは予測できるはずだ。その場合、再開発エリアに潜伏するのは得策じゃない。俺達に読まれるのは目に見えてるからな」
『で、ではまさか・・・レヴォルフに匿っていると・・・?』
「いや、それも無いな」
俺は首を横に振った。
「それだと万が一見つかった場合、《悪辣の王》の立場が危うくなる。あのブタはどうしようもないクズだけど、そんなリスクを冒すほど愚かじゃない」
『では七瀬は、何処にフローラがいるとお考えなのですか・・・?』
「それは俺にも分からん。ただ、アテが無いわけじゃない。とりあえず綺凛を再開発エリアに向かわせるが、俺は少し別行動で動く。構わないか?」
『えぇ。七瀬の意見も一理ありますし、構いません』
「サンキュー。何か分かったら連絡する」
『お願いします。私は時間稼ぎの為に身を隠しますので、そちらには戻りません』
「了解。じゃあまた後で」
通信が切れる。俺は綺凛を見た。
「聞いての通りだ。綺凛は再開発エリアに行って、紗夜とレスターと合流してくれ」
「了解です。七瀬さんはどうされるんですか?」
「ツテを頼ってみる。何か分かり次第連絡するから」
「分かりました。では、行ってきます!」
綺凛が部屋を出て行く。俺は端末を操作し、ある人物に電話をかけた。出てくれるか心配したが、すぐに繋がる。
『七瀬!?』
「うーっす。元気?」
『そりゃこっちのセリフだ!お前大丈夫なのか!?』
「何とかな」
苦笑する俺。
「それより、今大丈夫か?」
『え?まぁ大丈夫だけど・・・』
「それなら、今から少し会えないか?」
『は?おいおい、いきなりどうした?』
「・・・あのブタが仕掛けてきやがった」
『・・・了解。すぐ準備する』
「察しが良くて助かるよ・・・ありがとな、イレーネ」
『良いってことよ。お前とあたしの仲だしな』
ニヤリと笑うイレーネなのだった。
*****
「チッ・・・あの野郎、マジで卑劣なことしやがる・・・!」
イレーネの家を訪れた俺は、イレーネに状況を説明した。怒りで顔を歪めるイレーネ。
「さっきの試合、天霧が《黒炉の魔剣》を使わなかった理由が分かったぜ・・・」
「あぁ。凍結処理申請を出したことになってるし、犯人に信じ込ませる為にも《黒炉の魔剣》は使えないからな」
既に準決勝第二試合も終了し、ユリスと綾斗は無事に決勝へと駒を進めた。だが《黒炉の魔剣》が無い状態では、アルディとリムシィには勝てないだろう。
早くフローラを助けて、犯人を捕まえないと・・・
「ってか今さらだけど、俺がここに来て良かったのか?お前が俺と会ってるのがバレたら、お前の立場が危うくなるんじゃ・・・」
「それなら大丈夫さ」
溜め息をつくイレーネ。
「今回あたしには、ディルクからの接触は一切無かった。アイツだって、脅迫したことがお前の耳に入るのは承知の上だろう。当然、お前があたしに連絡を取ることも予測してるはずだ。にも関わらず、何も言ってこないということは・・・」
「お前の持っている情報が、俺に流れても問題は無い・・・そう判断したってことか」
「恐らくな」
そりゃそうか・・・あのブタが、俺と仲の良いイレーネに情報を与えるわけもない。
「悪いな、七瀬。大した情報も無くて」
「気にすんな。それを期待して来たわけじゃないから」
「は・・・?」
イレーネがポカンとしている。
「どういうことだ・・・?」
「実はな・・・」
俺はイレーネに、先ほどの俺の予想を伝えた。
「なるほどな・・・」
考え込むイレーネ。
「あたしも七瀬と同じ考えだな。それに再開発エリアは、警備隊が定期的に見回っているはずだ。人質を捕らえて潜伏するには、適してるとは言えねぇ」
「やっぱりか・・・実はお前の考えが聞きたくてさ」
イレーネを見る俺。
「イレーネ、アスタリスクで潜伏に最適な場所って何処だと思う?裏の人間が使える場所なんて、そうそう無いと思うんだけど・・・」
俺の問いに、イレーネがポツリと呟いた。
「・・・《歓楽街》」
「え・・・?」
「《歓楽街》なら、裏の人間が潜伏するには最適だろうな。人も多いし、金さえ払えば匿ってくれるような店だってある。まぁディルクと折り合いの悪い奴らが多いから、ディルクに協力してる奴がいる可能性は低いと思うがな」
「なるほど・・・つまり、今は使われていない建物に隠れている可能性が高いってことか・・・それならずいぶん的を絞れそうだな」
「まぁあくまでも予想だけどな。確証があるわけじゃない」
肩をすくめるイレーネ。
「いや、助かったよ。おかげで特定できそうだ」
「あん?何か考えでもあんのか?」
「まぁな。あまり使いたくない手ではあるけど・・・フローラを助ける為だ」
俺は決心をつけると、イレーネに頭を下げた。
「ありがとう、イレーネ。後はこっちで何とかする」
「大丈夫か?あたしも手伝おうか?」
「いや、気持ちは嬉しいけど・・・これ以上俺達に加担すると、お前まであのブタに敵視されるだろ。そうなりゃお前の立場が危うくなるし、プリシラも危ない」
「・・・悪いな」
「何言ってんだよ。十分すぎるほど協力してもらったさ」
俺はそう言って笑うと、椅子から立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行くわ。プリシラによろしくな」
「あぁ・・・気を付けろよ、七瀬」
イレーネが拳を突き出してくる。
「健闘を祈ってるぜ」
「おう」
俺は拳を合わせると、イレーネの家を出た。
すぐに空間ウィンドウを操作し、ある人物に電話をかける。何回かコールされてから繋がり、空間ウィンドウにその人物の顔が映る。
『もしもし!?なーちゃん!?』
「四糸乃姉、今大丈夫?」
電話の相手は四糸乃姉だ。こんなこと、四糸乃姉じゃなきゃ頼めないしな。
『身体は大丈夫なの!?もう動いても平気なの!?』
「大丈夫だよ。心配かけてゴメン。それと・・・危険な目に遭わせてゴメン」
俺は四糸乃姉に謝った。
「姉さん達をあんな目に遭わせて・・・弟失格だよな、俺」
『・・・怒るよ、なーちゃん』
いつになく真剣な表情の四糸乃姉。
『私達にとって、なーちゃんは大切な弟・・・家族なんだから。失格も何もないよ。どんななーちゃんだって、私達にとってはかけがえのない存在なんだよ。だから二度とそんなこと言わないで』
「・・・ありがとう、四糸乃姉」
ホント、四糸乃姉には敵わないな・・・
思わず涙ぐみそうになったが、堪えて本題に入ることにした。
「・・・四糸乃姉、緊急事態だ。一つ頼みたいことがある」
『・・・ただ事じゃないみたいだね。どうしたの?』
「今すぐシルヴィアに会いたいんだ。どうしてもアイツの力を借りたい。アイツと連絡を取ってもらえるか?」
俺の言葉に、四糸乃姉が驚いた表情を見せる。そしてすぐ、優しく微笑んだ。
『・・・だってさ、シーちゃん。どうする?』
その言葉の直後、空間ウィンドウの端から顔を覗かせたのは・・・
『呼んだかな?ななくん』
忘れもしない顔だった。俺はコイツに会う為に、アスタリスクまでやって来たのだ。
「久しぶり・・・でもないのか。お前にとっては」
一昨日の試合で会ってるしな・・・俺は覚えてないけど。
「改めて言うけど・・・久しぶりだな、シルヴィア」
俺の言葉に、ニッコリ笑うシルヴィアなのだった。
三話連続での投稿となります。
シャノン「ストック大丈夫?」
まだ大丈夫。≪鳳凰星武祭≫終了後の話も書き始めてるし。
ただ、今はキャラ紹介を書いてるけど。
シャノン「キャラ紹介?」
ほら、結構オリキャラ出してるじゃん?
原作でも出てるキャラはいいけど、オリキャラの説明は必要かなって。
シャノン「あー、確かにねぇ」
とりあえず一織、二葉、三咲、四糸乃、五和、六月あたりを書く予定だよ。
シャノン「なるほど・・・ちなみに私は?」
シャノンはゲームのキャラだからなぁ・・・
まぁ性格とかこっちで決めちゃってるから、その辺りの説明は・・・時間があったら。
シャノン「断言はしてくれないんだ!?」
それではまた次回!
シャノン「ちょ、無視するなああああああああああっ!?」