学戦都市アスタリスク ~六花の星野七瀬~   作:ムッティ

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これで五十話目かぁ・・・

まさかここまで続くとは・・・


狂暴治癒師

 『七瀬が倒した輩どもは回収した。あとはこちらで処理させてもらうぞ』

 

 「サンキュー、星露」

 

 星導館の自室にて、俺とクローディアは星露と通話していた。

 

 あの場所からは界龍より星導館の方が近いし、クローディアなら星露の連絡先を知っている。というわけで、俺は沈雲と沈華を星導館に連れてきたのだった。

 

 学園側にバレると面倒なので内密に、である。

 

 『礼を言うのはこちらの方じゃ。双子どもを助けてくれて感謝するぞ』

 

 「いいって。たまたま通りがかっただけだし」

 

 「ホント、七瀬はお人好しですね・・・」

 

 溜め息をつくクローディア。事情を説明した時は、呆れた表情をしてたっけ・・・

 

 「諦めた方がいいよ、エンフィールドさん。七瀬は昔からそうだから」

 

 苦笑しながらリビングに入ってきたのは、一織姉だった。その後ろから、沈雲と沈華も入ってくる。

 

 「全く・・・いきなり電話してきたと思ったら、『今すぐ星導館に来てくれ』だもん。何事かと思ったわよ」

 

 「悪いな、一織姉」

 

 《星武祭》に出場中の学生は、大会中に治癒能力者による治療を受けることは禁じられている。だが二人は今日敗退した為、その制約からは解放された。

 

 なので俺は一織姉を呼び出し、二人を治療してもらうことにしたのだ。

 

 「二人とも、具合はどうだ?」

 

 「驚くほど何ともないよ。さっきまでの痛みが嘘のようだ」

 

 「むしろ前より身体が軽くなったわ。治癒能力って凄いわね」

 

 どうやら、無事に治療できたようだ。良かった良かった。

 

 『ほう、流石じゃのう。礼を言うぞ、《狂暴治癒師》』

 

 「・・・《万有天羅》、その二つ名は甚だ不本意なのですが」

 

 顔が引き攣る一織姉。

 

 《狂暴治癒師》とは、一織姉の二つ名だ。学生時代の二つ名は《狂暴戦士》だったのだが、治癒能力に目覚めたことで二つ名が変わったのだ。

 

 もっとも、一織姉はどっちの二つ名も嫌がっているが。

 

 『そうかえ?お主にピッタリじゃと思うがのう。映像で見させてもらったが、楽しそうに戦う姿は印象的じゃったな』

 

 「楽しそうなんてレベルじゃないぞ。戦ってる時の一織姉、笑顔が獰猛すぎてマジで怖いんだからな」

 

 「七瀬!?人聞きの悪いこと言わないで!?」

 

 「事実だろ。あまりの怖さに、対戦相手が腰を抜かしてチビったことも・・・」

 

 「止めてえええええっ!?」

 

 『ほっほっほっ、仲の良い姉弟じゃのう』

 

 愉快そうに笑う星露。と、後ろの沈雲と沈華に目を向ける。

 

 『さて・・・双子ども』

 

 「「はっ」」

 

 恭しく頭を垂れる二人。おい、何か態度が違うんだけど。

 

 『七瀬と《千見の盟主》、それと《狂暴治癒師》に感謝することじゃ。しっかり礼をするのじゃぞ』

 

 「心得ております」

 

 沈雲が答える。星露が満足げに頷く。

 

 『うむ、それなら良い』

 

 「ってか星露、アイツらってお前の門下生じゃないよな?」

 

 俺は星露に尋ねた。

 

 『うむ、違うぞ。あんな卑劣なマネをする輩は、儂の弟子にはおらぬ。まぁ試合で相手を嬲る性格の悪い輩なら、若干二名ほどいるがの』

 

 星露の言葉に、沈雲と沈華がサッと顔を背けた。

 

 自覚はあるんだな・・・

 

 『界龍の中には、儂の弟子達に対抗意識を燃やす輩もおっての。特にそこの双子どもは性格が最悪じゃから、敵意を向ける輩は多い。あやつらもその一部じゃろうな』

 

 「ふーん・・・界龍も大変だな」

 

 『全くじゃ』

 

 溜め息をつく星露。

 

 『さて双子ども、怪我が治ったなら早く帰って来るのじゃ。いつまでもそこにおると、七瀬達に迷惑がかかるからの』

 

 「「はっ」」

 

 「いや、もう遅い時間だし泊まっていけば?」

 

 『その気持ちはありがたいが、お主は明日試合じゃろ?これ以上迷惑はかけられぬ』

 

 首を横に振る星露。

 

 『では七瀬、今回は本当に世話になったの。明日の試合、応援しとるぞ』

 

 「おう、頑張るわ」

 

 『あぁ、それと・・・その力、上手く制御するのじゃぞ』

 

 真面目な表情の星露。やっぱり、前に言ってた力って・・・

 

 「これのことだったんだな」

 

 『うむ。今はそれほど力を出していないようじゃが・・・力の解放には、十分気を付けることじゃ』

 

 「了解。気を付けるよ」

 

 『うむ。健闘を祈るぞ』

 

 星露との通信が切れる。沈雲と沈華が立ち上がった。

 

 「さて、僕達も帰るよ。色々と世話になったね」

 

 「感謝するわ。ありがとう」

 

 頭を下げる二人。おいおい・・・

 

 「お前らが頭を下げるとか・・・アスタリスクが崩壊するんじゃね?」

 

 「アンタ、私達を何だと思ってるのよ・・・」

 

 「痴女とその兄貴」

 

 「痴女呼ばわりは止めなさいってば!?」

 

 「冗談だよ」

 

 笑いながら沈華の頭を撫でる俺。

 

 「帰りは気をつけろよ、沈華」

 

 「・・・ようやく名前で呼んだわね」

 

 そっぽを向く沈華。恥ずかしいのか、少し顔が赤い。

 

 「ってか、いつまで撫でてんのよ!?セクハラで訴えるわよ《覇王》!?」

 

 「悪い悪い。ってか、七瀬でいいぞ?俺も名前で呼んでるんだし」

 

 「・・・ふん、検討してあげるわ」

 

 素直じゃないなぁ・・・と、沈雲が一歩前に出てきた。

 

 「《覇王》・・・いや、七瀬と呼ぶべきかな。君には大きな借りができたね」

 

 「だから借りだなんて思うなって」

 

 「そうもいかない。助けられたのは事実だしね。だから・・・」

 

 空間ウィンドウを操作したかと思うと、それを俺に飛ばしてくる沈雲。そこには、二人の連絡先が記されていた。

 

 「もし何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ。僕達に出来ることなら、力を貸そうじゃないか」

 

 「ちょっと沈雲!?何で私の連絡先まで!?」

 

 「沈華も助けてもらっただろう?七瀬に借りを作ったままで良いのかい?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 口ごもる沈華。それを見て、沈雲が苦笑する。

 

 「悪いね、妹は素直じゃないんだ」

 

 「何だ、ただのツンデレか」

 

 「誰がツンデレよ!?アンタなんかにデレたりしないんだからね!?」

 

 うわ、テンプレのようなセリフだな・・・

 

 「それじゃ、失礼するよ」

 

 「ふんっ、またね」

 

 「『またね』ってことは、また会う意思があるんだよな?」

 

 「っ!?し、知らないわよバカ!」

 

 急いでベランダから飛び降りる沈華。やれやれといった表情で、沈雲も後に続いて飛び降りる。

 

 帰ったか・・・

 

 「・・・根っからの悪、って感じじゃなさそうだな」

 

 「ですね。意外でした」

 

 笑っているクローディア。

 

 「ホント、七瀬は女性を口説くのがお上手ですね」

 

 「誰がいつ口説いたよ」

 

 「この鈍感さ・・・シルヴィが苦労しそうだわ」

 

 何故か一織姉が溜め息をついていた。

 

 「あ、お疲れ一織姉。もう帰っていいよ」

 

 「冷たくない!?あの二人には『泊まっていけば?』って言ってたじゃない!」

 

 「いや、治癒能力者がここにいるのはマズいじゃん?俺まだ試合あるし」

 

 「今さら!?そもそも私をここに呼んだこと自体マズいでしょうが!」

 

 「弟が姉を呼ぶことがマズいわけないだろ。頭おかしいんじゃないの?」

 

 「言ってることが矛盾してるんだけど!?」

 

 「・・・本当に仲がよろしいですね」

 

 苦笑するクローディア。

 

 「七瀬、今夜は一織さんに泊まっていただきましょう。もう夜も遅いですし」

 

 「一織姉を襲う命知らずなんていないだろ。むしろ襲った奴が死ぬわ」

 

 「酷い言われようね!?いい加減泣くわよ!?」

 

 「泣け喚け叫べ」

 

 「うわあああああん!」

 

 机につっぷす一織姉。やれやれ・・・

 

 「まぁ、二人を治療してもらったしな・・・仕方ないから泊めてやるか」

 

 「わーいっ!七瀬大好きーっ!」

 

 抱きついてくる一織姉。切り替え早いなオイ・・・

 

 「っていうか、ここ女子寮よね?何で七瀬が女子寮に住んでるの?」

 

 「今さら!?」

 

 「フフッ、説明していませんでしたね」

 

 あ、クローディアの目が光った・・・これアカンやつや。

 

 「正確に言うと、ここは私と七瀬の部屋です。私達は同棲しているのですよ」

 

 「えええええええええええええええ!?」

 

 驚愕している一織姉。

 

 「ちょっと七瀬!?どういうことよ!?」

 

 「落ち着け一織姉!ルームシェアしてるだけだから!」

 

 「今では毎晩同じベッドで寝てますけどね」

 

 「嘘でしょ!?毎晩同じベッドでヤッてるですって!?」

 

 「耳がおかしいのかアンタ!?ただ寝てるだけだわ!」

 

 「まぁ酷い・・・私とは遊びだったんですね・・・」

 

 「遊んでんのはお前だろうが!」

 

 「シルヴィがいながら、エンフィールドさんに手を出すなんて・・・七瀬!今日は私と一緒に寝るわよ!お姉ちゃんがその腐った根性を叩き直してあげるわ!」

 

 「人の話を聞けバカ姉えええええっ!」

 

 一織姉の頭を全力で叩く俺なのだった。

 

 

 

 *****

 

 

 

 「何でこうなった・・・」

 

 「いいじゃない。姉弟なんだから」

 

 俺と一織姉は、俺のベッドで一緒に寝ていた。クローディアは、『今夜は姉弟水入らずでお過ごし下さい』とか言って自分の寝室に行っちゃったし・・・

 

 大丈夫かな、アイツ・・・

 

 「・・・エンフィールドさんが心配?」

 

 俺の顔を覗き込む一織姉。表情に出てたかな・・・

 

 「・・・詳しくは言えないけど、アイツを一人で寝かせるのは心配でさ」

 

 「・・・《パン=ドラ》の代償のこと?」

 

 「ッ!?」

 

 俺は思わず飛び起きた。

 

 「何で一織姉がそれを!?」

 

 「・・・学生時代、私のルームメイトが《パン=ドラ》の使い手になってね」

 

 表情が暗くなる一織姉。

 

 「三日も保たなかったわ。《パン=ドラ》の悪夢にうなされて発狂して、精神的に参っちゃったんでしょうね・・・《パン=ドラ》を手放した後、すぐに退学しちゃった」

 

 「・・・マジか」

 

 やっぱり、マジでヤバいんだな・・・

 

 「・・・きっとエンフィールドさんには、どうしても叶えたい願いがあるんだろうね。でなきゃ、あんなもの何年も所有したりしないと思う。正直、彼女の精神が崩壊してないのが不思議なくらいだよ」

 

 「・・・叶えたい願い、か」

 

 俺がアイツの力になってやれるとしたら・・・

 

 「・・・よし、決めた」

 

 「何を?」

 

 「んー・・・この先の方針、かな」

 

 「はい?」

 

 キョトンとしている一織姉。まぁそのうち分かるだろう。

 

 「ところで一織姉・・・聞きたいことがあるんだけど」

 

 「・・・そんな気はしてたよ」

 

 苦笑する一織姉。

 

 「私を呼んだのは、あの二人を治療させる為もあったんだろうけど・・・もう一つ、七瀬の力について聞く為でしょ?」

 

 「・・・その反応を見るかぎり、全部知ってたな?」

 

 「まぁね。七瀬が生まれた時にはもう、当時の状況を理解できるくらいには成長してたし」

 

 「ってことは、二葉姉も?」

 

 「うん、知ってるよ。三咲や四糸乃は小さかったし、五和と六月はまだ物心もついてなかったから知らなかったはずだけど・・・あの人は知ってたよ」

 

 「・・・やっぱりか」

 

 思わず苦い顔になる。予想通りだな・・・

 

 「七瀬・・・」

 

 心配そうに俺を見る一織姉。

 

 「七瀬は、自分を責める必要なんてないんだよ?」

 

 「・・・ありがとな、一織姉」

 

 俺は一織姉の頭を撫でた。

 

 「俺、この力と向き合うよ。ちゃんと使いこなせるようにするから」

 

 「うん、七瀬なら出来るよ」

 

 一織姉が優しく微笑む。

 

 「私も七瀬の力になるから。だから七瀬は、真っ直ぐ突き進んでね」

 

 「おう、ありがとな」

 

 「ただし、女の子遊びは程々にね」

 

 「いやしてないし!?」

 

 俺のツッコミに、一織姉がクスクス笑う。

 

 「フフッ、やっぱり七瀬は可愛いなぁ」

 

 「からかうなよ・・・」

 

 「ダーメ。これは姉の特権だから」

 

 「・・・じゃあ、弟の特権を使わせてもらうわ」

 

 俺はそう言うと、一織姉を強く抱き締めた。

 

 俺の心中を悟ったのか、一織姉は微笑みながら静かに俺の腕に抱かれていたのだった。

 




三話連続での投稿となります。

シャノン「五十話達成だね!」

いやー、始めた時は予想してなかったわ。

途中で終わるんじゃないかなって思ってたもん。

シャノン「実際七ヶ月も放置してたもんね」

お前それずいぶん引っ張るよね・・・

でもやっぱり、書くのって楽しいよね。

この作品を読んでくださっている方々に、少しでも面白いと思ってもらえてたら良いんだけど・・・

シャノン「コメントしてくれる人もいるし、ありがたいよね」

ホントそれ。マジでありがたい。

この作品を読んでくださっている皆さん、いつもありがとうございます。

これからも、この作品をよろしくお願い致します。

シャノン「よろしくお願いします」

次の更新は出来れば明日、出来なければ木曜日か金曜日になります。

それではまた次回!

シャノン「またねー!」

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