≪ユリス視点≫
『刀藤綺凛、校章破壊』
綾斗が刀藤の校章を斬り、私はほっと一息ついた。
刀藤とタイマンで戦うことになるとは思わなかったが、我ながら善戦したと思う。勝てないとは分かっていたが、粘って隙をつくことが出来た。その結果七瀬を攻撃して隙を作ることができ、綾斗の手助けが出来たのだがら上々だろう。
そして刀藤はここで脱落・・・後は二人で七瀬を倒して終わりだ。
「・・・参りました」
悔しそうな表情の刀藤。刀藤には、収監中の父親を助けたいという願いがある。
無論私にも譲れない願いがあるので、勝ちを譲るつもりなどさらさら無かったが・・・
「・・・すまないな、刀藤」
それでも、やはり罪悪感は拭えない。私は刀藤に詫びた。
「良いんです。これは真剣勝負なんですから。それに・・・」
刀藤は笑うと、我々のずっと後ろに目を向けた。そこには、立ち上がろうとしている七瀬の姿があった。
「七瀬さんは、まだやられてはいません。試合は終わってませんから」
「・・・そうだね」
綾斗が頷く。
本当は刀藤も綾斗も分かっているのだろう。あの状態の七瀬では、私と綾斗の二人を相手取ることなど出来ないと。
だが、それでも・・・
「全力で行くぞ、綾斗。それが対戦相手への・・・いや、友人への礼儀というものだ」
「勿論だよ。ここで手を抜いたら、七瀬に対する侮辱になるからね」
私達が頷き合った瞬間・・・
「があああああああああああああああっ!」
七瀬の絶叫が響き渡った。その瞬間、七瀬の身体から尋常ではない程の雷が溢れ出す。
「なっ・・・何だアレは!?」
私は驚愕した。私が出す炎など、比較にならないほどのものだ。
「何か様子が変だ!七瀬の話じゃ、雷の力は七海さんが制御してるはずだろう!?昨日はこんなに雷を出してはいなかったはずなのに!」
「これじゃ、七瀬さんが暴走してしまうんじゃ!?」
綾斗と刀藤が慌てているが・・・私は悟った。《魔女》としての力を持っているからこそ分かる。
恐らく・・・
「・・・手遅れだ。七瀬は既に暴走状態だろう」
「そんな!?」
と、一瞬にして七瀬がその場から消えた。そして次の瞬間、私の目の前にいた。
「なっ!?」
そして腹部に凄まじい痛みを感じたかと思うと、私は壁に叩きつけられていた。七瀬に腹部を殴られ、吹き飛ばされたと理解するまで少し時間を要した。
「ユリスッ!?」
綾斗の叫び声が聞こえる。どうにか返事をしようとするが、私の口から出たのは自らの血だった。
「かはっ・・・!」
口の中に溜まった血を吐き出す。目で追えない速さの上、一撃でこの威力・・・恐ろしいなどというものではないな・・・
「くっ!?正気に戻ってくれ!七瀬!」
七瀬の拳を、どうにか《黒炉の魔剣》で防ぐ綾斗。封印解除状態の綾斗が、完全に防戦一方だ。
と、七瀬が拳を振り上げた時・・・一瞬だけ隙ができた。
「そこだっ!」
突きを放つ綾斗。七瀬の校章が砕ける。
『星野七瀬、校章破壊』
『勝者、天霧綾斗&ユリス=アレクシア=フォン=リースフェルト!』
機械音声が試合終了を告げる。だが・・・
「ぐおおおおおっ!」
七瀬か叫んだかと思うと、綾斗の顔面に思いっきり殴った。吹き飛び、壁に激突する綾斗。
ダメだ、完全に理性を失っている・・・!
『こ、これはどういうことでしょう!?試合は終了したはずですが、七瀬選手の攻撃が止まりません!』
『マズいッス!七瀬選手、完全に《魔術師》の力に呑み込まれてるッスよ!このままじゃ七瀬選手もそうですが、天霧選手とリースフェルト選手が危険ッス!』
実況と解説の慌てた声が聞こえてくる。と、七瀬が私の方を向いた。
「マズい・・・!」
しかし動くヒマもなく、目の前には七瀬の姿があった。
「ぐおおおおおっ!」
やられる・・・!目をつぶった瞬間だった。
「はぁっ!」
「やぁっ!」
「ぐおっ!?」
女性二人の声と、七瀬の呻き声が聞こえた。目をあけると、二人の女性が私を庇うように立っていた。
一人は知らない女性だが、もう一人は・・・
「二葉・・・さん?」
「ヤッホー、《華焔の魔女》ちゃん」
ニッコリ笑う女性。七瀬の姉上の二葉さんだった。
ということは・・・
「お隣は、まさか・・・」
「初めまして、星野一織よ。よろしくね、リースフェルトさん」
柔らかく微笑む女性。
この人がかつての序列一位、星野一織・・・
「悪いわね、ウチの弟が迷惑かけて」
「後は私達が何とかするから、安全な場所へ避難してちょうだい」
二人の視線の先には、拳を構える七瀬の姿があった。目が血走り、歯を剥き出して唸り声をあげている。
いつもの優しい表情を浮かべている七瀬とは、あまりにも違っていた。
「ぐおおおおおっ!」
七瀬が二人に襲いかかる。それを避け、両側から挟み撃ちで攻める二人。
凄い・・・私では反応できなかったスピードに、しっかり対応できている・・・
「立てますか?」
別の女性が、私の身体を支えてくれる。この人は・・・
「《絶剣》・・・?」
「・・・その二つ名は仰々しいので、あまり好きではないのですが」
苦笑する《絶剣》・・・星野三咲。
「いや、ピッタリでしょ」
「首肯。お似合いです」
五和さんと六月さんが、綾斗を支えていた。
「綾斗!大丈夫か!?」
「大丈夫、と言いたいところだけど・・・流石に堪えたね・・・」
「私が昨日くらったやつより、全然威力があったからね・・・そりゃ堪えるわ」
「首肯。今の七瀬はなりふり構っていない分、全力で攻撃していますので」
五和さんと六月さんが同情したように言う。と、私はあることに気付いた。
「そうだ!刀藤は何処に!?」
「リースフェルト先輩!」
見ると、刀藤が水色の髪の女性に支えられていた。この人は・・・
「ひょっとして・・・ルサールカの!?」
「ひうっ!?ほ、星野四糸乃です・・・なーちゃんがお世話になってます・・・」
涙目の女性・・・星野四糸乃。この人も七瀬の姉だったのか・・・
「四糸乃、五和、六月。とにかくお三方を連れて離脱しますよ」
そう言って三咲さんが、私を支えて立ち上がった瞬間・・・一織さんと二葉さんが、私たちの近くの壁に激突した。
「なっ!?そんな!?」
「二人とも!?」
叫ぶ三咲さんと四糸乃さん。一織さんと二葉さんは、頭から血を流していた。
「痛たた・・・ちょっと姉さん、腕鈍ったんじゃないの?」
「失礼ね・・・これでもトレーニングは続けてるわよ」
言葉とは裏腹に、二人とも深刻な顔をしていた。
「あの子、本当に七瀬なの・・・?」
「どこからどう見ても七瀬でしょ・・・ぺっ」
口から血を吐き出す二葉さん。
「二葉姉!?」
「あー、大丈夫。ちょっと口の中切っちゃって」
五和さんの心配そうな声に、手を振って応じる二葉さん。
「それより早く避難しなさい。私達二人でも、今の七瀬に勝てるか分からないわ」
「提案!それなら、六月達も一緒に・・・!」
「それはダメよ、六月」
首を横に振る一織姉。
「アナタ達は他学園の生徒なのよ?七瀬から一撃でもくらった瞬間、アナタ達の所属する学園は星導館を糾弾するわ。当事者の七瀬がどんな罰をくらうか、分かったもんじゃない」
「幸いと言うべきか、今回の試合は星導館同士の試合よ。そして姉さんと私は星導館のOG・・・ここで済めば、学園同士のいざこざには発展しない。まぁそれでも、七瀬には何らかのペナルティーが課されるでしょうけどね。だからアンタ達は、早く避難を・・・」
二葉さんが説明していた時・・・
「ぐあああああああああああああああっ!」
七瀬の絶叫が聞こえた。見ると、先ほど以上の雷が溢れ出ていた。
「嘘・・・だろう・・・?」
七瀬の力は、一体どれほどのものだというのだ・・・
「これはマズいわ・・・!」
一織さんの頬から、冷や汗が滴り落ちる。と、七瀬がこちらへ手を向けた。
「ッ!?伏せてッ!」
二葉さんが叫んだのと同時に、凄まじい雷が解き放たれた。三咲さんが私の頭を押さえ、地面に伏せさせる。すぐ上を、もの凄いエネルギーが通過したのが分かった。
そして次の瞬間、とんでもない爆音と爆風がやってくる。
「くぅっ!?」
「ぐっ!?」
三咲さんと共に、地面を転がる。
「っ・・・ユリスさん!?大丈夫ですか!?」
「・・・えぇ、何とか」
三咲さんの声に答え、よろよろと起き上がる。周りを見ると、壁と地面が広範囲に渡って深く抉れていた。
あの一撃でここまで・・・ゾッとしていた時だった。
「一織姉!?」
「二葉姉様!」
五和さんと六月さんの叫び声が聞こえる。一織さんと二葉さんは、全身ボロボロの状態で倒れていた。
まさか、今のをくらって!?
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
七瀬の身体の雷が、またしても強くなっている。マズい・・・!
「綾斗!刀藤!立てるか!?」
「あぁ、早く七瀬を止めないと!」
「私も行きます!」
私の声掛けに、立ち上がる二人。三咲さんと四糸乃さんが慌てて止めてくる。
「ダ、ダメです!一織姉様と二葉姉様ですらあの状態なんですよ!?」
「三人だって、かなりのダメージを受けてるんだよ!?その身体じゃ・・・!」
「私達が行かないといけないんです」
私はキッパリ言った。
「一織さんや二葉さんが仰ったように、他学園の生徒を巻き込めません。それに、七瀬は私達の友人ですから」
「ユリスさん・・・」
「それに七瀬・・・前に言ってたんです」
そう、イレーネの家からの帰り道・・・純星煌式武装について話していた時だ。
「・・・綺凛、綾斗、ユリス」
七瀬は私達を真っ直ぐ見て、こう言ったのだ。
「もし俺が、道を踏み外すようなことがあったら・・・その時は・・・俺を殺してでも止めてくれ」
「なーちゃんが・・・そんなことを・・・?」
「縁起でもないこと言うなって、怒りましたけどね」
驚いている四糸乃さんに、苦笑する私。
「でも・・・頼まれたからには、七瀬を止めないといけません。それが友人として、今我々がすべきことですので」
「勿論、殺すつもりなんてありません。絶対に七瀬を正気に戻して、必ず連れ戻してきますから」
「もうこれ以上、七瀬さんには傷ついてほしくないんです。絶対に止めてみせます」
綾斗と綺凛も頷く。私達は、七瀬へと視線を向けた。
「七瀬ッ!」
私が叫ぶと、七瀬がこちらを見た。
「お前の相手は私達だ!行くぞ二人とも!」
「あぁ!」
「はいっ!」
七瀬に向かって走り出す。七瀬がこちらへと手を向けた。
「ユリスちゃん!綾斗くん!綺凛ちゃん!」
「請願!ダメです!戻って下さい!」
後ろから、五和さんと六月さんの叫び声が聞こえる。それを無視して、私達は走った。
そして七瀬の手から雷が迸ろうとした、その時・・・歌声が聴こえた。
「え・・・?」
七瀬の雷が急に霧散した。思わず立ち止まってしまう私。
「これは・・・」
「何処かで聴いたような・・・」
綾斗と刀藤も呆然としている。すると・・・
「えっ・・・!?」
「あれは・・・!?」
五和さんと六月さんの声が聞こえる。
振り向くとそこには・・・
「っ!?」
紫色の髪の女性が、歌いながら歩いてくるところだった。息を呑むほど美しい顔立ち、華やかで圧倒的な存在感、そしてこの歌声・・・
間違いない・・・
「《戦律の魔女》・・・シルヴィア・リューネハイム」
クインヴェール女学園序列一位にして生徒会長・・・至高の歌姫がそこにいた。その歌声は会場の人々を魅了し、七瀬でさえ一歩も動かない。
彼女は私達の横を通り過ぎ、七瀬の目の前に立った。七瀬を見て、ニッコリと笑う。
「ようやく・・・ようやく、君に会えたね・・・」
彼女の目から、一筋の涙が零れ落ちた。
「会いたかった・・・君のことを考えなかった日は、一日だって無かったよ・・・」
泣きながら、七瀬の頭を撫でる。
「決闘の映像も、《鳳凰星武祭》の試合映像も、全部チェックしてた。強くなった君を見るのが、凄く嬉しかった」
七瀬はただ、彼女に釘付けになっていた。そんな七瀬を見て、彼女は微笑んだ。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
そう言うと、彼女は七瀬に顔を近づけ・・・七瀬と自分の唇を重ねた。
その瞬間、力が抜けたように崩れ落ちる七瀬。そして、そんな七瀬を支える彼女。
「大好きだよ、ななくん」
彼女は七瀬を愛おしそうに、ギュっと抱き締めるのだった。
どうも~、ムッティです。
遂に・・・遂にメインヒロイン登場です。
シャノン「ななっち、色々な女の子とイチャイチャしてたもんねー」
七瀬「人聞きの悪いこと言うなよ!?」
事実じゃなイカ。
シャノン「ところで作者っち、メインヒロイン出てきたけど・・・他の女の子との絡みってどうするの?」
今まで通りで良いかなって。一線を超えない程度でのイチャつきもアリで。
シャノン「うわぁ・・・ななっち酷い・・・」
七瀬「俺の意思じゃないから!ダメ作者の意思だから!」
それではまた次回!七瀬の浮気男ぶりに注目です!
七瀬「いい加減にしろおおおおおっ!?」